ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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 どうにも最近はありふれオバロより、こちらの方を進めたい気分。物語が佳境なのに急に別作品の執筆を始める作者の気持ちが今にして分かるなあ……。


第十七話「魔術師達の無双」

 ヒュン、ヒュンと銀色の旋風が迷宮の中で巻き起こる。流星の様な軌道を描き、銀色のステッキが魔物の身体を打ち砕いた。

 

『グオオオォォォッ!』

「ふふ。遅い、遅い」

 

 オーク鬼の魔物が棍棒を振るって突撃する。体長は三メートルは優に越しており、人間よりも遙かに大柄な体格に合わせて作られた棍棒は当たれば確実にミンチになるだろう。地響きを立てながら突進してくるそれは最早、正面衝突してくるダンプカーと何ら変わらなかった。

 だが、キャスターはプレッシャーを感じてないかの様に余裕で笑っていた。円を描く様な見事な足捌きで猛進するオーク鬼をひらりと躱わすと、無防備な側頭部にステッキを当てる。

 持ち手(グリップ)には五芒星と六芒星が組み合わさった中心に真っ赤な宝石、持ち手と杖身(シャフト)を繋ぐ中間リングには尾を喰む蛇(ウロボロス)が装飾に施されていた。磨き上げられたかの様な銀色の光沢から恐らくは金属製だろうが、武器というより紳士がお洒落で持つステッキだ。だが………。

 

 ドパンッ!

 

 オークの頭が破裂する。まるで頭の中に火薬があったかの様に脳漿や目玉までを撒き散らした。

 

『ブモォォォォォッ!!』

 

 仲間がやられたの見て、今度はミノタウロスが突撃する。手にした斧を横薙ぎに振るい、当たればキャスターの首を刎ね飛ばす一撃だ。だが、キャスターはボクシングのステップワークの様に地面を蹴り、ミノタウロスの斧をバックステップで躱していた。クルンと手首のスナップをきかせながら、斧を振り抜いて無防備となった頭を打ち抜く。再び、破裂する様な音と共にミノタウロスの頭がはじけ飛んだ。

 

『キシャアアアアアッ!!』

 

 次はカンガルー型の魔物がキャスターに跳びかかる。カンガルーと聞くとお腹の袋で子育てをする愛らしい動物に思えるが、魔物カンガルーがお腹の袋に入れていたのは子供ではなく二本の曲刀だ。それを両手に持ち、キャスターへ斬りかかる。カンガルー特有の脚力もあり、先程の魔物達より俊敏だ。パワーではなくスピードで翻弄する腹積りなのだろう。

 跳びかかりながらの一撃はステッキで受け止められる。だが、関係ない。二撃、三撃と両手の曲刀で次々と素早い斬撃を魔物カンガルーは繰り返していく。絶え間ない連撃について来れず、いつかは首や胴を斬り裂かれるだろう。

 

「おや、速い速い。だが……それだけだな」

 

 ただし、それは相手が普通の人間ならの話だ。二刀の曲刀に対して、一本のステッキで受けて、払い、逆に切り返す。フェンシングの様に振るわれるステッキに魔物カンガルーは受けきれなくなり、やはりステッキが身体に当たると同時に破裂する様に爆散した。

 ヒュン、ヒュンとキャスターはステッキを振り回す。それはまさしく一流のフェンサー(剣士)の様であり、その威圧感を前に取り囲む魔物達は完全に怖じ気づいていた。

 

「さて、次は誰から死にたい?」

 

 ***

 

(あいつ……意外とやるな)

 

 離れた所でキャスターの戦い振りを見て、ハジメは感心していた。彼もまた手にした二丁拳銃で魔物を次々と撃ち抜き、着実に数を減らしていた。

 横目で周りを見渡せば、シアもまたドリュッケン(大槌)で大型の魔物達を次々とミンチにしており、ユエは動けないクラスメイト達を守りながら近付く敵を魔法で焼き払っていた。その最中に何やら喚いていた檜山をユエが頭から水をかけて黙らせていたが、まあ些細な事だろう。

 ともかく、魔人族が連れていた魔物の大群との戦いは既に雌雄を決していた。自分と仲間達がいれば勝てるとは思っていたものの、そこに予想外の活躍をした者がいたのだ。

 

(遠藤からの話だと、俺達とは別に地球から召喚された人間という話だが………)

 

 お互いにじっくりと自己紹介する時間など無かったので軽く素性を聞いた程度だが、どうやら同じ地球人らしい。異世界から来た人間がトータスの一般人より強いステータスになるのは光輝達という例があるから分かる。しかし、それを差し引いてもキャスターの強さはかなりの物だ。

 

(確かラ・キャンとかいう杖術だったか? 前に父さんのゲーム製作の資料で見たな)

 

 ラ・キャンというのはフランス発祥の杖術系格闘技で、ステッキを持ち歩く紳士達が護身術として習っていたものだ。優雅でリズミカルな動きが特徴で、現代でもスポーツとして盛んに行われている。キャスターの杖術はそれを基本とした物だ、とハジメは推察していた。

 ただし、かなり闘い慣れている。格闘技の経験者なら勇者パーティーの中にも光輝を筆頭に龍太郎や永山など何人かいるものの、彼等の武術は心身の育成やフェアプレー精神を第一とした現代スポーツ理念に準じたものだ。さすがに今ではマシになったと思うが、ハジメが勇者パーティーにいた頃はそれが実戦とのギャップで戸惑ったりするなど足を引っ張っていた。

 ところがキャスターの杖術にはそういった躊躇いは見えない。それどころか、競技なら反則になる様な突き、下段から顎への強打なども積極的に使っている。まさにスポーツ理念など二の次にして、より実戦的に尖らせた武術————もっと言うなら、敵を叩き潰す為だけに特化させた凶器術へと昇華させていた。

 

(加えてこいつがさっきから使ってる魔法………なるほどな、そういう絡繰か)

 

 先程からキャスターはステッキで触れるだけで魔物達を爆散させている。だが、その正体も魔石を仕込んだハジメの義眼によって見抜いていた。

 キャスターが使っているのは普通の火炎呪文だ。ただし、魔力の収束が尋常ではない。魔法は普通に発動させるより一点に集中させた方がより高い威力となる。普通に水をかけるより、ホースの蛇口を絞った方が水圧が高くなるのと同じ理論だ。

 しかし、それは言う程に簡単な話ではない。そもそも普通の魔法式の時点で既に魔力を収束させて放っているのだ。ここから更にピンポイントに絞るというのは、ピンセットで砂金を摘まみ上げるような高い集中力と技術が要求されるだろう。況してやそれを戦闘中にやるのは不可能だと普通の魔法師は訴えるだろう。

 ところがキャスターはその不可能を連続でやってのけている。極限まで魔法式を圧縮させ、杖先で相手に触れたと同時に解放。それにより、まるで火薬が炸裂する様に魔物達を爆散させているのだ。

 

(普通に魔法を使ったら魔物自身の魔力が高ければ弾かれる事もあるが、ゼロ距離で発動させれば、その心配はいらねえ。それに加えて、魔物の体内まで魔力を浸透させてから発動させてやがる)

 

 仮に同じ事を普通の魔法師がやろうとしても、そもそも敵との距離を自分から縮めるなどという自殺行為はやれない。だが、キャスターには多数の魔物を相手取れる杖術がある。

 まさに体術も魔法も隙の無い達人。

 大迷宮の奈落で壮絶な経験を経て“最強”を自負してるハジメだが、この世界にはまだこんな強者がいたのかと素直に感心していた。

 

「ちくしょう、ちくしょう!! なんだってんだい、こいつら!?」

 

 一方、敵側であるカトレアは混乱の極みにいた。勇者達を追い詰めたと思ったら恵里の降霊術でピンチに陥り、その恵里が倒れたと思えば光輝の火事場の馬鹿力で逆転され、その光輝も倒れたかと思えば今度は悪夢の様に強い闖入者達だ。優勢と劣勢が目まぐるしく入れ替わり、虎の子である大迷宮攻略用の魔物まで動員したのに四人組に紙の様にちぎっては投げられてる様子はもはや笑いたくなる状況だ。

 

(駄目だ! 勇者達の他にこんな強い奴等がいるなんて情報は聞いてない! すぐにフリード様に報告しなければ!)

 

 カトレアとて魔人族の軍人だ。もはや今の状況で自分に勝ち目が無い事くらいは戦況把握は出来る。勇者抹殺も失敗し、本命である大迷宮攻略も魔物達の損害を考えると不可能だ。任務失敗は厳罰に処されるだろうが、それでも魔人族の未来を思えば未知の強敵達の情報を何としても持ち帰らなければならなかった。

 

「グラルド!」

 

 カトレアは先程に光輝を攻撃しようとした巨大モグラの魔物の名前を呼んだ。この魔物はアハトド達と同じく魔人族の英雄フリードから下賜された特別な魔物で、モグラだけに地中を掘り進む事が出来たからこそ、カトレアは人間達に気付かれる事なくオルクス大迷宮に侵入できたのだ。そして今、グラルドを呼び戻してこの場から脱出しようとしていた。

 

「おっと、そりゃ困るなあ」

 

 グラルドが素早く地中に穴を開けて潜り込む。だが、それを見たキャスターの気取った声がカトレアの耳に届いた。

 

「では、こうしましょう」

 

 クルン、とそれまでフェンシングの様に構えていたステッキを回して、ステッキ本来の持ち方に直した。そして宝石のついたグリップをグラルドが掘った地面の穴に向ける。

 

「“蒼龍”」

 

 一言、キャスターはそう呟く。その瞬間、キャスターの頭上に直径一メートルほどの青白い球体が現れたかと思えば、蒼炎の球体は蛇の様に形を変え、燃え盛る龍へとその姿を変えた。

 

「あれは私の魔法……!」

「悪いね、ユエ嬢ちゃん。さっき見て良さそうだからパクらせて貰ったよ」

 

 ユエが目を見開きながら驚く。先程、勇者達を守るのにユエはこの魔法を使用していた。炎系最上級魔法“蒼天”と神代魔法の一つ重力魔法の複合させたユエのオリジナル魔法だ。だが、それをキャスターは見ただけで真似たというのか。

 その事実にユエが驚く中、キャスターの操る“蒼龍”は体をうねらせながらグラルドの掘った穴へ一直線に飛び込んだ。

 

『ギュエエエエエエッ!!』

 

 穴の中からグラルドの絶叫が響く。地下道の中で“蒼龍”が広がり、逃げ場のない中で燃え盛る炎が行き渡っているのだ。それは高熱炉の中と変わらないだろう。何とか炎から逃れようとグラルドは地上へ出てきたが、地中から蒼炎の龍が追い縋って、その顎でグラルドを呑み込んだ。

 

「そんな!? グラルド!!」

 

 カトレアが消し炭になったグラルドを見て、顔を真っ青にして悲鳴を上げる。この瞬間、カトレアはアハトド達に次ぐ最強戦力を失ったばかりか、この場から逃げる手段も失ってしまったのだ。

 

「くそおおおおおおおっ!!」

 

 最後の魔物の集団がシアのドリュッケンによってミンチに変えられた。逃げる手段も手駒も全て失ったカトレアは、破れかぶれとなって魔法を詠唱した。

 

『地の底に眠り金眼の蜥蜴、大地が産みし魔眼の主、宿るは暗闇見通し射抜く呪い、もたらすは永久不変の闇牢獄!』

 

 それは光輝達を壊滅の危機に追い込んだ石化魔法。あるいは、この魔法でハジメ達が石化すればまだ逃げるチャンスはあると縋ったのかもしれない。

 

『恐怖も絶望も悲嘆もなく、その眼を以て己が敵の全てを閉じる。残るは終焉。物言わぬ冷たき彫像。 ならば、ものみな砕いて大地へ還せ!―――“落牢”!!』

 

 石化の煙が解き放たれる。それはカトレアの近くにいたハジメに向かって放たれ、香織達は咄嗟の事に悲鳴を上げた。その隙に迷宮の奥へと続く通路に向かって走り出す。だが………。

 

「はは……既に詰みだったわけだ」

「その通り」

 

 カトレアの目の前、通路の奥に十字架が浮遊しておりその暗い銃口を標的へと向けていた。乾いた笑いと共に、ずっと前、きっとハジメに攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げるカトレア。そんな彼女に背後から憎たらしいほど平静な声がかかる。

 勇者一味すら石化させた毒の煙。その煙の中をハジメが悠然と進んでくる。彼の身体から出る紅い波動———“魔力放射”によって、石化毒の煙は押し流されて霧散されていた。

 

「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

 軽口を叩くハジメを見て、とうとうカトレアは観念した。

 どこで選択を間違えたのだろうか。勇者達を勧誘などしようとした事か、“降霊術師”の少女が未知の敵(影英霊)を出した時に迷わず撤退すべきだったか、その後に勇者が躊躇った時に逃げていれば、この化け物達に会わずに済んだか。

 様々なifが頭の中を巡るものの、いずれにせよ自分は致命的に運が悪かったのだろうと結論づけるしか無かった。

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

 

 嘲笑するように鼻を鳴らしたカトレアに、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し両足を撃ち抜いた。

 

「あがぁあ!!」

 

 魔物達が死に絶えて静寂が戻った迷宮の中でカトレアの苦痛の悲鳴はよく響いた。そして地面に散らばった魔物達の残骸の上にカトレアは崩れ落ちる。

 

「何を……何をしてるんだ、南雲っ!!」

 

 唐突にハジメの背後で大声が聞こえた。それと同時に、チャキッと剣を構えるような音も。

 

「もう勝負はついただろ! その人はもう戦えないんだ! これ以上の狼藉は許さない!」

「光輝!」

 

 案の定というべきか、光輝だった。キャスターが配ったポーションによって回復したのだろう。“限界突破・覇潰”の代償も抜けて、再び立ち上がった光輝は雫の制止も聞かずにハジメへ剣を向けていた。

 

「おい、勇者。剣を向ける先を間違えてねえか? こいつはさっきまでお前達を殺そうだろうが」

「だとしても殺すのは駄目だ! そうだ、捕虜にすればいい! 無抵抗の人を殺すなんて、勇者として俺が許さない! 南雲も仲間なんだから、俺に免じてくれ!」

 

 この期に及んでこいつは何を言っているのか。

 ハジメのみならず、ユエやシアも理解不能な生き物を見る様な目で光輝を見ていた。だが、光輝は一歩も引かない様子だ。彼の中で自分が言った事は一分の隙も無い正論だと疑っていない表情だった。説得するのも面倒に感じたハジメは、いっそ光輝にゴム弾でもぶち込もうかと考え始め――――。

 

『―――Tejas(炎よ)

 

 光輝に気を取られ、意識の余所見が生じた瞬間。完全にハジメの認知の外で行われた魔法だった。

 何より、それは先程の“蒼龍”の様に派手さもない物だった。大きさにしてはピンポン玉くらい、ほんの小さな火の玉が放たれ、ハジメの横をすり抜けていったのだ。そうしてカトレアの身体に当たり―――――そして、着火。

 

「ああアアアああああっ……!?」

 

 カトレアを中心に巨大な火柱が上がる。それはカトレアのみならず、周りに散らばった魔物の肉片も巻き込んで燃え盛った。まるで地獄の劫火だ。魔物の頭を容易く爆散する様な炎が外に解き放たれ、あまりの熱量にハジメも思わず片腕で自分の目を庇った。

 炎の中からカトレアの絶叫が聞こえる。炎の渦に遮れて見えないが、中でもがき苦しむ様に身体を捻らせる人影をその場にいる全員が目撃した。

 やがて、カトレアの声が唐突に途切れた。それと同時に炎の渦は収束する様に中心へと消えていく。そうして炎が晴れた所に………カトレアの姿は無かった。あるのは、飛び散っていた魔物の肉片も血も焼け焦げた真っ黒な痕。そして、肉が焼けた様なべったりとした脂っこい空気。

 

「はい、これで終了」

 

 生まれて初めて、人が焼ける瞬間を見てしまった。その事実にクラスメイト達がショックを受けて言葉を失う中、魔法を放った人物―――キャスターはいつもと変わらない様子で気さくに話していた。

 

「いやあ、間一髪で命が助かって………そして殺しにきた奴が死んでくれて良かったなあ、少年少女諸君?」




>ラ・キャン

 フランス式杖術。間合いを詰められた時の備えとして、サバットと平行して習うのだとか。
 史実のキャスターがラ・キャンを習っていたという証拠はないけど、少なくともボクシングやレスリングのチャンピオンになれるくらいは格闘技に精通していたのは事実なので。

キャスター「近代の魔術師なら護身術くらい習って当然だろ。……うん? 自作の礼装があれば十分、と研究畑なのに聖杯戦争に参加した奴がいる? 悪いこと言わないから、工房に引き籠もってろっての」

 なお、接近戦もこなせると言ってもあくまでキャスタークラスとして、のレベル。三騎士が相手だと普通に負ける。
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