交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

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虹村億泰の『ザ・ハンド』

 

 失敗した。もう巴マミの後ろ姿は見えない。彼女に向かって手を伸ばすことさえ許されない。

 この時間軸、あまり上手く事が進んでいない。まどかとインキュベーター共を早期に会わせてしまい、この状況。

 お菓子の魔女……巴マミは奴には勝てない。相性が最悪だ。彼女はスコーンやカップケーキのようにペロリと一口で腹に収まってしまうだろう。それを打開するには、私があの場所まで行かなければいけないのに……

 体を捻ってもがく。どうにかこの拘束から抜け出さないといけない。

 

「クソ……クソッ!」

 

 

 まどか達を魔法少女にさせないのに躍起になりすぎた。巴マミも私の恩人の一人であることには変わりないのに。私は少し冷酷すぎたのかもしれない。

 しかしもう遅いわ……諦めるしかない。彼女無しでの計画を立てないといけないわ。これは私の責任よ。これは……

 

「ちょっとよォーそこのアンタ、聞きてえことがあるんだが」

 

「……!?」

 

 

 誰、だ……?

 男の声がした。インキュベーターとも違う、男々しい声。この結界に巻き込まれるのはまどか達だけのハズ。

 ここに不可解な事が畳みかける。お腹を締めつけていた感覚がなくなって、浮遊感が訪れる。実際、私は地面に落ちていた。気付かぬうちに拘束が終わっていたのだ。

 まさか、もう巴マミが……?と考えたが、それはリボンが消えていないのでありえない。私を拘束していたリボンは全てほどけて、あたりに散乱している。巴マミが間に合わなかったのならば、このリボンは消えゆくはずだ。

 あり得ない状況に混乱している。何が、起こった?

 

「縛られて苦しそうに見えたんでほどいてやったぜェ。もしそーいう趣味でやってたんなら悪いが、悪気はなかったんだぜえ、許してくれよなァ~~~」

 

 

 男はそう訳の分からない事を言ってガンを飛ばす。体格の良いガラの悪るそうな、いかにもヤンキーですって感じの男。顔には十字の傷があって、髪を刈り上げてて、着ているのは制服だろうが色々改造されすぎて原型が良く分からない。

 この男、どこかで見たことがあるような気がする。今までの時間軸では全く会った覚えがないけれど、それは即ちこの時間軸だけの特異点。ということは……杜王町の人間?

 それにさっき言った言葉。こいつ、「拘束をほどいた」とのさばった。ただのケンカ自慢が、魔法の拘束を解除することができる?普通はあり得ないけど、状況的にはこの男がやった可能性が高い。

 いつでも魔法が使えるように備える。警戒するに越したこたはない。

 

「そう怯えんなよ、別にカツアゲしたりするってわけじゃあねーからさァ。ただここがどこなのかと、どうやったら出られるか聞きてえだけなんだよ」

 

「……あなた、いつからここに?」

 

「さあなァ~~~ッ。気付いたらここで突っ立ってたぜぇ。俺は学校終わり暇で町をぶらぶら歩いてたらよお、いつの間にかこうなってたぜェ。

 それにしても妙にメルヘンでファンタジーだよなあ~~~ココ、お菓子の国みてえだ。甘っちい匂いがプンプンしやがる。もしよォ~~~俺が歩いてた場所がテーマパークならこの状況もまだ理解できる。だが俺が最後に見た覚えがあるのは病院だぜェ?どうなってんだァ、コラァ」

 

 

 クセのある喋り方と、はっきりとした滑舌で思い出したわ。この男、私が杜王町にいたとき国際電話をかけたがっていたヤンキーよ。どうしてこんな所に一人で?

 まあそれはどうでもいいわ。気になることはこの拘束を固定していた錠前……破壊されているよりも凄いわ。これは、錠前の半分が()()()()()。文字通り、消滅しているわ。

 この男が言うことが本当だとするならこの物体の消滅を引き起こしたのはこの男ということ。性別的に考えて魔法少女である可能性はない。魔法でないのならどうやって。私は今、現実を見ているのかしら?

 ともかく、私は拘束から解かれた。これは紛れもない事実で、掴むべきのチャンスである。今ならまだ救うことができるッ!

 

「この場所は別になんてことない場所よ。強いて言うなら人を襲う化け物がウヨウヨいるところ位。でもこの場所にいた化け物はスデに掃討されてココは比較的安全。

 ここから出る方法……そうね、この場所は危険だから、あの大きなオブジェクトの傍で隠れていて頂戴。これはただの悪い夢だから、もう少し経てばこの悪夢は終わるわ。ほんのもう少し、あそこで留まってくれるのなら」

 

 

 私は人間の数人分の大きさはある巨大なドーナツの麓を指差す。あそこの影で縮こまっていたら使い魔に見つかることもないだろう。

 

「私、急いでるの。もう少し説明してあげたいところだけど、そうもいかない。とにかくあの場所に隠れててくれればすぐ元の風景に帰ることができる」

 

「あッ、おい!てめ~~まだ話はッ」

 

 

 引き留める声を無視して巴マミが向かった方向にダッシュする。時折時間停止を重ねながら、間に合えという一心で。千載一遇のチャンスを目の前に与えられておいて、逃せるものか。悪い夢にだけは絶対にさせないッ!

 

「………あの急ぎよう、あの顔、見覚えがあるぜェ。吉良を追っているときの仗助の顔とそっくりだ。ギリギリで急いでいるときの顔とよォ~~」

 

 

 そう独り言をこぼす不良の男には、全く気付かなかった。ただ、安全を確保してやればそれで終わりの関係だと思っていた。不思議なこともあったが、それよりも今は巴マミのことで、まどかのことで頭がいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレッ!!」

 

 

 居たッ……だが、少し遠いッ!あの魔女が変身し巴マミを食い殺すまでは一秒にも満たない超高速。人形のような可愛らしい姿を脱いで胴長の蛇野郎に変化するまでに巴マミの手を掴んで引っ張る!

 

「『時間停止』私だけの時間よ」

 

 

 猶予は5秒!貰った5秒という時間で巴マミを救い出すだけだ。5秒あれば人間は25mは走ることができるし10mの壁だって登ることができる。行け、走れ!未来は変えられる……勝ったッ!

 

 

 だがしかしッ、その希望に水を差す雑念があった!私は一瞬、変身する直前の隙だらけの魔女を見て「この瞬間に爆破すれば救うまでもないのではないか」と考えてしまった。一瞬間の迷いすら許されない状況で迷った。確実に『一手』遅れたッ!これでは……もう……!!

 

「と、時は……う、動き出す………ッ!」

 

 

 終わった。巴マミは死ぬ。私のせいで、私の目の前で。伸ばした手が空振って、彼女の可愛らしい丸顔はソウルジェムと共に魔女の鋭利な歯で砕かれて彼女の魂は絶望する間もなく天に昇る。

 救えなかった。自責と後悔が襲う。これならいっそ、縛られたままなら諦めもついた。すぐそこで、私は何も掴めていない手を悔しさで握りしめるのみしかできない。

 巴マミが放った弾が着弾する。同時に、魔女の口のような所から本体が瞬く間に飛び出して、私の目の前まで体を伸ばす。ばっくり開かれた大口は深い暗闇が顔を覗かせて、巴マミを包んでいく。

 私は再びの時間停止を準備しながら、爆発物をいつでも起爆できるようにする。まどか達に危害を加えてはならない。時間が止められた瞬間、こいつを爆殺してやる……ッ!

 

 

 

 

 

 魔女の持つギザギザの大牙がガッチリ噛み合い、結界内にケラチン質が高速でぶつかった音が広がる。

 

 巴マミが消えた。

 

 魔女も困惑しているようで、犬が尻尾を追いかけるようにぐるぐると辺りを見渡す。

 さっきまでいたそこには巴マミの姿はなく、魔女もそのアホ面で百面相をしながら噛み殺したはずの彼女を探す。

 私の目の前に彼女は、確かに存在していた。魔女の反応から見てそれは間違いない。そして巴マミがあそこから逃げられるとは思えない。それでも瞬間移動でもしない限り……

 

「空間をけずりとる!……するとお~~っ!ほお~~ら寄って来たァ~~、「瞬間移動」ってやつさあ~~っ」

 

 

 どこからか声が聞こえた。ドンと腹に響く滑舌の良い声だ。これ以上おかしな事が続くのか。すかさず銃を構え、聞こえた方向に体を向ける。

 男が立っていた。良い体格、ガラの悪い目つき、十字の傷、刈り上げ、改造制服。強烈なデジャヴが私を襲う。

 さっきの不良……、何故ここにッ!私はあそこに留まれと言っておいたはずッ!第一に、たとえウサイン・ボルトであろうと時間停止を挟んで移動してきた私に追いつく事なんてあり得ない、決してッ。

 

「あ、あんた……!隠れていれば安全だったものをッ!か、顔を出さなければ襲われることも無かったというのに!何で今ッ、この最悪の状況でやってくるのよ!何をやっているのよォォ───────ッ!!」

 

 

 魔女が標的にしたのは私でなく彼。目の前の私を魔女は通り過ぎて、見失った巴マミを探す前に彼を食い殺そうと動き始める。まさか、巴マミに続いて無関係の一般人まで守れないっていうの私は!

 はっ、早く止めろ!時間を止めるのよ、奴が彼の頭蓋をベキベキにへし折る前に!

 

「ほお~~?俺を食べたいっつーのかよ。巴マミにしようとしたようによお~~~~っ」

 

 

 魔女が彼に飛びかかる。その巨体が彼の姿を覆い隠して、私の位置からどうなっているのか視認できなくなる。だが、魔女が大口を開けて彼は無抵抗だったのだけ見えた。時間停止は未だ出来ない。銃や爆弾で止められる勢いでもない。

 銷魂した。間に合うわけが、出来るわけがない。

 私はまどかの方に目を向ける。良かった、彼女らは無事だ。攻撃を受けた形跡もない。インキュベーターが呑気に抱えられていること以外は極めて心身に良好な事実だ。

 まどか達はあの不良の方を見ている。これから起こる惨劇に目を背けられずにいるようだ。私が現れたことに気付いてもいないかもしれない。

 とにかく最優先事項は何とか守れた。巴マミとあの不良のことは残念だったけれど仕方がない。私はそう自身に言い聞かせて罪悪感を和らげようとする。そうでもしないと今にも押し潰れてしまいそう。

 

「マミさん……何で、あんな所に?」

 

 

 まどかがそう言った。─────マミさん?

 そういえば私、巴マミの事忘れていたわ。姿が消えてから……そう、どこへ行った?彼が現れてから失念していた。自分の中でてっきり死んだものとしていた。

 まどかは巴マミの名前を呼んだ。しかも、発言からして姿も見えている。つまり彼女は消えたのではなく魔女の攻撃を回避していた。しかし、辺りを見渡すがそれらしい姿は見当たらない。となると、今の私からじゃあ見えない位置、さっきの不良の方向。

 もう一つ違和感を抱く。何故かさっきから魔女が動こうとしない。彼のド真ん前にいるはずだけど、何を思ってからか制止したままなのだ。あの距離なら瞬きする間に彼を貪ることが出来るだろうに。

 数歩歩いて体を乗り出すと、彼の肩が見えた。血に濡れてはいないのでどうやら魔女は本当に静止しているようだ。さらにもう少し進むと、彼の表情も。怯えの色は見えず、魔女を険しく睨みつけていた。

 

「これは貸しだぜ、『巴マミ』よお」

 

 

 彼がそう言って、魔女に少し近付く。同時に、私の中で時計の針がひとつ、進んだ感覚がした。

 別の例えをするなら、これまで同じ線路を同じように走行していた列車が脱線し奇跡的に隣の複雑な路線を走り始めたような、二度と起きない奇跡が起こったような感覚。

 これが、全ての始まり。これは、この時に初めて目にした謎の『能力』を持つ者達と絶望する運命を持つ者達の数奇な運命を追う冒険譚である……

 

 

 目の前の化け物は、口の中に詰まった菓子を噛み砕き咀嚼している(俺の『ザ・ハンド』の能力でこいつの口の中引き寄せた)。

 夢中で移動していって、気付いたらこの場に辿り着いていた。足を止めたのは黒髪の女の姿を捉えたのもあったが、一番は別の理由にあった。

 

 

「あなた……なんでこんなところにッ」

 

 

 巴マミ……その女には俺と軽く因縁があった。顔やスタイルは俺の守備範囲に入っているが、性格が合わねえ。最初に言葉を交わしたときからそう思った。

 そいつとこんな訳の分からない所で出会ったのなら、思わず足を止めてしまうのも無理はない。この目の前の化け物に喰われそうになっていたのなら尚更だ。

 それを間一髪で救い出してやって、キレたその化け物が襲いかかってきたときはかなり焦った。

 咄嗟に振り下ろした『ザ・ハンド』の右手により辺りのケーキやら諸々が化け物の口の中に突っ込んで、化け物の動きが止まってなかったら俺は巴と同じような状況になっていただろう。これが今までにあったことだ。

 

「一体何をしたのッ!あなたが私を助けたの!?なんで魔女の結界にいるの!」

 

「……俺は何も知らねー」

 

「とぼけてるんじゃあないわよこのドグサレ!」

 

「ぴーぴーよく鳴くぜこのアマッ!気付いたら俺はここに居た!そしてそこの女に会ったから後ろからひっついてきた!それ以外何も知らないぜ」

 

 

 俺は黒髪の女の方を指差した。巴マミはその方向を見ると、急にこめかみに青筋立ててさらに俺へ質問をぶん投げてきた。

 

「暁美ッ……!?あなた、あれを知っているの?あれは私が拘束をしていたはず。もしあなたが解いたというのなら、敵とみなして痛い目見せるわよ、虹村さん」

 

 

 巴マミがその巨乳の谷間辺りに手を持ってくる。

 その後の光景に俺は目を疑った。そして同時に、俺は確信した。こいつはスタンド使いだと。

 巴マミが手を上げていくと、その周りに黄色の光が燦然と放ち始める。やがてきらめく光の底から、持ち手のような物が現れた。巴マミは持ち手をガシリとつかみ光から引っこ抜くと、手慣れた動きで俺の方へそれを向けた。白く細長い筒に、指をかけられるトリガー。見た目は歴史の資料集で見たマスケットと瓜二つだ。

 初めて会ったときからただのアマじゃあねーとは思っていたが、まさか本当にスタンド使いだとは思わなかった。かつて承太郎さんがピストルのスタンド使いがいると言っていたのを俺は思い出す。だとするなら、このマスケットがこいつのスタンドとみていいだろう。

 

「やろうってのか、てめー。それなら俺の『ザ・ハンド』は容赦しねえ」

 

「臨むところ────

 

 

 巴マミがトリガーに指をかけた刹那。真隣で爆音が鼓膜を襲う。吹き荒れる爆風は煙を巻き上げ、俺達の視界を掻き消した。

 煙が晴れ、巴マミと揃えて視線を移すと、口から煙を吐くさっきの化け物がいた。

 

「お二人とも、熱くなりすぎよ。詳しい話は魔女を倒してからにしなさい」

 

 

 黒髪の女がストッと地面に着地する。俺は驚いてさっきまで女がいた場所を見た。爆発が起こるまで向こうにいたはずだが、いつ移動した?もしやさっきの爆発もこいつの仕業なのか。こいつもスタンド使いなのか?

 弱い頭に多くの情報が押し寄せてパンク寸前のなか、俺はツッパる事しか出来ないでいる。こーいうときに兄貴がいたなら正しい選択をするんだろうなと、どうしても思ってしまう。

 

「……一理あるわね。虹村さん、私はあなたがどうやっても私には勝てないと思うわ。暁美さんに感謝しなさいよ」

 

「勝手に吠えてろ」

 

 

 巻き上げられた塵と黒煙はとうに晴れ、化け物も緩やかではあるが頭を挙げこちらをキッと見る。

─────はじめ動いたのは俺だった。

 俺は化け物の目の前へ飛び出した。それを見た化け物は煤だらけの巨躯を軽く震わせ、唾のしたたる牙を見せつける。

 

「バカッ!貴方死ぬわよ……ッ!?」

 

 

 巴マミが何か言っている。俺がお前を助けてやったのを忘れたのか?忘れっぽいんじゃーねか?

 化け物がしびれを切らし噛みついてくる。俺はザ・ハンドの能力で体の位置を横にずらす。化け物の噛みつきは外れ、ガチンとギロチンのような音が鳴る。俺の目の前には化け物の無防備な脇腹が舞い込んできた。

 俺は俺のスタンドの名を声を張り上げて言う。

 

「このクソヘビッ!おまえはこの虹村億泰の『ザ・ハンド』が消す!」

 

 

 現れるのは人型で半透明の存在。青と白のツートンに胸には俺の制服についたイカしたアクセを模した飾りがついている。これが俺の完全なスタンドのヴィジョン。

 スタンドってのは俺の意思とまったく同じく動く人形のようなもの。スタンドが出てきた瞬間、右手を振り上げたのも俺がそうしろと心で思ったからだ。そして俺は振り上げた右手を、化け物の土手っ腹へ蚊を潰すように全力で叩きつける。

 右手が振り抜かれたとき、それは化け物の腹には当たらなかった。代わりに『ブゥゥゥウン』という厚い音が聞こえる。ワンテンポ遅れ、化け物の表情が苦しみのものへと変わった。

 

「空間ごとおまえの体を削りとってよお~~~、その両端は無理やりくっつくんだぜ。俺はおまえの腹を削りとった!するとよ~~~おまえの腹はくっついて『くの字』みてーに折れ曲がるんだぜ」

 

 

 スタンドの手のひらが通り抜けた先は文字通り無くなる。どこへ行くのかも不明。それが俺の『ザ・ハンド』の能力だ。

 現に今、魔女の体が勝手に縮み折れた。至近距離からの爆発のダメージをすぐに回復したその再生力も意味はない。なんてったってくっついた部分はそれが正常な状態になっちまっているのだ。

 

「貴方、今のは一体……?」

 

 

 まだ控えている黒髪の女の驚く声が聞こえる。俺は「スタンドを見たことがないのか?」と思った。こいつらはスタンド使いなんじゃあねーのか?何も無いところから銃を出して、何より俺のザ・ハンドを見ることが出来ていたよーだが。

 

「さっき魔女を倒してからって言ったクセに、抜け駆けかしら?好奇心旺盛なことね」

 

 

 黒髪の言葉を妨げたのは巴マミだ。黒髪は嫌味を言った巴マミを一瞥睨んでから、ふぅっと息を吐いた。

 化け物が痛みで暴れまわる。体を折れ曲げたまま、随分動きにくそうなのはちょいと滑稽に思えた。

 そんな化け物の眉間に弾痕が現れる。堪らず化け物の暴れ方は激しさを増すが、みるみるうちに弾痕は増え、化け物の顔はすっかり蜂の巣へ変貌した。近くの俺も流石に巻き込まれそうになり一度距離を離す。

 化け物から遠のき、冷静に俯瞰すると何本もの銃がまばらに棄てられていることに気付く。案の定、巴マミの仕業だった。

 

「虹村さァ~んン、貴方に当たることはないから安心してさっきの謎の攻撃をやってもいいのよ?」

 

 

 巴マミが煽り気に言い放つ。どうにも俺に出番をやらせたくないらしい。巴マミの顔には悔しさが全面に押し出されていた。かなりイラついたがキレるのは抑えた。代わりに俺は、化け物の方を指差して「効かねー攻撃をやる意味はあるか?」と言ってやる。

 俺との会話の間数秒で、魔女の弾痕は綺麗になくなっていた。巴マミは目を丸くして驚いている。化け物の顔から小さい鉛がこぼれる。それは小気味よいリズムをとってコロコロ転がる。再生してきた肉体に押し出された弾丸だろう。

 化け物がそれを見て、さっきの巴マミと瓜二つの表情を浮かべる。巴マミもこれはプライドが傷ついたようで、同時に一人では勝ちにくいことも悟り、言葉に覇気が乏しくなっていく。

 

「あなたじゃあ相性が悪い。大人しく彼のサポートに回った方が良いわ」

 

「………貴女の言うとおりねェ。でも、言わせてもらうけれど」

 

「私が何故戦わないのか?そうねェ~~~え、強いて言うなら()()()()()()()だから。この程度の魔女ならね」

 

「そう言って逃げるつもりィ?」

 

「はぁ、いい加減にしてくれる?私まで戦ったら誰が鹿目まどか達を守るのかしら」

 

 

 長引く問答にイラついたのか、黒髪は呆れた風のため息を吐き捨てて瞬きする間にどこかへ行ってしまった。

 『守る』とか言ってたが、迷い込んだ奴は他にもいるのか。巴マミは「忘れてた」みたいな顔をしている。この女、もしや結構バカなんじゃねーのッ?

 巴マミは俺の名を呼び、俺へ突撃を提案した。確かに俺のザ・ハンドは近付かねーと攻撃できないが、人にものを頼む態度がなっていない。援護するとか言っているが、その上からの目線が気に入らねー。

 

「聞いてるの虹村さん!」

 

「やかましいぞボゲコラッ!」

 

 

 会話に気を取られていたが、化け物はまだ回復しているのか?焦って振り返るがさっきいた場所にはいない。────どこへ消えた?

 

「いい加減にして頂戴!そろそろ魔女が全快に……」

 

「巴マミよお、てめー運だけは良いみてえだよなあ、感謝しろよ?『ザ・ハンド』をもつ俺がいたことを」

 

「はィ?」

 

 

 化け物は折れた体を器用にくねらせ巴マミの頭上まで移動していた。俺に襲いかかってきたときのようなスピードはもうないが、その分ゆっくり、気配を出来るだけ消して。化け物の大口はかっ開いて、少し体を伸ばせば巴マミの首を噛み切れる事だろう。

 腕を振るう。そこに在るものが全て消滅する。巴マミと俺の空間が消え、彼女は俺の前へ引き寄せられてくる。勢いのまま彼女が転ばないよう生身の左手でキャッチし抱きかかえる。

 化け物は慌ててアゴを閉じるが、また歯を打ち鳴らすのみに終わる。巴マミはようやく状況を理解したようで、目をぱちくりして俺の顔を見つめている。

 

「あ、ありがとう……」

 

「あんまり出しゃばんな。そのくらいのしおらしさで充分だ。女は男に守られてるくらいがお似合いだぜ」

 

 

 へたっている巴マミを優しく立たせる。俺は千載一遇のチャンスを逃した化け物を改めて睨みつける。化け物の顔は中々面白く歪んでいた。俺は肩の関節を鳴らし威圧する。

 巴マミと顔を見合わせる。作戦はさっきと変わらない、単純なもののままでいく。

 

「動けよ巴マミ。また死にかけても助けてやるからよお。へばってんじゃあねえぞ」

 

 

 彼女は小さくかぶりを振ると、浮ついた目つきながら銃を取り出し化け物に向けた。魔女が一直線に突っ込んでくる。俺はザ・ハンドを発現させながら言った。

 

「おまえ、バカだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれはつまらねー戦いだった。ノロい動きで向かってくる化け物をもう一度削りとったら、ピクリともに動かなくなり、巴マミの大技が化け物に風穴を開け、それで化け物は死んだ。

 死んだこいつは粉のように分解されていき、やがて跡形もなく消滅した。その場に残った粉々を踏んづけると、空気に溶けたようになくなっていった。こいつの肉体が全て消え去ったと同時に景色が元の病院周辺へと戻っていく。

 段々と思い出してきた。確か学校帰り仗助達と杜王町で遊んで、帰り道にこの道を通った。ぼーっと空を見ながら歩いていたら、気付けばあんなところにいた。

 

「終わったようね」

 

「おかげさまで」

 

 

 黒髪の女が声をかけてきた。

 

────『暁美ほむら』

 

 それがこの黒髪の女の名前らしい。見滝原高校の1年坊。中学までは見滝原にはいなかった。それ以外の情報は明かされなかったし俺も興味ない。問題はさっきのだ。

 巴マミと暁美ほむらと俺。きっと互いが互いに思うことは山ほどあるだろう。空気感で牽制し合い、隙を探り合うような空気感の中、先に発言したのは暁美ほむらだった。

 

「まず、聞きたいことなんだけど」

 

「……先は譲るぜ」

 

 

 暁美ほむらは俺の背後を目を右往左往させながら何かを探す。何を探しているかは明らかである。俺は全て見られているため躊躇いなく『ザ・ハンド』を発現させる。

 

「………これは魔法?でも貴方は魔法少女じゃない。守護霊のようにも見えるわ」

 

「一瞬()()()()と影が重なり、この人型が現れた。人型自体には……意識はなさそう。これは貴方の意思で自由に動かせる?」

 

「……俺はバカだからよ、俺は何も説明できねえ。自分でも良く分からないものを人に説明はできないぜ」

 

 

 暁美ほむらに「そこを何とか」とせがまれたがきっぱり断った。俺はこれまでスタンドを感覚で操ってきた。そんな状態で、何となくとしか分かっていないことを説明する?俺が?まずこーいう事考えると頭痛くなるんだぜ俺はよォ。俺に説明させるのがマチガイってもんだ。

 

「ま、まあ、虹村さんも聞きたいことあるかもしれないから!いったん止めてあげましょ!」

 

 

 巴マミがそう言って暁美ほむらの質問攻めをブッチ切った。内心ありがたかった。もう頭痛が起こりはじめていた所だった。

 さらに脳を酷使するが、俺は聞きたいことを色々考える。『さっきの空間のこと』『訳の分からない能力のこと』『化け物のこと』並べだしたらキリがない。

 うまく言葉が出てこずに悩んでいたところ、せわしない足音が聞こえてきた。

 

「マミさぁ~~んッ!」

 

 

 制服姿のピンク髪と水色髪のアマが二人、巴マミに抱きついて泣きじゃくる。こいつらの片方が『鹿目まどか』か。様子から見て巴マミのような能力はない、ただのアマだろう。巴マミは困り顔で、二人の頭を撫でる。対応に困っている様子だった。

 しかしこいつらが来たせいで、聞きたいことも聞ける雰囲気ではなくなった。暁美ほむらは色々なことが有耶無耶になりそうな事を察し、数秒黙りこくったあと呟く。

 

「この場で私達の知りたいことを全て知るには足りないものが多すぎる」

 

 

 何を言っているのか分からなかったが、3回ほど説明を繰り返されてようやく理解した。

 要するに、『別の日に状況を整理した上でもう一度集まる』ということだ。その提案は仗助や康一も連れてこれるし、俺的には是非とも受けたかった。

 

「そ、そうね!私は賛成するわ!」

 

 

 巴マミが賛成したことで提案は受け入れられた。時刻はこれより10日後の夜、場所は巴マミの家に。10日ってのは長すぎる気もするが、それだけの時間があれば()()()にも相談できるかもしれねえ。

 

 

 心の中で時計の針が進む感覚がした。止まった時計に電池を差し込んだような。

 

 

to be continued

 

 





今更ですが本文はかなり長めです。(10,000字超えることもしばしば)

10/18 表現にミスがあったので修正しました
12/22 誤字修正
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