◇アビドス市街地・ビル内部
「・・・・これでいい?」
「はい、契約書にサインも頂いたので、ホシノさんの生徒としての全権利は私に移譲されました。正式にアビドス高校が背負っている借金の大半を、こちらで負担することにしましょう。」
明かりの少ない薄暗い部屋の中で、机を挟んで対峙するホシノと黒服。
ホシノは、「自身の身柄と引き換えにアビドスの借金を減らす」と言った内容の取引を黒服としたのだ。
『・・・・』
しかし、今のホシノが気になることは一つ。
黒服の後ろに待機している、白い仮面を着けた男のことだ。
ずっと立っているだけで微動だにしない。肌が見えなければ、人形かマネキンと勘違いしそうなほどに動いていない。まったくもって不気味である。
「・・・ねぇ、ずっと気になってたけどさ、後ろの奴は何?」
「あぁ、彼は私の部下ですよ。気にしないでください。」
「ふーん。」
「それでは、後は任せましたよ。」
『了解した、ボス。』
黒服からの指示で、男はようやく動き出した。
「それでは、後は彼に着いて行って下さい。私はここで失礼します。」
黒服は、ホシノを部下に任せてさっさとどこかに行ってしまった。
その場に残されたホシノは、黒服の部下の方を見る。
しかし、彼は淡々と準備を進めるだけであった。
『こっちだ。』
「・・・どこに行くの?」
『アビドス砂漠だ。』
ビルの正面に止められている車に乗り込む。
どうやら、彼が運転するみたいだ・・・と言うか、ホシノと彼以外は誰もいなかった。
「・・・誰もいないんだね。」
『貴重な被検体だからな。カイザーに任せて雑に扱われては困るからな。』
「・・・・」
被検体・・・つまり何かの実験に使われるらしい。
そうなれば命の危険もあるのだろうか?その時は楽に死ねたらいいな。
そんなことを考えながら、ホシノは目的地へ向かう車の中で目を閉じた。
目を閉じた暗闇こそ、すべてを置いてきた自分に、きっと相応しいから。
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◇アビドス砂漠
「な、何で・・・どうしてアビドスの街を攻撃するんだ!」
カイザーによって攻撃されるアビドスの街を見たホシノは、黒服の部下・ウォーデンに向けて問いかける。
『さぁな、私の知ることではない。』
「このっ!」
興味のないような返答に苛立ったホシノは、ウォーデンに向けて殴りかかった。
しかし、簡単に避けられ、逆に押さえつけられてしまった。
「ぐっ!」
『まったく、暴力はよくないぞ?』
ヘイローが無いはずの彼は、信じられないほどの力でホシノを押さえている。
全力を出しても抜け出せない。それどころか、あっという間に拘束されてしまう。
武器が無いとは言え、何も抵抗することが出来なかった。
「なんで・・・どうして!」
『情報弱者め。気が付かなかったのか?』
「は?」
『私たちは、確かに借金の大半を負担する。しかし、アビドス高等学校の生徒会・・・その最後のメンバーであるあんたが退学すれば、もうあそこは学校として成り立たないのだよ。』
「・・・・‼」
『情報は力だよ。「敵を知り己を知れば、百戦危うからず。」あんたは、自身の重要性と敵の狙いに気が付けなかった・・・ただそれだけだ。』
「そんな・・・どうしよう。」
『考えが足りなかったな。』
良かれと思って取った行動が裏目に出た。
後輩の為と思ってのことが、彼女らを苦しめる結果になった。
『あんな下らん企業が学校を手に入れようがどうだっていい。なにせ、ボスの目的は最初からあんただったんだからな。ただ利害が一致したに過ぎない。』
『あんたを実験体として、研究し、分析し、理解する。』
『神秘とは何かを・・・』
『だが安心しな、ボスは貴重な被検体を無駄に消耗する方では無いからな。』
ホシノは、台座の様な物に拘束された。
そして、それを確認したウォーデンは部屋から出ていった。
暗い部屋に残ったのはホシノだけとなった。
「私は・・・また騙されたんだ・・・」
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◇???
”ここかな・・・”
キヴォトスに存在するビルの一つ。
ホシノを連れて行った存在が先生を招いた場所である。
先生がビルの内部に入ると、真正面のエレベーターの扉が待ってましたと言わんばかりに開いた。
先生が警戒しながら乗ると、エレベーターの扉は勝手に閉じてしまった。
ボタンを押していないにもかかわらずエレベーターは動き出し、やがて最上階で止まった。
エレベーターを降りた先の部屋。
その扉の向こうはシンプルな内装の薄暗い部屋だった。
「お待ちしてましたよ、シャーレの先生。」
部屋の奥には真っ黒な頭の異形が椅子に座っていた。
背後の窓から差し込む光で、より一層黒く見える。
「あなたの事は知っています。オーパーツ「シッテムの箱」の主であり、連邦捜査部「シャーレ」の先生。」
「あなたを過小評価する者もいますが・・・私たちは違います。」
「まずはっきり言っておきましょう。私たちはあなたと敵対するつもりはありません。むしろ協力したいと考えています。」
”どういうこと?”
「私たちの計画において一番の障害はあなただと考えているのです。」
「先生、あなたの存在は決して些事とは言えない。できるだけ敵対することは避けたいのです。」
”あなた達は一体何者?”
「失礼、自己紹介をしていませんでしたね。我々はあなたと同じ、キヴォトスの外からやってきた存在です。適当な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。」
「私たちの事は、ゲマトリアとお呼びください。」
”ゲマトリア・・・”
「そして、私の事は黒服とでも呼んでください。これが気に入ってるんです。」
「それで、先生。一応お聞きしますが、ゲマトリアに協力するつもりはありませんか?」
”微塵もない。それよりもホシノを返してもらおうか。”
「ほう・・・あなたに何の権利があって、その要求をされているのでしょう。小鳥遊ホシノはもはやアビドス生徒ではありません。届け出を確認されてないのですか?」
”まだだよ・・・まだ、顧問である私がサインしていない。”
「・・・・・なるほど、そう来ましたか。」
”ホシノはまだアビドス高校の生徒だし、アビドス生徒会のメンバー・・・そして私の生徒だよ。”
「なるほどなるほど・・・・中々に厄介な概念ですね・・・」
”あなたたちは、ホシノを騙し、利用し、その心を踏みにじった。”
「・・・えぇ、確かにおっしゃる通りです。他人の不幸よりも、私たちは自身の利益を優先しました。」
「善か悪かで言えば・・・悪でしょう。しかし、ルールの範疇です。」
”どういうこと?”
「私は、アビドスに降りかかった不幸を利用しただけに過ぎません。あの災害は私が起こしたわけではありません。自然現象です。」
「砂漠で水を求めて死にゆく者に、水を提供する。・・・ただし、一生奴隷として働いても返済できない額で。」
”・・・悪趣味だね。”
「持つ物が、持たざる者から搾取する。知識の多い者が、そうでない者から搾取する。」
「大人なら誰もが知っている・・・ありふれた世の中の事実です。」
「なので、アビドスから手を引いてはいただけないでしょうか?ホシノさえ諦めていただければ、あの学校は守って差し上げましょう。」
「なんなら、今から私の部下を向かわせて、カイザーPMCを皆殺しにさせましょう。借金についてもこちらで負担しましょう。そうすれば、残りの生徒も学校に通い続けることができます。」
「そして、これはホシノさんが望んでいる事でもあります。どうでしょうか?」
”断る。ホシノは返してもらうよ。”
先生は懐から光り輝くカードを取り出す。
それを見た黒服は、かなり驚いた様子だ。
「先生・・・確かにそれは強大な力を持っています。ですが、使えば使うほどに削られていくはずです。あなたの生と時間が。」
”承知の上だよ。”
「あなたにも生活があるはずです。食事をし、電車に乗り、家賃を払う。そういった無意味でくだらないことを、きちんと解決しなくてはいけないでしょう?」
「放っておいてもいいじゃないですか・・・元々、あなたの与り知るところではないのですから。」
”断る。”
「・・・・いいでしょう。交渉は決裂です。彼女はこの場所にいますよ。」
”へぇ・・・もっと食い下がると思っていたけど。”
「前提が崩れましたし・・・それに―――
私には優秀な部下がいますので。」
”私は帰らせてもらうよ。”
「・・・・先生。」
踵を返し、扉へと向かう先生。
その背中に向けて黒服は一言。
「我々ゲマトリアは、あなたの事をずっと見ていますよ。」
バタン!
扉が閉じられ、黒服のみがのこった。
今回はここまでです。
最低保証・・・最低保証・・・冒涜的徴収者、貪欲な石狂い共め・・・奴らに報いを、我らユーザーの怒りを・・・哀れなる無課金勢に救いを・・・どうか、救いのあらんことを・・・
呪詛溜まり
蹂躙された天井勢、その頭蓋骨。
恐らくはガチャの確率の内に希望を探したのだろう。過酷な仕打ち(最低保証)の跡が無数に存在する。
だからこそ、この頭蓋は呪詛の溜まりとなった。
呪う者、呪う者。彼らと共に哭いておくれ。
まじでアロナ許さん。
それではまた次回・・・