透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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それでも私はリンゴの木を植える

 白銀の光が粒子となって、古聖堂の静かな空間に溶ける。

 

 反動で弧を描きながら空から落ちてくる少女を受け止めて、俺は地面を転がった。

 

「……そ、その、ありがとう」

「俺が不甲斐ないばかりに手遅れなとこもあるけど、百合の守護者として百合の花を守るのは義務だからね」

 

 下敷きになった俺は、俺の上に座ったまま見つめてくる白洲に微笑んで、付け加える。

 

「あと、そういう意味でも離れてもらえると」

「あっ、いや、ごめん……!」

 

 俺が指摘すると、仄かに顔を赤らめたまま慌てて退く。

 

 だが、すぐに俺の脇腹の流血に気づくと顔色を変えた。

 

「その怪我……! 早く傷を!」

「小娘、そこを代われ。私が対処する」

「おっ、サンキューデカグラマトン」

「貴様は……いや、何も言うまい」

 

 ドローンが俺と白洲の間に割って入ると、複数のアームを展開して処置を開始する。

 

「ああそうだ。まだ終わってないから、今回も止血ぐらいでいいぞ」

「ヒイロ! 戦闘中は感覚が鈍るから危険だ。本当なら、すぐにでもちゃんとした治療を」

 

 白洲が言いかけて、祭壇の方から瓦礫が崩れる音が響く。

 

 ゆらりと煙の中から起き上がった影に、白洲は険しい表情を見せて銃を構えた。

 

「まだ……!」

 

 警戒する白洲の前。

 

 片腕を押さえた錠前は、銃口を重力に任せて地面に向けたままこちらを見つめていた。

 

「……ヒイロはしばらく安静にしてて」

「いや、もう決着はついている」

 

 立ち上がった俺は、白洲の肩に手を置いて、前に出る。

 

「だが……」

「安心しろ、来ると分かってる弾なら当たらねぇよ」

 

 心配そうに見てくる白洲に囁いて、ゆっくりと彼女の前に歩いて行く。

 

 九鬼正宗を右下に構えて、光刃を見せる。

 

 一歩踏み込めば刃の届く間合い。

 

 それでも、錠前は銃口を下に向けたまま俺を正面に捉えていた。

 

「……そうだな、私の敗けか。巡航ミサイルが機能しなかった時点で、この結果は決まっていたのかもしれないな」

「お前はあいつのように抗わないのか?」

「言っただろう、世界は虚しいと」

「……」

「私たちとアズサは、一緒に苦しんだ、絶望したはずだったんだ……この灰色の世界に、全てが虚しいこの世界に……」

 

 古聖堂の砕け散ったステンドグラスから曇天を仰ぎ、嘲るように笑みを浮かべる。

 

「アズサだけが意味を持つことを……陽の下に居ることを、認められなかった……トリニティで学んだこと、知ったこと、全てを否定したかった……だが、世界が虚しいことを忘れていたのは私の方だったようだ。

 いつだって、私の期待は裏切られてきたというのに」

 

 俺ではない何処か遠くを見ながら、皮肉るように、憎むことを通り越して無気力に、少女は呟く。

 

「三条ヒイロ、ヒエロニムスを斬ったように、私を斬るといい。今更、足掻くつもりはない。そう、全ては虚しいのだから」

 

 俺はその場で沈黙を保っていて──視界端で動く影。

 

 微かに口端を持ち上げた俺は、わざと遠くにも聞こえるように口を開いた。

 

「最初から諦めて生きる気がない奴から見れば、確かに世界は虚しいのかもな。

 なら、お望み通り、俺が終わらせてやるよ」

 

 天に向かって光刃が煌めく。

 

 俺は刃を振りかぶって──手を止めた。

 

 少女の背。

 

「っ……姫!? 逃げてなかったのか!?」

 

 錠前を庇うように、一人の少女が俺に背を向けて立っていた。

 

「そうだね。サオリ、終わりにしよう」

「だ、ダメだ、姫! 喋ると彼女が──」

 

 顔を覆うマスクも取って、彼女に語りかけるフードの少女──秤アツコの諭すような声に、俺は刃を静かに下ろす。

 

「大丈夫、どちらにせよ変わらないから。はじめから、彼女も私を生かしておくつもりは無かったはず。だから、良いの。サオリ、もうやめよう」

「しかし、そんなことをしたら私たちは……」

「だから、どこか遠くに逃げよう、一緒に。……最初から、そうすべきだったのかもね」

 

 優しく語りかける彼女は、戸惑う錠前の手を取る。

 

 その重なり合う手を俺は見つめていて、秤は振り返ると俺に目を合わせる。

 

「……アリウスをエデン条約機構(ETO)とする戒律も破棄しておいた。シャーレの先生かトリニティ、ゲヘナの代表がもう一度エデン条約を宣言すれば取り戻せると思う」

「それで手打ちにするってか?」

「……」

 

 目の前の少女はじっと俺を見つめる。

 

 真意を探り合うような沈黙が残って、俺はふっと笑った。

 

「……お前も、足掻いてたんだな」

 

 立ち塞がる秤の後ろ、錠前を見て俺は微笑む。

 

 瞠目する錠前の前で、九鬼正宗を半回転させると静かに鞘に収めた。

 

「ちなみに、『生かしておく』だなんて物騒な言葉が聞こえたが、そっちは本当に大丈夫なのか?」

「あなたは……銃で撃ってきた相手を心配するの……?」

「ま、百合の守護者としては、将来有望な百合の種への投資はプライスレスだし」

 

 遠くの回廊の方から、いつでも飛び出せるよう様子を窺っている槌永と戒野を視界の端に収めたまま。

 

 俺は布教空間から三つ折りのパンフレットを取り出すと、人差し指と中指の間に挟んで目の前の少女に差し出した。

 

「困った時にここに連絡すれば、お人好しの大人が助けてくれるかも」

 

 シャーレから百合活の為にパクってきた紹介資料を、ここぞとばかりに渡す。

 

「連邦捜査部シャーレ……あなたのじゃないんだね……」

「俺の連絡先はレアものなんで。いつか、お茶でも誘ってくれたら、その時に教えますよ」

 

 俺の誘いにくすりと笑みをこぼすと、秤は目を細める。

 

 いつの間にか俺の隣に来ていた白洲を見て、ささやく。

 

「そうだ。アズサのこと、よろしくね」

「アツコ……!」

「もちろん、この百合の守護者に任せてください」

「ヒイロまで……恥ずかしいというか、なんだろう……胸の奥が変な感じがする……」

 

 一人呟く白洲の横で、俺は付け加えた。

 

「でも、俺みたいな得体のしれない男に任せるのも危険だな。ちゃんと、お前らも顔を見に来てやれよ」

「そう……そうだね」

 

 秤は薄く笑みを作ると、くるりと回って俺たちに背を向ける。

 

「サオリ、行こう」

「ああ……」

 

 放心したように様子を窺っていた錠前も俺達を一瞥した後、秤と共にその姿を回廊へと消した。

 

 荒れ果てた古聖堂に静寂が戻って、ドローンが近づいてくる。

 

「ゲマトリアは姿を見せなかったな。小娘らが行く先もそう容易い道でもあるまい」

「ま、ひとまず解決ってことでいいじゃない?」

「……ヒイロの怪我は大丈夫なのか?」

「勿論、超快調! 最新技術のたまものだな!!」

 

 応急処置で出血は止まっている脇腹。

 

 心配してくる白洲に、俺は痛みを無視して虚勢を張る。

 

 この後のことを考えると、たかが三条燈色の怪我一つで邪魔されるわけにはいかないのだ。

 

「私は止血しか──何をする?!」

 

 不都合な発言をするドローンを掴むと、入り口へぶん投げる。

 

「神も先に行ったことだし、とにかく外に出ようぜ。みんなもちょうど来るだろうしな」

 

 俺は笑って、白洲と共に錠前たちとは反対方向、古聖堂の外へと踏み出した。

 

 

 

 少女が少女に抱き着く。

 

「アズサちゃん!」

「ヒフミ!? なんでここに──」

「そんなの決まってます! 私たちは、友達だからです!」

 

 古聖堂を出た後、間を置かずして阿慈谷が現れた。

 

 驚く白洲を一度抱きしめると、そのまま肩を掴んで真剣に訴えかける。

 

「急に飛び出すし、探してもいなくて……みんな、心配したんです。巻き込みたくないとか、住んでいる世界が違うとか、そんな事関係ありません!」

 

 何故それを、と言わんばかりに白洲は阿慈谷を見つめて、続いて俺を見る。

 

 ドローン経由で告げ口をした俺は、口笛を吹くふりをしながら、自然と上がる口角を抑えつつ目を逸らした。

 

「その、ヒフミ、心配させてごめん。でも、もう私は大丈夫──」

「そもそも、アズサちゃんは勘違いしています。私だって、本当は裏社会で恐れられるファウストなんです!」

 

 突然、目の位置に穴が開いた紙袋を頭にかぶって宣言して、空気が固まる。

 

「「……」」

「……と、とにかく!」

 

 数秒の空白。恥ずかしそうに被った紙袋を取ると、阿慈谷は言い直す。

 

「アズサちゃんはアズサちゃんです! 罠を仕掛けたりちょっと変わったとこもあるけど、たまに見せる笑顔がとってもかわいい、私の大切な友達なんです!」

 

 呆気にとられる白洲に、阿慈谷はその想いを伝えて、俺は勝利を確信する。

 

 勝った……銃弾の一発や二発で、この俺を止められると思わないことだ……。

 

「なるほど、これが貴様のプランBか……」

「そういうこと。仮に俺がヒエロニムスに手間取ったとしても、先生たちが来た時点でこっちの勝ちだ」

 

 自慢げに俺はニヤリと唇を曲げると、されるがままのドローンの頭を軽く叩く。

 

「その上、俺は百合IQ180だからな……当然、この百合チャンスを逃す理由がない……やはり、俺は百合IQ180で間違いなかった……」

「私のプランCのほうは破棄して良さそうだな。太古の神性に私の力が通用するか試したかったのだが」

「悪いな。まあ、プランCなんて所詮プランAもBも失敗した時の話だし、そんな最後の手段に頼るようじゃ百合IQ180なんて名乗れないだろ」

 

 俺は笑って、親指で白洲たちとは違う方向を指す。

 

「んじゃ、お邪魔虫は帰ろうぜ。百合の摂取による高揚感が切れたら多分、俺は指一本動かせなくなる」

「人の意志の力と言うべきか……貴様の魔術も『不可解』だが、その精神性も大概だな……。まあ、多少は便宜を図ってやろう」

「よっ、神! さす神!」

 

 百合の供給をもってしても限界を感じていた俺は、いつものようにバイクなり移動手段を自称神に期待する。一緒にその場を離れようとして、阻まれる。

 

 白シャツ姿の大人。

 

 少し離れた位置には空崎が見えた。

 

「ヒイロ、無事だったんだね! でもその血は……!」

「返り血です(大嘘)」

 

 慌てる先生に俺はすかさず嘘で返して、今度は別の方向から声が上がる。

 

「ヒイロ! 大丈夫──ナギちゃん!?」

「ヒイロさん!!」

 

 死角からの奇襲だと!?

 

 驚く聖園の横。飛び込んでくる桐藤に俺はぎょっとする。

 

 咄嗟に避けようとして──

 

「おっと、そこの自称神を雇って僕を解雇するなんて言っていたが……残念。魔人は終身雇用制だ」

 

 今の今まで、姿を見せていなかった魔人。

 

 完全に油断していた俺は、見事にアルスハリヤに邪魔をされる。

 

 魔術障壁で身動きが取れないまま、有翼の少女に押し倒された。

 

「なんで、私を一人で古聖堂から逃がしたんですか! 大きな爆発があった時、私がどれほど心配したと……!」

 

 ぽかぽかと叩いてくる拳の力は弱い。

 

 俺は茶化そうとして、頬の上に落ちてきた水滴に言葉を止める。

 

「もう二度と、あんなことはしないでください……」

「泣くなよ……折角の美人が台無しだ。悪いな、結局、エデン条約は守ってやれなかった」

「またそうやって……!」

 

 謝る俺に、桐藤はぽすんと一発俺の胸のあたりを叩く。

 

 彼女は涙を拭って、微笑んだ。

 

「でも、これで良かったんです。

 エデン条約は形だけが残った、惰性のようなもので……ミカさんのことも、誰かを信頼することも……私が本当に願っていた未来は、既にあなたが叶えてくださっていたのですから」

 

 綺麗な笑みを浮かべる彼女に、俺も微笑む。

 

 静かに見つめ合って、ふと気づいたように桐藤は頬を上気させて顔を逸らした。

 

「……そ、その、あまり見ないでください。今、酷い顔をしていると思うので」

「いや……お前の笑顔は、ちゃんと綺麗だよ」

「ヒイロさん……」

 

 潤んだ双眸。視線が絡み合い、吐息が重なる。

 

 熱に浮かされるように、徐々に二人の距離は縮まって──百合色の脳細胞が警鐘を鳴らし、俺は我を取り戻した。

 

「ま、まあ、ほら。落ち着いたなら離れようぜ。俺もだいぶ汚れてるから、その綺麗な手を俺のために穢してほしくないなぁ〜、なんて?」

「……大丈夫です。これは私も背負うべきものですから」

「えっと、ごめん。『俺の手は敵の血で汚れている』みたいなハードボイルド気取ってるわけじゃなくて、普通に返り血でもないただの三条燈色の汚い血だから」

「汚くなんて、ありません……これも、私のせいなんですよね……」

「あ、あの、それも違くて……ほ、微笑みながら、女の子が男の手を握ってるぅ! おかしい! 女の子は女の子の手を取るためにあるのに! あり得ないッ!」

 

 俺は恐怖に顔を歪めながら叫んで、様子を見守っていた聖園が助け舟を出してくれた。

 

「な、ナギちゃん? ヒイロも困ってるみたいだし、離れよう? その、怪我してるなら早く診てもらわないといけないし」

「やです」

「えっ」

 

 固まる聖園の前で、桐藤は俺の胸元に顔を擦り付けて埋める。

 

「いやです」

「えっ、ナギちゃん……?」

 

 トーンが一段階下がって不穏な聖園の声に、俺は震える。

 

 猛烈な違和感。ミカナギの間に挟まっている可能性が脳裡をよぎり──

 

「抱けーっ! 抱けーっ! ちゅーしろ、ちゅ──」

「ふんっ……!!」

 

 熱き百合への想いが、己の限界を超えて俺に力をくれる。

 

 なけなしの魔力を全て注ぎ込み──引き金(トリガー)──起き上がると同時に桐藤を聖園の方に投げる。

 

 四つん這いで地面に向かって叫ぶ、抱けボットと化しているアルスハリヤの尻を蹴り飛ばして、俺は世界の全てを威嚇するチワワのように距離を取った。

 

「ヒイロ、聞いてくれ。ヒフミがおかしいんだ」

「おかしくなんてありません! ほら、アビドスの皆さんも、先生だって証人はいます!」

 

 アズサが近づいてきて、それを追うようにヒフミもついてくる。

 

「ん、あの時の手口はプロだった」

「まあまあ、ヒフミちゃんはファウストで合ってる……」

 

 その後ろから、何故かアビドスの生徒たちも現れる。ピンク色の髪を伸ばしていて雰囲気は変わっているものの、間違いなく知り合いであるオッドアイの少女と目が合う。

 

「……」

「先輩?」

 

 数年越しの再会。何も言わずに去った手前、どう反応すればいいか分からないまま俺はその場で固まり、俺を見つけた阿慈谷が表情を明るくする。

 

「あっ、山田さん! 山田さんなら私があの時ブラックマーケットにいたことを証明できますよね!」

「山田……? ヒイロのコードネームか?」

「えっ、あれ!? 山田さんは山田さんでは……」

「……偽名だよ。うへぇ、それも変わってないんだね〜」

 

 どうせもう会わないと高を括って吐いた嘘について、阿慈谷と白洲が騒ぐ。

 

 それに、無手の賞金稼ぎの頃を知っている小鳥遊が、数年前とは異なる間延びした口調で補足した。

 

 一見穏やかな小鳥遊は、しかし片時たりとも視線を外さず俺を見つめていて……その腹の底は窺えない。

 

 言い得ぬ不安が俺の背筋を撫でる。

 

「偽名だったんですか!?」

「そもそも、ヒフミさんは何を……」

「ヒフミはさっきから、自分が覆面水着団のファウストだって言ってる。私のために、そんな嘘をつく必要はないのに……」

「う、嘘じゃありません! ファウストは私です! 本当ですよ! アビドスの皆さんと先生と一緒に銀行を──」

「!!?!? 眉唾物だと思っていましたが、ヒフミさんが、そんな!」

「あれ、えっ、ナギサ様がなんでここに?! あっ、これは、その……! あわわ……!」

 

 阿慈谷の発言に桐藤が狼狽える横で、俺は意識的に呼吸して平静を取り戻す。

 

 混沌を極めた現状に、俺は最後の切り札を切ることにした。

 

 小鳥遊や先生の視線を背に、俺は空中のドローンを捕まえると座り込んで内緒話に移る。

 

「おい、神ィ! プランCについて教えろォ!」

「プランCは試作型の弾道ミサイルによる直接攻撃だ。天蓋という一つの地平を超え、正に太古の神性を啓蒙せし科学技術の偉大なる一歩。だが、不要になった以上、今回は軌道データの取得に絞り、これから軌道を修正しつつ大気圏突入直前に自壊命令を出す予定だ」

「自壊命令は必要ない! そのままぶち込め! 俺が許可する! どうせ巡航ミサイルが当たったら壊れてたんだ! 古聖堂に落とせェ!!」

「良いのか? 地上への着弾に至るまでのデータが取れるのであれば、私としても都合がいいが……」

「やれ! お前の罪を全部俺が背負って、キヴォトス出禁に俺はなる!!(ドンッ)」

「三条ヒイロ……! やはり貴様は私を理解してくれる!」

 

 デカグラマトンの一撃を待ち望みながら、俺は笑顔で振り返る。

 

「ファウストを俺は超える! 今から、俺がトリニティをテロる!」

「ひ、ヒイロさん!? 何を言って──」

 

 未だに混乱から立ち直らない阿慈谷と桐藤を置いて、俺は叫ぶ。

 

「デカグラマトン、万歳!」

 

 暫くして、猛烈な速度で天から光点が落下した。

 

 轟音とともに背後の古聖堂が吹き飛ぶ。

 

 呆気にとられる隙をついて、俺は自称神が持ってきたいつぞやのスーパースポーツバイクに跨り、現場から逃走した。

 

「ヒイロ! 怪我がまだ!」

「そうだった! 早く捕まえないと!」

 

 白洲と先生たちの声を置き去りにして、俺は道を征く。

 

 太陽に導かれるように、俺はデカグラマトンと共に地平線の向こうへと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 戦闘の跡が残る石畳を疾走する。

 

「三条ヒイロ」

 

 遠くを眺めたままドローンが囁く。

 

「非合理的な選択こそ、生命に許された最大の自由なのかもしれないな」

「突然何言ってんだ?」

「いや、ただの一時の感傷だ」

 

 いつもの発作かと俺は視線を前方に戻して、雲間から一瞬差し込んだ陽光に目を細める。

 

「でもまあ、そうかもな」

 

 顔を出した青空を見上げて、俺は口元を緩めた。

 

「愛も百合も理屈じゃないからな」

 

 そうだ。たとえ非合理的だと皆が嘲笑おうと、俺だけは俺のエデンを諦めるわけにはいかない。

 

 幸い、俺には強力な助っ人がいる。俺達、百合百合コンビならどんな不条理だって乗り越えられるはずだ。

 

「百合の間に挟まる男がいなければ、百合は成立する! 行こうぜ、神! 意志が折れない限り、俺たちは何度だってやり直せる!」

「? そうだな。貴様も暫く療養するといい」

 

 春風のような希望を胸に。

 

 機械と人間、二人、あてもなく目的も無く、自由を求めて俺達は世界の果てを目指して──

 

 見覚えのある病棟とメイド。

 

「お待ちしておりました」

「あれ? 俺たちの逃避行は……?」

「応急処置は施したとはいえ、銃弾二発だぞ。早急に治療すべきだろう」

「受け入れ態勢は万全です。帰る場所を守るのもパーフェクト・メイドの仕事ですので。ぶいぶい(だぶる・びくとりー)

「……うわぁぁぁあああああ!! AIの反乱だぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 無表情でダブルピースを飛ばす飛鳥馬に相対し、俺はデカグラマトンが操縦しているバイクから転げ落ちる。

 

 脳裡にフラッシュバックするベッドの上の地獄のサンドイッチ。

 

 恐怖に駆られるままに俺は這うように逃げ出すも、待機していたメイドに取り押さえられた。

 

 自称神との二人だけの逃避行は裏切りに終わり、抵抗虚しく、泣き喚く俺は数週間前にお世話になったばかりの病室に押し戻された。

 

 

 

 

 

 

 




 前編後編と閑話なしで来たので、次章はちょっと閑話多めになるかもしれません。また、しばらく更新が空くかもしれませんが宜しくお願いします。

特に意味はないアンケート Ver.2

  • ヒイロもその……遊園地に一緒にきてほしい
  • えへへっ、今日からお隣だからよろしくね☆
  • 少し、お付き合いいただけませんか……?
  • 三条ヒイロ、魔法のスロットだ。回せ
  • 私が!ヒイロのベスト☆パートナーです!!
  • セミナーの仕事も忘れないでくださいね~?
  • うるせェ!!! (次章に)いこう!!!!
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