透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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海岸線上のバーベキュー

 遠目に蒼い海が臨める海岸線。消波ブロック(テトラ◯ッド)に挑んでは砕ける海水の音を聞きながら、俺は人を待つ。

 

 端末片手に創作百合で検索を掛けていると、声を掛けられ、見慣れた純白の翼の少女が視界に映った。

 

「はろはろ! やっと抜け出せてこれたよ~。ほんと、ちょっと外に出るぐらい、自由にさせてほしいよね」

「それだけ、大事にされているってことだろ。俺もその気持ちは分かるしな」

「そうかな~? 別に、私を見てるわけじゃないと思うけど」

「いや、ミカみたいな綺麗なお姫様を相手に、心配しないほうが無理な話だと俺は思うね」

「……わぁ」

 

 固まる聖園の前で、俺は心の中で持論を確認しながら頷く。

 

 見た目から入る百合が邪道だなんて思わないし、むしろ、そういう面食いな主人公の興味を起点に、内面を知っていくことで揺れる愛の奥行が醍醐味まである。

 

 きっと、聖園にもそういう尊い想いを抱く後輩とかが居る筈だ……!

 

 百合を描いて浸る俺に、聖園が複雑な表情で呟く。

 

「ヒイロって、平気でそういう事言うよね」

「まぁ、軽口を叩く男は信用ならないからな! 定期的に好感度下げるの癖になってんだ」

「うん、とりあえず逆効果だから、他の子に言うのはやめた方がいいよ☆」

「でもこういう軽薄なキャラって基本モテない──」

「よく女の子同士の恋愛本読んでるけど、それよりも目の前の女の子の意見の方が参考になると思うけどな~?」

「それは……確かに、そうかも……?」

「そうだよ。だから、ちゃんと分かってる私以外には言わない方が良いよ。勘違いしちゃうから」

 

 微笑む彼女に気圧されて頷くと、満足そうに一歩下がって、何時もの調子に戻る。

 

「それでそれで、今日は何するの? 海を見ながらのんびり散歩するのもよさそうだけど!」

「ああ、実はちょうど近くに知り合いが居るから、この海浜公園でBBQでもしようかと思って……一応、予定の時刻は過ぎてるんだけどな」

「えっ、知り合い……?」

 

 いままで二人きりで行動していたところに、俺が人を呼んだのが予想外だったのか。

 

 若干不安そうに聖園が呟いて、待ち人が到着する。

 

 エンジン音と巻き上がる砂埃。

 

 歩道脇の坂を駆け上がり、軽トラックが宙に飛び出す。俺たちの眼前を通り過ぎて、ドリフトしながら崖の手前で急停止した。

 

「ちょっと、もっと丁寧に運転しなさいよ! 荷台から海に落ちるところだったんだから!」

「想定内なので大丈夫です。食い意地の張ったメス豚に、貴重な食材の入った段ボールごと心中されたら堪りませんからね☆」

「えっ、今、とんでもないワードが聞こえ──」

「そんなことよりも、お腹すいたー! 早く始めようよー!」

「まあまあ、まずは挨拶から始めるとしましょう。何しろ、我々の同志が増えるかもしれない機会なのですから」

 

 騒がしく現れた四人組の中で、助手席から降りてきた少女はいつもの笑みを口元に、目の前に歩いて来る。

 

「ふふっ、まさかヒイロさんから美食の探求に付き合っていただけるなんて……思いもしませんでしたわ。そちらが、本日のゲストでよろしいですか?」

「そうそう、トリニティのお嬢様だから丁重にな」

「では改めまして、私は美食研究会会長、黒舘ハルナですわ、聖園ミカさん?」

「あ、うん……うん……? あれ、待って?」

 

 全く呑み込めていない聖園をスルーして、俺と黒舘は美食研究会のメンバーの紹介を始めた。

 

「美食三銃士も連れてきましたわ」

「美食三銃士?(主演男優賞並みの演技)」

 

 俺は惚けたように首を傾げると、黒舘の隣に車から降りて来た二人が並ぶ。

 

「大食いフードファイター、鰐渕(わにぶち)アカリ」

「ふふっ、よろしくお願いします☆」

 

 人差し指を立てた金髪の少女、鰐渕がニッコリと目を細めて挨拶する。

 

「伝説のフードソムリエ、獅子堂(ししどう)イズミ」

「はいはーい! よろしくー!」

 

 癖毛の少女、獅子堂は純粋無垢な笑顔で手を振る。

 

「そして、一年の赤司(あかし)ジュンコですわ」

「なんか、私だけ説明が薄くない……? って、だいたい何のくだりよこれ!?」

 

 最後に、後方で固まっている、赤髪をツインテールにした少女を黒舘は一瞥して、聖園へ微笑んだ。

 

「えぇ……流石にこれは、想定外かも」

 

 困惑を隠しきれていない彼女の前で、満足した俺たちは赤司の疑問にも答えず、早速積み荷を運び出す。

 

 台車に乗せて纏めたところで、黒舘が全員に語りかける。

 

「さあ、早速『旅行先で複数人で楽しむバーベキュー』を実行しましょう。もちろん、私たちにとってのメインディナーは、まだ先に控えていますが、前菜なくしてコースは成り立ちません。むしろ、完璧な前菜は、その後のメインディナーを美食たらしめる必要十分条件です」

「バーベキューと言っても、このほとんどが焼きそば用ですけどね☆」

「えっ、焼きそばは締めであってバーベキューのメインじゃないでしょ?! なんで?!」

「食べられるならなんでもいいよー」

「それは、私もそうだけど! いや、絶対、先に買うべきものがあったでしょ!」

 

 叫ぶ赤司の横で、ふと気づいたように獅子堂が疑問を口にする。

 

「あれ? でも、今日はフウカを連れてきてないけど、誰が料理してくれるの? あっ、でも、バーベキューだし、関係ないか!」

「ふふっ、それもそうですが、今回はヒイロさんが腕をふるってくださるそうです。フウカさんはメインディッシュの為に、英気を養っておいてもらいましょう」

「おう任せとけ、食い意地の張った卑しいエルフども相手に鍛えた箸捌きを見せてやるよ。なんなら、ちゃーんと、肉だって……ここにある!!」

「すごいすごい! 空中からお肉が!! いつ見ても手品みたい!!」

 

 希少部位の赤身肉を掲げた俺は、キメ顔で獅子堂から賞賛を受ける。

 

 俺たちは期待に心を躍らせ、バーベキュー日和な快晴の袂で、海岸の公園へと駆け出して──

 

 ──俺一人、肩を掴まれその場で半回転させられる。

 

「ちょーっとヒイロ君?」

「どうした? 赤身じゃテンション上がらなかったか? うふふふふ、ミカ君は仕方ないなぁ。そんな君にはこれを上げよう。霜~降~り~肉ぅ~」

「一旦、お肉から離れて欲しいな?」

 

 某猫型ロボットを真似てだみ声で霜降り肉を取り出した俺に、聖園が微笑む。

 

 俺はいそいそと、木箱に入った特選霜降り肉を布教空間(パーソナルスペース)に戻した。

 

「あの子たちって……その、ゲヘナの子だよね?」

「そうだけど……」

 

 戸惑うように、彼女は駆け去る美食研究会に視線をやって、俺は思い出す。

 

「ああ、トリニティとゲヘナの対立意識って奴か。あいつらは別にそういうの気にしないタイプだから気にするな……って、いや、世間の目の方が問題か」

「それは……まあ、うん、それも、そうなんだけど……」

 

 俺の推測はズレていたのか、歯切れ悪く呟いて、何かを悩むようにチラリと俺を見る。

 

 思った以上に、トリニティとゲヘナの間には深い溝があるのかもしれない。しかし、であれば尚更、今日は良い機会になる筈だ。

 

 強引かもしれないが、ここは百合の守護者として、俺が引っ張るべきだな。

 

「とにかく行こうぜ、ほら」

「えっ、ちょ、ちょっと!」

 

 聖園を置いて、俺は皆が走っていった方向に歩き出す。

 

 慌てたように彼女は追いかけて来て、俺は軽く口端を曲げる。

 

「何を悩んでるかは知らないが、ここで立ち止まっていても仕方ないだろ」

「……原因のほとんどは、ヒイロのせいなんだけどね?」

「じゃあ、責任は全部俺に押し付ければ良いわけだ。周りから何か言われた時も、ちゃんと俺のせいにしろよ? 三条燈色の悪名は流すだけで理想の世界に一歩近づくからな」

「ふふっ、なにそれ。けど、責任取って私のために何でもしてくれるって話なら、悪くないかも」

 

 目を細めて、彼女はささやく。

 

「うん、改めて再確認できるかもしれないしね。

 合わなかった時は、ちゃんと責任とって、ヒイロと私だけでどっか行こ! この辺はあまり来たことないし!」

 

 ひとまず当初の予定通り、参加してくれそうな彼女に俺は安堵して──熱を帯びた柔肌の感触に固まる。

 

 少し頬を染めて、俺の手を取った聖園は、気恥ずかしさを誤魔化すように明るく笑う。

 

「あの子たちとどういう関係かは知らないけど、そうと決まったら、しっかり先制していかないとね!」

「えっ、いや、このおてては?」

「いいじゃんいいじゃん! いざ! 出発〜!」

「いや、このおてて……」

 

 スイッチを切り替えたように走り出す彼女に、俺の方が逆に引っ張られるように黒舘たちの後を追った。

 

 

 

 結局、俺が解放されたのは先に行って準備していた美食研究会のみんなが見えてからだった。

 

 さもバラバラに来たかのように、聖園を置いて彼女たちのもとに歩み寄る。

 

「おう、本日のゲストを連れて来たぜ!」

 

 既に組み立てられた大型テントと机、バーベキュー用グリル等を見ながら、俺は爽やかな笑顔で片手を上げる。

 

 何時の間にか、先程まで机に突っ伏していた筈の獅子堂が、目を見開いて俺を見つめていた。

 

「さっき手をつないでた! 彼女を連れてきた彼氏みたいな感じになってる! 私がお腹をすかせて待っている間に、イチャイチャしてきたんだ!」

「……」

「うわああぁぁん! ヒイロが振る舞ってくれるって言ってたから待ってたのに! 私が空腹で苦しんでる間に、ヒイロは知らない女の子とイチャイチャ──」

「シャラップ! このはらぺこ食いしん坊がッ! シシャモゼリーカスタードパンでも食っとけ!」

 

 先生と笑いながらその場のノリで買ったものの、一口目で絶望していた先生を見て封印していた菓子パンを投げつける。

 

 獅子堂は器用に外袋を空けながら受け取る早業を見せると、もぐもぐと食べ始めて黙り込む。その隙に、俺はいわれのない誤解への抗議を叫んだ。

 

「異性から身体に触れられたら、女の子は不快に感じるに決まってるだろうが!  見ろよ、現在進行形で、うわ三条燈色に触られた……ってなってるやろがい!」

「そうは見えませんけどね☆ そもそも手を掴んでいたのは……」

「そこ喋ってないで、早く火をつけるのを手伝いなさいよ!! 会長と私しか動いてないじゃない!」

 

 俺たちの騒ぎ声に、立ち止まってこちらをぼーっと見てた聖園が、瞬きとともに我を取り戻す。

 

「あっ、ご、ごめん! なになに? えっと、私も手伝ったほうが良さそうかな?」

「いえ、大丈夫です。あなたはいわば招かれたゲスト……万事、私たちにお任せください。本日は秘密裏に手を回した完全な貸し切り、すべての配置が、予め決めておいた通りの位置取りです。細部に神は宿ると言いますが、それは食事においても同じことですわ」

「それなら、まあ、甘えさせてもらおうかな?」

「でも、なるほどね! 貸し切りなんて、流石は会長! どうりで私たち以外誰もいないのね!」

 

 自信満々な黒舘に聖園はそう言ったものの、早速火付けに苦戦する俺達を前に、結局彼女も準備に混ざっていた。

 

「やっぱり、私も手伝うよ」

「あら、待っていてくださっても良かったのですが」

「うーん、でも、ほら! ただ待ってるのも暇だからさ」

「それも、そうですわね。……いえ、むしろ、BBQとは全員で協力するこの過程こそがその後の食事を美食へと高めるスパイス!! ゲストだからと言って協力させないのはむしろ美食の輪から外す行為に等しい……! 私としたことが、こんな簡単なことを見落としているなんて!! 感激しましたわ、ミカさん! 共に至高のBBQを完成させましょう!!」

「そ、そっかぁ、喜んでくれるなら、いいんだけど」

「同じ釜の飯を食べるとも言いますし、まさに苦楽を共にしてこその、熱い女の子同士の友情ですねっ!」

 

 中々木炭に着火しないバーベキュー用グリルを前に、肩を寄せ合って話す少女たちを視て、俺は菩薩のような笑みを浮かべる。

 

 やはり、俺の目に狂いは無かった……なにが、自分で自分の腹に爆弾を巻き付けているだ……爆弾じゃなくて白百合の間違いだろ……あのクソ魔人め……二つ名を死廟(しびょう)から節穴のアルスハリヤに改名しやがれ……。

 

「ひ、ヒイロ! ステーキの前に木炭がサイコロみたいになってる!!」

「わぁ、なんか美味しそうに見えて来たかも……えっ、や、やだなー! いくら私でも、炭は食べないよ!」

 

 ついつい、天に語り掛けている間に、小さく割ろうとしていた大きな炭の塊をいつの間にかサイコロ状にしていたらしい。

 

 赤司に止められた俺は、興味深そうに見てくる獅子堂の視線から炭を守り切って、グリルに追加する。

 

 それが功を奏したのか、それとも手で折って炭を割り入れてくれた聖園のおかげか、扇いでいるうちに火力が増し、炭自体が隙間から赤い火を覗かせて燃え始めた。

 

「炭の量と酸素が足りてなかったようですね。後はある程度落ち着くのを待ちましょう。今は火が強すぎますが、時間が経てば理想の火力になる筈です」

「用意した炭のほとんどが割られていない物だったときは、どうしようかと思いましたが……聖園さんのゴリラも顔負けの怪力のおかげですね☆」

「あれ? もしかして、喧嘩売ってる? 買うよ☆」

 

 余計な一言を添える鰐渕に、聖園が凄みを感じる微笑みを浮かべて、俺は仲裁する様に前に出た。

 

「はい、はーい! 喧嘩するなら俺を間に挟んでサンドバッグにするか……これで、理性的かつ知的に勝負を付けようぜ」

 

 俺はニヤリと口角を上げる。

 

 懐から静かに、ミレニアムで鍛え上げた自慢のデッキを取り出して──

 

「今どきUN○なんて、誰がするのよ。小学生じゃあるまいし……」

 

 ──赤司に一刀両断にされた俺は、驚愕に目を見開く。

 

「は、敗北者ぁ……? UN○が……じ、時代遅れの敗北者だってぇ……? そ、そんなわけあるかよ! それじゃあ、すまし顔で誰よりも早く席について待機していたミレニアムの会長は、何だっていうんだ……! 取り消せよ今の言葉……!」

「それより、ジャガイモとか先に焼けるもの焼こうよ! もう、待ちきれないよ!」

「アルミホイルとかで包めばいいのかな?」

「ええ。先ほどから思っていましたが、ミカさんもご経験が?」

「まあ、これが初めてなんだけどね! こういうの、一度やってみたかったからさ……知識だけはね」

 

 獅子堂の提案を皮切りに、俺を置いて全員食材の物色に戻る。

 

 談笑する彼女たちを見て、手に持った相棒(デッキ)を見る。

 

 自慢のマイデッキも、この日ばかりは幾らか煤けて見えたが……どこかやり切って満足げにも見えた。

 

「へへっ、そうだよな。百合の為なら、仕方ねぇか」

 

 鼻の上を擦って笑った俺は、相棒の姿に感慨深く呟いた。

 

 同じ決闘者(デュエリスト)であるミレニアムのメイドに、心の中で己の未熟を謝罪しながら俺はデッキを仕舞って、全員がこちらを見ていることに気付く。

 

「どうした? もしかして、今更UN○の魅力に──」

「う、後ろ……!」

 

 視線は俺の上を通り過ぎた背後に向けられていて、視界に影が、肌に水飛沫が落ちる。

 

 慌てて距離を取りながら、振り向きざまに九鬼正宗の柄を取ると、剣形を定めず構えた。

 

 海から飛び出し、轟音と共に広場に特徴的な二脚で着地した巨体。

 

 特徴的な白と黄色の装甲板に、機械には通常存在しない黄金のヘイローが宙に輝く。

 

「おいおい、お前はバーベキューに呼んだ記憶はねぇぞ……」

 

 何故か、デカグラマトン第五の預言者ゲブラが、BBQ会場に侵入していた。

 

 

 

 

 

 

 

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