ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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第五話「カードの導き」

 鉄鉱石のゴリラの様な魔物達が迫る。ロックマウントの上位種であるアイアンマウントは剛腕を振り上げ、“神の使徒”達も襲い掛かった。

 

『万象切り裂く光、吹き荒ぶ断絶の風、舞い散る百合の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め “天翔裂破”!』

 

 光輝を中心に光の刃が無数に展開される。聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させ、魔物達を光の斬撃で細切れにした。

 

「前衛! カウント、十!」

「「「了解!」」」

 

 光輝の号令に龍太郎、雫、永山、檜山達が残った魔物達へ立ちはだかる。その間に後衛にいる恵里、鈴、香織達が魔法の詠唱を開始する。魔力の高まりを感じた魔物達は後衛の詠唱を妨害をしようとするものの、トータスではチートなステータスを保つ前衛組の猛攻を突破できずに足踏みしていた。

 

「今だ! 前衛は下がれ!」

 

 光輝の合図に前衛組は後退し、後衛組の魔法が放たれる。火炎が、真空の刃が、地面から生えた岩の槍が、魔物達を蹂躙していく。魔法の嵐が終わる頃には魔物達の中で立っている者はいなくなっていた。

 

「よし! やったぞ、みんな!」

 

 光輝が緊張感を解く様に一息を吐きながら聖剣を鞘に仕舞おうとする。その時だった。

 

「ゴアアアァァァァッ……!」

「なっ!?」

「光輝!」

「光輝くん!」

 

 突然、魔法の集中砲火を浴びて倒れた筈の魔物の中から、一匹のアイアンマウントが起き上がる。鉄鉱石の体は半壊して、もはや死に体なのは間違いない。だが、野生の意地なのか、アイアンマウントは最期の力を振り絞って光輝に飛び掛かっていた。魔物達は死んだものと安心しきった光輝は突然の事態に対応できず、龍太郎や恵里が悲鳴を上げるも彼等ではアイアンマウントを止めるには遠過ぎた。光輝は思わず目をギュッと瞑る。

 

「ほい、ちょっとごめんよ」

「え……わっ!?」

 

 トンッと光輝の体が急に押し出される。地面に転がった衝撃に光輝が目を開けて振り向くと、キャスターが光輝の代わりにアイアンマウントと対峙していた。振り下ろされた腕をキャスターはヘッドスリップだけで避ける。そして銀のステッキでコツン、とアイアンマウント取って頭を叩いた。

 

『———Tejas(炎よ)

 

 瞬間。アイアンマウントの頭から炎が吹き出し、内部から爆発する様に目玉や脳漿が飛び散った。

 

「油断するなよ、勇者くん。火事場の馬鹿力というのは主人公だけの専売特許じゃないぞ」

「うっ……分かってます!」

 

 地面に転がされた羞恥心のあまり、光輝は思わず反抗する様に返事をしたが、キャスターは肩をすくめるだけに留めた。

 

「でも……ああ、クソ。返り血で汚れちまった。せっかくサヴィル・ロウで仕立てたスーツだというのに」

「そんなに大事なスーツなら、わざわざ大迷宮に着てこなければ良いじゃないですか」

「それは出来ない。どんな時でも粋な心を忘れないのが、俺の信条なんでね」

 

 それは粋と関係あるのか? と光輝は半目になるが、キャスターはいつも通り胡散臭い笑みを浮かべるだけだった。

 ここはオルクス大迷宮の第77階層だ。あれから光輝達は順調に強くなり、ステータスも伸びていた。

 だが、異世界人である光輝達と違って、現地人のメルド達は光輝達の成長について行く事が出来ず、今では中間地点にある転移魔法陣で後詰をしていた。今も光輝達と共に大迷宮攻略を行えるのはキャスターだけとなっていたのだ。

 

「光輝くん、大丈夫?」

 

 戦闘が終わり、恵里が光輝に駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だよ。恵里」

「待って。肘を擦り剥いちゃってる。今、傷口を塞ぐから」

「え? いや、このくらい香織に頼めば―――」

「おーい、香織嬢ちゃん。さっきの魔法の反動で手を火傷しちまったから治してくれよ。ついでに何か拭く物をくれると助かる」

「はい、ちょっと待ってて下さいね」

 

 光輝が香織を頼ろうとしたが、それに先んじる様にキャスターが香織に声を掛けていた。香織がキャスターの治療を始めた為、恵里は光輝を独占して包帯を巻いていた。

 

「……うん、これで大丈夫」

「ありがとう、恵里。それにしても恵里はこんな事も出来るんだな。初めて知ったよ」

「わ、私は事情があって一人暮らしをしてるから、自分で色々とやる必要があるから身に付けただけだよ」

「そうなのか? でも自分の事を自分でやるなんて、恵里は偉いんだな。家庭的だと思うし、そんな女の子に憧れるよ」

「ほ、本当? えへへ………」

 

 光輝は無意識に歯の浮く様なセリフを言ってるが、恵里は愛しの王子様の笑顔を向けられて嬉しそうにはにかむ。今までただのクラスメイトに過ぎなかった光輝と恵里だが、恵里がイメチェンした一件以来、二人の距離はグッと縮まっていた。

 

「くぅ~、エリリンは健気だなあ」

 

 二人の様子を離れた所から鈴が微笑ましそうに見つめる。それは親友の恋が実る様に応援しながらも、年頃の少女として色恋沙汰に興味を持った顔だった。当事者達には気付かれない様に、小声で応援していた。

 

「でも、もどかしいなあ……よし、私ちょっとやらしい雰囲気にしていきます!」

「はい、ストップ。というか、鈴。貴方は出歯亀したいだけでしょう?」

「だって、だってー! エリリンの恋を応援してあげたいんだもん! というか、シズシズはOKなの? 光輝くんは幼馴染みなんでしょう?」

「だから、私は光輝とそういう関係じゃないってば……」

 

 雫が疲れた様な溜息を吐きながら答える。実際、雫からすれば光輝は手の掛かる弟みたいなものだ。その為に以前は付きっきりでフォローしていたが、最近は恵里が光輝に付き纏ってくれるお陰で肩の荷が一つ下りたと思っているくらいだ。だからこそ―――最近の気掛かりは、専ら親友の少女へと向けられていた。

 

「いやー、ハンカチありがとうな。ん? どうかしたか、香織嬢ちゃん」

「……え? あ、ごめんなさい。つい、ボーッとしちゃって……」

 

 香織のハンカチを借りてスーツに付いた返り血などを拭き取ったキャスターだが、香織はキャスターがハンカチで自分を拭っている間、ずっと迷宮の奥へと続く通路を憂いを帯びた表情で見ていた。

 

「香織………」

 

 雫は少し心配そうな顔で香織を見つめる。オルクス大迷宮も既に77階層。既に全体の四分の三を過ぎた。

 ……実のところ、オルクス大迷宮にはさらに深層と呼ばれる場所があるのだが、それを知らない香織達がすれば、ここに至るまで奈落の底に落ちた少年の痕跡を全く見つけられない事が問題なのだ。

 一般的に迷宮の底と言われている場所まで、あと20階層以上ある。だが、レベルアップした自分達ですらここに来るまでの道程は決して楽だったとは言えず、況してや彼はクラスメイト達の中でも一段とステータスが低かった。

 香織はまだ彼の生存を諦めたわけではない。だが迷宮が深くなり、そして魔物達の強さが増していく中で、不安な気持ちが日に日に強くなっていくのだろうと雫は感じていたのだ。

 

「……噂のハジメ少年の生死が心配か?」

 

 唐突にキャスターがそう言った。香織は驚いてキャスターを見つめる。

 

「キャスターさん、南雲くんを知っているんですか?」

「話に聞いただけどな。メルド達が言っていたぜ、ハジメ少年はベヒモスから皆を守ったヒーローだったとな」

 

 なるほど、と横で聞いていた雫は納得した。キャスターはふと気付けば、王国の兵士達と一緒に飲み会をやっていたり、自由に出切りが許された城でメイド達にナンパしていたりするのだ。大方、ハジメの話もその誰かから聞いたのだろう。

 

「しかし、当事者のメルド達の話と貴族達の噂話とではエラい差があるもんだ……本当なら件の少年を“命に代えて勇者達を救ってくれた英雄”として花を添えてやっても良いだろうに」

「………南雲くんは絶対に生きています」

 

 ギュッと香織は自分の杖を握りながら答えた。他の誰が言っても、決定的な証拠が見つかるまでこの少女は恋した少年の死を諦めないだろう。その決意を思わせる声だった。それを見て、キャスターは何やら一人で頷いていた。

 

「ふうん、そっか……うんうん、そこまでの覚悟でやってるなら………」

「キャスターさん?」

「……よし、今日びそこまでの想いを抱いてる子も希少だ。そんな希少な香織嬢ちゃんに、一つハジメ少年の生死を占ってあげましょう!」

 

 え? と香織は声を上げる。雫もまた驚いてキャスターに駆け寄った。

 

「キャスターさん……そんな事が出来るんですか?」

「忘れたか? 俺は“降霊術師”だぜ」

 

 ハッと香織達は気付く。メルド達や一部のクラスメイト達以外は、ハジメの事を『勇者達の足を引っ張った挙げ句に訓練で死んだ無能』と噂するのでハジメの事を他の人間に話す気などなれなくなったが、自分達と同じく地球出身だというキャスターならば話は別だ。むしろ、どうして今まで頼ろうと思わなかったかと二人は自分の行動を悔いた。騒ぎを聞きつけ、他のクラスメイト達もなんだなんだと集まってくる。

 

「でも、キャスターさん。南雲はあの時、ベヒモスと戦って奈落に落ちたんです。生きてるわけがありません。香織、君も仲間の無事を願う優しい心は美点だけど、辛くても現実はきちんと受け止めて―――」

「まあまあ。件の少年は崖から落ちただけで、死んだ瞬間を誰も見てないんだろう? それなら生きてる可能性もゼロではないわけだ」

 

 光輝が(彼にとっての)正論を言う中、キャスターは光輝を遮る様にそう言った。

 

「奇跡中の奇跡だとは思うが、ここに来るまで少年の死体どころか遺品の一つも見つかってないというの事実だ。香織嬢ちゃんは気になって仕方ないみたいだし、ここらでハッキリさせておくのも悪くないだろう? これでも占術にもちょっと自信があるんでね」

「でも、たかが占いなんて気休めにも………」

「……占術とは真剣に行うものだ」

 

 尚も苦言を呈する光輝をキャスターが遮った。いつもはどこか遊び人を思わせるおちゃらけた態度から一転して、真剣さを感じる声に光輝は気圧される様に黙った。

 

「雑誌の星座占いだとか、街角の手相占いだとかでお前達は身近に感じるし、インチキ占い師が適当な事を言ってる物だと思うだろうが………こと魔術に関しては俺は真剣だ。その為に生涯を掛けたと言っても良いからな」

 

 普通ならばそんなオカルトに嵌まっている人間など、苦笑しながら敬遠するだろう。それが現代社会を生きるクラスメイト達の共通認識だ。だが、キャスターにはそれを笑う事を許さない真剣さを感じていた。まるで学会の権威である教授を前にしたかの様に、彼等は息を呑んでキャスターの言葉に耳を傾けた。

 

「本来の占術というのは、占って欲しいことを正確に読み取り、その占いの結果だけを伝える。多くもなく少なくもなく、相手に必要な事を必要な分だけな。簡単なようでいて、本当に難しい事だ。だからこそ、相手を占うならばその結果に術者は責任を持たなくてはならない。日本(ジャパン)ならば、卑弥呼とかが良い例だろう? 占術師は古代においては権力者と同等の価値があった。決して結果に対して軽率な事を口走って良いものじゃない」

「は、はあ………」

「あの! 南雲くんが生きているか、本当に分かるんですか?」

 

 光輝が気圧されて頷く中、香織は意を決した様にキャスターに言った。キャスターは真剣な表情のまま、香織へと向き直る。

 

「……良いのか? こっちから薦めておいてなんだが、結果に関しては()()()()()。だから、仮に望まない結果が出るなら、“知らなければ良かった”と言う羽目になるわけだが」

「それでも………私は、南雲くんが生きてるか知りたいんです」

 

 香織もまた、キャスターに負けないくらい真剣な目で訴えた。

 

「私は……強くなるって、決めたんです。南雲くんが私達を命懸けで救ってくれた事を無駄にしない為に。それに私は信じています。南雲くんは、絶対に生きているって確かめたいんです!」

「香織……私からもお願いします、キャスターさん。香織の為にも、南雲くんの生死を占ってくれませんか?」

 

 香織の意志は固いと見て、雫もキャスターへ頭を下げた。かつて香織が失意から立ち上がった時にも思ったが、こうなった時の香織はテコでも動かない。何より、ハジメを探す為に大迷宮の攻略に熱心に取り組んでいた香織の姿を常に傍から見ていたのだ。だからこそ、雫もまた真剣な気持ちでキャスターにお願いしていた。

 二人の少女が真剣に頼み込む姿に詳しい事情を知らない他のクラスメイト達も―――それこそ、光輝でさえ固唾を呑んで見守っていた。その姿を見て、キャスターは頷いた。

 

「承知した……では、始めようか」

 

 そう言ってキャスターが懐からある物を取り出す。

 

「あ、それってタロットカードだよね!」

 

 それを目ざとく見つけた鈴は声を上げた。

 

「実は鈴も、一時期は占いに嵌まっていたから見た事あるよ! あれ? でもそのタロット、何か鈴が知ってるのと違う?」

「おや、お目が高い。これは昔、フリーダという女に絵柄を描いて貰った特別製なんだが……まあ、その話はまた今度にしようか」

 

 キャスターは鈴に微笑むとタロットカードの束を手に持ち―――カードの束はひとりでに浮き上がった。

 

『顕現せよ、ハドとヌィト―――天界の一団はヴェールを上げてそれを示せ』

 

 キャスターが朗々と詠唱を始める。それと同時にタロットカードが空中で勝手にシャッフルし始めた。それと同時に、辺りの空気が重くなった様にその場にいる全員が感じた。

 

『我が心臓、我が舌、我が奥底を賭けて誓おう……預言者に従い、知識の試練を乗り越え、求める。それこそが一切の苦痛を拭うだろう……』

 

 ヒュン、ヒュン。

 タロットカードが宙を舞う。長々としたキャスターの詠唱。その詠唱が進むにつれ、ここは地下の大迷宮だというのにキャスターを中心に風が吹いていた。

 ここに至って、クラスメイト達は確信した。それは異世界に渡り、自分達も魔法に触れられる様になったからこその感覚かもしれない。

 これは自分達が朝のテレビ番組で見ていた星座占いみたいな、胡散臭いものなどではない。

 これは―――本物だ。

 神秘的なキャスターの姿を見て、彼等は間違いなく本当の占術を見ているのだと確信していた。

 

『ハディートの隠匿は終わりを告げる……示せ、星の預言者の祝福を―――!』

 

 キャスターから一際大きな風が吹き荒れる。それと同時に強い魔力の光を感じて、思わず魔法職の者達は目を閉じてしまった。そうして空中でシャッフルされていたタロットカードから三枚の札が飛び出し、香織の前に現れた。

 

「こ、これは………!」

 

 現れたカードを見て、香織は思わず息を呑んだ。

 それは冠を被り、鎌を持って踊る黒い骸骨。書かれた文字は――――『DEATH』。

 

「いや……うそ、そんな……南雲くん……!」

「落ち着け。香織嬢ちゃんが思ってる様な意味ではないぞ」

 

 カードの文字をそのまま解釈してしまい、香織の心に絶望が広がりそうになった所へキャスターの声が響いた。

 

「逆位置で出たならそのままの意味なんだが、これは正位置。カードの意味としては再生と復活……ハジメ少年は、どうやら大きな変化があった様だな」

 

 そして二枚目のカードを見せた。

 

「見ろ、こっちは『運命』。これも正位置。死んだ人間の運命は動かないから、このカードも一緒に出たなら『大きな変化の転換点にいる』と解釈して良いだろう』

「へ? 『運命』? 『運命の輪』じゃなくて?」

「言ったろ、特別製のタロットだって」

 

 普通のタロットカードを知る鈴が別の名前になってる事に首を傾げるが、キャスターは軽くそう応えるだけに留まった。

 

「という事は、だ……件のハジメ少年は奈落に落ちたが、そこで死ぬ様な目にあったものの大きな変化があって生き延びた。そして今は少年にとって運命の分かれ道と言うべき事態を迎え、それに立ち向かっていると解釈すべきだな」

「じゃあ………南雲くんは、生きているの……?」

 

 キャスターの解説に香織は恐る恐るといった様子で聞く。もはや、たかが占いと疑う者などいない。今し方に見せられた神秘的なキャスターが、予言者の様に見えていた。そして、キャスターはニヤリと笑う。

 

「これを作ってくれたフリーダの名誉に賭けても………俺は内容に嘘はつかない」

「良かった……良かった……! 南雲くん……!」

 

 香織は思わず涙ぐんだ。不安に押し潰されそうな毎日の中、彼女にとっては希望の光が見えた瞬間だったのだろう。雫に背中をさすられながら、涙を拭いながら初めて安心した様な顔を見せる。

 

「デタラメだっ!!」

 

 唐突にそう叫ぶ声があった。クラスメイト達が振り返ると、檜山が何故か真っ青な顔で喚いていた。

 

「こんなの……デタラメに決まっている! 白崎を安心させる為に適当な事を言っただけだろっ! ただのインキチ占いだっ!」

「おい」

 

 低い声がキャスターから出る。その声の冷たさに、檜山は怒鳴っていた檜山がビクッ! と大袈裟に肩を震わせた。

 

「俺は適当な占術などしないと宣言したのを聞いてたよな? 俺が嘘を言っていた……お前はそう言いたいわけか?」

「で、でも、あいつが……あんなオタク野郎が生きてるわけが……!」

「それとも………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 またも檜山の肩が大袈裟に跳ねる。目は落ち着きなく動き、息はハァハァと荒くなっていく。その様子にクラスメイト達も様子がおかしいと気付き始めた。

 

「そういえば、メルドの部下達から聞いたんだが………ベヒモスと戦っていたハジメ少年は味方の魔法の()()で奈落に落ちたとか言ってたなぁ。可哀想に、なんとも()()()()()だ」

 

 わざわざ誤射や事故という単語を強調してキャスターは言った。その途端に檜山の顔がさらに血の気がひく。それを見て、一部の者達はハッとした顔になる。

 

「結局、誰が撃ったかは有耶無耶になったそうだが………なあ、誰なんだろうな? そんな戦犯級のやらかしをしちゃったのは?」

「し……し、知ら……知ら、な……!」

 

 檜山は大袈裟なくらいに震え、何かを喋ろうとしたが、その口は呂律が回ってないかの様にアワアワとしていた。小動物の様に震えてる檜山をキャスターは酷薄な笑みを浮かべながら見下ろし———。

 

「キャスターさん! 檜山に変な言い掛かりは止めてください!!」

 

 唐突に光輝が大声をあげた。

 

「あれは不幸な事故だったんです! もう済んだ事を今更蒸し返して何になるんですか! そんな事は()()()()()だって望んでいません!」

「そ……そうだっ! もう終わった事だろ!? ちゃんと皆に土下座して謝っただろ!? ()()を撃ったのは、絶対に俺じゃねえ!! ここにいる全員が容疑者だろっ!?」

 

 正義感から仲間を庇う光輝に便乗し、檜山が見苦しく喚き立てる。周りの人間を責める様に血走った目を向け、あの時の魔法は自分だったのかもしれないと思った者達は檜山を恐れてサッと目を逸らした。

 だが———そうやって周りを威嚇するあまり、檜山は気付いていなかった。

 

「へぇ………“火球”、ねえ。まあ、いいや。今更犯人探しをしても、どうしようもないのは確かだ」

 

 あっさりとキャスターは引き下がる。だが、その横で香織は真相に気付いた顔になり、雫もいつもよりさらに嫌悪感を込めて檜山を睨んでいた。

 

「とにかく、俺の占術の結果に嘘などない」

 

 まだ何か言いたそうな檜山だったが、キャスターの酷薄な笑みに気圧されて尻込みしていた。

 

「まあ、何か後ろめたい事でもあったのだろうが………()()()()()()()()。過去というのは何処までも追いかけてくる影法師みたいなものだ。年長者としてアドバイスをしてやるよ、どんな結末になっても自分から逃げるんじゃない」

 

 その言葉には長く生きた者の重みがあった。どこか威厳すらも感じさせる言葉に、この場にいる十代の若者達は言い返したりはせず、重く受け止めていた。

 

「まあ、重苦しい話はともかく………祝おうじゃないか、ハジメ少年の無事を」

 

 次の瞬間、キャスターはパッといつもの様なおちゃらけた空気を出していた。その途端、場を支配していた空気が霧散する。

 

「………うん、そうだよね。南雲くんが生きていた事が分かったんだから、良かったよね……ありがとうございます、キャスターさん!」

「いやいや、良いって事よ。あー、ただな……まだ結果に続きがあってな」

 

 そう言って、キャスターは最後に引いたカードを香織に見せた。それはまるで王族の結婚式を描いた様なカード———『恋人』だった。

 

「このカードが一緒に出て来たという事は、どうもハジメ少年は既に新しい恋か愛に目覚めてるというか……総括すると“ハジメ少年は奈落に落ちて死ぬ様な目にあったが生きてて、人生の転換期に新しい女ができた”という解釈になるわけだが———」

 

 ピシッ。瞬間、空気が凍り付いた様に感じた。そんな中、香織はハイライトの消えた目でニッコリと微笑んだ。

 

「へぇ………そうなんだ。そっかあ、散々心配したのに南雲くんは女の子を作ってるんだぁ」

「か、香織? ちょっと、大丈夫? なんか、すごく黒いオーラを感じるけど!?」

「ん〜? 大丈夫だよ、雫ちゃん。少し前、なんでか“この泥棒ネコ!”と感じる事があったけど、そっかぁ……そういう事だったんだぁ……フフ、フフフ……!」

「ひ、ひぃいいいっ!? シズシズ、何でかな? カオリンの後ろになんか夜叉の姿が見えるけど、気のせいだよね? 気のせいだよね!?」

「お、おお、落ち着くのよ、鈴。きっとあれは、光の加減とか目の錯覚よ! 素数を数えて落ち着きましょう」

「か……香織? たかが、タロット占いだろ? あまり信用しない方が良いし、仮に南雲が生きてて女の子を誑かしていたって、君が気にする様な事じゃ……」

「なあに?」

「……ご、ごめん。何でもない……です」

 

 明らかに人間が出しちゃいけないオーラを出しながらクスクスと笑う香織を見て、クラスメイト達はガタガタと震えていた。せっかく弛緩していた空気がまた別の意味で重苦しくなり、皆の意識が香織に向いてる中———恵里はキャスターにコッソリと近付いた。

 

「ねぇ、さっきの話。本当なわけ?」

「お前まで疑うのか? ホントの本当。魔術に関しては嘘はつかんよ」

 

 小声で話しかけてくる恵里に、キャスターは溜息を吐きながら応じる。

 

「というか、お前からしてもハジメ少年が生きてた方が都合が良いだろ。元から目は無いだろうが、これで香織嬢ちゃんは勇者くんの目の前から消える可能性が大きくなったわけだ」

「それはそうだけど………」

「しかし、色々と考える事が増えたもんだ」

 

 不承不承ながら頷く恵里を尻目に、キャスターは気まぐれで行った占術から分かった出来事について考える。結果を突きつけられても自分が見たい様にしか見ようとしない光輝の事、自分が罪を逃れる為なら形振り構わない檜山の事、そして………ステータス最弱で奈落に落ちながら、生きていると占い結果に出た少年の事。

 

「気になるな………果たして、何か良いものでもあるのかねえ?」

 

 自分の足下———オルクス大迷宮の底を見透す様に、キャスターはステッキでコツコツと叩きながら笑っていた。




>キャスター・マテリアル③

魔術において、彼は真剣だ。世間的には胡散臭いオカルティストでしかないが、彼は魔術の探求において常に真剣に挑んでいた。彼の持つタロットは生前では持ち得なかった物。だが、このタロットの製作者という事実が人々から認識され、英霊化した際に彼の持ち物として登録された。
余談ではあるが、彼は他人を占えても自分自身は出来ないとの事。自分自身を占おうとすると、「こうであって欲しい。こういう結果が出て欲しい」という願望が入り混じるので正確な結果にはならないのだとか。

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