交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

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右上のメニューというところを押してな?評価付与ってところを押してな?⭐︎10をつけてみるじゃろ?するとな……わしが喜ぶんじゃあ……




イタリアンシェフ とにお☆クチナ───その②

 

「さっ!料理を続けましょうか……?」

 

 

 聊かの疑心を抱えながらも、次なる料理に気分が湧きたつ。

 トニオさんが持ってきた料理は、席からでも分かる強烈な臭いと湯気を発しながらやってくる。

 シンプルにまっさらな白色の皿に、クリーム色の米が敷き詰められている。『リゾット』─────イタリア北部で行われていた水稲耕作と中東文化の融合により生まれた、米のバター炒め。

 米である。日本人にとってこれほどとっつきやすいイタリアンがあるだろうか、と言いたいね私は。しかしそれは逆に。

 

「リゾットというと……米料理。トニオさんの技術は認めるけれど〜〜〜〜っ、ここは日本ですよ? 米をありとあらゆる方法で料理にしてきた民族。半端な美味しいじゃあーコキおろされたってしょうがないと私は思いますけれど」

 

「………満足いただけなかったのなら。お代はいただきまセン。ですがワタシはワタシの料理に『誇り』を持っていまス。半端な期待では料理を最大限に楽しめませんよ?

 おお!こんなことを話していては熱がサメてしまいまス。賞味期限は温かいうちですよ」

 

 

 私の挑戦的な発言とかけたプレッシャーをものともせず、爽やかな顔のままでトニオさんは微笑を崩さない。そのやりとりを経て、ますます私は口角を上げた。

 リゾットの香りに抗うのはそろそろ限界になりそうだった。でも流石に、料理についての反応なしでガッツくのも下品だと思い、まずは一番目立つ具について料理人に訊ねる。

 

「アワビ?」

 

「ええそうです。今日この杜王町でとれた黒鮑です」

 

 

 フォークでアワビの身を掬ってレポーターばりに持ち上げてみる。行儀は悪いが、その半分ほどを前歯でかじって食感を確かめてみる。それは貝料理として火が通っているというよりも……寿司屋で味わうような弾力。すなわち半生レアの焼き加減。

 米の中にうずまっている緑色のものは、冬瓜だろうか。ひとつフォークで刺して口に運ぶ。咀嚼するとともに染み込んだチーズ風味と青臭いみずみずしさを感じた。やはりこの淡白さは冬瓜だ。それとこの白色の()()()()()()()()()()()()みたいなのは?

 

「トニオさん、この白いのは?」

 

「そちらは……トロロイモでございます。すりおろしたトロロイモを使っておりまス」

 

「とろろ! なるほど、とろろですか〜〜〜〜〜」

 

「お、お嫌いでしたか?」

 

「い、いえいえ!少し……あーっと、イタリアンとしてはかなり珍しいと思っただけで」(ちと苦手なのよね、あの粗いとろっと感)

 

 

 それよりも。苦手とかどうでも良くなるくらいには。もう抑えが効かなくなりそうであった。

 トニオさんが入れたのだ、それはこの料理が至高の領域に達するのに必要だったものということ! 苦手だとか嫌いだとかそんな素人のチャチな考えでよけて食べるなんて、もってのほかだろう。

 

「……えいっ」

 

 

 アワビと冬瓜とトロロイモを、リゾットとともに食べる。小さく咀嚼しながら、舌の上に寝かせて味わう。

 

「なによこれはァ〜〜〜〜〜っ」

 

「フフ……」

 

 

 アワビのキモのソースがチーズと臭みとかなく合うッ。

 アワビを噛むたびコリッとした食感から溢れ出す旨み!ブイヨンと二人三脚で芯まで沁み込ませてくる……そしてそれらを包み込むアルデンテな米と滑らかな冬瓜。

 興奮ではないこの体の火照りはトウガラシかしら?それとも何かしらのスパイスが入っている?よく分からないけれど口に含めば含むほど食欲が湧いて出てくる!

 そしてトロロイモの存在意義はチーズッ。粘っこいチーズ風味をトロロが捕まえた程よく抑えて舌から鼻までを滑らかに。カカオの苦味を優しくリードするミルクのように!

 たとえるなら『フランチャコルタ(イタリアの奇跡)』少しでも食材の主張がズレていれば全く別モノになっていたであろうこのリゾット……しかしこのきめ細やかで複雑で豊かな味わいッ。

 

 

 うっ……美味すぎる…………まさに奇跡よ────ッ。

 

 

 

「ンまあぁぁ〜〜〜〜〜いっ!! ボーノ」

 

「グラッツェ〜〜〜〜」

 

 

 トニオさんの自信、いや誇りか、その理由が分かる。これはプライドというものを知っていなければ作れないものだ。

 ふと、値段を思い出した。たった3500円。入店前に思っていた価格設定への考えはまるっきり反転していた。メインディッシュがまだやってきていないというのにこの満足感は、とてもこんなリーズナブルな価格で得られて良いものなのか?

 そんなことを思っている間に、皿の上のリゾットは半分以上無くなっていた。食べすすめてきた方向に具材の欠片さえ残っていない。

 脳みその中に健全な幸福が広がる。細胞全体が喜んでいるような錯覚。言葉では言い表せない、新感覚の感動を私はいま味わっている。

 

「それではワタシ……第二皿目(セコンド・ピアット) メインディッシュを作ってまいりまスのデ」

 

「あむ……あ、はい。はむっ」

 

 

 トニオさんが厨房へ行くのを横目に、リゾットを完璧に平らげる。

 一息つくと、自分がどんなに恥ずかしい食事をしていたかを思い出して顔を赤らめた。興奮とスパイスの作用で汗が噴きだす。

 そしてこの後味を、トニオさんのミネラルウォーターですすぐ。なんと幸せなことだろうか。あまりにも贅沢なことだ。

 

「あら。口、いや歯かしら。ちょっとヒリヒリするわね。そんなに香辛料って効いてたかしら?サフランくらいしか分からなかったけれど」

 

 

 あ、思い出したわ。私左側の歯が一本あんまり良くない状態だったわ。トニオさんも言っていた。そろそろ歯科にでも行くべきかと思っていたけれど、ここまで症状が出るくらいに? ちゃんとケアしなきゃあね……

 

「それにしてもっ、んん、気になるわね。なんかグラついてきたような気もしてきたわ。もしかして、知らないうちに虫歯とかになってたりいッ!? 痛っ……え!

 

 

 舌の上の違和感。何か硬いものがとてつもない勢いで突き刺さってきたような。下を思いきり噛んでしまったときのような鋭い痛み。

 そしてそれはただの感覚ではなく、ソレを舌で転がすことができるのだ。思わずガムを吐き捨てるように、それを空皿に吐き出すと。

 

 それは、歯だった。

 

「え──────……そんな馬鹿なこと! 何も弄ってないのに歯が勝手にですって?あり得ない」

 

 

 血がついていた。歯茎の痛みが大きくなってくる。ミネラルウォーターで清純なものになっていた味覚が、鉄分を多く含んだ気持ちの悪いものへと変わる。

 何が起こった?状況から推測すると、歯がひとりでに高速で抜けて、私の舌に直撃した、ってことになるが。そんなことは絶対的におかしいッ。

 

「ググっ、ああ!? な、何よこの痛みッ。あぐがっ、ガガガァァ!!」

 

 

 抜け落ちた歯があったところがモーレツに痛い!思わず上がるを両手で支えて抑える。魔力での再生も()()()()ッ!

 こ、この痛みは、ただ歯が抜けたからっていう理由じゃあ断じてない!これは、これはああッ。

 

「歯が!生え直ってきているというのォ────ッ!?」

 

 

 決まりだ、やはりこの料理は何かが入っていた!いったい何を企んでいるというのかッ。

 歯が一瞬にして生え変わるというのは明らかに異常なことだ、それも、永久歯だというのに。そして更に不気味なのはスデに痛みが消え去ってしまっていること。

 痛みの余波が全くない。再生が今頃になって効いたということでもなく、元からそうだったと言わんばかりになっている。

 

「トニオさん。あなたを私は信用したいけど、そうもいかなくなりましたよッ」

 

 

 幸い、現在それ以外身体の異常はない。それならば……

 グリーフシードを使いソウルジェムを万全の状態に。恐らく彼、トニオ・トラサルディーはスタンド使いだ。だとすれば接近戦に持ち込まれるとかなりの危険だが。

 

「……怪しいのは厨房。ちょうどこちらからじゃあ見えないようになっている。だから、どんな罠が張ってあるのかもわからない」

 

 

 いきなり直接に突入するのはやめておきたい。イヤな予感がする。そーいう雰囲気が、厨房の入り口までにじり寄った時感じた。

 しかしモタついていると彼が新しい料理を持ってきてしまう。机に置かれたら、どうやっても不自然な行動しか取れなくなって上手く動けなくなってしまう。

 私のリボンに目ん玉でもついていれば簡単なのにね。

 腹を括って、すり足で厨房の方へ。気付かれないよう、慎重に歩いていく。変身はギリギリまで待ってから。入口の枠に手を掛ける。

 せーので突入よ……せーのッ!!

 

 

 

 

 

 

「すんませーんトニオさん、俺のバッグ、まえに置いて帰ってないっすかあ〜〜〜〜〜〜〜っ」

 

「えっ?」

 

 

 ドアベルが突如鳴った。慌てて後退り、席の方まで戻ってくる。なにか聞き覚えのある声だ。聞き覚えというか、聞き馴染みというくらい。

 

「あれェ? なんでいるんだあ?魔女狩りするってェよ言ってたじゃあねーか」

 

「え、え、え? どっどーして……」

 

「それはこっちのセリフよおマミ」

 

「お待たせしまシタ、メバルのアクアパッツァで……ス? おや。どうしましたか億泰サン」

 

 

 なんで? か、彼がここに……億泰さん!

 突然のことに胸がキューっと締めつけられる。困惑のあまり、テーブルの上の燭台を倒してしまった。

 平静を装って、何事もないように席に座る。しかし、内心は『神奈川沖浪裏』の波のように乱れている。ソワソワしっぱなしで、膝のサラを無意識に撫でるような行動をとっていた。

 

「………お知り合いでスか?」

 

「そうだぜトニオ。最近いろいろやってんのさあ。ほらよォうちのぶどうヶ丘高が中等部残して見滝原の高校に合併されただろ? それで知り合ったつーわけ」

 

「億泰さ、なんでここに、えッ」

 

「億泰サンは、ウチの常連なのでス。シニョリーナ。 去年のゴガツごろにお友達の方と来ていただいて。 ああ億泰サン、アナタのバッグなら奥で置いてありますよ」

 

「おっ!マジっすか!」

 

 

 なんという偶然だろうか、たまたまやってきた杜王町で急遽決めて入った店が、まさか、彼の贔屓の店だというのは。

 香辛料の火照りなんかよりも、よっぽどキンチョーしてきた。私の汗大丈夫よね? 待って、こんなことならもっと気合い入れて整えてくるんだったわ。

 

「んでよ、なんでいるんだよ」

 

「見滝原で魔女がいなくて、杜王町にいるかなーって、思って……」

 

「ほおー、じゃあトニオんところに居るのは?」

 

「ただ気になっただけです! イタリアンが食べたいって思って、看板を見て!魔女狩りの帰りに」

 

 

 会話をしている間、そっとトニオさんが料理を置いた。そしてリゾットの皿を片付けながら再び厨房の方へ歩いていく。きっと億泰さんの鞄を取りに行っているのだろう。

 美味しそうな地中海の匂い。トマトとオリーブによってカラッと晴れた風が広がる。そこにメバルの旨みが遅れてやってきて、食欲を駆り立てる。

 そして億泰さんはその料理を一目見て、ズビッと涎を吸って眺めていた。

 情報量が多すぎて、キャパシティを超えそうだ。億泰さんはいるし、料理は美味しそうだし、体の異変の謎はまったく解決していないし。

 

「億泰サン。こちらですか?」

 

「おおそれだよ! ありがとうっすトニオさんッ。──────ズビっ」

 

「フーム 何か食べますか?お代はいただきマスが」

 

 

 億泰さんが涎を垂らしそうになっていたのを見て、トニオさんがそう提案する。億泰さんは私のアクアパッツァに釘付けになっていたが、腹の虫が代わりに返事をした。

 そして、彼は迷いなく私の対面に腰を下ろした。手拭いを使いながら、再びアクアパッツァの方を見て、何かに納得したかのように頷いた。

 顔が近い。私の内股は膝同士が一つになるのかというくらい力が入ってしまっていた。インナーが汗を大量に吸っている。これもトニオさんの能力のせいなの? 

 

「……食わねーの?」

 

「あ、あの、億泰さんってここの常連なんですよね?」

 

「え? まあ〜〜〜〜そうだなァ。うち金だけはあるしよ。結構通ってると思うぜェ」

 

「だったら分かりませんか? ……ここの料理、なにかおかしいっていうか。涙がドバドバ出てきたり歯が突然に抜け落ちたりって」

 

「そりゃあオメー、トニオはスタンド使いだぜ?」

 

 

 と、彼は涼しい顔で言った。あまりにさらっと言ったもので、しばらく言葉の咀嚼に時間がかかった。その間にも、億泰さんは私のメバルに視線を注ぎ続けている。

 

「それって!どんなスタンドなんですか?」

 

「なんだったっけか、ぱっぱっ〜〜〜〜『パンジャム』?」

 

「『パール・ジャム』ですよ。ハイ、億泰サン。トマトと生ハムのブルスケッタです」

 

「おっ」

 

 

 億泰さんの目の前にお皿が提供されてくる。硬そうなパンのスライスに生ハムと乾燥トマトが乗っている。みずみずしさと塩っぱさで軽食にはもってこいって見た目をしている。

 私も早くこのメインディッシュにありつきたいが、流石に確かめなければならないことがある。

 

「あの!トニオさん。つかぬことをお聞きしますが……スタンド使い、なんですよね?」

 

「……ああ、ウッカリ。喋ってしまいまシタ。億泰サンのお知り合いということは、お客様も?」

 

「スタンド使いではないんですが。はっ」

 

 

 トニオさんの目の前で変身する。億泰さんもブルスケッタを貪る手を止めて、会話に耳を傾け始めた。

 トニオさんが息を呑む。流石に魔法少女は初見だろうか。

 

「おお! スゴイです。変身するというのは初めてミました」

 

「マミはスゲーんだぜ? 何でもかんでも銃で撃ち抜けたりよォ、リボンで何でもぐるぐる巻きに出来たり」

 

 

 自慢げに私のことを語る億泰さんから目を離す。するとトニオさんの後ろに何かいることに気付いた。トマト?いやどちらかというと『ハバネロ』。

 そいつに目口腕がついた見た目の奴らがいくつか。あれがトニオさんのスタンド『パール・ジャム』か。思ったよりも小さい。てっきり人型なのかと思ったけれど、ああいうのもいるのね。

 

「失礼ながら、名前をオ聞きしても?」

 

「巴マミと申します。億泰さんと同じ見滝原高校の二年生です」

 

「ンまぁ─────いッ! 見た目の三倍たまらん!一個食べるごとに二個ずつくらい欲しくなるつーか、ひきこまれるっつーかよ〜〜〜〜っ」

 

 

 変身を解いて、改めてトニオさんに頭を下げた。

 それにしても、億泰さんは隣で美味しそうに食事をするものだ。見ているこっちまで楽しくなってくる。トニオさんも隣でいい笑顔を浮かべながら、私に向き直って話をはじめる。

 

「この能力は理想の料理を求めて世界中を旅シテいたときに気付いたら備わっていました。この子達を料理にイレると、料理に合わセた効能を発揮するのでス。

 このアクアパッツァはアナタの貧血を治して快適にスルための料理なのです。少々ダイナミックな治療に見えますが……けしてアナタを傷つけることはありまセン」

 

 

 つまり、こういうこと? ただ彼はいい料理を作ろうとする料理人で、ついでに健康になってもらう能力を持っていて、それがちょいとグロテスクだっていう、だけ?

 な、なにも警戒する必要もなかったし、ソワソワする必要なく純粋に料理を楽しんでいればよかったってこと?

 そう考えると私は……私はもう!抑えは効かないわよッ。

 

「さっ!ドウゾ召し上がってください。そのメバルは今朝に杜王港で仕入れた新鮮なものですよ」

 

「…………」

 

 

 言われるがまま、メバルをフォークで刺し、口まで持っていく。ソースが光に反射して、その白身を照り付けている。

 そして恐る恐る、目を瞑りながら口の中に入れた。

 

ンまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!

 

 

 トニオさんは……天才だわ……まさに天使のような料理人よ。彼のような料理人に巡り会えたことを誇りに思うわ─────ッ。たぶん、いえ絶対に通うことになるわ、ここの店には……

 ドルチェまで食べ切って満足した私は、億泰さんとともにお腹をさすっていた。まさかこんな形で彼と一緒にご飯を食べることになるなんて思いもしなかった。これもまた、いい巡り合わせね……

 

 お店を出るとき、あたりはすっかり暗くなってしまっていた。振り返ると、トニオさんが気持ちのいい笑顔でウィンクをした。

 

「またのお越しをお待ちしてマース。グラッツェ♪」

 

 

 ドアベルが心地よく鳴る。ドアが閉め切られると、夢が覚めたように辺りは日が落ち暗くなっていた。

 今日は大当たりだった、と判断した。途中感じていたモヤモヤはまったくの杞憂だった。

 

「じゃ、帰りまし───────」

 

 

 満足でいっぱいの状況から一変、体の中で波がひいていくような感覚をおぼえた。気付いてしまったのだ。

 私、億泰さんと同じ席で食事して。用が終わったら家に帰る。それは当たり前だ。私たち、家の方角まったく一緒じゃあないかしら。そ、そうなると……

 

「あーっと、マミ?」

 

「ひゃい! どうかしましたか億泰さん!」

 

「………仗助のやろうが言ってたんだが。女を一人で帰らせんなって。どーいう意味かは分からねーが、おめー電車だろ? ……行こうぜ」

 

「あ、ええ! そうねっ」(流石です仗助さん……!)

 

 

 涼しい風が私たちの間を吹き抜けていく。それでも体の熱は冷めやらない。気分は高揚しているが、何を話そうか、話題が見つからない。

 隣で歩いてはいるが、距離が特段近いわけでもなく、嬉しいがつまらないと感じる。

 時間だけただ過ぎていく。ヤキモキがとまらない。心臓の音しか聞こえない。駅の改札を通り、だんだんと景色が見知ったものになって、それで……

 

 

「はッ!?」

 

 

 ()()()()()()()()。ほとんど記憶がない。時間でも飛んだかのようだった。もちろん、本当に忘れてしまったわけではなくて、一緒に電車に乗って、別れの挨拶までした。

 鍵を差したところで、ようやく思考が明瞭になった。絶対に何か億泰さんと会話をしたはずだが、会話をしたことだけを覚えていて、内容が抜け落ちていた。

 

「億泰さん」

 

 

 そう呟きながら、鍵をひねる。玄関で靴を脱ぎながら鍵を閉めることで、私の平穏な一日が幕を下ろした。

 

 

to be continued

 

 





なんか最近マミさんの出番多くないかって?
これからどんどん出番が減ってくから今のうちに登場数稼いだんだよッ

12/27 ミス修正
1/4 微修正










「いい加減に……しやがれェェェ」


 女の投げた槍は炎を纏って、そこらの廃墟をぶち壊す。しかしその刃で貫こうとした目標は一瞬のうちに移動していた。
 ほぼ一瞬で彼女はその気配を読み取り、その方向に向かって構えるが、その一瞬の間に相手は準備を終えていた。

「……点火!」
「うおッ!?」


 彼女がスイッチ音を捉えるころには、彼女の立っていた地面は空中に巻き上げられる。
 それを眺めているのは、スイッチを押した張本人。暁美ほむらだった。
 少々の沈黙のあと、砂煙が落ち着いてきた。当然、そこには骨ひとつ残っていない。直撃したのならそうなってもおかしくない威力の爆撃だった。

「───ッ『時間停止』」


 やはり。暁美ほむらは背後を確認してそう思った。急降下しながら彼女の背中を真っ二つにしようとする者がいたからである。
 彼女が走り出し、先ほどの粉塵へ突っ込む。背中に向けられた穂先には誰もいなくなった。

「時は動き出す」

「───ちぃ! ………厄介だな」


 見上げる暁美ほむら。不満を隠そうとせずに、苛立ちのまま荒々しく、地面に突き刺さった武器を魔法少女が引き抜く。
 舌打ちとともに睨みつけられた暁美ほむらは、飄々とそれを受け流しながら口を開いた。

「貴女……分かってるの? たんに仲良くしましょうなんていうものじゃない。『ワルプルギスの夜』よ?」

「悪いけどもう諦めなよ。あたしはてめーらを敵だと思ってる。もちろん、あんたもだよ暁美ほむら。まえにチョコレートくれたのだけは感謝してるけどさ」

「もはやそれは、貴女の好きな損得勘定で考えてもおかしいわよ。 ただの感情に振り回されるような奴ではないはず」


 暁美ほむらがそう言った刹那、槍が投擲されてくる。それは彼女から髪束をひとつ作りながら地面を大きく抉った。

「いっちょ前にテメーがあたしを語んな、ブタ野郎」

(……彼女、こんなにキツい性格だったかしら。拗らせてるとは思っていたけど、ここまでとは)

「もうあたしは戻れないんだよ。マミとは違うんだ。あたしはあたしで進む道を決める。誰からの影響も受けない。全部をあたしの選択にしなくちゃあならないんだ。そのためには─────」
「いや。もういいわ……今日のところは引いてあげる」


 暁美ほむらは手詰まりだと判断した。もちろん彼女は……

「諦めたわけじゃあない……私は貴女を信じている。貴女はまだ失ってないハズよ、正義の心というか……ああ、彼らが言っていたわね『黄金の精神』というもの。
 あの厄災を突破するには、貴女の力が必要。けれど今は打つ手がないみたい。 だから───さようなら」


 そう言い残すと、暁美ほむらの姿は忽然と消えた。時間を止めて足早に逃げ去っていった。
 立ち尽くす魔法少女は変身を解除し、イラつきのあまり頭皮をぼりぼりとかいた。ポケットの飴玉を取り出して口に含むと、奥歯で噛み砕く。

『貴女はまだ失ってないハズよ、正義の心というか……ああ、彼らが言っていたわね『黄金の精神』というもの』


「……くせェー」

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