ジェリコの咎人   作:ミヤフジ1945

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失踪一歩手前からなんとか投稿です。

定期的に来るスランプ…………その中でも一番ひどい書く気力が全然湧かなくなった状態が続いて初期の設定が忘却の彼方へ消えて行ってきつかったっす……

誰だよ連載にしたやつ!短編でよかっただろ!

…………私だったわ。


第8話  眠る二人、交わる二人

 

 

 

心のどこかで、きっと自分はこの世界を甘く見ていた。

 

支えるべき生徒たちは私とは違い銃弾を受けても軽い怪我をする程度で、大怪我など…………まして死ぬような状況なんてありえないと。

 

甘かった。自分の甘い理想論とは裏腹にくっきりと脳裏に焼き付いた……彼女の口から吐き出される赤い液体を。それが何なのかを目にしながら、あの時は理解することを一瞬拒んでしまったほどに。

 

びちゃびちゃという嫌な音と共に、蜃気楼が浮かぶアスファルトで舗装された地面を濡らす赤い液体……ホシノによく似た彼女の、その小さな口から吐き出された大きな血だまり。

 

蹲るように倒れた彼女を、咄嗟に動くことも出来ずただ固まっていた自分は…………きっと…………

 

目を開けると、既に太陽は昇って自分に朝を告げていた。

 

アビドス高校の皆の好意で貸し出された一部屋。その中央に置かれたくたびれたソファーをベッド代わりに横になっていた自分の体をゆっくりと起こす。

 

と同時に……小さく溜息を一つ吐いた。今日は皆とホシノたちのお見舞いに行く約束をしているというのに、この体たらくでは自分は先生失格だ。

 

 

「…………いや、まだ間に合うさ」

 

 

カーテンも何もない朝焼けを写すくすんだ窓ガラス。そこにうっすらと浮かぶ自身の顔を見つめながら、己が内に語りかけるようにそう呟いた。

 

昨夜は眠れず……目元にうっすらと隈を滲ませた情けない顔を勢いよくバシッと両の手で叩き、僅かに赤く後のついた頬とともに気合を入れた。

 

 

「私は先生だ。だから君のことを信じるよ…………ホシノ

 

 

だって私は、先生だから。

 

 

”おはようアロナ…………今日もいい天気だね”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第8話

眠る二人、交わる二人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドス市街の一画にある、とある病院。その病院の一室に先生とノノミたちアビドス高校の四人組、そして改めて謝罪のためにとアビドス自治区を訪れていたゲヘナ風紀委員のヒナの計六人は訪れている。

 

先日、彼ら彼女らの目の前で倒れた二人のホシノ。二人はことが収束してすぐさまこの病院に運ばれて検査と処置を受け、こうしてホシノ二人とも同じ病室の二つ並んだベッドへと寝かされていた。

 

ノノミを先頭に、セリカやアヤネにシロコ、最後に先生とヒナの順で静かに病室へと入れば、小さく聞こえる二つの寝息が決して広くはない病室に静かに木霊していた。

 

 

「…………まだ、起きないみたいですね」

 

 

「そうですね……昨日からずっと」

 

 

そっと。

 

片腕に点滴を受け……深く、深く眠りについている二人を覗き込みながら。そう小さくこぼすように呟いたノノミの言葉に、アヤネはノノミと同じように小さく呟くことしか出来なかった。

 

彼女たちの表情は残念ながら昨日から変わらず暗いままだ。もっとも、昨日の今日で簡単に気持ちを切り替えられるほど彼女たちにとって小鳥遊ホシノという存在は軽いものではないから仕方ないかもしれない。

 

小鳥遊ホシノ(ホンモノ)小鳥遊ホシノ(ニセモノ)も、一度しか会っていない先生は別としても、少なくともアビドス高校の面々の中で小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の話を疑っている者など既に居ない。付き合いの長さを別にしても彼女たちアビドスの後輩たちにとっての憧れで……大好きな小鳥遊ホシノ(せんぱい)であることに変わりはないのだから。

 

残念ながら、ことの詳しい話を小鳥遊ホシノ(ニセモノ)から聞いている訳でもないし、先生と小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の約束が果たされる前に眼前の光景になってしまったがゆえに今は聞ける状況でもない。

 

だがしかし、セリカの誘拐に紫関ラーメンでの出来事。更に今回ゲヘナ風紀委員会から助けられたことで既に三回も関わりを持ったアビドス高校の四人には、小鳥遊ホシノ(ニセモノ)を信じても良いと…………

 

そんな共通認識というか、集団意識が根付いているのも確かだった。

 

 

「お医者様のお話だと、お二人とも極度の心的ストレスが原因だそうです…………」

 

 

「そっか……ホシノ先輩…………そんなに無理してたんだ…………」

 

 

アビドスの皆を代表して、先生と共に担当医から二人の診断結果を聞いていたアヤネの告げた言葉に、セリカは何とも言えない表情でそう呟いた。

 

実際に小鳥遊ホシノ(ホンモノ)小鳥遊ホシノ(ニセモノ)も、これと言って原因となるような目立つ外傷はない。いや、小鳥遊ホシノ(ニセモノ)には多くの古い傷跡があるし、なんならつい数時間前には災厄の狐たるワカモと戦闘していたので多少の生傷はあるが…………それらは今回ばかりは関係なかった。

 

そうなると当然ながら原因を内側、脳や臓器といった体内に探すのだが……MRIやX線で検査しても特に意識を失うような原因となる症状は見受けられなかった。

 

…………とはいえ、原因となるものが見受けられなかっただけで、体に何も症状がなかった訳でもない。やはり精神的ストレスから来ているのだろう胃や腸といった消化器官に炎症があったり、肌荒れや血圧、倒れる直前までの行動から集中力の欠如からくるパフォーマンスの低下、普段から十分な睡眠が取れていなかったことなど、検査や聞き取りでわかる限りを纏めたカルテの結論として、ホシノたち二人が倒れた原因が身体的症状ではなく極度の心的ストレスなど精神的なものだと、そう医者からは推測されていた。

 

 

「…………あの時ホシノさんが言ったことの意味って何だったのかな?」

 

 

小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の側に居るノノミとアヤネに、小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の側にいるセリカが、何とか場の空気を変えようとそう口を開いた。

 

セリカと同じくように小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の側にいるシロコもそのことが気になっていたのか、小さく同意するように首を縦に振っている。

 

彼女たちの先輩である小鳥遊ホシノ(ホンモノ)も心配なのだが、やはり目の前で唐突に血を吐かれるというのはどう取り繕おうと簡単に脳裏から消えるものではない。

 

自然と小鳥遊ホシノ(ニセモノ)のことを意識してしまう中で、セリカやシロコが小鳥遊ホシノ(ニセモノ)との記憶をついつい思い出してしまうのも仕方ないと言えば仕方がなかった。

 

 

 

この世界をあまねく奇跡の始発点(ハッピーエンド)へと繋げるために。

 

 

 

セリカとシロコ。二人が疑問に思っていた小鳥遊ホシノ(ニセモノ)が告げたこのセリフ。アヤネもその後の便利屋68とのゴタゴタや今回の風紀員会との荒事で流してしまっていたが、改めてセリカたち二人から告げられると…………彼女たちと同様に疑問が胸の内から湧き上がってくる。

 

 

「そういえば確かに…………どうしてホシノさんは具体的なことではなく、何故あんな抽象的な言葉を使ったのでしょうか?」

 

 

”えっと……皆どういうこと? ”

 

 

セリカとシロコ、更にはアヤネも食いついたその話についていけず、頭に疑問符を浮かべている先生とヒナ。当日アビドスに居なかった先生とヒナの二人に、セリカはあの日の出来事を掻い摘んで二人に話した。

 

先生が約束を破って会えなかったこと。帰ろうとした小鳥遊ホシノ(ニセモノ)を思わずノノミが引き留めてしまったこと。

 

そして…………件の紫関ラーメンでの一連の出来事も。

 

先生は最初の出だしで約束を破ったことについて物凄く気まずそうに顔をそらし、ヒナはヒナで小鳥遊ホシノ(ニセモノ)が便利屋と関わりがあったことに少しだけ反応したものの、やはり最終的には小鳥遊ホシノ(ニセモノ)が語った言葉の意味に頭を捻ることとなった。

 

 

”ハッピーエンド…………かぁ”

 

 

「はい。ホシノさんの言葉はまるで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………そんな印象を受け取れてしまいます」

 

 

「というか、そもそもハッピーエンドってなによ? マンガやアニメの世界じゃあるまいし、そんなの私たちの受け取り方次第じゃない」

 

 

先生、アヤネ、セリカ…………それぞれが思っていたこと、感じたことを口に出す。

 

そもそも何故、小鳥遊ホシノ(ニセモノ)はハッピーエンドという抽象的で曖昧な表現をもちいたのか。ハッピーエンドという概念自体、仮に自分自身がハッピーエンドだと思っても他者も同じくそう思っているとはなりえない…………自身や他者の主観によって移り変わる曖昧で朧げな存在だ。

 

例えば、アビドスの借金が全て消え自治区に人が戻ってきたとする。ノノミやアヤネたちアビドス生からすればハッピーエンドかもしれないが、今この場にいるゲヘナ生のヒナとしてはどうなのか…………実際はその日常にひとかけらの変化もないのだ。

 

ハッピーエンドなどなく、なんの代わり映えもしないノーマルエンド…………いや、終わることのない日常なのだからエンドですらない。

 

更に例えるなら、アビドスの借金が全て消え自治区に人が戻ってきたして、その過程でノノミが勝手にアビドスの借金を自費で返したとする。ノノミや何も知らない戻ってきた人間からすればハッピーエンドかもしれないが、事情を知った他のアビドス生であるアヤネやシロコ、セリカたち……関わっている先生は本当にハッピーエンドだと素直に喜べるのか?

 

人によって、場所によって、そして世界によって。

 

曖昧でありながら、僅かな指向性がある。主観では多種多様な道でありながら、創作物という第三者の視点では一本の筋の通った道になる。

 

だからこそ一つの概念(タグ)として創作物において重用されているのであって、現実としてはハッピーエンドという曖昧な表現は個人の心に委ねられてしまう。

 

 

 

この世界をあまねく奇跡の始発点(ハッピーエンド)へと繋げるために。

 

 

 

小鳥遊ホシノ(ニセモノ)が短く語ったその言葉に、一体どんな意味が…………想い(覚悟)が込められているのか。

 

残念ながら、この病室にいる六人だけでは小鳥遊ホシノ(ニセモノ)のその想いへとたどり着くためのピースが未だ足りていなかった。

 

 

「話の腰を折ってしまって申し訳ないのだけど…………その、貴方たちの話だと二人は同一人物みたいに聞こえてしまうのだけど?」

 

 

うんうんと頭を悩ませるアビドス生や先生一同へと、この中で唯一の部外者であるヒナがそう口にした。

 

ヒナとしても、今回のゲヘナ風紀委員の失態…………とはいっても九割方はNo.2であるアコ行政官の所為なのだが、アビドス高校側への謝罪の意味でも…………その後の事後処理でシャーレの権限を使ってやや強引ながらもなんとかその件をアビドス高校とゲヘナ風紀委員会の合同演習という形で取り繕ってもらったシャーレへの…………いや先生へ借りを返す意味でも、ヒナ個人として風紀委員会としても必要であれば手を貸す意思があった。

 

もっとも、可能であれば昨日感じた二人目の小鳥遊ホシノ、眼前で眠る傷だらけの彼女へと感じた違和感を突き止められればという打算もあったが…………

 

もし今回の件が公になれば、常日頃から風紀委員会に嫌がらせをしてくる万魔殿(パンデモニウムソサエティー)の議長が嬉々として風紀委員会を煽ってくるだろうし、連邦生徒会が介入してくる可能性も無きにしも非ず。

 

そしてなにより、ゲヘナ自治区とは犬猿の仲であるトリニティーの上層部、所謂ティーパーティーの面々が知れば裏表を含めゲヘナへと何をしてくるか…………考えるだけでも頭が痛くなるような問題だった。

 

だからこそ強引ながらも表面上は問題ないように取り繕ってくれたアビドスやシャーレの先生の元へと打算も含めたお見舞いもかねてこうしてアビドスへと足を運んでいる訳なのだが、ヒナ個人としては力になろうにも小鳥遊ホシノが二人居るなどとさも当然のように言われれば、違和感と非現実感の融合で困惑するのも仕方がないだろう。

 

 

風紀委員会(私たち)の中ではどちらか片方…………恐らく最初に居た小鳥遊ホシノが他自治区を騙す為の影武者だったんじゃないか。幹部の中ではそういう意見が多く出ていたわ」

 

 

腕を組みながらそう語るヒナ。だがそもそもとして、現実に同じ人物が二人も居ることなど普通ヒナを含め誰も予想出来ないだろう。

 

それに最近は優先度を落としていたとはいえ、ゲヘナ諜報部からもたらされていた小鳥遊ホシノの資料。その資料の特徴と片方のホシノは合致せず、もう片方のホシノが似ていたことも…………同一人物という予想を思いつけなかった理由の一つかもしれない。となれば風紀委員会内での意見としてもしものための影武者だったのではないかと、そういう意見が幹部を中心に出てくるのは現実として仕方のないことなのかもしれなかった。

 

 

「正直に言って改めて二人を見た今でも……私は、貴女たちの言うことまだ信じきることが出来ないわ」

 

 

「そう…………ですよね。私たちも二人が同一人物であると確かな証拠が有る訳じゃないですし……」

 

 

皆の視線を集める中できっぱりとそう言い放つヒナに、アヤネは仕方ないと…………この胸の内に漂う心地の良い暖かさと苦しいほどに悲しい相反する二つの心。

 

その二つが同居する不思議な感覚にアヤネ自身も上手く言語化することが出来ず、苦笑いを浮かべながらヒナへとそう言葉を返すしかアヤネには出来なかった。

 

沈黙が、重々しく病室を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックック…………いやはや、大変面白いものを見せていただきました」

 

パチパチパチと、拍手のような乾いた音と共に静かな病室へと響き渡る男の声。

 

驚きと共に、この病室にいる全員が声の主の方へと振り返った。シロコやヒナに至っては反射的に自身の愛銃を構えてしまうほどに、声の主は唐突だった。

 

声のした方へと…………病室のドアではなく真反対の窓際へと全員が顔を向ければ、先ほどまでは確かにいなかったはずの人間が居た。

 

いや……人間と呼べるかも怪しい。何せ顔は真っ黒で目や鼻といった顔のパーツは認識出来ず、髪の毛すら存在しない。

 

黒いスーツを身に纏ってはいるがそのあまりに無機質な見た目と合わせて、そう……まるでショッピングモールのマネキンが独りでに動いているかのような、そんな錯覚をこの場の全員が覚えた。

 

まるでそのナニカの感情に合わせるかのように明滅する、顔に当たる部分にある歪に光を放つひび割れが、なんとも無機質な印象の彼をより非現実的で異質なナニカへと変貌させていた。

 

 

「誰…………名乗りなさい」

 

 

「ククッおぉ怖い怖い…………別に貴女方に敵対している訳でもしたい訳でもございませんので、その物騒な物を下げて頂けると私としても嬉しいのですが」

 

 

立ち位置的に、男と一番近い場所にいたヒナが睨むようにその鋭い視線を向けながらそう告げた。

 

手にしていた愛銃のデストロイヤーをピタリと男へと向け、警戒を隠しもしないヒナに男…………黒服は笑いながら両の手を挙げた。

 

ヒナや同時に銃を向けたシロコに遅れて、二人と同様に銃を向ける他の三人をしり目に黒服はベッドで寝ている二人のホシノへと視線を向けた。

 

 

「やはり相当無理をしていたみたいですね。無理もない……ほとんど気の休まる時間なんて無かったでしょうから」

 

 

”君は……一体何者だ?”

 

 

一番前にいたヒナを守るように、タブレットを片手に前へと歩きながら先生が黒服へとそう口を開く。

 

 

「ふむ…………既に大筋から大きく逸れてしまっている以上、まあ問題ないでしょう」

 

 

”何を言っているんだい? ”

 

 

挙げていた両手のうち、片方の手を顎の部分へと持っていきながらひとりでそう呟く黒服に、先生は目を細め怪訝な表情で黒服の動きを警戒している。

 

 

「初めまして…………あなたのことは知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在」

 

「あのオーパーツ「シッテムの箱」の主であり、連邦捜査部「シャーレ」の先生」

 

「まずはっきりさせておきましょう」

 

「少なくとも()()、貴方と敵対するつもりはありません」

 

大げさに、そして芝居がかった言い方で、黒服は先生へとそう告げた。

 

もし小鳥遊ホシノ(ニセモノ)が起きていてこの黒服を見ていたなら、きっと初顔合わせでウキウキしながら先生の前で対峙する黒服に苦笑いを浮かべていただろう。

 

小鳥遊ホシノ(ホンモノ)だったとしても、それまで関わっていた黒服との些細な違和感に警戒心を募らせるだろう。だがしかし、どちらのホシノも今は眠りについていてこの場に居る六人に黒服の心情を知る術はない。

 

 

”今この状況で、君のその言葉を信じられると思うかい? ”

 

 

「ふむ……まぁいいでしょう。私たちの計画において、一番のイレギュラーになりえるのは先生……貴方だと考えています」

 

 

”イ……イレギュラー? ”

 

 

「はい、私たちは貴方と同じ、このキヴォトスの外部から来た者……ですが、私たちは貴方とはまた違った領域の存在です」

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております」

 

「私たちのことはゲマトリア……そうお呼びください」

 

「そして遅ればせながら私のことは、黒服とでも。この名前が気に入っていましてね」

 

 

”ゲマトリア……黒服……”

 

 

私たち(ゲマトリア)は、観測者であり、探究者であり、研究者です」

 

「先生……貴方と同じ、このキヴォトスにおいて不可解な存在だと考えていただいて問題ございません」

 

 

そう語る黒服の姿に、先生の警戒心は更に高まっていく。

 

否、先生だけではない。この場に居る黒服以外の全員が、(黒服)への警戒心を引き金を引き切る限界ギリギリまで高めていた。

 

黒服の態度も、雰囲気も、話し方も……何もかもが怪しさ満点で信じられるものが殆どない。そう……まるで()()()()()()()()()()()と言わんばかりに。

 

 

”きm……いや、お前の目的はなんだ? ”

 

 

黒服への警戒心からか、普段の生徒に対する喋り方よりも荒々しく、少しばかり刺のある口調でそう黒服へと問い詰める先生。

 

持っていたシッテムの箱をきつく握りしめ、敵意すら混じっていそうな視線を受けてなお、黒服の態度は変わらない。

 

むしろ、小鳥遊ホシノ(ニセモノ)から聞いていた通り……そして僅かな時間だが画面越しに見ていた通りの人物だと、嬉しささえ感じていた。

 

 

「私の目的ですか。クックック……一つは先生、貴方に会うことです」

 

 

”……なに? ”

 

 

「貴方が私が聞いていた通りの人物なのか、いえ…………こちらはいらない心配でしたが」

 

 

”…………”

 

 

「貴方は私たちの想定していた通りの人物でした。こうして直に見て、更に確信出来るほどに」

 

 

”お前は()()()と言った。まだあるんだろう? ”

 

 

「流石は先生。貴方の言う通り、私の目的はもう一つあります。むしろそちらが本命で、貴方と会うのは副次的なサブミッションのようなモノに過ぎませんでしたが」

 

 

黒服の言葉に、反射的にだろうピクリと先生の体が反応した。何故、黒服がこの病室に現れたのか…………黒服の言う本命の目的とやらと一体何の関係があるのか。

 

何かを盗みに来たか、はたまたセリカの時のように誘拐でも企てているのか。ともすれば何故、撃たれるかもしれない危険を冒してまでわざわざ自分と接触してきたのか。

 

そもそも黒服が今この場所で接触して来た意味は?

 

もし、黒服の言う本命の目的が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして、黒服がセリカの時のように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

今この病室で最も無防備で、抵抗もなく攫える存在は…………

 

 

”…………目的はホシノか!”

 

 

「おや、流石は先生ですね。正解ですよ」

 

 

先生の言葉に、黒服は拍手と共にそう口を開く。

 

 

「正確には、貴方たちがもう一人のホシノと呼んでいる、もしくはそう認識している方のホシノさんですが」

 

「私とホシノさんはゲマトリアとは関係なく、個人的な知り合いでしてね。こうして迎えに来たのですよ」

 

 

”信じられるわけないだろう”

 

 

今度は黒服の言葉に、先生がキッと睨みながらそう口を開く番だった。

 

 

”…………お前の言葉には何一つ信用出来る要素がない”

 

 

「おや? もしや私が嘘をついているとお思いですか?」

 

 

”そうだ。そんなあからさまに怪しい不審者に、大切な生徒であるホシノを渡すわけがないだろう”

 

 

啖呵を切るように、はたまた内に秘めた覚悟を曝け出すかのように…………先生はそう黒服へと告げる。

 

先生の言葉と同時に、銃を向け先生と黒服の対話を黙って見つめていたノノミやヒナを始めとしたこの病室に居た生徒たちも……黒服が先生へと意識を向けていた一瞬でいつの間にか小鳥遊ホシノ(ニセモノ)を守るように陣形を取り、何時でも引き金を引く準備は出来ていると言わんばかりに黒服へと殺気にも似た闘志を向けている。

 

 

「流石は先生、その覚悟は大変素晴らしいですが…………だからこそ、貴方は一つ勘違いをしている」

 

 

”…………何? ”

 

 

「確かにホシノさんは()()()()()()()()。ですが、決定的に違うものがある」

 

 

”何が言いたいんだ”

 

 

「先生…………貴方はホシノさんと初めて会った時にそれを聞いたはずですよ?」

 

 

まるで演劇の役者のように大振りに両腕を動かしながらそう語りかける黒服に、先生は思わずつい数日前のあの日の出来事を思い出した。

 

アビドス砂漠の遥か地平線に沈む、赤く燃える夕陽を背にふらりと佇む小鳥遊ホシノ(ニセモノ)の姿を。

 

先生にとって忘れもしない。確かにあの時小鳥遊ホシノ(ニセモノ)小鳥遊ホシノ(ホンモノ)や先生に向けてこう言ったのだ。

 

 

「元アビドス高校三年」

 

「アビドス高校生徒会、元生徒会長」

 

「兼、アビドス廃校対策委員会、元委員長」

 

「私の名前は小鳥遊ホシノ。よろしく、小鳥遊ホシノ」

 

 

「思い出されましたか、先生?」

 

 

笑うようにそう告げる黒服に、先生はだからどうしたのだ…………そう言い返そうとした。

 

例え彼女の身にどんな過去があろうとも、先ほどノノミたちから聞いた彼女の目的の真相がどんなものであろうとも。

 

先生は小鳥遊ホシノ(ホンモノ)と同様に小鳥遊ホシノ(ニセモノ)を信じて、支えてあげるのだと。どんなことがあろうと彼女もまた、他の皆と同じ守るべき生徒だと。

 

だが、先生がそう口を開く前に黒服は言葉を紡ぐ。

 

 

「先生が思い出した通り、こちらの世界はもとより元の世界においてもホシノさんは既にアビドス高校の生徒ではありません」

 

「キヴォトス人でありながらこのキヴォトスの外部から来た者であり、このキヴォトスにおいて不可解な存在でもある……先生、彼女もまた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という領域に立っている存在なのですよ」

 

「彼女の魂、テクストを構成する意味(プロンプト)には既に先生のおっしゃる『生徒』というText(文章)は存在していない。彼女は彼女自らの意思で生徒で在ることを辞めたのです」

 

「クックック……この意味が解りますか? 先生」

 

 

”…………”

 

 

黒服の問いかけに、先生はうまく言葉を見つけることが出来なかった。

 

テクストやプロンプトなど…………黒服が語った言葉の節々にある単語をうまく理解することが出来なかったのもあるが、それ以上に黒服の雰囲気に気おされてしまったのだ。

 

先ほどまではどこか楽し気な雰囲気を纏っていた黒服が、ひとたび語り始めると共にその身に纏っていた雰囲気を重い圧へと変えてこの病室を支配した。

 

 

「誰かに守られるだけの子供(自分)ではなく、誰かを守るための大人(自分)へ」

 

「青く輝く日常ではなく、黒く暗い非日常へ」

 

「そうするしかなかった部分()もあるとはいえ、それでも意思と覚悟を持って歩み続けたのは他ならぬホシノさん自身ですよ先生」

 

 

”…………それでも、ホシノは……あの子は私の生徒だ”

 

 

ふり絞るように、先生はそう黒服へと口を開く。

 

 

”確かに……ホシノの過去を……私は知らない”

 

”ホシノが何をしようとしているのかも……私は知らない”

 

 

もし、先生が小鳥遊ホシノ(ニセモノ)との約束を破っていなければ、そのことについて知ることもあっただろう。だが、現実に先生は小鳥遊ホシノ(ニセモノ)との約束を守ることが出来なかった。

 

ほんの少し歯車がずれるだけで、この物語(世界)というのは違ったストーリー(未来)へと簡単に進んでしまう。

 

 

”それでも、目の前で血を吐いて倒れるほど頑張っている生徒に”

 

”たったひとりで頑張っている生徒に手を差し伸べないほど私は腐っていない”

 

 

”だって私は、先生だから!”

 

 

今朝方、アビドス高校の一室で自分自身に言い聞かせた言葉を先生は再び口に出した。

 

先生として、大人として…………覚悟を滲ませ対峙する先生には先ほどまで感じていた黒服の圧は既に感じていない。

 

その覚悟を決めたような先生の眼光は、まるでいつかの小鳥遊ホシノ(ニセモノ)を見ているようで。

 

 

「ふむ…………流石は先生です。ですが」

 

 

流石はこの青い青春の物語を守る主人公。正しく子供たちの英雄(ヒーロー)のような大人だ。

 

しかし本当に覚悟を決めて、血と硝煙と共に歩んできた英雄(ヒーロー)になれなかった…………咎を背負いし戦友(ヒーロー)を知っている黒服からすれば…………そんなものでは足りない。

 

何のために生まれて…………そう自罰を胸に刻み自問しながら世界を巡る少女を、黒服は知っているから。

 

何をして生きるのか…………失意と絶望に溺れながらもなお足掻き続ける少女を、黒服は知っているから。

 

 

 

「…………自惚れるなよ小僧」

 

 

 

どんなに先生に好印象を持っていたとしても、黒服にとってそこだけは譲れないものだった。

 

 

 





簡単なまとめ

先生
目の前でニセノが血を吐いて倒れたせいで現実を知る。
少しニセノに脳を焼かれて覚悟がアップ。
黒服は怪しい。

黒服
われらが黒服。元々ニセノに脳焼け気味だったが、裏でコソコソやってた実験のせいでニセノに対する脳がルビコンになった。
もはやほぼ前(の黒)服状態。
先生に対しては好感度高めだが、比較対象がニセノなせいで…………


最初は初めての三人称視点の練習がてら皆でお見舞いに来て、そこでノノミに少しホシノの過去を喋らせるだけの簡単な予定だった。だけどなんか違うなぁと何度も書き直しているうちに何故か黒服が出てきて、なんか先生と問答してた。どうしてこうなった?

書いているうちに話につじつまが合ってるか分からなくなって、後半は心折れかけてる。
批判は少なめでお願いします……今回ばかりは何卒…………

旧版と改修版……どっちが読みやすい?

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