ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る 作:sahala
でも、自分は書きたいものを優先させて書くタイプなので今回はこちらを優先しました。
光輝の話を要約すると次の通りだった。
いつもの幼馴染み三人組とは運悪く予定が合わず、仕方なく一人で街を散歩していた。すると、通りがかりのとある食堂で揉め事を目撃してしたのだ。
見たところ、食堂の女将らしき女性がガラの悪そうな複数の男達に何やら詰められてる様子だった。
周りの人間は遠巻きに見ているだけであり、ここで光輝の正義感が呼び覚まされた。光輝は女将を救う為、男達に割って入ったのだ。
最初は関係無い奴はすっこんでろ、とすごんでいた男達だったが、光輝は「“勇者”として困ってる人は見過ごさない!」と一歩も下がらなかった。そして相手が“勇者”と知った男達は、光輝に対してこう言ってきた。
「この食堂は自分達に借金がある。この女の亡くなった夫がこさえたもので、自分達は取り立てに来ただけだ。それを邪魔するのが“勇者”の所業ですかい?」
そう言った男達の手には確かに借用書があり、そこで光輝は言葉に詰まったものの、男達に詰められて涙ぐむ女性の前で引くことは出来なかった。そうして尚も食い下がった光輝に、男達はニンマリと笑って言ってきたのだ。
「じゃあ、勇者様が借金を代わりに払ってくれるって事でいいんですよねえ? ならお金の工面をお願いしましょうか? ああ、担保の代わりは背中にある立派な剣で結構ですよ」
そうして売り言葉に買い言葉で、光輝は聖剣を男達に預ける羽目になり、金策の為に動き出したというわけなのだが……。
「いや、アホかお前?」
それまで事情を聞いていたキャスターはバッサリとそう論じた。
「なっ、なんでそんな事言うんですか!」
光輝が食ってかかるが、キャスターは大きな溜息で返した。
「なんで見ず知らずのお前が借金を肩代わりする事になってんの? しかも聖剣を担保にして」
「じゃあキャスターさんはあの女将さんを見捨てるべきだと言うんですか!」
「お前が周りに迷惑かけずに
「ええと……それってやっぱり、問題になっちゃうの?」
自分の善行を否定されたと思って顔を真っ赤にさせる光輝に代わって鈴が聞くと、キャスターは呆れ顔になりながら解説した。
「あのなぁ、お前達の武器は一応国から借り物だぜ? 況してや聖剣は国宝クラスのアーティファクトだ。勝手に売り払うなんざ許されるわけないでしょうが」
うっ、と鈴のみならず光輝も言葉に詰まる。召喚された時から自由に使わせて貰っているので自分の武器の様に扱っていたが、さすがに自分の判断で売ることなど出来ないという事は分かっていた。
「売るなんて、そんな……今、あの男達が言う借金をどうにかする手段を考えていて……」
「それで? 具体的な金策はあるのか?」
「それは……そうだ! いざとなったらリリィを頼る! だって、あの男達は弱い女の人に詰め寄った悪党なんだ! 自分の国でそんな悪事が行われてるなんて、王女のリリィが見過ごすわけが―――」
「うん、改めてアホかお前。借用書は一応あるんだろ? それを王女様の権力で踏み倒させろ、と言う気か?」
「踏み倒すなんて言ってないだろ!」
光輝はムキになって答えるが、いくらリリアーナでもその頼みは聞けないだろう。借金をしても王女の権力で無かった事に出来る、などと周りに誤解された日には国民の信用がガタ落ちするのは目に見えている。
「要するに大した考えも無しに、売り言葉に買い言葉で聖剣を担保にあてたわけか。いやお前、メルド達にどう説明するわけ?」
「っ……!」
キャスターの指摘にとうとう光輝は言い返す事が出来ず、顔を真っ赤にして俯いた。
「光輝くん」
スッと恵里が光輝の手を取った。
「光輝くんはその女の人を助けたかっただけだよね? 大丈夫だよ、私は分かっているから」
「恵里………」
「光輝くんは優しいもんね。目の前の困ってる人を放っておけなかった、という姿を私は知ってるよ。だからさ、一緒に考えよ?」
「あ……ああ! その通りだな! ありがとう、恵里!」
恵里にとってはその女将の事など、どうでもいい。しかし、光輝がかつて自分を助けてくれた時の様に、無辜の人々を救う気持ちを持ち続けてくれた事は嬉しかった。自分はそんな光輝に惚れたのだ。あとはその優しさを自分が独り占め出来ればと思うが、今はその時ではない。そして恵里の目論見通り、肯定の言葉を投げかけると光輝は自分に輝く様な笑顔を見せてくれた。光輝の中で自分の株が上がっていくのを感じていた。
『良い警官と悪い警官』の様に自分をダシに使われたキャスターだが、恵里の心情を知ってかやれやれと肩を竦めるだけに留めた。
「でもさあ、これからどうする?」
鈴が首を捻りながら聞いてきた。
「その人達にお金を返さないと天之河くんの聖剣は戻ってこないんだよね? さすがにこのままだと次の訓練の時とか困るだろうし……」
「……それが本当に返さなきゃいけない金ならな」
え? と鈴達がキャスターを見ると、彼はいつもの様に不敵に笑った。
「どれ、まずは下調べから始めますか。伊達に遊び回ってないって事を教えてやるよ」
***
「―――それで? 勇者様、お金の算段はついたので?」
あれから一時間後。例の食堂に赴いた光輝達を借金取りの男達が出迎えた。
男達はチンピラ一歩手前という風体であり、“勇者”とはいえ光輝の事を「世間知らずな馬鹿な子供」と侮っているのか慇懃無礼な態度を崩さなかった。彼等は食堂を我が物顔で占拠しており、食堂の本来の主人である女将は借金の事で強く出れず落ち着かない様子で借金取り達と光輝達を交互に見ていた。
「いえね? 我々はただ貸したお金を返して欲しいだけなのです。借りた物は返す、それは法律とか以前に人として当たり前の事でしょう? それなのにお金を返して欲しいとお願いしただけで悪者扱いというのはあんまりな話じゃありませんか?」
「で、ですから! 亡くなった夫の借金は少しずつお返ししますから!」
女将が涙ぐみながら訴える様に言うが、男は女将に対してわざとらしい哀れみの目を向けた。
「でもねえ? 元々はお二人で切り盛りされていたお店でしょう? 失礼ですけど奥さん、貴方一人でやっていっても今まで通りお金をお支払いを頂けると思えないんですよ。客足も途絶えている様ですしねえ?」
自分達以外は誰も客のいない食堂を見ながら男は皮肉っぽく言った。正しくは風体の悪い男達がいる為に他の客は恐れて入ってこないのだが、それを無かった事の様に男達は振る舞っていた。
「我々としてもお金を貸して損した、という話になったら困りますからねえ。だから早めに借金を返して欲しいとお願いしてるのですが……まあ、いいでしょう」
俯いてしまった女将から男は光輝へと視線を移す。その手には担保として預かった聖剣が握られていた。
「勇者様が代わりにお支払い頂けるというなら、お話しは別です。王国の一国民として、勇者様の聖剣を取り上げたくはないんですよ? でもねえ、やはり借金の肩代わりされるというなら担保となるものは必要でして」
「くっ……!」
「あ、あの! どうにか聖剣を返して貰う事は出来ませんか? それがないと、天之河くんは戦えないんです!」
光輝が歯ぎしりする中、鈴がチンピラ風の男達に勇気をもって訴える。恐ろしい見た目の魔物はオルクス大迷宮で何度も見て来たが、それとは別に年若い少女の鈴にとって厳つい男達は生理的な恐怖はあった。
「とは言われましてもねえ? こちらも商売でして……まさか勇者様方は自分達は王国の為に戦っているのだから、借金を無かった事にしてくれと言いませんよねえ?」
「あんまりじゃねえか! こっちは真面目に商売してるのによお!」
「勇者様だからって何をしてもいいのかよ!」
取り巻きの男達が大声で騒ぎ立てた。こうなると窓の外から遠巻きに見ているだけだった通行人も、なんだなんだと集まり出す。
「勇者様が借金?」
「それを権力で踏み倒そうだって? まさか……」
「ち、違う! 俺はそんな事なんてしない!」
ヒソヒソと野次馬が噂をしだし、自分にあらぬ疑いをかけられた光輝は慌てて大声で否定した。だが、それを見て何かあると思った野次馬は更にヒソヒソと囁き合っていた。
こんな風に周りから疑いの目を向けられた経験のない光輝は言葉に詰まってしまい、真っ青な顔になり――――――。
「大丈夫」
恵里の手がそっと光輝に重ねられた。
「恵、里……?」
「大丈夫だよ、光輝くん。私だけは光輝くんの味方だよ」
いつも自分について来てくれる幼馴染み達はおらず、周りに味方などいないと思っていた所に恵里の声は光輝の胸に響いた。それが今の光輝にとっては何よりの癒やしであり、優しく微笑む恵里に息苦しかった緊張がほぐれていき――――――。
「ほいほい、ちょっとごめんよ」
唐突に外の人混みから伊達に気取った声が響く。そして野次馬の人混みをかき分けて、キャスターが現れた。
「なんでしょうか、あなたは?」
「ん~、まあこいつらの知り合いというか」
突然現れたスーツ姿の男に借金取り達は警戒する様な目を向けたが、キャスターはいつもの様に胡散臭い笑みを浮かべていた。
「それよりも聞いたぞ、勇者くん。借金を踏み倒そうというのは流石に感心しないなあ」
「キャスターさん……でも俺は……!」
「そ、そうだ! こっちには証文書だってあるんだぜ!」
自分達に同意する様に言うキャスターに取り巻きの男が好機と見たのか、さらに喚き立てる。「おい!」とリーダー格の男が制止する様に言うが、キャスターは驚いた様な顔を見せた。
「へえ、証文書! それがあるなら確定的だな! それで? 現物はここにあるのか?」
「お、おう……」
「ちょっと見せてくれよ。それでこの聞き分けの悪い勇者くんも白黒つけられるだろ」
借金取り達はあからさまに躊躇いの表情を浮かべる。だが、キャスターはニヤリと笑った。
「心配するなって、俺はお前等と同類だよ。悪い様にはしないって」
何をどう見ても悪党にしか見えない笑みを浮かべるキャスターを見て、男達はお互いに目を見合わせる。最終的にこのままでは埒があかないと判断して、渋々といった様子で懐から一巻きの書類を出した。
「ほいよ、ちょいと拝見」
男達から書類を受け取ったキャスターはザッと書類に目を通した後、光輝達や窓の外から見ている野次馬達にも見える様に向き直った。
「さて……ここで一つレクチャーしておこうか。ハイリヒ王国の証文書は魔石を混ぜた特殊な素材で出来ている。まあ、普通の人間なら知る由もないんだが、燃えたり濡れたりしても平気という特別な紙だ。というわけで―――」
ボウッと書類を握った手から炎が生じた。それを見た借金取り達は血相を変えた。
「て、てめぇ! 何しやがる!」
「いや、すまん。それはそうと……なんでこの証文書を燃えたんだろうな?」
ハッと光輝達はキャスターの手を見る。そこには燃えて消し炭になっていく証文書があった。男達は今度は顔を真っ青にしながら視線を逸らす。
「そ、そんなの……その証文書だけ普通の紙だったんだろ!」
「いや、ねえよ。証文書が簡単に無くせる物だと裁判の時に余計なトラブルになるからな。それが正式な証文書なら文書館で作成されたものだし、文書館で作成された物は特殊な手順でないと破棄できない紙になってる筈だぜ」
苦し紛れに男達が言うものの、キャスターは涼しい顔で答えた。
「通してくれ! 王国騎士団の者だ!」
窓の外の人集りから大声でそう呼びかける声がした。そうして人混みを掻き分け、ホセが数名の衛兵を引き連れて現れた。
「ホセさん! どうしてここに?」
「おう、時間ピッタリだな。ありがとな、ホセくん」
光輝が驚く中、キャスターはホセに親しい友人の様に声を掛けていた。
「探しましたよ、キャスターさん。これ、頼まれていたものです」
ホセから一通の書類を受け取り、キャスターは再び周りの人間に見せる様に書類を掲げた。
「さてさて、皆の衆。こちらにありますは、王国の騎士様が文書館から持って来てくれた書類。先程言った通り、ちょっとやそっとでは燃えない」
再びキャスターの手から炎が生じるが、その書類は黒ずんだり燃える事なくそのままの形を保っていた。それを見た借金取り達の顔から血の気が引いていく。キャスターは悪い笑みを浮かべながら書類を読み上げる。
「ではこの書類が何なのかというと、この店の借金の借用書だな。ただなぁ……この書類によると、店の主人が死ぬ前に利息含め支払いは終わってるのだけど?」
「な、ああっ……こんなっ……!」
「ま、食堂のご主人は最後の支払いから間を置かずに不幸にあったみたいだし? そりゃあ遺された奥さんに未払いの借金があると嘘をつくのは簡単だな。でもなあ……勇者くんが出しゃばったからと聖剣まで貰おうとするのは欲をかきすぎだろ?」
ニヤニヤと笑うキャスターから動かぬ証拠と真相を突きつけられ、借金取り達は膝から崩れ落ちた。ホセが目配せすると、衛兵達は素早く借金取り達を取り押さえた。
「お前達を証文書偽造の罪で捕縛する。王国の治安を乱した罪は重いぞ、覚悟しろ」
そして借金取り達は呆然とした顔のまま連行されて行った。
***
「というわけで……食堂が潰れずに済んで良かったねという事で、乾パ〜イ♪」
「ええと、乾杯?」
チン、とグラス同士が音を鳴らせる。キャスターが差し出してきたグラスに鈴は躊躇いがちに自分のグラスで乾杯した。
あの後、自分の店を守ってくれた事に女将はとても感謝していて、せめてものお礼にと食事をご馳走してくれたのだ。
「な? 俺がただの遊び人じゃないと分かっただろ? 敬いたまえ〜、拝めたまえ〜」
「はいはい、分かりました。キャスターさんはすごいです」
鈴はやれやれと首を振りながらも苦笑した。
光輝から話を聞いた後、キャスターはすぐに行動を起こした。光輝からの情報でどこの食堂か特定した後、その店が抱える借金が適正なものか調べ回ったのだ。
とはいえ、言うほどに簡単な話ではない。正式な借金なら証文書は文書館に保存されているといっても、当然ながら文書館が一般人に気軽に見せる許可を与える筈もなく、本来なら申請するだけでも何日も掛かっただろう。
ところが、キャスターがいた事でその時間は大幅に短縮できた。ナンパや夜遊びを通じて顔の広い彼が文書館の受付嬢と何やら話をすると、彼女は少し顔を赤らめながらキャスターの頼みを二つ返事で引き受けたのだ。そうしてキャスターは方々にも声を掛け、借金取り達が逃げ隠れも出来ない状況に追い込んでいたのだ。まさに遊び人として顔の広いキャスターがいなければ、出来なかった事だろう。
「ねえねえ、光輝くん。このお肉、おいしいよ! はい、あ~ん」
「いいよ、恵里。自分で食べれるから」
隣に座った恵里が皿に乗った料理を色々と差し出してくる。今まで香織や雫がいる為に目立たなかったものの、恵里も相当にレベルの高い美少女だ。そんな美少女に隣で付きっきり世話を焼いて貰うなど、健全な男子高校生ならドキッとするシチュエーションだろう。
だが、光輝はその状況に喜んでる様子は無かった。まるで釈然としない様な、自分の思った結果が出なかった様な面白くないという表情で仏頂面で座っていた。
「俺に解決されたのが不満だったか?」
祝いの席にも関わらず、不貞腐れた子供の様な態度にキャスターはニヤニヤとしながら聞いた。
「そんな事は………」
「おいおい。せめてポーカーフェイスを身に付けてから言ってくれよ、ボクちゃん? 宴の場で水を差さないというのが大人の態度だぞ」
サッと光輝の顔が赤みが差す。睨み付ける彼を見ながら、キャスターはクククと喉を鳴らした。
「まあ、気に入らない奴の活躍でピンチを救われたというのは面白くないだろうな。いっそギリギリまで見守って失敗経験を積ませても良かったんだが、その間に聖剣を売り払われても面倒だ。だから今回は手早く介入させて貰った」
「そんなに天之河くんの剣は凄いものだったの?」
興味本位が半分、もう半分は羞恥で顔を真っ赤にしている光輝の話題を逸らす為に鈴が聞いた。
「もちろん。それこそ他の神の使徒達に配られたアーティファクトなど問題ならないくらいに」
テーブルに立てかけられた光輝の聖剣を手に取る。鞘から抜いて見えた刀身は純白の輝きを保っており、それをキャスターは真剣な―――時折見せる、練達の魔術師としての目になりながら鑑定した。
「
「俺の聖剣ってそんなに凄かったのか……?」
「まあ……女神の類いか、それとも妖精の類いか。これを作った奴が何を考えたかは分からんが、星の聖剣はお前を担い手に選んだというは確かだ。だから、もう少し聖剣の扱いを考えるんだな」
聖剣を光輝に返しながらキャスターが忠告した。自分の剣が強くなる余地があると知り、この時ばかりは光輝も子供っぽい反抗心を潜めて聞いていた。
「食堂の女将さんを助けようとした心意気だけは評価してやるよ。大体の人間は関わりたくないと無視する中、善人としていち早く動けた事は良かった。そんな善性を見せられる奴は今では希少種だからな」
「は、はあ、どうも………」
普段は嫌ってるキャスターから褒められ、光輝は何とも言えない顔になりながら頷いた。
「ただし、今回の借金取りみたいに世の中は悪人の方が多いわけで……そんな輩に食い物にされない様、勇者くんは一端、立ち止まって考えるクセをつけた方が良いだろうな」
キャスターの言葉に光輝は唇を噛みながら俯いた。普段の態度から“だらしない大人”と思っていた相手から正論を言われ、それを悔しがりつつも認めざるを得ないという事に屈辱感を感じてる様だった。
「まあ、真面目なお話しはこのくらいにして。とりあえず今夜は飲むとしよう! せっかくのタダ酒だしな!」
パッとキャスターは場の雰囲気を明るくさせる様に笑顔になると酒の追加注文を始めた。
「もう、キャスターさん。鈴達は未成年だから飲めないんだからね?」
「うん? 今の日本だとそうなのか? でも
「キャスターさん! 鈴を悪の道に引き込まないで下さい!」
「おいおい、飲酒イコール悪とか酒造業が聞いたらキレるぞ? それになあ、お前等は一応ハイリヒ王国の代表だろう? この先、国主催のパーティーとかで酒を勧められる機会もあるだろ? その時に備えて少し飲み慣れた方が良いんじゃねえか?」
「いや、それとこれとは……」
「光輝くん、良いんじゃないかな? キャスターさんの言う通り、ちょっと飲んでみるのも良いと思うの」
恵里が光輝を宥める様に言った。その目は、「酔った光輝をあわよくば……」と獲物を狙う眼光になっていたが、光輝は気付かなかった。
「まあ……恵里がそこまで言うなら」
***
「だからぁ~! おれは勇者として、この国を救わちゃいけないんれす!」
「きゃあああ! 光輝くんはやっぱりかっこいいい~!」
「アハハハハハハ!」
三十分後―――そこにはすっかり出来上がった地球三人組がいた。
「おう、兄ちゃん! 威勢がいいな! 飲みな、飲みな!」
「はい! 勇者光輝! 飲ませて頂きまふ!」
「ああん♡ 光輝くんはボクのヒーローだ~!」
「えええん! 恵里~、親友である私にも構えよ~!」
面白がった周りの客から勧められるままに光輝は目を据わらせながら新たなジョッキを片手に敬礼し、恵里は普段の猫かぶりの口調を忘れて真っ赤な顔で光輝に抱きつき、鈴は泣き上戸になりながら恵里に抱きつく。
初めての飲酒でタガが外れてしまった三人はペース配分など考えずに次々と飲み、酔って浮かれる三人にいつの間にやら他の客達も集まって大宴会が始まっていた。
因みに恵里もかなりへべれけになっており、当初の目論見など頭から完全に吹き飛んでいた。
「あらら………最近のお子様はだらしないねえ」
少し離れた席に座りながら、キャスターはやれやれと首を振る。因みに彼も相当の数のボトルを開けているのだが、全く酔った様子がない。
「あのう……」
「ん? どうしたよ、女将さん」
光輝が周りに流されて何回目か分からないイッキ飲みを始める最中、唯一シラフに見えたのか、食堂の女将が少し困った顔でキャスターに話し掛けてきた。
「その、助けて貰った手前でこんな事を言うのも躊躇われるのですけど。さすがにここまで注文されると、無料というのはちょっと……」
ああ……とキャスターは頷く。女将のご厚意で今夜はご馳走してくれるという事になっていたが、テーブルの上にある酒や料理は追加注文でかなりの数になっていた。おまけに光輝達は他の客達も巻き込んでまだまだ酒のお代わりは途切れそうになく、これを無償というのは女将も経営的に苦しいだろう。
よいしょ、とキャスターは席を立ち、帰り支度を整えた。
「勇者くんにツケといて」
そうして数時間後。
次の給料日まで一文無しとなった光輝は「やっぱりアイツは悪人だ!」と二日酔いで痛む頭を抑えながら呪ったのだとか。
***
雄大な草原を一台の車が街道の砂埃を巻き上げながら疾走する。それは中世的なトータスには似つかわしくない現代的な四輪車だった。その横をこれも現代的な二輪車が並走する。
「ヒャッハー! ですぅ!」
「シアの奴、ご機嫌だな。世紀末覇者みたいな声を出しやがって……」
二輪車を運転する兎人族を見ながら、四輪車の運転席で片目に眼帯をしている白髪の少年は溜息を吐いた。
「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」
「ダメに決まってるだろ。もうちょっと大きくなってからな」
「ふふ、ハジメパパは過保護」
海人族の幼女が目を輝かせ、それを膝の上に座らせた金髪の少女は一連のやりとりに微笑んでいた。
「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」
「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」
「……不治の病だから気にしちゃダメ」
後部座席に座る着物姿の女性が危ない感じの息遣いをしており、「この変態が」と毒づこうとしたが、少年は海人族の幼女の手前、教育上に悪そうな言動は控えていた。
「ハジメ、次の目的地は?」
「ああ、フューレンの支部長から頼まれ事があるからな。グリューエン大砂漠に行く前にちょっと寄り道をする予定だ」
「ホルアドか……懐かしいな」
かつて“無能”だと蔑まれていた時の事を思い出し、南雲ハジメは感慨深く呟いた。
まあ、二次創作では色々と言われるし、なんなら自分もオバロクロスで散々な扱いにしてますけど光輝もそこまで酷い人間というわけではないんですよ。善性自体は本物だけど、感情が先走り過ぎて結果と行動が噛み合わないというか……。
今回、前話も含めて一応は伏線回のつもり。しかし十話も過ぎて未だにオリ鯖のキャスターのまともな戦闘シーンも書けないとは……少しプロットを見直した方が良いのかな?