ジェリコの咎人   作:ミヤフジ1945

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読み返してあまり納得できていないので改修しました。

一応ニセノ視点のままですが不評だったら旧版のまま、反応が良かった最新話を更新しつつ全話改修します。


第1話  託した希望の終着駅 26/05/02改修

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話

託した希望の終着駅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打つ(うつ)撃つ(うつ)討つ(うつ)

 

それは意味を持たない反復だった。

 

命令でも意思でもない、ただ耳に焼き付いて離れない音。

 

・・・・・・だから私は、それを振り払うように引き金を引く。

 

目の前の障害物()を撃ち、撃ち、撃ち続ける。

 

倒れたそれの手首に、見覚えのある校章が一瞬だけ見えた気がした。

 

引き金を引くたびに、胸の奥で何かが軋む。

 

理由は……考えない。

 

片目の視界が赤く染まる。

 

額から流れる血が、死へと引きずり込むように視界を侵食する。

 

それでも止まらない。

 

止まった瞬間に、全部が終わると知っているから。

 

カチンッ……

 

弾切れを告げる乾いた音。

 

赤熱した銃身から白い湯気が上がる。

 

悲鳴をあげているのは銃か、それとも私か。

 

それでも私は弾倉を捨て、新しい弾倉を叩き込む。

 

今はもういないエンジニア部が組んでくれた二代目の愛銃。

 

分間450発、12ゲージのシェルに込められたフレシェットの暴力。

 

その反動が、まだ前へ進めと私を責め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノちゃん!

 

その声で、私は現実へ引き戻される。

 

周囲に転がるのは残骸と、動かなくなった何か。

 

焦げた匂いと、静寂。

 

ようやく、息を吐く。

 

駆け寄る足音。

 

僅かに汚れた白い制服。

 

連邦生徒会、その象徴。

 

薄水色の髪の少女が、私の血を拭う。

 

痛みが遅れてやってくる。 それでも視界が戻ったことで、僅かな安堵が落ちた。

 

それでも視界が戻ったことで、僅かな安堵が落ちた。

 

 

「会長さん……もうすぐ予定の場所です」

 

 

”……分かってる”

 

”でも、ホシノちゃんも少しだけでも――”

 

 

今にも泣きそうに歪んだ顔。

 

かつて超人と言われた姿は、もうそこにはいない。

 

ただ傷ついたひとりの女の子が、そこにいた。

 

 

「クックック……どうやら残るは我々だけのようですね」

 

 

背後から、革靴の音。

 

黒いスーツ。

 

ひび割れた顔。

 

 

()()

 

 

「……黒服?」

 

 

振り返る。そして……黒服以外この場に誰も居ない。

 

ちらりと、彼女にされるがまま治療を受けつつ、私は私たちが今まで進んで来た道を振り返る。そこにはこれまでに私が壊し、殺した敵の亡骸があるだけ。共にここまで死地を抜けた仲間たちの姿は影も形もない。

 

あの死さえ逃げ出すような、ゲヘナの風紀委員長も。

 

スカジャンの似合う、ミレニアムのチビメイドも。

 

暴力の権化のような、トリニティのメスゴリラも。

 

口癖のように辛い苦しいと悲観していた、アリウスの娘も。

 

かつてアウトローに憧れていた、便利屋の女社長も。

 

皆が皆、大切な仲間を、同僚を、後輩を…………家族を喪い、それでも()()を次へとつなげる為に身も心も傷だらけのボロボロになりながら立ち上がった私の最後の戦友たちは、いつの間にかその命の袂を永遠に別っていた。

 

 

「えぇ、ですが私も彼女たちと同じように、そう長くは貴女たちにお付き合い出来ないでしょう」

 

 

黒服はそう言って、自身が纏っていたボロボロのスーツを捲る。いくつかのボタンが飛び、所々ほつれ、布地は破け……

 

ボロボロになっている黒服愛用のスーツの、その下に着ていた真っ赤に染まった彼のシャツが、彼が私に何を言いたいのかを嫌でも示していた。

 

 

「……私は、また皆を守れなかったんだね」

 

 

「クックック……貴女に身内認定されるとは。私にも彼女たちにも、きっと冥府の旅路には最高の贈り物でしょう」

 

 

先に居なくなったことへの悪態か、それともまた守れなかったことに対する後悔か…………黙れ、と小さく呟いた私の言葉はきっと黒服にも、今私の手当てをしてくれている()()にも聞こえていないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我々は望む、七つの嘆きを」

 

 

フラフラと立ち上がりながら、私は呟く。

 

耳にこびり付いて離れない、呪いの言葉を。

 

拙く巻かれた包帯に触れる。

 

じわり、と血が滲んで、指先を赤く染めた。

 

 

「……我々は覚えている、ジェリコの古則を」

 

 

止まらない。

 

止まれるはずがない。

 

分かっている。あぁ……分かっているさ。

 

私は……何度繰り返そうと。

 

 

咎人(とがびと)だ。

 

 

……そうだろう?

 

死の間際。

 

ほんの少しの、どうしようもなく小さな願い。

 

それに縋った。

 

許しも、許可もなく。

 

誰にも選ばれずに。

 

乙女たちの青春の物語(ブルーアーカイブ)へと、踏み込んだ。

 

ジェリコの咎人。

 

契約の箱(シッテムの箱)

 

そこに刻まれた戒めを、私はいくつも……いくつも破った。

 

愚かで。

 

身勝手で。

 

救いようのない。

 

ジェリコの咎人。

 

……それが、私だ。

 

握り締めた手のひらが軋む。

 

洗っても落ちない血が、指の隙間に滲んでいる気がした。

 

 

何十と、救えぬ物語(世界)を見て来た。

 

神聖十文字(デカグラマトン)が蹂躙し、暴走した名もなき神々の女王が滅びの光を放ち、エデンの厄災が、恐怖が、色彩が、箱舟が……

 

語りつくせぬ程に、ありとあらゆる脅威がキヴォトスを終焉へと消し去るのを…………無力な私は見届けるしかなかった。

 

 

これが私の罪だ。

 

 

何十と、守れぬ物語(仲間)を見て来た。

 

何度も何度も、私の両の手ではとても足りない程に物語を巡っても、一度たりとも私は砂漠に消えていく大切な先輩を救う事が出来なかった。

 

残された私を慕ってくれた大切な後輩たちは、私がどんなに両の手を広げても、ひとり、またひとりと私の手から零れて消えていった。

 

 

これが私の咎だ。

 

 

何十、何百。失敗しては幾度となく巡るバッドエンドの輪廻の中で、救えぬ世界を、守れず消えてゆく先輩や後輩、仲間たちを見せつけられ続ける。

 

それでもなお、シッテムの箱を受け継ぐはずの先生が居ないこの絶望の物語(ブルーアーカイブ)で、私はただひたすらに世界を、誰かを守ろうと足掻き続ける。

 

私が憑依したせいで、余計なテクストで乱雑に書き換えられ消えてしまった小鳥遊ホシノ(彼女)の為に。

 

 

それが私の贖罪だ。

 

 

 

 

「……じゃ、進むよ」

 

 

喉が掠れる。

 

それでも、声に出す。

 

自分に言い聞かせるみたいに。

 

逃げないように。

 

大切にしていたはずなのに、いつの間にかボロボロになってしまった青いマフラーを握る。

 

何時の日かあの子に渡して。

 

あの子から託し返されて。

 

……そして、私が殺した。

 

このマフラーの手触りだけが、嫌になるほど鮮明だった。

 

託された物をこの身に纏い。

 

エンジニア部が遺した銃を握り。

 

先輩の盾を背負う。

 

全部、全部背負って。

 

足音。

 

迷わず、引き金を引く。

 

撃鉄が落ちる。

 

次の瞬間、12ゲージの弾丸が吐き出される。

 

潰す。

 

壊す。

 

消す。

 

そして――

 

……殺す。

 

かつての、誰かを。

 

赤く染まった空の下で。

 

色を失った世界の中で。

 

私の銃だけが、火花だけが。

 

まだ、確かに色を持っていた。

 

撃って。

 

刺して。

 

穿って。

 

抉る。

 

ただ、それだけを繰り返す。

 

全ては――()()を。

 

あの場所へ連れて行くために。

 

この終わった物語を。

 

次へ、繋ぐために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”つ、着いた…………”

 

喉の奥が焼け付くように熱く、()()の声は空気を擦るみたいに掠れていた。

 

いや、彼女だけじゃない。私も黒服も、もうまともに立っているのが奇跡みたいな状態だった。肺は酸素を求めて軋み、足は鉛のように重く、傷口は動くたびに裂けて血を吐き出す。

 

それでも――辿り着いた。

 

私たちの前にあるのは、塗装の剥げた一両編成の鉄道車両。錆びついた外装と曇った窓は、この世界そのものみたいにくたびれて見えた。

 

その先に伸びるのは、返りのない一本の線路。

 

ここが終点だ。

 

このバッドエンドで迎える物語の、終着駅。

 

 

「お客さんが来た…………黒服、準備の方を頼むよ。私はそれまで時間を稼ぐから」

 

 

「クク……えぇ承りました。恐らく五分…………いや十分ほど足止めをお願いします」

 

 

「…………会長さんは車両の中で休んでいてください。後は私と黒服でやりますから」

 

 

拳銃のスライドを引く。削れた金属音が、やけに大きく響いた。

 

彼女がよろめきながら車両へと入っていくのを見届け、私はゆっくりと息を吐く。

 

これでいい。

 

あの車両に乗れば、()()はこの終わった物語から逃げられる。やり直せる。

 

だから――私は、ここで終わる。

 

 

「…………来なよ」

 

 

火花が散る。

 

乾いた音と共に、何かが外れる気配。

 

 

「ホシノさん、そのまま正面を抑えてください」

 

 

淡々とした声。

 

だが視線はこちらに向いていない。

 

 

「あと七分……いえ、六分で完了します」

 

 

その声だけが、残された時間の残量みたいに背中に貼り付く。

 

 

「クク……やはり旧式。物理ロックとは、実に時代錯誤だ」

 

 

背後で、金属を擦る音がする。

 

振り返らなくても分かる。

 

黒服が、車両の接続部に手を入れている。

 

暗がりの奥から、“それ”が滲み出てくる。足音が重なり、擦れ、引きずる音が混じる。

 

装備も動きもバラバラで統一性なんてないのに、数だけは異様に多い。

 

一本道。だからこそ、ここで止めるしかない。

 

 

「小鳥遊ホシノの後ろへは一歩も進ませはしないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

一歩、踏み込む。

 

 

「右、三体。速度が違う……左一体、突っ込んで来ます」

 

 

黒服から言われるが早いか、新たに私たちが来た道から影が現れ始める。

 

……分かってる。

 

更に、一歩踏み込む。

 

床に溜まった血で足が滑るのも構わず距離を詰め、最前列へ肉薄する。

 

盾を振り抜いた瞬間、骨と肉と何かがまとめて潰れる重い手応えが腕に返り、吹き飛んだそれが後続を巻き込んで倒れた。

 

そのまま踏み込み、足を払って体勢を崩し、倒れたところへ引き金を引く。

 

パン、パンッ――反動が手首に刺さる。

 

倒れたそれの手首に、見覚えのある校章が一瞬だけ見えた気がした。

 

……考えるな。

 

引き金を引くたび、胸の奥で何かが軋むのを無視する。

 

横からの爆風を盾で受ける。衝撃が腕を痺れさせ、骨が軋むのも無理やり押し込んで踏み込む。

 

 

殴る。

 

 

骨が折れる嫌な感触を無視して、さらに一歩奥へと踏み込む。

 

 

蹴る。

 

 

蹴り上げるように脇腹に叩き込んだはずの一撃は、鈍い手応えだけを返して止まる。

 

崩れない。

 

相手の体勢だけが、わずかに泳ぐ。

 

……十分だ。

 

その微かな揺れにさらに一歩踏み込む。

 

 

撃つ。

 

 

銃口が相手に触れるほどの距離。

 

逃げ場なんてものはない。

 

引き金を引く。

 

反動と同時に、熱と衝撃が腕を突き抜けた。

 

崩れ落ちるのを確認する前に、もう次へ。

 

 

一つ一つが遅くて、重くて、確実に一人一人を削っていくしかない。

 

 

「ホシノさん、これを!」

 

 

飛んできた弾倉を反射で掴み、血で滑る手を無理やり締めて装填、スライドを引いてそのまま撃つ。

 

 

「残り、三分」

 

 

短く告げられる。

 

黒服の周囲に、小さな機器が展開されている。

 

空中に浮かぶ投影パネル。

 

意味不明な記号列が高速で流れ、車両の外殻に細い光が走る。

 

 

「この車両……外部から強制起動をかけています」

 

 

カチ、カチ、と規則的な入力音。

 

だがそれだけじゃない。

 

金属が焼ける匂い。

 

接続部に差し込まれた端子が火花を散らしている。

 

 

「内部プロトコルが旧式で助かりました……が――」

 

 

ガンッ!!

 

すぐ後ろの装甲に何かが叩きつけられる。

 

振動が、作業中の黒服の手元を僅かに狂わせる。

 

 

「……干渉が強い。予定より一分遅れます」

 

 

その瞬間、敵の数が一段増える。

 

まるで“時間を引き延ばされた”ことに反応したみたいに、壁の奥からさらに滲み出てくる。

 

 

「ホシノさん」

 

 

今度は、少しだけ強い声。

 

 

「あと少しです。……耐えてください」

 

 

そのあと少しが、やけに遠い。

 

 

「ま……まだまだ、()()()()は負けないよ」

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

脳裏を過る、私にとっては呪いでしかない言葉。

 

……でも、それでいい。

 

いつか来る《先生》にとって、この言葉が祝福になるなら。

 

息が荒く、視界が赤く滲む。止まりかけていた血がまた流れ出しているのが分かる。

 

それでも構わない。後ろには、守るものがある。

 

弾を節約するため撃つ回数を減らし、その分、距離を詰めて殴る。

 

盾で顔面を叩き潰し、肘で顎を砕き、銃床で横殴りにする。それでも足りず、銃剣を抜いて刺す。

 

ぐちゃりとした感触が手に絡みつき、骨に当たって止まる刃を無理やり引き抜くたび、吐き気が込み上げる。

 

――慣れるな。

 

そう思いながらも、手は止めない。

 

血を吐く。口の中が鉄の味で満ち、呼吸は浅く、うまく吸えない。

 

弾が当たる。一発、二発――神秘が削れ、防ぎきれないまま制服が裂け、肉が裂ける。

 

それでも、立つ。

 

 

「ホシノさん、あと少しです!」

 

 

遠くで黒服の声がする。近いのか遠いのかも分からない。

 

車両の窓に両手をついて、泣きそうな顔でこちらを見る()()

 

……そんな顔するなよ。

 

足りない。

 

手数も、時間も、命も。

 

だから――

 

 

「…………神秘、解放!」

 

 

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗なものじゃない。体の奥を、裏返される……そんな感覚。

 

焼ける。裂ける。軋む。

 

残りカスみたいな神秘を、無理やり掻き集めて……解放する。

 

視界が明滅する。

 

1つ光が走るたび、世界が一瞬ずつズレて行く気がする。

 

それでも、繋ぐ。

 

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ヘイローが歪む。

 

天使の輪のような輪郭が崩れ、罅割れかけた光が無理やりにでも形を保つ。

 

……限界なんて、とっくに越えてる。

 

それでも。

 

止まらない。止めない。

 

一歩、踏み込む。

 

速いんじゃない……止まらないだけだ。

 

刺す。

 

抜く。

 

撃つ。

 

殴る。

 

踏み潰す。

 

動かす順番なんて、もうどうでもいい。

 

目の前にあるものを、ただ……コロス。

 

弾が私の体に当たる。

 

ただ撃たれた衝撃だけを感じた。

 

痛みは……ない。

 

いや、違う。

 

痛みがあるはずなのに、感じていないだけ。多分……痛覚が死んだんだろう。

 

血が噴き出す。

 

視界が赤に染まる。

 

それでも構わない。見えているかどうかなんて、関係ない。

 

その時。

 

 

「……最終段階に移行します」

 

 

黒服の声。

 

今までと違う。

 

わずかに、急いでいる。

 

 

「動力系を強制起動。……三十秒、持てば十分です」

 

 

次の瞬間。

 

車両の奥で、低く唸る音。

 

ゴォン……と、死んでいたはずの鉄の塊が息を吹き返す。

 

同時に、敵の動きが変わる。

 

一直線に……黒服へ。

 

 

「ゴホッ……!やらせはしないって!」

 

 

喉からせり上がった血を吐きながらそう叫ぶ。

 

呼吸が壊れる。

 

肺が動かない。

 

……それでも、動く。

 

膝が折れかけるたびに、何とか活を入れて踏みとどまる。

 

いや、踏みとどまってない。

 

ただ、倒れていないだけだ。

 

足が動く。それで十分だ。

 

腕が振るわれる。

 

血で滑る引き金を何とか引き絞って、黒服に向かおうとした敵を牽制する。

 

……考えてない。

 

どうやって戦ってるのか、もう分からない。

 

それでも……

 

前にいるものは、全部潰れていく。

 

 

「はは……っ」

 

 

笑っているのか、喉が引き攣っているのかすら分からない。

 

 

「まだだ……まだ足りない……」

 

 

何が足りないのかすら、もう分からない。

 

ただ……

 

止まったら終わる。倒れてしまえば、奇跡へとたどり着かない。

 

それだけは、はっきりとしている。

 

だから……前へ。

 

ただ、それだけを繰り返す。

 

 

「ゴホッ……!」

 

 

床はもう、誰のかも分からない血で滑るどころじゃない。

 

 

”ホシノちゃん!?”

 

 

「来るな!」

 

 

ドアが閉まる音がする。

 

物語の終わりが近い。

 

 

「会長さん、これでお別れだよ」

 

 

ドアが閉まりきる直前、なんとか声を絞り出す。

 

 

”お別れなんて言わないでよ! ホシノちゃんも早く!”

 

 

「ごめんね…………()()ソレには乗れないんだ」

 

 

言い切った瞬間……力が、抜ける。

 

今まで踏ん張ろうとした足に、何も返ってこない。

 

遅れて理解する。

 

ああ……もう、()()()()()()()()()

 

そのまま、私は膝から崩れ落ちた。

 

床に触れた冷たい感触だけが、やけに鮮明だった。

 

…………立てない。

 

 

”どうしてっ!?……嫌だよホシノちゃん!!”

 

 

閉ざされた扉越しに、彼女が叫ぶ。

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

閉まりきった扉を、両手で叩く音が響く。

 

窓越しに見える彼女は、今にも壊れてしまいそうな顔で、何度も何度も扉を叩き続けていた。肩を震わせ、涙でそのきれいな瞳を歪ませながら、それでも諦めきれずに。

 

口が動いている。

 

必死に、何かを叫んでいる。

 

けれど……

 

彼女が叫んだ音は、もう聞こえない。

 

 

「さようなら……会長さん……」

 

 

声になっていたのかも、分からない。

 

それでもいい。

 

言わないよりは、ずっといい。

 

ドアの向こうで、彼女がさらに強く扉を叩く。

 

拳が痛むのも構わず、ただひたすらに。

 

その度に、ガンッ、と鈍い音だけがこちら側に届く。

 

それすらも、少しずつ遠くなる。

 

……ああ。

 

ちゃんと、間に合ったんだ。

 

ゆっくりと、車両が動き出す。

 

ブレーキを解除する圧縮空気の音と、モーターの挙げる唸り声。

 

最初はほんのわずかに揺れるだけだった車体が、やがて確かな速度を持ち、この終わった物語の終着駅から離れていく。

 

窓の向こうで、彼女の姿が揺れる。

 

動きだしたのに、扉を叩く手が止まらない。

 

叫び続けている。

 

それでも……距離は、確実に開いていく。

 

思わず伸ばしかけた私の手は、途中で止まった。

 

届かない。

 

最初から、分かっていたことだ。

 

車両はゆっくりと、しかし確実に遠ざかる。

 

線路の先へ、ただ一方向へ。

 

……新しい、あまねく奇跡の始発駅へと。

 

その背を私は見送ることしか、もう出来ない。

 

 

()()…………()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

一度も勝てなかった(守れなかった)私だけど、最後の最後に勝つことが出来た(守りきった)

 

息を吐く。

 

力が抜ける。

 

指先から、腕から、肩から、順番に感覚が消えていく。

 

気がつけば、敵はいなかった。

 

あれだけいたはずの“それ”は、一つ残らず消えていて、死体も、血痕も、何もかもが最初から存在しなかったみたいに消え失せている。

 

残っているのは――

 

血の海に沈む、私と。

 

もうひとり。

 

 

(どうせなら……ハッピーエンドの、始まりくらい……見てみたかったな)

 

 

かすかに首を動かし、自分のヘイローを見る。

 

さっきまでの無理やりな輝きはもうなく、今はただ、消えかけた蛍光灯の灯りのように弱々しく明滅していだけ。

 

 

「黒……服……生きてる?」

 

 

声になっているのかも分からない。

 

それでも、呼ぶ。

 

 

「クックック…………貴女と同じ……ですよ……ホシノさん……」

 

 

弱弱しく私にそう返す黒服。流れ弾で傷ついたのだろう血だまりの中で座り込む彼は、残る力を振り絞るかのように私に何かを投げ渡して来た。

 

 

「もし…………もしホシノさん、貴方が再び世界を巡ったのならソレを次の私へと渡してください」

 

 

「これ……は? 」

 

 

「クックック…………なに……私の研究成果ってやつ……です……………よ……」

 

 

「…………黒服?」

 

 

途切れる黒服の声に私が反応すれば、頭のひび割れから出ていた光は消え、力なく座り込んだまま動かない。

 

あぁ……最後の仲間も旅立った。ゆっくりと手を開き、黒服から渡されたソレを見ると小さなUSBメモリ。

 

 

(まったく…………次なんてあるか分からないし持って行けるかも分からないのに…………)

 

 

喋るのも億劫でそう内心で零した。託されたUSBを握り締め、私は静かに目を閉じた。

 

暗い視界……手足の感覚も無くなり、プカプカと水中に浮かんでいるかのような浮遊感だけが私を包み込んで行く。

 

 

(これで最後……だと……い………いなぁ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AUTO
MENU

 

 

 

 

???
……私のミスでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AUTO
MENU

 

 

 

 

???
 先生……皆を……ホシノちゃんを助けて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧版と改修版……どっちが読みやすい?

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