ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る 作:sahala
元は放置してるFateクロスでやろうとしていたネタだけど、オバロクロスに掛かり切りで時間が取れないので、某羽織の夢さんみたいに原作の重要なシーンを抜き出して書いていこうと思う。それなら短くて済む……筈、多分。
異世界トータス。
地球とは異なる剣と魔法の世界で、長い年月に渡って人間族と魔人族が争い合っていた。ステータスの質で勝る魔人族に対して、人間族は数の有利で均衡を保っていたが、徐々にそれは破られつつあった。それを見かねた人間族の神“エヒト神”は、人間族の最大の国家であるハイリヒ王国へ、異世界から勇者となる若者達を召喚したのであった――。
「と、いうのがお前も知ってる表向きの話」
時刻は深夜。ハイリヒ王国の王城のとある一室で、男は世間話をする様に語った。
男の風体は随分と洒落っ気のある物だった。ハイリヒ王国では身分の高い者しか着られない様なモーニングコートを身に纏い、スーツにはアイロンをかけた様に皺やヨレは一切見られない。首には奇妙な形をした六芒星の意匠のネクタイが巻かれており、しかしカッチリとは締めずに緩めた状態で巻かれていた。一見、だらしなく見えるものの、男の伊達な雰囲気がそれを着崩したファッションとして成り立たせているのだ。室内にも関わらず頭に被ったシルクハットも相俟って、『ちょいワルな英国紳士』と表現するのがピッタリと合っていた。
「ところが実際はそんな正義の英雄譚なんかじゃあない。人間達には“エヒト神”と呼ばれているエヒトルジュエが、暇潰しの為に異世界からお前達を召喚したわけだ」
このまま夜会に行っても、令嬢やご婦人方から次々と声を掛けられそうな伊達男はペラペラとトータスの真相を語る。それを部屋の主――中村恵里は胡散臭そうに見ていた。
「………で? ボク達がエヒトルジュエとかいう奴の暇潰しに呼ばれたとして、あんたは何者なわけ?」
その日、恵里は地球から一緒に召喚されたクラスメイトの一人を脅迫していた。切っ掛けは実践訓練として行ったオルクス大迷宮の出来事だ。嫉妬心から同じクラスメイトを奈落へ落ちる様に仕向けた者がいた。周りにはバレてないつもりでいたその男を恵里は脅迫し、自分の手駒にしたのだ。自分が異世界で得た“天職”は“降霊術師”であり、その男が一方的に恋心を向けている少女を言う通りに動く
これで準備に取り掛かれる。元の世界では叶う事が無かった夢、その実現に向けての第一歩を踏み出した事に恵里は内心で小躍りした気分だった。そうして上機嫌で王宮にあてがわれた自分の部屋に帰った恵里だったが――そこに予想外の闖入者が我が物顔でいたのだった。
恵里の質問に闖入者は椅子の上で足を組みながら応える。
「俺はまあ………今はそのエヒトルジュエの使いっ走りといった所だな。残念ながらこの世界の人間達の味方ではない」
「………何? もしかしてあんた、魔人族?」
「不正解。これでもお前と同じ地球人だよ。英霊だけどな」
「英霊……?」
「そう。死後、人間達の信仰によって超常の存在へとなった存在。魔術概念の正式名称で言うなら“
聞いた事のない単語に恵里の目が一層と険しくなる。だが、男は恵里の理解など最初から求めてない様に涼しい顔だった。
「で、その“英霊”サマが何の用?」
「おや、信じてくれるのか。ここで長々とした説明ターンに入ると思ったのに」
「女の子の部屋に勝手に入ってくる様な奴と長話なんてしたくないんだよ。それに………あながちフカシでは無さそうだからね」
男を見ながら恵里はそう呟いた。恵里は“降霊術師”だ。周りには霊が恐いから降霊術なんて出来ない振りをしているが、自分の目的の為に隠れて鍛えていた。
その“降霊術師”としての感知能力が告げていた。目の前にいる相手は、自分が練習代わりに使役している低級霊などとは格が違う。男からまるでこちらが蒸発しそうな巨大な霊力を感じるのだ。それこそ、この世界では最強クラスのステータスを持つ光輝ですら霞んでしまう。だからこそ、恵里は勝手に乙女の部屋に入った不審者に対して誰かを呼ぶ、などの短絡的な行動を取らなかったのだ。
「察しが良い。こっちとしても説明に費やす時間が短く済むなら越した事はない」
ククク、と男は笑う。恵里は背中に流れる冷たい汗を悟られない様に男の出方を伺っていた。
「まあ、誘われても無いのに女の部屋に入るのは確かに紳士的じゃないな。お望みならベッドの上で朝までゆっくり……と言いたいが、そんな暇はないか」
恵里の冷たい目線に男はやれやれと気障ったらしく肩をすくめた。
「教会の修道女にな、エヒトルジュエの人形が化けてる奴がいる。そいつを通じてお前達の行動は把握してるわけなんだが……お前、なかなか面白い事をやろうとしてるそうじゃないか」
一瞬、何の事かと恵里はとぼけようとした。だが、男はそんな恵里をニヤニヤと見ており、自分がクラスメイトを使ってやろうとしてる事がバレている事を悟った。
「……それが何? 神様だかなんだか知らないけど、お前達が勝手にボクをこの世界に連れて来たんだろ。じゃあ、ここで何をするかくらいボクが好きにしても文句ないよね」
「いいや? 別に咎めたいわけじゃないぞ。手段を選ばず、欲しい物を手に入れようとする姿勢は実に俺好みだ。まあ、お前に興味を持ったのは俺だけじゃなく、天上の神様も同じ意見だそうだ。神様はお前を使って、もっと盤上を盛り上げてくれと仰せつかった……それが、
表向き? という言葉に恵里は眉根を寄せる。
「本題に入ろうか。俺は今、神様にやりたくもないパシリをやらされている。こっちは“座”でのんびりしてたのに、迷惑な話だ。今すぐ自害して“座”に還っても良いんだが、それはそれとして死人を勝手に叩き起こした奴に迷惑料を叩きつけたい。そう思うのは普通だろ」
組んでいた足を正し、男は恵里と向かい合った。その眼光に射抜かれた途端、恵里は無意識に唾を飲み込んでいた。
「お前、俺と手を組まないか。それでもって、神様を殺しに行かない?」
それは、まるでデートに誘う様な気軽さだった。だが、男の目はそれが冗談ではないという強い光を放っていた。恵里は口をカラカラにしながら、辛うじて呟いた。
「それで……ボクに何のメリットがあるんだよ」
「だってさ、つまらないだろ。このまま奴の言う通りに踊っても、お前が脅してるあのガキみたいに良いように使われるだけだと思うぞ」
それに、と男は口の端を吊り上げる。それはまさしく―――。
「自分を神様とか言って偉そうにしてる奴って………ウザいから殺したくなるのが筋だろ?」
悪魔の様な笑みで、男はそう言った。
恵里は頭の中を必死でフル回転させる。自分がやろうとしてる悪事が目の前の男にバレたのは致命的だ。しかも男の話し振りでは、神様とやらにも知られている。計画の第一段階の前で、誰にも気付かれずに行うという事は頓挫したと言って良い。そして、天上には自分達を玩具にしか思ってない神がいるというのは計算外だった。召喚された時にそんな話を教会の教皇が語っていたが、まさか神のお告げが本当だとは思わなかったのだ。
(渡さない………)
ギリッと恵里は奥歯を噛み締める。それは自分達を―――そして愛しの王子様までも玩具にしようとしてる神への怒りだった。
(たとえ神様だろうと……光輝くんは絶対に渡さないッ!!)
元の世界では現代社会のルールやしがらみで難しかった未来。邪魔者を排除し、自分だけが光輝の唯一無二のヒロインとなる。この異世界ならば、それが叶うかもしれないのだ。
その為ならば、悪魔とだって手を組んでやる。恋に焦がれる少女はそう決意して、目の前の男に頷いた。
「良いよ……分かった、お前の話に乗ってやる」
でも、と恵里は男を睨む。この瞬間、恵里は目の前の男が人外の魔力の持ち主である事も畏れなかった。
「光輝くんは誰にも渡さない。光輝くんをボクの物にする為に、ボクだけを愛してくれる様に協力しろ。それが条件だ」
「コウキって……ああ、勇者とか言ってる奴の事か。ふうん、そういう事………まあ、良いけどな」
さほど光輝には興味が無さそうに男は頷いた。
「では、契約成立と。お祝いに贈り物をやるからさ、握手しようぜ」
ニコリと笑顔のまま男は手を差し伸べる。伊達男風なこの男がやれば、婦女子達は喜び勇んで手を取りに来るだろう。だが、恵里は最初の時のまま胡散臭い物を見る様な目で男を見ながら、恐る恐ると男の手を取り―――。
「うぐっ!?」
瞬間。恵里の手に硫酸を浴びせた様な激痛が走った。
「何、しやがる……!?」
「ああ、安心しろ。痛みはすぐに収まる」
男の言う通り、恵里の手の痛みは徐々に引いていった。それと同時に痛みが走った手に明確な変化が現れ始めた。
それは入れ墨の様な紋様だった。三画の図形で描かれた、歪んだハートの様な紋様を恵里は驚きながら見つめる。
「それはな、“令呪”という魔術呪紋だ」
恵里の手に刻まれた紋様を見ながら、男はそう言った。
「簡単に言うと英霊と契約した証であり、俺に対する三回の絶対命令権だ。大切に使えよ?」
「……へえ、そう。じゃあ、早速“ボクに絶対服従しろ”って命令してやろうか?」
「おいおい、大切に使えと言ったばかりだろう。そんなあやふやな命令は基本効かないし、そんな事に使う奴なんて素人マスターだけだ。まあ、ともあれ……」
こちらの了承も無しに乙女の肌に紋様を刻まれた事への仕返しに言ってみるが、男は呆れた様にそう返した。その後に男は恵里に向かって芝居がかった仕草で一礼する。
「―――誓いはここに。我が身は汝の下に、我が杖は汝の命運に。
***
『■■■■■! またこんな事をして―――!』
母親は息子の顔を打った。何度も、何度も、息子の頬が腫れても殴る事を止めない姿は教育というより、自分の思い通りにならない子供への怒りが込められていた。
『どうしてお前は私の言った通りに出来ないの! どうしてお前はお父様の様に敬虔な心が持てないの!』
少年の親は敬虔なクリスチャンだった。毎日の様に聖書を読み聞かせ、神への感謝を息子に説いた。きっと息子も自分達と同じ様に神の信仰に目覚めて道徳心に目覚める、と期待していたのだ。
その日、学校で『好きな絵を描く』という課題が出され、家に自分の描いた絵を持ってきた息子は、神や天使の絵を描いたのだろうと母親は思っていた。
ところが、息子が描いてきたのは山羊の絵だった。公園でやっていた移動動物園で見た山羊が記憶に残ったからと語る息子に、母親の怒りに任せて彼の絵を破って捨てた。山羊は悪魔の象徴だ。そんな物を許してはならない。
『聖書の音読をしなさい! 読み終わるまで夕飯は抜きよ!』
ひとしきり息子の頬を打った母親は、聖書と一緒に息子を納屋の中に放り込んだ。ガチャリ、と外から鍵を掛けられる音がした。
『……………』
ようやく静かになり、彼はゆっくりと身体を起こした。薄暗い納屋の中。灯り取りの窓が天井近くの高い場所に取り付けられているだけで、これから日が落ちると文字を読む事すら出来なくなるだろう。それを理解した彼は、一緒に放り込まれた聖書を開いて音読を始めた。
『“はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた……”』
神は全てを作り給い、神の子は人間達の罪を背負って殉教した、だからこの世界は神の愛に満ちている。
その様な旨を音読していったが、彼の心は冷えていく一方だった。一体、こんな仕打ちをしてくれる母親のどこに神の愛があると言うのだろうか。
『神様って……何だろう?』
気付けば、彼の疑問のままに呟いていた。それは自分には愛を向けない神に対する恨み言……ではない。
『天使って何だろう? 悪魔ってどんな形をしてるんだろう?』
それは純粋な探究心。この世界において普遍的な宗教の聖書で書かれた事が、
『世界の始まり………“根源”って何だろう?』
こうして。彼の生涯における魔術の探求が始まった。
目指すは恵里救済もの。オバロクロスの方だと本気で悲劇的な終わり方になりそうだけど、それで終わらせるには寂しいと思ったので。
>魔術師の英霊
多分、正体は分かる人には分かる。とりあえず決定的に名前が出るまで、分かった人は知らない振りをしてくれるとありがたいです。