ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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とある作者さんから。
『P.S. 原作の展開通りにはやらず、必要なシーンを抜粋していけば短めに終わる筈。そう思っていた時期が私にもありました』

ワイトもそう思います。


第二話「新しい仲間」

 ザワザワ、と十代の少年少女達がホルアドの町に集まっていた。異世界より召喚された勇者一行。その実、傲慢な神の退屈凌ぎに喚ばれただけの高校生達は、初遠征で起きた悲劇的な事件から一週間後にようやくオルクス大迷宮での実戦訓練を再開する事になったのだ。一人の生徒が訓練中に奈落へ落ちた事で死を間近に感じてしまい、実戦訓練の参加者も随分と数を減らしていた。

 

「お前達……一週間前の不幸な事故があった後で、尚もこの国の為に戦う決意をしてくれた事を感謝する」

 

 彼等の訓練教官、メルド・ロギンスは集まった少年少女にそう言った。メルド自身は事故の顛末など納得のいかない事はあるものの、それでも再び訓練の参加を決めてくれた異世界の若者達に感謝していた。

 

「上層部の方で話し合いがあったんだが、以前の様な事を二度と起こさない為にも迷宮に慣れた冒険者を雇う事になった」

 

 メルドが後ろにいる人物に目配せする。すると凡そ冒険者らしくない格好をしたスーツ姿の男が高校生達の前に出た。

 

「どうも。ご紹介に預かった雇われ冒険者です。俺の事は……まあ、キャスターとでも呼んでくれ」

 

 ***

 

「冒険者、ですか……?」

「おう。よろしくな、勇者くん」

 

 高校生達のリーダーであり、“勇者”の天之河光輝は戸惑った表情でメルドから紹介された男を見る。男の身長は190cm以上はあり、非常に体格は良い方だ。だが、シルクハットにスーツ、さらに手に持ってるのは剣などではなく銀色に輝くステッキ。まるでこれから夜会に行くと言いそうな服装の男だった。

 

「チッ……普通の冒険者に何が出来るんだよ」

 

 高校生達の中で一人の少年が、周りに配慮してない大きさの声で呟いた。

 

「おい、礼一! 失礼だぞ! 彼は教会上層部からもお墨付きを貰った冒険者だ!」

「でもよぉ、メルドさん。俺達は“神の使徒”なんだぜ? 普通の冒険者なんか一緒に来ても足手纏いだろ!」

「そうだ、そうだ!」

「そんなイカれた格好の冒険者なんか信用できるか!」

 

 近藤礼一の言葉に、彼の友人である中野新治や斎藤良樹も声を上げる。

 高校生達はこの世界で“天職”に目覚めてから、急激にステータスを伸ばしていた。それこそ、光輝も既に王国の騎士団長であるメルドの3分の2に達している。光輝ほどではないにせよ、近藤達は自分達はこの国では強いのだと認識していた。確かにこの前の実戦訓練では上手くいなかったが、それも()()が周りの足を引っ張って勝手に死んだせいだ。それなのに、今更この国の冒険者より何を教わる必要があるのか。

 

「おい、お前達! いい加減に―――!」

「ああ、別に良いぞ騎士団長。突然やって来て、これから仲間ですという方が無理はあるからな。あの少年達の言うことも一理ある」

 

 さすがに言葉が過ぎるのでメルドが叱ろうとしたが、キャスターはクルクルと手元で杖を弄びながら応えた。元気の良い若者の威勢を笑って流す大人の余裕がそこにあった。

 

「他の少年少女も声を上げない所を見るあたり、どうも俺は歓迎されてないらしい。そこで、だ」

 

 パン、と弄んでいた杖を手に持ち直す。そして近藤達をステッキの先で指し示した。

 

「一つ、挨拶代わりに軽く手合わせといこうか。そこの元気の良い三人組に俺が勝ったら、正式に採用という事でどうだ?」

「お、おい。何を勝手に……」

「正気かよ、おっさん? 俺達を誰だと思ってるんだよ?」

 

 メルドが制止より先に、近藤達がキャスターを嘲笑う。増長した彼等にとって、彼の発言は身の程を弁えないものに思えたらしい。

 

「おい、檜山! 一緒にこのおっさんに現実というやつを教えてやろうぜ!」

「い、いや……俺はいいよ……」

「あん? なんだよ、ノリが悪いな」

「おーい、話は済んだかー?」

 

 いつもなら一緒に悪事を働く友人が何故か今日は大人しい事に近藤は怪訝な顔を浮かべるが、そこへキャスターは気楽な様子で声を掛けた。

 

「じゃあ、ちょっと向こうでやろうか」

 

 ***

 

「いくらなんでも無茶じゃないかな」

 

 オルクス大迷宮の入り口から離れ、近くの空き地へ移動していた。そこで近藤達三人と対峙したキャスターを見ながら、光輝はそう言った。

 

「メルドさん、止めなくて良いんですか? あのキャスターさん? という人、いくらなんでも三人相手をしようなんて無茶だと思います」

「うむ、だが………」

 

 メルドも自分が止める間もなく、勝手に模擬戦を始められた事に不満が無いわけではない。しかし、教会――それもメルドでは意見する事すら出来ない上層部から、一方的に自分の教え子達のパーティーに加えられたキャスターの実力を量りたい気持ちもあったので強く止めていなかった。黙ってしまったメルドの代わりに、光輝は今度は自分の幼馴染み達に声を掛ける。

 

「なあ、雫もそう思うだろ? 止めさせた方が良いんじゃないか?」

「うーん、どうかしら……? あの人、身のこなしがタダ者ではない気はするけど……」

「そうか? 確かにガタイ良いな、って思うけどよ」

 

 剣道経験者である八重樫雫はキャスターの立ち振る舞いに何か思うところがあるらしいが、逆に空手経験者である坂上龍太郎は首を傾げていた。二人の武道経験者から正反対な意見を言われた光輝は幼馴染みの残り一人、白崎香織へ声を掛けた。

 

「香織はどう思う? ……香織?」

「………あ、うん。何かな?」

「どうかしたのか? 何だか心ここにあらずという感じだけど……」

「ううん、なんでもないよ。大丈夫」

 

 訝しげに見る光輝に対して、香織は取り繕った様な笑顔で答える。そんな香織の気持ちが親友の雫には分かっていた。本当は一刻も早く、奈落に消えた彼の事を探しに行きたいのだろう。その為にもこんな所で時間を掛けるのは不本意といったところか。

 

「ねえねえ。あの人、ちょっとカッコ良くない?」

 

 “結界師”の谷口鈴は無邪気にそんな事を話していた。

 

「マジシャンみたいな格好は驚いたけど、それなのに妙に似合っているというか……ああいうのが大人の魅力ってやつかなあ?」

「う、うん。どうなんだろうね……」

「そういえばエリリン、その手はどうしたの? 前は手袋なんてしてたっけ?」

「ま、まあ、ちょっとね……」

 

 クラスでは鈴の親友――の振りをしてる恵里は、クラス内で演じている地味で大人しい図書委員の仮面で適当な相槌を打ったものの、内心はかなり動揺していた。

 

(はあ!? 聞いてないんだけど! あの野郎、何のつもりでここに来やがったんだ!?)

 

 そもそもあの後、「近々に会う事になる」とだけ言って姿を消したのだ。それがこんな形の再会になるとは思わず、抗議の意味を含めてキャスターを睨むも、当のキャスターはしれっとした顔のままだ。それどころか恵里の視線に気付いて暢気に手を振った。

 

「あ、こっち見た! こっち見た! ひょっとしてあの人、恵里に気があるのかな? う~ん、大人なイケメンを魅了しちゃうんなんて罪作りな女め~!」

「それは絶っ対に無いから」

 

 思わず素に戻りかけて恵里はそう応えるが、キャスターの顔の造形自体はハリウッドスターばりの美形なのだ。一部の女子達はキャアキャアと騒ぎ、それに応えてキャスターも律儀に笑顔で手を振り返すので黄色い歓声は大きくなっていた。

 

「おい、おっさん! 無視してんじゃねえよ!」

 

 近藤が苛立った様に声を上げる。不良である彼等からすれば、女の子の声援を浴びているキャスターは非常に気に入らなかった。

 

「おっと、悪い悪い。でもなあ、()()()()男は女の子に嫌われるぞ?」

 

 クスッとキャスターは笑う。近藤達の中で、このイケメンをボコボコにしたいという気持ちが一つになった。

 険悪な表情で近藤達が武器を構える中、キャスターは手にあるステッキを構え―――なかった。彼は手招きする様にステッキを持ってない手でクイクイ、と指を動かす。

 

「そら、おいで。優しく遊んでやろう」

「テメェ……マジ後悔させてやるからな!!」

 

 完全に自分達を舐め腐った態度に、近藤達の堪忍袋の緒が切れる。近藤は手にしたハルバードを振り上げ、キャスターへと距離を詰めた。その速度はこの世界の一般的な兵士より速く、彼もまた“神の使徒”の一人であると伺わせるには十分だった。

 

「死ねやああああっ!」

 

 模擬戦とは思えない殺気を漲らせながら、近藤はハルバードの刃を振り下ろす。周りの同級生達から悲鳴が上がるが、近藤は気にもせず目の前の気に入らないイケメンの頭を叩き割ろうとして―――。

 

「おっと」

 

 次の瞬間。ひょい、と軽く避けられていた。

 

「危ない、危ない。でも、初手なのにフェイントとか混ぜない大振りな一撃は愚策だぞ?」

「う、うるせえ!」

 

 苦笑交じりに言われた事に近藤は耳まで真っ赤にする。そしてハルバードをさらに振り回す。二撃、三撃、四撃――――。

 

「よっ、ほっ、はっ」

 

 速度が上がっていく斧槍の一撃。だが、全く当らない。キャスターはまるでエクササイズでもしてるかの様に軽い声を上げながら、近藤の攻撃を余裕そうに全て躱していた。

 

「どけよ、近藤! そいつは俺達でやる!」

 

 全く攻撃を当てられない近藤に業を煮やし、中野と斉藤が後ろで魔法の詠唱を始める。魔法職の二人は詠唱はこの世界の人間より速く、そして普通よりも大きな火の球や風を圧縮した空気弾があっという間に完成した。

 

「“火球”!」

「“風球”!」

 

 近藤が飛び退き、キャスターに向かって二人が放った魔法が迫る。これは避けられまいと中野と斉藤はニヤリと笑う中、キャスターは先程から変わらぬ余裕な笑みのまま、銀のステッキを自分の前に出す。

 そして火と風の魔法が自分に届く直前―――クルンとバトンの様に回したステッキによって、二つの魔法は霧散させられていた。

 

「は……はぁああああああっ!?」

「構成が甘い、甘い。これじゃ見ての通り、簡単に防がれるぞ?」

 

 非常識な光景に中野達が目を剥く中、キャスターは初心者にアドバイスする様に笑みを崩さずに応えていた。

 

「さて、と……ギャラリーを待たせるのも悪いから、そろそろ終わりにしますか」

 

 その言葉と同時にトン、とキャスターは地面を蹴る。次の瞬間、キャスターはあっという間に近藤の懐に密着していた。

 

「なっ!?」

「歯を食い縛っとけよ~」

 

 戦士職である自分が全く反応できなかった事に近藤が驚く中、キャスターは軽い忠告と共に拳を握った。次の瞬間、近藤の顔に衝撃。

 

「ブッ!?」

 

 パァンッ! という音と共に近藤の顔が後ろに仰け反る。それはボクシングのジャブに近かった。だが、近藤は鼻の中心に奔った一撃でノックアウトされ、そのまま地面に倒れた。

 

「く、来るんじゃねえ!」

「ぶっ殺すぞ!」

 

 前衛の近藤が倒れたのを見て、中野と斉藤は怒鳴りながら魔法を詠唱しだす。彼等の声は完全に裏返っており、二人は攻撃の為というより、キャスターに近付かれたくない一心で魔法を唱えようとしているのは明白だった。彼等はとにかく目の前の男を倒せる様な、自分の中で最大の威力を持つ魔法を放とうとしていた。

 

「いやいや……前衛が倒れたなら、まずは一工程(シングルアクション)の魔術で牽制するのが先だろ?」

 

 だが、キャスター相手には遅すぎた。またもトン、と地面を蹴ると同時に距離を詰め、中野の鳩尾にボディブローを打ち込んでいた。

 

「ぐっ、げええええええっ!!」

 

 背中まで打ち抜く様な衝撃に中野の詠唱は中断され、さらに胃から逆流した物が口から出て魔法を使うどころではなくなった。地面に手を付き、腹の痛みに耐えながら吐瀉物の中に伏せてしまう。

 

「ひっ、ひぃいいいいいっ!」

 

 あっという間に残りが自分一人だけになったのを見て、斉藤は悲鳴を上げながら魔法を撃とうとキャスターへ手を向ける。しかし、やはりキャスターは素早く距離を詰め、斉藤の手を絡め取る様にして背後に回っていた。

 

「よ~しよし、良い子だ。撫でてやるぞ」

「ぐ……げ……離、せ……っ!」

 

 背後に回ったキャスターは、そのまま斉藤の首に腕を回して抱きつく様にしていた。しかし、ただ抱きついているのではない。

 

「お、おい……あれ、裸締めじゃねえか?」

 

 格闘技の経験がある龍太郎が真っ先に声を上げた。キャスターの腕はV字の形で完全に斉藤の首を締めており、それが熟練の格闘家の技となってる事に彼は気付いたのだ。完全に決まった技は斉藤の脳を酸欠状態に陥らせ、彼は蒼白な顔のまま何とか逃れようとするものの、キャスターの両腕は獲物を捕らえた蛇の様にガッチリと締め付けていた。そして斉藤の首にチョークスリーパーを決めながら、キャスターの手はゴシゴシと斉藤の頭を撫でていたのだ。

 

「まあ―――加減を誤って、ポキンといっちゃうかもだが」

 

 耳元で囁かれた一言に、斉藤はガタガタと震え出す。恐怖で酸欠で顔を真っ青にして暴れるが、キャスターの腕の力は緩む事なく―――。

 

「もういい! そこまでだ!」

 

 メルドの声が割って入る。

 

「キャスター殿の力は十分に分かった! これ以上は模擬戦を続ける必要は無い! これで試合終了だ!」

「……は~い」

 

 早口で言うメルドに、キャスターは余裕な笑みのまま斉藤のチョークスリーパーを解いた。ドサッと地面に落ちる音と共に斉藤は解放された。

 鼻血を流し、白目を剥いて気絶する近藤。

 未だに嘔吐きながら吐瀉物の中で地面に手を付く中野。

 同じ様に地面に伏せ、ゲホゲホと咳き込む斉藤。

 不良グループとはいえ、自分達と同じ“神の使徒”三人を容易く一蹴したキャスターに皆、驚愕の視線を向けていた。

 

「その……礼一達が大変失礼な態度を取っていた事を謝罪する。しかし、キャスター殿はなんというか、見た目に反して随分と格闘技に精通されているのだな」

「これでも一時期はボクシングやレスリングをやってたんでね。しかし、まあ……日本人(ジャパニーズ)は奥ゆかしさと礼儀正しさを重んじる民族だと思っていたが、最近ではそうでもないのかね」

「日本を知っているんですか!?」

 

 光輝が驚いた様に声を上げる。

 

「ああ、だってお前達と同じ地球人だったからな。因みに日本にも行った事があるぞ」

「まさか……光輝達以外にも“神の使徒”がいたとは……」

「さあ? 俺がトータスに来たのはエヒト神の仕業かは知らないな。気が付いたら、異世界に迷い込んだというやつだから」

「そうなのか……しかし、そんな人間がいたとは知らなかったな」

「吹聴する様な事でもないからな。異世界で自由気ままな冒険者生活を楽しんでいたら、教会からどうしてもと言われたから来たわけだ」

 

 あの祠を壊したのが異世界転移の原因かねえ、とキャスターは冗談っぽく言っていたが、同時にメルドは納得がいった。光輝達と同じ異世界人というなら、この強さも当然ではあるだろう。

 

「まあ、そんなわけで同じ地球人同士、仲良くやろうじゃないか。勇者くん」

「え、ええ……」

 

 友好的な笑顔を浮かべながら、キャスターは手を差し伸べる。はっきり言って胡散臭さを感じる笑顔なのだが、光輝は自分達の他に地球人がいたという事に驚いてキャスターにされるがままに握手していた。それを恵里は険しい目付きで見ていた。

 

(こいつ……最初からこうやって取り入るのが目的だったのか?)

 

 周りを見れば、雫や香織の様に注意深く見ている者もいるがほとんどのクラスメイト達はキャスターに対してすっかりと警戒心を解いている様だった。異世界の地で会った同じ地球人、それも不良グループを一蹴するぐらいの実力の持ち主という事で心強い仲間ができたとでも思っているのだろう。

 

(どこまでもおめでたい奴等だよ……あるいはそれを見越して、こんな茶番をしたのかもな)

 

 これでキャスターは堂々と自分や光輝達の周りをうろつける様になったのだ。キャスターの協力者である恵里からすれば好都合な事態ではあるが、それでもあっという間にクラスメイト達の人心掌握を行っているキャスターに対してむしろ警戒心が出た。自分が手駒にした男―――檜山と違い、こちらは一筋縄ではいかないらしい。

 

(いいとも……やってやるよ。あいつや天上の神様とやらが何を考えていようが、絶対に最後にボクが笑ってやる!)

 

 馴れ馴れしく光輝と握手をしつづけるキャスターを睨みながら、恵里は決意を改める。

 

(光輝くんは……必ずボクの物にするんだ!)




>キャスター・マテリアル その1

 魔術師の英霊であるが、生前はボクシングやレスリングに精通するなど格闘技は得意な方だったらしい。また、日本にも行った事があるなどかなりアクティブなタイプだったとか。
 
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