◇アリウス自治区
『本当に地獄の様な場所だな・・・』
アリウス自治区、そこはまさに紛争地帯であった。
比較的安全なこの場所に来るまでにも、親らしき物の前で泣き叫ぶ子供に瓦礫の隙間から見える小さな手や足、そこら中には生きてるのか怪しいほどに動かない人達、そして時折聞こえてくる銃声や悲鳴・・・まさに地獄絵図だった。
道行く人のほとんどがボロボロの姿で、正直な話、汚れ一つないスーツを着て、怪しい仮面で顔を隠した俺は正直、滅茶苦茶目立っているだろう。面倒ごとに巻き込まれないことを祈ろう。
『ま、こんな明らかにやべぇ奴にちょっかい出す奴なんていないか・・・お?』
前方から人が近づいてくる。偶然近くを通り過ぎるとかではなく明らかに俺を目的にしている感じだ。それにそいつの見た目はガスマスクに白いコート、そして特徴的な髑髏と薔薇のエンブレムが付いている。確実にアリウス分校の・・・いや、ベアトリーチェの手駒の者に違いないだろう。
「・・・お前がウォーデンか?」
『ああ、そうだが・・・あんたは?』
「案内役だ・・・ついてこい。」
そう言うとアリウス生徒はさっさと先に行ってしまう。不愛想にもほどがあるぞ。
それにしてもこの地域の荒れ具合はひどいな・・・ここも路地裏などを覗けばすぐに倒れている人が見つかる。
そんな中、遠くに複数台の車両が走行しているのが見えた。
『なあ、あの車両はなんだ?』
「・・・補給か、物資や人員を輸送している物だ。」
『こんな場所でも車はあるんだな。』
「あれはマダムが用意したものだ。最近見るようになったが。」
その他にも案内役に着いて行く間は色んなものが見れた。
訓練をしているらしき子供たちや物を盗んだのか大人に追いかけられている子供、物乞いやごみを漁る者や動かない者・・・きりがない。
「これでも、前よりはまだマシになった方だよ。」
『・・・そうなのか?』
「ああ、マダムが来るまでは誰もが敵だった。いつ誰に殺されるか分からなかった。」
『今も変わらん気がするが・・・』
「まだ我々が一度も襲撃を受けてない・・・これで分かるだろう?」
『あー・・・なるほどな。』
「困窮している奴らは相手を選んでられないだろうしな。」
少なくともベアトリーチェの支配域で歯向かおうとするやつはいないと言う事か。
俺みたいな身なりの良い奴なんて、切羽詰まってる者達からしたら格好の的だと言う事だろう。
確かに生き延びるためには奪うしかないのだろうが、相手は選んでいられない・・・か。
「着いたぞ。この奥であのお方がお待ちだ。」
『わかった、ありがとう。』
到着した建物は古いながらもどこか威厳のある所だった。
その奥の部屋にはゲマトリアの会議でも見た赤色貴婦人ことベアトリーチェがいた。
『どうもこんにちは。会議の集まり以来ですね。』
「随分と早い到着ですね。さすが黒服の部下と言う所でしょうか。」
頭部に存在する無数の目が俺を見定めるようにこちらを向く。
ゲームではTHE悪役みたいな立ち回りの舞台装置だったが、こうして実際に会ってみると結構恐ろしく、どこか得体のしれない不気味さと恐怖を感じる気がする。
『それで、要件ってのは?紛争中だって話だし、敵の殲滅か?』
「ええ、ですがあなたにはもう一つ仕事があります・・・出てきなさい。」
ベアトリーチェが合図を出すと、部屋の扉が開き一人の少女が顔を出す。
薄紫色の髪に最低限の衣類を身に着けたボロボロの身なり・・・恐らくは―――
「これは相手側からの捕虜・・・それと私の儀式の生贄となる物です。」
『生贄?こんな小さな娘がか?』
「ただの娘ではありません、高貴なる血〈ロイヤルブラッド〉です。」
『・・・それで、この娘の子守りをしろと?』
「いえ、世話はいいです。死なないように見ていればいいです。」
『戦闘は無いのか・・・暇になるな。』
「監視さえしていれば自由にして構いません。どうです?
『・・・ま、指示には従うさ。』
「では、くれぐれも死なせることのないように。」
そう言うとベアトリーチェは外で待機していた案内役のアリウス生徒を呼び、またもや俺の案内をを任せた。同じ人員を使うとは・・・よほど優秀なのか、単純に人手不足なのか。俺としてはどっちでもいいが。
そうこうしていると、そこそこの大きさの建物に着いた。聞いた限りではなるべくこの建物にいてほしいとのこと。それを伝えると案内役は来た道を戻っていってしまった。
残った俺は取り合えず自己紹介を始めることにした。
『・・・俺はゲマトリアのウォーデンだ。黒服と言う者の部下であり、お前の監視役になった者だ。くれぐれも面倒ごとは起こさないようにな。』
「・・・・・・」
『返事くらいはしたらどうだ?ロイヤルブラッド。』
「私は・・・秤アツコ。」
『・・・ほう。』
「
何か、ゲームでの性格と全然違うなぁ・・・そりゃそうだ。ここは
『さてと・・・何をしようか?』
自由にしてもいいと言われたものの、黒服の所から本を持ってくるのを忘れてしまった。
と言うよりも、戦闘ばかりするつもりだったのでこんなに暇になるとは思ってなかった。
『適当に周辺の様子でも見るか・・・』
手袋から双眼鏡を取り出し、建物の2階の窓から周囲を見渡す。
建物の周りには建造物は無く、完全に孤立しているような状態だ。
しかし、アリウス・・・ベアトリーチェの拠点からはそこそこの距離があり、何かあってもすぐには助けに来てはくれないだろう。そもそもあいつが助けを寄こすとは思えんが・・・
『周辺には何もない・・・本当に保管場所って感じだな・・・ん?』
「・・・・・」
視線を感じて後ろを見ると、そこには部屋の扉からこちらをのぞき込むアツコの姿があった。
何をするでもなく、ただこちらを見ている。
『・・・なんだ?』
「・・・・・・」
『黙ってちゃ分からん。』
「・・・何してるんだろうって思って。」
アツコはトテトテとこっちに近づいてくる。そして不思議そうに双眼鏡を覗き込んでいる。
「これで何していたの?」
『あー・・・周りの様子を見ていたんだ。』
「これで?」
『ああ・・・見てみるか?』
「・・・うん。」
簡単に使い方を教えてからアツコに双眼鏡を渡す。
もう一つの双眼鏡を取り出し、アツコと共に周りを観察する。
『・・・狙撃の心配はないな。』
「あれは何だろう?」
『少し離れた場所に森があるな・・・何か良い物でも取れるといいな。』
「あんな場所もあるんだ・・・」
『・・・ここは安全みたいだから、しばらく見てていいぞ。』
「え?あ、うん・・・」
『俺は建物を見て回る。何あったら呼んでくれ。』
「わかった。」
そう言って俺は部屋を出ると、建物を散策した。
大した設備は無かったが地下に大量の古い書物が眠っていた。これは嬉しい。
見たところどれも珍しい物であり、中には失われたであろう書物も見られた。持って帰れば黒服が喜ぶだろう・・・俺も読んでみたいし。
ともかく、しばらくは読む本には困らない。俺は本をすべて手袋に収めると、さらに建物を見て回った後、アツコの元へと戻っていった。
今回はここまでです。
後、2・3話くらいはアリウスが続きます。
私、料理のしっかりと下準備はしておくタイプなので・・・
次回は少しグロイかもしれません。
それではまた次回・・・