ジェリコの咎人   作:ミヤフジ1945

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アンケの結果。作者の妄想のままでOKっぽいので、ミレニアム編を追加した本来の第5話を再投稿です。

案の定。予想通り万文字行きました(ウマ娘では万文字イカナイノニ

ドウシテ……ドウシテ……


第5話  見つめる先、訪れる場所

 

 

───ある世界線。

───キヴォトスD.U.シラトリ区。連邦生徒会所有の秘密セーフハウス。

───【Operation LastMiracle】作戦前夜。

 

 

 

 

『よぉ、ホシノ』

『何かな?』

『明日が最後だろ?だからお前と話しておこうと思ってよ』

『…………言っておくけど、模擬戦はやらないからね』

『分かってるって。ただ言いたいことがあるだけだ』

『…………』

『あたしんとこも、ホシノんとこのアビドスも…………みんな居なくなっちまった』

『此処に集まってる生徒はこのキヴォトスで最後の生徒かもしんねぇ』

『だからさ…………』

『はっきり言いなよ美甘』

『うっせぇ!あたしだってこんなのがらじゃねぇんだよ!』

『とにかく、あたしとお前や此処に集まった皆は最後の仲間だ』

『だからさ…………一度くらい、名前で呼んでもいいじゃねえか?』

『…………ふふっ』

『なに笑ってんだホシノ!』

『いや、社長さんと同じことを言うなって……』

『なんだよ…………アルに先越されてたのかよ』

『社長さんにも言ったけど』

『…………?』

『この作戦が成功したら、社長さんも美甘も名前で呼んであげる』

『っ!』

『だから…………勝とうか、美甘』

『おう!あたしに任せときゃ、ぜってぇ成功させてやっから安心しろよ!ホシノ』

『破んなよ?()()()()()()

『もちろん。()()()()

 

 

 

 

元ミレニアムサイエンススクール所属:美甘 ネル

キヴォトス連邦生徒会、最後の作戦、【Operation LastMiracle】に参加。

類まれなる戦闘力で、前衛を小鳥遊ホシノが担っていたためパーティー後方から追いかけて来る敵を殲滅する役割を担当するも、敵の圧倒的物量によりパーティーが包囲される状況に陥る。

後顧の憂いを断つため単身にて殿を請け負い、敵の前に立ちふさがった。

最後は弾薬も尽き、徒手空拳にて戦闘。一度も背を地に付けることなく時間を稼ぎパーティーを離脱させることに成功する。

 

───作戦参加者:小鳥遊ホシノ、陸八魔アル、美甘ネル、            

───  KIA  :陸八魔アル、美甘ネル、            

───  MIA  :小鳥遊ホシノ

───作戦目標のキヴォトス脱出を確認

───【Operation LastMiracle】作戦成功

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話

見つめる先、訪れる場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もまた、夢を見た。

 

アビドスの皆のお陰で見ることが減ったはずの、あの日の夢を。

 

原因は多分、あの日。

 

あの日、あの娘の目を見てから…………私はまた、あの日の夢を見るようになってしまった。

 

カラカラに乾いた、命を飲み込む砂漠の悪夢を。

 

私の所為で失った。大切な…………大好きだった先輩の夢を。

 

眼下に倒れる、私を責めるように開かれた先輩の目が。

 

私を、飲み込んでいく…………

 

そこで毎回……私は目が覚める。

 

私は飛び上がるくらいに勢いよく上半身を起こした。

 

見慣れた天井。

 

見慣れた自室。

 

何時もと変わらない空間で、今までと違うのは、着ていたパジャマは寝ている間にかいた汗でグショグショに濡れていて、汗によって冷たく体を包む不快感が、どうしようもなく私を責め立てているようで…………

 

「ヴォエ…………ハァ……ハァ……」

 

 

空っぽのはずの胃の中からこみ上げて来る吐き気に、私は思わず口を押さえた。

 

吐き出すものなんて殆どない。ここ最近は、皆の前で取り繕って食べた時以外、満足に食事も取れていない。

 

喉元まで上がって来た胃液による熱さと、鼻から抜けるすえた匂いが気持ち悪くて。

 

 

「…………みず」

 

 

朝が来て、カーテン越しに明るくなった空を見ながら、私はそう呟いた。

 

今日も一日が始まっていく。だから早く、私は皆の知っている小鳥遊ホシノ()に切り替えねばならない。

 

何故なら私は、皆の先輩だから。

 

 

「…………ユメ……先輩」

 

 

私は今、ちゃんと小鳥遊ホシノ(先輩)を出来てますか?

 

私は晴れ渡るアビドスの砂漠へとそう尋ねる。私の問に応えてくれる人は…………もう居ないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり…………ここまでは多少歪んでいても原作通り」

 

 

スコープ越しに映る景色に、そう私は独り言を呟いた。

 

黒服に頼んで用意して貰った望遠鏡代わりの狙撃銃。その光学照準器越しに見えるのは、原作同様にアビドス高校を襲撃した便利屋68の面々と雇った傭兵たちがアビドスの皆と戦闘している光景だった。

 

距離があるために僅かに遅れて私の耳へと入って来る途切れることのない銃声や爆発音が、その激しい戦闘を物語っている。

 

 

「念のために援護しようと思ったけど、どうやら必要なかったかな?」

 

 

日が落ちつつあるアビドスで、私は付けていた照準を外しながら安心したような声が出てしまった。

 

埋もれたビルの一室、窓ガラスが割れ吹き曝しとなった部屋に寝そべりながら狙撃銃を構えていたために少しだけ顔が砂に汚れてしまったが、まぁそれもいいだろう。

 

眼前の戦闘では、原作通りかアビドス側に先生が付いている。

 

本当に約束を守ろうとしたのかは怪しいが目に隈を携え、いかにも疲れていますといった風貌になっているが、その指揮能力は一片の曇りなし…………と言った所か。

 

全体的に便利屋陣営が押してはいるが、もうすぐ午後五時…………下校時間となる。

 

そうなれば、契約の切れた傭兵は去るだろうし、アルには悪いけど便利屋の敗北は時間の問題だろう。

 

ガチャッと、持っていた狙撃銃を肩へと下げて、私はビルの一室を後にする。

 

 

「黒服…………こっちはもう撤収するよ。そう、原作通り…………うん、お願い」

 

 

耳に付けていたインカムを使って、私は黒服へと連絡した。

 

 

「ただ、少しだけ気になることが…………ううん、先生じゃないよ。小鳥遊ホシノ(ホンモノ)……彼女、隠しているようだけどかなり無理してる印象だった」

 

 

多分、他の皆はまだ気づいてない。小鳥遊ホシノ(ホンモノ)がそうなった理由は分からないけれど、私が気づけたのはきっと……私も小鳥遊ホシノだから。

 

小鳥遊ホシノ(ホンモノ)と同じように、ニセモノ()もまた、似たような経験をしていたから。

 

 

「いや、暫くは大丈夫だと思う。ただ、このままだと黒服へと接触して来た時には多分…………小鳥遊ホシノ(ホンモノ)は精神的に限界だと思う」

 

 

思い出すのはつい先ほどまで見ていた光景。アビドスの皆と原作通り便利屋68の面々と雇った傭兵たちが戦う戦場で、私の目には小鳥遊ホシノ(ホンモノ)だけがその動きに精彩を欠いていたように見えた。

 

ほんの僅かだけど、私ならこう動くだろう…………そう予想した動きよりも小鳥遊ホシノ(ホンモノ)はほんの少しだけ遅れていた。

 

体の動きが思考に付いて来れないのか、はたまた精神的な問題か疲労によって判断力が下がってしまっているのか…………

 

少なくとも私がスコープ越しに見る限りでは、小鳥遊ホシノ(ホンモノ)の体はとくに怪我などをしているようには見受けられないから、きっとその二つのうちのどちらかなのだろう。

 

 

「いや。助けないよ…………私がするのは皆を守ることだけ」

 

小鳥遊ホシノ(ホンモノ)を助けるのは、私じゃなくてあそこに居る皆の役目だから」

 

 

黒服へとインカム越しに私はそう告げて、肉眼では見えないはずのアビドス高校の方へと少しだけ振り返る。

 

いつの間にか、鳴り響いていたはずの戦闘音は聞こえなくなっていて、代わりに私の耳に入って来るのは下校を告げる午後五時の時報の微かな音色。

 

どうやら無事、向こうの戦闘も終わったみたいだ。

 

 

「うん、たった今アビドスの方も終わったみたい…………そう、小鳥遊ホシノの件(想定外)もあったけど、一応は想定内」

 

「そっちはどう? …………そう…………うん?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それが今、アビドス砂漠全域で観測されてるってこと?」

 

 

インカム越しに、やや興奮気味にそう語る黒服に、私は一瞬彼の語る言葉の意味が咀嚼出来ずに、まるでオウム返しのように黒服の言葉をそのまま口にしてしまった。

 

 

「過去にも同じことが起こったか? いや、わからないよ。過去に何度か黒服と契約したことはあっても、仲間になったのは最後の一回だけだから」

 

 

黒服が語る、アビドスで起こっている謎の振動。黒服が言うには、観測されたのは二日前の夕刻から…………その時間は、丁度私がシャーレの先生を含めたアビドスの皆と出会った時だ。

 

私というイレギュラーが来てしまったことによる異常事態なのか…………それとも、原作で語られていなかっただけで本当に起こっていた出来事なのか。それは分からない。

 

ただ少なくとも、私が巡っていた物語(世界)において、こんなことが起きたことはなかったはず……

 

とはいえ黒服に言った通り、過去に何度か黒服と契約したことはあるけれど、その実……本当に仲間になってくれたのは最後の最後だけ。

 

その時も、黒服が今のような異常事態を観測していたことはなかったし、もし更に過去の物語(世界)で同じ現象が起きていたとしても、仲間ではない黒服が私へと現象について伝えるかどうかという所もある。

 

 

「一応、もう一度確認するけど……その現象はアビドスでしか観測されてないの? …………そう……わかった」

 

「うん…………原因には心当たりがある。そうだね…………黒服も何となく気付いてるんでしょ?」

 

 

現象については心当たりはないけれど、()()()()()()()()()()()()されているのなら、原因を突き止めることは簡単だ。

 

 

「詳しい話は次にあった時に…………うん、頼んでいたやつも前倒しして貰うかもしれないから」

 

「私は明日、朝一でミレニアムサイエンススクールに行って来るよ。うん、エンジニア部に頼みごと」

 

 

先生との約束…………暫くは果たせそうにないかもしれないね。

 

小さく溜息をついて、私はそう内心で苦笑してしまった。

 

最初に約束を破ったのは先生の方だけど…………どうやら私も、約束を守れない人間のようだ。

 

 

「それじゃあ黒服。そっちもお願いね。……ん、それじゃまた……交信終了」

 

 

インカムの側面にあるボタンを軽くタップして、私は繋がっていた黒服との通話を切った。

 

夕焼けに染まった空を、ビルの中から見上げて…………私は言葉に出来ない思いで心が締め付けられそうになる。

 

やはり、私が関わってしまったことで本来の物語(世界)とは別の道筋へとズレてしまっていた。

 

覚悟はしていたが、それでも…………実際に直面してみると、想像していたよりもずっと…………辛かった。

 

 

「ヴォエ…………ハァ……ハァ……」

 

 

胃の中からこみ上げて来る吐き気に、私は思わず口を押さえた。

 

膝を突き、片手を地面へと伸ばして支えながら、蹲るように何とか堪えようとしても、我慢出来ずに私は胃の中の物を吐き出してしまった。

 

びちゃびちゃびちゃと、我慢できずに吐き出される吐しゃ物が捨てられたビルの床を汚していく。

 

通り過ぎた胃液が喉を焼き、すえた臭いが私の鼻を刺激して。気持ち悪くなった私は再び胃の中の物を吐いてしまう。

 

 

「ゴホッ…………ハァハァ……大丈夫……ハァ……ハァ……まだ大丈夫なはず…………」

 

 

持っていた水筒で口の中をゆすいで、私は荒い呼吸の中でそう言葉を溢す。

 

想定はしていたはずだ。覚悟もしていたはずだ。

 

どんなに本来の物語(世界)からズレていようと、あの夜に願ったように…………

 

あまねく奇跡の始発点(ハッピーエンド)のその先へ……より良いハッピーエンドを目指すために。

 

 

「ハァ……ハァ…………フゥ…………よし」

 

 

なんとか呼吸を落ち着かせて、私は両の脚で何とか立ち上がる。

 

ふらふらと定まらない足取りで、私はビルの外へと歩いて行く。

 

行く先は勿論、黒服にも言った通りミレニアムサイエンススクールで、目的はそこに存在するエンジニア部だ。

 

今からだと電車を使っても着くのは深夜になるだろうが…………仕事が早いもので、既に黒服からは使えるようになった私の通帳と新規発行のクレジットカードを貰っている。

 

ミレニアムの自治区に着いてからホテルでも取れば、朝一でエンジニア部を訪ねることが出来るだろう。

 

 

「やっぱり…………私も小鳥遊ホシノ(ホンモノ)のことをとやかく言えないや」

 

 

精神的な疲労によって急激に重くなったように感じる自身の体を引きずるように、私は夕暮れの中へと進んでいく。

 

結局この日、最後まで小鳥遊ホシノ(ホンモノ)が原作よりも追い詰められているその理由について、残念ながら私は少しも原因について分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このキヴォトスで最も最先端の場所は何処か?

 

そう街行く人間に尋ねれば、十中八九全員がミレニアムサイエンススクールだと答えるだろう。

 

アビドス自治区と比べれば、まさに月とスッポン、本気を出したウサギとカメ。それくらいの差があるのだ。

 

もっとも、私が以前ミレニアムの自治区に来たのはキヴォトスが荒廃し、各学園自治区の機能が停止した後のこと…………

 

こうして多くの生徒や獣人、オートマタが行き交う本来のミレニアムの姿を見るのは、実は私にとって初めてだった。

 

事前に取ったアポと、簡単ではあるがエンジニア部の部室までの地図を貰った私は、こうして今まで見ることのなかった世界を観察しながら目的地まで歩いて行く。

 

 

「やぁ…………君が私たちに連絡をくれた生徒かい?」

 

 

ミレニアムサイエンススクールの中心、ミレニアムタワーと呼ばれる超高層ビルがある中央区の隅っこに、『マイスター』と呼ばれる機械製作と修理の天才が多く所属しているエンジニア部の部室があった。

 

数度のノックのあと近未来的な扉を開ければ、私には良く分からない様々な機械が置かれたいかにもエンジニア部らしい内装の部屋。そんな部屋の中で私を待っていたと思われる、紫色の髪をした生徒がひとり。

 

両方の目には深い隈が刻まれ、ボサボサの髪とヨレヨレの制服が何ともみすぼらしく感じてしまう。しかし、見た目で人を判断してはいけない。

 

このミレニアムサイエンススクール……いや、キヴォトスの中で最も『マイスター』の称号に強い誇りをもつ職人肌なロマンチスト。

 

白石 ウタハ(しらいし うたは)。ミレニアムサイエンススクール三年生でエンジニア部の部長、生真面目で責任感が強く、誠実な人柄でありながら、ロマンの追求の為ならあらゆる無駄や非効率も是とする生粋のマイスター。

 

それが彼女なのだ。

 

 

「こんな格好ですまないね。何せ予算の問題でここ最近は満足に開発すら出来なくてね。予算の増額をセミナーに申請しようにも成果がいる。所謂堂々巡りってやつさ」

 

「おっと済まない。ミレニアムサイエンススクール三年、エンジニア部の部長の白石 ウタハだ。よろしく」

 

「アビドス高等学校三年、生徒会長の小鳥遊ホシノ……こちらこそ今日はよろしく」

 

 

疲れた顔で右手を差し出すウタハの手を握って、私も彼女へとそう挨拶を交わした。

 

一応、嘘は言っていない。私は確かにアビドス高校の生徒会長()()()し、今この物語(世界)でアビドス高校が滅んでいる訳でも無い。

 

嘘は言っていない。本当のことを言っていないだけ。

 

私が関わってしまった所為で、既に物語(世界)は歪んでいる。これ以上原作から歪ませないためにも、なるべくなら話さないに越したことはないのだ。

 

 

「さて、挨拶が済んだことだし早速本題といこうか。エンジニア部の予算増額が難しい現状、こういった注文を受けて部の臨時資金を得るのも悪くはないからね」

 

 

「そうだね」

 

 

彼女の言葉に私は、持ってきていたキャリーケースの中から数枚の紙束を取り出した。

 

このキャリーケースは昨夜ミレニアムの自治区に着いてから購入した安物だ。そして、今私が取り出したこの紙束も。

 

 

「私が一夜漬けで書いたものだから、詳細な設計は貴女たちエンジニア部に任せる。ただ可能な範囲でいい、早めに作って欲しい」

 

 

バサリッと、私は取り出した紙束を机の上へと置く。そこに書かれているのは私が求めている物の大まかな要求性能と形だけ。

 

これを作るのにどれくらいの資材が必要で、どのくらいの期間で建造出来るのか。

 

そして何よりも、その二つをクリア出来たとしてエンジニア部の部長たる彼女がこの契約を受けるのか。そこが問題だった。

 

 

「こいつは…………ほぅ!」

 

 

私が机に置いた紙束の仕様書を今度は彼女が手に取ると、先ほどまでのやつれた姿は何処へ行ったのか…………

 

隈はそのままに、瞳を輝かせて仕様書を食い入るように読み込んでいっている。

 

 

「面白い! 射撃時のジュール熱による砲身の融解を防ぐためにあえて完全な磁気加速を捨てた火薬加速とのハイブリット式」

 

「砲弾初速はAPFSDS使用時で毎秒6km/s…………最大射程は仰角45度で120Km…………まさにロマンという他ない代物だな! 」

 

 

頭の中で完成した姿でも想像しているのだろうか。ウタハは両目を閉じて楽しそうにそう口を開いていた。

 

少なくとも、私が見せた仕様書は彼女の琴線に触れるモノではあったらしい。

 

 

「作りたい…………あぁ、是非とも作らせて欲しい…………が」

 

 

「が? 」

 

 

先ほどまでの楽しそうな表情を変え、重苦しい真面目な表情へとその雰囲気となった彼女に私は短く聞き返す。

 

 

「申し訳ないが最初に言った通り、今のエンジニア部には満足な予算がなくてね…………」

 

「これだけの代物、使用する材料を揃えるだけでどれほどの予算が必要になるか…………千万や二千万では利かないだろう」

 

 

「では、資金さえ十分ならばこの件は受けて頂けると?」

 

 

「あぁもちろん! こんなロマンの塊、燃えないならばマイスターとしての私の名が廃る!」

 

 

両の手を握りながらそう熱く燃える彼女を、私は少しだけ冷めた目で見ていた。

 

私にはロマンという代物が理解出来ない。いや…………かつて私が小鳥遊ホシノ()になる前ならばそういった代物も好きだったかもしれないが、いつの間にか分からなくなってしまったというべきか。

 

エンジニア部に頼む代物だって、私が必要と判断したから頼んでいるのであって決してロマンを求めていたからではない。

 

 

「それなら良かった。出来るなら今日からでも取り掛かって欲しい」

 

 

「…………君は、私の話を聞いていたのかい?」

 

 

「もちろん」

 

 

怪訝な顔をする彼女に、私は多少強引だが机の上へとキャリーケースを置いた。

 

中身の詰まったキャリーケースは重々しい音をあげて机の上へと圧し掛かる。この中身が無駄になることがないようで安心した。

 

 

「前金として現ナマでキッチリ五千万。完成したら追加でもう五千万。これで足りる?」

 

 

キャリーケースの蓋を開け、キッチリと並べられた札束をウタハへと見せる。

 

唐突な展開に頭が付いてこないのか、彼女は山吹色のお菓子ならぬ、紙製のお菓子を前にしてフリーズしたかの如く固まってしまっている。

 

 

「足りない? それとも一括で払った方がエンジニア部としては嬉しい?」

 

 

「まて…………ちょっと待ってくれ!?」

 

 

「なに?」

 

 

頭を押さえ、険しい表情をするウタハ。お金が足りないから受けられないと言ったのは君じゃないのか?

 

 

「…………本気かい?」

 

 

「なにが?」

 

 

「確かに私は予算があれば作れるとは言った。だが失礼だが…………今日会ったばかりの人間にこんな大金を渡すなんて、君は正気かい?」

 

 

あぁ……なるほど…………失念していた。

 

私は彼女のことを知っている。生真面目で責任感が強く、誠実な人柄の、ウタハという人間が大金をかすめ取るなんて小悪党染みた行為するはずがないと。

 

そう私は知っているが、彼女は私のことも、私が彼女のことを知っていることも知らないのだ。

 

 

「大丈夫、私は正気だよ」

 

 

ゆっくりと、私は自身の手を握ったり開いたりしながらそう告げる。

 

 

「『マイスター』の称号に強い誇りをもつ白石 ウタハ……君だからこそ、私は信用に足ると判断した」

 

「足りないならば追加で払おう。必要ならば実験にも付き合おう。これは君の……マイスターの腕に対する正当な報酬だよ」

 

 

バツが悪そうに頭を搔くウタハ。まあそうだろうね…………マイスターとして優秀である彼女だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はこのエンジニア部主導の活動で起きることがほとんどなのだ。

 

優秀な馬鹿。そんな評価を受ける彼女たちエンジニア部に、()()()()()()()()()()()()()()と言ったのだから…………褒められ慣れていない彼女にはむず痒い評価だっただろうか。

 

 

「分かった…………分かったから。お金もこれ以上は貰えない」

 

 

「じゃあ…………」

 

 

「最後に聞かせて欲しい。君は…………コレを何に使うんだい?」

 

 

私の言葉を遮るように、ウタハはそう質問を私へと向けた。

 

 

「ひとりのマイスターとして、君にそこまで賞賛されるのはとても嬉しい。有り難う」

 

「だが、私はひとりのマイスターとして…………自身の作った物に責任を持たなければならない」

 

「もし……君がコレを誰かを傷つけるために必要だというのなら、私はコレを作る訳にはいかない」

 

 

教えてくれ…………コレが必要な理由を。

 

真剣な、強い意志を宿した目をウタハは私へと向ける。同時に、私はウタハの言葉を聞いてやはり彼女に任せて問題無いのだと、そう確信出来た。

 

ロマンを求めすぎてトラブルを起こすことは有れど、マイスターとして、物作りを生業とする者として、自身の作る物に責任を持とうとする彼女のその姿勢は私にとって好ましく、そして眩しい。

 

 

「ウタハの言っていることは分かった。アビドスの事情もあるから全てを話すことは出来ないよ。でも話せる部分は話そう」

 

 

私は真剣な彼女の目を見つめ返して、コレが必要な理由を告げる。

 

 

()()()()()

 

 

「…………なに?」

 

 

「アビドス自治区……というよりアビドス砂漠にはね、化け物が居るんだ」

 

 

「化け……物……だって?」

 

 

「そう……化け物だよ。おとぎ話に出るような、巨大で……凶悪で……どうしようもない、化け物が」

 

 

「つまり……その化け物とやらを退治するためにこんなものが必要だと?」

 

 

「そうだね。信じる信じないは自由だけど、ウタハの懸念するような…………それこそ人に対して使うようなことはない。絶対に」

 

 

ウタハの真剣さに応えるように、私は少しだけコレの目的について答えた。

 

かつては大規模なパーティーで対峙し、それでもなお押し負けることもあった…………砂漠の蛇。

 

 

今回こそは、確実に殺すために。

 

 

「まぁ……理由はこれでいいかな? 」

 

 

「そうだね…………少なくとも、君が嘘をついていないということは理解出来た」

 

 

強い意志を宿した目を一度瞑って、ウタハは静かに私の答えにそう口を開く。

 

 

「ンン……改めて小鳥遊ホシノさん。この依頼、エンジニア部部長である白石 ウタハが正式に承ります」

 

 

「よろしく…………頼んだよマイスター」

 

 

ウタハが私の依頼を受けてくれたことで安堵した私がそう告げると、ウタハはむず痒そうな表情を浮かべる。

 

 

「まったく…………君は存外、人たらしの才能があるよ」

 

 

「どうだろうね?」

 

 

肩を竦めて、私は呆れたような様子で呟くウタハの言葉を受け流す。

 

そんな物、私にある訳がないのだから。

 

その後も、頼んだ代物について詳細をウタハと詰めていたのだけど。

 

 

「おいウタハ! てめぇんとこの後輩がまた問題起こしやがったぞ!」

 

 

私が入って来たのと同じ扉を乱暴に開け放ちながらそう言い放つ少女によって、私とウタハの華の女子高生にあるまじき物騒な話題は終わりを告げた。

 

 

「あ゛ん゛? んだウタハ、お客さんか?」

 

 

私と同じくらいの低い身長。私にとっては見慣れた、メイド服の上からスカジャンを羽織った独特のスタイル。そしてブラッドオレンジを彷彿とさせる赤みがかったオレンジ色の髪。

 

 

「あ、あぁ……アビドス高校の小鳥遊さんだ。ウチに頼みごとを……ということでね」

 

「小鳥遊さん、この娘はミレニアムサイエンススクールのメイド部、美甘ネルだ。こんななりでも三年生だよ」

 

 

「誰がチビだって! …………チッ…ウタハあとでシバくが、商談中にすまねえな。ミレニアム三年の美甘ネルってんだ、ネルでいいぜ?」

 

 

そう言って差し出されるネルの手を、私は軽く握った。

 

懐かしい、小さくて硬いけどやわらかくて、そして温かい手を。

 

 

「小鳥遊ホシノ……よろしく、()()

 

 

「…………」

 

 

「? 」

 

 

握手をしたまま、私の顔をじっと見つめるネル。

 

 

「…………なぁ」

 

 

「なにかな?」

 

 

「あんた…………前にどっかでアタシと会ったことあるか?」

 

 

ネルにそう尋ねられて、取り繕っていた私の仮面が外れそうになった。

 

 

「ネルとは初めましてだけど?」

 

 

「そぅか? どっかで見たことあるような気がしたんだけどなぁ……」

 

 

「これでも、私はアビドスの生徒会だから……資料かなんかで見たんじゃないかな?」

 

 

「…………そうか。すまねぇな、変なこと聞いて」

 

 

上手く取り繕えただろうか。

 

握手していた手を離しながら彼女の顔を見れば、未だ納得していないような表情を浮かべているネル。これは、変にボロを出す前に早々にこの場から去るべきだろうか。

 

 

「ウタハに用があったんでしょ? 私の用件は終わったからこれで帰るよ」

 

 

私はそう目の前の二人へと告げて、座っていた椅子から立ち上がる。

 

キャリーケースは置いて行く。どうせ貴重品を運ぶために買った安物だし、失っても痛くはない。

 

 

「そうか。あぁ、一応君のモモトークを教えてくれないかい? 定期的に進捗とかを伝えておきたいからね」

 

 

「そうだね。それじゃ……お願いするよ」

 

 

ポケットからスマホを取り出して、私はウタハとモモトークの連絡先を交換した。

 

まさか、黒服は別として一番最初に交換したのがアビドスの皆でも先生でもなく、かつての戦友たちでもなく……エンジニア部のウタハとはね。

 

 

「それじゃ、ウタハもネルもさようなら。出来上がったらまた顔を出すよ」

 

 

「ああ、ではまた。必ず満足できる代物を作ると約束するよ」

 

 

「なにを頼んだのかは知らねぇけど、こいつの腕は確かだからな。期待しとけよ」

 

 

そうして、二人と別れの挨拶をした私はエンジニア部の部室をあとにした。

 

そこまで長居した訳ではないので、未だ昼を多少過ぎたくらい。余裕をもってアビドスに帰るには十分すぎる時間があった。

 

 

「少しだけ、何か食べるか」

 

 

食欲がある訳では無いけれど、何かしら口に入れておかなければいざという時に動けない。

 

食べられる時に食べる。私がかつて嫌と言うほど経験したことだった。

 

適当に、なにか飲食店でもないか探そう。

 

そう決断して、私はミレニアムの街の中を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで、これはなんの真似かな?

 

 

「うふふふ…………先生に近づく悪い虫は早めに駆除するに限りますから」

 

 

背中に押し当てられる銃口の冷たい感触を、私は気にする素振りを隠しながら下手人へと顔を向ける。

 

特徴的な狐のお面と頭頂部の狐の耳。黒く長い髪の毛と、和服をモチーフとしたセーラー服。

 

まさか、こんなに早く出会うとは思わなかったよ。

 

 

「七囚人、狐坂 ワカモ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「エネルギー回路接続……電源車、1~4号まで全力運転で稼働中」

 

「冷却システム、全て正常値を維持。」

 

「火器管制システムも異常なし。光学測距及び電探測距による誤差修正+0.5!」

 

寂しく廃れもはや一台の列車も通ることのなかった、アビドス砂漠横断鉄道。

 

所々砂漠の浸食を受けた、物寂しい線路と廃棄された車両の墓場だった砂漠横断鉄道の1区画で、砂の舞う風を物ともせずに悠然と佇むソレは周囲に蒸気と冷却材の白い煙を放ちながらその時を今か今かと待ちわびていた。

 

「……正直、     さんがこんなものを用意しているなんて思わなかったわ」

 

「そうですね……エンジニア部の皆さんに聞かされた時私、ビックリしちゃいました」

 

各部の点検と、発射シークエンスを淡々と行っているミレニアムサイエンススクールのエンジニア部の邪魔にならない位置で、二人の少女はそう言葉を溢す。

 

二人とも、ワインレッドの髪と薄い水色の髪を風に揺らしながら、眼前にそびえる黒鉄の城へと視線を移した。

 

正に異質。そう表現するしか、二人の語彙力では目の前のソレを表現出来なかった。

 

前後に牽引車が2両重連の計4両。更には電源車やら変電車やら色々な設備を投じられたこの列車の編成はゆうに10両以上の大編成だった。

 

しかし、何より二人が異質だと表現するしかなかったのは…………これだけの編成をした列車がソレのためだけに運用されていることだった。

 

デカい。ただただ、デカい。

 

         が使う狙撃銃よりも、不良たちが使うようなクルセイダー巡航戦車よりも、ゲヘナ学園の万魔殿が運用するティーガー戦車よりも、遥かに馬鹿デカイのだ。

 

「各部、送電系最終チェック完了。全て異常なし……120mm砲弾及び装薬の揚弾開始」

 

鈍く重く、警報サイレンと共に動き出す超長砲身の120mm砲が、その砲身の先を遥かアビドス砂漠の地平線の先へと向けていく。

 

それはかつての世界でキヴォトスを滅ぼした元凶の一つ、列車砲『シェマタ』と名もなき神々の女王が持っていた武器である『光の剣』、     がその2つから着想を得てエンジニア部に頼んだ怪物。

 

 

120㎜対地対空両用磁気火薬複合加速方式試作第四号自走砲台

 

 

またの名を

 

 

仮設列車砲『Balaur』

 

 

目には目を、歯には歯を。そして悪しき蛇には悪しき蛇を。

 

民話に登場する蛇の怪物……ドラゴンの名を与えられたこの列車砲は、     の切り札だった。

 

「『Balaur』へのエネルギー充填50……70…………85…………92……100……110…………充填率120%! コンデンサー、砲身内コイル、正常稼働開始!」

 

「薬室内、全閉鎖を確認。最終安全装置解除!」

 

「どうやら、そろそろ出番のようね    さん」

 

「そうですね…………     さんも、スポッターをお願いします。」

 

所属も、友人も、趣味趣向や性格だって違う。殆ど接点なんてない二人が今、この場でお互いの命を預け合っている。

 

この場に来ない、と言う選択肢もあった。同僚との時間を、家族との時間を過ごすと言う選択肢が。

 

それでもこの場に、命を捨てる覚悟で戦場へと臨んだ理由はたった一つ。薄氷のように薄くとも、蜘蛛の糸のように細くとも、鋼鉄で作られたワイヤーのように頑丈な、確かな縁のために。

 

「『Balaur』、射撃用意よし!」

 

エンジニア部の面々の最終確認の下、そう宣言された『Balaur』を     は一瞥したあと直ぐさまエンジニア部へと振り向いた。

 

「有り難う……そして苦労様。現時刻をもってエンジニア部は退避! 後は私と     で全て請け負います!」

 

    はエンジニア部の面々へとそう宣言する。

 

今この時に、『Balaur』はたった一度きりの火が入ったのだ。

 

遠く遥か彼方ではこの場にいる二人の大切な仲間……三人の戦友たちが、     と共に時間を稼いでいる。

 

その時間を無駄にしないために、        は焦らず急いで正確に、自身のやるべきことを遂行するのだ。

 

「痛いですよね……苦しいですよね……けど皆さん待っていて下さい。外しはしません。此処で決めます!

 

………………

…………

……

 





感想欄で、生徒はヘイロー見えないからおかしいのでは? ってコメントきました。

この小説の世界では生徒もヘイローが見えます。公式設定なんて知りません。

だって元々短編予定でそこまで調べて考えてなかったんだもん、仕方ないじゃん。

旧版と改修版……どっちが読みやすい?

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