ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る   作:sahala

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 久々にこちらを投稿します。理由としてはオバロの方が少し展開が行き詰まってきたので少し休もうかなと思うのが一点。それと某所で知ってる人はいると思いますが、少し入院していたので入院中に書けたのがこちらというのが一点。

 因みに天職の設定やら恵里のバックボーンについてはこの作品独自の設定という事でお願いします。


第七話「恵里の修行」

 1899年 ロンドン―――。

 

「その男は本当に信用できるのか?」

 

 ランプで仄かに照らされる暗い部屋の一室。そこで二人の男が向かい合っていた。一人は上司を前にした会社員の様に直立不動なのに対し、声を掛けた男の方は高級そうなソファの上でふんぞり返る様に座っていた。それが二人の力関係を示している様だった。

 

「ええ、師匠(マスター)。ベイカーの紹介で知り合いましたが、若いながらに腕が良い。試しに『黒魔術と契約の書』や『聖所にかかる雲』などの魔術書についていくつか質問してみましたが、隠された記述を含めて全て完璧に答えてくれましたよ。おそらく元から魔術への探究心が強くて――――」

「そんな事はどうでも良い。問題は奴が()()()()()()()()ではないか、という事だ」

 

 まるで掘り出し物を見つけたかの様に話す男に冷や水を被せる様に、師匠と呼ばれた男はジロリと鋭い視線を向けた。

 

「今更説明するまでも無いと思うがな、現代魔術科の歴史は非常に浅い。他のロード達に軽んじられない為にも、今は在籍する魔術師の数を増やす必要がある。魔術師の家系ですらない者などいらん」

「ですが、師匠……彼はおそらく本物です。むしろ、ここで彼の様な逸材を見逃す方が現代魔術科の損失が大きいと存じ上げます」

 

 魔術協会における三大部門の一つ、『時計塔』。

 その中の一部門である現代魔術科は文字通り、ここ最近に起きた“現代魔術”と呼ばれる魔術の研究を行う学科だ。時計塔にある十二の学科の内で最も新しく、新世代の魔術師達のフィールドとなりつつある。

 だが、伝統や血統を重んじる魔術の世界で評価は低く、旧くから時計塔に在籍している名家の魔術師は『歴史の浅い烏合の衆』として現代魔術科そのものを軽んじている者もいる。だからこそ、現代魔術科とはいえ受け入れる人間は厳選すべきだという師匠に対して、弟子の男は尚も食い下がっていた。それだけ彼が見つけた人物は逸材だったのだ。

 

「確かに彼は魔術師の家系に生まれていません……ですが、我々、現代魔術科は新世代(ニューエイジ)の魔術師達の新たなフロンティアとなるべき学科の筈です! 彼は元は一般人ではありますが、魔術の求道に対する熱意は本物であり、才気溢れる知能を持つ者を手放すにはあまりに惜しく―――!」

「分かった、分かった。お前がそこまで言うなら良い。その件の元・一般人とやら面倒はお前が見ろ」

「師匠……!」

 

 熱く語る弟子に根負けした様に師匠と呼ばれた男は頷いた。

 

「ありがとうございます、師匠!」

「ふん、私の“仕事”の邪魔だけはするな。その為に私は現代魔術科の学科長を務めているのだからな」

「“仕事”……ですか。前々から疑問なのですが、師匠の“仕事”というのはどの様な……?」

「ああ、“仕事”というのは不適切か。謂わば、これは崇高なる使命だ」

 

 弟子の質問に師匠は答える。だが、それは弟子に対してというより、自分自身へ語りかけている様だった。

 

「そうとも……人類、いや文明全体に関わる……恐ろしく、美しく、完全なる完了以外は予定されない偉大な使命(グランドオーダー)。それを私の代で途絶えさせるわけにいかんのだ……!」

「マ、師匠(マスター)……?」

 

 どこか狂気すら感じる自分の師匠の様子に、弟子の男は気圧された様に見る。魔術師の世界において狂気を宿すのは珍しい話でない。全ての魔術師は“根源”へ至る為に偏執的な情熱を捧げ、それでもなお力及ばずに次世代に望みを託そうとするからだ。

 だが、師匠の男は何かが異なる様に見えた。自分が“根源”に至る事は考えておらず、何か別の目的―――それこそある地点で完成が予定されてる事象に執着している様な口振りに違和感を覚えたのだ。

 

「……ふん、喋り過ぎたな。まあいい、仮にも私の学科に入るのだ。その件の男の顔ぐらいは見ておこうじゃないか」

「は……はい! おい、師匠の許可が出たぞ! 入りたまえ!」

 

 師匠にそう言われ、弟子の男はそれまで部屋の外に待たせていた者へ声を掛けた。そしてドアが開かれ―――後に魔術師の英霊(キャスター)と呼ばれる若い男は不敵な笑みを浮かべながら挨拶した。

 

「初めまして、マスター・■■■■■。私の名前は――――」

 

 ***

 

 深く、深く、堕ちていく感覚がする。

 五感は意味を無くし、ただ闇に包まれていく感覚に恵里は襲われていた。

 

(寒い……暗い……)

 

 息も出来ず、体温は急速に失われ、目は僅かな光すら捉える事も出来ない。もがけどあがけど、何も掴む事が出来ずに深く底の見えない水の底へ浮き上がる事も出来ずに沈んでいく。

 

 ―――死。

 

 それを今、恵里は体感していた。

 

(あの時と、同じ……)

 

 幼少期の頃、父親が死に、家庭環境が荒れた恵里は全てに絶望して川へ身を投げようとした。

 それは未遂に終わったものの、もしも本当に身投げしていれば、こうなる筈だったのだろうと実感していた。

 

(光輝くん……助けて……)

 

 恵里は思わず、心の中で光輝に助けを求める。かつて身投げしようとした時に止めてくれたのが光輝だ。その時から恵里の中で光輝は意中の王子様となった。光輝こそが恵里にとって暗闇を照らしてくれる光なのだ。

 だが、差し伸べた手が取られる事はない。

 それは過去でもそうだった。確かに光輝によって恵里は自殺から救われた。しかし、それによって光輝の中で恵里は『既に自分が救った少女』として、過去の存在となったのだ。光輝の幼馴染み(ヒロイン)でもない恵里が再び助けを求めた所で、その他大勢(モブキャラ)に過ぎない自分の声など届かない。

 

(ボクは………)

 

 不意に恵里は手を差し伸ばす事を止めた。上に――――もう上下の感覚などないが。上へと、光輝を頼って伸ばしていた手をダランと下げ―――目に強い光を宿した。

 

(ボクはもう……あの時の弱いボクじゃないっ!)

 

 王子様の助けを待っていても、ヒロインではない自分に救いは来ない。自分の人生はプリンセスストーリーみたいに甘くはない。だからこそ、どんな手を使ってでも自分で勝ち取りに行かなくてはならないのだ。異世界(トータス)に来て、その為の力も手に入れた。もう自分はあの雨の日に泣いてるだけの無力な子供などではない。

 それを再認識した恵里は闇から逃れる事を止め、むしろ更に深淵へと潜る様に意識を向けた。

 

(もっと……!)

 

 堕ちていく。

 身体と精神が闇に蝕まれそうになる。死を身近に感じる。

 

(もっと、この先に……!)

 

 だが、それでも恵里は闇へと身を投じる。

 破滅はすぐそこにある。二度と浮き上がれないかもしれない。

 それでもいい。この手で勝ち取りたい未来の為なら、恵里は死など恐れたりはしない。

 何故なら―――自分が得た力は、“降霊術”は死を乗り越えたその先に―――――。

 

「―――はい、そこでストップ」

 

 唐突に声を掛けられ、恵里はハッと意識を覚醒させる。

 周りを見渡せば、そこは先程までの闇などではなく、先日からキャスターによって行き来できる様になった修行場。オルクス大迷宮の最深部にあるオスカー・オルクスの屋敷だった。

 

「やれやれ、天職の相性もあったろうがここまで嵌まるとはな」

 

 そう言って、キャスターは香炉の火を消した。香炉から出ていた妖しい香りが消え、トランス状態に陥っていた恵里の意識は急速に現実感を取り戻していった。

 

「で、どうだった? 臨死体験は」

「……最低だった、と言っておくよ。お陰で思い出したくない事まで思い出していたからね」

 

 いつもの様に人を小馬鹿にしてる様な笑みを浮かべるキャスターに、恵里は吐き捨てる様に答えた。

 恵里がキャスターへ師事する様になってから、それなりの日数が過ぎていた。

 キャスターは魔術師の英霊を自称するだけあって腕は非常に良く、恵里自身のレベルも以前とは比較にならないぐらい上がっていた。かつては低級霊を数体使役するのが精々だった降霊術も、今ならより深い領域で霊達を操れるだろうという自負がある。

 

「それにしても、趣味の悪い鍛錬だよ。誰が好き好んで自分から死に行く様な真似をするんだか」

「何を言うよ。自分の死を実感するというのはネクロマンシーでは一般的な鍛錬法だぞ?」

 

 つい嫌な記憶を想起させた事に対して当てつけの様に文句を言ってみるが、キャスターはやれやれと肩をすくめる。まさしく道理を理解していない凡俗を相手にしている通の様で、恵里はイラッとしながらも聞いた。

 

「死は本来、生者とは相容れないもの。その領域に生者のまま足を踏み入れるというなら、術者もまた死を間近なものとして認識する他ない。お前がやっていた様な下級霊の使役なんて論外だ。あんな物は死を理解せずに表面だけを弄ぶ児戯だ」

 

 スッとキャスターは鍵盤を端から弾くピアニストの様に宙で指をなぞる。それだけで―――辺りの空気が冷たくなった様に感じた。

 

「魔術の基本は“歪曲”と“逆行”」

 

 墓場の様に冷え切った空気の中で、キャスターの声だけが朗々と響き渡る。

 オルクス大迷宮の屋敷は照明装置で十分な明かりを取り入れている筈なのに、何故かキャスターの周囲だけ暗く冷たい印象を受けた。

 

「どの様な魔術であれ、元の在り方(自然法則)を歪める……これはこの世界の魔法であっても変わらない。“降霊術”もまた然り。本来なら既に肉体から離れた()()の声を聞き、そして時には現世へと呼び戻す」

 

 アア……アアア……。

 

 不意にキャスターの周りにいくつもの淡く青い光がいくつも浮き上がる。かすかな呻き声を上げるその正体が何なのか、“降霊術師”である恵里には分かった。同時に“神の使徒”と呼ばれる自分でも複雑な詠唱や儀式が必要となるそれを、指先一本でやったキャスターに対して背筋が寒くなる。

 

生者(我々)と相容れない彼等を旧知の友人の様に接して、“死”を見つめ、“死”を抱き、“死”は生と共にあると識り、“死”を統べる……それがネクロマンシーの極意」

 

 グシャッ!

 ギャアアアアッ! 

 

 キャスターは宙で拳を握る仕草をする。それと共に人魂達は断末魔を残して宙へと消えていった。

 

「だから―――死を畏れるな。隣人の様に慣れ親しめ。朝の鏡の様に、冬の林の様に、墓地を散歩する様に。死はすぐ隣にあるのだから」

 

 いつもの軽薄な遊び人の様なキャスターはいなかった。かつて香織に南雲ハジメの生死を占っていた時の様に、長い年月を掛けて鍛錬と研究に明け暮れた厳かな魔術師の姿を恵里は目の当たりにしていた。

 思わず姿勢を正して聞き入っている恵里の緊張を解す様に、キャスターはパッといつものちゃらけた笑みを浮かべた。

 

「まあ、それはともかく。お前さん、中々スジが良いね。素養の無い奴はそのまま意識ごと死に引っ張られるのだけど、まさか“死”に正面から飛び込んでいくとは」

 

 突然の緊張の緩和に恵里は思わずコケそうになる。自分も周りに猫を被っている自覚はあるが、こうも極端に性格のオンオフが出来るのも珍しいだろう。

 

「さあね、ボクの天職が“降霊術師”だからだろ」

「いやいや、天職の話じゃない。しくじれば死ぬ、という土壇場でも力を求める情熱。目標に向かって走っていく不断の意志。そういう特質こそ魔術師に必要な素質だからな」

「………あっそ」

 

 プイッと横を向きながら恵里は返事をする。恵里の人生において、こうして相手から褒められるのは父親が死んで以来だ。しかし、それを悟られるのが嫌でつい素っ気ない態度を取ってしまっていた。

 

「まあ、降霊術師の素質も確かにあるけどな。他のガキ共とはエラい違いだ」

「はあ? 他の奴等もエヒト神とやらのお陰で天職に目覚めたんだから大差ない筈だろ」

「それは少し違う。エヒトルジュエは召喚する際に眠っていた天職(才能)を呼び起こした奴もいるけど、大半は後から植え付けられてた天職で魔法やスキルが使える様になっただけだ。でなければ、地球にいた人類は戦闘系の天職ばかりだったという事になるだろう?」

 

 言われてみれば、と恵里は思い直す。例えば、“投擲師”という天職になった園部優花というクラスメイトがいる。だが、彼女のプロフィールを軽く聞いた限りでは喫茶店の跡取り娘であり、武器の投擲など全く関係ない筈だ。隠された才能が眠っていたと考えるにしても、クラスメイト達の中には本人のイメージと天職が噛み合わない者が多い気がした。

 

「一般人に魔術髄液を投与して擬似的な魔術回路を作ったという事例はいくつか聞いた事があるが……これはそれの拡大版と解釈して良いだろうな。まあ、すごくはあるが魔術師からすれば「素人の魔術使いを量産してどうする?」と白い目で見られそうではある」

「……ボクはそういう奴等と違うと言いたいの?」

「ああ。元から天職が無かった奴には適当なスキルを渡した植え付けたらしいが、元々の素養があった奴はそのまま強化する方向で弄ったらしいな。例えば、八重樫のお嬢ちゃんは実家が剣道道場だったそうだな? 元から“剣士”の天職(才能)があったから、後はそれに合わせたスキルをいくつか付与したといった所だろうな。まあ、見た感じだと件の実家が()()()()武術の道場だったかは怪しい気もするが………」

 

 それはともかく、とキャスターは改めて恵里を見る。

 

「そうなると我がマスターは少し解せない。元々の才能とエヒトルジュエに植えつけられた天職(才能)が噛み合ったというだけなら良い。今の“神の使徒”一軍メンバーが大体そんな感じだしな。しかし“死”と隣り合わせとなる降霊術がこうも嵌まるとなると、後は血筋を疑うしかなくなるわけだが……ひょっとして日本の魔術師の家系の出だったりするのか?」

「知らないよ、そんなの」

 

 長々としたキャスターの考察の後に恵里は少し苛立ち紛れに溜息を吐く。

 

「本当に? 実は実家が何かの名家とかそういう話はない?」

「ああ、もうしつこいな。あ、でも……」

 

 ふと先程の臨死体験で想起させられた過去に関連した事が頭に浮かぶ。正直、あまり好き好んで話したい内容ではないが、自分の力のルーツになるかもしれないという事で嫌々ながらも恵里は話し始めた。

 

「魔術師だか何だかの家かは知らないけど、()()()……ボクの母親は良いところのお嬢様だったらしいよ」

「……ふうん。母親が、ねえ?」

 

 仮にも自分を生んだ母親は“あの女”呼ばわりする事に含む所はある様だが、キャスターは茶化したりせずに聞き役に徹していた。

 

「あの女は……実家がかなり格式が高い家だったそうだけど、父さんと結婚する際に「相手方の身分が低すぎる」とか親族達に言われたとか話した事があったな。だから駆け落ち同然に父さんと結婚して、実家との縁を切ったとか……フン、そのくせに父さんが死んだら新しい男にあっさりと乗り換えてるんだ。尻軽で本当に最低な女だったよ」

 

 吐き捨てる様に恵里は言う。

 駆け落ちするぐらいに父親の事を愛していたくせに、一人では生きていけないからとクズを絵に描いた様な男に媚びて新しい愛を探そうとしていた。恵里の事も最初から父親を繋ぎ止める為の道具にしか見ておらず、新しい父親が自分に性的暴行を加えそうになったと聞いても「この泥棒猫!」と殴るくらいだった。まさしく、恵里にとっては最低な母親だったのだ。

 

(ボクはあの女とは違う……ボクは、何があっても光輝くんだけを……)

 

 あの女の事を思い出す度に、自分はあんな風にはならないと恵里の中で反発心が生まれる。恵里が光輝一人に偏執的な愛情を向けるのも、新しい男がいたら乗り換える様なふしだらな女とは違うという想いも混ざっていた。

 

「はあ……まあ、お前の実家も色々と荒れてるんだな」

 

 恵里にとっては長年苦しんだ家庭環境だが、キャスターからすれば天気の空模様の様にありふれた物らしい。

 

「まあ、その母親がザ・クソだったのは理解したけど……そいつとはまだ一緒に住んでるのか?」

「別居してるに決まってるだろ。まだ未成年だから書類上は親子だけど、あんな女、ボクが成年になったら用済みだよ」

「なら別に良いじゃないの。そもそも母親がどうとか今更気にする様な事か?」

 

 キャスターはいつもの様にニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

「なるほど、生まれた家というのは子供にとって重要なファクターだ。裕福なのか、貧乏なのか。親の愛情があったか、子供を虐待する家だったか。スタートラインが異なるだけで、その後の人生に影響があるのは否定しない。で、だ……()()()()()()()? 」

 

 だが、そこに恵里を小馬鹿にする様な意思は見えなかった。

 

「そもそもこの世に平等なんて物はねえよ。アベレージじゃなくて、トップとボトムが決まってるから平等っぽく見えるんだよ。どんな家に生まれようが、家の外(社会)に出ちまえば関係なしだ。自分という個人に対して値踏みされる。その値を金やら権力を手に入れて高く見せるのも良い。要は全部自分次第だ」

「……なに? 環境も何も恵まれてないボクは、自分の価値を高める為に壁や権力を手に入れろという事?」

「それでもいいし、飾らない自分を愛してくれる奴を探すというのも良い。要は何だって良いんだよ。クソッタレな世界だが、どんなルール()で遊ぶかは自分で決められる。ダイスを振るのは自分なら、イカサマもハッタリも全部使って勝ちに行けば良い。ま、派手に負けたならそれはそれで笑い話だ。酒の肴になれば十分さ」

 

 ケラケラとキャスターは笑う。この世の全ては笑い話。だからこそ、愉しむべきだ。そこに生まれた家の事など、些事に過ぎないのだと笑い飛ばす豪胆さがあった。そんなキャスターを見て、恵里はボソッと呟いた。

 

「……経験者は語る、か」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもない。それより、次の修行を始めろよ。ボクは自分の人生を神様とやらに台無しにされない為にも、強くならなくちゃいけないんだから」

「俺が言えた義理じゃないが……それが仮にも教えを請う態度かね?」

 

 フンッと恵里はそっぽを向く。

 キャスターには夢を通して彼の過去を見ている事は言ってない。誰だって自分の過去を覗き見されて良い気分になる奴などいないだろう。それを誤魔化す為に目線を合わせたくなかった。

 だが、それ以上に――――自分と同じ様に親から愛されない幼少期だというのに、それを何とも思ってないかの様に振る舞うキャスターに、恵里は自分がちっぽけに感じて素っ気ない態度を取ってしまっていた。

 

「あ、肝心の事を聞き忘れていた。それで結局、お前の実家は何て名前だったんだ?」

「うるさいなあ、確か―――」

 

 顔を顰めながら恵里はかつて母親から聞いた実家の名前を思い出す。聞いたのは一度きりで、それもまだ実の父親が生きてる頃だったので何年も前の話だが、案外あっさり思い出す事が出来た。

 

「……巫浄。確かそんな名前だったよ」

「――――へえ、そうか」

 




>巫浄家

 型月世界における退魔四家の一つ。当初は市子として口寄せ、呪詛を生業にしていたが、現代では祈祷に鞍替えしている。盲いることであちらの世界が視えるようになるのだとか。

 原作において恵里の母親は少し良い所のお嬢様としか言われていませんが、恵里が降霊術師の素養があったのはそういった血統の生まれだったという事で。

 この設定は後々に使うつもりなので。
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