黒いスーツの転生者   作:実力と発想が見合わない人

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今回はアツコ視点です。


生贄少女と仮面の男

 

 

 

私には生まれた時から自由は無かった。

常に誰かに監視されている毎日で、今生きていられるのも「アリウス生徒会長の血統だから」と、言う理由だからだ。

そんな私は今、捕虜として捕らえられている。どうせ碌な扱いはされないし、すぐに殺されるか捨てられるかのどちらかだろう。そう思って諦めていた。

 

 

そんな時だった、彼と出会ったのは。

 

 

 

 

 

 

『・・・俺はゲマトリアのウォーデンだ。黒服と言う者の部下であり、お前の監視役になった者だ。くれぐれも面倒ごとは起こさないようにな。』

 

 

彼を初めて見た時に感じたのは底なしの恐怖だった。

不気味な白い仮面に血で汚れているのではないかと思うほど真っ赤な手袋、そして全身から滲み出る全身を押し潰すかのような重圧(プレッシャー)・・・・・覚悟はしていたが、こんな怪物みたいな人が監視に着くなんて思ってなかった。

けど、私に拒否権何て無く、黙って受け入れるしかなかった。

 

 

『返事くらいはしたらどうだ?ロイヤルブラッド。』

 

 

こちらの事を気にせずに話しかけてくる彼。

私は何とか恐怖で震える体を抑え、何とか声を出した。

 

 

「私は、秤アツコ。」

 

『・・・ほぅ。』

 

あの人(マダム)からあまりしゃべらないように言われてるの。ごめんなさい。」

 

 

つい、癖で謝ってしまう。しかし、彼は怒った様子も無く、黙って建物の中を進んでいった。

私はどうしたらいいのか分からず、ただ彼に着いて行くことにした。以前の監視役の人は私が離れていると怒って暴力を振るうこともあったからだ。

 

彼は2階の部屋の一つに入ると、窓から周辺の様子を見始めた・・・あの手に持っている物は何だろう?彼は筒の様な者が二つ付いたような物を覗いている。どんな物が見えるのだろうか?

私の好奇心は先ほどの恐怖すらも忘れさせていた。

 

 

『ん?なんだ?』

 

 

気になって部屋を覗き続けていると彼はこちらに気が付いたようだ。

しまった、もしかしたら前の人たちみたいに「しつこい」とか「うざい」とか言われて叩かれるかもしれない。

そう考えると、自然と体が固まって何もできなくなってしまう。

 

 

『何をしている。黙ってちゃ分からん。』

 

 

しかし、いつまでたっても怒鳴る事すらしない彼、それどころかこちらを気遣う様な口調で話しかけてくる。私は正直に答えることにした。

 

 

「何してるんだろうって思って。」

 

 

彼は「そうか」とでも言いたそうな感じでまた窓から外を見始めた。

私は少し勇気をもって彼に近づいてみることにした。

 

 

「これで何してるの?」

 

 

さらに勇気を出して聞いてみる。もしかしたら叩かれたりするかもしれないけど、なぜか私は「彼なら大丈夫かも」と思ってしまった。

 

 

『あー・・・周りの様子を見ていたんだ。』

 

「これで?」

 

『ああ、・・・見てみるか?』

 

 

叩かれることはなかった。それどころか、私に手に持っていた筒の道具を差し出してきた。

今までなかった対応に、私は戸惑いながらも彼から道具を受け取った。

簡単に説明を受けたが、どうやらこれは遠くを見るための物らしい。

私はワクワクしながら覗いてみた。

 

 

「わぁ・・・」

 

 

すると見えてくる遠くの景色。

まるですぐそこにあるようにはっきりと見え、私の知らなかった物や見たことのない風景を見せてくれる。大きな森に赤や黄色のきれいな場所、川や建物などいろいろだ。

私は夢中になって周囲を見渡していた。

 

 

『ここは安全みたいだから、しばらく見ていていいぞ。』

 

 

突如、彼に声を掛けられてびっくりした。しかし、彼は建物を見て回ると告げると、特に何もせずに部屋を出て行ってしまった。

残された私は、今までにない対応をする彼が不思議でたまらなかった。

 

 

 

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それからしばらく彼と過ごすことになった。

基本的に彼は本を読んでおり、特に何かする事は無かった。彼の持つ本は私には難しすぎる為、私は外を見るか、ひたすらじっとするくらいしかやる事は無い。

一度だけ、私は建物から出ようとした・・・が、すぐに彼が駆けつけてきて止められた。やはり、ちゃんと監視しているみたいで、少しでも出ようとすると近くにやってきた。

そんな日が続いていた時だった。

 

 

『・・・少し外に行って見るか。』

 

「・・・え?」

 

 

唐突な彼の発言に私は驚いた。

何せ捕虜相手に「外に出ないか?」と言ってくるからだ。そんなの逃げるチャンスを与えるのと変わりない。私には全く理解できなかった。いや、もしかしたら自分一人だけで行くつもりかもしれない・・・それでも一緒だろうが。

 

 

「えっと・・・私はどうしたらいいのかな?」

 

 

本当に分からなかった。ここで待ってたらいいのか、それとも目の届く場所に居たらいいのか。

しかし、彼は不思議そうに尋ねてきた。

 

 

『何言ってんだ?お前も一緒に来るんだよ。』

 

「え・・・でも・・・」

 

『ん?・・・あぁ、そうだな。そんな軽装じゃ寒いか・・・これ着とけ。』

 

 

そう言って、彼はアリウスのエンブレムが入った白いコートを渡してきた。

今まで黒い最低限の衣類しか着けてなかった為、少しうれしかった。

 

 

「えっと・・・ありがとう。」

 

『ほら、行くぞ。』

 

 

開かれた扉からは外の空気が流れ込み、少し肌寒かった。

私は渡されたコートを羽織りながら、彼を追いかけた。

 

 

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今までずっと室内にいた私にとって外の風景はとても新鮮なものだった。

壊れかけの建物や鮮やかな草木、見るだけだった場所を自分の足で歩き、自分の見たい場所を見れる。それはまさに生まれて初めての自由だった。

彼は私の事を気にかけながらゆっくりと進んでいる。

 

 

「・・・すごい。」

 

 

歩き続けていると小さな丘があり、その向こう側には色とりどりの花が一面に咲いていた。

その素晴らしい光景に私は目を奪われ、ひたすら眺めていた。

 

 

『ふむ・・・こんな場所もあるのか。』

 

 

彼は一足先に丘を下り、花を観察していた。

私は慌てて彼を追いかけて丘を下った。

 

近くに来るとこの花畑が大きいことがよくわかる。

どこまでも続く様な、見えない先まで広がっている。

私は夢中になって外だと言う事も忘れてひたすらに歩き続けてしまった。

 

しばらくすると、私は彼がいないことに気が付いた。

少し探してみたがどこにも姿が見えなかった。

知らない場所で独りぼっちになり、今までの好奇心は消え失せ、私の心は不安と恐怖に包まれた。

そんな私に、さらなる悲劇がやってきた。

 

 

「捕まえたぞ。」

 

「え?・・・誰っ!?」

 

 

私はいつの間にか近づいて来ていた兵士に捕まった。おそらくマダムと敵対している勢力の奴らだろう。今の私はアリウスのエンブレムのついたコートを着ている為、すぐに見分けは着く。

まともに訓練も受けてない私は碌な抵抗もできない。じたばたと暴れるくらいだ。

しかし、暴れる私に業を煮やした兵士は、思いきり私の腹部に膝蹴りを行った。

 

 

「暴れる・・・なっ‼」

 

「・・・ごふっ!?」

 

 

蹴られた場所から鈍い痛みが広がり、肺の空気をすべて吐き出す。

痛みと苦しさでうまく呼吸が出来ず、次の暴力が来るかもしれない恐怖で、私はその小さな抵抗すらやめてしまった。

そしてさらに、どこからか他の兵士たちが3人ほど現れた。

彼らは「いい手土産が出来た」などと言いながら、私を運び始めた。

 

 

「い・・・や・・・」

 

 

怖い。

兵士たちの笑い声が、これからどうなるのか分からない事が、またひどい扱いを受けることが――――

 

 

「た・・・すけ・・・」

 

 

彼と別れることが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目を離したすきにこんなことになるなんて・・・俺も油断が過ぎた様だ。』

 

 

どこからか彼の声が聞こえた。

それと同時に、戦闘を歩いていた一人の兵士が首を抑え倒れた。声も出さずに動かなくなる。

 

声のした方向には斧を持った彼の姿があった。

 

他の3人の兵士はひどく狼狽え、混乱している様だ。

 

 

『子供相手に随分とひどいことをするじゃあないか。』

 

「ぎゃっ!」

 

 

武器を構えていた兵士が一瞬でズタズタに引き裂かれる。

身に着けていた装備もそれを支える肉体も、元の形が分からないほどに砕け散る。

 

一瞬だけ彼の姿が見えた。綺麗な刀とその鞘の様な物を持っていた。

 

残った二人の兵士の内の、私を運んでいた兵士が私を放り投げて走り出した。

「死にたくない、助けてくれぇ!」大声で叫びながら必死に。

 

 

『お前は相手の声に耳を貸したことはあるのか?ないだろう?』

 

 

そんな叫び声も虚しく、一瞬で胴体が真っ二つに分かれて吹き飛んだ。

 

彼は私の背丈ほどもある機械仕掛けの大きな剣を持っていた。

 

最後に残った兵士は彼に向けて銃を乱射した。

しかし、すべての弾は彼には当たらず、逸れるか目の前の空中で止まった。

兵士はひたすら「ばけもの」と叫びながらハンマーで頭を潰された。

 

 

『あながち間違っちゃないぜ?俺は化物だからな。』

 

 

あっと言う間に出来上がった4つの死体。

私は彼が助けてくれたと安堵すると同時に、目の前で人の命が消えたことに恐怖した。

彼は返り血でその白い仮面や黒いスーツを染め上げていた。唯一、元から赤かった手袋は変わりはなかった。

 

 

『大丈夫か?すまんな、目を離してしまって。』

 

 

そこには普段と変わらない様子の彼がいた。

相変わらずその表情は仮面で見えないが、人を殺めたというのにまるでそれが当たり前と言わんばかりにいつも通りに。

それでも不思議と彼には恐怖を抱かなかった。彼は血に濡れた手を差し出し『立てるか?』と問いかけてくる。腹部の痛みこそ無くなったが、私はまだ腰が抜けて立てなかった。

 

 

『・・・しょうがない。』

 

 

そう言うと、彼は私を背負って歩き始めた。

まだ乾いていない生臭い血の匂いがする背中。しかし、今の私にとってはすごく安心できる暖かく大きな背中だった。

疲れと安心感からか、私はそのまま眠ってしまった。

 

 

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しばらくして、彼が要塞の攻略などに駆り出されるようになった。

同時に私は戦闘などの訓練を受けるようになり、彼とは出会うことがめっきり減った。

でも、私に新しく仲間が出来た。

 

リーダーのサオリ、無口なミサキ、ちょっと怖がりなヒヨリ、私より後から来たアズサ。

 

訓練は厳しいし、少しでも反抗すれば暴力や暴言が飛んでくる。大きなミスや違反をすれば独房に放り込まれることもあった。

特に暴力はひどく、ほとんど日常的に振るわれており、みんな生傷が絶えなかった。

彼はいつも遠くから見ているだけだった。

 

ある日、いつもより訓練が早く終わり、いつも通り宿舎へ戻る途中だった。

偶然、通信機を使っている彼を見つけた。私は通話が終わるのを待ってから彼に声を掛けた。

 

 

「ウォーデン、久しぶり。」

 

『ああ、久しぶりだな。元気にしてたか?』

 

 

久々に近くで見た彼は、前とは少し雰囲気が違っていた。具体的に言えば少しだけ怖くなった。

別に彼が怒っているわけでもなく、圧を掛けているわけでもない。頭では怖くなくても体が自然と震えたり、足が竦んだりしてしまう。

 

 

「相変わらず訓練は厳しいけど・・・みんなもいるし大丈夫。」

 

『そうかそうか、それは良かった。』

 

「ウォーデンは何してるの?」

 

『俺か?・・・正直暇だった。』

 

 

どうやら、彼は今暇なようだ。それなら、今から話し相手になってもらおうかな?

 

 

「そうなんだ・・・今からちょっとお話しできないかな?」

 

『あー、すまんが今からベアトリーチェ・・・マダムの所に行かきゃならん。無理だ。』

 

「そっか・・・分かった。じゃあ、その後ならできる?」

 

『ああ、そうだな。』

 

「約束だよ?」

 

 

なんとか、彼と約束を取り付けた。

久しぶりに彼とゆっくり話を知る事が出来ると分かった私は、少し上機嫌で宿舎に戻った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

それからしばらくしてから、彼は私の部屋にやってきた。

私は他のメンバーと相部屋だったため、必然的に一緒に会話をすることになった。

 

 

「・・・あなたが姫の言っていたウォーデンか?」

 

『ああ、その通りだ。』

 

「聞いた限りではかなりの強者だと・・・本当か?」

 

 

私と彼が話をしていると、内容に興味を持ったサオリたちが話に参加してきた。

最初はそれでもよかったが、いつの間にかサオリとアズサが中心的に彼と話をしていた。

 

 

『ああ、近接戦ならそれなりの自信があるぞ。』

 

「それじゃあ、今度の演習の時に手合わせ願いたいものだな。」

 

 

私ももっとお話ししたいのに・・・

 

 

『いや、それは難しいな。』

 

「どうしてだ?」

 

『俺は明日にはアリウスを出ていくからだ。』

 

「・・・・・・え?」

 

 

彼が・・・いなくなる?

 

 

「ねぇ、それってどういう事?」

 

 

聞かずにはいられなかった。

彼がいなくなる・・・彼に会えなくなるなんていやだ。

私はいつの間にか、彼に縋る様にしがみついていた。

 

 

『ここでの任務は終わったんだ。』

 

「でも、そしたらマダムから新しい任務が・・・」

 

『俺は元々アリウス所属ではない、ゲマトリアの黒服ってやつの部下だ。』

 

 

そういえば最初の自己紹介でもそんなことを言っていた気がする。

そう簡単に納得できる物ではない・・・しかし、私は彼を引き留める術を持っていない。

彼女(ベアトリーチェ)の支配下にある私には彼をここに縛り付ける権限も、彼を引き留めるために差し出せるものもない。彼と初めて会った時と同じ、私には受け入れるしかなかった。

 

 

『まぁ、また機会があれば会うこともできる。手合わせはその時にでもするとしよう。』

 

「そうだな。」

 

 

彼を掴む手に力が入る。着ているスーツにしわが寄り、さすがの彼も気が付いたようだ。

 

 

『別れを惜しむのは分かるが、俺たちにどうこうできる話ではない。仕方のないことだ。』

 

 

彼は手袋を外し、私の頭を撫でる。髪の毛越しの大きな手のひらは暖かく、私に安心感を与えてくれる。

 

 

『生きていれば必ずいつかは会えるさ。』

 

「・・・約束して。」

 

『ん?』

 

「いつか、必ず会いに来るって約束して。」

 

『わかった。』

 

 

お互いに小指を出し、二度目の指切りをする。

それが終わると、彼は部屋を出て行った。

 

その日のうちに出て行ったのか、次の日からアリウスの中で彼を見かける事は無くなった。

そして、しばらくすると私はマダムから仮面を渡され、しゃべることも禁じられた。

けど、私はこの仮面を着けていると、彼が見守っている気がして、少しだけ勇気が湧いてくる。

 

私は彼の事を忘れない。きっといつか来てくれると信じてるから。






今回はここまでです。

ちなみに原作だとアツコの仮面は黒服が用意したことになっていますが、ここではウォーデンが自分で1から作った設定です。


それではまた次回・・・
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