透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと 作:THE TOWER XVI
波乱のアトシマツ
霞む視界。白い天井。
動かそうにも、鉛のように体が重く、指一本動かない。
なんで、俺は……そうだ。
俺は聖園をあの夜止めて、そのまま彼女に介抱されたまま意識を失って──
声が聞こえる。
最近すっかり馴染んでしまった声。
「機械というフィールドで、この私が押されている……?! この私が、か?! あ、あり得ない……ッ! 私は、絶対的存在だぞッ!!」
「……(速すぎて残像と化したコントローラー捌き)」
「でも凄いよ凄いよ! 私、UZQueen相手にここまで戦える人見るの初めて!」
コイツら、なんで……?
「レバガチャが必殺技のモモイとは比べものにならない戦闘力です!」
「そ、それよりも、触らずに動かしていると言うか、勝手に動いているコントローラーを気にしたほうがいい気がするけど……」
コイツら、なんで……病人の隣でスマ◯ラしてるんだ……?
「……確かに入力速度も技の正確性も全てが理論値。だけど、全てにおいて最適解を選んでいること、それがあなたの敗因」
「に、人間ごときに……私が、負ける……? そのような結末、断じて私は認めるわけには!! うぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
『
「ば、馬鹿なぁぁああああああ……?!!」
視線を動かした先。ゲーム開発部に混ざって、ドローンがテレビの前で騒いでいる。
花岡の圧倒的なゲームスキルを前に、
目が開く。
霞む視界で、真っ先に前回自称神が騒いでいた方向を確認して、今度は誰もいない。
スマ◯ラは終わったのか……? いや、終わってても終わってなくてもどうでもいいんだが。
俺は、以前よりも動かせる気がする体を起こそうとして、眼前で輪郭を取り戻した景色に固まる。
「やっほー」
俺の上に跨って、無表情でダブルピースを飛ばすメイドと両目が合う。
「なんで……いや、ここ、何処だ……?」
「トリニティの医療施設です。私を見て、ミレニアムかと錯覚したようですが……ヒイロ居るところに私有り。当然ですね」
得意げに、飛鳥馬は微かに口角を上げる。
「私が三日三晩看病しました。迅速に褒めてください」
「それは、迷惑かけたな。ありがとな。でも、俺の上に居る理由は聞いていい?」
こういう時、普通、ベッドの横で座ってるとかじゃないか……?
彼女の綺麗な碧眼と視線が絡まる。
じっと俺を見下ろしていた彼女は、少し間を空けて答えた。
「それはもちろん、お体をお拭きするためです」
「ん……?」
「全身の
「なんだ、そういうことかぁ……えっ、待って、全身って、全身? あと、言っとくけど、見せあってないからね? 俺達の仲は地上波日曜朝七時からの放送も余裕な超健全関係だからね?」
さらっと誤解を招く表現を混ぜる彼女に、真剣な顔で俺はささやく。
「ですが確かにあの時、ヒイロの手は私の──」
「あれは事故ッ! 圧倒的、不運な事故!! 頼む! 何が目的だ!! 何でもするから、許してくれぇ!!」
「心配しないでください。私は気にしていませんので。それよりも、今日の分を済ませましょう」
「ちょ、まさか」
脂汗を流す俺の前で、飛鳥馬は俺に向かって手を伸ばす。
「自分で! 自分で出来るぅ!!」
「暴れないでください。まだ傷は治っておりませんので。ちなみに、『ち◯ぽ見ますか』で大抵の相手は撃退したので、今は私以外には誰も居ません」
「何言ってんの?」
「強情に私が体を拭くことに難色を示していたヒマリ部長も、いざ実際に脱がす素振りをするとドローンを撤退させましたし、『ち◯ぽ』による威嚇効果は絶大ですね」
「いや、ほんとに何してんの?(戦慄)」
百合の欠片もない
そのまま、彼女は無理矢理俺の病院服のボタンを外して脱がそうとしてきて、俺は必死で抵抗した。
「いやぁ! えっちぃ! けだもの!」
ま、まずい!! 九鬼正宗が無いと、身体強化が出来ない……! 魔術を封じられた状態でキヴォトスの人間に対抗するのは困難だ! どこだ?! どこに九鬼正宗はある?!
「ヒーロ君」
「最近全く見ないと思ったら、何の用だ! 後にしやがれ!」
「僕の天才的な頭脳には、この状況を回避する方法が既に視えている」
枕元に現れた魔人。
こつこつと、己の側頭部を叩いたアルスハリヤはニヤリと口角を上げる。
「助けが必要かい?」
「そんなこと言って、どうせ俺で愉悦しようって魂胆だろ! だまされんぞ!」
「まあ、話だけ聞いていきたまえ。ヒイロ君、リアルタイム・ペ◯ス・リムーブだ」
「は?」
「これは本当の最後の最後の切り札だが……君には僕も驚くような素質がある。魔人化という可能性を払暁叙事で手繰り寄せれば、君の股間にぶら下がるペニ◯をディレイ無く消し去ることが可能な筈だ……」
「既にお前のせいで俺の素晴らしき転生百合ライフはズタボロだよッ! これ以上お前と同化したら、絶対碌でもないことになるに決まってるッ!
「まぁ、失敗すれば僕も君と心中しかねないエースオブエース。本当の意味での最終手段だからな。そういう手があることを、君には知っておいてほしかっただけさ」
やれやれと魔人は肩を竦めて、紫煙とともに消える。
結局なにがしたかったのか不明なゴミカスが消えて、俺は現実に戻される。
飛鳥馬は俺の病院服のボタンを全て外すことに成功していた。
「後は脱がせるだけですね」
満足気に、微かに口端を緩める彼女に俺は恐怖する。
「た、助けてッ!!! そ、そうだ! 神ィ! 居るんだろ!! せめて、拭かれるなら神がいい!! 俺は、百合を汚したくないッ!!」
大声で助けを叫んで、自称神ではないが確かに願いは届いたようだった。
「ヒイロッ!! 目が覚めたのって……ちょっと! 私のヒイロに何してるの!?」
勢いよく引き戸を開けた聖園が、俺と飛鳥馬を見て叫ぶ。
「チッ」
「今舌打ちした! 確かに、舌打ちした!」
「ああ、ミレニアムのメイドだっけ? なんて言ったっけ……ごめんね、名前を覚えるのはあまり得意じゃなくて。それよりも、さっさとヒイロの上から退いて欲しいな?」
「そうは言われましても。私もヒイロの体を拭くという任務がありますので」
真偽を問いかけるように俺を見つめる聖園に、全力で首を横に振って、俺は知らないと伝える。
「ふーん。ヒイロも嫌がっているみたいだし。そこまでにしておいたほうがいいよ? あまりおいたが過ぎると──」
「では、あなたもヒイロの『ち◯ぽ』を見ますか?」
「へっ……?」
「このままこの部屋にいると、ヒイロの『ち◯ぽ』を見ることになるでしょう」
「おい、勝手に人様の『ち◯ぽ』を振りかざして、脅しに使ってんじゃねぇぞ」
一転して、呆気にとられた聖園は、俺の胸元から股間へと視線を移す。
微かに頬を上気させ見つめてくる彼女に、俺は身じろぎして、何とも言えない間を壊すべく定型文を口にした。
「ど、どこ見てるのよ、エッチ!」
「あっ……ち、違っ、今のはその! そういえば男の子にはあるんだよねって……な、何言ってるんだろ! ご、ごめんね、今のは忘れて! ま、また後で来るね!」
そそくさと聖園は撤退して、その時になって俺は助っ人を失ったことに気が付いた。
「完全勝利です。
「俺の『ち◯ぽ』は核兵器か? 核抑止ならぬ『ち◯ぽ』抑止ってか? てか、どこが相互確証破壊だ、ただの『ち◯ぽ』による自爆未遂だろッ!」
「核とは何であるか理解しかねますが、邪魔者は居なくなったので再開しましょう」
「し、しまったぁ!(百合IQ3) ミカァ!! 戻って来てくれぇぇぇ!! 俺にはお前が必要だッッツ!!」
再び俺の服を剥がしにかかったメイドに俺は叫ぶ。
まだ間に合ったのか、大きな音を立てて引き戸がまた開いた。
「ひ、ヒイロ……! そ、そうだよね! 私が頑張らないとね! ぽっと出のメイドになんか負けてあげられないもん!」
頬を上気させたまま、気合を入れるように聖園は飛鳥馬に対して宣言する。
「よくよく考えたら、遅いか早いかの違いだしね! ヒイロの『ち◯ぽ』でも好きに出しなよ!」
「いや、勝手に出さないで? 俺の『ち◯ぽ』は俺の物だよ……?」
「大丈夫! 今からこのメイドを追いだして、私が代わりにヒイロの身体を拭いてあげるから!」
「えっ……」
それって、もしかして……! 結局、燈色の燈色が百合を汚してしまうことには変わりがない、ってコト!?
飛鳥馬が聖園になるだけで、自らの体で百合を汚した挙句、辱められる未来にあることを知った俺は泣いた。
俺の体をどっちが拭くかで揉めてるって、これ、完全に燈色が間に挟まってるじゃねぇか!!
そもそも、『ち◯ぽ』なんて百合の対義語みたいな単語が出現している時点で、とんだ百合破壊だ。
一体俺が何をしたっていうんだ?! 俺はただ、聖園と桐藤のささやかで尊い幸せを遠くから拝めることが出来たら、それで十分なのに……! 女の子が女の子と仲良くしているのを見たい、たったそれだけのちっぽけな願いすら、この世界は許してはくれないのか……!
俺は思い通りにならない現実をベッドの上で嘆いて、じっと聖園を見つめたまま手を止めていた飛鳥馬は、軽い身のこなしで腹の上から飛び降りる。
「すみません。冗談です。そもそも清拭するほどの期間は空いていませんし、この病院の看護師の仕事なので、私達がヒイロの尊厳を辱めてまでする必要はありません」
「えっ、冗談……?」
無表情で頷くメイドに、有翼の少女は瞬きして、固まる。
「はい。小粋なメイドジョークってやつですね」
「今から小粋の意味、辞書で調べてきて朗読してみ? あと、冗談にしてはガチで脱がせに来てなかった?」
ジョークの意味をはき違えているメイドの背中に俺は疑念をぶつけるが、涼しい顔でスルーされる。
「ですが、今から誰がヒイロの看病をすべきかは意見が分かれるところです」
「あれ、三日三晩、お前が看病してたんじゃないの?」
「ん? まだヒイロをここに運んでから一日も経ってないよ?」
首を傾げる聖園に、俺はさりげなく虚偽を吹き込まれていたことに気づく。
「おい、メイド」
「既に色々看病していたことにしておけば、ヒイロも抵抗なく受け入れるのでは、なんてことは考えていないので誤解しないでください」
隠す気のない発言に、俺はそもそもなぜこうも纏わりつかれているのか、百合IQ180の頭脳でも解けない謎に、頭を抱えた。
ただ、先ほどの話で聖園は運んで来た時のことを思い出したのか、優しくささやく。
「でも、ヒイロが意識を失っちゃった時は、本当に私、どうしようって思ったんだから……目が覚めて、本当に良かった……」
心の底からの安堵の微笑みを浮かべる聖園に、俺は思わず見惚れて。
「ごほん」
棒読みの咳払いで意識を引き戻される。
「ですが、今から誰がヒイロの看病をすべきかは意見が分かれるところです(二回目)」
「そんなの要らない──」
「あぁ、うん……そういうことか。まあ、ヒイロの怪我は全部私の責任だし、当然、私がやるべきだよね☆」
「いや、俺の体は俺に看病されたいって──」
「いいえ、話し合うまでもありません。なぜなら、身を尽くしてヒイロ様の全てをお支えするのは、この私の役目ですから」
突然現れた人物に、全員の視線が集中する。
振袖風の改造セーラー服に、丈の短いスカートからは大胆に露出した艶やかな太腿。
狐面の少女が、俺のベッドの端に腰かけていた。
「……狐のお面? あっ、テレビでこの前有名になってた犯罪者じゃん。なんでこんなところに居るの?」
聖園は銃を構えて、緊迫した空気が流れる。
「ウフフフフ……それはもちろん、ヒイロ様から愛のご連絡をいただいたからです」
体重を掛けぬよう、僅かな隙間を残して。
腰を回して倒れ込んできた狐坂は、俺の上に覆いかぶさるような体勢で俺の顔を覗き込んできた。
「不肖、このワカモ、朝から晩まで一刻も欠かさずあなた様のお傍で──」
「ごめん、手が滑っちゃった☆」
思考が追い付かないまま、妖艶にささやく彼女と狐面越しに至近距離で見つめ合っていると、銃声が鳴って俺の上を銃弾が通過する。
弾けるような音が室内で反響し、銃弾が壁にめり込む。
当てる気はなかったのか、射線は大きく逸れていたものの……狐坂は素早い身のこなしで後ろへ飛ぶと、華麗に空中で一回転して床の上に着地した。
「一応ここトリニティの敷地だからさ。犯罪者は入っちゃダメなんだよ?」
「あらあら……? それにしては、病院で発砲だなんて……ずいぶん、やんちゃなトリニティの小鳥ですね? これではヒイロ様も、たいそう苦労したことでしょう」
「迷惑を掛けてるのは、否定しないよ……でも、ヒイロだって私の為にあそこまでしてくれて……甘えちゃっても、仕方ないと思わない? あ、そっか、あなたは違うか。いかにもヒイロに付きまとって要らないお世話を押し付けてますって感じだし……そういうの、なんていうんだっけ?」
わざとらしく小首を傾げた少女は、笑顔で思い出したように手を叩く。
「そうだ! まさに、ストーカーって感じだもんね☆」
「……あなた様、申し訳ございませんが、少々お時間を頂けませんか? フフフ……久々に、私の中の破壊衝動が抑えられなくなりそうです」
恐ろしい圧を放ちながら、くるくると銃剣付きの小銃を取り出す狐坂に、気にせず堂々と煽る聖園、興味なさそうに爪を弄る飛鳥馬。
ベッドの上で震えあがる俺を一人残して、病室は一触即発の緊張状態へと突入し──早々、示し合わせたようなタイミングで扉が開いて来客が現れる。
「ヒイロ! 急に先生に付いて行くって言いだしたと思ったら居なくなって! それで、今度は何?! こっちで大怪我したって聞いたけど?!」
足音を立てて菫色の髪をツーサイドアップにした少女が入ってくる。
「って、えっ……ちょ、ちょっと、病室で銃なんか取り出して、あなた達は何してるのよ?!」
器用に驚きながら怒る早瀬に、全員の視線が集まる。
「あ、あれ……? お取込み中だったかな……?」
続けて、先生がひょっこりと開いた扉から頭だけ出して覗き込んで、差し込んだ希望の光に俺は叫んだ。
「先生ェッ! みんなが俺の看病するとか言ってるけど、教育的に良くないよなぁ!
今度は先生が一手に視線を集める。
先生は戸惑いながら部屋の全員を見渡した後、最後に俺と目が合って。
気を取り直すように姿勢を正すと、部屋の中に入ってくる。
「まあ、そうだね。間違いがあったらいけないし。大人の私が責任をもって、ヒイロのことは見ておくよ」
「あっ、見るまでは大丈夫っす。俺は一人がいいので」
「それは駄目だよ。何かあったら大変でしょ? いつもヒイロには助かってるからね。偶には私を頼ってもいいんだよ?」
先生は微笑んで、ただ単に病室内の人間の数が増えただけであることに俺は気づいた。
「でも、先生は忙しいって聞いたけどね? ヒイロがこうなったのは、私のせいだし、忙しい先生は気にしなくていいよ。私の責任だからさ」
「ふふっ、大丈夫だよ。子供の責任は大人が取るものだからね。元はといえば、トリニティに連れて来たのも私だし」
「せ、先生がそこまでしなくても……! そもそも、ヒイロの所属はセミナーです! 本来なら、トリニティで治療する必要もないですし……むしろミレニアムで預かるべきですから!」
「……確かに、ミレニアムの医療施設に移すのは名案ですね。協力しましょう」
「た、タイム! 一旦タイム! そもそも、なんで一部屋にこんなに集まってるんだよ!」
きょとんと俺を見てくる面々の前で俺は叫ぶ。
大体、さっきから示し合わせたように集まりすぎだ。偶然にしては何か、誰かの意図を……そ、そうだ……! 狐坂は連絡がどうこう言っていた筈だ!
「確か、ワカモが『連絡』って言ってたよな! 誰だよ、他人の住所に出前を着払いで大量注文するような悪質なイタズラをしたやつは!!」
「あら? あなた様から直接頂いたはずですが……ええ、何とも情熱的な言葉で私にただ会いたいと……! このワカモ、あなた様がこの身をお求めとなれば、たとえ火の中、海の中だろうと馳せ参じますとも!」
「えっ、ヒイロ、私だけじゃなくてこの子にも送ったの?」
「私もヒイロから怪我したって聞いて、慌ててミレニアムから飛ばして来たのよ? まあ、その怪我じゃ記憶が曖昧になっても仕方がないとは思うけど……」
俺からの連絡……ま、まさか……! まさかまさか……!!
早瀬の言葉を皮切りに心配そうに見つめられる中、俺は慌てて自分の端末を取り出す。
確かに、そこには俺がメッセージを送った形跡がすべて残っており……俺は、この空間のすべてが、悪意の下、仕組まれたものだと悟った。
「アァァァルスハリヤァァァアアアアア!!!」
「なんだい、ヒーロ君? 僕のことが大好きなのは分かるが、あまり大声を出すと傷に響くぞ?」
ニヤニヤと笑う魔人が寝ている俺を上から覗き込む。
俺は身に覚えのない送信履歴を含むモモトークの画面を、罪深い犯人に見せつけた。
「やっちゃってるよねこれ?」
「おいおい酷いな。僕は親愛なる君のために、喜んで君の世話を焼いてくれるだろう娘を見繕って呼んでおいただけ──」
傷口が開くのも厭わず立ち上がった俺は、怒りの赴くままに問答無用で魔人に渾身の蹴りをぶちかました。
「ちょっと、まだ動いちゃ駄目だって!」
転がったゴミムシを追撃せんと義憤を胸に、俺は飛び降りると、アルスハリヤをボコボコにして。
慌てて止めて来る少女たちに押さえつけられ、ベッドに戻された俺は、天井も通り越した遥か彼方を見つめたまま死んだ目でささやいた。
「はい、解散です。これは、俺に取り憑いている史上最低の悪霊の仕業です。ヒイロ君の、曇りなき眼は誤魔化せません。確定です」
そのまま、俺は傍迷惑な魔人の悪戯に巻き込まれて呼び出されてしまった周囲の被害者に微笑んだ。
「先ほど、皆様に送られたと思しきメッセージは、全て悪質なハッキングによるものと判明しました。ですので、俺のことはお気にせず、お帰りになって大丈夫です」
「何のことかは分からないけど、怪我とか治ってないし、急に動いたら本当に危ないんだよ……? 心配だし放っておけないよ」
「そうですね。さっきみたいに暴れられても困りますし、一旦ここはこの場の全員で看病するということで」
「まあ、そうね。今日の所はそれでいいわ」
「良くない!!」
さっきの緊迫が嘘のように、一致団結して俺を見守ることを決めた聖園達に俺は叫ぶ。
「良くなァい!!」
俺は、胸の内をすべてぶち撒けるように、ベッドの上に仁王立ちして叫んだ。
「良くな──」
「もう! まだ寝てないとダメだよ!」
聖園に押さえつけられた俺は、ベッドの上に優しく戻される。
「そういえば、あなた様? 起きてからまだなにも召し上がっていませんよね? 一言、何が食べたいか教えてくだされば、私が用意いたしますよ?」
「おっ、ワカモの作るご飯か。私もついでに、ご同伴にあずかろうかな?」
「先生がなんで、ちゃっかり生徒にたかってるんですか……いえ、金欠の時もヒイロの部屋に行ってたみたいですし、今更ですけど」
「……なるほど、あの部屋ではそのような催しが行われていたのですね。後学の為に覚えておきます。ちなみに余談ですが、私はすき焼きが食べたい気分です」
「お世話になっている先生はともかく、あなたの分まで用意する義理など、私にはないのですが?」
会話が全部、俺と関係ない話だったら、最高だったのに!!
各々、姦しく少女たちが会話する中心で、ぐるぐると。
俺は一体何を誤ったのか、答えの出ない迷宮の中で思考を回し続ける。
簡単なお粥でも用意してきます、と一言残して立ち去る狐坂の背中を見送って、入れ替わり立ち替わり。
「良い感じにゲームの資料として使えそうな写真がたくさん撮れたよ! これだけで来た価値が……わっ、なんだかパーティ会場みたいになってる! テンション上がるね!」
「なるほど! ここが今日のス◯ブラ天下一武道会の舞台なんですね!」
「お、お姉ちゃんもアリスちゃんも、病院なんだから……もう少し静かに……」
「おお、三条ヒイロ、ようやく起きたのか。待ちくたびれたぞ。早く約束した対価を支払ってもらおう」
何処に行っていたのか。
ぞろぞろとゲーム開発部とドローンも入ってくると、一直線にこっちに向かってきたドローンに俺は叫んだ。
「俺は決めたぞ、神ィ!」
「どうした? 処置したとはいえ、安静にしておかぬと治る傷も治らぬぞ」
「死ぬのが怖くて、誰が百合を護れるってんだ!! こんな百合が芽生えるかもしれないところに俺は居られるかッ! 俺はこんなところから、おさらばしてやる!」
口は熱く、思考は冷たく。熱い想いの裏でクールに俺は目を動かして九鬼正宗を探して……見つけ出す。
部屋の隅。鞘に収まったまま佇む、このキヴォトスにとって外来の品である
目測で動きをイメージした俺は、三度目の正直と上体を起こして──
「まったく、ヒイロはしょうがないなぁ」
──温かい柔肌の感触と甘い香り。
片腕に抱き着かれた俺は、そのままベッドにぽすんと二人で倒れ込む。
「これで、動けなくなっちゃったね?」
目を細め頬に朱を散らした聖園は、唖然とする俺にいたずらっぽく微笑んだ。
「な、なななな何してるのよ!!」
「名案ですね。では私も。えーいっ」
「おおっ、なんだか楽しそうなことをしています! アリスも参加します!」
「じゃ、じゃあ先生も混ざっちゃおうかなぁ〜?」
「先生?」
「あははは、じょ、冗談だって……生徒との触れ合い、スキンシップ的な……?」
「……」
「ご、ごめん……ユウカ……」
色が失われた視界。
騒々しい喧騒の只中で、女体に揉まれながら。
さながら熱殺蜂球で蒸し殺された
文字通りにっちもさっちも身動きが取れなくなった俺は、外界から意識を切り離し心を無にした。
投稿開始からはや一年。これも、ここすきや感想などのおかげです。感謝。
ぼんやりプロット的には、これでようやく折り返し地点といった感じですかね。
依然として『ゆりはさ』の
捜索紹介の方もありがとうございます。地味に小説の目次の下につくの、隠れ目標だったので紹介された捜索欄見ながらほくそ笑んでました。ビッグ感謝です。