ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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仕事で嫌な事があっても、小説を書いていると楽しくなってくるあたり、やっぱり自分の趣味はSS執筆なんだなあと思う。あまり他人に話しても理解される趣味じゃないですけどね。


第三話『神は見下ろし、魔術師はこっそり笑う』

「―――と、まあ、そんな感じで潜入は成功致しました」

 

 トータスであって、トータスではない異空間。“神域”と呼ばれる空間でキャスターは目の前の相手に話し掛けていた。敬語こそ使っているものの、目の前の相手に敬意など特に無い様だった。

 

『ほう……我のお膳立てがあったとはいえ、随分と“勇者”共から信用されてるのだな』

 

 対する相手は玉座に座った巨大な人型の光だった。肉体が存在せず、幽霊(ゴースト)の様に不確かな形でありながら、その存在感は圧倒的に大きく、“神域”全体を太陽の様に照らしていた。それこそキャスターの魔力など彼の前ではそよ風同然だろう。

 彼の名はエヒトルジュエ。彼こそがトータスの神と信仰されてる存在であり、しかし本性はこの世界全てを玩弄する事に悦を見出す邪悪な精神の持ち主だ。

 

「まあ、“勇者御一行”とか言っても、中身は十代達(ティーンズ)ですからねえ。友好的な笑みを浮かべて、ついでにチョイと力を見せ付けてやれば簡単に信用してくれましたよ」

 

 キャスターは肩をすくめながら軽く答えた。目の前の相手は自分より何倍も霊基が上回る存在だと理解しながらも、謙った態度を取る気は無いらしい。

 

『よし。ならば貴様はこれから“勇者”共のレベル上げにして付き合え。“勇者”達がそれなりの強さになる様に鍛えるのだ』

「おや? わざわざ強くする必要があるので? どうせあの“勇者”じゃあんたどころか魔王には勝てそうにないのに」

『ククク……物は使い様よ。“勇者”共がそれなりにレベルやステータスが上がり、“自分達なら本当に魔王を倒せてしまうかもしれない”と思えてきた所で圧倒的な力で押し潰す。中途半端に希望を持った者達が絶望に染まる瞬間は格別となるだろう』

 

 おおよそ神らしからぬ邪悪なせせら笑いをエヒトルジュエは響かせる。異世界から拉致して戦わせている少年達も、人間族の存亡の危機に晒されている自分の信徒達も彼にとっては退屈を紛らわせる玩具でしかなかった。

 

「へえ、趣味が良いですね。魔人族に劣勢な王国からすれば自分達の希望の“勇者”御一行が負けたらそりゃ絶望もしたくなる。まあ、俺ならそんな奴等を“人間の希望”とか抜かして寄越した神様って、実は頭おかしいだろと思うけど、ガッ―――!?」

 

 皮肉混じりにペラペラと喋っていたキャスターだが、突然、彼の身体に異変が起きた。まるで肋骨が内側からこじ開けられる様に開き、彼のスーツが鮮血で染まる。

 

『よく回る舌だな、道化。だが、言葉には気をつけろ。神を侮辱すれば天罰が下るのは道理であろう?』

「ぐっ……でもこれ、二番煎じ……痛たたたっ! 悪かった、謝るから勘弁して下さいって!」

 

 自分の内側からこじ開けられていく肋骨の痛みに耐えかね、キャスターが地面に額を擦り付けるとようやく軋んでいた骨が元に戻った。

 

『努、忘れる事のない様にするのだな。異世界の魔術の英雄だか知らぬが、貴様程度などいつでも縊り殺せると』

「ぜぇ、ぜぇ………は〜い、文字通り骨身に刻みましたよ、と……」

 

 荒い呼吸をしながらキャスターは地に手を付けてエヒトルジュエに平身低頭していた。だが、その目は冷たい炎が宿った様にギラリと光っていた。そんなキャスターの様子を知ってか知らずか———仮に知ったとしても何が出来ると侮っているだろう———エヒトルジュエはキャスターを見下しながら話を続けた。

 

『ふん。我の知らぬ世界の英霊と聞いたが、大した事は無いな。()()()()()()()も我に敵わずに消滅したしな。愚かな者共だ、神たる我に逆らうなど』

 

 エヒトルジュエが光輝達を異世界から召喚する前。彼は異世界に干渉する術を試行錯誤する中で、とある世界の魔術儀式を偶然再現できた。

 それは万能の杯を求める魔術。時の彼方より七騎の英霊を召喚し、覇権を争わせる儀式。

 

「そりゃ仕方ないでしょう。他のサーヴァント達は()()()()()真っ当な英霊様だったみたいなので。俺みたいな反英雄でも無ければ従わないのは当たり前でしょうよ」

 

 そうして召喚された七騎の英霊(サーヴァント)

 剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎手(ライダー)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)、そして魔術師(キャスター)

 彼等はエヒトルジュエの本性を知り、反旗を翻した。過去に鮮烈な人生を送り、死後に人理の防人となった彼等は人間を苦しめる狂った神に従う事を善しとしなかったのだ。

 そして―――六騎の英霊は奮戦虚しく敗北した。

 

『異世界の神様。どうか俺は生かしちゃくれませんかね?』

 

 悪運強く最後に残ったキャスターは、六騎の英霊を屠ったエヒトルジュエに頭を垂れた。

 

『せっかく異世界から喚んだのに、一人も残らず失敗というのもつまらないでしょう? それなら一体、珍種だと思って手元に置いてみてはどうでしょう? お役に立ちますよ』

 

 そうして―――キャスターは身体に呪いを刻まれ、狂った神の手先として存在する事を許されたのだ。

 

「でもまあ、あんたが再現したのは()()()()聖杯戦争だから仕方ない。だから魔術師の英霊(キャスター・クラス)も俺みたいな三流英霊だったんですよ。ところがどっこい、何の因果か俺は本物の聖杯戦争を()()()()()。俺ならば、完璧な聖杯を完成させられる。だから生かしてくれてるんでしょう?」

『ふん。口先だけは英雄並ではあるな』

 

 エヒトルジュエから不満そうな声が漏れる。もしも人型の光に顔があるなら、きっと忌々しそうにキャスターの事を見ているだろう。かつては“到達者”と呼ばれ、ついにはトータスで神の座に昇り詰めたエヒトルジュエではあるが、“聖杯戦争”は彼の力を持ってしても完全に再現できたとは言えなかった。そもそもキャスター達を召喚できたのも偶然の産物に因るものが大きく、だからこそもっと楽な方法として地球の一般人(光輝達)を召喚する方法へ切り替えたのだ。

 だが、キャスターから聞き出した“聖杯”だけは興味があった。万を超える年月を生きたエヒトルジュエにとって、異世界の願望器というのは久方ぶりに好奇心を刺激する代物ではあったのだ。それを唯一、作成できるのがキャスターであり、だからこそエヒトルジュエは首輪をつけて生かす事にしていた。

 

『ならば、せいぜい我を愉しませよ。道化。貴様の価値など我に“聖杯”とやら献上する他に無いのだから』

「ははっ。せいぜい務めさせて頂きましょう」

 

 治癒魔術で身体を治し、キャスターは芝居がかった仕草でエヒトルジュエに向かって一礼する。そんなキャスターを忌々しそうに見ながら、エヒトルジュエはある事を思い出した。

 

『ああ、そういえば。貴様に監視させた異世界の小娘だが……さて、どうするかな? “勇者”の絶望する顔も見たい気もするし、下らぬ愛が成就せぬと絶望する顔も見たい気もするなあ』

「………約束は守らないので?」

『約束? そんなものは対等な相手だから成立するものだ。神たる我に小娘風情が対等だと思う方が身の程を弁えぬ』

 

 ククク……とエヒトルジュエは邪悪な嗤いを漏らす。彼の中で光輝か恵里、どちらの絶望する顔が見応えがあるか秤にかけられているのだろう。

 

『だが、下々の虫けらに慈悲を示すのもまた神の役目である。我を愉しませるなら、その小娘の願いを叶えてやらん事もない。小娘がどんな行く末を辿るか……貴様は我に報告せよ。“聖杯”が出来るまでの余興ぐらいにはなるだろう』

「………オーケー、まあ楽しみにして下さいよ。()()()()()()()だから、あの子」

 

 そう言って、今度こそキャスターは“神域”から立ち去った。

 トータス全てを手中に収め、異世界の六騎の英霊(サーヴァント)達すら討ち果たしたエヒトルジュエ。

 全てをはるか天上より見下す神のごとき力の持ち主であり、それ故に驕慢な精神の持ち主。

 だからこそ、最後まで気付かなかった。

 “神域”から消えるキャスターがこっそりと、口元を歪めていた事に。

 

 ***

 

 19XX年――――■■■■王国。

 

『それで……親愛なる首相閣下は私に何の御用でしょうか?』

 

 後年、とある異世界でキャスターと呼ばれるスーツ姿の男……だが、その姿より些か老けている……は、目の前のデスクに座る禿頭の男に戯けた態度で聞いた。仮にも一国の首相相手に礼儀のなってない態度だが、禿頭の男はジロッと睨むだけに留まった。

 

『単刀直入に言う。お前は極東で行われる“聖杯戦争”というものを知っているな?』

『はて……極東なんて魔術後進国に、そんな大それた儀式が出来るとは思いませんが』

『誤魔化しても無駄だ。貴様が以前は極東に行った事も我々は掴んでいる』

 

 その一言にスーツ姿の男はとぼけた顔を止めた。そして禿頭の男は目を険しくさせながら口角泡を飛ばす。

 

『既に英国の“時計塔”や当の極東の軍部はもちろん、さらにはドイツの“伍長”までも動いている! 我々は! 断じて奴等に遅れを取るわけにいかんのだ!』

『へえ、“伍長閣下”が……それはまた盛大な面子ですねえ。それで? 私にどうしろと?』

『貴様も日本に渡れ。そして“聖杯”を我が軍に齎せ』

『……それ、俺に何のメリットあります? ファシスト政権の忙しさで疲れてるんじゃないですか?』

 

 曲がりなりにも取り繕った態度すら止め、スーツ姿の男は皮肉げに笑った。だが、禿頭の男は彼に対してニヤリと笑った。

 

『貴様の国外追放処分を解く。それどころか―――貴様の僧院でのスキャンダルを無かった事にしてやっても良い』

『……………』

『旨味のある話だと思う話だと思うがなあ? 貴様の様に、“時計塔”から追放された魔術師にとっては。魔術の総本山から切り離されや魔術師など、碌な研究も出来まい。だから、自分の僧院という形で研究の場を作ったのだろう? まあ、まさか“教会”のお膝元の地でやるとは“時計塔”の連中も思わなかっただろうがな』

 

 皮肉げな笑みが消えたスーツ姿の男に、禿頭の男は余裕すら感じさせる笑みで腕を組んでどっしりと椅子に座っていた。彼こそが国家権力であり、彼の一言があればこの国の事は全て思いのままになる。“教会”にすら太いパイプを構築して、彼の意見は無視できない。それだけの権力を彼は手にしていたのだ。

 

『……ふう、まあいいでしょう。メリットを提示された以上、やるしかないでしょう』

『おお、引き受けてくれるか。感謝しよう』

 

 禿頭の男はわざとらしく礼を言って、握手を求める。それには応じず、スーツ姿の男は要件だけを言った。

 

『とりあえず、触媒はそちら持ちでお願いしますよ。御存じの通り、僧院を閉められて金に困っているので』

『ふん、いいだろう。ああ、もちろん監視はつけさせて貰うぞ。“聖杯”を持ち逃げされてはかなわんからな』

 

 おそらく、スーツ姿の男が首尾良く“聖杯”を手にしても、即座に回収部隊を動かせるのだろう。結局のところ、彼は火中の栗を拾いに行かせられるのと変わらない。

 だが、そんな状況になってもスーツ姿の男は笑った。

 

『まあ、楽しみにしていて下さいよ。驚くような結果を見せてあげますので、首相閣下殿』

 

 ***

 

 結論から述べよう。残念ながら、彼は“聖杯”を手に入れる事は出来なかった。

 “聖杯”は降臨する事なく、魔術師達はおろか大国の軍部すら巻き込んだ三度目の“聖杯戦争”は失敗に終わった。彼の僧院は閉鎖を解かれず、そしてかの国に再び足を踏み入れる事も出来なくなって終わってしまった。

 

 歴史に語られない物語が一つある。それは彼が“聖杯戦争”の主催者の一人、アインツベルンの魔術師を討ち果たした時。

 偶然、彼は“聖杯戦争”の真実に触れたという事。そして――――――。




>エヒトルジュエが再現した聖杯戦争

今作において、エヒトは異世界召喚をあれこれと試す際に偶然サーヴァント召喚をやれたという事になっております。その際に召喚されたサーヴァント達はエヒトの邪悪さを知って立ち向かったものの、キャスター以外は全滅しました。因みにサーヴァントの面子ですが、エヒトが偶然できた不完全な召喚も相まって、アーサー王やヘラクレスといった一級クラスがいないしょっぱい面子だという感じです。それこそキャスターも本来なら、「宝具以外は低ステータスな三流サーヴァント」と言われるくらいです。
そして現在、キャスターは聖杯を完成させる事を条件にエヒトルジュエに生かして貰っています。

>■■■■の首相閣下

もうここでキャスターの真名が分かっちゃうんじゃないかな……。史実でも有名なあの人です。
彼は日本やドイツを出し抜きたくて、当時は存命中だったキャスターに依頼して聖杯戦争に参加させたそうです。
で、当のキャスターはそこで聖杯の真実を知って………。
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