ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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あけましておめでとうございます(大遅刻)

年が明けようが、目出度い日だろうが私の書く話はドロドロと暗いものばかりですが、今年もよろしくお願いします。

今回、かなり長くなったので続きはブラッシュアップする事も含めて一週間後に投稿します。


第十五話「影英霊」

 迷宮の洞窟に一陣の疾風(かぜ)が吹き抜ける。黒い靄に覆われながらも、白刃の煌めきを幻視させる一閃は魔物を斬り裂いた。

 

『ちぇりゃあああ!』

 

 一閃、一閃、一閃。

 まるで時代劇の殺陣だ。侍姿の影が刀を振るう度、魔物達は次々と一刀両断にされていく。

 

「な、なんだい、こいつは!?」

 

 突然の敵にカトレアは焦ったまま黒猫の魔物達をけしかける。黒猫達は複数ある尻尾を触手の様に動かし、弾幕の様な密度で侍姿の影に襲い掛かった。

 

(のろ)いのう!』

 

 だが、侍姿の影はその弾幕を嘲る様に笑った。

 触手を躱し、受け流し、時には斬り伏せる。死の弾幕となる筈の触手群は一本たりとも当たる事なく、触手を伸ばしきった隙に侍姿の影は黒猫の首を次々と刎ねていった。

 

「すごい………」

「感心してないで、さっさと光輝くん達を回収しろよっ!」

 

 思わず我を忘れて呟いていた雫達だったが、恵里に怒鳴られてハッとした顔で慌てて地面に倒れた光輝や足が石化して動けない鈴を回収した。

 一方、恵里もまた余裕のない表情になっていた。

 

(くそ………こいつ、ものすごく魔力を食いやがる!)

 

 自分達を苦しめた魔物達を侍姿の影―――影英霊(アサシン)が次々と斬り捨てていく。だが、一方的な戦況でありながら、恵里は自分の中の魔力がガンガンと減っていくのを感じていた。

 

 恵里の新たな降霊術―――降霊術(サモン)影英霊(アサシン)

 これは神山の魂魄魔法を取得した事で身につけた魔術だ。その名の通り、影英霊―――シャドウ・サーヴァントを使役できる。

 神山では試練として歴代の神殿騎士団長の幻影が再現されていた事もあり、対象の魂魄を特定できれば降霊術で英霊の再現体を使役する事も可能だ。この英霊はキャスターと共にエヒトルジュエに召喚された存在であり、キャスターは“自分と共に神に召喚された”という縁から恵里にも使役できる様にしたのだ。

 

『まあ、召喚自体はそこまで難しくないだろ』

 

 魔術師の英霊にして、恵里の師匠であるキャスターはそう言った。

 

『本来なら召喚の下地は“聖杯”がなくては無理だが、どこぞの神様がこの世界に英霊(俺達)を召喚したからな。その縁を手繰れば、召喚そのものの難易度は下がる』

 

 そしてキャスターはエヒトルジュエに敗れて残ったサーヴァントの残滓と呼ぶべき魔力から、サーヴァントの残留霊基―――シャドウ・サーヴァントを使役する魔術を恵里に指南していたのだ。

 

『本当なら最優と名高い剣士の英霊(セイバー)を使役できれば、それに越した事は無いが………まあ、()()()()()()()()()それは無理だ。恵里のレベルを考えるなら、暗殺者の英霊(アサシン)あたりが丁度良いだろう。極東の歴史は詳しくないが、精々が二百年程度前の侍らしいから神秘性もそこまで高くないし、手頃なところだ』

 

 神秘はより古ければ、より強力となる。いくつかの例外はあるものの、それが魔術の大原則だ。

 すなわち神代の様な太古の英霊は強力な存在ではあるが、それだけに多くの魔力を消費してしまう。そういった意味ではキャスターの言葉は間違ってはいなかった。しかし………。

 

(何が………ボクにとって手頃だ! こいつ、ちょっと動かすだけで魔力の消費が大すぎる!)

 

 まるで指の先から血の気が失せていく様な脱力感になんとか耐えながら恵里は心の中で毒づく。いかに本来の霊基には及ばないシャドウ・サーヴァント、そして近代に位置する浅い神秘とはいえ、英霊は英霊だ。その魔力消費は恵里が普段使役している低級霊の比ではない。

 キャスターと行った練習では影英霊(アサシン)の召喚だけでかなりの魔力を消費した。実戦で使うのは今回が初めてだが、アサシンの一挙手一投足だけで恵里の魔力は目に見えて減っていってるのだ。

 

(今のボクの魔力量じゃ、もって後三分……いや二分くらい! それまでにどうにか包囲網に穴を開けるしかない!)

 

 今も影英霊(アサシン)が魔物達を蹴散らしているものの、敵の数と自分の残存魔力を考えると全滅など到底無理だ。一点集中で包囲網を破り、その隙に逃亡するしかない。ところが………。

 

「光輝、無茶よ! ここは一端、引くべきだわ!」

「恵里だけを戦わせるわけにいかない! よく分からないけど、あの侍の影が魔物を圧倒してる今こそがチャンスなんだ! みんなで協力して魔人族を倒すんだ!」

「光輝くん! 恵里ちゃんだって苦しそうだよ! あの黒い侍が戦ってる間に皆を連れて逃げるべきだよ!」

「香織の言う通りだぜ! 悔しいけどよ、谷口みたいに自力で動けない奴だっているんだ!」

 

 香織に介抱され、先程よりは傷が回復した光輝は引き止めようとする雫達と口論していた。

 詳細は分からないものの、雫達は侍の影(アサシン)を操っているのが恵里の仕業だと分かっていた。そして同時に時間を経つ毎に血の気が失せていく顔色を見れば、相当に無理をして戦ってるという事も。その時間を無駄にしない為にも光輝を連れて逃げるしかないと判断したのだ。

 

「香織、龍太郎、なんて事を言うんだ! メルドさんだってまだ助けれてないのに………仲間や恩師を見捨てろって教わったか!?」

 

 だが光輝の中の常識からすれば、女の子に必死に戦わせ、自分だけ尻尾を巻くというのはあり得ない選択だ。自分は“勇者”なのだ。仲間達を助けられないで、何が“勇気ある者”か。

 何より………先程、檜山達に言われた事を思い出す。

 

 “キャスターがいれば、こうはならなかった”。

 

 その言葉が光輝の中で『ここで魔人族を倒せなければ自分達はキャスターがいないと何も出来ない』と言われた様に感じて、光輝から逃亡という選択肢を奪っていた。

 

(おい、何をグズグズしてるんだよ! 早く光輝くんを連れて逃げろよ!)

 

 せっかく稼いだ時間を光輝が駄々をこねて無為に過ごしてるのだが、会話の詳しい内容を聞く余裕など恵里にはなかった。何故か光輝を連れ出さない雫達へ目で訴えるも、やはり動く様子は無い。

 そうしてる内にとうとう恐れていた事が起きた。恵里の魔力は底をつき始め、それを示すかの様に影英霊(アサシン)も姿が朧気になっていく。黒い靄は空気に溶けていく様に薄れ、ただでさえ不確かな実体は半透明になって消え掛かっていた。

 

「ハァ、ハァ……くそおおおおおっ!!」

 

 水に溺れている様な荒い息を繰り返し、もはやクラスで演じていたお淑やかな女の子の仮面も被る余裕が無くなっていた。恵里は汚い言葉で罵りながら最後の魔力を振り絞った。狙うは―――カトレアの首。

 

「っ!? アハトド!」

 

 恵里の殺気に気付いたのか、カトレアは瀕死のメルドの首根っこを掴んでいた魔物(アハトド)に命じた。アハトドはカトレアの前に出て、更にグッタリしたメルドを盾の様に突き出した。

 

(メルド……でも、関係無い!)

 

 恵里の想いに応える様に影英霊(アサシン)は消え掛かった体で剣を構える。右手を振り上げ、左手を添え、左足を前に出して構える独特の姿勢だ。

 

 それは、比類なき豪剣と知られる薩摩示現流の“二ノ太刀イラズ”の構え。

 

 暗殺者(アサシン)のサーヴァント――――真名・岡田以蔵。

 

 幕末の時代………剣と思想がぶつかり合い、血に手を染めながらも(オトコ)達が熱く激った時代。その幕末において志士達を恐れ慄かせ、四大“人斬り”の一角として歴史に名を残した彼が誇る最強の暗殺剣(始末剣)

 

「あの構えは、まさか………! 恵里っ!!」

 

 地球にいた時、他流試合を通して示現流の構えを知る雫は恵里の意図に気付いて声を上げた。だが、恵里は止まらずに影英霊(アサシン)に指令を出した。

 

『キエエエエエェェェェエエエィィィッ!!』

 

 裂帛の気迫と共に影英霊(アサシン)は刀を大上段に構える。“猿叫”と呼ばれる独特の掛け声を出しながらメルドを持ったアハトドに向かって駆け出した。

 

『チェストォォォォオオオオオオオオッ!!』

 

 踏み込んだ足が震脚の様に地面を揺らす。その気迫は相手を必ず斬ると決めた必殺の一撃。いかなる防御をしてこようと、その盾ごと頭から股まで唐竹割りにせしめん、と物語っていた。

 恵里の影英霊は本体より大幅に弱体化した姿で召喚される。だが、恵里の最後の魔力を全て込めた一撃は、アハトドはおろか背後に隠れたカトレアをも一刀両断にするだろう。………盾にされたメルド諸共に。

 

(悪いね、メルド。でも………仕方ないだろ?)

 

 メルドに対して恩を感じてないわけではない。教会の人間達が自分達(高校生)を“神の使徒”という名前の戦争の駒ぐらいにしか見てないのに対して、メルドは一人の人間として自分達に接してくれていた。トータスに召喚された当初、右も左も分からない自分達を鍛え、時には戦いに不安を覚える生徒へ真摯に相談にも乗ってくれていた。まさしく異世界から来た高校生達にとってメルドは恩師なのだ。

 

(僕にとって一番大事なのは光輝くんなんだ。だから、光輝くんの為に散ってくれ)

 

 だが、恵里は躊躇しない。何を替えても無事でいて欲しい光輝、そして自分達が生き残る最善の策として、魔人族ごとメルドを斬るのに迷いは無かった。

 自分の魔力だって切れ掛かっている。ここを逃せばもう勝機は無い。

 後でクラスメイト達の中から自分の判断を批難する者が出るかもしれないが、構うものか。大事な光輝の命さえ助かれば良いのだ。

 影英霊(アサシン)は恵里の想いをそのまま反映し、メルドへ刀の切先が迫り―――。

 

「エリリン! やめてッ!!」

 

 ふと、恵里の耳に馴染みの声が響いた。

 光輝の側に近付く為に親友のフリをしてる少女。

 いつも明るく振る舞って、そして今まで恵里が演じていた仮面が脱げても変わらずに接しくれる存在。

 鈴が叫んだのは無意識の事だろう。それは恩師が斬殺される場面を見たくないという想いからでもあり、同時に大切な親友に人殺しをさせたくないという想いもあった。

 その叫びを聞いた恵里は―――今更になって、“友達役”の少女に血で手を染める姿を見られるという事実に気が付いた。

 

「あ………」

 

 その呟きは恵里の口から自然に漏れた。

 気が付けば、影英霊(アサシン)はメルドごと唐竹割りで一刀両断にしようとした剣筋を無理やり曲げ、跳躍しながらの横薙ぎでアハトドの首だけを刎ねていた。

 頭を失ったアハトドはぐらりと倒れ、メルドを手から離して地面に倒れた。

 だが、その代償は高くついた。最後の一撃を放った影英霊(アサシン)は実体を保てなくなり、霞の様に跡形なく消えてしまった。

 魔力を使い果たしてしまった恵里はその姿を呆然と――――数秒前の自分の判断が信じられない様に立ち尽くす。

 

「ガハッ!?」

 

 突如、恵里の背中に衝撃が奔る。地面に転がされて立ち上がろうとした恵里だが、その背中にずっしりとした重さがのし掛かる。

 

「恵里!」

「やれやれ………今のはヒヤリとしたよ。奥の手は取って置くものだねえ」

 

 カトレアが冷や汗を浮かべながらも余裕を取り戻した様に呟くと、うつ伏せに倒れてる恵里の背中に巨大カメレオンの魔物が現れる。先程、姿を消して光輝に不意打ちをくらわせた魔物と同型の様だ。

 

 

「恵里を離して!」

「おっと、それは出来ないよ。何をやったか分からないけど、このお嬢ちゃんは勇者よりも危険みたいだ。このまま死んで貰おうか」

「うぐ、ぁ………っ!」

 

 カトレアの命令を受け、巨大カメレオンは容赦なく恵里の背中に前脚の体重を載せる。メキメキッと、まるで乾いた木を潰していく様な嫌な音が響き、恵里は苦しそうに呻いた。

 

「貴様ァァァッ! 恵里を離せえええっ!!」

「うるさいねえ、そんなに焦らなくともすぐにお友達と一緒の場所に送ってやるよ」

 

 光輝の怒りの声をカトレアは嘲笑う。影英霊(アサシン)にだいぶ数を減らされたとはいえ、魔物達はまだ残っている。恵里が倒れた今、自分の方が優位にいると疑ってない様だった。

 

「ま………待ってくれ!」

 

 唐突に檜山が声を上げた。武器を地面に投げ捨て、両手を上げる。

 

「降参だ! 降参する! だから殺さないでくれっ!」

「檜山!?」

「テメェ、中村を見殺しにする気かよ!?」

「テメェ等こそ状況を見ろよ! 天之河や中村が負けた時点で俺達の命運は決ったんだ! 中村だって俺達を生かそうとしてくれてたんだろ!? 中村の想いを踏みにじってじゃねえよ!!」

 

 雫や龍太郎が批難の声を上げるも、檜山は逆に食ってかかる。自分が助かりたい一心で恵里の行動を勝手に解釈して情に訴えるという手段まで用いていた。

 勇者の光輝、そして予想外ではあったが恵里という二大戦力が負けたのを目撃したクラスメイト達は完全に戦意を失っていた。苦しむ恵里を見ながらも、一部の生徒は投降しようと意識が傾き始める。

 

「ぐっ……お前達は………生き残る事だけ考えろ」

「おや? まだ生きてたのかい」

 

 唐突にうめく様な声が聞こえた。カトレアが呆れた様に目線を向けると、地面に落とされた衝撃で意識が戻ったのか、解放されたメルドが息も絶え絶えになりながらも起き上がっていた。

 

「お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……この世界の人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

 その言葉はハイリヒ王国の騎士団団長としてではなく、メルド・ロギンス個人としての言葉だった。その言葉に呼応するようにメルドの身体から、正確にはその首に下げた宝石が輝く。

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

「抜かせ!」

 

 それは“最後の忠誠”と呼ばれる魔道具。国の中で重役に就くと言う事は国に関する重要な情報を持つ事になる。それを闇魔法、もしくは拷問の類で敵勢力に渡るのを防ぐ溜めにと持たされているものだ。その輝き、魔力の量から普通に行けば、メルドの自爆に魔人族も巻き込まれるだろう。けれど、彼女はうろたえた様子も魔物にメルドを遠くに投げ捨てさせる様子も見せない。

 

「潔いけど………あんたと一緒に死ぬのはごめんだね」

 

 メルドの持つ”最後の忠誠”が爆発寸前に大きく輝く中、カトレアは一言呟いた。

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

 すると、今までカトレアの背後に控えたままだった六本足の大亀が前に出る。そして大口を開けると、“最後の忠誠”の光が急激に弱くなった。

 

「なん……だと……!?」

 

 六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は〝魔力貯蔵〟。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。

 先程の影英霊(アサシン)は剣による物理戦であった為に使い所がなくて控えさせていたのだが、それが功を奏してメルドの“最後の忠誠”を防いだのだ。

 

「言っただろう? 奥の手は取って置くものだ、ってね!」

 

 まんまと策にハマったメルドへカトレアは魔力の刃を放つ。

 そして――――文字通りに最後の力を使い果たしてしまったメルドは為すすべなく、腹を貫かれた。




>影英霊

シャドウ・サーヴァント。現時点での恵里の最強降霊術。
オリジナルよりステータスが2~3ランクダウンした状態で召喚され、自我もないのである程度の自律行動しか出来ない。当然、宝具も使用不可。それでもトータスにおいては破格の強さにはなる。現在の恵里のレベルでは数分間程度の現界が精一杯。
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