ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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 ぶっちゃけあれこれと語りたい気持ちはあるけど、後々の伏線の為に黙っておこうと自制しておりますとも。
 まあ、オリキャラの情報とか、本当は語りたくてしょうがないんですけどね(面倒くさい人)。


第二十話「事態は静かに動き出す」

「くそっ! くそっ! 前は無能なオタクだったくせに、調子こきやがってっ!!」

 

 王城の使われてない倉庫の陰。人通りの無い場所とはいえ、檜山は声を潜める事もなく大荒れな様子で倉庫の壁を殴りつけていた。

 

「それもこれも全部てめぇのせいだぞっ! 中村ァ!!」

 

 血走った目で近くにいた恵里を睨みつける。檜山の体格は大男と呼ぶ程ではないが、“軽戦士”として鍛えられているのでそれなりに筋肉がついている。

 不良として暴力的な雰囲気を纏い、ましてや小柄な女子である恵里からすれば圧倒的に体格が勝る相手が凄んでいるのだ。並の女子ならば萎縮してしまうだろう。

 

「………」

 

 だが、恵里は目に恐怖はなかった。そもそも恵里は自分からここに来たのだ。

 オルクス迷宮から脱出した後、さらにそこで香織がハジメについて行く際にちょっとした騒ぎが起こり、その後に恵里達は王城へと帰って来ていた。

 疲労困憊になった他の者達が自室に帰ろうとした時、剣呑な目付きになった檜山が「話がある」と言って来たのだ。檜山の雰囲気に良からぬ物を感じた鈴は庇おうとしたが、「大丈夫だから」と恵里が制して檜山の呼び出しを受けていた。

 

「てめぇの言う通りにしてれば香織を俺の物に出来た筈だろ!? なのに………くそっ! なんであのキモオタ野郎が生きてやがんだよっ!」

 

 用件はやはりというか、香織の事だった。

 ハジメを事故に見せかけて奈落へ突き落とした事を知っていた恵里は、降霊術で香織を従順な人形(アンデッド)に変える事を餌にして檜山を脅迫していたのだ。

 しかし、ハジメは生きていた。それも別人の様に力や性格が変化した姿となってだ。

 そうして香織がハジメについて行く姿を見てる事しか出来なかった檜山は、恵里にこうして八つ当たりしていた。

 

「………あのさ、話は終わった? 用が無さそうだからもう帰っていい?」

 

 喚き散らす檜山に対して、恵里はどこまでも冷ややかだった。まるで駅のホームで騒いでる酔っ払いでも見てるかの様に、侮蔑や嫌悪感すら感じさせる目で見ていた。

 

「はぁ!? ふざけんなよっ! てめぇ、迷宮で魔物を斬り殺した侍を召喚できるよなっ!?」

「………それが?」

「もう一回、あれを召喚してキモオタ野郎を殺せっ! それで今すぐ俺の前に香織を連れて来いっ!!」

 

 あまりに身勝手極まりない要求に恵里は鼻で笑った。

 

「馬鹿じゃないの? ボクに何のメリットがあるんだよ。あいつが車を持っていたのは見ただろ? もうとっくに遠くへ離れただろうし、あんな奴を敵に回すなんて御免だね」

「てめぇと俺は共犯だろうがっ!!」

「何が共犯だよ。南雲を奈落に突き落としたのはお前だけだろ。大体、ボクはお前に何かさせた事があった?」

 

 ぐっ、と檜山は言葉に詰まる。

 実際、恵里は檜山に何もさせてない。

 檜山を脅迫したその日に恵里の元へキャスターが来た為に、かつて思い描いていた計画は実行に移す前に立ち消えていた。よって、檜山は今まで恵里の為に何かした事すら無かった。

 

「確かにボクはお前を脅したけど、その後に何も命令してないし、お前は何も働いていない。取引は最初から不成立だろ」

「それは………そうだっ! てめぇ、この事を天之河にバラされても良いのかよ!」

「……っ!」

 

 それまで檜山の言ってる事を聞き流してる様子の恵里だったが、ここで初めて表情がピクッと動いた。脅し文句がきいたと思った檜山は勝ち誇った顔になる。

 

「天之河はどう思うだろうなぁ? 中身がこんなドス黒い女とか、愛しの王子様に知られたくないよなぁ!?」

 

 脅迫されていた立場から一転、脅迫する立場に回った檜山は揺さぶりをかけていく。

 そもそも女子に良いように使われる立場に置かれていたのが気に入らなかった。

 だが、今度は自分が弱みを握って命令する立場だと暗い優越感が檜山に湧き起こる。ところが………。

 

「………やれるものならやってみろ」

「なっ!?」

 

 恵里から冷たい返答がされる。それは猛獣が威嚇する唸り声の様に低く、そして追い詰められた様子など感じさせない強い意志を宿した目で睨み返していた。自分の優位な立場を疑っていなかった檜山は予想外の態度に焦った顔になる。

 

「てめぇ……! 良いのかよ、天之河にチクったら身の破滅なんだぞっ!?」

「光輝くんがお前の言う事なんて信じるものか。他人の悪意を見ようともしないくらいにお人好しだもの。そうじゃなくても、クラスの皆もお前の言う事なんて信じないよ。南雲を殺そうとしたお前なんか」

「なんだとっ……!」

「気付いてなかった? お前が故意に南雲を殺そうとしていた事なんて、とっくに皆にバレてるよ。ついでに白崎に横恋慕してた事もね」

 

 かつてキャスターに問い詰められた時に見せた反応は察しをつけるには十分であり、異世界転移から長く生活を共にしていれば、檜山が香織に特別な感情を抱いているというのはクラスメイト達でも理解できていた。

 その二つの事実を繋げれば、事の真相に気付くのは十分だ。それこそ檜山がまだ無実だと思っているのは、他人の悪意を疑わない光輝くらいなものだろう。

 

「大体、最初からお前なんかが白崎を手に入れられるわけないだろ」

 

 ズキン。

 

「嫉妬深くて、性根が卑しくて―――」

 

 ズキン。ズキン。

 

「好かれたいと思ってるくせに、そいつの隣に自分より強そうな奴がいたら最初から諦める。そのくせ諦めきれないから他人を排除しようとする」

 

 ズキン、ズキン、ズキン。

 

「そんな奴が………」

 

 ふう、と恵里は息を吐く。それは自分を落ち着かせるかの様だ。

 そうして檜山をまっすぐと睨み付けた。

 

「そんな奴が白崎に―――誰かから好かれるわけなんかないだろ」

 

 まるで――――鏡に写った醜い自分の姿を見るかの様に、嫌悪感を込めた目で檜山を睨んでいた。

 

「ふ……ふ、ふざけんなっ………!!」

 

 顔面を蒼白にした檜山の唇がワナワナと震える。未だかつて、女子にここまで好き放題に言われる経験などなかった。その事が檜山の脳に理解を遅れさせ、頭が真っ白になる感覚までしていた。

 地球にいた頃も親や教師の説教を「ウゼぇ」、「ダリぃ」とまともに聞いてこなかった。強い者は意図的に避け、自分より弱そう奴は暴力で黙らせてきた。

 そうやって檜山は他人から自分がどう見えてるか、という事実から逃げてきた。

 だからこそ、恵里の言葉に対して―――自分の矮小さを突きつけてきた女に対して、彼が取る行動など決っていた。

 

「てめえ………ざけんじゃねえぞ、中村ァ!!」

 

 檜山は拳を振り上げる。

 相手は女子だとか、そういった考えは彼の頭から消えていた。

 自分を馬鹿にした女を黙らせる為、身構える恵里の顔面を殴ろうとしていた。

 

 

「は~い、ストッ~プ」

 

 

 パシッと檜山の拳が気取った声と共に止められた。檜山は血走った目で声のした方向を振り向く。

 

「なにしやが、いでででえっ!?」

「はいはい、暴れないの。腕を折らずに抑えるのも結構大変なんだぜ?」

 

 キャスターに手首を掴まれ、腕を背中に回された上に肘とは逆の方向に捻り上げられ、檜山は痛みに喘いだ。

 “魔術師(キャスター)”という名前に反して彼の握力は強く、“軽戦士”の檜山が振り解こうとしてもビクともしない。

 

「あのさあ、女の子に言い負かされたから殴るってカッコ悪すぎだろう。女の子に手を出すのはベッドの上だけにしなさいよ」

「うるせえっ!! 大体テメェと中村が何もしなかったから、こうなったんだろうがっ! 俺は香織を手に入れてたんだよっ!!」

「いや知らんよ、おたくの恋愛事情なんか。夢小説でも書いてれば?」

 

 組み伏せられながらも恨み節を言う檜山に対して、キャスターは溜息を吐きながら言った。

 

「そもそも、俺や恵里が何かしなかったから香織嬢ちゃんが手に入らなかったというのは他責思考すぎるだろ。ハジメ少年について行くと決めたのは決めたのは香織嬢ちゃん自身。勇者くんやお前を()()()()と決めたのが香織嬢ちゃんで、お前はあの子のハートをゲット()()()()()()………それだけの話だろう?」

 

 組み伏せられながらも尚も暴れる檜山だが、それでもキャスターを引き剥がす事が出来ない。その内に体力を消耗して段々と暴れる力が無くなってきていた。

 そうして大人しくなった檜山からパッと手を放して地面へ転がした。

 

「ぐっ……!」

「なあ、お前みたいな奴を世間一般で何て言うか。知ってるか?」

 

 服を地面の土や砂で汚しながら、這いつくばった檜山はキャスターを見上げた。

 小柄な恵里と違って、相手は身長190cm以上の大男だ。キャスターの強さを知ってるだけに、檜山は殴りかかる意欲も無く尻込みした様に見上げていた。

 そんな檜山を―――キャスターは心底から見下した目になる。

 

「―――()()()。不満ばかりキャンキャン吠えて、自分より弱い相手にしか噛みつかない玉無し野郎。それがお前だよ」

 

 冷たく、それこそ浅ましい野良犬でも見る様にキャスターはそう断じた。

 

「く、くそっ……ちくしょうっ………!!」

 

 羞恥や屈辱で顔を真っ赤にしながら、檜山は逃げる様に立ち去っていった。

 這々の体で逃げ出す檜山の背中を見て、キャスターは深い溜息を漏らす。

 

「まったく………ここで一発でも殴り返す気骨でもあれば、まだ見直せるのに。さて―――」

 

 邪魔者がいなくなり、キャスターは改めて恵里に向き直る。

 恵里は地面に目を向けて視線を合わせようとしなかった。その様子はまるで怒られるのが嫌で、親に拗ねてる子供の様だった。

 

「………言いたい事は分かってるよ。今回のボクの立ち回りの悪さについてだろ」

「恵里」

「まず遠藤が階層の異変を報告してきた時点で、光輝くんに撤退を強く進言すべきだった。あるいは遠藤任せにしないで自分でも低級霊を使役して索敵を行うべきだった」

「恵里」

「戦闘においても、もっと魔力配分を考えるべきだったんだ。そうすれば影英霊(アサシン)だって、もっと上手く使えた筈だったんだ。いや、そもそもあそこでメルドを斬るのを躊躇わなければ―――」

()()

 

 三度目の呼び掛けは静かながらも強い意思があった。()()()()()()()をまくし立てていた恵里は思わず口をつぐんだ。

 

「そんな事を話したいわけじゃない、というのは自分で分かってるよな?」

 

 先程と同じく静かにキャスターは聞いた。

 いつものニヤニヤした笑みは浮べず、キャスターは真剣な顔付きで話し始めた。

 

「戦闘面の話は今更話す事でも無いな。大体の反省点は今言った通りではあるし、次はどうすべきかも言わなくても理解してるだろう? 俺が言いたいのは………お前の“王子様”の事だよ」

 

 ビクッと大声で怒鳴られたかの様に恵里の体が震えた。

 

「正直、俺はあのガキを“聖剣”に選ばれたという事以外、高く評価してなかったけどな………まさか更に底があるとは思わなかったわ。しかも、俺がいない所で香織嬢ちゃんが出て行く時も揉めたんだって?」

 

 オルクス迷宮でホセ達の死体回収やカトレアに強制的な取引をキャスターが行っていた間、地上に戻っていた光輝はハジメに決闘を挑んでいた。

 それは香織の意思を無視したものであり、ハジメを一方的な悪と決めつけた上で光輝からふっかけたものだが、結果としてハジメに全く相手にされずに惨敗していた。

 

「前の街での騒ぎでもそうだったが………あれは自分の見たい様にしか物事を考えられないタイプだよ。相手がどう考えるとか、そういう客観視が出来ないままに突っ走って独り善がりに振る舞う。そのくせ自分に不都合な事が起きれば、自分じゃなくて誰かのせいだと責め立てる」

「………何が言いたいんだ」

「じゃあ、はっきり言うわ―――お前がそこまで入れ込む価値があるか? ()()

 

 ここに来てようやく恵里は顔を上げて、キッと睨んだ。もっとも海千山千のキャスターからすれば、子犬が威嚇する程度の凄みしか感じなかったが。

 

「恋というのは良くも悪くも相手に理想像を求めるものだ。ある意味で一方的でも成り立つ。だが、愛はお互いの長所も短所も引っくるめて成り立つ関係だ。その上で聞きたいんだが、あれの短所をお前はこのさき許容できるか?」

「っ、それは………!」

 

 恵里の脳内で嫌でも先程までの事が思い返される。

 香織がハジメについて行くと言い出した時、「君は間違ってる! 俺と一緒にいるべきだ!」と駄々をこねる姿。

 それでも香織の気持ちが変わらないと見たら、ハジメに難癖をつけて一方的に勝負を挑んで負けた姿。

 そして―――オルクス迷宮で魔人族に止めを刺す時に日和り、()()()()()()()()()()死にかけたというのに、それを反省する様子も無い姿。

 

「愛した分だけ相手からも愛されたい、それは人間同士として正常な反応だ。見返りの無い愛なんて長続きはしねえよ。お前が入れ込んだ所で、果たしてあれは愛を返す様な相手かというと――――」

「うるさいんだよっ!!」

 

 とうとう恵里は耐えきれなくなった様にキャスターに向かって怒鳴り声を上げていた。

 

「ボクは光輝くんが好きなんだ! 今はまだ頼りないけど、光輝くんはこれから成長して、絶対にボクを救ってくれる王子様になるんだ!」

 

 恵里は普段からしてる手袋を外し、左手の甲を突きつけた。そこには歪んだハートを象った様な刻印———令呪が刻まれていた。

 

「お前はボクのサーヴァントだろ!? お前はエヒトルジュエをブチ殺す! ボクは光輝くんの愛を手に入れる! そういう契約で組んだ共犯関係だろ!? いまさら反故にするなんて絶対にさせないからなっ!!」

 

 歯を剥き出しにしながら恵里はキャスターを睨む。言ってる事が先程の檜山と変わらないというのに、その事にも気付いた様子はなかった。

 それは好きな男の子を腐された事に怒っているというよりも―――自分が長年、宝物だと信じていた物が()()()だったと認めたくないという必死さが見えていた。

 これ以上言えば、それこそ令呪を使いかねない。

 それを悟ったキャスターは「踏み込み過ぎたか」と静かに溜息を吐き、降参の意を示した。

 

「OK、分かった。この件はこれで終わりにするから、貴重な令呪をこんな事で使うなよ。勿体無い」

 

 そうして荒い息ながらも恵里は令呪を仕舞い、キャスターに取ってつけた様に「じゃあ、もうボク休むから」と言って立ち去った。

 だが………その目は最後まで、今までにない迷いの色が浮かんでいた。

 

「………そりゃあ、恵里の生い立ちを考えれば簡単な話ではないと分かってはいたが」

 

 一人残されたキャスターは懐から冒険者ギルドでくすねていた葉巻に火をつける。

 身嗜みに拘る彼にとって、煙草の臭いは女の子が嫌がる場合もあるので気を遣っている。

 しかし、今はそんな事を気にせずに無性に煙草を吸いたい気分だった。

 

「なんで上手くいかないのかねえ……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうなってくれないものか………」

 

 “ ■■■の呪い”。

 生前から続く自らの宿業(スキル)を思い浮かべ、憂鬱さと共にゆっくりと紫煙を吐き出した。

 

 ***

 

「クソッ、クソッ! ちくしょうっ!!」

 

 キャスターから逃げ出した後、檜山は人気の無い渡り廊下で延々と悪態をついていた。

 気分は最悪であり、このまま大人しく自室に戻る気にはなれなかった。

 

「どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがってっ!! クソがああぁぁッ!!」

 

 辺りの壁や柱を所構わず殴りつけ、綺麗に植え込まれた芝生をお構いなしに蹴る姿はひたすらに凶暴だった。

 それこそ、第三者が見れば麻薬が切れて暴れる中毒者だと思われていただろう。

 頭の中にあるのは自分から香織を奪ったハジメの事であり、思い通りに動かなかった恵里の事であり、自分を見下した目で見たキャスターの事だ。彼等への恨みを募らせ、とにかく目についた物に八つ当たりしていた。

 

「クソがクソがクソがクソがああああっ!! あいつら絶対に許さねええええっ!!」

 

 八つ当たりをしたところで胸のドス黒い感情は晴れず、恨みの対象は更に広がっていく。

 それはおめおめと香織を止められなかった光輝であり、やはり同じ様に止めなかったクラスメイト達でもあった。

 自らの悪事を悔い改める事などしなかった檜山にとって、“周りがクズなかりだから自分が不利益を被った”と考えるのは当然の帰結であり、もはやクラスメイト達に対して“異世界から召喚された者同士”という仲間意識すら消えていた。

 

「どいつもこいつもクソだっ! 見てやがれっ、こうなったら魔人族に寝返ってでも俺は香織を手に入れてやるっ!!」

 

 

「―――つまり、あなたはこの現状に満足してないという事でしょうか?」

 

 

 それは唐突に聞こえた声だった。檜山がバッと振り向くと、そこにはシスター服を着た銀髪の少女が立っていた。

 

「だ、誰だ!? ってか、どこまで聞いてやがったっ!!」

 

 いつの間にかいた銀髪のシスターに驚くと同時に、檜山の顔色が青くなる。

 言うまでもなく、魔人族に寝返る発言をするなど王国では重罪だ。そのくらいの事は彼でも理解できていた。

 即座に頭の中で“今のは冗談だった”などの言い訳や、目の前の少女を脅して口外させない様にするといった考えが浮かぶ。

 

「“神”は今の状況を退屈と感じております」

 

 銀髪のシスターは淡々と喋り出した。それは檜山の考えてる事など気にも留めない様な―――それこそ地面に這いずる蟻を見てるかの様に無機質な表情だった。

 

「召喚した勇者(コマ)に目を見張る物は無く、“魔術師(道化)”は積極的に動く様子も無い。茶番劇はもう見飽きた、と“神”は仰せです」

「あ? お前、何を言って………?」

 

 急に意味の分からない事を言い出した銀髪のシスターに対して、檜山は鼻白んで素っ頓狂な声を上げた。

 見た目からして教会の関係者だろうというのは分かるが、どうも様子がおかしい。

 イシュタルの様に神を狂信してるのではなく、もっと直接的な………それこそ、実際に会話をしたかの様に銀髪のシスターは語っていた。

 

「その為、“神”自らが脚本を書かれると言われました―――“人間族の希望だった勇者は役に立たず、王国は魔人族によって滅ぶ”という演劇を」

 

 ゆっくりと銀髪のシスターが近付いてくる。見た目は華奢で、筋肉などついた様子も無いビスクドールの様に整った外見の少女だ。

 だが、檜山は見えない圧力の様な物を感じて、気後れした様に一歩後ずさった。

 

「あ、あぁっ……!」

「その為には魔人族に手引きする者を探さなくてはなりませんでしたが………手間が省けました」

 

 蛇に睨まれた蛙の様に、見えない圧力に恐怖を感じた檜山へ、銀髪の少女―――ノイントは相変わらず抑揚のない声で話していた。

 

「喜びなさい、人間―――あなたは“神”の演劇を演じる俳優(コマ)に選ばれました」




 物語は動き始める。

 “魔術師”の思惑を無視して、“神”の望むままに――――邪悪な方向へ。
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