ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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前半は原作通りのお決まりの部分。それだけにアレンジしようがないから書くのは大変でした……。


第十六話「勇者の敗北」

「メルドさんっ!!」

 

 メルドの体が崩れ落ちる。その顔は我が身を犠牲にした目論見すら打ち砕かれた無念と光輝達へすまないという気持ちが混雑していた。

 今度こそ終わりだ。それをクラスメイト達は深く自覚した。

 

「あの傷で動けるとは、さすがはハイリヒ王国の騎士団団長。天晴れだよ。さて、こうして実例を見せられた以上、こっちも二度と起き上がらない様にしようか」

 

 自身の腹から流れる血溜まりに倒れたメルドへ惜しみない称賛を送りながら、カトレアは巨大カメレオンに踏み潰されたままの恵里へと目を向ける。主の命令を受け、巨大カメレオンは再び恵里の背中に体重をかけ始めた。

 

「あ、ぎっ……! ゴホッ……!!」

「止めて!! 恵里を放して! 殺すなら鈴を代わりに殺して!!」

「それは出来ないよ。安心しなよ、そんなにお友達が大事なら一緒に死なせてやるからさ」

 

 重さで肋骨が折れたのか、血反吐を吐く恵里を見て鈴は悲痛な叫びを上げる。だが、カトレアは鈴の提案など最初から聞き入れる気など無い様だ。

 

「これで今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

 そう言って、彼女の視線は雫達に向けられる。恵里の処刑はいわば見せしめ。逆らえばどうなるかを実感させるには十分だった。

 

「……るな」

 

 檜山が代表してその提案を受け入れようとした直後、光輝が何かを呟く。その事にカトレアはめんどくさそうに、檜山はまだ邪魔をするのかと睨む様に光輝に視線を向ける。が、両者の表情は程なく驚愕となる。既に満身創痍のはずの光輝から今までに無いプレッシャーを感じ、カトレアは本能的に危険を察知した……こいつをこれ以上生かすのはマズイ、と。

 

「お前達、殺れっ!!」

 

 カトレアの命令を受けて残った魔物達が光輝に向かって動き出す。手にした武器を振り翳し、あるいは巨体で圧殺せんと殺到した。

 

「ふざけるなあああっ!! よくもメルドさんや恵里をおおおおおおっ!!」

 

 雄叫びと共に光輝の身体から光の奔流が立ち昇る。今までに感じた事のない魔力の圧力に魔物達は恐れた様に尻込みしてしまった。

 “限界突破”の終の派生―――“限界突破・覇潰”。

 この局面において光輝は新たな力に目覚めたのだ。

 

「ウオオオオォォォォッ!!」

 

 光の奔流を纏いながら、光輝が聖剣を振るう。それだけで魔物達は纏めてバラバラと肉片となり、手にした武器で殴りかかった魔物は光の奔流がバリアの役割を果たして逆に武器を砕かれていた。

 

「エリリン!」

 

 先程の影英霊(アサシン)に勝るとも劣らない獅子奮迅の戦闘をする光輝。その活躍で恵里を踏み潰していた巨大カメレオンも斬り捨てられ、ようやく恵里は鈴達に助け出されていた。

 

「大丈夫だからね! 天之河くんが今、魔物達を倒して絶対に助かるからね!?」

「ケホッ、ケホッ……騒がなくても、聞こえてるっての………」

 

 意識を失ったらそのまま二度と目覚めないと思ったのか、鈴は恵里の手を握りながら必死に呼び掛けてくる。だが、恵里は眠るつもりなど毛頭になかった。喉の奥から鉄臭い液体がえずいて気持ち悪さがあるが、目だけはしっかりと魔物達を無双する光輝の姿を追っていた。

 

(ざまあ見やがれ、魔人族……これが光輝くんだ! 僕のヒーロー(勇者様)だ!)

 

 殺されかけたヒロインの為に主人公が怒りを爆発させ、新たな力に目覚める。

 今の状況はまさに恵里が憧れた英雄譚のクライマックスだ。光輝が自分の為にあそこまで戦ってくれる姿を前にして、意識を失っている場合では無い。肋骨を何本か折られたものの、それに勝る多幸感が恵里を痛みから麻痺させていた。

 そうしてる内に決着はついてきた。魔物達を斬り伏せ、光輝はカトレアへと迫る。カトレアは咄嗟に土魔法で盾を作るがそれは殆ど盾の役割を果たす事無く真っ二つにされ、聖剣は彼女の身体を斬り裂く。盾が機能しない可能性を考慮して、僅かに後ろに下がった事で致命傷には至らなかったが、それでも十分な深手を負う事となった。そばに控えていた白い鴉の魔物が治癒魔法を発動させるも、すぐには動けず光輝が追撃でトドメを刺すには十分だった。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

 そんな彼女の呟きなんて耳に入ってないかのように義憤の表情の光輝は剣を振り上げ、そしてすかさず振り下ろす。しかし―――。

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 最期を悟ったカトレアが胸元のロケットペンダントを握り絞める。涙を流しながら、まるで愛おしい者へ別れを告げる様に。

 それを見た途端、光輝の様子が劇的に変わった。先程までの魔物達と同じ様に怒りのままに振り下ろそうとした剣が止まり、愕然とした表情でカトレアを見つめていた。その目には困惑と恐怖が映っていた。

 

「………はっ、まさか。呆れたね、もしかして“人”を殺すのは初めてというわけかい?」

「ッ!?」

 

 いつまでも最期の瞬間が来ない事を疑問に思っていたカトレアだが、光輝の顔を見て察しがついた様だ。その眼差しに侮蔑したものへとなる。

 

(何してんだよ、光輝くん! 早くそいつを殺っちゃえよ!!)

 

 光輝はヒロイン(じぶん)の為に戦っている筈だ。そうでなくても、鈴や仲間達のピンチなのだ。ヒーロー(正義の勇者)ならば、それらを脅かした悪を許さずに成敗する筈だ。

 しかし、恵里の想いとは裏腹に光輝は聖剣を構えたまま震えだしていた。

 

「とんだ傲慢だね。まさか魔人族(私達)を“人”とすら見てなかったとはね」

「ち、ちが……俺は知らなくて……だって、イシュタルさん達が魔人族は魔物と変わらないって言ってて………!」

「ハッ………本気でおめでたいね。“大人がそう言ってたから”? あんた、いい歳して自分で考える頭も持ってなかったのか?」

「お、俺は………」

「さあ、どうした“勇者”? 目の前にあんたが倒すべき死にかけの“魔物”がいるよ? 何も躊躇う事なんてないだろ? だって、あんたにとっては“人”ですら無いのだから」

「は……話し合おう。お、俺達は同じ“人”なんだ……話せば、きっと………!」

 

 とうとう光輝は聖剣を下ろし、引き攣った様な笑顔を魔人族にそう話し掛けていた。今は魔人族を殺す千載一遇のチャンスだったのだ。だが、彼にはその選択が出来ない。幼馴染として光輝の性根を知る雫は、光輝に”覚悟”を自覚させられなかった事に悔恨の表情になる。

 

「光輝……くん………?」

 

 そして、恵里もまた愕然と―――まるで今まで煌びやかな理想像として見ていた物が、目の前で崩れ去った様な―――信じられない表情で光輝を見ていた。

 

「来い! グラルド!!」

「なっ!?」

 

 光輝が躊躇してる隙にカトレアが叫ぶ。すると地面から突然巨大な爪が伸びて光輝を脇腹を斬り裂いた。直前にバックステップをしたお陰で光輝の傷は大した物にならなかったが、そこから人間を両断できそうな長い爪を持ったモグラの様な魔物が現れた。

 

「脱出用に控えさせていたこいつも使う羽目になるとはね………こうなったら大迷宮の攻略も二の次だ! あんた達を最優先で殺す!」

「そんな、どうして!?」

「まだそんな事を言ってるのかい? これは戦争なんだ! 未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる! 今後の魔人族の未来の為にも何が何でも死んでもらう! ほら、お仲間を助けに行かないと全滅するよ!」

 

 自分の提案を無視された事にショックを受ける光輝だが、カトレアは逆に覚悟が決った様に脱出様に控えさせていた魔物も全て光輝達に突撃させた。

 雫達も何とか応戦しようとしたが、元から最初の襲撃時のダメージが抜けきって無い上に、戦闘不能となった鈴や恵里達を庇いながら戦うのは分が悪すぎた。

 

「くそぉ! もう一度、俺が……っ!?」

 

 なし崩しに始まった戦闘に光輝は歯噛みしながら戦おうとするが、突然ガクンと膝から力が抜けてしまった。

 “限界突破・覇潰”のタイムリミットだ。“覇潰”は通常の“限界突破”より強力なステータスになるが、それだけにデメリットも大きい。光輝の手から聖剣が零れ落ち、そのまま地面に倒れて動けなくなってしまった。

 

「エリリン……!」

 

 光輝が倒れてクラスメイト達に絶望が広がる中、それでも雫は何とか剣を振るって魔人族と対峙し、龍太郎は倒れた光輝を守ろうと傷だらけの身体をおして戦い、香織も魔力が切れながらも杖を必死に振るって魔物を追い払おうとしている。そうした中で鈴は地面に倒れてる恵里に覆い被さる様にして魔物達から庇った。

 

「………ごめんね」

 

 唐突に鈴が謝ってきた。何の事か分からず、恵里は虚をつかれた顔になった。

 

「あの時、鈴が魔人族を倒すのを止めなければ、こんな事にならなかったよね。ごめんね、ごめんね………!」

「え……あ………」

 

 泣きながら謝る鈴に何と返せばいいか分からず、恵里は意味の無い呟きを漏らした。

 ピシッ、ピシッと鈴の石化が広がっていく。

 

「あはは……もう私も限界、なのかな? 鈴が石になったらさ……魔物の盾に使って良いからね」

「お、おい……なに、言って―――」

「最後にこれだけは言わせて」

 

 鈴の中の魔力が切れて、呪いに抵抗する力も無くなったのだろう。鈴の石化が先程より急速に進行していた。宣言通りに恵里への盾となる様に覆い被さっている“友人役”に恵里が戸惑う中、その“友人役”の少女は泣きそうな顔になりながら、精一杯に笑った。

 

「鈴の友達になってくれて………ありがとうね」

 

 ピシッ―――最後にそう言い残し、鈴は完全に石化した。

 それはまさしく恵里を覆う盾となる様に。

 

「………ふざ、けるな」

 

 恵里の口からポツリとそう漏れる。未だに折れた肋骨が肺に突き刺さり、息を吸う度に激痛がする。だが、そんな事はもはや恵里には眼中になかった。

 

「ふざけるな………ふざけるなよっ!! こんな、こんなっ………!!」

 

 もはや何に対して激昂しているのか、恵里自身も分かっていなかった。だが、最後まで自分を庇おうとした“友人役”の少女を見て、気が付けば恵里は癇癪を起こした様にそう叫んでいた。

 そうして恵里は最後まで出し惜しみしていた左手の手袋下の切り札―――令呪に頼ろうとする。だが………。

 

『ブモォォォォォッ!!』

 

 最初からカトレアは恵里をマークしていたのか、恵里が妙な動きをした瞬間にミノタウロスが巨大な棍棒を恵里へ振り下ろしてきていた。

 

(いやだ………)

 

 振り下ろされる棍棒がスローモーションに見える。最期を予期した恵里の脳が感覚を鋭敏化させているのか、普段なら見える筈のない速度の攻撃もゆっくりと見えていた。

 

(いやだ……いやだ………!)

 

 ミノタウロスは恵里へと棍棒を振り下ろしてくる。それは必然的に――――恵里に覆い被さって石化した鈴へも振り下ろされる事を意味していた。

 

(いやだいやだいやだいやだっ!!)

 

 スローモーションに見えた所でもう身体が動かせるわけでもない。その瞬間、恵里の脳内に「いやだ」の三文字だけが占めていた。

 それは自らの最期を認めたくないのか、歪んでいるとはいえ初恋を叶える事が出来なかった結末を拒否しての事か。

 

 あるいは………一秒後にバラバラに砕かれる“友人役”の少女の姿を幻視してのものか。

 

「いやだあああああああああっ!!」

 

 ドォゴオオオオオオオン!!

 

 恵里の絶叫と同時に辺りに轟音が響き渡れる。突然の出来事に全員の動きが止った。何が起きたのか、と視線を向けると天井が崩落し、紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が地面に突き刺さっていた。

 そして土煙がもうもうと立ち込め―――ストン、と何かが地面に落ちる音が複数響いた。

 

「どうやら間に合ったみてえだな」

「な、南雲っ………余波でぶっ飛ばされかけたぞ! ていうか迷宮の地面を突き破るって、お前………」

 

 土煙の中から何人かの人影が見えてくる。一人は遠藤だと分かるものの、もう一人の方は印象が変わっていて、それが自分達の知る人物だとすぐに結びつかなかった―――香織を除いて。

 

「ハジメくん……!」

 

 声の主―――ハジメは香織にチラッと視線を向けて安否を確認した後、素早く周りを見渡す。そして自分の仲間達へ指示を出した。

 

「ユエはあそこで固まってる奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れてる騎士甲冑の男の容態を見てくれ。神水を使用してもいい」

「良いんですか? 貴重な物なのに……」

「あの人には個人的に恩があるんだ。それに、勇者達の傍に置くには胡散臭いマジシャンもどきよりは遙かにマシだからな」

「ひっどいねえ。これでも俺は聖教教会お墨付きの冒険者だぜ? ひいてはエヒト神様のお墨付きだというのに」

「………尚更に信用できない」

 

 軽薄そうな声に対してユエがボソッと呟く。その声の主は土煙の中から、つかつかと進み出て―――。

 

「邪魔だよ、ステーキ肉」

 

 コツン、と銀色のステッキで恵里へ棍棒を振り下ろしかけていたミノタウロスの頭を叩く。

 本当にコツン、と小突くレベルだ。しかし、その瞬間、ミノタウロスの身体は炎に包まれ、断末魔を上げるより先に消し炭となった。

 

「やあ、お待たせ。どうも大変だったみたいだな」

 

 まるでデートの約束に少し遅れてしまった様な軽い挨拶だ。突然の事態に呆気に取られていた恵里だが、すぐにキャスターを睨み付けた。

 

「何が大変だったな、だ!! 大体、影英霊(あれ)の何処が手頃な魔術だ! お陰で魔力切れで死にかけたんだぞっ!」

「え~? 俺を責めるなよ。シャドウ・サーヴァントくらい、軽々と扱えないのはお前の技量不足だろうに」

「そんな事より鈴を早く治せ! 今すぐに!」

 

 はいはい、とキャスターは懐から小瓶を取り出すと石化した鈴に液体を振りかけた。すると瞬く間に鈴の石化が解除された。

 

「え………あれ、キャスター、さん?」

「やあやあ、鈴嬢ちゃん。起き抜けで悪いけど恵里の事を頼むわ」

 

 「はい、これポーション」と鈴に小瓶を押しつける様に渡し、キャスターは「さて……」とカトレアに振り返る。

 

「これはこれはどうも、褐色肌が素敵なお嬢さん。ウチの弟子やそのお友達が大変世話になった様で………」

 

 いつも街角でナンパする時の様に、キャスターはにこやかに話し掛ける。

 だが、次の瞬間―――カトレアは背筋に冷たい物が奔った。そのオーラにハジメ達も思わず振り返った程だ。

 

 キャスターは………笑っていた。

 

 だが、それを笑顔と呼ぶには無理がある。まるでサメが牙を剥くかの様に、ニィッと口元を歪めて凶暴さを感じさせる笑みだったのだ。

 

「遺書………書いてあるよな?」 




ふと、原作の恵里はこの時に何を考えていたのか気になる。
光輝が日和った事で全員が命の危機になったわけだけど、自分と光輝だけは生き残る算段があったか、光輝と一緒に死ねるならそれでも良いと考えたのか……。

今作では恵里には「利用するだけのコマ」ではなく、「本性を知っても友達でいてくれる子」が出来たから、何がなんでも魔人族を倒したかったんです。そしてそれを「正義の勇者」がやってくれると信じていました。
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