ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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 今までの自分の作品を含めて、ある意味では初めて原作ハジメを書く事になったわけだけど……どうにも言動にチンピラ感が拭えないです。原作ハジメを上手く書ける人は羨ましいな。


第十二話「意外な邂逅」

 地下迷宮に剣戟の音や魔法の光が飛び交う。

 光輝の号令の下、前衛の高校生達は魔物へ斬り掛かっていく。彼等を援護する様に後衛の高校生達は攻撃魔法や補助魔法を使った。

 剣は見事な三日月の剣線で魔物の体を斬り裂き、拳は凄まじい風切り音と共に硬い外殻を打ち砕く。魔物達の爪牙は光の壁に阻まれ、炎弾や氷の礫が弾幕の様に飛び交って正確に撃ち抜いていた。

 数ヶ月前、ベヒモスを相手にオタオタしていた集団とはまるで別人だ。彼等は今や歴戦の戦士と遜色ない風格と腕前を感じさせ、魔物達が全て駆逐していた。

 

「よし! これで終わりだ! 負傷した人は香織や辻さんの治療を受けてくれ!」

「しかしオレ達も強くなったよな。迷宮もあと十階層程度だし、このまま一気に最下層まで行けちまうかもな!」

「だからって油断は禁物よ。キャスターさんも言ってたでしょう? 絶好調過ぎる時ほど、絶不調の入り口だって」

「おっと……確かにな」

 

 雫の注意に龍太郎は有頂天になっていた気持ちを静めた。

 竹を割った様な体育会系である龍太郎は本来ならキャスターみたいに女の子をナンパしまくる人間を敬遠していただろう。だが、初日で近藤達を無傷で制した見事な格闘技を見せ、迷宮でも自分達に的確なアドバイスをするキャスターの事を認めていた。

 

「あの人もすげぇよな。天職が“降霊術師”だってのに、格闘技も強えし。前にボクシングやレスリングをやってたらしいけど、俺もまだ組み手で一本も取れた事がねえよ」

「ええ、それに登山家だった事もあるとかでサバイバル知識も豊富よね。お陰で迷宮の探索もかなり助かったわ。今日は教会からの依頼だそうで、来れなかったのが残念だけど……」

 

 時折、キャスターはフラッといなくなる事がある。朝までナンパした女の子の所に泊まっていたというのはさておき、聖教教会の依頼で迷宮探索について来れない事もあった。元は教会が派遣してくれた冒険者という話だし、きっと何か冒険者の仕事をしてるのだろう。

 雫と龍太郎が話し合っているのを尻目に、光輝は小さな声で呟いた。

 

「……またキャスターさんか」

「光輝くん、汗を拭いた方が良いんじゃない? はい、タオル」

「ああ。ありがとう、恵里」

 

 いつもの様に猫を被った恵里から濡れタオルを受け取り、光輝は顔の汗を拭った。しかし、タオルで周りには見えなかったものの、苦虫を潰した様な表情が顔に浮かんでいた。

 

「はい、これで治ったよ。近藤くん」

 

 周りが先程の戦闘の感想を話し合う中、軽い傷を負った生徒達へ“治癒師”の香織が綾子と共に魔法で治療していた。

 

「し、白崎さん。俺も———」

「辻さん、檜山くんをお願いできる? 私は向こうの人の治療をしてるから」

 

 檜山が声を掛けたが、香織はスッと立ち上がって別の人の治療に向かった。檜山とは目を合わそうともしない。

 

「………っ」

 

 綾子に治療されながらも檜山は香織を暗く澱んだ目で追っていた。

 キャスターによってハジメが奈落へ落ちた原因が檜山にあると判明して以来、香織は檜山に対して口すらきかなくなった。

 あの問答ではっきりと檜山が犯人だと断定されたわけではない。だが、勘の良い者には察しをつけるには十分であり、香織や雫などは檜山を見る目がはっきりと変わっていた。光輝が「あれは不幸な事故で、もう終わった事だから今更蒸し返すべきじゃない」と言い張ってなければ、檜山をパーティーから外す様に多くのクラスメイトがメルドに進言していただろう。

 結局、はっきりとした証拠が無い事で有耶無耶にされたものの、香織は普段でも檜山を視線にすら入れず、戦闘でどうしても治癒魔法を行う時は義務的に淡々とやるという様に存在自体を無視していた。

 

(ふん、最初からお前みたいな奴が白崎に相手にされる筈ないだろ)

 

 愛しの相手から徹底的に嫌われ、その背中に浅ましい野良犬の様な視線を向ける事しか出来ない男を見ながら、恵里は心の中で吐き捨てる。

 

(白崎に自分の好意を伝える勇気も無いくせに、自分より弱そうな奴を虐めて強さをアピールした気でいる。しかも、虐めてた奴が実は白崎に好かれたと知ったら嫉妬で殺そうとする。そんな器が小さい奴を誰が好きになるもんか)

 

 かつては檜山を利用して自分の欲望を叶えようと考えた事もあった。だが、今となってはどうしてこんな矮小な男を自分の計画に組み込もうとしたのか疑問に思う。

 本来ならば恵里は檜山を脅迫して周りの人間を死体人形に変える手伝いでもさせ、魔人族へ寝返る準備をしていただろう。

 しかし、キャスターが現れた事で恵里は王国の人間を殺す必要がなくなった。正攻法で光輝にアピールできる様になり、またキャスターの修行で心身共に自分を磨いていた。その変化によって恵里の心境も変わっていたのだ。

 

「エ〜リリン♪」

 

 檜山を嫌悪感を込めて見ているのを察したのか、鈴が抱きついてきた。鈴から見れば、檜山が香織に変な事をしない様に気を張り詰めさせてると思ったのだろう。

 

「私も戦闘で傷ついたから癒して欲しいなぁ〜!」

「ちょっ、ちょっと鈴! 別に鈴は怪我なんてしてな、って! どこ触ったんだコラ!!」

「え〜? 戦闘の連続で鈴の心は硝子なんだよ〜。ここか? ここがええんか? おいちゃんをその意外とある胸で、みぎゃっ!?」

 

 セクハラオヤジの様に絡んでいた鈴だが、恵里のアイアンクローが顔を掴んだ。

 

「こンの……少しは時と場合を考えろ、セクハラ魔神!」

「アイタタタタッ!? 場を和ませるお茶目なジョークだってば、ってタンマ!? 鈴の背骨はそっちに曲がらないって! ロープ、ロープ!!」

「おお、見事なキャラメルクラッチ。やるなぁ、中村」

 

 流れる様なムーブメントでキャスター仕込みの関節技を恵里は極める。龍太郎が感心した様に呟き、恵里がレフェリーを求めてバンバンッと地面を叩いた。

 

「ははは、本当に恵里は鈴と仲が良いんだな」

「……はっ!? 違うの、光輝くん! これはちょっとふざけあってるだけだから!」

 

 思わず光輝の前で素の性格が出ていた事に気付き、恵里は慌てて鈴から離れてしおらしい女の子の仮面を被ろうとした。もっとも、色々とボロが出てるが。

 

「気にする事はないさ。俺だって龍太郎と時々バカをやったりするんだし、そうやってふざけ合える友達がいる事は良い事さ」

「う、うん……そうだね」

 

 光輝の輝く様なスマイルに恵里はもじもじとしながら答える。勘の良い女子達は「じれったいなぁ、早く告っちゃいなよ!」と心の中で恵里にエールを送り、察しがついた男子達は「白崎さんや八重樫さんに続いてモテモテで羨ましいですな、クソが!」と内心で毒付いていた。

 

「ええと、鈴ちゃん? 治癒魔法かけとく?」

「フッ……親友の恋路を後押しできたなら、本望だぜ………」

「もう一周回って貴方を尊敬すべきかもね」

 

 サムズアップしながら地面に倒れてる鈴に、香織と雫は苦笑しながら助け起こしていた。

 

 ***

 

(まったく、こんなつまらん任務なんぞ普通の冒険者にやらせりゃいいだろうに……)

 

 ホルアドの町を歩きながら、キャスターは内心で不満を言った。

 “神の使徒”を監視する身分として教会から依頼を受けた冒険者という事になってるものの、最近では光輝達もレベルが上がったので迷宮探索の補助は不要と考えられているのか、教会側から光輝達とは別の任務を言いつけられる事があった。

 

 今回の任務は最近、ホルアド付近に出没する様になった盗賊団の討伐だった。本来なら国内の治安維持はハイリヒ王国騎士団の管轄なのだが、メルドを始めとした精鋭の騎士達は光輝達の育成にかかり切りだ。もっとも、既に彼等とはステータスにかなり差がついてしまい、バックアップとして中継地に控えているだけだが、王国の勇者に万が一の事があっては困る為にメルド達の様な精鋭騎士がつけられたのだ。 

 

 しかし、それによって常駐の騎士団の中に精鋭クラスは不在というのを勘付いたのか、それまで身を潜めていた盗賊団の活動が活発になってきていた。残った騎士達では手が回り切らず、とうとう騎士団から教会を通じてキャスターにも御鉢が回ったという事になったのだ。

 任務自体はさほど時間は掛からなかった。いかに数がいようが、ただの人間などサーヴァントであるキャスターからすれば目を瞑ってでも勝てる相手だ。しかし………。

 

(メルドも甘いねぇ。ここまで盗賊団が大きくなる前に、さっさと勇者くん達に()()()()()()でもさせれば良かったろうに)

 

 本来ならば、この盗賊団の討伐は光輝達の任務となる筈だった。

 確かにオルクス迷宮での訓練で光輝達のレベルは上がった。恐らく王国の人間で光輝を上回るステータスの持ち主などいないだろう。

 しかし、魔物を相手取るのと人間を相手取るのは話が別だ。そもそもの話、“神の使徒”達は魔人族との戦争での活躍が求められているのだ。相手が獣ではなく、意思疎通が可能な魔人族(ニンゲン)でも同じ様に戦えるのか。王国や教会の上層部にはそれを疑問視する者もいた。

 だからこそ、盗賊団を相手に勇者達にもそろそろ()()を積んで貰おうという声も上がっていたのだが、それを現場の教官としてメルドが時期尚早と見送らせたのだ。

 

(情でも移ったのかね? どうせ遅かれ早かれ対面する問題なのだから、今の内に腹を括らせた方が良いとは思うんだが………)

 

 もっともその場合、大半の高校生達は精神的外傷(トラウマ)を負うなどして使い物にならなくなるだろう。

 自分が指導している恵里やその他の何人かは別として、どうも彼等は戦争の為にこの国に召喚されたという意識すら薄く見える。おそらく光輝を含めた若者達は、いざ人殺しをしなくてはならない事態に陥ったら「こんな筈じゃなかった」とようやく自らの境遇を嘆き出すのではないか。

 

(あんな風に頭が空っぽそうなのが、最近の若者の風潮なのかね………って、ヤダヤダ。なんか年寄り臭い事を考えてるな)

 

 肉体は全盛期だった若い頃だというのに、精神面は晩年の様に老成してしまっている。

 サーヴァントの不条理にキャスターは溜息を吐きながら、ホルアドの冒険者ギルドへと歩いていた。偽装の身分とはいえ冒険者なので、ギルドに対して報告はしなければならなかった。

 「あ〜あ、めんどくさ」と、キャスターがギルドの建物のドアを開ける。

 次の瞬間――――人間とは思えない殺気の圧力をキャスターは感じた。

 

 ***

 

「てめえ……ウチの子をなに泣かせてんだコラ?」

 

 冒険者ギルドでハジメは周りの冒険者達を凶悪な目付きで睨んでいた。ここにいるのはオルクス迷宮でも二十階層まで攻略できる歴戦の冒険者達だが、彼等は見た目は白髪眼帯の優男であるハジメの殺気に当てられてガタガタと震えていた。

 かつて異世界から光輝達と共に召喚され、檜山の嫉妬によって奈落に落とされた彼は壮絶な経験を経て生き延び、その過程で最愛の吸血鬼少女や賑やかな兎人族の少女、性格に難があるが聡明な竜人族の女性など多くの仲間を得て、今は冒険者として各地の神代魔法を習得する旅をしていた。

 

 ここに来たのは旅の途中で別の町のギルド支部長から手紙を届けて欲しい、と依頼されたからだ。そうしてホルアドに懐かしさを感じながら赴いたハジメ達だったが、ギルドの建物に入った途端に血気盛んな冒険者の一人に絡まれてしまった。

 なにせハジメ達は冒険者としては目立ち過ぎていた。ハジメ本人が優男風の見た目である事を差し引いても、それぞれがタイプの異なる美少女を三人も連れており、オマケに今はひょんな事でエリセンまで送り届ける事になった海人族の幼女もいるのだ。これで周りに注目するなと言う方が無理があるだろう。

 

「みゅうぅ……パパ~!」

 

 そんなわけで場違いなガキを叩き出そうと強面な冒険者が凄んできたのだが、海人族の幼女―――ミュウには刺激が強すぎた。本当に父親というわけではないが、「パパ」と慕われて父性本能が芽生えつつあるハジメは胸に縋り付いて泣くミュウを恐がらせた不届き者に殺気を放ったのだ。

 オルクス迷宮深層部で何度も死にそうな戦闘経験を経て、さらに魔物の肉を喰らう事で魔物の能力も得たハジメのステータスは今や一万を超える。普通の冒険者とは文字通り雲泥の差だ。ハジメが殺気と共に魔力を解放させ、ついでに“威圧”のスキルを使った事で歴戦の冒険者達は巨大な化け物を前にしたかの様にガクガクと震えながら動けなくなっていた。

 

「おい、いま睨んできたやつ」

 

 ミュウを胸に抱いてあやしながら、しかし周りへ容赦なく殺気を飛ばすハジメの低い声が響く。冒険者達はビクッ! と震えた。

 

「笑え」

 

 へ? と冒険者達の声が重なる。

 

「聞こえなかったか? 笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前らのせいでウチの子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ? ア゛ァ゛? 責任とれや」

 

 拒否したらブッ殺す。ハジメの眼光は雄弁にそう語っていた。

 理不尽極まりない命令ながら、冒険者達は強面を引き攣らせて何とか笑顔を作ろうとし————。

 

「HAー! HAー! HAー!」

 

 場違いな笑い声が辺りに響く。場の空気を読まない、というか気にする様子もない陽気な笑い声だった。

 

「ほら、満足かい? おっと、手も振るんだったな。やあやあ、海人族のお嬢ちゃん。こんにちは」

「……何だテメェ?」

 

 声の主にハジメが振り向くと、ギルドの入口に冒険者には見えないシルクハット姿の男―――キャスターが立っていた。ハジメを胡散臭いものを見る様に睨むが、キャスターは意に介さずミュウへ笑顔で手を振っていた。

 

「しかしまあ、随分と変わった連中がいるなと思ったが………へえ」

 

 キャスターは観察する様にハジメ達をじっくりと見た。その表情は珍しい物を見つけた様に興味深そうな笑顔だった。

 

「本当に―――面白いな」

「おいコラ、ジロジロと見てんじゃねえ。用がないならとっとと失せろ」

「固いこと言うなよ、こうして出会えたのも何かの縁だろう?」

 

 自分達に不躾な視線を向ける男にハジメは不機嫌な声を出すが、キャスターは旧来の友人の様に馴れ馴れしく接していた。そしてスッと着物姿の女性———ティオに手を差し伸べた。

 

「黒檀の様に美しい髪をしたお嬢さん。この町は初めてですか? どうでしょう。案内がてら、私と甘いひと時はいかが?」

「なんとまあ、口が達者な男じゃのう。しかし間に合っとるよ。何より甘いひと時より、御主人様の激しい折檻の方がいいからのう」

 

 着物姿の黒髪の女性―――ティオは言葉の途中でポッ♡と顔を赤らめながらキャスターのナンパを断った。その際にハジメが救いようのないものを見る様な目になっていたが、それすらも快感である様に身体をくねらせた。

 

「それは残念。ではそちらのキュートなウサミミの女の子はどうだい? 兎人族は初めて見るが、君みたいな可愛い子がいるなら教会の石頭達も教義替えするだろうな」

「へ? は、はい! ありがとうございますです!」

 

 ティオにふられたばかりというのに流れるようにキャスターは兎人族の少女―――シアを口説いていた。

 ハイリヒ王国では聖教教会の教義から亜人族を穢れた劣等種と見る者が多い中、そんな事を全く気にしてない様に容姿を褒めるキャスターにシアは思わず顔を赤くした。

 

「……シアをあまりからかうな」

 

 咳払いしながら金髪紅眼の少女――――ユエが咳払いした。

 

「シアは純真。何より、私達にはもう一生ついていくと決めた男がいる。安いナンパはお呼びじゃない」

「君は……ふうむ。なるほど、()()()()()だ」

 

 すげない態度をとられたというのに、キャスターは気にする事なく意味深に笑った。その目が一瞬、自分の中の何かを睨め回した様な感じがして、ユエは本能的な嫌悪感から顔を少し顰めた。

 

「まあ、今はどうでもいいか。しかし見た目が若すぎるが、それはそれとして綺麗なお嬢さんだ。金糸の様に美しい髪、そしてどんな宝石も見劣りするルビーの様に美しい瞳……噂に聞く月の姫君とは、きっと君の事を言うに違いない」

「おい。さっきからなに人の連れにベラベラ喋ってやがる?」

 

 自分の“大切”な少女を口説かれたのを見て、とうとうハジメが動き出した。先程の不届き者の様に“威圧”しながらキャスターを睨む。再度を空気を震撼させる圧力を感じ、他の冒険者達はガタガタと震えていた。

 

「二度は言わねえぞ。とっとと失せろ。これ以上喋りたいなら壁に向かって喋ってろ」

「おいおい、つれない事を言うなよ少年。ちょっとお連れのお嬢さん方に挨拶しただけだろう?」

 

 歴戦の冒険者達も息を詰まらせる様な殺気の中、キャスターは先程と全く変わらずハジメに話し掛けていた。まるでプレッシャーという物を全く感じてないかの様だった。

 

「略奪愛というのも燃えるが……ふむ、少年だけ仲間はずれというのは確かに可哀想だな」

「あ゛あ゛?」

 

 今までユエ達の可憐な容姿に惹かれて声を掛けてきた男達はいなかったわけではない。だが、そのいずれかもハジメが少し殺気を込めて睨むと即座に尻込みしていた。それだというのにこのシルクハットの男は一向に退散する様子がなく、ハジメは苛立ちを感じてさらに目線を険しくした。そんなハジメに、キャスターはポンと肩に手を置き――――

 

「………や ら な い か?」

 

 バキュン!

 

 ミュウを抱えたまま、片手のクイックドロウでハジメはくそみそに良いボイスで喋ったキャスターの顔に銃弾をぶっ放していた。もちろん弾はゴム弾だが、キャスターはサッとヘッドスリップで躱していた。

 

「あっぶな! 急に撃つなんて酷いな!」

「うるせえ、死ね。今すぐ死ね、ホモ野郎」

 

 ピタリとキャスターの眉間に銃口を突きつける。貞操の危機を感じて後ろの穴がキュッと閉まったが、それを悟られない為にもハジメは額に青筋を浮べながら口元をひくつかせる。

 

「も、もしや御主人様もそっちの穴を使う事に興味があるのかの? ううむ、責められるのが好きじゃが御主人様にも妾の悦びを知ってもらうのも、あひん♡!」

 

 一人で燃え上がったティオの尻にゴム弾をぶっ放し、再びずっとニヤニヤと笑うキャスターへ銃口を向けた。

 

「なんだよう、皆が幸せになれる提案なのに。俺は可愛いお嬢さん方や少年と遊べてハッピー、そっちも皆で楽しめてハッピー。誰も損はしてないだろ?」

「うるせえんだよ、ホモ野郎。マジで死ね、そこの変態(ティオ)共々、土に還れや」

「ホモとは失礼な、少年愛と呼んでくれたまえ。そもそも少年愛は古代ギリシャから続く歴とした伝統だぜ? スパルタやアテナイでも行われた伝統を同性愛だからと嫌悪するとは、まったく最近の若者は無知で困る」

「よおし、殺す。ミュウ、ちょっと目と耳を塞いでろよ。この社会のゴミをすぐに片付けて……ちょっと待て」

「ハジメ?」

 

 撃鉄を引こうとしたハジメだったが、途中で何かに気付いてその手は止まっていた。ユエが見ると、そこにはまるで信じられない物を見る様な目でキャスターを見るハジメがいた。

 

「お前……何でギリシャとかを知って―――――」

 

「通してくれ! 頼む、通してくれ!」

 

 ギルドの入り口が再び騒がしくなる。迷惑そうな顔に気遣う様子もなく、周りの人間を押しのけながら一人の少年がキャスターの前に進み出てきた。全身を黒い軽装の装備に身を固め、どうにも陰が薄そうな少年はキャスターを見つけて顔を安堵させた様にほころばせた。

 

「キャスターさん! こんな所にいたのか! 頼む、助けてくれ!」

「いやいや、急に言われても困るよ。どうしたよ、遠藤くん?」

「遠藤……? お前、遠藤なのか?」

「え? その声……もしかして南雲か!?」

 

 ハジメが見覚えのある人物に目を丸くすると、陰の薄そうな少年―――遠藤も奈落で死んだと思っていたクラスメイトの再会に驚いていた。

 

「南雲? ひょっとして、この少年が噂の南雲くんか」

 

 こりゃ驚いた、とキャスターは意外そうな顔になる。姿や性格は変わったがクラスメイトとの再会に遠藤は涙ぐみそうになるが、すぐに必死な表情になってキャスターに頭を下げた。

 

「そうだ、こんな事をしてる場合じゃねえ! 頼む! 助けてくれ、キャスターさん!」

「まず落ち着きなって。というか今日は勇者くん達とオルクス迷宮での訓練じゃなかったか? ますは何があったのか、ゆっくり説明してくれよ」

 

 遠藤の様子を見る限り、どうもただならぬ様子というのは分かる。状況の確認も含めて、キャスターは敢えていつも通りのニヤニヤ笑いをしながら聞いた。いつもと変わらぬ様子のキャスターに少し落ち着きを取り戻したのか、遠藤はキャスター達の前でゆっくり話し始めた。

 

「………死んだんだ」

「はあ?」

「だから、死んだんだ! 俺たちの元に魔人族が現れて、そいつの連れた魔物が強くて! 迷宮にいた騎士達はみんな死んだんだよっ!!」

「―――なんだと?」

 

 瞬間、初めてキャスターの顔から笑顔が消えた。




>や ら な い か

 史実からして、この人は性豪かつバイセクシャルです(笑)。
 なんなら美少年の愛人もいたとかなんとか……。
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