交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

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魔法少女

 

 眺めていた砂時計の流れが全て落ちきり、私はもう一度それをひっくり返した。

 杜王町……ぶどうヶ丘?S市?

 集めた写真やメモといった情報を机に拡げたまま、私は突っ伏しておっさんみたいな疲れ切った声を漏らした。こっちにやってきて数日。ワルプルギスの夜と戦うまでもなく、前の軸は壊れきってしまった。あの時判断を少しでも誤れば、今頃私はハエがたかっていたのだろうと思うと身震いする。

 お陰で出来た数日間の猶予が、情報収集だけで終わるとは予想を大いに佚していた。幸か不幸か、編入されてきた高校生たちに魔法少女らしき人間はいなかった。偏差値も低く気の強い者や不良も多いので、根暗な私には堪えるものがあったが、それは今好きなブレンドのコーヒーを喉に通して発散させている。

 時計の針が一つ進んだ。私は脱力感のある立ち上がり方でゆらりと腰を上げ、数日後の事を思い浮かべる。出会いの日。格好よく言うなら運命の日。私は天を仰ぎ、両手を合わせる。居るはずもない神に向かって一度祈り、汗を流すためバスルームに歩いていった。

 

 

 走る。チェス盤のようなモノトーンを走る。何が目的か分からないがとにかく。ドアが見える。光がさしていて、夏の虫のように惹かれてそのドアを押し開ける。

 

「………っ?あれ、私……」

 

 

 辺りが暗い。カーテンから差してくるはずの日の光も見えない。空を見上げて、厚い雲を超えた先に太陽らしき灯りが見えた。いつもなら、折り畳み傘あったっけ、とか濡れちゃマズいものあったっけ、とか考えるところだが、意識がふわふわした感じで、ぽけーっと何も考えられない状態だった。

 

「おい…女…そこにある俺の脚をひろってもってこい」

 

 

 そんな半覚醒の状態で声をかけられても、適当な返事しか出来なかった。黄色く大きな体の男。いろんな所から血を撒いていて、彼の下には血溜まりが広がっている。男が指を差している方向には、彼の左足の断面とピッタリくっつきそうな大きな脚が落ちていた。

 

「………これの事かなあ?」

 

「早く持って来いッ!!スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするようにな……」

 

 

 もの凄い剣幕で迫られて、いつもなら縮こまってブルブル震えながら運ぶところなのだが。私は疑問も恐怖も何もなしに血が垂れているその脚を両手で持ち抱えていく。その脚を彼の巨腕が届く範囲に転がすと、彼はその脚の断面を自分の左脚の断面にくっつけ、ぎこちない動きで立ち上がる。

 

 その瞬間。大きな瓦礫が私達の方へ回転をしながら飛んできた。そして、その巨大な質量の塊を彼は軽々弾き、10メートルほど先の地面にそれが突き刺さった。

 普通なら恐怖し怯えの悲鳴をあげるところだが、どうしてか私はアトラクションショーを見ている感覚で『すごーい』なんて言って突っ立っていた。

 どこからか、ディズニーの悪役のような女の人の笑い声が空気全体に響く。目にも留まらぬ速度で、さっきの巨漢の人は別の瓦礫の下敷きとなっていた。

 

「まどか。このままじゃ危ない。僕と契約して、魔法少女に────」

 

 

 私の名前が聞き覚えのない声で呼ばれた。スットロい動きでその方向を見てみると、白い動物のようなものがいた。ニッコリ顔で、表情は一切変わらず、四足を地に着けてこちらを見ている。その動物が、『魔法少女』と

口にしたタイミング。私の視界に映ったのは風を切って墜ちてくる大きなビル────

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああ!!うわああああああ」

 

 

 カーテンからの見慣れた光が、ピー、ピー、ピーと鳴る時計を照らす。時計を一瞥し震える手でスイッチを止める。時計の針は、いつもの時間よりも25分は遅くを指し示している。一度もその音に気付くことがなかったのか私は。と驚きながら下半身に被さっている毛布をどける。昨日深い時間まで起きてたんだろうか?記憶が曖昧だ。

 

「はあ……はあ……夢落ちかぁ……」

 

 

 それよりも、私は汗がだくだくで蒸し暑いパジャマの方に気を取られていた。首元を広げると、湿気が白くふき出て私の顔をサウナのようにする。

 通気性の良いパジャマ、しかも冬と春の合間の時期にここまでなるなんて、よほど怖い夢でも見たのだろうか?上手く夢の内容は思い出せないが、ぼんやりと、一人の男の人と動物が出てきた気がしている。でも、たったそれだけで?

 

「って、急がなきゃ……」

 

 

 念のために設定している最終警告のアラームよりも遅く起きているのだ。駆け足でないと学校に遅れてしまう。初日から遅刻なんて、大目玉どころでは済まない。駆け足で階段を下り、リビングに移動する。

 

「あらまどか、遅かったわね」

 

「んー、おはよ~……」

 

 

 眠気混じりに、ママにあいさつする。机の上には私の分の少し冷え始めた朝食が置かれており、お母さんはもうそれを平らげていて、タツヤが朝食をぎこちなく食べ進めている途中だ。

 キッチンを見ると、パパが手際よく洗い忘れていた食器類とママの朝食分の皿をせっせこ洗っていた。

 

「じゃ、私行ってくるわね!」

 

「いってらっしゃ~…い……」

 

 

 ママが出勤していくのを見届けると、机に座ってカチカチのトーストと冷蔵庫に昨日入ってたのを見たベーコンと生食が出来ないくらい前に買った卵で作った目玉焼きを、学校に遅れてはならぬと勢いよく食べていく。

 多少遅く起きたとはいえ、そう遅れるほど寝坊したわけでもない。私はタツヤとキッチンのパパと一緒に楽しく会話する。

 あと数口で食べきれるとなったとき、同時にタツヤも食べ終わり、椅子から降りて玩具で遊び始める。その様子を眺めながら皿の上をきれいさっぱり口に押し込み、パパにタツヤの分も一緒にお願いする。

 

「あ、そうそう、中学の頃の制服を着ていっちゃダメだからね」

 

「もー、その位わかってるよぉ」

 

 

 お節介に頬を膨らませつつ、自分の部屋に戻る。ハンガーに掛かってるまだ糊で硬い感覚がするツヤツヤの制服類をおろして、パジャマからそれに着替えていく。お気に入りの『ピンクダークの少年』に出てくるキャラクターのキーホルダーのついたバッグに入学のしおりに書いてある必要なものを詰め込み、入学前の説明会で貰った名札を引き出しから取ってくる。

 胸元のポケットにピンを刺し、大きく彫られた『鹿目』の文字を見て口元を緩ませる。いよいよ私も()()()……実感はあまり湧いてこない。でも、ちょっとくらい浮いた話もあったりして、なんて思うと心が暑くなる。

 

「じゃあ行ってくるねーっ!」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

「いってらっ、しゃ!」

 

 

 パパとタツヤに見送られながら、たったっ、と軽快に家を飛び出す。肌寒い空気がおでこに当たって、いつも中学では行ってなかった方向に行くもんで、何度も通ったことはあるはずなのに新鮮なわくわく感を味わえる。

 気になってるけど上品すぎて行けてないお菓子のお店を横切り、薔薇の薫りが落ち着く、薔薇園のある豪華な家を通り過ぎ。

 あと15分も歩けば着くといった距離になり足を止める。安物の小学生が好きそうな腕時計を鞄から取り出して時間を確認する。始業時間まであと30分……うん、余裕で間に合うね。

 

「まーどかっ!何ぼーぉっと突っ立ってんのさ?」

 

「あ、さやかちゃん」

 

 

 私が歩いていた道の横から、ひょっこりと彼女が顔を出す。眩しい笑顔で、私に話しかけてきたのは私の友達の『美樹さやか』。親友って言ってもいいかもしれない。

 さやかちゃんとは幼稚園から今のいままでずっと仲良しで、同じ高校に受かったときは泣くほど喜んだくらいだ。

 軽くあいさつを交わし、流れで一緒に登校する。日も朝に家を出たときよりずっと高くなってこの町を照らしている。さんさんと気持ちのよい陽光が降り注いでいると、なんか、新生活を祝福されてる感じ……ってのは少し格好つけすぎかな?

 

「それにしてもさ、まどかって私より家近いよねえ?寝坊でもしたの?あ、いや!ちょっと待ってよ……むむむ、まどか、あんた夢にうなされちゃったのかな~~ぁ」

 

「えっ、なんなんでそんなっ」

 

「動揺したね~~、図星かあ。びびりまどかめ!」

 

「ちょっとやめてよおーっ」

 

 

 冗談を言い合って、笑いながら歩いていくと、段々と景色も都会チックに変貌し、目に映る灰色の数が増えていく。お洒落なお店やレストランを目で追っていると、気付けば校門の前に到着していた。

 噂には聞いていたけど、本当に隣町の高校生がまるっと転校になっていると分かる。ここだけ人口密度が桁違いに多い。受け入れるための教室足りたのかな?なんて疑問も湧いてくる。私はさやかちゃんと一緒のクラスだったんで、覚悟を決めるように息を吸い、カチコチの動きで校舎に入っていく。

 

「あら、遅かったですね」

 

 

 教室に入って、面識もろくにない人だらけの状況で気圧される中、緑髪の女の子が声をかけてくれた。

 その子の名前は志筑仁美。なんでこの高校に来たのかってくらい、何でも出来る優秀な子だ。この仁美ちゃんも、幼稚園からの付き合いである。こうやって親友とも呼べる二人が一緒のクラスになってくれただけでも僥倖も僥倖。三人で不安や孤独を感じないように私達は固まる。

 そこから中学校の同じ人同士で人見知りを慰め合うよう寄って固まり、やがて担任の先生が入室してくるまでそうしていた。その先生は早乙女和子、と名乗り、そのままホームルームを始める。とても若い先生で、高校の先生のイメージとは違い優しそうだった。

 それから、係やら委員会やら、続いて自己紹介とか学校案内とか。授業らしい授業もあるはずがなく、悪く言えば退屈な時間が流れていく。

 そしてそれら全てが終わり、明日についての連絡が始まる。流石にこれは真面目に聞かないとマズい、と思っていたけれど、その中でも一際耳に残った事があった。

 

「今日は来れてませんがァー……ええ、そこの空いている席。暁美ほむら、という子がァ、ハイ……今日はまだ登校出来ないらしいんですけどォー、えと仲良くしてあげてくださいね」

 

 

 何か、聞き覚えがある気がした。だがその子の事は全く記憶に残っていない。会ったこともないはずだ。しかし私は不思議に親近感を覚えて、ひどく追想した。

 これが今日の曖昧とした夢を見てから続く不安をさらに掻き立て、耐えきれなくなってつい、さやかちゃんにその事を打ち明ける。

 

「聞き覚えェ?」

 

 

 結果、どうにもならなかった。そりゃあそうだ、と反省する。私個人の問題をさやかちゃんが解決できたら、それはそれで怖いものだ。

 でも打ち明けたことで少しは心が軽くなった。さやかちゃんも彼女なりに私のことを案じてくれたし、ひとまずはその『暁美ほむら』と会わないことには何とも言えない、と言うことで話は落ち着いた。

 

 

 そして今。

 その彼女に。

 ─────凄く、睨まれている。

 

 

「はぁーい、昨日話した暁美ほむらさんでェ~~す」

 

 遡ることさっき。今度は夢を見ることもなく普通に学校へ登校し、ホームルームで昨日話してた暁美さんが入ってきた。

 彼女の姿を見ると、昨日名を聞いた時よりも激しく懐かしい思いを強く感じた。

 その感情と同時に美しいとも思った。数秒間、彼女の容姿を見ているのに夢中になっていた。スレンダーな肢体に綺麗な肌と艶な髪、透き通っている眼と天使のような唇に、無意識に妬んだ。正直憧れる容姿だ。ロングヘアだし少しくらいその綺麗な髪を分けて欲しい。

 

「じゃ、自己紹介をどうぞ」

 

「………暁美ほむらです。皆さんよろしく」

 

 

 驚きが駆け抜けた。人は『よろしく』、と言われながら睨まれたときどういった感情になるのか。普通はそんなこと考えないし、そんなことになるのはそうそう無い。

 良い感情を抱かないのは確かであろうが、誰に睨まれたかにもよってその感情は変わってくる。知り合いだったのなら、「何かやっちゃったのかな」、と思うし、良い印象を抱いていた人なら失望とか落胆すると思う。

 そして私は今後者の状況に置かれている。気弱な私にとってこのストレスは胃がキリキリ痛んできそうにする。

 勘違いかと思いたかったが、明らかに私の方に視線が向いている。敵意があるのかは定かではないが……今すぐにでもトイレに駆け込んでこの場から消えたい。そんな気分になった。

 

「ねえまどか、スッゴく睨まれてたよねあの人に」

 

 

 暁美さんの自己紹介が終わり、彼女のまわりは人が群がってこちらから中央の彼女の様子が窺えないようになった。そのスキを見計らって、さやかちゃんが小声で私にそう言ってきた。

 

「あ、はは……気のせいじゃない?」

 

「初対面だよね?それであんな……まどかのストーカーだったりして」

 

「ちょっと駄目だよさやかちゃん!そんなこと言っちゃ失礼だよっ」

 

「その反応はやっぱ、睨まれたことに自覚はあるのね」

 

 

 さやかちゃんの心配が心に染みるが、かえって暁美さんとの関わり方への不安を煽る。話しかけにくいが、何となく彼女はこのクラスで中心的な存在になると私は予想していて、より不安を引き立てる。

 深いため息をつく。思いきって本人に聞いてみようか?でも、今はその時じゃない。

 暁美さんの方を見やると、人だかりがより膨らんで────いない?さっきまでのクラスメイトの盛り上がりがウソのように離散している。暁美さんは……?

 

「ちょっと良いかしら……このクラスの保健係的な役割の、誰か知らない?さっきの子達は……質問攻めばかりでとても聞く気になれなくて。テキトーなこと言って話の分かりそうな人を探してたの。体調が悪いのよねェ、私。すこぶる悪いわ」

 

 

 椅子をガララッと鳴らす。見下されている構図になっているが今のところ特に蔑むといった感情は読み取れない。さやかちゃんが立ち上がって、私の傍にやってくる。

 まさかあっちから話しかけてくるとは思わなかった。唾を飲み込む。ここでおかしな態度をとると、それこそ嫌われて 高校一年生終了ッ、オシマイだァ~~~ッ!! ということになりかねない。

 

「聞こえなかった?保健係はいないの?休みだったら諦めはつくけどいるんでしょう、そういう人」

 

「あ、はいっ。はいはい、私です保健係。保健室に連れて行けばいいんですよねェ~~?」

 

「あら、あなただったのね………鹿目さん」

 

 

 彼女は私の名札を覗いて、早く連れて行ってって感じのアイコンタクトを取ってきた。私はさやかちゃんに「行ってくるね」と言って、ビクビク生まれたての偶蹄目のような足取りで暁美さんを教室から連れ出す。

 幸い学校の大まかな間取りは昨日で覚えていた。案内役が迷ったんじゃ元も子もない。

 

「えっと、次は……右だったっけ」

 

「こっちよ、まどかさん。右だと図書館の方に通じる道しかないから」

 

「えっ」

 

 

 私が驚いて呆けていると、暁美さんは勝手にスタスタ左へ曲がってしまう。もしかして保健室の場所、知ってたの?なぜか私の下の名前、教えていないのに知っているし。私を友達から引き離してからかわれていたんじゃ……

 

「あ、暁美さん」

 

「ほむら。ほむらでいいわよ。さん付けも要らない。いやでも、呼び捨ても少し気に障るわ。ナメられている感じがして……友達的な感じで『ほむらちゃん』なんて呼んでくれたら嬉しい」

 

「ほむらちゃん……か、変わった名前…だよね!あ、その、変な意味じゃなくて、カッコいいなあって」

 

 

 あはは。勝手に口から出てきた気を紛らわす上辺のみの笑い声。とにかく気まずい。あとは一本道だし、あとは彼女に丸投げしてさっさと教室へ帰りたい。

 私はほむらちゃんとの距離を遠ざけたいと考えてしまっていた。

 

「鹿目まどか」

 

「え、はァ、どうしたの?」

 

 

 フルネームで呼ばれた。困惑気味に、なんか少しイラつきも感じながら聞き返す。

 沈黙……がしかし、音はなくともほむらちゃんは私に何か、目で何かを言っている気がした。

 彼女の瞬きは少ない。潤んでいるようにも見える。しかめつらしい雰囲気から逃れようと、ちょいと目を逸らそうとしても視線が彼女の瞳孔を捉えて放さない。

 

「貴女は、自分の人生は尊く自分で守るべきものだと思う?

 家族や友達……大切にするべき物を大切にできている?本当にYESと、答えをたしかに持ってる?」

 

 

 『なんなの、この雰囲気。とても重くて、まるで自分と向かい合って双方の胸元に手を添えながら話しているみたい』

 その瞬間私はこう考えていた。アリストテレスやプラトンといった哲学者がそう言ったと誰かが言ったのならそう信じてしまうような哲学的な質問に、私は暫く棒立ちで目玉のピントが合わずにぼーっとしていた。

 

「私は大切に…してる、よ。家族や友達の皆も大好きで、とっても大事に思ってるよ」

 

 

 ありきたりな回答。それなりに自分で自分を見つめ直してみたがこんな数秒で考えつきました、といっても不思議じゃない事を言うだけになってしまった。

 ほむらちゃんの顔は変わらない。私の答えが満足か不満か、表情からは読み取れない。

 

「そう───…一つ忠告しておくわ。今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね。さもなければ全てを失うことになる。私はもう大丈夫だから、先に行ってて」

 

 

 彼女は私に奇異な後味を残して、保健室へカツカツ靴を鳴らしながら歩いていった。彼女の姿が小さくなっていくのを見届け、私は教室へ戻っていく。

 ほむらちゃんは変わった人だな、と思った。考えていることの次元が違いそうで、さっきのやり取りも哲学的すぎて上手く会話が出来ていたとは思えなかった。

 『今とは違う自分』……理解できてないながらもこの言葉は強く印象に残った。それって、例えば私が中学校でもいたような明るくていろんな子と遊んでいるような人間になるだとかそういうこと?分からない。

 それ以降はとくに変わったことはなく。いや、ほむらちゃんが勉強スポーツともに完璧な人間と分かって、ことあるごとにこっちと目を合わせてきて気まずかったが、とにかく時間は過ぎていった。

 掃除時間を終えるチャイムが鳴る。私は同じ掃除場所の子と教室に戻って、机から教科書を鞄に移す。全部入れ終えて抱えてみるとなかなかの重さ。学校終わりで疲れているときにこれを背負って歩き回るのはけっこうくたびれそう。

 教室を見渡す。ほむらちゃんは人だかりがまた最初よりも大きくなって出来ていた。一人で帰るのも寂しいし、誰かと途中まで一緒に帰りたく思う。仁美ちゃんはいない。たぶん何かしらのお稽古事があってさっさと帰ったのだろう。

 どうにか徒歩通学で誰ともそういう約束をしていない子を探す。勇気を出して誰か誘おうとしてみる。

 

「ねぇーまどかァ、ちょっと寄りたいとこあってさ、ついてこれるゥ?」

 

「うん、いいよ!」

 

 

 別に声をかける勇気がなかったってワケじゃない。けしてさやかちゃんが誘ってくれて助かったなんて思っていない。これは誘われたからしょォーがなく、だ。

 さやかちゃんはCDショップに行きたいらしい。理由は教えてはくれなかったが、どうせ上条君のためだろう。入学前の春休みでも、さやかちゃんと遊んだあと何度かついていかされてた。

 メモに書かれた名前のCDを探してほしいと頼まれる。さやかちゃんが言うには、私には探しやすい奴をお願いしてるらしいが、これまで私はこのCDたちを簡単に見つけたことはない。

 地道に棚とにらめっこして、見終えたら隣の棚とも対面して探す。たまに似たような名前の物を棚から出して、メモとも顔を見合わせて棚に戻す。

 

(助けて……)

 

「ん?どうしたのォさやかちゃん」

 

 

 高めの声で呼ばれた。棚から目線を逸らして、振り返るが、さやかちゃんはヘッドホンをしてこちらのことは眼中にない感じだった。

 

(助けてッ……まどか!)

 

「だッ……だれェ?」

 

 

 少し聞き覚えのある、声変わりしてない男の子のような声。私はこの声を知っている。ほむらちゃんの名前の聞き覚えよりも確実に、この声を知っている。

 助けを求められるままに、勝手に脚が動いていく。どっちから聞こえたか、なんて分からないのに自然とどこに行けばいいのか分かる。辿り着いたのは立ち入り禁止のエリアの前。私はそこを迷いなく乗り越えて先に進むことが出来た。

 赴くまま進む。暗い鉄骨まみれの場所を歩いて助けを求めている子を探す。そして、それは現れた。

 

 白い……動物?傷だらけで、擦りむいたような跡が沢山ある。そして……何とも見覚えがある。夢の中で会った、ような。

 うずくまって倒れていた『それ』を私は抱え上げる。キュウキュウ小動物のように鳴いていて、とても可愛らしく感じた。

 どうにかして外まで持っていって、この傷を治してあげなければ。私はそう決意して抱えたままさっきまでの道を振り返る。

 カツ、カツ……。ヒールの靴は硬い地面に触れるとこんな音を出す。前方から人の気配がする。それはきっと、この子をこんなふうにした張本人。私が何か出来るわけでもないが咄嗟に身構える。靴の音は大きくなってきているから、近付いてきているし私のことも恐らく認知している。

 心臓の音がどんどん激しく、視界がグラグラ揺れる。そして気配の正体が姿を現す。黒い艶やかな髪にスレンダーな肢体。服装は違えど……暁美ほむらが現れたのだった。

 

「そいつを渡しなさい」

 

「でっ、でも!この子怪我してるよっ」

 

「それが?貴女に危害を与えるつもりはない……すぐに渡せば済む話」

 

「ほむらちゃんがやったの?この子を、なんで!酷いよっ!」

 

「答える必要はないわ」

 

 

 こうなったら力尽くで奪い取る。そう言いたげな表情で一歩一歩私に近付いてくる。私はこの子をキュッと抱き寄せて、目を瞑って小さくなる。この時確かに、「もうダメだ」と思った。

 

「喰らえっ!アホ転校生ッ!!」

 

 

 さやかちゃんの声。シューッと何かがふき出る音がした。声の方向を振り返ると、さやかちゃんがどこからか持ってきた消火器をほむらちゃんに向けて噴射している。

 さやかちゃんはそれの中身がなくなるまで発射し続けて、空っぽになるとほむらちゃんにそれを投げ捨てて私の手を取り走った。

 

「えっ……、ハァ!?何ここッ」

 

「道が、違う?ゆ、夢でも見てるの?」

 

 

 

 

 

 目を痛めそうなふざけた色彩の空間。閉鎖的な空間にいたはずなのに、空を見上げると気色悪い天井か、はたまた大空かが見えた。真っ黒に塗られたフェンスは私のお父さんがやってる家庭菜園の庭で見るような形状をしていて、この空間はお庭のように映った。

 なぜか走っているうちそういう風景になった。さやかちゃんも同じ風景を見ているらしい。形容しにくい、とにかく不気味で奇妙な空間。夢と言われた方が信じられる、現実的ではない異質な風景に私はパニック寸前だった。

 

「ねぇ……なに、あれ」

 

 

 そんな状況下でバケモノなんて出てきたら、精神は限界に達するだろう。

 そいつは綿に髭を生やし、虫のような羽を携えて、手にはハサミを持っており、小学生が先生の用意した雑誌を切り貼りして生まれたような姿をしていた。それが複数体が群れている。

 奴らは私達を見つけた。大量のハサミがジャギジャギ刃と刃を擦る音を出しながら私達に近付いてくる。これから何が起こるか、嫌でも想像できてしまった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁあああああ─────ッ!!」

 

 

 ……それからのことは、あまりよく覚えてはいない。突然攻撃が止んだかと思ったら、見滝原高校の制服の人、先輩の巴さん?だったかな。その人が出てきて、別の服装に変身して、あのバケモノ達を倒した。

 そうすると景色は元に戻って、ほむらちゃんがやってきた。キュゥべえだとか、魔女だとかで少し言い争っていてどうやら仲はあまり良くないらしい。

 『魔法少女』……私が守って、ほむらちゃんが襲っていたその子はキュゥべえと言った。私が巴マミさんにキュゥべえを手渡すと、彼女の手元が金色に光ってキュゥべえの傷が完治した。

 それからキュゥべえは私とさやかちゃんに、魔法少女になろうと誘ってきた。魔法少女ってのは、さっきのマミさんみたいに変身できて魔法も使えて、とにかく自分の何もかも良い方に変わるらしい。

 マミさんはとっても優しくて、魔法少女になるかどうか決めるために魔女討伐の見学をさせてくれるらしい。

 

 あれ、でもほむらちゃん、何か私に言ってきたような………

 

 

to be continued

 

 





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