交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

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注意!前半に小説《無限の王》のある程度のネタバレがあります。同時に、あの世界線と繋がっているものとします。未読の方でもある程度伝わるように説明とか入れるつもりなんで、ネタバレいやや!って方以外は何卒これで興味を持って、できればそっちの小説の方もご購読してください!(集英社の回し者ではありません)



クレイジー・ダイヤモンド登場

 

 ソレは神と呼べるのか。かの『夜』は、はたして本当に神ではないのか。俺はそれが不思議に思える。『夜』の元では嵐が吹き荒れ、世界は散々におかしくなり、暗雲と絶望の舞台が開演される。暁美ほむらはそう言った。そんなの、神と言っても差し支えないのでは?

 『神』とは。俺は『概念』に近いものだと思う。「幽波紋(スタンド)」や「厄災」「怪異」「幽霊」。そんな世界のルールから外れた『概念』。神なんて見たこともないから俺はそう想像する。絶対で、人智を超えた支配者。すべての物事の頂点に立つ『概念』のことなのだ。

 そう考えると、その『夜』は神ではない。あくまでも紛い物なのだ。その力は何もかもを超越していて、なおかつ絶対的だが。絶対ではないのだ。

 『夜』はいつか明ける。誰がかの舞台に『ワルプルギスの夜』と名付けたのかは知り得ないが、きっとそいつは気付いていたのだろう。奴はそうスゴいやつじゃあないと。

 

 ──────承太郎さんから聞いた話だ。SPW財団はかつてスタンドについて、『リサリサ』という人物を中心に捜査をしていたと。それは極秘かつ情報が錯綜していたのもあってか、今の財団職員がその資料について知っている者はおらず、深い理解まで踏み込んだ資料の存在はごく最近に明らかになったらしい。

 その資料は現在のスタンドについての理解すら上回るほどの完璧なものだったという。スタンドの原点や『矢』のこと、発言の原因の推測まで事細かくと。そしてその中に、とある『夜』の記述があった。

 『明けない夜』の存在。かつてブラジルに二人の男を頂点とした大規模な麻薬カルテルがあった。セルバ・カルテルと呼ばれたそこの一帯は、()()()()()()()()()()そうだ。もちろんその男のうち、どちらかのスタンド能力なんだろう。そしてその『夜』は、フェルナンド・アルホーンという男によって名付けられ『王』へと戴冠した。『無限の王(エル・アレフ)』それが王の名だった。

 

 だが、その『夜』は明けた。スタンドが世に現れ始めた黎明から、DIOという巨悪の復活と空条承太郎という星の誕生による時代の転換によって。その『夜』は絶対的だったが絶対ではなかった。無限を孕んだ王でさえ神にはなれなかったのだ。

 明けない夜はない。夜は日が顔を出すまで陽の光の力で世を照らす()()()だ。夜は明けるためにあるのだ。時代と時代を繋ぐ息継ぎのために。

 『ワルプルギスの夜』は………俺たちの時代の幕開けなのだ。ひとつ前の『夜』はスタンドの時代の始まりを告げる夜だったのだ。だったら、お次の『夜』は何の始まりか。それを決めるのが俺たちなのだ。

 

「仗助君ってば!さっきから話しかけてるのに急に黙っちまってさァ、徹夜でゲームでもしたのォ?」

 

「ん、あいや康一。すまねえ、考え事してた」

 

 

 厨二臭い前置きだったが、とにかく俺たちはワルプルギスの夜に勝たなくてはならない。それは彼女らのためであり、俺のためであり、かつおふくろたちのためである。

 

 マミの件があった翌日、早速俺たちは動き始めた。学校が終わると、すぐに見滝原の地図を片手にぶらり三人旅に出かけたのだ。都会の雰囲気を味わおうってわけじゃあねーぜ、そんな気は四割ぽっちしか考えてねえ。

 見滝原は杜王町に比べて何倍もデカい。人も物も物価も、何もかもが。戦いは超規模に繰り広げられると予想する。おそらくだが戦いの中で迷うのだ。多少入り組んだ道も知っておかないとな。

 

「あれェ、俺あの店さっきも見たぜ。おかしいな〜〜〜俺たちおんなじ所に戻ってきたっつーのかよお〜〜〜〜」

 

「億泰君、あの店があったのは五分前の別の通りでしょオ……」

 

 

 吉良との戦いは一刻を争う状況もあった。靴のムカデ屋のことだって道を間違えていたら康一や承太郎さんが死んでたかもしれないと思うと、土地勘というものはここぞの場面で役に立つ。

 それだけではない。マミのことを思ってもある。巴マミはこの広大な街をたったひとりで守り続けてきた。そんな彼女でも人間だ。あの一件は形としては丸く収まったが、マミが戦場に復帰するには難しいほどマミの心にダメージを与えた。能力を使うメンタルが保たない。

 街の守護神が参っちまってる今、この街を守れるのは俺たちしかいないというわけだ。気分はパトロール中の警官だな。

 

「ここら辺は大通りしかないみたいだね」

 

「魔女もいねえみてーだなァ、マミが言ってたろ?人が多い場所にゃ魔女はいない。寂れすぎてる場所にもいない。あれェ、じゃあどこにいるってんだ?」

 

「そりゃあいい感じに空いてる場所だろーがよ。住宅地に近い廃ビルとか、工場とかな」

 

「ああ!なるほどォ〜〜〜、だからあんな何もないところで色々探し回ってたっつーわけか」

 

「もう少し頭使えよな、億泰」

 

「俺は馬鹿だからよ」

 

 

 そうやっていくうち、段々と日が傾いていく。カラスの呼び声が近付き、夕に空が焼けていく。黒猫が俺たちの前を横切った。そろそろバスの間隔が長くなり、杜王町に帰るのが面倒くさくなる時間帯だ。

 今日はそろそろ潮時だな。俺たちは魔女探しのため人気の少ないところをいくつか探り、太陽の反対側が真っ暗になり始めたところで解散した。時間が押していた。億泰と別れ、康一とともに小走りでバス停まで向かう。その時だった。

 

「だ、誰か助けてェェ─────ェエエッ!」

 

 

 植木の葉が揺れた。いま何か聞こえたか?いいや、気のせいだろう。きっとカラスの声だ。おおっと、こんなことしているとバスに遅れちまう。さっさとバス停に行かねーと……

 

「仗助君、今の……僕だから聞こえた。僕のエコーズだから。マチガイはないッ!『鹿目まどか』だ!確かに聞いたぞ。鹿目さんが今()()()と言った!」

 

「何ッ?鹿目まどかだと」

 

 

 再び歩みを進めようとした俺を止めたのは、康一だった。冗談を言ってはいない。康一はエコーズACT 1を出現させ、空気から拾った『音』を発音する。それは確かにまどかの声だった。

 

「どっちから聞こえた?」

 

「結構近かった……多分、あっちのもっと寂れてる方」

 

「行くぞッ」

 

 

 バスには間に合わなくなったな。今日もおふくろにどやされる。しかしまどかを見捨てることはできない。康一のエコーズを頼りに声のした方へ向かっていく。

 手がかりは見逃せない。まどかが何に襲われているかによるが、一番危険なのは魔女の時だ。通り魔や誘拐犯ならまだいい。しかし魔女には結界がある。結界に連れ込まれてしまったのなら、手がかりが何ひとつ残らない。

 次第に俺たちに焦りが募る。叫びが聞こえてから五分以上は経過していた。上空からエコーズが見下ろして探しているが、本人の姿はどこにも見当たらない。死体がないだけ安心できるが、いよいよ襲ったのが魔女のセンが厚くなってきた。

 

「ンん、あれは……」

 

 

 暗くなってきた道で、一際目立つものが目に留まる。小脇にほんの数本だが、落ちていたものが。桃色の……髪の毛。蛍光マーカーと共に転がっていた。俺は立ち止まってそれらを拾い上げる。

 鹿目まどかの髪はきっと地毛だ。染めるような性格じゃあない。そしてこの髪も、染めてないフツーの髪の毛だ。

 

「康一ッ、手がかりを見つけた。髪の毛だ!誰の髪かは分からないがピンクの抜け毛とそいつの持ち物らしきマーカーがあった!」

 

「……でも、そいつをどうやって?」

 

「決まってるさ」

 

 

 ─────この能力について心の中で説明するのは久しぶりだ。誰に説明するとかではないが、紹介しよう。『クレイジー・ダイヤモンド』

 それはいつの間にか俺の隣に立っていた。俺がそれに呼びかければ、俺の体から現れて佇む。無表情だが、決意めいた鋭い目つきを携え、筋骨逞しい肉体で。

 例えを用いるならサイボーグ化したスパルタ兵と言ったところか。シアンを基調とした肉体にはハート型が所々にあしらわれ、頸部から肩甲骨の合間までにパイプが伸びている。(これが何なのかは俺も分からない)

 これが俺のスタンドである。射程距離は二メートルほど。その分パワーとスピードに優れ、こいつの突きは時速三百キロを超える。

 

「でも仗助君、もし別の人の髪だったら?」

 

「とんだストーキング野郎だな。やめるか?」

 

「まさか!一応聞いただけだよ」

 

 

 スタンドには一体にひとつの能力がある。億泰のザ・ハンドは『削り取る能力』。康一のエコーズは『言葉に関連する能力』。承太郎さんのスタープラチナは『時を止める能力』。

 俺のクレイジー・ダイヤモンドは『破壊されたものを直す能力』だ。折れた柱を直したり、千切れた肉体を再びくっつけたり。瓦礫、破片、固まった血液に加工されたアスファルトでも、何でも。俺の体は治すことは出来ないが、それ以外なら何だって元通りにしてやれる。それが俺の『能力』。

 俺はまどかのものらしき髪を近くに落ちていたマーカーにくくりつけ、クレイジー・ダイヤモンドで触れる。そして念を込めるように、ゆっくりと能力を発現させた。

 

「追うぞ康一!まどかはあっちだ!」

 

 

 髪とマーカーが宙へと浮かび上がる。俺の能力で直っていくのだ。この髪の毛がその生え主の元へと。一種の賭けであった。こいつがまどかのものでなければ彼女を見つけ出すのはほぼ不可能。俺たちは間に合うことを祈って全力で駆けるのであった。

 

 

「仗助君危ないッ!」

 

「なに?うお……ッ、ガラス片……!?」

 

 

 直している途中の髪の毛を追っていると、突然ドガシャンという鋭い音とともにガラス片が飛び散ってきた。細かなものから大きくて尖ったものまで、大小さまざまな破片が俺の顔に降りかかってくる。俺はそれをスタンドでガードし払い除ける。

 近くの建物の窓からのものだった。ひとりでに割れた訳じゃあねえ。それはガラス片と共に転がっているバケツが証明している。窓の内側からソレが窓にぶつかってきて割れたのだ。しかしそのバケツがひとりでにぶつかっていけるわけねえ。揉みあってか他の理由があるのか……間違いないのは「中で何者かが暴れている」ということだ。

 そしそその仮説を裏付けるようにように、まどかの痕跡はその建物内へと続いて飛んでいくのだった。

 

「これはつまり、この中に彼女がいる」

 

「グレート。康一、戦闘になるかもしれねーからいつでも準備しとけよ。どんな化け物が潜んでるか分かりやしないからな─────」

 

 

 臆さず中に突入する。月明かりを頼りに、真っ暗な廊下を突き走る。そこにはまたも揉みあった形跡が残っており、俺の仮説は確信に変わった。まどかは何者かに連れ去られたんだ。思わず下唇を噛みしめる。昨日の今日で知り合いがお陀仏なんぞ許せる訳ない。嫌な汗を散らして走る。

 そしてまどかの痕跡が窓の割れた広い一室に入ったとき、俺たちは足を止めてしまった。そこは現世の阿鼻地獄のような凄惨な状態だった。

 

「うおッ、おっおおお、おうっ」

 

 

 学生や社会人と思わしき人々が、ただ虚にふらついていた。言葉にならない『喃語』を口にして、ただ茫然と立ち続ける者、目的もなく辺りをうろつく者、果ては神経症のような奇怪な動きをする者まで。いくら何でもやり過ぎなくらいの狂い方。自然にこうなってしまったとは思えない。これもまさか『魔女』の仕業か。

 ひとりの女が目についた。深緑の長髪で、見滝原高校の制服を着ていた。まどかの知り合いだろうか?もしかしたら彼女がまどかをここまで連れてきたのか?

 女は()()()()()()の洗剤を二種類手に持って、頭を抱えている。小さく「バケツ……バケツ……」とうわ言を繰り返し、膝をついて困り顔を浮かべていた。

 周りの様子から底知れない恐怖を感じた。おかしくなっちまった人間というのはこうもゾワゾワくるのか。フツフツと怒りが湧いてくるのを感じる。これが魔女の仕業なのだとしたら、自分の姿を見せずゲームのように人を操るなんて卑怯そのものだ。髪型を貶されたときには及ばないが、ただただ許せない。そう思って、足を止めてしまった。

 

「────はッ!鹿目さんは!?」

 

「安心しろ、髪とマーカーが向こうの部屋に入ったのを見た。まどかはあそこに隠れている」

 

 

 顔を下げ、彼らから目を逸らして痕跡の方へ走る。まどかの痕跡はさっきの部屋のすぐ近くに飛んでいった。俺と康一がそれを追い、小部屋へと入ろうとした瞬間である。

 

「あれェ、ひょっとして、もしかしてェエ。そちらにまどかさんがいたりするのですかア?」

 

「うっ、うお!お!」

 

「えっ……何だって?」

 

 

 目をつけていた女がそう言った。洗剤に没頭してた訳じゃあなかったのか。

 その瞬間、俺はこの空間の違和感に気付いた。無理やり連れてこられたであろうまどかを除くとして、どうして彼女だけが言葉をはっきりと発せられていたのか。その答えは、この女が司令塔だったのだ。この女自身が魔女とは思えないが、何かしらの強い影響を受けていることに間違いはない。

 その証拠に、女が俺たちに注目を向けさせた瞬間、各々で狂っていた人々が一斉に俺たちへと襲いかかってきたのだ。どこかの部族のごとく声を張り上げ、拳を掲げながら覆い被さるように。

 

「仗助君は先に行って!ここは僕がなんとかする。こいつらはただの人間だろ?だったら僕の能力の敵じゃあない」

 

「しかしてめー!てめーの能力は集団戦向きじゃあ……」

 

「そーいうふうに僕を心配するんなら君がさっさと元凶を倒すのが正解だよ。君がやってくれ。仗助君、この人らを正気に戻すのは君の役目だ」

 

「ぐっ……あぁ〜〜〜〜そうかよッ」

 

 

 康一に背を向け部屋に入る。真っ暗な部屋で内装がどうなっているのかは分からない。少なくともまどかが部屋の中にいないということは理解した。気配も物音も感じられない。

 部屋の中心にポツリと、空間の歪みがあった。妖しく光るその歪みは俺から逃げるように部屋の隅へと移動していく。康一の『エコーズ』が背後で暴れている。まどかの顔を思い浮かべる。居るんだなそこに……『魔女』が。

 迷うことはない。俺はその歪みに身を委ねた。視界が暗転し、一瞬の暗闇に包まれたのち、景色が一変した。

 

 

「人を操って殺して遊ぶってよ〜〜〜、俺が一番ムカっ腹が立つことをする野郎だぜッ。正々堂々とやる気もねえグズがやることだ……

 てめーの境遇には正直言って同情する。だがッ、一線を越えちまったんだ………いいかッ!てめーはこの東方仗助がじきじきにブチのめす!」

 

「ひっ、東方先輩ッ!」

 

「仗助でいい。まどか、意識ははっきりとしているか?怪我とか……気分が悪かったりはしてないか?」

 

「はい……でも、どォ、どうしてここが?」

 

「なんとなくだ」

 

 

 困惑するまどかを他所に、クレイジー・ダイヤモンドで宙に浮かんだ魔女に殴りかかる。この『結界』という空間は不思議なもので、地面がない底抜けの場所であるが、重力に体が従うことなくふよふよと浮遊する。頑張れば走ることもできるが意外と体勢を崩しやすい。ゼリーでできたプールのような動き心地だ。

 しかしその中で魔女と手下は簡単に動くことができる。縦横無尽に動き回れる奴らと射程距離の短いクレイジー・ダイヤモンドとの相性は正直悪い。

 

「ドララララ─────ッ」

 

ataruka

 

 

 もう一度奴に殴ろうとしてみるが、すんでのところでヒョイっと簡単に逃げられてしまった。そして、背後から小さい羽の生えた関節人形が俺の体を掴もうと近寄ってくる。一撃のパンチで粉々になる奴らだが、これがなかなか結構鬱陶しい。

 お次に、俺が小さい奴らを払いのける隙を突こうと、デカい人形が飛んでくる。結界の最奥まで来る道中でも何度か戦ったが、こいつらはそれなりのパワーを持っており生身で攻撃を受けると骨の一本くらいは折れちまうだろう。

 

「ドラァ! コバエとデカブツどっちかに意識を割きすぎるとどっちかに一杯食わされるってわけか」

 

 

 デカい奴の頭を砕き、近寄ってくるコバエを蹴散らす。粉々に散らばった手下の破片を足場に、蹴って魔女に近付く。横から垂れ下がった黒い部分を掴んでやろうとスタンドの腕を伸ばすが、またするりと逃げられる。同時に手下が俺に襲ってくる。イタチごっこだ。

 

「だったらこういうのはッ!てめーの部下の始末をつけさせてやるってのはどうだ!」

 

 

 殴りかかってきた一体のデカブツを粉々に砕き、その中で鋭利な破片を掴む。それを指に乗せ、魔女へ照準を合わせる。角度、威力の減衰、それらを考えて……狙いを決める。

 あんなデカい的、当てるのにプレッシャーひとつ感じないな……外すかもなんてひとつも思わない。動き回るネズミにも当てられたんだからよォ!

 

「ドラァッ!」

 

nanndato!?

 

 

 手下の破片を打ち出す。コイントスを行うように、指で思いっきり弾く。それは礫となって、ピストルもびっくりの速度で風を切る。気分はまるでビーダマンだ。

 破片は勢いを落とすことなく魔女めがけて一直線に飛んでいく。途中手下どもが団子となり魔女を守る肉壁になるが、その間に何発も続きをお見舞いしてやる。魔女を守る手下は次々と仲間の破片に体を貫かれ動きを止める。段々と壁の厚さも減っていき、やがて一発の礫が魔女の液晶に突き刺さった。

 魔女が悶える。聞き取れない言語を発しながら、液晶に砂嵐を走らせてのたうち回る。彼女もかつては人間だったのかと考えると、俺も思うところがある。しかし立ち止まるわけにはいかない。

 

「とどめッ!!」

 

 

 さらにもう一発構える。魔女を守る手下の姿はもうない。こいつを奴のど真ん中にぶち込んで終わらせるッ。

 照準は完璧に捉えた。俺の発射を邪魔しようとする奴もいない。あとはスタンドの指に力を込めるのみ──────

 

「きゃあああぁぁっ!!来ないでェエッ!」

 

 

 集中しきっていた俺の思考をかき乱したのは、か弱い少女の悲鳴だった。

 

「まどかッ!?」

 

 

 四肢をコバエに固められ、まどかは必死にもがいていた。そこに数体のデカブツがのそりと恐怖を煽るように、変わらないニヤけ面で近付く。

 

「まさか………やべェーぞッ 手下は全滅してなんかない、まさか主人を囮にッ。勝手にこいつらは()()()()()()()()()()()()()かと思っていたがッ!奴らは俺じゃあなくまどかの方を狙っていたのかッ、主人がダメージを喰らうことも厭わずに!」

 

 

 今まさにまどかの頭蓋を粉砕しようと腕を振り下ろしていたデカブツに照準を切り替える。息をつく間もなく発射する。破片は勢いよく奴の後頭部に直撃し、そいつは電池切れのロボットのように崩れ落ちた。

 

「クレイジー・ダイヤモンド! さっきの破片へと直すッ」

 

 

 能力を発動させる。俺の右手には今、ひとつの破片が握られている。今デカブツへ放った礫は、手下どもの一体を粉々に砕いたものだ。そして俺の手に握られているコレはまったく同じ個体から採れた欠片……つまりコレを直せば!

 

「今放った礫へと直っていくっつゥーわけだ」

 

 

 超強力な磁石の磁力で体が持ち上げられているかのように、俺の体は手下の破片同士が『直る』力で引っ張られていく。自力で走るより素早くて、何より楽チンだ。

 道中で破片から手を離す。もちろんそこは今まどかがいるところ。

 

「どらららららららあ〜〜〜────ッ!」

 

「じょ、仗助さんッ!」

 

 

 襲いかかる手下を突き(ラッシュ)で殴り壊す。頭を砕き、身体を砕き、腕羽脚ぜんぶ砕く。デカブツを全て潰したら、今度はまどかに掴みかかるコバエどもを使い古しのセーターの毛玉を指で取っていくように引き剥がす。

 まどかの顔はいまだ強張っていた。俺の顔を真っ直ぐ捉える事もできず、俺の背後ばかりボンヤリ見ている。怖い思いさせちまったな。

 

「大丈夫かまどかッ。目立った傷はねェーみたいだが……もし怪我しちまったんなら見せてみなよ。すぐに治して────」

 

「違うッ!後ろ!」

 

「うし────うぐッ……お、おおお」

 

 

 肩口に一瞬痛みが走り、じんわり湯に浸かったように暖かく感じてくる。感覚が薄い。アドレナリン?ってのが脳ミソから出ているらしい。制服の千切れた布切れが手下の破片に混じってゆらゆら浮かぶ。

 

「仗助さん!血がッ……」

 

「安心しな、このくらいで人間死なねえー……案外丈夫なもんさ、身体ってのは」

 

 

 だんだん感じてきた痛み。肩口を手のひら軽く触れると、痛々しい鮮血がベッタリと。肩口が何かで抉られたのだ。痛みが次第に強くなってきた。出血もひどい。脚に穴が空いた時よりは俄然マシだがな……ここからは短期決戦だ。

 それにしても何が飛んできた?飛ばしてきたのは絶対魔女だが、初めから飛び道具が使えたのなら使わなかったのはおかしい。あえて手の内を隠す余裕は奴には無かったはずだ。俺が突入して少し経ってからこの場にできたものを飛ばしてきた?そうなるとよォー……

 もう一度鋭いものが飛んでくる。今度は狙いすまされ俺の脳天の方へ。しかし『クレイジー・D(ダイヤモンド)』!! 至近距離でのピストル弾でさえ掴み取れたこいつに軌道の分かっているものが掴めないわけない。

 

「こいつは……やはり俺が砕いた()()()()()()。それをてめーも弾として使ったとはなァ〜〜〜っ」

 

 

 意趣返しに掴み取ったソレを魔女に向けて放つが、同じ手は喰らわないと簡単に身を躱されてしまった。イタチごっこどころか膠着状態だ。俺が距離を詰めようものなら手下どもにまどかを襲われる。距離を離したまま遠距離戦だと互いに弾は当たらない。

 魔女は手下を俺によこしてもすぐに倒され意味ない、それどころか俺に残弾を与えることになると理解しているから手下が動く事もない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()。そんなの俺が二人いないと厳しい話だ。俺一人じゃあ難しい。一人だけじゃあなァあ………。

 

 ─────そして俺は難しく考えるのをやめた。

 

「ねぇ仗助さんッ、どうして動かないんですか……もしかして仗助さんでも勝てない敵なんですかあいつは!もしかして私のせいで……」

 

「動かないから────」

 

「えッ?」

 

「俺も魔女も動けない状況だからいいんだ。ただ時間が過ぎていく……それが重要。今この状況を打開しようなんて考えなくていいんだぜ。このままでいい」

 

 

 時間が過ぎていく。互いが隙を探り合い、見つけられず行動を起こさない。そのやり取りが何回も行われる。三十秒、一分、一分半。いたずらに時間のみ過ぎていく。

 魔女ってのは、相手に自分の土俵で戦うことを強制する。それは自分の結界に閉じこもっているから。引きこもってるから魔女を倒しにくるやつはわざわざ魔女の土俵で戦わなくちゃあならない。

 逆に考えると、魔女は結界の外なんて知ったこっちゃねえということだ。時折人間を弄ぶ以外に、外の様子なんて見ることないんだろうなァ。手下に任せっきりで……下手に外に出て魔法少女に狙われたら目も当てられないしな……

 

「な、何か策があるんですかッ?」

 

「策なんて大それたものじゃあねーさ。ただ待つ。待てば状況は変わる」

 

 

 俺は空を見上げる。それを隙と捉えたか、魔女が礫の雨を俺に降らせる。聞き取れない言語をまた発する。魔女はなんと言っているのか分からないが、とにかく笑っていることは理解できた。勝ちを確信した笑いかな?

 魔女の意識は俺にしか向いていない。礫に遅れて手下どもも動き始める。一斉に畳み掛けるつもりか。確かに、流石のクレイジー・ダイヤモンドでもそれはキツいな。まどかを守りながらじゃあやられちまうかも。

 

Kattasaigonosaigodetuiniakirametimattaka!」

 

「…………ようやく。待ち人来たりだぜッ。そのままグレートに決めてやれッ」

 

「エコーズACT 3『3FREEZE!!』」

「OK!MASTER LET's KILL DA HO!! BEEETCH!」

 

dareda!?

 

 

 本体に似て小柄なスタンド。しかし本体に似ず口の悪いスタンド。広瀬康一の『エコーズ』その最終進化『ACT 3』。爬虫類的な見た目だったACT 2までとは異なり、磨かれた大理石のような白い体とエメラルドのような節々に埋め込まれた装飾。機械的な金色の瞳。完璧に人型のスタンドだ。

 射程距離はACT 1の十分の一程度まで低下してしまっているが、スタンドパワーが大幅に上昇。単に殴り合いならば億泰の『ザ・ハンド』を超えるほどの力がある。

 何より強力なのはその『能力』である。『物の重力を重くする』という能力。最短射程五メートルでさえ能力が発動すればまともな身動きはとれず、至近距離となれば自重でコンクリートが割れてしまうという恐ろしい『能力』だ。

 これのどこが言葉に関連する能力なのかは分からないが、本人が言うには「言葉の持つ()()の力」「超音波は重力にさえ干渉する」というところからだそう。意外と納得してしまった。

 

「広瀬先輩ッ!?まさか仗助さんこれを……」

 

「あいつならもうすぐ来るかと思ってたんだ。ナイスタイミングだぜ、康一ッ!」

 

 

 エコーズのストレートを受け、重力のパワーも乗って魔女が真下へと急降下していく。何体かの手下は追いついて必死にその勢いを抑えようとするが、それでも魔女の高度は低下していく。

 

「仗助君!鹿目さんなら僕に任せてッ!君はそーいう役回りだろッ!」

 

「任せた!チョチョイと捻ってやるかなあ〜〜〜〜ッ」

 

 

 肩の力を抜いて俺も急降下していく。一方魔女の方はようやく降下を止められたようで、垂れた黒い部分を手下に持ってもらいながらフラフラ浮上してきていた。

 

「昇ってくるんじゃあねぇ─────ッ!俺は上!てめーは下だ!」

 

tuigekinikurunone

 

「クレイジーィィッ・ダイヤモン〈東方仗助……〉

 

 

 突然名を呼ばれた。男の声だった。聞きなれてはいない声。しかし聞いたことはある声だ。ドス黒い吐き気を孕んだ、夢ではよく聞く声。

 あれから何度か俺の目の前に現れては、俺の堪忍袋の輪を千切ろうとちょっかいをかけてくる奴。もちろん夢の間でだが。

 

〈おめーが悪いんだぜェ〜〜〜、このオレから目を離したおめーの()()なんだぜ、こうなったのは!キキキ!()()()になってたんだよォ!てめ〜〜〜〜は!クックックッ〉

 

「アンジェロ……なんでッ……てめーがこいつのことを知ってんだよ?」

 

 

 俺がスタンドの拳を恭しく形作り、キツ〜〜い一発をやろうとしてたその矢先。砂嵐混じりの画素の荒い割れた液晶から、ある男のスタンドが映し出された。その男との決着は一年も前についているというのに、いまだに俺の心を苦しめ続けるその男。ガビガビの音質でもなお、俺の心を大いに乱した。

 

「おっ、思い出した……私、怖くて記憶がはっきりしてなかったけど、今思い出しましたッ。あの魔女は人の恐怖につけ込むタイプなんです。不安とか恐れから。

 私、ここに連れて来られる時ぐにゃぐにゃのプリンみたいな状態になったり、ゴムみたいになったり……身体に全く力が入らない状態になったんです。どうしてそうなったのか思い出せなかったけど、今なら分かります。

 あの魔女がマミさんが魔女に食われかけるシーンをずっと私に見せてきたんです。それで私、もし無事じゃなかったらって思いました。その時なんです、私の身動きが本当に一切取れなくなったのはッ。私がビビったその瞬間に、突然そうなったんですッ」

 

「ほ、本当かいッ………!?じゃあッ、仗助君!!」

 

 

 液晶はいくつもの画面を映す。おふくろを人質にとった卑怯な男。吉良吉影。そして高熱に苦しみ悶える小さな少年───幼き東方仗助の姿。

 どれもこれも俺の心の奥に刺さっている辛い記憶。俺の人生で忘れられない悲しい記憶。だが一度乗り越えたハズの記憶なんだ。それかま何も知らないハズの魔女から襲いかかってくる。こうも一気に来られると気持ちの整理もできない。心臓が辛い。呼吸の仕方を忘れる。俺は今、どうやって立っているんだ?

 

「今……殴るだけ……てめぇぇエエをッ!クレイジー・ダイヤモンドでッ」

 

〈『運』はわたしに味方してくれていると言ったよな…!「命」を「運」んで来ると書いて「運命」!…フフ、よくぞ言ったものだ〉

〈まだいい気になってるな……必ず()ってやるッ!いいな……必ずだ〉

〈『いい事』…教えようか………とてもいい事で簡単な事なんだけど……かなり意外な事なんだ。その『紙』…実は…「開ければ」…誰だろうと…「中身」は取り出せるんだぜ〉

 

「その映像をッ……おおおおォ!その映像を止めやがれェぇ……」

 

「仗助君!」

 

「近付くんじゃあ……ねェーぞコラッ!こいつはァ、俺が決着をつけんだ。いくらダチでもそこは譲れねえぜ……」

 

「違うんだよ、君の体……ベロンベロになっているんだァ───ッ、水族館で見たタコやイカみたいに……まるで軟体動物だッ」

 

「なん……だ……」

 

 

 あの高熱の日の感覚。それと同じような感覚が襲う。脳幹から苦痛が生まれ、脊髄を通って下腹部に溜まる。そこからじんわりと広がっていき、つま先や指先まで蝕んでいく。骨に嫌な記憶が反芻して止まらない。

 静脈と動脈がごちゃごちゃになっているのか?俺の腕と足が入れ替わっているのか?目と鼻が取れたんじゃあないか?身体中が悲鳴を上げる。手下どもに四肢を掴まれて、四方から引きちぎられようとしているのだ。

 やがて意識が薄れてきた。痛みも逆に感じない。大丈夫だ……こ、康一が、控えてる……ここで俺が倒れたっ……て………たお、れ……

 

 

 

〈『運』はこの吉良吉影に味方しているッ!〉

〈『恐怖のサイン』を見つけた時!我が『エニグマ』は絶対無敵の攻撃を完了するッ!!〉

〈仗助ッ!おれはおめーのじじいをブチ殺してやったがオメーに俺を死刑にしていい権利はねえッ!〉

〈チンタラしてっとそのアトムみてーな頭もカリあげっど!〉

〈表現できたぜ…俺のハートを!究極の怒りを!……表現できたぜェ〜〜〜、万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども〉

 

 

 

 

 あ…………??

 今、いまッ…………!!

 

「ああッ!!?今俺のこの頭のことなんつった!」

 

 

 今!こいつ映像で俺のこの髪のことバカにしたか?バカにしたよなァ!?ええ?このグレートでイカしててなおかつ愛しさと切なさと力強さと麗しさ華麗さグレートさ愛しさとそれとええと力強さを兼ね備えた完璧なこの髪のことをッ!!

 

「やばッ!鹿目さん逃げるよッ」

 

「じょ、仗助さんの姿が元に戻った………?」

 

「早くして鹿目さんッ、顔が一生変わっちまうよ!」

 

「俺の頭にケチつけてムカつかせたヤツぁ何もんだろうーとゆるさねえ!このヘアースタイルがハンバーグみてェーだとォ?」

 

e!so、sonnnakotodaremoitte……

 

「確かに聞いたぞコラ────────ッ!」

 

 

 康一たちが逃げてるのが見えた。そんなことはどうでもいい。こんなやつに俺の髪のこと貶されたとなっちゃあもう許すことはできねえッ!!ぶちのめす!何がなんでも腕が取れてもなァ〜〜〜〜〜ッ!!!

 

「ドラララララララララララララララララララララララァァ───────────ッ!!!」

 

Ich will nicht arbeiten!!」

 

 

「───けくん、仗助くーん?」

 

「ん、ああ?俺……ここは?」

 

「結界の外だよ。魔女はやっつけちゃったからね」

 

 

 なんだか体が暑い。火照っているみたいだ。吹き込んでくる夜風が気持ちいい。月は完全に昇り切っており、空は鳥でなくコウモリが幅を利かすように変わっていた。

 どうやらあれから意識を失っていたようだ。思い返すと恥ずかしくなってきた。魔女にうまいことやられちまって不甲斐ない。完璧に油断が生んだ失敗だった。反省しねェーとなァ。康一には感謝しなければならない。それにしても喉が痛い。声なんて張り上げたかァ?

 

「肩……大丈夫ですか……?」

 

「おっ、まどかッ!無事でよかったぜ。肩なら何ともねえよ。ちと痛いがこんな生傷数え切れないくらいしてっからな」

 

 

 そうやって彼女を慰めるが、いまだ浮かない顔を浮かべている。庇って俺がやられちまったってのが引っかかるのだろうか。大したことないのは本当だが、痩せ我慢だと思われているらしい。甘く見られたものだ。

 

「そういやァなんだが、あの魔女どうやって倒したんだ?ACT 3じゃあ厳しそうだと思ったんだがな。ACT 2か?」

 

「えっ、覚えてないんですか?魔女を倒したのは仗助さんですよ!ピンチだったのに一気に巻き返しちゃって、もう凄かったです!」

 

 

 んン………康一じゃあねェーのォ?

 

「そうそう!あんなにプッツンきてる仗助くん久しぶりだよ」

 

「えェ────〜〜〜……っと、魔女倒したの、オレェ?」

 

 

 

to be continued

 

 





ハコの魔女の敗因、まさかのセリフミス
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