透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと 作:THE TOWER XVI
「な、なんで水着……?(震え声)」
重要な話があるから、と呼ばれて来てみればスクール水着を着て、ツルハシを背負った二人が待っていた。
「歓迎会もしていませんでしたし、レクリエーションもかねて、宝探しをしますよ! かなりの価値の希少鉱物が眠っているみたいです!」
「それに、新しくヒイロ君が来てくれたわけだし、こういう時にみんなで思い出を作らないと!」
嫌ですとは絶対言えないなこれ。
ここで相手を悲しませず、嘘をつかずして拒否できる方法を、俺は知りたい。
それにしても、一応正式な水着だし、何も問題ないはずなのに……目が健康的なふとももに惹きつけられて──ヒイロは死ね!(セルフ目つぶし)
「おい、やめろ、僕が止めなかったら失明する勢いだったぞ」
俺のチョキはアルスハリヤの障壁に阻まれ、突然目に指を突き立てている奇人が出来上がる。
「何やっているんですか……。はい、これ金属探知機です」
「よし、じゃあ、みんな準備ができたし、しゅっぱーつ!」
小鳥遊から金属探知機を受け取ったのを見ると、ぴょんと飛び跳ねて梔子先輩が号令をかける。
どことは言わんがやっぱ目に毒だわ。早く対処しなければ俺が死ぬ!!
「まてまて、砂漠で水着はむしろ危ないだろ。直射日光や砂に肌を露出する方が問題だし、二人ともこれを羽織っとけ」
「あれ? そういえば、ヒイロ君は普段着のまま? 地下水が湧き出るかもしれないし、水着のほうが……」
「そ、そんな理由だったんですか?! そんな可能性ないでしょう!」
「ひぃぃん……だってぇ、昔は大きなオアシスだったらしいし……」
「まあ落ち着いて? ね?」
怒る小鳥遊を諫める。
直射日光を遮ることの大切さを俺は説き、持っていたタオルと羽織っていたシャツをそれぞれに渡した。
直射日光の話は事実だしな。地球で言うアラビア半島あたりの服装が好例だ。
「……ありがとうございます」
「ごめんねぇ……先輩なのに、知らなくて……」
「いいですよ。先輩を支えるのも、後輩の役目でしょう?」
感極まったように俺を見つめる梔子先輩に、俺は微笑んだ。
はい、俺の勝ち。これで魅惑の水着姿は潰した。なんで負けたのか、次回までに考えといてください。百合IQ180を舐めるなよクソが。
「うぅ、いい後輩たちに囲まれて、私は幸せだよぉ……」
抱き着いてくる梔子先輩を前に俺は──左にフェイントをかけ──魔力障壁。
アルスハリヤなら仕掛けてくると思ったぜ。バーカ。二度も引っかかるわけがないだろ、お前が一歩進んでいる間に、俺は二歩先にいるわ。
余裕をもって右に躱そうとして、
意表を突かれ、唖然とした俺は梔子先輩に抱き着かれる。
「ばれて三流、隠して二流、逃げられなくして一流だ。僕ともなれば、悟られたとしても、その時点で詰みにすればいい。ぬかったな、ヒイロ君?」
アルスハリヤは俺の顔を覗き込むと、満足そうに頷いて消える。
あの魔人は、いつか必ず、しばく。
「小鳥遊!! ここを代われぇぇええええ!!!」
「な、なんで私がヒイロに抱き着く必要があるんですか!?」
「違う!!! お前が、先輩と、抱き合うんだろうが!!! 普通に考えれば、わかるだろ!!!!」
「知りませんよ、そんなこと!」
「ふぇぇ、いつもの勢いで抱き着いちゃったけど、男の子……ヒイロ君って、結構がっしりしてるんだ……」
「……! ユメ先輩は変な所触ってないで、離れてください!」
ギャーギャー喚き散らし、無駄に体力を使った俺たちはようやく宝探しに出た。
結局、反応があった場所を掘っても、何も見つからず、手ぶらでアビドス高校まで帰ることになった。
数ヶ月も経てば安定したルーチンが手に入る。
朝は通勤がてらのトレーニング、人のいる都市部では不良生徒の制圧や指名手配犯狩り──賞金稼ぎの真似事が主な収入源だ。
幸か不幸か、この世界は治安が終わっているので仕事には事欠かない。
ただ、戦闘を経験して思うのは、小鳥遊や黒舘はこの世界でも上位層なのだろう。初めはあれがこの世界の標準的な強さと思っていたが、不良程度であれば今の俺でも十分対処可能だった。
黒舘といえば、何度か食事に付き合わされていた。最近、同学年に同好の士を見つけたらしいので、是非ともヒイロ君は綺麗さっぱり忘れて、お二人で幸せになって欲しいものである。
一応彼女も賞金首であるが、そこはノータッチである。まあ、恩もあるし、彼女には百合の可能性が視えるからな。俺の百合IQ180の頭脳がそう言っているから、間違いない。
百合の守護者の私情も含め、百合の欠片もない恐喝行為や襲撃については取り締まるつもりだが。
「みんなで集まって一大アドベンチャーを計画するのは結構。だが甘えた悪事なら、それはもう百合じゃねぇ。枯れ果ててる」
「ど、どこから来たんだ!!」
「トラックの上から」
いつも通り、誰か悪いことをしている奴がいないか見回っていたら、よく見るコンビニのロゴとカラーリングのトラックが襲撃を受け、ハイジャックされていた。
奪われて途方に暮れていた獣人のおっちゃんに話だけ聞いて、
組織だった犯行の可能性を考慮し、アジトの特定ついでにトラックが目的地に着くまで待っていたが……これは杞憂だったようだ。トラックに乗っていた奴らで構成メンバー全員らしい。
殺風景な廃墟に似つかず、ピンク色にかわいらしくデコられた拠点の前。トラックの中身を物色しようとしていたところを、上空から奇襲。
人差し指と中指で
「なっ! まさかお前、あの賞金稼ぎか! くそっ、超天才的な財テクを思いついたというのにぃ……」
「いや、ただの強盗だろ」
「違うぞ!! そこら辺の強盗と同じにしてもらっては困る!! 40%増量キャンペーンの数量限定スイーツが今日入荷されると、ウチは
「スイーツはお友達とあーんして、百合百合するためのものなんだよ……己の欲望の為に、お前はその機会を奪った……許されると思うなよ……!」
俺が凄むと、びくりと震えて、後ずさる。
「ゆ、ゆりゆり? なにを言って……うぎゃぁぁ!!!!」
「『あの〇にキスと白百合を』を百万回読んでから出直してこいや!!!」
魔力が複数の
その不可視の魔力の弾体は、少女の四方八方に到達し──直前で矢の形を取り戻す。
打撃を全身に受けた少女は、その場で沈んだ。
その後、ヴァルキューレ──この世界における警察組織にして、俺の実質的な、ありがたい雇い主に連絡を入れ、回収してもらう。
このチームは同様の強盗を繰り返していたらしく、思った以上の収入になり、ほくそ笑んでいた。
さて、トラックを返して今日の仕事も仕舞いかな。アビドス生徒会百合ウォッチの時間も確保しないといけないしな。
おっちゃんに連絡を入れて、端末を見ながら、来た道をトラックで戻る。
いつの間にか遠くまで来ていたらしい。来るときはトラックの上で百合漫画を読み返していたため、時間を感じなかったが、アビドス市街地までの距離はそれなりにある。
「あっ、あの! もしかして最近話題の無手の賞金稼ぎさんですか!」
「話題かはともかく、賞金稼ぎではあるねぇ……」
「やっぱり! トラックの上から颯爽と飛び降りて、銃も使わず制圧するところ、すごかったです!!」
「えー、でも結構ゆりがどうとか変なことも言ってたよ」
「ん? 今、百合のこと馬鹿にした……?」
「あはは! 顔こわーい!!」
あれ、そういえばアルスハリヤを相手するように、自然と会話していたが……アルスハリヤじゃなくね?
不意に。
違和感を覚えて横を見た俺は、助手席に座って目を輝かせる眼鏡の少女と、後ろから顔を出してニヤニヤしている銀髪の少女と目が合う。
「いや誰ぇ?!」
俺の動揺を反映するように、トラックが蛇行する。慌てて、ハンドルを修正する俺をよそに、話は勝手に進んでいく。
「あっ、名前を名乗っていませんでした! ゲヘナ中等部の陸八魔アルです!」
「アルちゃんの友達のムツキちゃんだよ~よろしくね~」
「どうも、俺は三条ヒイロ、って違う!! なんでこのトラックに乗ってるの……? ウーバータ〇シーに登録した憶えはないよ??」
何を思い立ったら他人の車に乗るなんてことになるのか。それはそれとして、親友の件については後で詳しく聞かせて貰おうカナ。
「くふふ、アルちゃんってこういう時の行動力凄いからね〜」
「ごご、ご迷惑だったらすみません!! 今すぐ降ります!!」
「走行中ぅ!! あああ! 開けないで、ってドアロックないのかよ! 待って、降りなくていいから!!」
時速80キロからのグラウンドダイビングを阻止した俺は、神妙な顔で話を聞いていた。
「私、裏社会でも恐れられるようなアウトローな便利屋を卒業したら作ろうと思っていて! それで、不思議な技を使う同い年ぐらいの賞金稼ぎがいるって聞いて! 一度ぜひ会ってみたかったんです! 今日は戦うところも見れて感激です!」
真面目そうな見かけによらず、なかなか物騒な夢を……いや、もしかしてこれは……百合の波動……!
「その会社って、まずは二人で始めちゃったり……? 折角だしお二人の馴れ初めとか、教えてもらってもいいかな……?(期待の眼差し)」
「急に興味津々じゃん! センパイってやっぱ変わってる〜!」
「ちょっと、ムツキ! これはチャンスなんですよ! 元賞金稼ぎの社員! アウトローです! 夢にまた近づく気がします!」
「何だって! アウトローな裏社会のハーレム王だと! ヒーロ君! これは見逃せないぞ!」
グラウンドダイビング、ファーストチケットの優先権で1名様ご案内でーす!
クソ魔人の顔面を掴んで、窓から投げ捨てる。
「悪いけど、社員にはなれないな。百合の守護者は仲間にできない系のお助けNPCだから」
「えっ、そんな!!」
いやだって、百合空間に男混ぜたら駄目じゃん。燈色君は石鹸水に入れられたアメンボのように溺死するよ?
とはいえ、絶望するような表情にフォローを入れる。百合空間にヒイロを
「社員にはなれないが、手伝わないとも言っていないしな。幾らでも頼ってもらって構わないぞ。これもまた百合の為。報酬は……完成したアウトローな百合百合空間を、写真で送って貰えれば十分だ(強欲)」
「センパイ優しい~! アルちゃんの夢を手伝ってくれる人なんて珍しいし、良かったね」
「あ、ありがとうございます!!」
そのまま、連絡先だけ交換して、二人を近場の駅に降ろす。
「大丈夫? 本当に送っていかなくていい? と言ってもコレ俺の車じゃねぇけど」
「大丈夫です!! お世話になりました!! 頑張って真のアウトローを目指します!!」
「あ、そうだ。センパイ、今度ムツキちゃんと二人で遊ぼうよ!」
「ごめん、俺女の子と二人っきりになると死ぬ持病持ちだから無理」
「??!!」
「え〜、つまんな〜い! センパイ面白いし、もっと色々センパイのこと、知りたいのにな〜」
「俺の体は9割9分、百合で出来ているので、俺のことを知りたいなら百合について調べなさい……そして女の子の恋人を作りなさい……」
百合鑑賞会なら俺は喜んで参加しよう。具体的には、双眼鏡片手に後方100mから百合セキュアに勤しむから。
そのまま二人と別れた俺は、獣人のおっちゃんにトラックを返却。
数時間ほど経っていたが、襲撃されて無事な例が少ないため感謝された。この治安でよく、ここらの企業は経済活動を続けられるものだ。感心するところである。
そんな雑多なことを考えながら、夕暮れ時のアビドスへの帰り道を走る。もちろん、帰りもトレーニングを兼ねた身体強化を忘れない。
ふと、アルスハリヤのムカつく顔面が視界の端に映りこむ。
「だいぶ馴染んだみたいでよかったよ、ヒイロ君。僕のアドバイスのおかげかな?」
「魔力線による制御。体内の魔力演算子が安定しているのはそれを束ねる魔力線があるから。
答えを教えたら意味ないってどの口だよ。ほぼ答えじゃねぇか」
「いや、気づいたところでその繊細なコントロールが出来るかは別の話だ。言うは易し行うは難し。しかし、現に僕の魔力も少し扱えるようになって、君は以前よりも格段に強くなっている。この調子で強くなって、百合の間に──」
「言わせねぇよ屑がぁぁあああ!!」
そのままアルスハリヤの首を切り飛ばす。
路地裏でアルスハリヤをボコボコにしていると、人影。
「お取り込み中のようですが、少々お時間をいただいても宜しいでしょうか?」
異型の男。
黒いスーツを着こなし、頭の割れ目からは白い光が漏れている。
俺は一歩後ろに飛び退くと、九鬼正宗の
「おっと、それも大変気になりますが、今は仕舞っていただけると助かります。私は戦いに来たわけではないので」
明らかに今まで見てきた人々とは異なる、異形。
その特異な見た目に、自然と警戒心が高まる。
しかし、その態度に敵意はなく、少なくとも話せる手合いなら、集めるべきは情報。
「えっと、どちらさん?」
「クックックッ……失礼しました。私としたことが。私のことは黒服とお呼びください。この名前は頂いたものですが、結構気に入っているのです」
「で、百合の敵か味方、どっち? 答えによっては……俺はこの命を懸けてでも、お前をここで始末しなきゃならなくなる」
九鬼正宗の鍔が鳴る。それでも、異型の男に動揺は見られない。
「そうですね、その百合が花を指す呼称ではないとは分かりますが……宜しければご教授願えますか?」
「週5で一日3時間、初心者コース一年間の受講でよろし──」
「そこまでの時間はありませんので、簡潔に説明していただけると」
「愛」
「愛?」
「365日を費やせないのなら、俺はただ一言、愛と答える他なくなる」
顎に手を当てて、思案する黒服。
「……成る程、世間で呼ばれるような愛とはまた異なるようですが……百合の味方か敵か、については定義が不明である以上、分かりませんね」
「まぁ、敵じゃないならいいよ。それで、何か俺に用があったんだろ?」
現時点で敵でないのなら、別に戦う必要もない。九鬼正宗の
両手を自由にして、戦う気は無いことを示して、先を促す。
「そうでした。本題に入りましょう。三条ヒイロさん。一つ、あなたに情報提供をと。
あなたが拠点にしているアビドスの砂漠ですが……あそこに住み着く化け物の話を聞いたことはありますか?」
「いや、ないが……」
「ビナー、新たな天路歴程を往く
「その機械がどうした?」
「地中を潜り、都市を沈めるビナーは、アビドスの砂漠化の原因の一つと言ってよいでしょう。彼が居る限り、あなたが今住み着いているアビドス高校もまた、その脅威に晒されていると言えます」
その情報を俺に教えて何が得られる? 俺の九鬼正宗を見て気になるといった言葉……俺の戦闘を見たい? もしくは、俺がビナーについて調査を行ったり、アビドスから逃げ出したりといった行動の誘発か。
ビナーの脅威をチラつかせて討伐を期待するには……さすがに遠回しが過ぎる上に、精々賞金稼ぎ程度でしか力を見せていない俺に頼るのは不自然が過ぎる。
そのビナーとやらも、本当にアビドスの砂漠化の原因ならば、きっと過去に何度も討伐が試みられたはずだ。にも関わらず今も健在ということは、その戦闘能力は相当高いことが予想できる。
「ああ、勘違いはしないでください。私は別にビナーを倒して欲しいと言っているわけではないので。どうこうしたい人達もいるようですが……彼らでは無理でしょうね」
黙っていた俺を勘ぐったのか、黒服は討伐して欲しいという話ではないと明言する。
「私はあなたの選択を尊重しますよ。アビドスから去るのも一つです。いずれ滅ぶような学校を守るために、外の世界から来たあなたが命を張る理由もないでしょう」
「……悪いが、俺はあいつらを置いて逃げる気はねぇよ。俺の中の優先順位は圧倒的に百合
「クックックッ……次はそうさせていただきましょう。では失礼しますね」
虚空にゲートを開けた黒服は、その中へ姿を消す。
紫煙の中、入れ替わるように現れたアルスハリヤが俺の耳朶にそっと囁く。
「……さてヒイロ君、鹿撃ち帽子を被って、虫眼鏡片手に実態調査と行こうじゃないか。どうやら、あの砂漠は只の砂漠ではないらしい」
俺は言葉を返すことなく、九鬼正宗のトリガーを引く。
下肢を強化した俺は、青白い魔力光を曳いて、アビドス高校の帰路を駆けていった。
また独自解釈・独自設定です。とりあえず、ビナー君にはアビドスの砂嵐の原因になってもらいます。実際あいつ砂嵐攻撃仕掛けてくるし。
なので、この世界ではビナー君をスクラップにすれば、アビドスは砂嵐から解放!
え? カイザーが砂漠で好き勝手出来るようになる……? 怖いなー、戸締りしとこ。
あとビナー君が破壊された場合、