交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

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まえがき
この小説ではストーリーはまどマギ側ですが、仗助たちと魔法少女じゃ高校生と中学生でぎこちなくなるよな、と思い魔法少女たちの年齢を底上げして高校生ということにしています。進学先だとかでいろいろおかしいと思うかもしれませんが、そこはほんわか見て許してほしいです。
※キャラの性格や関係性とかは特に変わらないよ!安心してくだせえ。




stand by me
目覚め始める、見滝原


 

 人間は何をもって幸せを享受することができるのだろうか。

 

 億万長者になることか、何者にも敗北せず頂点の絶頂で居続けることか。あるいは、全てをあらかじめ知り、恐怖を克服することこそが幸福なのか。

 家族の中にそれがあると言う者もいる。覚悟を決め、人間として賛美されるような生き様を魅せることが人としての幸福かもしれない。

 

 共通して言えることは、どの道にも『希望』が見えるということだ。人は希望があれば何でもできる。文字通り、なんだって。

 犬のような生活を強要されても耐え抜けるし、解ける気のしない方程式だっていつか解明する。希望を持っている人間は限界を超えて発揮する力すら超えて何かを成し遂げようとする。

 自分の命が消えようとも、次代に希望を繋ぐ。次の世代に希望を棄てないように、幸福への道を遺す。見ず知らずの人間にさえ託すことができる。それが人間の異常性であり、讃えるべき精神性だ。

 

 希望の反対とは。

 『絶望』と答えるのが一般的だろう。ボクの認識の中でもそうなっている。

 人が希望を棄てるときは、絶望するときではない。むしろ、絶望は新たな希望を人間に見出させる、ある種の希望でもある。

 それを打ち砕かれたとき、人は希望をやっと棄てる。絶望の底の絶望。『深淵』と言っても差し支えない。その幸福の対岸にある深淵へ到達してしまった者が、全てを諦めるのだ。

 

 それは、希望よりも莫大なエネルギーを発生させるのではないかとボクは仮説を立てた。誰しもが抱く希望なんかより、ずっと到達しにくいものなのだから。

 効率よく人間を深淵へ至らしめる方法を思いついた。人間は絶望の後に希望を抱くが、逆も然り。希望を失えば人間はずっと大きい絶望を覚える。

 そこでボクが、人間の心に絶望を直接注ぎ込み、新たな希望を見せずに深淵へ突き落とす。

 ボクらの計算の結果、生まれ出でく人間のうち1割に満たない人間にこれを経験させるだけで、必要量のエネルギーを充分満たすと分かった。

 

 洞穴から出してやったのはボクらだ。君らの社会のうちほんの少しが欠けても、君らの社会は運営できる。これくらいは許してもらうよ。

 

 

 世界は二十一世紀に突入した。去年はノストラダムスの大予言だとかで世間が荒れたりしたものだが、今年も『2000年問題』とかで平穏な年越しではなかった。(ま、なんともなかったんだけど 拍子抜けだ)

 たいていは晴々とした気分ではなかったろうが、いつも通りの春を迎えようとしていた。まだまだ気温は上がってないし、感覚的には冬だけれど。

 

 どうも、広瀬康一です。16さい。去年の春頃にも同じような挨拶をした記憶があります。僕のことは覚えなくてもいい───とか、言ったっけ。

 高校への入学とか、そこに馴染めるかなーだとか、ちっぽけな悩みをぼやいてた気がします。

 

「しっかし、もう冬休みも終わりか。ゲームばっかしてた記憶しかないね」

 

「なに馬鹿なこと言って。康ちゃん学校遅れるわよ!」

 

「もーわかってるよ、もうすぐ支度するからっ」

 

 

 母親に小言を言われながら、聞き流すように学校の支度をしていく。そんな中で密かに、去年のことを思い出していた。

 ()()()()から半年余り。僕たちは高校二年生となろうとしている。時が過ぎるのは存外に早い。生きるか死ぬかギリギリの半年間を駆け抜けたのだから、それから先は退屈で平穏で、直ぐに過ぎ去るのは当然と言えるのかもしれない。

 しかし目を瞑ると、すぐにあの頃のことを思い出す。

 傷だらけになっても僕の前に立ち続けた、愛すべきヘンテコ頭のことを。

 

 そいつの名は『東方仗助』。僕の親友だ。去年の今頃、彼ともう一人、彼の甥と出会ったことで、僕の人生は大きく狂ったと思う。

 もし彼らに会わないか、関わりをさっさ絶っていれば、今頃なんの変哲もない高校生として、新学期に対する嫌悪感を感じながら生活していたのだろう。

 

「じゃ、ポリス」

 

 

 うちの老犬に出立の挨拶をして、去年買ってもらった自転車に跨ろうとする。しかし、その前に気になることがあった。

 郵便受けが詰まっていた。きっと姉ちゃんが取らずに出てったんだろう。そうなると、回収の皺寄せは僕に来る。

 

(テレビでニュースでも見りゃ、新聞なんていらないと思うんだけど)

 

 そう思いながらも、しぶしぶその紙束を鷲掴んで取り出す。

 僕は手に持ったそれを玄関に置こうと家のドアを再度開こうとする。だが、玄関に入ってドアがきっちり閉まったとき、何を思ったのか僕は土間との境の段差に腰掛けた。

 

(……行方不明者異例の人数 痕跡ナシ、か)

 

 

 一番に目に留まったのは、そんな紙面であった。

 あの戦い……今でも奴のことは夢に出る時がある。きっと僕だけじゃあない。奴に傷つけられてきた全てが、同じように忘れられていないのだろう。

 仗助くんがこの町の恐怖を背負う希望だとしたら、この町の恐怖そのものがいた。奴の名前は『吉良吉影』。忘れもしない。奴は怪物だった。

 

 唐突ながら、僕らの住んでいるこの杜王町の、少年少女の平均失踪率を知っているだろうか。正解は全国平均の八倍。上振れ下振れの話ではなく、()()である。

 吉良吉影は凶悪な殺人鬼であった。初犯は十八歳のときで、それ以来主に『手の綺麗な女性』を標的に五十人近くを殺害していた(らしい。口止めや衝動による殺害を含めると犠牲者はさらに膨れ上がるとか)。

 

 こんなゲロ以下の性質に加えて、それの追い風となるような()()を持っていたのが、奴が天に愛されていたように思えて、心底ムカつく。

 

 『スタンド』 

 

 それが能力の名前である。一人の人間につきひとつのスタンド。自慢するようで恥ずかしいが、僕や、仗助くんも持っている。

 難しい話は僕もよくわかっていないが、どうやら「持ち主の生命エネルギーがパワーを持って具現化したもの」……うん、やはり僕にはわからない。昔に説明してもらったが、僕もこの能力を感覚的なものとしてしか捉えられていない。

 とにかくは色々な種類のある守護霊のようなものだ。吉良はその能力を駆使して証拠を完全に消し去りながら、のうのうと「平穏と生きたい」とのたまっていたとか。

 

 だから死んだ。戦闘の最中に、救急車に轢かれて、誰にも殺されることなく奴は終わった。なんとなく、この杜王町自身が奴を追い出したと感じるのは、僕だけだろうか。

 

(閻魔さまが今頃、あいつをボコボコにいじめてるはずさ。じゃないと、ワリに合わないよ。僕だって一度殺されかけたし)

 

 

 溜め息を吐きながら、朝から嫌な気分になってしまったと新聞をめくりながら閉じようとする。その『今日の特ダネ』を目にするまでは……

 

 

 

 

  唐突な杜王と見滝原の合併。伝達ミスか  

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、杜王町が合併いッ!?」

 

 思考が一瞬飛んだ。

 

 

 僕が戻ってきたと同時に、ふたたび理解不能すぎて泡吹きそうになる。赤点回避のための採点ミスを探すくらいの勢いで記事を読み込む。日付を確認すると────っおいおいおいッ。来週にはもうそうされるじゃあないかッ!?

 視界がチカチカ点滅している。わ、訳が分からないッ。

 サァああッと血の気が引いていく。手のかじかみ具合とは裏腹に、顔色は深く青ざめているだろう。新手のスタンド攻撃だと言われても違和感はない。僕は限界まで舌を巻いた。

 新聞をバッグに詰め込んで、転がりながら慌てて家を飛び出す。何がどうなってそうなったんだこりぁ───ッ!?

 

 外に出てみると、そこにいつもと変わらぬ通りが悠然とそこにあった。変化も何もない、当たり前の日常の風景。こっちはそんなこと言ってられないのに。

 僕は入学祝いに買って貰ったマウンテンバイクに跨がりペダルを踏み外しそうになる勢いでこぎ出す。目的の場所は………

 

 

 爽やかなブレーキにいつもなら高揚できるところだけど、そんなこと気にするヒマは微塵も無い。

 『立禁止』と門にあるオンボロやに入って、問答無用で敷地内に自転車を停める。僕は焦りに任せてその元豪邸の扉に駆け寄り、突き破るかもしれないくらい強くドアを叩いた。

 物音がひどい。家主も相当な慌てようだ。もしかしてスデに知っているのかも?いやでも新聞はとっていなかったような……

 

「誰じゃてめーはッ!こちとらてめーなんざに構ってる……暇、は……康一じゃあねーかッ。おま、お前ェ、アレ聞いたかよッ!」

 

「うっ、うん!僕も今朝新聞で!スゴいことになったよね、いやほんとに。だってさ、統合ってことは杜王町がなくなる……単体としての杜王町がなくなるって事でしょ?」

 

「あぁ?な、何言ってんだァてめー」

 

 

 億泰君はきょとんと、呆けている。今度は何も知らない様子で僕の顔を見ながら言う。

 『虹村億泰』。彼もまた、僕の親友でスタンド使いである。少々頭の足りない奴ではあるが、根っこからいい奴で人間的にも僕は彼を慕っている。

 

「え?だって知ってるんだよね。ほら今日の朝刊一面にさ、張り出されてて」

 

 

 鞄から新聞記事を乱暴に引っ張り出して、肝心の見出しを指で抑えて見せつける。

 

「ほらここ!隣町の見滝原くらい知ってるよね?『杜王町が見滝原市に合併』ッ!確かにそう書いてあるよ!」

 

「が、合併っ…てなんだァ、月餅の仲間かよ」

 

 

 急にとんちんかんな事を彼はほざいた。初耳って顔に書いてある。億泰君こんなアホらしいニュース知らないみたいだ。いや、いつもならもっと反応は良いはずだが。

 しかし明確に焦っているのは分かる。別のことで手一杯って様子に見えた。僕は何とか、自転車こぎで荒れた呼吸を整えながら追求する。

 

「と、というかさ。合併ニュース知らないんでしょ?だったらなんでそんな焦って」

 

「そこ!そこなんだぜ康一ィ~~~ッ!ああ~ヤベーぜこのままじゃあマジで!」

 

 

 僕の肩がガッチリ掴まれ、前後ろに揺らされる。そして億泰君は僕の耳元で言った。

 

「俺がホームレスになっちまう!!」

 

 ………僕はまだ16歳だ。耳が遠くなるような年じゃない。それに聞いたことがあるぞ、日本人って外国の人より耳が良いんだってね。秋のスズムシとかの鳴き声聞いてたら良くなっていったらしい。

 

「…………っ」

 

「どおすりゃ良いんだあ?一昨日よォ~~俺の敷地の中に知らねぇ禿げたオヤジと成金ぶってる金持ってそうなるチョビ髭野郎が入ってきてよォ。

 ちょいとシメてやって俺ェ『何やってんだっ!』って聞いたんだぜ。そしたら!ソイツら『と、取り壊し!ここのぼろ屋ぶっ壊してこの人の別荘建てるんですよ~~~~ッ!』って……」

 

「ぇ、え」

 

「おっ!なんか良い案思いついたかッ!?ヤベえよこのままじゃ俺、仗助んち居候することになっちまうぜェ」

 

「ええぇえ~~~~~ッ!!?」

 

 

 夢だったら良かったと何度思うか。立て続けに起こる問題に、僕の繊細な脳細胞がキャパオーバーした末、叫ぶことしか出来なくなった。

 

「合併っに、加えて、お、億泰君の家まで……ッ」

 

 

 意識が遠のいた。ふらっと来た。後ろめりに体勢を崩す。胃が痛いってこんな状態なんだろうか。僕は知りたくもなかった。一歩二歩と後ずさる。小さな段差にかかとがとられ、尻餅をついた。

 

「どう、ど、一気に情報が来すぎて処理しきれないよお~~~!!」

 

「同感だな」

 

 

 鈍い軋む音。僕は素早く声の方向に目を向けた。ひとりの男が鉄の門に触れ、僕達のやり取りをキツい顔で見ていた。胸元が開いた改造制服。180はあるタッパに、大体の女の人が振り向く矯正な顔立ちがついている。

 建て付けの悪い門をゆっくりと、体重を乗せるように開く。高校生にしてはリッチな靴を存分に履きならし、バッグを肩に掛けさげる。

 まだ尻餅ついたままの僕の目の前に立ったとき、一際注目を集める髪型が上下に揺れた。リーゼントとも言えないユニィクで、悪く言えば時代遅れな楕円の頭髪。形状を保つための髪に付けてる奴に光が反射している。

 

「じ、仗助君」

 

「さっき億泰が言ってたまんまだぜ。どっかの金持ちがこんな端から見たらどうでもいい売地ご購入いただきやがった。大家もだいぶ金掴まされたみたいでもう止めることも出来ねーんだと」

 

「元は俺のオヤジが買った家だァボゲッ!」

 

「しゃーねぇだろ~がよお、いつかはこうなってたぜ遅かれ早かれ。立ち退きじゃねーから次の家もねぇ。いよいよ『お国の保護対象』かもな」

 

 

 保護対象という言葉に億泰君は頭を抱えて、苦渋の叫びが喉奥から顔を出す。まぁ、何とも可哀想な様子だなと思った。仗助君は彼を哀れむ様子を見せながらも、僕の鞄のほうを指差した。

 

「で、何でお前がここに居るんだ?態々チャリまで使って億泰の家に。その新聞、億泰は新聞とってねーぞ。てことは康一の物だ。何が書かれてた?」

 

「そっそう!そうなんだよッ!ちょっと待って……今見せるから!」

 

 

 ケツについたホコリを払い落とし、小走りで玄関に落ちている新聞を掴む。何度も読み返したお陰で開きグセがついてるページをめくり出し、億泰君と同じように眼前に持っていく。

 その記事を見た瞬間、彼は僕と変わらない絶叫を響き渡らせた。乱暴に僕から新聞を奪い、ド近視の人が眼鏡忘れたときみたいに顔をべったり近付けた。見出しから町長だか市長だかが報道陣に平謝りしてる写真の説明の文字まで片っ端から音読を始める。

 

「合併、合併ッ!?見滝原ってあの定禅寺からバス20分で着くアソコだよな!?S市に近いからって都会になってきた所ッ!」

 

「う、うん。多分この町は『見滝原市 杜王町』ってなると思う。別に生活が変わるって訳じゃあないけど、なんかフクザツ。納得いかないっていうかさ」

 

「こいつはグレートにヘビィな衝撃……杜王町=見滝原になるってことか」

 

 

 彼はそういって、くしゃくしゃに手の痕やシワが寄った新聞紙を元の状態のように綺麗に折りたたんでゆく。一瞬のうちして、彼の綺麗なその手が折り込むたび、たちまち新品同然に、袋から取りだしたてのように仕上がっていた。

 

「サンキュー康一」

 

「え、僕はただ知らせに来ただけだよ」

 

「いや、俺ひとりなら取り乱してた。康一がいたから冷静に考えることが出来たぜ。どっちにしろ何かが変わるって訳じゃあない。俺達の杜王町はいつまでもここにあるぜ」

 

「そりゃ、まあ。そうだね」

 

 

 僕も少しは冷静になれた。確かに生活が変わる事なんてない。ただ杜王町が大きな括りに巻かれたってだけだ。

 そう考えると胸がすいた。フクザツなのは否めないが、少なくとも僕らの守ってきた杜王町がなくならないって分かったなら、僕の意地の突っかかりは崩れて、安心感ってのが注がれてきた。

 

「ま、こいつの生活は変わるかもだが」

 

「茶化すんじゃあねーぞコラァ!マジでどおしよぉ~~~~ッ!!」

 

 

 可哀想だが僕らに出来ることは限られてくる。僕らはちっぽけな高校生。50超えたオッサンから見ればガキと変わらないだろう。

 承太郎さんやジョースターさん(仗助くんの血縁)に頼るにも、彼らはアメリカの人だ。承太郎さんは日本人だけど、それでも億泰君だけのためにSPW財団(いろいろサポートしてくれた団体)が動くとは思えない。何もせずに突っ立つ訳にもいかないが何が出来るか分からないんじゃあねェ……

 

「一応おふくろにも話は通してるがあんま芳しくねェぜ。俺ら、母子家庭だからよ、『可哀想だけど養えねえ』って。金の問題だ」

 

「露伴のヤローに頼むのも無理だろ?断られる以前にどっちにしろ半年くらい海外取材で返ってこねえって言ってたしなァ。 と、となると、俺はァ…………!?」

 

 

 『一文無しのホームレス』。心の中でそう呟いた。喉から漏れでなくて安心した。

 

「このまま話しててもラチが明かねぇ。話が平行線を行くだけだ。続きはぶどうヶ丘で話そうぜ。次遅刻したら俺トイレ掃除なんだよ」

 

「うん、酷いようだけどそれしかないね……」

 

 

 僕がそういうと彼はがっくりと項垂れ、幽鬼か、はたまたグールみたいに蒼白の顔で、青い唇から小さく涎を垂らして立ち上がる。それを仗助君が肩を持って、瀕死の重病人を抱えるように行った。いやまあ精神的には重病だろうけど。

 息も絶え堪えなその様子を見ていると、不思議と心がキュっと締まる。罪悪感なのかな。 移動中にもくっちゃべるが、依然解決策が見つかるわけでもなく。現状一番良い案はトニオさんの『トラサルディー』で養って貰うやつ。

 皿洗いとかの雑用をするかわりに寝床食事を用意してもらうってんだ。億泰君なら常連だし許してくれるかもって。学校通えるかは別としてだけど。

 

 登校十数分では結局何も出来ない。僕と二人は校門で別れて、失意のままに学校の席に着くことになった。靴箱でもロッカーでも暗いどんより気分で、上の空。危うくツッパってる先輩に肩ぶつけかけたり。

 まぁ、もしぶつかってもこの騒ぎじゃあ何もならないだろうな。

 

「お前新聞見たかよッ!」

「ああ~~見たみた。流石にひどくね?」

「どおなってんだァ~~コリャあ」

「知らないわよッ!私達に聞かないでくれるっ!?」

 

 

 想定以上の混乱具合である。乱痴気騒ぎだ。校門の騒々しさで何となく予想はついていたが、ここまでとは思わなかった。野次か怒声を飛ばし、状況を聞かれれば逆上し、罵倒が飛び交う。騒ぎに乗じて痴漢紛いの事をする奴なんてのも。かえって物静かに教室の隅で固まる奴もいる。

 教職員の声が出涸らしになっちまうな、なんてほのかに思いながら、キーキー耳が痛くなりそうな教室の中で、自分の席に鞄を掛ける。

 

「まいっちゃうなァ~~、これじゃ落ち着いて話さえ出来やしないよ」

 

 

 そんな中、チャイムが小さく鳴った。始業の合図だ。周りにかき消されてひとっちゃ聞こえやしなかったけど。豪快な音を立ててドアが開けられる。

 

「おめーら席つけ~」

 

 

 全く聞こえなかった。なんて言ったんだろ?何なら先生が教室に入ってきたのも気付いてない奴もいる。

 

「席つけってんのが聞こえねーのかダボが!!手間かけさせんなコラァ」

 

 

 その声で、ようやっと皆が自分の席の方に寄り始めた。ざわめき具合もマシにはなった。その後、色々聞く価値もないチマチマした話を数分聞かされて、『混乱してると思うが始業式なんでな、体育館行くぞ』と。ぞろぞろと生徒を引き連れて体育館へ向かった。

 体育館には校長がいた。それと、スーツの小太りのオッサン。いや……見たことがあるぞ、あれって町長じゃあないか?

 

 全校生徒が一堂に会する。いつもならずっと立ってて足が辛いとか、暖房がなくて寒いとか思う所だけど、そう穏やかなこの言ってられない。学校中のパニックが集約されて、決壊しかけのダムでも見てる気分だ。

 僕は遠巻きから小さく目が合った彼女に手を振りつつ、事の顛末を見守ることにした。校長の小さな背中が前に現れる。手拭いで額から溢れた汗を拭き取り、マイクにスイッチを入れた。

 はじめハウリングが起こり、金切りな噪音がスピーカとマイクの間でやり取りさせる。町長が咳払いをした。それに校長は小さく『ヒィ』と怯えで答える。

 一息のあと、校長は震える声を押し殺しながら厳格に話し始めた。

 

「えェと―――、皆さん、静粛にッ!静粛にィッ!!」

 

 

 裁判所のような始め方だな。いつもはこんな話し方じゃあなかった気もする。緊張からなのか、それを言ったあとすぐ、垂れた汗水頬を手拭いに吸わせた。

 さておき。可哀想なことにその校長の声は木霊することなく空虚に消える。ガヤつきで誰も聞いちゃあいない。全部喧噪に食われちまった。

 

「………手伝ってやるかぁ~~ッ」

 

 

 緑色が薄く照る。やがてその奇妙な尾は輪郭を持った。わきわきと指が動く。形容するなら虫と爬虫類の間と言えば良いかな。とにかくお化けみたいのが僕の背中から現るる。

 

「エコーズ ACT 1 ッ!」

 

 

 僕の『スタンド』エコーズ。前も言った僕だけの能力。どんな力なのかは、今からやることを見てもらった方が早いかな。

 さっき聞いた校長の声をエコーズに組み込む。狙いは体育館天辺の骨組み。チャイムのように全体に聞こえるよう、デッカくデッカく貼りつける。

 

 

「音を出せッ、ACT 1 」

 

静粛に! 静粛に! 静粛に! 静粛に! 静粛に! 

 

 

 ただ音を出すだけの能力なんて、中学生が念のため財布に入れてるコンドームぐらい使い道のない能力だと思ったろう。

 確かに使い道が少ないことは否定しない。でもこの『音』は聞いた者の魂向けて発射するんだ、上辺だけの耳が捉える音じゃあない。

 冷たい鉄筋から精巧な『静粛に!』が繰り返されて、空間が静寂を取り戻していく。こうでもしないと話が進まないからね。

 

「えェェ~~~~、今日の新聞、人によってはニュースかも知れませんが……」

 

 

 前置きが長い。ふざけてんのかってくらい話が長尺だ。これが国語の作文なら0点とるね。静けさと煩さが同時に存在している微妙な空気。重要なところだけをかいつまんで聞きかじっていく。

 数ヶ月前に決まっていた合併の話が伝達できなかったこと。ここで町長が垂れた下腹を揺らして頭を下げた。そこからまたのらりくらり話が続く。

 しかし僕は違和感を感じた。新学期と言えば、これからの学校生活云々の話があるはずだが、一向にそういった類の話が持ち出されない。それに、わざわざ町長じきじきにやって来ている理由がわからない。他の高校に行かなくてもいいのか?

 足首を吹き込んだ冷風が撫でる。その風の温度が僕の背中まで這い上がって、ブルリと身を震った。

 

「……えェ~~、最後にひとつ、皆さんにお話しなくてはならないことがありますゥ」

 

 

 教師達の眉が上がった。ピリついた雰囲気の原因はこれかッ。確かに今日の混乱は生徒だけじゃあなく先生も同じであった。不満が目や顔に塗られている。

 校長の汗が酷くなってきた。町長がおもむろに立ち上がる。ネクタイを直し、ゆっくりと校長の隣まで歩いてきた。

 

 

「えェェ~~~~大変言いにくいんですがァ、ええ、と。ですねェ……本校は今週をもって見滝原の『見滝原高等学校』に統合されることが、決定いたしましたァ」

 

 

 しんしんと思考が冷たくなる。それなりに頭が働くことがなくなった。嵐の前は静かと言う。

 

 

「では、町長」

 

「えー、皆さん、困惑も疑問も多々だと思います。連絡が遅れたことに関しては誠に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 先程も校長先生からありました通りね、この歴史あるぶどうヶ丘をなくし、それも杜王町の外の学校に入れるのは大変心苦しい決断ではあったんですが────」

 

 

 堤防が喚ばわった。直情の奴から混乱が伝播していく。暴動状態だ。ステージに上がる台に体育教師がボディーガードのように立ち塞がる。町長はマイクの音を最大にし、荒れた体育館を気にせず話を続ける。

 

「えっ、え………?」

 

 

 僕は喚くより先に困惑で埋められた。高校の統合。理由が分からない。明らかおかしい。

 第一に、学校統合なんて過疎学校が大型の所に詰め込まれるとき位しか起きないだろう。ぶどうヶ丘だって、杜王町の大半が通うのだから生徒数には困らないはずだ。ぶどうヶ丘が無くなったらそれこそ私立の高校位しか残らない。

 それに杜撰すぎやしないか?普通だったらこんなギリギリに言うか?休みだからって連絡は来るだろ普通は。

 入学式も入学試験もやったハズだぞ確か。統合になるんだったら新入学生の受け入れは停止するもんだ。

 

 町長と校長の話が終わると、彼らは舞台の底にくれていった。ボルテージが最高潮に達する。収拾は不可能だ。

 

「おい、康一」

 

 

 後ろから小さく声を掛けられる。仗助君の声だった。振り向こうとした瞬間、首裏の襟を掴まれる。そのまま人混みのなかへ引っ張られる。

 

「じょ、仗助ッ?」

 

「億泰もいる。さっさとずらかるぞこんな所」

 

 

 言われるがまま体育館をあとにする。生徒達の暴走は止まらず、ドアが開かれてもこれっぽっちも気付かれなかった。

 校舎の裏に回り、中庭に出る。見回りの教師がいないんで優雅に蝶々が飛んでるほど静かな空間だ。僕ら三人はそこに入って、同時に深いため息を吐いた。

 

「これは……まあ、大変だよね。まだ現実味がなくて何が起こったのかわからないよ」

 

「俺もそうだぜ康一ィ。グレートにキツいぜこの状況。だってよ、他の奴らも言ってたが無責任すぎるし急すぎるぜ。こんなの普通じゃああり得ねえ。となるとだ」

 

「まさかてめーェ仗助よォ、スタンド使いの仕業っつーんじゃあねェだろうな?そっちこそあり得ねえよ流石に。

 町を月餅させるスタンドやら学校を統合するスタンドがあるか?限定的過ぎるぜ」

「月餅じゃなくて合併ね、がっぺい」

 

 

 仗助君が大きく足踏みをした。コンクリートが仗助君の靴に当たって乾いた音を立てる。

 

「しかしおかしいだろッ!!ひどい偶然が2回!こりゃーちと怪しすぎる!」

 

「おめー推理小説でも読んだか?俺でも違うって分かるぜェ」

 

 

 逆に億泰君は落ち着いている。やはり家の事が気になってそれどころではないのだろうか。

 そんな彼の様子を見て、僕も改めて、落ち着いて考えてみる。統合……統合か。学校統合。仗助君の言い分も分かる気がした。こんな急に。そこが一番の問題だ。町も学校もいきなりすぎる。今日明日にはもう新しい日常に適応することを強要なんて、誰かしらから訴訟されても文句は言えないぞ。

 多分統合って言ってもクラスが一緒になるわけじゃあなく、校舎が一緒なだけで、今の入ってきた一年が卒業するまでそれぞれ見滝原クラス/ぶどうヶ丘クラスに分かれるだろう。

 行事も授業も請け負う教師も別々。体育祭だとか修学旅行とかは一緒かもしれないがほとんど関わりは起きない。バスでも充分行ける距離だし、そう考えると通学の距離が変わるくらいの変化なのかもしれない。そんな簡単な話じゃあないとは思うけど。何というか、色々な事が起こりすぎて逆に僕を冷静にさせている。

 

 少し経って、体育館からぞろぞろ人が出てきた。よくあれを抑えることが出来たなぁ、と感心する。でも中には青こぶ拵えてる奴や、唇が切れてる奴が保健室に駆け込むのもあった。やはり抜け出してきて正解だったな。

 列に紛れ込んで戻った教室の雰囲気はマイナスもマイナスで、居心地が悪いったらありゃしない。ギスギスしててカッターナイフみたいな奴らばっかりになってしまった。

 担任からプリントが配布される。見滝原高校の場所とか、行き方とか日程とか、そういった諸々が書かれた奴とサイトやパンフレットの情報が纏められた奴。何でも通学に使うバス代やらはM県がタダにしてくれるらしい。素直にありがたいと思った。印刷が妙に荒いのは先生も急ぎで作ったからだろう。

 

 結局今日はその激動のお陰で始業式らしいことはひとつもせず、課題すら未回収で解散となった。外を見ると小さな雪景色が広がろうとしている。

 寒さで身震いしながら靴箱近くで仗助君達と合流する。学校の話で有耶無耶になった億泰君の家の話だ。数分越しに会った億泰君は未だ項垂れ続け、顔のシワは余計深く彫り込まれた様子だった。

 

「えェ~~~、と。やっぱり誰かに頼るべきだと思うな。僕らだけじゃあ何も出来ないよ」

 

 

 仗助君も頷いて肯定の意を示す。賃貸の物件を借りるにも、安定した収入があるわけではない億泰君にはリスキーだ。

 

「となるとよォSPW財団しかねェよなァ」

 

 

 SPW財団────ロバート・E・O・スピードワゴンにより(教科書にそう書いてあったはず)アメリカで発足した世界有数の総合研究機関で、医療や動植物保護に活動する組織。本部はテキサス州ダラス。一年前、承太郎さんらを通じて吉良吉影との戦いで協力してくれていた縁がある。

 活動の中で凶暴なスタンド使いと戦う機会があるため、敵対していない協力的なスタンド使いの戦力が必要。そのひとりである億泰君を保護するってなら協力してくれる可能性は大だ。

 

「でも本当に動いてくれるのかよ?一々こんな野郎の為に金出すって」

 

「こんな野郎って何だッ! でもそれしか方法がねえだろ」

 

 

 一瞬の間のあと、億泰君が拳を握り立ち上がった。足音が靴箱近くに響く。通りがかった幾人かが目を寄せたが、億泰君がにらみ返すとばらばら散っていった。 

 

「取り敢えず電話かけるぜッ、承太郎さんに!」

 

「あっおい待て」

 

 

 仗助くんが止めようとしたが、聞く耳持たずに彼は飛び出していった。自分の鞄をここに置いたままで。

 鞄をチラッと開けてみると、くしゃくしゃになった課題のワークブックと、明らかな財布が入っていた。

 

「ねえ仗助君」

 

「………何だ康一ィ」

 

「お金ないから国際電話出来ないよね、億泰君。コレクトコールも知らなさそうだし」

 

 

 仗助君は壁に背中をつけて、大きなため息をつくと、気だるそうにゆっくり崩れ落ちた。

 

 

to be continued

 

 





言い訳になりますが、色々悩んだりリアルの忙しさ等や体調の悪化、環境の変化で全然書けず、心機一転でリメイクしようということになりました。
リアルの忙しさはあと2年強は続きそうですので更新は遅いですが精一杯頑張る所存です。


10/27 はじめの部分が抜け落ちてたことに気付いて慌てて戻しました。なんで消えてたんだ……
25/4/8 微修正
26/1/16 若干の改変
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