ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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 ううむ、予定よりシーンが進まなかった……。まあ、いいさ。書けるだけマシだと自分を慰めてます。


第十九話「微かな疑念」

 ホルアドから大陸の西側へと繋がる街道を魔力駆動四輪が進む。トータスの街道は地球の道路みたいに舗装されていないが、生成魔法を習得したハジメが作った四輪車は砂利道であろうと内部に余計な振動を与えない設計になっていた。

 

「車まで作っちゃうなんて本当にハジメくんはすごいね!」

 

 魔力駆動四輪の中でハジメの旅に新たに加わった少女―――白崎香織が興奮気味に呟く。

 オルクス大迷宮から脱出した後、冒険者ギルドへの報告も終えて立ち去ろうとしたハジメに、自分もついて行くと言い出したのだ。

 短い遣り取りではあるが、ハジメがユエを“特別”にしているのは理解できた。

 自分がなりたかった立ち位置に既に別の少女がいるという事も。

 だが、それで諦める気など香織には無かった。途中で光輝が強引に引き止めてきたが、それすらも振り払って香織は自分の想いを優先させる事にしたのだ。

 

「そうなの! パパはすごいの!」

「ふふ、そうだね~。ハジメパパはすごいもんね~。ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

 

 隣に座るミュウに香織は甲斐甲斐しく構っていた。その様子はまさしく母と子の様で、将来にハジメが本当に“パパ”になった時の予行練習さながらなのだが……。

 

「ふ……先約は私。既に約束済み」

 

 香織の魂胆を見抜いていたユエは香織に勝ち誇った顔を見せていた。

 

「む……それはまだ分からないんじゃないかな~? ハジメくんだって、結婚する年齢までまだまだ時間あるし」

「それ、チキュウの法律? でも関係ない。何故なら私は今すぐでも嫁入りの準備は出来てる。ご両親への挨拶まで考えてある」

「うっ……でもでも! ユエは地球にいた時のハジメくんの生活とか知ってるのかな?」

「む……」

「ハジメくんが好きな漫画やアニメとか、将来の夢とか! ユエの知らないハジメくんをいっぱい知ってるから!」

「むむっ……!」

 

 パチパチパチパチ、と軽い火花が二人の間で交差する。その様子を後部座席から見ていたシアは隣のティオに話しかけた。

 

「ひゃあ〜……女の子同士の熾烈な戦いですよぅ。これ、止めた方が良いんじゃ……」

「その必要はなかろうて。二人とも本気で争おうとしてるわけではないみたいじゃのう。ただの戯れ合いじゃよ」

「はあ、そういうものでしょうか……?」

 

 シアはハラハラしながら見守っているものの、確かに二人の間に女のドロドロとした嫉妬はなかった。

 ユエからすれば、香織は初めての明確な恋敵(ライバル)だ。シアは実質的に妹分みたいなものだし、ティオは変態なので論外。なので真正面から自分と張り合おうとしている香織を好ましく思っていた。

 一方の香織もユエの事を嫌っていなかった。親友である雫はともかく、地球ではやる気のないオタク生徒としてクラスメイト達はハジメを嫌っていた為、ハジメの良さをたっぷりと語り合えるユエは数少ない同士なのだ。

 そんなわけで喧嘩と称しつつ、『ハジメの良い所100選』を言い合っていた二人だが、ふと当のハジメが何も言って来ない事に気付いた。

 

「ハジメくん、どうかしたの?」

「……なあ、香織。あのキャスターという冒険者は何者だ?」

 

 ハジメはハンドルを握ったまま香織に聞いた。その顔は先程までのユエ達のやり取りを聞いてなかったの様に真剣そのものだった。

 

「俺達とは別に地球から来た、という事は聞いたけどな。それ以外に何か香織は聞いてないか?」

 

 “神の使徒達”(クラスメイト)の護衛として教会から雇われた冒険者。自分達と同じ地球出身者。

 それだけならばハジメもあまり気に留めなかっただろう。異世界(トータス)で地球の人間に会えたというのは驚いたが、自分達の旅の目的にはあまり関係ない。

 だが、その強さははっきり言って異質だ。地球人はトータスの人間よりステータスに恵まれやすいと言っても、勇者すら上回るだろう戦闘技術、そして魔人族の女を躊躇なく焼き殺した胆力。それらは元が地球の一般人とは思えない程だ。

 香織は突然の質問に目をパチクリとさせたが、ハジメの真剣な目付きに見て考え込む様な表情になった。

 

「う~ん………実は私もキャスターさんの事を詳しくは知らないかな。なんというか、あの人はよく冗談を言ったりする人だから。異世界(トータス)に来たのも、因習のあった村の祠を壊して気付いたらここにいたとか、山に登ろうとしたら霧深い道に迷ったとか、バミューダ海域を泳いで渡ろうとしたら渦に吸い込まれたとか、聞く度に言ってる事が変わるし………」

「………嘘くせえ」

「あ、でも登山家だというのは本当だったみたいだよ。迷宮でもサバイバル知識でいつも私達にアドバイスをくれたし。どこの国の人というのは教えてくれなかったけど、色々な国には言ってたみたい。それこそ日本にも来た事あるとかで、旅行話を皆によく聞かせてくれたなぁ。大体は現地で会った女の子の話だったけど………ああ、そうそう。地球に居た頃から魔術の研究をしてたみたい」

 

 何だって? とハジメは思わず半目になりかけていた目を見開いた。横で聞いていたユエも小首を傾げる。

 

「どういうこと? ハジメの故郷は魔法がない代わりにキカイ? というのが発達した文明だと聞いた」

「魔法と魔術は別物とキャスターさんは言っていたけど………なんでも一般人には知られない様に、地球の魔術師達のほとんどは秘密結社みたいな所に所属して研究してるんだって」

「秘密結社、ねえ………?」

「ハジメさん、なにか心当たりでもあるんですか?」

「いや、まあ………フリーメイソンとかイルミナティとか、そういう話が無いわけじゃないんだが」

 

 地球で有名な秘密結社の名前を上げながら、シアの質問にハジメは難しい顔で答えた。確かに地球では魔法や超能力などは存在せず、オカルトな迷信やインチキだというのが一般常識だ。しかし、漫画やアニメ(フィクション)だと思っていた異世界があった様に、地球に魔法など全く無いと思ったのは早計だったかもしれない。単に自分の様な一般人には知らされてないだけなのだろう、とハジメは認識を改めた。

 

「それこそ奈落に落ちたハジメくんは生きてる、と前に占って貰ったからね。しかもハジメくんの側に女の子がいる事までぴったり当たってたし………。ただ、キャスターさんの場合は魔術師達の秘密結社……“時計塔”? とかいう組織とは折り合いが悪くて、フリーの魔術師をやってたそうだよ。もしも私達が地球に帰れたら“時計塔”には注意しておけ、って言ってたの」

 

 でも“時計塔”って何だろう? と香織は首を傾げる。キャスターはロクでもない連中の集まりと言っていたが、トータスの魔法使い達とはどう違うのだろうか? 

 

「まあ、それはそれで気にならないわけじゃないが………他にキャスター自身で何か分かってる事はないか?」

「うむ? ご主人様はどうもあの御仁が気になってる様じゃのう? はっ、もしや!? 後ろの穴を狙った男が気になって、アヒンッ!?」

「みゅう……後ろの穴?」

「………ミュウは知らなくて良い」

 

 何やら薔薇色の妄想を広げた変態(ティオ)を振り向かずに空気弾で額を撃ち抜く。

 ミュウをよしよしと撫でるユエを尻目に見ながら、ハジメは続きを促した。地球の魔法事情は興味を引かれるが、少なくとも異世界にいる今は関係ないだろう。

 

「他にというと………ああ、そうだ。恵里ちゃんとよく一緒にいる事が多いかな?」

「恵里? ええと……すまん、恵里って誰の事だ?」

「私の友達の中村恵里ちゃん。ハジメくん、同じクラスだったのに知らなかったの?」

「ああ、まあ……そんな奴がいた様な、そうでない様な………」

 

 ジト目になる香織から逃れる様にハジメは明後日の方向に目を逸らした。教室でも寝てばかりで交友関係が皆無だったハジメからすれば、香織や雫の様に目立つ女子でなければ記憶に留めていなかった。

 

「恵里ちゃんは大人しい子でね。トータスに来た時に“降霊術師”の天職になったけど、最初は霊が恐くて普通の魔法しか使えなかったの。それが同じ天職だったキャスターさんが師匠になってあげたみたい。そうしたら恵里ちゃんはすごく強くなったんだよ」

「ふうん………なあ、その中村という奴、あの野郎に気があって手篭めにされてるとかないよな?」

 

 短いながらキャスターと接した経験から、女ならば誰でも口説いてるとハジメは邪推していたが、香織は笑いながら手をパタパタと振った。

 

「あはは、ないない。そもそも恵里ちゃんが好きなのは光輝くんだよ」

「天之河? そりゃまた意外だな」

「そうかな? 私は幼馴染だから何とも思わないけど、光輝くんはあれでも剣道部のエースだから女の子達から人気はあったし」

 

 学業優秀、スポーツ万能。おまけに容姿に非の打ち所はなし。

 香織が話しかけていた関係からハジメには当たりがキツいが、それ以外は公正で進んで人助けをする様な好青年なのだ。同世代の女の子達は光輝をアイドルの様に羨望の目で見ていたし、それこそ光輝の側にいるのが香織や雫という超A級美少女だからと諦めていた子も少なくない。

 

「キャスターさんが来てから、恵里ちゃんは強さもそうだけど性格も明るく変わったんだよねえ。ハジメくん達について来たのは私の意思だけど、恵里ちゃんの恋の行く末が見れそうにないのがちょっと残念かな」

 

 以前は引っ込み思案で教室の隅にいた様な少女が、頑張って光輝にアプローチしているのだ。それこそハジメに好かれようとした以前の自分と重なる所があり、香織は密かに応援していた。

 

「それにしても、ハジメくんはキャスターさんがそんなに気になるの?」

「まあ………ちょっとな」

 

 香織の問いかけにハジメは難しい顔をしながら頷く。そして他の者達に話を振った。

 

「なあ、香織以外は何かあいつで気付いた事とかあるか?」

「ええと……まあ、結構強い人なんだなぁくらいしか………」

「妾は直接戦ってる姿を見たわけではないからのう。口がよく回る色男ぐらいの印象以外はなんとも」

 

 迷宮で一時は共闘したシアは見た通りの内容、ティオはナンパされた時の印象を述べるだけに留まった。

 

「………少しだけ気になった事はある」

 

 唐突にユエはそう言った。

 

「あの男の魔力………普通の魔法師より、かなり制御されていた」

「どういう事だ?」

「………基本的に魔法師というのは体外に排出させる魔力が大きくなる」

 

 そう言った後、ユエはデモンストレーションの様に魔力を解放させる。ハジメ達の中で最高の魔法師であるユエから溢れ出る魔力は軽く空気を振動させ、魔石を仕込んだハジメの目にも魔力の奔流が立ち上った様に感じていた。

 

「これは全力じゃないけど、魔法を使おうとするとこうなる。それで魔力をギュッと圧縮させると、ギュインとなって、ユラユラしてくるから………」

「ええと、スマン。もうちょい分かりやすく説明してくれるか?」

 

 微妙な顔になるハジメ。そういえばユエは感覚で魔法を使う天才型であり、独特のセンスで説明するクセがあった。

 

「………つまり、魔法を使うときに波動みたいなものがあって、術式を解放する時に魔力は振動するという事?」

「分かるのか!?」

 

 思わずハジメは香織の方を向いた。「さすがは香織じゃ!」、「すごいですぅ!」とティオ達も称賛する。

 

「………そのユラユラ、香織の言うハドウ? というのはどんな魔法師にもある」

 

 暗に説明が下手とハジメ達から言われたユエはムッとした顔ながらも、話を続けた。

 

「これは大きな魔法を使うほど、もしくは本人の魔力が高いほどハドウは大きくなっていく。それなのに………あの男の魔力のハドウはほとんど無かった」

「え? それじゃあ、あの人の魔力は弱かったという事ですか?」

「それはない。私の“蒼龍”は弱い魔力で出力できる魔法じゃないし、況してや並の魔法師が見て真似できる物でもない」

 

 シアの疑問を否定しながらユエは答えた。

 

「そうじゃなくて、あの男は魔物達と戦闘している時もハドウをほとんど変化させていなかった。それこそ、街で会った時と同じくらいに。考えられるとしたら魔力を繊細にコントロールしてハドウがぶれないレベルの達人か……それか、ハドウを大きく変化させずに戦うくらいには本気じゃなかったか」

「おいおい………」

 

 ユエの推測にハジメは思わず溜息を漏らした。自分達とてオルクス迷宮で戦った魔人族や魔物は強敵とは呼べなかった。だが、それと同じくらいキャスターも楽々と戦っていたという事になる。

 はっきり言って、自分達のパーティーは世界最強だろう。ただの驕りではなく、他者と比べた際のステータスやスキルからハジメはそう確信していた。まだ見ぬ狂った神(エヒトルジュエ)にはともかく、自分や仲間たちは並の相手に遅れをとる様な事はないと思っている。

 だが、その認識も少し危うくなってきた。自分達の知らない強者が存在しており、その人物の底も見えてなかった。

 

「ねえ、ハジメくん。もしかして……キャスターさんの事を疑っているの?」

 

 ここまで来れば、さすがに香織もハジメが警戒してる事に気がついていた。

 

「ああ、はっきり言ってな。香織にとっては世話になった奴だから不愉快かもしれねえが………」

「ううん。ハジメくんがそう思ったなら、きっとそう思う理由はあるんだろうね」

 

 香織は首を横に振りながら答えた。

 

「でも、そうなると雫ちゃん達は大丈夫かな………。キャスターさんはこれからも雫ちゃん達の側にいるだろうから」

「まあ、何も保険は打たなかったわけじゃねえよ」

 

 キャスターが不審者だというなら、それこそ置いてきた雫達に何かあるのではないか、と不安になる香織を安心させる様にハジメはポケットから金属製の物体を取り出した。それは小さな蜘蛛の形をしており、複眼にはレンズの様な水晶が埋め込まれていた。

 

「この“アラクネ”は試作型だが、自律行動が出来る様にしてある。監視しか出来ないが、こいつがキャスターに気付かれない様に見張ってるから何かあったら分かるぞ」

「ハジメ、そんな物も作っていたの?」

「まあな。もっとも、常に映像に意識が裂かれるのは戦闘の邪魔になるから、俺が見たいと意識した時にしか見えないのが難点だけどな。どれ、さっそく見てみるか………」

 

 驚くユエに応えながら、ハジメはキャスターに張り付かせた“アラクネ”に意識を向ける。ハジメの生成魔法で作られた極小の監視ユニットは、即座に持ち主へ自分が見ている映像を送った。

 

 そこは―――夜の城下町。露出の多い服を着た商売女相手に、何やら熱心に口説くキャスターの姿が見えた。

 

「………やっぱり、取り越し苦労だったかもしれねえ」

 

 脱力しそうな監視映像に溜息を吐き、ハジメは“アラクネ”の接続を一度切った。

 

 ***

 

「―――なんて、今頃思ってるんだろうなあ………」

 

 ハジメ達より遠く離れたハイリヒ城。人通りの少ない回廊で柱に寄りかかりながら、キャスターはほくそ笑んでいた。

 その手にはハジメがこっそりと張り付かせていた筈の“アラクネ”がいた。だが、その様子はおかしい。“アラクネ”の複眼は澄んだ色の水晶で作られていた筈だが、その水晶の色は今は濁っており、さらには監視対象であるキャスターの手の上で従順なペットの様に大人しく乗っていた。

 

「しかし、よく出来てるなあ………。機械型のゴーレムはアトラス院で何度か見たけど、今はこんなに小型化できるのか」

 

 手の上の“アラクネ”をしげしげと眺めるキャスター。その目は技術の進歩に驚く学者の様にキラキラと輝いていた。

 

「だが、こっちから支配権を奪われると考えてない作りなのはマイナス点だな。そもそも“魔術師の英霊(キャスター)”に魔術で作ったゴーレムを差し向けるとか百年早いぜ、若いの」

 

 支配下に置いた監視ゴーレムの先にいる少年の顔を思い浮かべながら、くつくつと彼は嗤う。

 

「じゃあ、お前はお人形(ノイント)ちゃんと一緒に城下町にいる分身(おれ)でも見張っててくれよ。そんでもっていつも飲み歩いてる映像でも適当に送っといて」

 

 キャスターがそう命令すると、ハジメ製のゴーレムはコクリと頷いて手から下りた。そのままカサカサと監視対象(キャスター)から離れていってしまった。

 

「さて、余計な目は無くなった事だし………いい加減、お話しをしますか」

 

 はああああっ、と大きな溜息をキャスターは漏らす。それは向き合わなければいけない書類を前にしたサラリーマンの様に憂鬱さが出ていた。

 相手がどこにいるかなど探るまでもない。わざわざ魔力を探知しなくとも、()()の考えてる事などお見通しだ。

 そうしてキャスターはさらに王城の人気がない場所――――今は使われてない倉庫の陰に向かった。ここは滅多な事では使用人達も寄りつかず、まさに内緒話をするのは打ってつけだろう。

 

「てめえ………ざけんじゃねえぞ、中村ァ!!」

 

 いや、内緒話ならもっと静かにやりなさいよ。

 離れた位置だというのに聞こえる怒声につっこみをいれたい気持ちになりながら、恵里に詰め寄る檜山へキャスターは近付いていった。




>魔術世界の裏事情

 キャスターは光輝達にそんなに詳しくは説明してないです。「こんな感じで地球に魔術師がいるからねー。地球に帰ったら、自分でどうにかするんだぞー」と適当な事しか言ってないです。まあ、この作品で“時計塔”が出るとしたら地球帰還時でしょうね。
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