前回本文は長くなるとか言っておいて今回短いのなんでや
俺達が見滝原生になってから僅か数日後、環境の変化には慣れないものの平穏な日常は取り戻されつつあった。むしろ、杜王町よりも放課後に遊べる物が多く、高校が変わってラッキーって思っていた。
在校するスタンド使いを仲間達と探ってみたが、怪しい動きをする奴もなく、何者かに襲われることも無かった。いたって普通の生徒ばかりである。見滝原高にスタンド使いがいる可能性は低いだろう。
かつて間田が言った、スタンド使いは引かれ合うという現象。はじめ俺達がここにやってきたのはその引かれ合いが原因と考えたがそれは違うらしい。これはただの奇妙な偶然なのか。
「スタンド使いじゃあない能力者ァ?」
億泰は首をかしげながら、おずおずと頷いた。
今日の授業が終わり、足早に帰り支度をしゲーセンにでも寄ろうかと思っていたとき、億泰に人の寄りつかない校舎裏に呼び出された。今頃スタンド使いが見つかったか?と問いかけるが、億泰はぶっきらぼうに否定した。
やけに神妙な表情だったんで、ただならぬ雰囲気を感じとる。康一も連れて校舎裏へいくと、先に待っていた億泰は爬虫類のような目で俺達を見た。いい加減答えろと急かすと、億泰は拙い説明で話し始めた。
話の内容はどれも突拍子のないものばかりだった。化け物に会っただの、お菓子の国に引きずり込まれただの、頭でも打ったのかと思った。だが口振りや目は冗談を言っている風には思えない。それがますます難解さを引き立てていた。
億泰の言っていることは意味不明だったが、どれも必死に語るもんで話を聞き流す訳にもいかない。疑心的に聞いていると、億泰は嫌な顔しながらガンつけてきた。
胡散臭さとマジっぽさが交錯して、億泰の説明下手も相まって情報が渋滞しつつある。するとひとつ、話の中で耳に引っかかる事を言った。
「その出会った女どもはスタンド使いじゃあなかったが、不思議な能力を持っていやがった」
言い換えれば超能力者ということか?岸辺露伴からそういった『スタンドではない怪異』の話はいくつか耳にした覚えはある。
だが、ただの人間がスタンドなしで、能力を持つなんて、マジシャンか魔法使いくらいだろう。Mr.マリックかよなんて思う。
「じゃあ、その人達は魔法のように能力をどこからか発動できるってこと?」
「俺はバカだからよく分かんねえが、俺はそう思ったぜ。スタンドの能力は一人に一つだろ?俺が言った『巴マミ』は銃の能力以外に布っきれを操るみてーな能力を持っていやがった」
「吉良のようなスタンドの応用かもしれないぜ」
実体のないスタンドの例もある。写真のオヤジやミキタカ(宇宙人かもだが)の事だ。あーいう類のスタンドなら一応は説明がつく。
複数の能力ってのも、吉良吉影の『キラークイーン』は二つも三つも能力を持っていた。その特殊な例が偶然重なったといえば、否定は出来ない。
「……で、そいつらは敵なのか?」
億泰はぐぐっと顔をしかめさせた。一番重要なのは、ソコだ。
億泰が言った化け物は人を襲い、能力者はその化け物を倒す。人知れず活躍する、まるでヒーローのような存在だ。聞いた部分だけが真実なら。
化け物はなぜ人を襲う?能力者はなぜ戦う?そもそも化け物とは一体何なのか?能力者が能力をなんで持っているのか?考えだしたらキリがない。
能力者が敵ならば、直ちに情報を集めなければならない。潜在的な敵ならばいつ襲ってくるか分からない。先手必勝。出来るだけ早く叩くべきだ。
俺は億泰の返事を待つ。康一が唾を呑み込む音さえ聞こえる静かな時間が流れる。ひゅおっと風で落ち葉が転がる。億泰は懐に手を突っ込みながら答えた。
「それは、10日後に分かる」
億泰は胸ポケットからくしゃくしゃの紙クズを取り出して広げた。殴り書きの字で、所々文字が潰れて読めない。読みとれたのは『見滝原市』といくつかの数字の羅列。
これが見滝原のどこかの住所ということはすぐ分かった。地図で探せばすぐ見つかるだろう。しかし、俺も康一も呆けた顔で固まっていた。
「これ、住所だよね?ここがどうかしたの?」
「俺の住んでいるアパートだ」
ハテナマークが頭に浮かんだ。もしかして俺ら、からかわれてたのか?
それともやっぱり今日の億泰、頭打ったな。脳ミソがオシマイになってやがる。それともアウトな『アレ』をキメちまったか。さっきまでの全部、夢で見たことを現実と勘違いしたんじゃあないか。そう思えてきた。
「巴マミも、同じところに住んでいる」
「なッ!ほ、ほんとに!?」
俺と康一は億泰の方に身を乗り出す。これまでは口頭だけでウソかもしれなかったがモノが出てくると話は別だ。
さすがに現実味を帯びてきた。なぜ巴マミの住所を知っているのかはあとから聞くとして、億泰の言ったのはマジの話ってことだ。化け物も、能力者も、本当にいる。
俺は康一と目配せし、小さく頷きあった。『こいつはヤバい事になる』って意味だ。場合によっては
「10日後に分かるって、どういう意味だ?」
「化け物を倒したあと、『暁美ほむら』が言った。その場でお互いの分からないところを聞くよりも、改めて状況を整理してからの方がずっといいってよオ。
俺も仗助と康一にこの事を伝えたかったからその提案に乗った。巴マミの住所はその『質問大会』の会場っつーわけだ」
「その口振りだと、向こうもスタンドのことは知らなそうだなァ~~~」
その暁美ほむらという女、良い判断をしてくれた。10日後なら打てる手も多い。昨日から10日後、なら実際には9日後という方が正しい。今日から9日後というなら、今月の第3土曜日。
罠かもしれないが、いつ襲われるか分からないよりかはずっといい。面倒くさいことを考えずぶちのめせば良いだけだからだ。
そのとき突然、肩のアザが脈動したような感覚を覚えた。
肩をさすりながら、思考を巡らせる。
なんとなくだが、俺の中で悪い予感がプンプン燻る。ここからは今までと違う未知の領域に踏み込む可能性が高い。そうなれば次に起こる問題は俺達だけでなんとかできるか。できるなら俺達だけで解決したい。だがどうも引っかかる。タンカスが喉に詰まっている癖に吐き出せないような気分の悪さがあった。
「承太郎さんに来て貰えないかな」
康一の弱音。俺も概ね同じ事を思っていた。
────空条承太郎。
身長195cmの巨漢で海洋学者。クジラやサメの研究で著名。また、ヒトデの論文で博士号を取得した、俺の10歳離れた甥である。
重要なのはそこではない。
彼のスタンド『スタープラチナ』彼が最強のスタンド使いと呼ばれる所以である。圧倒的なパワーとスピードに加え、時を止める能力。俺の憧れのひとつである。
かつて俺達は彼とともに杜王町で戦い、後のことを俺達に託し彼は去っていった。
彼の期待を裏切るようで気は乗らないが、俺の勘が、『吉良以上』の化け物がやってきそうと思えてならない。俺の肩のアザが、そう告げている気がする。
「相談するだけでも、するべきだぜ」
億泰の言葉に背中を押され、俺はついに決心した。もしものための承太郎さんの電話番号は覚えている。今回ばかりは仕方がないと自分に言い聞かせた。
広げていた荷物を片し、財布の十円を数枚取り出す。学校には部活動で残っている奴以外はすでに帰っており、放課後の騒がしさは露と消えていた。思ったよりも長く話し込んでいたらしい。
校門を出ると道路を挟んだ向かいに公衆電話がある。去年の秋、携帯電話をお袋に頼み込んで契約したがその番号を承太郎さんは知らない。応答拒否されるかもしれないから、念のためだ。
取り出した十円玉を投入口に滑り込ませる。落ち着いて、ゆっくりと番号を押していく。最後の番号を押し終え、受話器を耳に当てる。コールが一回鳴る。コールが二回鳴る。コールが三回………
「もしもし、ジョータロー・クージョーだが」
ガチャと音が聞こえてすぐ、承太郎さんの声が聞こえてきた。この声を聞くだけで少し安心感が生まれて、肩の力が抜ける。承太郎さんなら絶対に何とかしてくれるという安心感からだろうか。
数ヶ月ぶりの彼の声に感慨と懐かしさに浸っていると、「もしもし?」ともう一度呼ばれた。慌てて返事をする。
「億泰かと思ったが、仗助か。どうした、お前たちで倒せないスタンド使いが現れたか?」
「それは……」
億泰の説明をずっと分かりにくいと思ってたが、なるほど。たしかにこれは難しい。そう思った。
◆
俺はさっき話したことを何から何まで事細かに説明した。自分で言っていて話がぶっ飛んでいると思う。承太郎さんの声も徐々に重い物となり、俺が全て話し終えると、資料を取ってくると言って席を立った。
そろそろ秒数が限界を迎えてきて、さらにコインを入れ待っていると、困惑した様子の彼の声が再び聞こえてきた。
「財団の資料にそれらしい現象や事例は見つからなかった。改めて確認するが、スタンド使いじゃあないんだな?」
「億泰が言うには、そうッス。」
「………嫌な予感がするな。」
SPW財団はこういったオカルト系統の事例に対してはめっぽう強い。抱え込んでいるスタンド使いの量は、俺達も含めればかなりの数いるだろう。
財団に資料がないってことは、相当マイナーなオカルトか、資料となる事例を体験した者がいないほど危険かのどちらか。財団の情報網は凄まじく、ある程度の規模の話なら洩れがあるとは考えにくい。
承太郎さんは後者の可能性を考慮したのだろう。声の雰囲気から自体を重く受け止めているカンジが伝わる。ただ、体面的にこうして自分からやってきてくれるのはありがたいと思った。
「分かった、日本に行こう。仕事を片付けてからだと7日後だが、大丈夫か?」
「はいっ!ぜんぜんッスよ!ありがとうございます!」
俺がお礼を伝えたところで、残り秒数がちょうどなくなった。受話器を元に戻して、康一達にグッドサインを見せると、二人は胸をなで下ろした。
数日前から、寒さの厳しさはパッと過ぎ去り春の陽気が杜王町にも訪れはじめていた。思い出せば、承太郎さんと出会ったのもこの頃。2000年にも雪解けがやってきた。
◇
「せっかく娘と会う時間もとれ始めたというのにな」
去年は杜王町、今年は見滝原。俺は矢の捜索も家族との時間もろくにさせてくれないらしい。別に仗助達にマイナスな感情は気ほどもないが、たまには羽休めも欲しいものだ。今度用事が出来たら康一君あたりにやらせてみようか。
7日後には出発だ。さっさと仕事を終わらせなければ。パソコンと紙面の資料を机に並べる。コーヒーを喉に流し、指の関節を鳴らして気合をいれた。そろそろ目の奥がジンジン痛むが、ここはもうひと踏ん張りだ。骨が折れる痛みよりかは大したことない。
「やれやれ………面倒くさいことにならなければいいがな」
to be continued