ジェリコの咎人   作:ミヤフジ1945

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メリークリスマス(イブ)

クルシミマスまで1日早いですがおじさんからのプレゼントだよぉ

という冗談はおいておいて、今年最後の投稿です。

次回は未定なので気長にお待ちください。


第11話  鳴動する終焉【裏】

 

 

 

 

「……これでいいかな」

 

 

深夜のアビドス高校、廃校対策委員会の部室。

 

コトッという音と共に持っていたペンをそっと机の上に置きながら、私は小さくそう呟いた。

 

先生や対策委員会のみんなに知られないように、寝静まったであろう真夜中にわざわざ部室に来たのは、みんなにお別れの手紙を置いていくため。

 

先生の為にシロコちゃんやアヤネちゃんが用意した部屋の明かりが付いていたのは誤算だったけど、私にかかれば先生にバレずに校舎に侵入して、そのまま出て行くことなど何とでもなることだから大丈夫。

 

 

「いやぁ~でも、まさかシロコちゃんと先生にバレるなんて思わなかったなぁ……」

 

 

自身の鞄に忍ばせていた退部・退会届。一体何時シロコちゃんが見つけたのか分からない。あの時はなんとか何時ものおじさんという仮面を被って先生を誤魔化すことは出来たけど……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()……!”

 

 

不意に、みんなの顔と一緒に……別れ際に先生が私に言った言葉が、私の脳裏を過る。

 

私の話を聞いている時の先生の顔はどこか疑っているような、けれど納得したような不思議な顔をしていたのに。

 

()()()()を言った私に、強い覚悟を秘めた表情でそう言った先生が忘れられなかった。

 

 

「やっと……()()()()()()()()()()()()()()

 

 

零れ落ちた私の言葉は虚空に溶けていく。黒服、カイザーPMCの理事、そしてこれまで出会ってきた大半の大人たち……

 

先生も最初は疑っていた。頼りないし、どうせアビドスの実情を知ったらさっさと此処から去っていくと思ってた。

 

私にとって、大人とは信用できない人間というのが当たり前だった。それが普通だったのに。

 

でもあの日、もう一人の私という存在と出会った日。

 

アイツの目が、雰囲気が、まるで()()()()()()()()()()()を思い出させて。

 

忘れるな……とでもいうようなその目を見て、私は目の前がぐにゃりと歪み、吐き気と震えで膝を突きそうになった。そんな私を庇うように一歩前へと出た、夕陽を浴びる先生の後ろ姿を見て。

 

始めてこの人なら信用しても良いかなぁと思ったんだ。

 

窓から覗く月が、ゆっくりと雲の間からアビドスを見下ろす。

 

月明りで少しだけ明るくなった対策委員会の部室が、まるで私を見守るように静かに姿を魅せる。

 

本当は、まだみんなと一緒に居たい。バカみたいに笑って、アホみたいに騒いで……

 

先生にみんなで注意を受けて、夕方には揃ってみんなで家へと帰る……そんななんの変哲もない普通の日常に居たい。

 

 

「でも……私が守らなくちゃいけないんだ」

 

 

良いも悪いも含め、たくさんの思い出が詰まったこのアビドスを……

 

死んでも守ると思えた、大切なみんなの居場所を守れるのは、きっと私だけだから……

 

そっと目じりに浮かぶ雫を拭いながら、私はそう締めくくる。

 

 

「みんな……そして先生……さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第11話

鳴動する終焉【裏】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドスの朝は綺麗だ。

 

砂漠の地平線から顔を出す太陽の光が、ただの砂粒の集まりである砂漠を黄金の野原のように輝かせる光景は何度見ても飽きることはない。

 

アビドス高校の、先生のために用意された部屋で、窓から眺められる朝焼けに目を細めながら、そう先生は内心で呟く。

 

シャーレの部室があるD.U.区の朝も嫌いではない。春に生える土筆のように群立する高層ビルが、東から昇る朝日を全身に浴びながら陽光を窓ガラスで反射している姿は、まるでジュエリーショップのショーウィンドゥに飾られている、職人によって磨かれた宝石のようにキラキラと光り輝いて見えたものだ。

 

ただやはり自然が作り出す雄大さ……そして遠くに見える砂漠に埋もれたビルと、窓越しに見えるアビドス高校のすぐ目の前にある無人の住宅街が生み出す対比。

 

自然と人工物、動と静、プラスとマイナス、感動と寂しさ……

 

様々な対比が織りなすこのアビドスの景色はまるで自分がゲームやアニメの登場人物になって気持ちに成れて、今日も一日頑張るぞ! という気持ちにさせてくれるのだ。

 

 

「…………やるかな」

 

 

朝焼けを映す窓の景色を眺めていた先生は、そう呟いて自身が持っていたマグカップの中身を一気に飲み干した。

 

完全に冷め切ってしまったコーヒーのあの独特の酸味が口一杯に広がってしまい、先生は僅かばかり顔を顰めた。

 

 

 

「アロナ……アロナ起きてるかい?」

 

 

飲み干した後のマグカップを机の上へと戻しながら、先生は持っていたシッテムの箱へとそう語りかけた。

 

しかし、待っても待ってもアロナからの返答がない。

 

小さな溜息と共に、先生が真っ暗になっていた画面のシッテムの箱を起動すれば、画面の向こう側に広がる最早見慣れた教室を思わせるような場所。

 

積まれた勉強机や椅子の山。崩れた壁から覗く、吸い込まれそうなほど透き通った青空とコバルトブルーに輝く海原。

 

そして、どこからか聞こえる海猫の鳴き声と……小さく響くスゥ~スゥ~という寝息。ムニャムニャウェヘヘと、なんとも例え辛い幸せそうな声。

 

椅子に座り、勉強机に伏せるように眠る青い髪の少女……シッテムの箱のAIであるアロナが居た。

 

 

「アロナ。朝だよ」

 

 

先生はそうアロナへと声をかけながら、画面の中の彼女へと指を指した。

 

無機質な液晶の画面。その冷たい感触越しに指先に感じる微かな温もりと柔らかな髪の感触。

 

 

「ウェッヘヘヘヘェ……はぅ?」

 

 

先生が優しく髪を漉くようにアロナへと指先を沿わせれば、夢の世界へと旅立っていたアロナはゆっくりとそのサファイアを思わせる瞳を開けた。

 

 

「はれぇ? 私の苺カステラは? バナナカステラは何処に?」

 

 

「アロナ……おはよう」

 

 

最早何度目かも分からない定番となった会話に、先生は苦笑いを浮かべながらアロナへとそう朝の言葉をかける。

 

 

「あ、先生おはようございます! もしかして、また徹夜ですか?」

 

 

「ははは……そうだね。」

 

 

「もう。徹夜は体に悪いんですから止めて下さいって言ったじゃないですかぁ」

 

 

ぷんすかと頬を膨らませて注意するアロナに、先生は困ったような……しかし強く否定できないようなそんな曖昧な苦笑いで返すしかなかった。

 

先生が徹夜をしたのは本当だった。

 

これまでもシャーレの書類仕事にヒーヒーと悲鳴を上げながら何度も徹夜して来たし、そのたびに今のようにアロナや当番で来る生徒たちにお小言を貰うことも多々あった。

 

だが、今日の徹夜だけはそれまでの先生がやってきた徹夜とは少々赴きが違った。

 

確かに先生は徹夜で書類仕事をしてはいたのだが、片付けていた書類は未だ期日に余裕のある物ばかりだった。

 

徹夜をするほどに焦る必要もなく、シャーレとして通常業務の範疇で終わらせれる書類ばかり。

 

ではなぜ先生は徹夜をしてまで書類仕事をしていたのか?

 

そもそも前提が違うのだ。

 

書類仕事が終わらなくて寝なかったのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アビドス砂漠の奥、ヒナからもたらされた情報とホシノから【捨てられた砂漠】と教えられた場所に向かった先で出会ったカイザーPMCとその理事との諍い。

 

カイザーPMC理事の一声で利息3000%まで上がってしまったアビドス高校の借金。

 

対策委員会の部室に帰った後もカイザーPMC理事の行いに憤るもの、これから先を不安に思うもの。

 

各々が己が内の感情を吐露する中で何とか先生としてその場を収めることは出来たものの、問題はソレだけではなかった。

 

事前にシロコに聞かされていた、ホシノの退部・退会届。先生とホシノの二人以外が帰った後のアビドス高校で、ホシノ明かした過去に持ち掛けられた契約の話。

 

ホシノが過去に出会った黒服と、病室で先生が出会った黒服の相違。カイザーPMCの理事が愉快そうに話した過去の生徒会長。セリカを助ける時に出会い病室でボロボロの体で眠る二人目のホシノ。

 

そして、病室でヒナへと黒服が問いかけた幾つかの言葉の羅列……

 

連邦生徒会長、陸八魔アル、美甘ネル、聖園ミカ、槌永ヒヨリ……

 

TF-404(タスクフォース404)

 

Not Hound(ノットハウンド)

 

Operation LastMiracle(最後の奇跡作戦)

 

知っている生徒の名前、生徒と思われる知らない娘の名前。

 

知らない単語……タスクフォースやオペレーションという言葉から何かしらの部隊や作戦なのか。

 

横になり眠ってしまおうとしても、その瞳を閉じて夢現の世界へと移ろうとしても。

 

点と点が結んでは離れ、一つ問題が解けても新たな濃霧のように濃い霧が問題を覆い隠すような、そんな疑問が頭の中で浮かんで来ては先生の眠気を奪い去り、意識は鮮明になるばかり。

 

だから眠気が来るまで先生は必要のない仕事をしていた。結局、一睡も出来なかったのは先生の想定外ではあったのだが……

 

 

「……アロナ。調べて欲しいことがあるんだけど」

 

 

「なんですか先生? 何でも言って下さい!」

 

 

夜が明けるまで、ずっと先生が考えていたこと。

 

それはアロナの協力による()()()()()()()()()()()()()()

 

正確には、連邦生徒会のネットワークにある連邦生徒会長の個人ファイルへ……だ。

 

このことを先生が思いついたのは、時計の針が日付を越えた頃だっただろう。

 

書類をさばきながら浮かんでは消える疑問に頭を悩ませている中で、あの日あの病室で黒服がヒナへと問いかけた言葉を思い出した先生は一瞬、頭の中のさぁっと霞が晴れたかのような錯覚を感じた。

 

生徒らしき人物の名前を発した黒服。その中に含まれていた連邦生徒会長という言葉。もし、黒服の問いを信じるのだとすれば連邦生徒会長までもが二人目のホシノに関与していることになる。

 

だとすれば、連邦生徒会のネットワークに侵入出来れば、何かしら僅かなりとも手がかりが掴めるのではないか……

 

だがしかし、その行為は先生として生徒が信用出来ないと吐露しているようなものだ。そう結論付けて一度はこのアイデアを諦めた先生だったが、時間が経てどもこのアイデアが頭から離れない。

 

リン統括室首席行政官に相談する……という方が安全そうではあるが、そもそも連邦生徒会長の個人ファイルなど存在するかも怪しい。例え存在していたとしても、個人ファイルというプライバシーの塊という物を連邦生徒会が先生へと教えてくれるのかという懸念もあった。

 

先生として、大人として、褒められた手段ではない。しかし、昨日のホシノの件もある……なによりもう一人のホシノの情報が全くと言っていいほどに存在しない以上先生としては僅かな欠片でも集めたかった。

 

 

「アロナ……連邦生徒会のネットワークにアクセス出来る?」

 

 

「はい、私にかかればちょちょいのちょいですよ先生!」

 

 

覚悟を決めて、真剣な表情でそうお願いをする先生とは対照的に、ペチッとない胸を手の平で叩きながら、先生の言葉にどや顔を浮かべながら了承するアロナ。

 

そんなアロナの姿に、少しだけ先生の心に漂っていた暗い気持ちが晴れたような気がした。

 

 

「連邦生徒会のネットワークシステムから、生徒会長の個人ファイルを探して欲しい」

 

 

「生徒会長って……もしかして連邦生徒会長ですか!?」

 

 

「そうだよ。後で苺カステラ買ってあげるから頼めるかな?」

 

 

先生が告げた連邦生徒会長という言葉に驚くアロナだったが、しかしその後は現金なもので先生が続けた苺カステラという言葉に「苺カステラ!」と目を輝かせた。

 

 

「それじゃあ先生! 早速始めますね!」

 

 

「うん、お願い」

 

 

アロナの言葉に先生が了承した瞬間、シッテムの箱の画面が切り替わった。

 

先ほどまでの美しい景色は消えて、ただの真っ黒な無機質な背景へと。そして高速で下から上へと流れ始める大量の白いプログラムの濁流。

 

まるでスパイ映画やSF映画に出てくるハッキングシーンもかくやという光景に少しだけ興奮する先生だったが、直ぐに心を入れ替えてアロナの作業を静かに見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生終わりましたよ!」

 

 

黙って画面を見守っていた先生へと、アロナがそう声をかけた。ハッキングを開始して五分も経っていないだろう。

 

 

「生徒会のメインシステム自体には簡単に侵入出来ますが、バレないように痕跡や履歴を残さずというのは少し時間がかかっちゃいました」

 

 

楽しそうなアロナがシッテムの箱の画面に映る。背景は先ほどと同じ真っ黒なままであったが、流れ続けていたプログラムが止まっていることからアロナが本当にハッキングを完了したことが先生にも理解出来た。

 

 

「それではこれから連邦生徒会のメインシステムへとアクセスします」

 

 

「頼むよ。探すのはさっきも言った通り連邦生徒会長の個人ファイルだからね?」

 

 

「お任せ下さい! 全ては苺カステラの為に!」

 

 

キラキラ笑顔で、先生へとそう答えたアロナは再び画面を操作していく。

 

流れては止まり、流れては止まりを繰り返し、これまでの勢いは嘘のように先ほどよりも穏やかに流れるプログラムの羅列。

 

しかし、一分と経たないうちに流れていたプログラムの流れはアロナの悩むような唸りと共に止まってしまい、また進み始めたと思えば再び止まってしまう動作を何度も繰り返す。

 

これには、ただ黙ってアロナに任せ見守っていた先生も何かあったのかと不安になる。

 

ついにはプログラムの羅列は流れるのを止め、黒い背景に無機質に浮かぶ文字列の最後尾だけがただ点滅していた。

 

 

「先生……残念ですが生徒会のネットワーク、そのメインシステムに連邦生徒会長の個人ファイルは存在しませんでした」

 

 

「……そっか」

 

 

静かにそう告げるアロナの言葉に、先生は短くそう答えるしかなかった。

 

元々存在するかも分からない代物だ。見つからない可能性の方が高いうえ、そもそも存在していたとしても既にリン統括室首席行政官たち連邦生徒会が調べてファイルを別の場所へと移している可能性だってあるのだ。

 

ホンの僅かな落胆を心のうちに仕舞いこんで、これ以上の危険を避けるために切り上げようと先生が声を出そうとしたとき、アロナが口を開いた。

 

 

「ですが先生、おかしいのです」

 

 

「おかしい? 何がだいアロナ」

 

 

「メインシステムの隅から隅まで調べたので解るのですが、室長などの幹部クラスは全員がシステムに個人ファイルを所持しています」

 

 

「それは……仕事用とは別のってことかな?」

 

 

「はい、リン統括室首席行政官を例に挙げれば……ここ! 見てもらえれば解りますが彼女は統括室首席行政官用ファイル、生徒会長代行用ファイル、そして彼女の個人用ファイルの三つを持っています」

 

 

「それは……」

 

 

アロナの言葉と共に、それまでの黒と白の画面が変わり、ごく普通のPCの画面に移り変わった。

 

そこには確かにリン統括室首席行政官の物と思われる三つのファイルがあるのが先生にもわかる。

 

これが事実であるのならば、やはり先生の連邦生徒会長の個人ファイルが存在するという予想は当たっていたということになる。

 

しかし、アロナはシステムの隅から隅まで確認して生徒会長の個人ファイルは存在しないとはっきり言っている。

 

 

「リンちゃんたち生徒会の娘たちがファイルを移した……とか?」

 

 

「先生、ファイルを移すにしろ消去するにしろ、システムのアーカイブに履歴……ログは残りますよ」

 

 

「そのログっていうのを消した可能性は?」

 

 

「ありません。私並みの凄腕でないと消そうとしても確実に何かしらの痕跡が残りますから」

 

 

「じゃあ、元々生徒会長の個人ファイルなんて存在しないか……それとも」

 

 

「生徒会長自身が失踪前に細工をした可能性……ですね」

 

 

先生の言葉に続くように、アロナがそう言葉を発した。

 

一歩進んでまたもや謎が道を塞いで来た。先生としてはそう思わずにはいられなかった。

 

存在しないのであれば話が振り出しに戻ってしまうし、もし生徒会長自身が失踪前に細工をした可能性があるのであれば……新たに何故そんなことをしたのかという疑問に当たってしまう。

 

そこから先はアビドスの問題から大きく広がりすぎてしまう。今の規模のシャーレではそこまで大きな問題に対処する余裕は……残念ながらない。

 

どうしたものか……大きなため息と共に、そう胸中で呟く先生。

 

せめて何か見つけれれば進展する可能性もあるのだが。

 

 

TF-404(タスクフォース404)……Not Hound(ノットハウンド)……Operation LastMiracle(最後の奇跡作戦)……」

 

 

改めて、何か見落としがないかと黒服が語った単語を一つ一つ思い出していく先生。

 

ぶつぶつと独り言のようにそう呟く先生の声に、ピクリとアロナが反応した。

 

 

「待って下さい先生! 今の言葉をもう一度お願いします!」

 

 

まさか独り言に反応するとは思っていなかった先生は一瞬だけ驚いた様子だったが、アロナのためにもう一度……今度ははっきりとアロナにも聞こえるように口を開いた。

 

 

TF-404(タスクフォース404)Not Hound(ノットハウンド)Operation LastMiracle最後の奇跡作戦、アロナは何かわかる?」

 

 

「待って下さい……このファイルのこの部分…………もしかしてここのファイルのあそこも…………」

 

 

先生の言葉を聞いてから、アロナは再びシステムの海へと潜った。

 

先ほどまでの手詰まりは何だったのかという勢いで再び濁流の如く流れるプログラムの羅列。

 

 

「え、えぇとアロナ?」

 

 

「やっぱり! ファイルのこれとこれを組み合わせて……ここは違うので省いて……」

 

 

もはや先生の言葉など聞こえていないのだろう。何かを懸命に作業しているアロナの後ろ姿を、先生は黙って見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりました! やりましたよ先生!」

 

 

そう嬉しそうに報告してくるアロナに、先生は何が何だかよくわからなかった。

 

ただ、何かしら進展があったのだろう事だけは先生にもわかったので、素直にアロナへと疑問を口にする。

 

 

「何かわかったのアロナ?」

 

 

「はい! まずはこちらをご覧下さい」

 

 

そう言って、アロナはシッテムの箱の画面を切り替えた。

 

画面に映し出されるのは1つのファイル。

 

何の変哲もない、ごく普通のファイルのアイコンだが、そこに書かれていたファイル名は先生が探していたファイルだった。

 

 

【連邦生徒会長直属秘匿任務部隊(TF-404 NotHound) 最終作戦報告書】

 

 

ゴクリッ……と、粟立つ肌と共に先生の渇いた喉が鳴る。

 

 

(……本当に存在した)

 

 

先生としては、そう思わずにはいられなかった。黒服の話した単語の意味が漸く一歩前へと繋がったから。

 

TF-404(タスクフォース404)も、Not Hound(ノットハウンド)も、Operation LastMiracle(最後の奇跡作戦)だって……黒服が言った単語は全て一つの部隊の存在を意味していたのだ。

 

そして、単語の意味が分かれば自ずと解るものもある。

 

 

連邦生徒会長、陸八魔アル、美甘ネル、聖園ミカ、槌永ヒヨリ……そして小鳥遊ホシノ。

 

黒服が話した生徒の名前。知っている娘も居れば、知らない娘の名前もあるソレはつまり……彼女たちもこのファイルにある秘匿任務部隊(TF-404 NotHound)と関わりがあるということ。

 

 

「先生のおっしゃっていた単語のおかげで漸く謎が解けましたよ」

 

 

「どういうことアロナ?」

 

 

今すぐにでもファイルを開き中を確認したい衝動を押し殺しながら、先生はアロナの話へと耳を傾けた。

 

 

「連邦生徒会長の個人ファイルがアーカイブのログも痕跡も残さず綺麗さっぱり無くなっている理由ですよ先生」

 

「結論として、やはりファイルを消したのは連邦生徒会長本人だと思います」

 

「私やシッテムの箱を作って残した連邦生徒会長本人であれば、生徒会のシステムアーカイブにログや痕跡を一つも残さずファイルを操作することは可能です」

 

「それも巧妙に、ただファイルを消すのではなく一見関係のない様々な部署の様々なファイルに埋もれるように忍ばせている……」

 

「連邦生徒会長本人の個人ファイルのログを消し、しかしあるキーワード(単語)のログに焦点を当てて探した時にのみ、そのログの痕跡が見つかるように……すごく性格が悪いです!」

 

 

ほらこことか! とそのログらしきものをシステムのアーカイブから引っ張り出してくるアロナだが、正直にいって先生にはどれがそうなのかも分からない。

 

ただ、アロナの話を要約するに()()()()()()()()()()()()()()()というマクロで探しても見つからないよう巧妙にアーカイブのログを消しつつ、()()()()()()()()()()()という狭い狭いミクロの視点で調べることで、そのファイルを移したと思われるアーカイブのログ、その痕跡を見つけることが出来るようになっているらしいこと。

 

アロナが性格が悪いというほどだから、相当上手く、巧妙に、解る人間にしか見つけられないようになっていたのだろう。

 

 

「見つかった痕跡を連邦生徒会の各室の五十音順で並べ替え、そこから更に幾つかのバグや不要なログを整理したり統合することで一つのファイルになるように仕組まれていました」

 

 

「……ありがとうアロナ。じゃあ、さっそく見てみるよ」

 

 

「これで苺カステラとバナナカステラは私の物ですよ先生!」

 

 

やり切った雰囲気でそう満足そうに言うアロナに「……バナナカステラ?」と疑問を浮かべつつも感謝の言葉を告げ、先生はゆっくりと画面のファイルをタップした

 

一度ファイルをタップして……

 

 

二度ファイルをタップして……

 

 

ファイルをダブルタップして…

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

「アロナ……ファイルが開かないよ」

 

 

「うぇ!? そんなはずないです先生! 」

 

 

先生の言葉に、アロナが慌てた様子でそう言い返すが……残念ながら何度タップしても、アロナが作ったこのファイルが開くことはない。

 

アワアワと「これじゃ苺カステラとバナナカステラが!?」と慌てながら何度も確認し始めるアロナ。

 

だが数分もしないうちにムンクの叫びのような表情──というより画風まで変わっている──を浮かべていた。

 

 

「…………先生」

 

 

「あ……アロナ? 大丈夫? 」

 

 

あまりにもショックを浮かべたアロナの表情に思わずそう聞いてしまった先生。

 

 

「まさか……ファイルへと統合したことで発動するプロテクトを仕込んでいたなんて……ほんっとうに性格悪いです!」

 

 

「ぷ……プロテクト?」

 

 

今度は憤慨するように叫ぶアロナの百面相に気圧されながら、それでも何とか先生はアロナからどういった状況なのか聞くことが出来た。

 

 

「えっと、つまり色んな場所に隠されていたファイルの欠片……の中に更にファイルを守るプロテクトのプログラムが隠されてたってこと?」

 

 

「そうです先生……ご丁寧にファイルが出来上がるとプロテクトも同時に組み上がるプログラムもありました」

 

 

「それは何というか……」

 

 

そこまでして見られたくないほどの内容なのだろうか。

 

 

「ただ……プロテクトのプログラムに意図的な穴があることも分かりました」

 

 

「プログラムの穴?」

 

 

「はい。その穴に当てはまるキーコードを入力すれば、恐らくプロテクトが解除される仕組みだと思います」

 

 

アロナの言葉に、先生は深く思案するように掌でガシガシと頭を掻いた。

 

わからない。連邦生徒会長が何を意図してこのような回りくどい仕掛けを作ったのか。これではまるで連邦生徒会長以外に存在する()()()()()()()の為に遺したみたいではないか。

 

それが連邦生徒会長がこのキヴォトスへと呼んだ先生自身なのか、はたまた違う誰かなのか。

 

 

「……いや、待てよ?」

 

 

そこまで考えて、先生はふとあることを思い出した。

 

 

「私たちは貴方と同じ、このキヴォトスの外部から来た者」

 

 

「先生、彼女もまた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という領域に立っている存在なのですよ」

 

 

居る。先生と同じくこのキヴォトスの外からやって来た存在。

 

そして、何らかの形で連邦生徒会長と関りがあるであろう存在が。

 

 

「黒服……ゲマトリア……いや、もう一人のホシノかッ!」

 

 

思わずそう噛み締めるように口を開いた先生。

 

あの日あの病室で、ヒナではなく先生へと黒服から伝えられた事実。

 

今までは、ソレを黒服の自己紹介や自分たちを揺さぶるための怪しい策だと思って見落としていた先生も、ここで更に点が繋がったことで自身の考えを改めるしかなかった。

 

黒服は先生が連邦生徒会へとハッキングすることも、連邦生徒会長がこのような仕掛けを遺していたことも知っていたのかもしれない。

 

 

「これも全部アイツの思惑通り……という訳かあの顔面マゼラン星雲野郎ッ!」

 

 

「大丈夫ですか先生! とても辛そうですよ!?」

 

 

思わず口調が素に戻ってしまうくらい悔しそうな先生に、心配そうにアロナが声をかける。

 

ハッ…と、思考の海へと潜っていた先生はアロナの声で何とか意識を現実へと戻した。

 

 

「大丈夫だよアロナ……大丈夫」

 

 

「そうですか……私に出来ることがあれば何でも言ってくださいね先生?」

 

 

普段の幼い仕草を内に隠して、優しく先生を見つめるアロナの表情。

 

そんなアロナの表情が、()()()()()()()()()()によく似ていて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生……皆を……ホシノちゃんを助けて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよアロナ」

 

 

懇願にも似た、あの切実な願い(叫び)が……

 

 

「そう、例え仕組まれているのだとしても……私には関係ない」

 

 

このキヴォトスに来た時から変わらない、先生の原点。

 

 

「だって私は……先生だから」

 

 

自分に課した、生徒の味方(先生)という誇り。頼られる大人になりたいという一つの願い。

 

 

「アロナ、このファイルをシッテムの箱にコピー出来る?」

 

 

「元々私が復元したものですよ先生! コピーどころかこのままファイルを移せます!」

 

 

「じゃあ今すぐ頼むよ。今日は色々と忙しそうだからね」

 

 

先生の言葉と共に、爆速でシッテムの箱へと移動するファイル。後でご褒美に苺カステラとバナナカステラを買って来ようと心の中で誓う。

 

疑問や問題の濃霧が全て晴れた訳ではない。だがそれでも確かに一歩前に進むことが出来たのだから。

 

窓の外を見る。美しいアビドスの朝焼けも終わり、何時ものアビドスでの仕事が始まる。

 

机に置いたマグカップを見る。薄くコーヒーの茶色が付いた、アビドスのみんなが用意してくれた生活品の一つ。

 

未だ僅かなアビドスでの出来事。それでも先生が感じたアビドス高校の彼女たちの想い。

 

あの娘たちが笑顔でこれからも過ごせるように、未来を前に心が竦み……その歩みを止めないように。

 

 

”さぁアロナ。仕事の時間だよ”

 

 

「はい! 先生!」

 

 

だけど、先生のその覚悟を見透かすかのように、悪いことというのは隙を見て顔を覗かせてやって来る。

 

一歩前へと進みだす先生。その覚悟を揺らしたのは大きく部屋へと響いた扉を開ける音だった。

 

 

「大変です先生!」

 

 

ゾロゾロと慌てた様子で入ってくるノノミたちアビドスのみんな……だけど一人、ホシノだけは居なかった。

 

 

”どうしたのみんな? ”

 

 

「先生! ホシノ先輩が!」

 

 

不安そうなノノミ、泣きそうなアヤネ。怒りを隠そうともしないセリカに険しい表情のシロコ。

 

四者四様の雰囲気。そしてアヤネが告げたホシノの名前……

 

 

”ホシノがどうかしたの?”

 

 

心臓がドクンと跳ね上がる。粟立つ肌と嫌な汗が不快感を生み、先生の中で否定したい嫌な予感と共に昨夜のホシノとの会話が蘇る。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

私が先生として、どうにかする! だから……! 真っ暗な校舎の廊下でそう口にした先生の言葉に、短く返したホシノの言葉。

 

衝動的に言ってしまったと別れてから少しだけ反省していた先生のその言葉は、ホシノに届かなかった。

 

むしろ、逆にホシノの覚悟を固めてしまう結果になってしまったかもしれない……と、先生の後悔が胸中を貫く。

 

残されたアビドスのみんなを代表するように、ノノミから先生へと差し出されるホシノと同じ薄桜色の儚い便箋。既に便箋は皆が開けているのか、そこには4()()()()()と共に先生がホシノから預かったはずの退部・退会届が同封されていた。

 

 

「何なの! あれだけ偉そうに話しておいて!! 切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分でも分かっていたくせにっ!!」

 

「こんなの、受け入れられるわけないじゃない!!」

 

 

複雑な心が吐き場所を求めるように、セリカがそう叫んだ。

 

そんなセリカの言葉に呼応するように、シロコが「……助けないと」と答えた。

 

だが、助けるにしてもまずは全員の意思を纏めて足並みをそろえないといけない。

 

泣きそうなアヤネを落ち着かせながらそう先生が口に出そうとした時、アビドス高校が爆音と共に大きく揺れた。

 

先生として、長いアビドスの1日は未だ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドス対策委員会のみんなへ

 

まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、ゆるしてほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。

 

みんなには、ずっと話してなかったことがあって。

 

実は私、昔からスカウトを受けてたんだ。

 

カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする……そういう話でね。

 

……うへ、中々良い条件だと思わない? おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ~。

 

借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。

 

ブラックマーケットでは急に生意気なことを言っちゃったけど、あの言葉を私も守れなくてごめんね。

 

 

 

 

 

先生へ

 

 

実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。

 

シロコちゃんが先生をおんぶして来たあの時だって、「なんかダメな大人が来たな」って思ってたくらいだし?

 

でも、先生みたいな大人と最後に出会えて、私は……いや、照れ臭い言葉はもういいよね。

 

先生。

 

最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子なんだけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。

 

悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。

 

先生なら、きっと大丈夫だと思うから。

 

 

 

 

 

シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 

お願い、私たちの学校を守ってほしい。

 

砂だらけのこんな場所だけど……私に残された、唯一意味のある場所だから。

 

それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら……

 

その時は、私のヘイローを「壊して」。

 

よろしくね。

 

 

 

 

 

最後にみんなへ

 

もし私が居なくなった後で、もう一人の私に会う機会があったら。

 

どうかもう一人の私を支えてあげて。

 

あの娘は昔の私にそっくりでね? 実は髪を短くして体の傷をなくしたら瓜二つなんだよ?

 

昔の私は自分の所為で大切な人を失って……自分自身を赦せなくてずっと死ねばいいのにって思ってた。

 

だけど、みんなに会えて少しだけ救われた気がした。赦された気がしたんだ。

 

けどあの日の姿も見る限り、あの娘にはそんな機会がなかったのかもしれない。

 

だから……私の代わりにあの娘をアビドスで支えてあげて。

 

居なくなった私の代わりにじゃないけれど……あの娘もまた私だから。

 

先生やシロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃんがいればきっと、あの娘も何時か自分で自分を赦せる日が来ると思うから。

 

お願いが増えちゃったね……ごめん。

 

あの娘を……もう一人の私のことを、頼んだよみんな。

 

 

 






プログラミングとか知らないので完全な想像ですので、知識のある方は優しくご指摘下さい。

私ごとですが、無事ブルアカのアカウントが復活しました。

おかげでやる気も少し戻りまして、久々の万超え更新です。

改めて感想、推薦、その他もろもろありがとうございます。

私はいつも小説を探す際は総合評価順で適当に見たいものを探すのですが、自身の作品が3~4ページ目くらいに出てきてランキングに載った時以上に驚きました。

私の作品より面白いものが一杯あるのになじぇえ? と思いつつ、それだけ皆様に楽しまれていると思うと嬉しく思います。

モチベ維持のためにも、改めて感想、推薦、その他もろもろお願いします<(_ _)>

それでは来年も、ジェリコの咎人をよろしくお願いします。

ps.いのちの名前って曲良いよね。

旧版と改修版……どっちが読みやすい?

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