ジェリコの咎人   作:ミヤフジ1945

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本編
第1話  託した希望の終着駅


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話

託した希望の終着駅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打つ(うつ)撃つ(うつ)討つ(うつ)

 

それはまるで呪いのように、そして個人を恨む呪詛のように、私の耳にこびり付いて離れないその言葉を払うように。ただただ目の前の障害物()を撃ち()()()()()

 

片目の視界が赤く染まる。額から流れる己の血が、死へと手を引くように私の視界の半分を奪った。それでも、私は引き金を引き続ける。決して、私たちは前へと進むのを止める訳にはいかないから。

 

暴虐と殺戮のオーケストラのあと、カチンッと弾切れを知らせる虚しい金属音が私の銃から零れ出る。撃ちすぎて赤く、紅く赤熱化した銃身は白い湯気を濛々と上げ、もうこれ以上撃てば壊れてしまうと悲鳴をあげているようにも見えた。

 

それでも私は弾切れになった弾倉を虚空へとほうり投げ、新しい弾倉を銃へと付け替えて、今は亡きエンジニア部が組んでくれた二代目の愛銃の薬室に火を入れる。分間450発の12ゲージの鉛の暴力が、悲鳴をあげる私の愛銃とは裏腹に私に脚を止めるなと言うように前へ前へと吐き出し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノちゃん!

 

 

耳にこびり付く呪いの後ろから、私を呼ぶ声がする。ハッと、逸れていた意識を現実へと戻してみれば周りにあるのはオートマトンやロボットの残骸と、そして事切れたかつて生徒だったモノの亡骸だけ。銃声が止み、一時的な静寂と焦げ付いた火薬の匂いが私たちを包み込む。そう理解した時私は、ようやく休めるように小さく息を吐いた。

 

小走りで私に近づいて来る、連邦生徒会の白い……その中でも一層特別な意味を持つ制服に身を包んだ、薄水色の髪の女の子。彼女は手に持っていた布で私の血を拭う。

 

小さくない痛みが私を襲ってくるが、それでも再び見えるようになった視界に僅かながら私は安堵する。この程度の痛みなど……私は甘んじて受けよう。もう少し……あともう少しで目的の場所に着くのだ。

 

 

「会長さん……もうすぐ予定の場所です」

 

 

薬室を確認しながら、周囲を警戒する私がそう告げると、彼女は辛そうに”……分かってる”と震える声でかえした。

 

 

”私は大丈夫だから! ホシノちゃんもその前に少しだけでも手当をしよ!? ね!? ”

 

 

今にも泣きそうな顔で私の額に流れる血を拭う彼女には、かつて超人と言われた面影など欠片もない。私よりも年上で、私よりも頭一つ分身長が高いはずなのに。

 

今の彼女はどうしようもなく汚れた私よりも小さく見えた。泣きそうなのを我慢する、ただひとりの子供だった。

 

 

「クックック……ホシノさん、会長さん……どうやら残るは我々だけの様ですね」

 

 

カツン、カツン、カツン、と……彼女になされるがまま手当を受けていた私の後ろから、硬質な床に革靴の独特な音を響かせながら私達の前に現れたのはスーツを着た黒いマネキン人形のような大人だった。長身の痩せ型で、顔の部分はのっぺりとした黒一色。顔の輪郭なんて分かった物じゃない。ただその顔の部分に光るひび割れが印象的な、かつて私と敵対していた()()()()

 

 

「……そう。()()は大丈夫そう? 」

 

 

ちらりと、彼女にされるがまま治療を受けつつ、私は私たちが今まで進んで来た道を振り返る。そこにはこれまでに私が壊し、殺した敵の亡骸があるだけ。共にここまで死地を抜けた仲間たちの姿は影も形もない。

 

あの死さえ逃げ出すようなゲヘナの風紀委員長も、スカジャンの似合うミレニアムのチビメイドも、暴力の権化のようなトリニティのメスゴリラも、辛い苦しいと悲観していたアリウスの娘も、かつてアウトローに憧れていた便利屋の女社長も…………

 

皆が皆、大切な仲間を、同僚を、後輩を…………家族を喪い、それでも()()を次へとつなげる為に身も心も傷だらけのボロボロになりながら立ち上がった私の最後の戦友たちは、いつの間にか私のあずかり知らぬうちにその命の袂を永遠に別っていた。

 

 

「えぇ、ですが私も彼女たちと同じように、そう長くは貴女たちにお付き合い出来ないでしょう」

 

 

黒服はそう言って、自身が纏っていたボロボロのスーツを捲る。いくつかのボタンが飛び、所々ほつれ、布地は破け、ボロボロになっている黒服愛用のスーツの、その下に着ていた真っ赤に染まった彼のシャツが、彼が私に何を言いたいのかを嫌でも示していた。

 

 

「……私は、また皆を守れなかったんだね」

 

 

「クックック……貴女に身内認定されるとは。私にも彼女たちにも、きっと冥府の旅路には最高の贈り物でしょう」

 

 

先に居なくなったことへの悪態か、それともまた守れなかったことに対する後悔か…………黙れ、と小さく呟いた私の言葉はきっと黒服にも、今私の手当てをしてくれている()()にも聞こえていないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我々は望む、七つの嘆きを。……我々は覚えている、ジェリコの古則を」

 

 

フラフラと、立ち上がりながら私はそう呟く。耳にこびり付いて離れない、呪いの言葉を。

 

拙くも頭に巻かれた包帯、少し触るだけで未だ止まらない血が滲み私の手を赤く染める。

 

分かっている。分かっているさ。私は何度繰り返そうと咎人(とがびと)だ。

 

かつて、死の際にほんの僅かな欲に負けて、許しも許可もなく乙女たちの青春の物語(ブルーアーカイブ)へと立ち入ったジェリコの咎人

 

契約の箱(シッテムの箱)に秘められし、十の戒めを破った。愚かで馬鹿な、ジェリコの咎人

 

それが私だ。洗っても落ちることのない私以外の血に染まった手をきつく握り締めて、私はそう胸の内で溢す。

 

 

 

 

何十と、救えぬ物語(世界)を見た。

 

神聖十文字(デカグラマトン)が、暴走した名もなき神々の女王が、エデンの厄災が、恐怖が、色彩が、箱舟が。

 

語りつくせぬ程に、ありとあらゆる脅威がキヴォトスを終焉へと消し去るのを…………無力な私は見届けるしかなかった。

 

 

これが私の罪だ。

 

 

何十と、守れぬ物語(仲間)を見た。

 

何度も何度も、両の手ではとても足りない程に物語を巡っても、一度たりとも私は大切な先輩を救う事が出来なかった。残された私を慕ってくれた後輩たちは、私がどんなに両手を広げても、ひとり、またひとりと私の手から零れて消えていった。

 

 

これが私の咎だ。

 

 

何十、何百。失敗しては幾度となく巡る物語の輪廻の中で、救えぬ世界を、守れず消えてゆく先輩や後輩、仲間たちを見せつけられる。それでもなお、シッテムの箱を継ぐジェリコの喇叭が鳴らないプレイヤーたる先生の居ないこの絶望の物語(ブルーアーカイブ)で、私はただひたすらに守ろうと足掻き続ける。私が憑依したせいで、余計なテクストで乱雑に書き換えられ消えてしまった小鳥遊ホシノ(彼女)の為に。

 

 

それが私の贖罪だ。

 

 

「じゃ、進むよ……」

 

 

私というイレギュラーが歪めてしまったこの物語を、正しく次へと託すために。ボロボロのマフラーを…………かつて原作をなぞるように私が犬耳の後輩へと渡し、そして私が殺した後輩から再び託されたソレを一度だけ握り締めてから、私は再び盾と銃を構える。かつての愛銃と同じ愛称を付けた、今はもう居ないエンジニア部が作ってくれた銃を。一度たりとも救えなかった、先輩の盾を。

 

微かに聞こえた足音へと引き金を引く。撃鉄が落ち、一瞬のあとにフルオートでバラまかれるドラムマガジンに込められた20発の12ゲージ弾が、私たちを奇襲すべく死角に集まりかけていた敵へと襲い掛かる。オートマトンを潰し、ロボットを壊し、亡霊を掻き消し、恐怖へと堕ちたかつての仲間たちを殺す。

 

赤く、紅く染まった堕ちた空の下で、薄暗く色の抜けた混沌の世界の中で、私の銃が放つ硝煙と朱い火花だけが確かな色彩を輝かせる。愛銃の弾が無くなれば着ていた防弾ベストに差していた予備の拳銃で、それすらも惜しい時は託された銃剣で。

 

撃って、刺して、穿って、抉る。ただひたすら、全ては()()をあの場所まで連れて行くために。

 

この終わった物語を次の物語へと繋げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”つ、着いた…………”

 

 

大きく肩で息をしながら、()()は小さく呟いた。

 

いや、()()だけじゃない。私も黒服も、既に無事なところがない程にボロボロで、最早何とか気力だけで立っているような状態だった。だけど、私たちはようやく目的の場所までたどり着くことが出来た。

 

私たちの前に鎮座する、キヴォトスではもう何世代も前の古くてボロボロな一両の鉄道車両。そしてその車両が進むべき、返り線のないたった一線だけの線路。これが私たちの目的の物で、そしてこの物語の終着駅だった。

 

 

 

「お客さんが来た…………黒服、準備の方を頼むよ。私はそれまで時間を稼ぐから」

 

 

「クク……えぇ承りました。恐らく五分…………いや十分ほど足止めをお願いします」

 

 

「…………会長さんは車両の中で休んでいてください。後は私と黒服でやりますから」

 

 

長い戦闘で刃こぼれを起こした拳銃と盾を再び構えながら私がそう声を掛ければ、彼女は小さく頷いてよたよたと頼りない足取りで車両の中へと歩いて行く。

 

私は彼女が車両へと乗り込んだのを見届けて、小さく息を吐いた。これでいい…………黒服の言う事が正しいのなら、あと十分でこの物語(世界)はその生を終える。

 

このたった一両編成の古ぼけたあの車両へと乗り込めば、()()は物語の幕を下ろすこのキヴォトスから逃れることが出来る。新たな物語へと繋ぐために。彼女が言う、”私のミス”とやらをやり直すために。

 

私はこの車両に乗り込むことはない。キヴォトスから逃れるのは連邦生徒会長たる彼女だけ。私は…………

 

咎人たる私はその礎になる。新たな物語を繋ぐために。今度こそ、来るべき先生へとそのバトンを渡すために。

 

 

「…………来なよ、此処が私たちの終着駅だよ」

 

 

ゆらゆらと震える体に鞭を打って、血濡れた瞳に敵をおさめる。眼前でぞろぞろと集まり続ける多種多様で統一性の欠片もない雑多で助けられなかった敵の群れに。

 

 

幸いなのはここが幅は広くも一本道である事だろうか。少なくとも私が倒れさえしなければ敵に抜かれて即ゲームオーバーになることはない。私が抑えてさえいれば黒服が後の全てをやってくれる。

 

だから。

 

例え咎人だろうと、例えニセモノだろうと…………今だけは、今だけ私は小鳥遊ホシノのように。

 

 

小鳥遊ホシノ()の後ろへは一歩も進ませはしないよ!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小鳥遊ホシノのニセモノだろうと、キヴォトス最高の神秘の劣化品だろうと……今だけは関係ない(これが最後だから)

 

残されたわずかな神秘()を燃やして力に変え、私は敵の群れへと一歩、大きく踏み込んだ。

 

一瞬にして先頭の敵に肉薄する。何度も言うが例えニセモノだろうが私は小鳥遊ホシノだ。本物に遠く及ばなくても、例え残された神秘()が僅かだろうがこのくらいはどうってことはない。

 

勢いそのままに、左手の盾で思いっきり先頭の敵を殴りつけた。ドゴンッ! と大きな音とともに回避も出来ず直撃した敵は、その後ろにいる後続を巻き込んでボウリングのピンのように吹き飛んでいく。それを横目で見届けながら、私は盾を起点に左右の敵へと足払いを掛けて体勢を崩しに行った。

 

右手の拳銃で倒れた敵の頭へと、引き金を引いた。9×19mmパラベラム弾は寸分たがわず狙い通りの場所へと吸い込まれ、それを最後に倒れた敵が起き上がることはない。

 

傷だらけの体が痛い。守れなかったことで心が痛い。

 

ごめんね…………君たちにも綺麗な青春があったのに守れなかった。

 

ズキズキと痛む心と体。懴悔のようなその言葉を胸に、それでも私は止まる事はない。

 

敵の手りゅう弾の爆風を盾でいなし、敵の隙をついては盾で殴り、敵の銃弾を盾で防ぐ。弾を少しでも節約するために、拳銃を撃つのは敵に止めを刺す時だけ。

 

血を吐いた。減り続ける神秘が、ついに敵の銃弾を防ぐことが出来なくなったみたいだ。もう戻ることのない、懐かしいアビドスの制服が私の流す血で汚れていく。

 

敵の数はどんなに倒しても減る事はない。まるでキヴォトス中の敵が此処に集まって来ているかのような錯覚すら覚えてしまうほどに多かった。

 

 

「ホシノさん、これを! 」

 

 

壁際のコンソールにて出発の準備をしていた黒服が拳銃用の予備の弾倉を私へと投げ渡してきた。投げられた弾倉を素早くキャッチして、慣れた手つきで拳銃をリロードして、近づいて来た敵へと発砲する。

 

 

「ま……まだまだ、()()()()は負けないよ」

 

 

息が荒い。傷が開いたのか視界が再び赤く染まり歪んでいく。だけど集中力だけは切らさない。

 

私の後ろには、あの車両の中には、私の守りたいものがあるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

呪いの言葉を紡ぐ。本当ならば物語の始まりを告げる祝いの祝詞を。

 

私にとっては呪いでも、何時か来る誰か(先生)に必要な祝福を。

 

 

「行かせないって……言ったでしょ!! 」

 

 

私を無視して車両へと近づく敵に私は腰の銃剣を手に取って突き刺した。慣れたくもない銃剣が肉を穿つ嫌な感触が手を伝って全身へと駆け巡っていく。正直……この感触は吐きそうなくらい嫌いだ。

 

それでも、敵が止まることはない。ひとりの敵を仕留めれば、今度は別の敵が私を通り過ぎようとする。死に体のこの体では、どうしたって手数が足りなかった。

 

あと何分凌げばいいのか分からない。もう時間の感覚すらあやふやになりつつある。

 

 

「ホシノさん、あと少しです。あと少し持たせて下さい!」

 

 

黒服が手を止めることなく私にそう告げる。アイツはアイツで、自分のやるべきことを必死にやっている。

 

車両の窓には両の手を着き、今にも飛び出したいと辛そうに私を見る()()がいた。

 

深く……深く息を吐く。

 

そんな顔しないでよ会長。私は大丈夫だからさ。

 

死に体がなんだ。敵がいるなら()()()()()

 

手数が足りないのなら、手数を()()()()()()

 

 

「…………神秘、解放!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱々しくも私は最後と言わんばかりに残りカスの神秘を燃やす。僅かばかりの時間でいい、一瞬だけでもいい。

 

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

薄汚い色あせた桃色だった私のヘイローが、まるで小鳥遊ホシノ(ホンモノ)のように鮮やかな桃色へと変わり輝いていく。

 

手数を増やす為に盾を仕舞い、代わりに左手に銃剣を持って、私は敵へと銃弾の如く突撃した。

 

近くの敵へと銃剣を突き刺し、急所へと銃弾を叩きこんでいく。目に付く全てを打ち倒す為に、暴力の権化のように暴れて暴れて暴れまくる。

 

敵の銃弾が私の体を貫く。知ったことか

 

敵の手りゅう弾が私の体を痛めつける。知ったことか

 

時間稼ぎを止めてただ敵を殺す為に暴れる私によって、押し込んでいた敵の群れの勢いが削がれていく。

 

 

「ゴホッ! 大丈夫…………おじさんはまだやれる!」

 

 

咳き込み、口内に溜まった血を吐き捨てながら、それでも私は動くことを止めない。

 

撃って、刺して、穿って、抉る。時には拳で殴り、時には脚で蹴り飛ばして。

 

私が走る度に、拳を振るう度に、私から流れ出る血が残像の如く宙を舞う。床なんてもはや血に染まっていない場所の方が少ないほどに濡れている。

 

下手をすれば致死量を超える血が出ているかもしれない。だけど、それでも私は止まらない。止まる訳にはいかない。

 

 

”ホシノちゃん!? ”

 

 

「来るな!」

 

 

車両の中の、()()の悲鳴のような叫びに、私は短くそう返した。それと同時に、タイミングよく車両のドアが閉まり始めたのが見えた。

 

どうやら時間稼ぎもこれでおしまいのようだ。

 

 

「会長さん、これでお別れだよ」

 

 

”お別れなんて言わないでよ! ホシノちゃんも早く! ”

 

 

「ごめんね…………()()ソレには乗れないんだ」

 

 

”どうしてっ!? ”

 

 

唐突に、私の体から力が抜ける。なんとか持ち直そうと踏ん張ろうとしたけれど、もはや私の体は言う事を聞かない。残された神秘を使い切り、崩れ落ちるように座り込んだ私に、()()は…………

 

 

”嫌だよ! もう誰も失いたくないよ! ”

 

 

「さようなら会長さん……コフッ…………皆のこと、頼んだよ」

 

 

締まり切ったドア越しでは、掠れた私の言葉は()()に届かないかもしれない。ドンドンとドアを叩いて、泣きながら私へと何かを叫ぶ彼女に私はそう言葉を託した。

 

ゆっくりと、この物語(世界)の終着駅から走り出す車両を見送って、ドサッと私は床へと倒れこんだ。

 

 

()()…………()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

一度も勝てなかった(守れなかった)私だけど、最後の最後に勝つことが出来た(守りきった)

 

道理で一発の銃弾も手りゅう弾も飛んで来ない訳だ。いつの間にか、私たちを襲っていた敵の姿はひとり残らず消えていた。

 

それだけじゃない。私が殺した数多の敵の亡骸も、ひとつ残らず消え去っていてこの場に居るのは倒れこみ血の海に沈む私ともうひとりだけ。

 

 

(どうせならハッピーエンドの…………あまねく奇跡の始発点を見てみたかったけど、叶う事はなさそう。)

 

 

先ほどまでの輝きは消え去り、静かに消えかかっている私のヘイローをちらりと見て私はそう思う。

 

 

「黒…服……生きてる? 」

 

 

小さく吐息の様な声で私がそう口を開けば、コンソール台に寄りかかり座り込んでいた黒服は小さく頭の傷を明滅させて返事を返す。

 

 

「クックック…………貴女と同じですよホシノさん………」

 

 

弱弱しく私にそう返す黒服。流れ弾で傷ついたのだろう血だまりの中で座り込む彼は、残る力を振り絞るかのように私に何かを投げ渡して来た。

 

 

「もし…………もしホシノさん、貴方が再び世界を巡ったのならソレを次の私へと渡してください」

 

 

「これ……は? 」

 

 

「クックック…………なに……私の研究成果ってやつ……です……………よ……」

 

 

「…………黒服? 」

 

 

途切れる黒服の声に私が反応すれば、頭のひび割れから出ていた光は消え、力なく座り込んだまま動かない。

 

最後の仲間も旅立った。ゆっくりと手を開き、黒服から渡されたソレを見ると小さなUSBメモリ。

 

 

(まったく…………次なんてあるか分からないし持って行けるかも分からないのに…………)

 

 

喋るのも億劫でそう内心で零した。託されたUSBを握り締め、私は静かに目を閉じた。

 

暗い視界……手足の感覚も無くなり、プカプカと水中に浮かんでいるかのような浮遊感だけが私を包み込んで行く。

 

 

(これで最後……だと……い………いなぁ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AUTO
MENU

 

 

 

 

???
……私のミスでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AUTO
MENU

 

 

 

 

???
 先生……皆を……ホシノちゃんを助けて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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