交わした約束は砕けない   作:イロコイ文明

7 / 20

わけわからんくらい長くなっちまった……
二話分くらいの長さあります。誤字脱字なんかの見落とし大量にありそうなんで、見つけたら報告から教えてくださると飛んで直します。
え?自分でやれって?


おねがい♡



やれやれだぜ───その③

 

 我われはこの青年を知っている!いや!この眼差しと帽子というか頭部を知っている!

 この男の名は空条承太郎。身長2メートルに近い巨漢で、若干30歳に満たない青年に関わらず学会でも名の通ったヒトデやクジラのような海洋生物のスペシャリストである。さらに不動産王ジョセフ・ジョースターの実孫であり、SPW財団とも懇意。容姿にいたっては女性なら誰もが彼に振り向くほど。

 普段アメリカで活動し、所帯も向こうで持つ彼だが、訳あって己が故郷、日本へと赴いていた。彼は到着した空港を離れバスやタクシーのような交通機関を利用し、目的の町に到着する。

 町の名は見滝原市杜王町。ほんの少し前までS市のベッドタウンとして、観光地として発展していた町だが、突如別の隣町である見滝原市に統合され、現在はその混乱で少し荒れ気味な町である。

 彼がここで生まれ育った訳ではないが、そのわりに慣れた足取りで迷わずに一番乗り場のバス停まで辿り着くと、『杜王グランド海水浴場』いきのバスを捕まえ『杜王グランドホテル前』で降りる。

 彼の目の前にいかにもお高そうなホテルがそびえるが、臆することなく彼はホテルに入る。受付の嬢が目を丸くして驚く。当然だろう。昨年、数ヶ月にわたって宿泊した太客がまた現れたのだから。

 

「空条博士、能力者の件ですが………」

 

 

 チェックインを足早に済ませ、彼は宿泊したホテルの一室のソファで一息ついていた。飛行機で充分な仮眠をとったとはいえ、まだ目が腫れぼったかった彼がコーヒーを飲もうとしたとき、部屋の備え付けの電話がなる。

 SPW財団の職員からだ。果たして良い情報は得られたのか。

 彼が日本に来たのはけしてただの里帰りではない。それならこんなホテルに泊まらず実家のほうに帰るし(実家の方がデカいし)、家族も連れてきてやる。

 彼の叔父から届いた一通の電話……新たに現れたスタンド使いではない能力者や異形の化け物のこと。とても信じがたいことだったが、その叔父がこんな笑えない冗談を言う奴ではないことは知っている。SPW財団の資料に似たような事例が確認できず、新たな脅威がせまってきたのかと危機感を覚えた彼は、真実を自分の目で確かめようと日本にやってきたのだ。

  彼が日本へ出国するまでの間、SPW財団の職員に依頼し各国から情報を集めてもらっていた。彼は期待して電話に出るが、相手の声のトーンから大体は分かった。

 直前に予想した通り、それはあまり芳しくない結果に終わった。というのも、それらしき事例が報告されても大抵はスタンド使いの仕業か送り込んだ捜査員の失踪に終わったからだ。

 

「たいした情報も得られず、不甲斐ないばかりで……」

 

「いや、ありがとう。こちらも無茶な捜査をさせてしまった。それどころか何名か行方不明になったと聞いている。すまなかった。あとは()が何とかしてみよう」

 

 

 そう言いきって受話器を戻す。その後彼はティーカップのコーヒーを味わうことなく一口で流し込み、再びソファに座り込む。さて、何から始めようか。彼は思案する。手掛かりが見つからなかった以上、どうするべきなのか彼は非常に迷っていた。例えるなら、数学の証明を終着点が分からないまま書き始めたようなものである。

 ………軽く考えた後、彼は一つの結論を出した。

 

「今日はもう遅い。仗助に連絡はしたし……ひとまず明日になって考えよう。()がいま出張っても仕方がない」

 

 

 そう結論づけた。彼は来たる激務に備え、休息を選んだ。考えなしにコーヒーを飲んだのは間違いだったな、と少し後悔もした。

 明日は平日だが、確実に彼らは訪ねてくる。そう思い、彼は眠りについた。

 

「………」

 

 

 窓辺に一匹、こちらを覗くものがいるとは知らずに。

 

 

──────ってのが、ここ最近のあらましッス」

 

 

 杜王グランドホテル324号室。俺は康一と億泰を連れ、早朝からそこに訪ね行った。承太郎さんは朝早いらしく、ちと来るのが早すぎたかもと部屋に訪れるとスデに朝食まで済ませていた様子だった。

 俺たちは知りうることを全て話した。巴マミや暁美ほむら、『キュゥべえ』とやら、『魔法少女』と『魔女』という存在。(これは名前しか知らない)

 おおかた話し終えたところで、承太郎さんは「簡単に帰らせてはくれなさそうだな」と呟き、窓から見える杜王町に視線を移しながら俺たちに問いかけた。

 

「その『キュゥべえ』は仗助にだけ見えて他の奴には見ることが出来なかった、ということか?康一君」

 

「はい、僕と億泰君は仗助君に捕らえられた奴を突きつけられてやっと。でした」

 

「なるほど」

 

 

 承太郎さんの視線が杜王町から俺たちの方に返ってくる。暫く黙りこくって、突き刺さるような鋭い目つきで、別の問いかけをした。

 

「ソレは───『キュゥべえ』は、敵か?」

 

「敵ッス。間違いなく、あれはヤバい奴です」

 

 

 間髪入れず、食い気味に俺は答えた。康一と億泰が顔を見合わせて、急にどうしたという顔で俺を見る。承太郎さんは俺と目を合わせ続けている。

 

「仗助、何も敵って断言することはないんじゃあねーのッ?」

 

「俺が奴を握りつぶしたときに感じた。業というか……罪科てやつさ。俺のスタンドの掌から腕を伝って脳幹まで。ヘビのように体中にそれが絡みついた。人がむせび泣く声すら聞こえた気がした。悪寒が背筋を貫いたんだ。

 奴らはなにかとてつもないものを犯している。まさに吐き気を催す邪悪だぜ。それこそ……あの『DIO』のような」

 

 DIOの名を出した瞬間、承太郎さんの瞳孔が強張る。予想を遥かに上回る回答だったろうか。俺がただのいち悪党にその名を出すわけがない。その名の重みを知っているからこその反応だ。

 俺は億泰や康一とは違って、この状況をかなり重く捉えている。今起こっている一連の事件は、吉良が巻き起こした『町に潜んだ悪魔』よりも、ずっとずっと規模がデカくなるという気がしてならないのだ。

 空気がみるみる冷たく変わる。試すような承太郎さんの視線を、負けじと見つめかえす。

 

「……状況は理解した。その情報交換に俺も行こう」

 

 

 その言葉で、肩の荷が下りた。嘘っぱちと決めつけられて、そんな事で俺を呼ぶなとブチギレられる可能性をうっすら感じてたもんで。この人、尊敬はしているがやっぱり恐ろしい。

 こうして『最強のスタンド使い』の出席が決定した。

 

 

 杜王町では見たことのない、うんと高いマンションをエレベーターで登っていく。

 窓から見える景色は圧巻だ。けたたましく佇む建物の集団を、活気や熱気、喜び憎しみが包み、少し荒んだ空気が人の波に揉み込まれている。見滝原でこんなんじゃあ、東京とか行ったならどうなっちまうんだ俺は。

 それにしても億泰よお、こんなにいい家に住んでんなら俺たちにも教えろよな、いつでもこの豪勢なマンションを堪能……もとい遊びにいくのによ。律儀に遊ぶ時は俺の家まで来やがってよ。

 

 目的の階まで辿り着いて、部屋の位置を確認しながら歩いていく。時折窓から見滝原を見下ろして、改めて杜王町との規模感の違いに驚く。

 この町を守ろうなんて()()()()()は棄てよう。俺たちには俺たちの、見滝原には見滝原の営みがある。ここ最近不思議なことが続くが、不用意に首を突っ込んでいいものなのか?アメリカのモンロー主義のように、杜王町と見滝原を深く繋げるべきじゃあないのかもしれない。ていうのは、ちと冷酷か?

 どっちみち、それは今日で分かる。この町の助けを求める人間には悪いが、俺は見滝原の十の命と杜王町の十の命なら杜王町の命を助けるだろう。引き際ってもんがある。

 ………くそっ、こんなこともう考えたくねえぜ。俺らしくもない。これも心の弱さってのなのかな。

 

「おはよう、仗助君」

 

 

 卑屈な考えを遮るように、後ろから追いついてきた康一に出会った。そのおかげで陰鬱な思考を止められた。すこし、ホッとした。

 

「よっ、康一。今来たところか?」

 

「うん……由花子さんの説得に手間取っちゃって。

『────そんなメスブタの家に行くですって!?………いいわ、私も康一君と一緒に行きます。私が行ってそのドブスのハラワタ引き千切ってやるッ!』

 だなんて、流石にビビっちゃったよ。」

 

 

 そこまで言ったあと、康一は頬を赤くしながら小声で、「まっ、そこが可愛いんだけどね」と呟いた。俺はそう言っている山岸由花子の姿がありありと想像できて、苦笑いしてしまった。同時に、そんなところまでひっくるめて恋人関係を続けていける康一をただただ尊敬するしかなかった。

 そんなことを話しているうち、例の部屋まで辿り着く。コンコン、とドアを叩くと、中から「はアァ~~い」と女の声がした。

 ドアノブをひねり、恐る恐る扉をくぐる。土間にはレディースのローファーが何点かと見慣れた億泰の靴。承太郎さんはまだ来てないみたいだ。

 アシ臭いとか言われないか心配しつつ、部屋を上がる。ほのかに漂ってくるあまり嗅ぎ慣れない匂い。純愛タイプの俺にはすこし刺激が強すぎる。

 

「おっ、仗助と康一かァ。俺もさっき来たとこだぜ」

 

 

 廊下を突っ切ってリビングまで行くと、億泰が能天気な顔して俺たちに手を振った。何馴染んでんだよお前。

 手招きしてくる億泰に従って、隣にドガッと乱暴に座る。これは舐められねえようにするだけで女子の部屋に緊張しているわけじゃあない。けして。

 部屋を見渡す。巴マミは一人暮らしと聞いていたが、そうとは思えない激ヒロな部屋だ。どこでも漂ういい匂いに、どこで売っているのかも分からない三角形のガラス机。窓は杜王町グランドホテルのように一面に敷き詰められ、町を一望できるようになっている。

 集まっている顔ぶれを見るが、億泰以外は知らない……つまり、相手さんの側の奴らだ。数にして四人。

 俺と康一の目の前に、黄色い髪の女からソーサーとティーカップが置かれた。女は軽く会釈をして、「お菓子ももう少しで焼き上がりますからね」と言って台所へ歩いていった。彼女は家主の巴マミで間違いないだろう。億泰から聞いた特徴にも合致する。

 

「はいっ、出来ましたよ。ささ皆さん、遠慮せずに食べてって」

 

「おっマジぃ?いただきまぁ~すっ」

 

「いいんすかマミさん!あたしも貰おーっと」

 

「お、億泰君そんながっつかないでも……」

 

「ちょっとォさやかちゃん、遠慮とかしないのォ?」

 

 

 巴がキッチンに行って数分後、バターの食欲をそそる匂いがほんわか嗅ぐってきて、皿一杯のクッキーが運ばれてきた。億泰と青髪の女がそれにすぐ飛びかかり、うまいうまいとアホ面たれている。もうちょっと警戒とか、しろよな。

 ゴッゴッ。玄関の方から強めのノックが聞こえた。巴が俺たちの時と同じように声を張り上げる。承太郎さんが来たようだ。これで俺たちの方は全員そろったな。(ちなみに、インターホンを鳴らさない理由は無関係の奴を家に入れないためだ。単純だがいい識別方法だな。)

 

「ン、俺が最後か……待たせてしまったようだ」

 

「どうやら、そちら方は全員揃ったみたいですね。こちらも準備は出来ています。では、始めましょうか。

 今日は私がこの場の進行で進めさせていただきます。巴マミ、貴女もそれで異論は?」

 

「ご勝手にどうぞ」

 

 

 どうやら向こうも全員揃っていたようだ。いよいよと言ったところだ。改めて顔ぶれを確認する。こっちは俺と康一、億泰と承太郎さん。向こう側は家主で億泰のクラスメイトでもある巴マミに、いま場を取り仕切ると宣言した女。たぶんあいつが『暁美ほむら』だろう。それとそそっかしい青髪の女と控え目なピンク色の髪の女。

 キュゥべえとやらはいない。どうせどこかに隠れているか、急にひょっこり現れたりするぜ。

 

「まずは自己紹介から。私の名前は暁美ほむら。見滝原高校の一年坊……先に言っときますがッ。今ココで先輩ヅラなんてしないでくださいよ。そーいうのは学校で間に合ってるんでねェエ」

 

「巴マミです。見滝原高校の二年。家主でもあります。お互い色々気になるところはあるでしょうけれど……お茶でもお菓子でも、欲しくなったら言ってください。精一杯おもてなしはさせてもらいます」

 

 

 話し終えた巴マミの目線は、少しトゲのあるものに感じた。あれこれ探ったのを警戒されているか。

 重要なのはこの二人だ。青髪の方は一年の美樹さやか、ピンク髪のほうも一年で鹿目まどかと名乗ったが、とても能力者には見えない気迫と出で立ちだ。『オマケ』のような立場だろう。なんでそんなのがいるんだろうかね。

 改めて、敵意は感じない。悪意もない。ただ今は薄氷のような緊張感がクッキーの香りとともにあるだけだ。

 

「東方仗助ッス。見滝原高校の二年……つっても、杜王町のあの事件から編入してきただけ。よろしくッス。

 ああそれと、釘を刺しときますが俺のこのイカしたヘアースタイルを絶対に貶さないようにッ。俺はこの髪型を馬鹿にされるのがいやに腹が立ちましてね、理性を保てるか保障はできねえッスから」

 

 

 うっかり髪のことを貶されないよう先に言っておく。ゴクリと誰か唾を飲み込んだ。強く脅しすぎたか?だが、このくらい強く釘を刺しておいて正解か。理性保てなくなるのはマジだしよォオ~~~~っ。

 そのあとに続いて承太郎さんたちも同じような紹介して、ひとまずワンテンポ置かれる。暁美ほむらが俺たちの顔をひとつひとつ、数式を吟味するかのように観察し、またワンテンポ置く。そのあと、ようやく司会進行を再開した。

 

「それでは始めさせていただきますッ。まずはこちらから、質問を。億泰さんッ、あの日あなたが見せたあの……守護霊のような存在。あなたは『ザ・ハンド』と呼んでいたアレよ。あの時は何とか平静を装っていたけれど、あの後やっぱり気になって。この日が待ち遠しかったわ。答えてもらいましょう。あいつは何者?」

 

「それは億泰に代わって俺が答えよう」

 

 

 暁美ほむらに名前を呼ばれてビクッ、と億泰が反応するが、承太郎さんが対応してくれて明らかに安心したぁ~~っという安堵の表情をたたえる。億泰に説明をさせるなんて酷な話だからな。小学生が説明した方がきっと分かりやすくなる。

 相手さんが一番知りたいのはやはりスタンドだろう。それは俺たちも予想していた。それは俺たちと何ら変わらない理由だ。魔法少女や魔女とスタンド。互いに重要なキーを握り合っている構図だ。

 

幽波紋(スタンド)とは────その語源は『傍に現れ立つ者』の英訳であるstand by me から。

 その名の表すとおり生物を中心に周りに現れる存在のことだ。人型や茨、霧状、群体、何かの機関……そのヴィジョンは多岐にわたる。おい億泰、スタンドを出してみろ」

 

「は、はいですッ」

 

 

 ぎこちない敬語を使って、億泰は目をつぶって仰々しく「はあッ」と掛け声をあげる。ゾワゾワと億泰の『中身』が渦巻き、人型を形成してゆく。空間が揺らぎ、ついに勢いよくバシッと『ザ・ハンド』が現れる。

 億泰はソレを、うっかり右手を振り被らないように動かし、左手でゆるいジャブを空気に向けて放ってみせる。暁美ほむらと巴マミはそれに食い入るように夢中で観察していた。

 チラリと美樹と鹿目の方を見てみるが、本当に何がなんだか分かってない様子。やはり能力者でも何でもないんだろう。

 反応からして本当にスタンドのことは知らないようだ。でなければスタンドの像を見ただけでこんなに新鮮な驚き方ができるはずもない。これで一芝居打たれているのなら感嘆する。

 

「これが、億泰さんのスタンド……」

 

「見てのとおり億泰のスタンドは人型だ。そしてスタンドはひとつひとつに固有の能力をもつ。これも例外はままあるがな。他の連中のスタンドは今見せることはできないが、そう覚えてくれればいい」

 

「貴方たち全員が、そのスタンド……を持っているので!?」

 

 

 暁美ほむらが驚きの声をあげる。見積もりが違ったか、流石にに億泰のような能力者がそう多くいるとは予想しえなかったのか。逆に考えると、こいつらの知る能力者はさほど多くないと見た。この場にいるのも二人だしよ。

 承太郎さんは小さく頷き、暁美ほむらと巴マミの顔色をうかがった。俺でさえ気付けたんだ、承太郎さんだって気付いているだろう。こいつはこの場の主導権を握る上でアドバンテージだ。

 

「重要なのはここからだ。知ってのとおりスタンドは誰もが持つものではない。発現の方法もこれまた色々あるが……

 スタンドをもつ者を『スタンド使い』と呼ぶ。そして数あるスタンドの性質でひとつ。()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()だ」

 

 

 美樹さやかが、お気楽に「なるほどォお───ッ、だからあたしとまどかにゃ何が起こってんのかわかんないわけねェ、どうりで!」と、のたまう。かえって能力者二人は怪訝な表情で、ザ・ハンドを観察する。

 

「私たちはスタンド使いではありません」

 

「俺たちが問いたい一つ目の謎はソレだ」

 

 

 マミが首を左右に振り唸る。スタンド使いにしか見えないはずのスタンド像………それをスタンドを知らない暁美ほむらと巴マミに見えるはずがない。難解な問題だぜこれは。まさか本当に二人に心当たりがないとは予想外だった。

 

「とっ、とりあえずさ!暁美さんたちの話も聞いてみない?魔法少女と魔女、だっけ?その話を聞けば何か判断できるかもだしさ」

 

「………康一さん、でしたっけ。確かに私たちばかり質問しすぎてました。申し訳ない。魔法少女と魔女のこと、答えられる範囲で応答させてもらいます」

 

 

 何か知っている体でこの場に臨んでいた俺たちは、想定の流れと大きく外れて当惑していた。妙なこと言えない言葉に詰まる雰囲気を、康一のナイスな一言で、一旦この謎を残し、こちらが仕掛ける番に切り替わった。

 皆警戒を解き始めてきた。相手も、こちらも。キュゥべえの時に感じたどす黒さは限りなく薄い。きっとこの二人は悪いやつではない。話の主導権を完全に握らせるわけにはいかないけどな。

 

「それには、僕は欠かせないよね」

 

「キュゥべえ………!?」「インキュベーター………」

 

「そいつがキュゥべえ、か」

 

 

 ひょろっと、さも初めからいたように。ソファの下から奴が這い出してきた。耳とそこから生えたもみあげのよう部分を犬のように振るい、座る巴マミの太ももに乗った。けしからん奴だ。

 俺が最警戒していた奴がついにお出ましだ。驚きの声が暁美とハモっちまった。承太郎さんは初めてこいつに会うことになる。どうですか、何か感じますか!?と目で訴える。気付きませんか、こいつのヤバさに。

 不思議なことに、能力者の二人に加え美樹と鹿目にも姿が見えているようだ。それに承太郎さんも康一たちと違って初めからこいつを視認してた。見える条件は一体何なんだ?

 現れたそいつは巴の足上から、暁美の司会進行を無視してべらべら語り始める。

 

「魔女とは。億泰、君が見たあの化け物がそうだよ。魔女はどこからともなくやって、この現実世界の空間とは異なる『結界』という空間を作り出し、そこに人間を誘い込んで殺してしまう。物理法則では説明できない能力も使う、腕っぷしが強いとかでは歯が立たない存在さ。人を殺す動機も食べるためだとか、そういう理由は一切ない、絶望しか含まない真性の怪物さ」

 

「億泰が見た化け物というと、真っ黒い巨大なミミズのような姿をしているという、そいつのことか?」

 

「その認識で構わないよ承太郎。そいつも魔女の一種だ」

 

 

 承太郎さんにまでタメとは、大した奴だ。もう一度握り潰してやろうか。

 億泰が見たという化け物。キュゥべえ曰くそれが魔女らしい。実物を見たことがないから想像でしかないが、聞いただけじゃあまるでRPGの魔物のような存在だな。それも結界とやら別次元の空間を作り出し、助けも呼べない逃げもできない状況にできるなんて、まるで人を殺すために生まれた機械だ。

 段々勘づいてきた。魔女が人を襲うのなら、人は目減りするのみ。人が絶滅しないよう魔女を狩りとるものが必要。すなわちッ。

 

「つまりッスよ、それを倒すのがあんたたち魔法少女ってわけだ。な、巴さん?」

 

「Exactly(そのおうりです)」

 

「俺が見たあいつが魔女ってやつかよォ〜〜〜ッ。説明じゃどんなキモいやつかと思うけど案外見た目は可愛いんだな、ヨソーガイ」

 

「暁美さんと私のような『魔法少女』は、その魔女達から人々を守る者のことよ。この二人も、私の話から魔法少女になろうと思ってる、いわば魔法少女見習いね。

 魔女は強い……そしてどこに現れるかも不明で手遅れになることもよくある。私も守れなかった一般の方が沢山いる。私もいつ死ぬか分からない。お、億泰さんに助けてもらえなければ私は既に………」

 

 

 魔法少女はハンターだ。狼から村を守る猟師だ。弓を外せばいつ喉を噛み切られるかも知れない、まさに死と隣り合わせ。巴マミは悲壮感を全身に表現し、手を自分の心臓のあるところに置き鼓動を感じる。巴も億泰がいなければここに居ることすらできていないのだ。

 今のを聞くだけで壮絶だ。目の前で死んだ人間を何度見たのだろう。そして残るのは責任感のみ。こんなこと時給がいくら高くてもやる奴は多重債務者くらいだろ。

 そんなのになりたいだなんて、美樹さやかと鹿目まどか、なかなかガッツがある奴だ。それとも何とかなるだろっていう蛮勇しか持ち合わせてないのか。

 

「でもさ、その魔法少女っての、どうやったらなるんだい?お二人の能力は聞くかぎり鍛錬だなんだで身につけられるものとは思えません。スタンドじゃあないんだったら、何か特別な事があるはず」

 

「よくぞ聞いてくれたね康一。そこは僕が説明するべきところだ」

 

 

 魔法少女のなり方を康一が問うた瞬間、嬉々としてキュゥべえが発言する。また出しゃばりか。俺はこいつにだけは警戒心を解くことはないだろう。もはや巴マミと暁美ほむらのことよりも、俺はこいつの裏側を暴くことに注力し始めている。必ず化けの皮を毟り剥がしてやる。

 

「魔女のパワーは凄まじい。不思議な力も使う。それでも戦いたいという高潔な精神を持つ戦士たちには、然るべき対価が必要だ!」

 

「インキュベーター………何をほざいてッ」

 

「だから、僕らが魔女と戦う精一杯のサポートをするんだ!まずはじめに、僕らと契約することで契約者の内側に眠る精神の力を引き出してあげる。そうすれば、契約者は魔女と戦う精神の力の具現化『魔法』を使えるようになる!

 でもそれだけじゃ足りない………だから僕らは考えた。命を賭けるに値する対価。契約者の()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 俺たちに激震が走った。稲妻が避雷針を焼き尽くすほどの衝撃。言ってる事が意味不明だ。願いをなんでも叶える、だって?そいつはいいな。俺だったら何を願おうか。じいちゃんを生き返らせるか、一生遊んで暮らせるお金でも貰うか。

 デカゴンボールくらいでしか聞いた事ないフレーズだな。この期に及んでおふざけか?笑えないぜ。面白くない。

 

「皆さん、ボラ吹いていると思われるかもしれません。ですが、これは事実、大マジなんです。私は小学生の頃事故で両親を亡くしました。私も腹に車の部品が突っ込んできて、瀕死でした。

 そこにキュゥべえがやってきた。キュゥべえは私に契約を迫りました。私は咄嗟に願った……「私を助けて」と。両親を見捨て、自分だけ助かった。そうして私は魔法の力と魔女と戦う宿命を負わされたんです。」

 

「おいッそれじゃあよ、ほんとのほんとに願いが叶うって訳か!?俺がテスト毎回満点取れるようにしてくれって願えば、俺が急にインテリになるってことかよ!」

 

「君の願いを叶える義理はないけど、端的に言えばそういうことだね」

 

「………グレート」

 

 

 こいつはたまげた。スタンドのことも初めはおとぎ話のようなものと思っていたが、これは飛び抜けて驚きだ。スタンドも土星までぶっ飛ぶこの衝撃。

 億泰も康一も承太郎さんも、動揺を隠しきれてない。こんな事実、あっていいはずがない。願い次第で世界がどうとでも滅ぼすことができるんだぜ?もう一度言うがあっていい事実では決してないッ!

 

「ちょっと、いいかな。巴くん。君がした契約の動機は、助かりたかったから。魔女を倒して街を守りたいと思ったわけではないはずだ。それなのに何故、魔女と戦わなければならないんだ?

 こう言ってはアレだが、見知らぬ人など見捨て叶えた願いの力で悠々自適な生活を送るのではいけないのか。どうしてなんだ」

 

「それは、こいつが原因です」

 

 

 承太郎さんの言うことはもっともだ。俺ならきっとそうする。はいそうですかと受け入れるやつは稀だろう。よほど英雄欲求が高い奴以外は、自分の命を犠牲にしてまで他人を救わない。まして、赤の他人を。

 暁美ほむらは先程からずっと歯噛みをして、何か知られたらまずい事があるのか、苛立ちを隠さずにいる。そしてその苛立ちは、主にキュゥべえへと向けられていた。暁美は何故魔法少女になったのか。この間柄を見れば、なりたくてなったわけでなく巴マミのように願いに縋るしかない状況だったのかもな。数悶着はあったと見る。

 巴が机の上に小さな黄色の宝石を恭しく丁寧に置いた。宝石はエッグカップのような形状に加工されており、煌びやかな装飾が美しさを際立てる。流線型を描くその宝石は、ダイヤモンドカットの見られない、本来ならただの丸い石のはずなのに、照明よりもずっと輝いて人を引き込む魅力を俺に感じさせた。

 

「これは?」

 

「これはソウルジェム。私とキュゥべえの契約の証です。魔法少女へ変身するのも、魔女を探すのにもこれが必要。魔女退治の必需品ね」

 

「凄い………こんな宝石、テレビでもそうそう見ないよ。ウン億とかするんじゃあァないかなあ、こんなの」

 

 

 感想は三者三様だが、誰が見てもこれは美しいと言う。生命力の輝きってのを目の前にしたのなら、こんなふうに美しいんだろう。それを暁美ほむらは、なんとも不穏な表情で睨んでいた。それに気付いたのは、俺だけのようだ。これも何か『ウラ』があるんだろうな、何しろキュゥべえとの契約の証らしいから。

 巴マミはその美しい宝石を手のひらに置き、目を閉じて黙りこくる。次に目を開いたとき、彼女の体の外輪をソウルジェムと同じ色の光が包み、それが収まったあとの巴マミの姿は全く異なるものだった。

 制服姿は消え去り、オシャレ風のコンセプトカフェにいそうな服装に変化していた。超スピードで早着替えだとかそういうのじゃねえ。むしろ、こいつは………

 

「このソウルジェム、実はだんだん濁っていくの。今も完璧な輝きじゃあない。魔法を使ったり、生活で嫌な事があったりするとちょっぴりずつねェ。それを治すには────

 

「これ、使って。あのときの魔女のものよ」

 

 

 暁美ほむらが巴マミの話を遮って、ソウルジェムとは違う別のアクセサリーのようなものを机に転がした。大別して上部・本体・下部に分けられ構造。ソレの下部は針状になっており、横倒しになってもこの部分を土台にして自立出来るようになっている。中央部は黒い球の中に何らかの意匠が描かれて、上部は中央部の意匠とは異なったエンブレムがある。

 ソウルジェムと対比するように、これは生命の負の部分の蠢きの結晶のようだ。その模様や漆黒から、ひたすらに深い絶望が踊りだしてきそうだ。吐き気を催す感覚もあった。

 

「うげッ!なんだこりァ、見ているだけで気悪くなるぜ」

 

「私もなんか……心臓を握られてる気分。ごめんさやかちゃん、ちょっと肩貸してっ……」

 

 

 悪寒と鳥肌が沸き立つ。噴上裕也がこれの臭いを嗅いだなら、あまりに歪な物すぎて咳き込むだろうな。冷や汗がデコから滴る。なんとも不快感を与える代物だ。こいつは一体?

 

「こいつは『グリーフシード』言い換えるなら、魔女の卵よ」

 

「魔女の卵だって!?じ、じゃあこれからその化け物がッ!」

 

「安心して、これは私と億泰さんで倒したばっかりの魔女のグリーフシードよ。当分魔女が現れることもないわ。重要なのはこのグリーフシードのぽっかり空いた中身。

 ソウルジェムに溜まる魔法少女の疲労───これを『穢れ』と呼ぶわ。その溜まった『穢れ』を同じように溜め込み、吸収してくれる物………それがこのグリーフシードってわけ。もちろん吸わせすぎは『穢れ』を養分に魔女が孵っちゃうからダメだけどねェ〜〜〜〜。マ、見てもらった方が早いか」

 

 

 机上に置かれたグリーフシードの隣に、マミのソウルジェムが近付くと。ソウルジェムの宝石の中、微かに見られた微弱なくすみが清浄されていく。あっという間に、宝石は度を増して澄み渡り、オークションにかかればビル一つ建つような金額になるであろう美しさの圧を見せた。

 

「きれい……ねぇまどか、スッゴいよこれ」

 

「私もこんな綺麗なもの初めて見た……」

 

「というわけで、私たち魔法少女は魔女を倒してこのグリーフシードを手に入れなくちゃいけない」

 

「もしよ、穢れが溜まりきっちまったらよ、どうなるんだよ。病気にでもなるのか?」

 

「死ぬわ。確実に……実際どうなるのか分からないけど、自分のことだもの。そうなるって自然に理解できたわ。だから、魔法少女同士の殺し合いの闘争が起こるほど、グリーフシードは全魔法少女が欲している。彼女くらいよ、執着が薄いのなんて」

 

「ふん、取り合いなんて時間の無駄。その間に別の魔女を倒せばいいだけだもの」というか、いつの間にか司会の座奪われてる……

 

 

 あんまりにあっさり言うもんだから、驚く暇もなかった。グリーフシードを巡って殺し合いが起こる、か。手に入れないと自分が死ぬ。争って他人が死ぬ。魔法少女……その響きと裏腹に、全くメルヘンチックじゃあない、むしろ鉄血な印象しかない。

 

「それができない魔法少女も多いのよ」

 

「マミ、そのグリーフシード使い終わったのなら僕に頂戴よ。いつも通り回収して処分しておくからさ。ずっと持っておくのも邪魔だろう?」

 

「ダメよ、まだちょっぴりしか使っていないもの。あと2回は確実に使える」

 

「おい、ちょっと待ってくれッ!使い終わったグリーフシードって、魔女の孵化寸前なんだろッ、そんなものそいつに渡して大丈夫なんスか」

 

 

 マミはキュゥべえを信用している。命の恩人だから当然と言えば当然なんだろうかな。ほかの魔法少女にとっても願いを叶えてくれた存在なんだから信用するんだろう。かえって怪しすぎるぜ。

 どこからともなく魔女がやってくる、そして孵化寸前の魔女の卵をキュゥべえが回収する。こんなの、色眼鏡で見ているかもしれねえが俺にはこいつらがグリーフシードを各所にばら撒いているようにしか思えないッ。

 

「僕はグリーフシードの処分係だ。きちんと穢れも浄化するし、魔女を産ませるようにしているなんてことはしてないよ。疑り深いね、東方仗助」

 

「そりゃどーもォ。だがよ、穢れが浄化できるならなぜソウルジェムの方をしてやらない?わざわざグリーフシードに集めさせるのは一手間じゃあねーのか」

 

「ソウルジェムへの直接干渉は苦手でね。グリーフシードを通さないと穢れの浄化に取りかかれないからさ」

 

 

 くそっ、言い逃れできる答えが多すぎたか。だが、確かにキナ臭さを嗅ぎつけられたぜ。とっかかりは見つけた。暁美ほむらはそうでもないが、巴マミはキュゥべえの擁護に入っちまうだろう。巴マミを引き剥がして、キュゥべえの野郎に直接メスを入れる……

 

「解せないな」

 

 

 巨漢が立ち上がった。2メートルに近いその巨大な体躯は、圧倒的な威圧感と覇気を纏ってとある奴の方へ向く。いつから黙っていたの覚えていないが、彼の中で何かが固まったのか、敵意の含まれた眼光で机の上に移動していたそいつを睨む。

 

「じ、承太郎さん、私が何か粗相をっ?」

 

「暁美くん、君に向けているわけではない……おい、てめーの事だぜ、キュゥべえとやら」

 

「……解せない、とは何か気になることでもあったのかい、承太郎」

 

「ああ、解せないな。本当の目的は何なんだ?なんでてめーらは人間に、少女にそこまでしてやる?やらなくてもいいじゃあねーかッ」

 

 

 俺はその一言でハッとした。簡単すぎて頭に思い浮かんでこなかった違和感。灯台下暗しという奴で、立ち返って考えてみると明らかにおかしい。

 

「えっえ、それは魔女が人間を襲うからなんじゃあないんですか?僕はてっきりそういうものだと……」

 

「康一くん、例え話をしようか。たとえばサバンナに遭難して食糧を探しているときだ。偶然シマウマがライオンに襲われている場面に遭遇したとき、助ける奴がいるか?君の答えは当然NOだ、そんな奴はいない。逆に今のうちにライオンから逃げちまおうって考えるのが筋さ」

 

「あたしもそうするなぁ、そんな状況ならね」

 

「あれ、そう考えると……私たちは魔女に襲われるけど、キュゥべえたちは別に襲われない、よね」

 

「そうさ、無垢で何も知らない少女に、力を与えて魔女退治に駆り出させる。自身もそれについていき、巻き添えになる危険も犯す。願いも叶えてあげる。気前がいいな、ええ?」

 

 

 キュゥべえは沈黙したままだ。表情はもちろん変わらないし、少なからず見せていた肉体の動作もなくなり、着色された石像のような感想を抱かせる。この反応からしてかなり核心突いてるぜ、俺がそれに気付かなかったのは残念だが。

 しかし、この流れに面と向かって対立する者が。初めて見た、魔法だ。巴マミの胸元が光り、一本の筒が飛び出てくる。服装と同じような意匠を施してある小型の片手持ちマスケット銃───どこかの展示で見た馬上宿許筒という火縄銃にソックリ───を承太郎さんの眼前に突き出す。

 

「なっ!巴マミッ!?てめー何してんだコラァッ!」

 

「億泰さん……大丈夫、私はまだ撃つつもりはありません。それよりも承太郎さんッ、まるでキュゥべえが悪者で裏がある、私たちを利用しているだなんて、酷すぎますッ!キュゥべえはどこか冷淡だけど、私たち人類のためを想って……そうして協力してくれている、そうは思わないのですか!?」

 

「一理ある。が、一理だけだな。巴くん、本当に人類のためを想っているのなら、そのキュゥべえがやっている行いは合理的ではない行動が多いな。まずはじめに、何故少女なのか?屈強な男でも、所謂レディと呼ばれる歳の女性でもなく、少女である理由は?

 そういえば君は契約を望んでした訳じゃなかっただろう。卑怯と思わないか?縋るものならなんでも縋ろうかという所に現れ契約を迫る。悪徳セールスのようだな、まるで。

 聞けば君が死にかけたとき、君の心配なんてせずにそこの美樹くんと鹿目くんに契約を迫っていたらしいじゃあないか……」

 

「やめっ、やめて!本当に撃ちますよッ!」

 

 

 承太郎さんはそう淡々と論理的に巴マミへ問いかけた。言葉では強がっているが、一度生まれた疑念はなかなか消えない。実際かなり気持ちは揺らいでいるだろう。トリガーから指を離し。銃口も震えでブルブル揺れて狙いなどクソもない。

 流石承太郎さん、俺が散々悩んだ巴をキュゥべえから引き剥がすのを簡単にやってみせた。やっぱこういうところがカッピョイィ〜〜〜ぜ。

 

「おいキュゥべえ、てめーは俺が質問したらよく答えるか?」

 

「ああ、聞かれたのなら、答えるよ。偽りなく」

 

「そうか。では聞かせてくれるかな、ソウルジェムとグリーフシードの関係のことを」

 

「じ、承太郎さん!それはもう私がッ────

 

「俺が知りたいのはソウルジェムの正体だ。グリーフシードは魔女の卵、そしてそのグリーフシードと相反するようなものがソウルジェムだ。それがなければ変身も魔女探しもできない。だがその正体はキュゥべえと契約した証だと?

 ここまで性質の似通った二つだ。正体も何か通ずるものがあっていいはずだ。それに、契約の際てめーらは契約者の精神エネルギーの力を目覚めさせるんだろ?だったらその力を()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()!何故ソウルジェムを介する必要がある!?」

 

「確かに………ッ?」

 

「まさか、そこまで気付くなんてッ……」

 

 

 暁美ほむらがぼそっと何かを呟くが、うまく聞き取れなかった。それよりも、俺の違和感の核心の核まで話題がやってきた。キュゥべえの話によると魔法は精神の力によるもの。それはスタンドと全く変わらない、精神エネルギーのことだろう。

 だが、それはスタンドとは決定的に違う。その一つがソウルジェムと穢れの存在だ。穢れで能力を制限され、ソウルジェムがなければ能力が使えない。本当に精神エネルギーの力を使えるのならスタンドと同様制限なく使えるはずなのに。

 

「鋭いなあ、凄いよ承太郎。だから君のような理知的な大人には探られたくなかったんだ。ソウルジェムの正体かい?

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()。僕らが目覚めさせた能力は精神、すなわち魂のエネルギーの具現化だから、魂であるソウルジェムに能力が発現してるんだよ。だから、魔法少女はソウルジェムがないと能力も使えないって訳だ」

 

「なっ…………!?」

 

「は、え?は?何言って─────」

 

「スタンドにも言えることだけどねェ、精神力のない人間が精神エネルギーの具現化を発現した場合高熱にうなされ死に至るんだよ。それを踏まえてみてよ。僕らは魂を分離させ肉体を保護し、なおかつ能力もちゃんと使えるようにしているだろう?無理やり動かしている分、魂は疲弊して燃え尽きた精神エネルギーが穢れになって堆積しちゃうけどね」

 

「馬脚を表しやがったな、こいつらッ」

 

「嘘よ、ね?キュゥべえ……冗談なんか言えたんだ、はは、でもあんまり面白く、ないわよ?」

 

「あたし………何が起こってるかいまいちよく分かんないけどさ!今のマミさんの体は魂がない屍生人(ゾンビ)みないな状態ってこと!?」

 

「捉え方はそれで合っているよ」

 

 

 まさかここまで最低な野郎だとはな。こいつはグレートにヤバい新事実だまさか魂を勝手に抜き取っていたとは。ようやくこいつの腐り切った性根が現れはじめたぜ。

 巴マミの精神状態はかなりヤバそうだ。プッツン一歩手前、表面張力で溢れるのを耐えているグラスような感じだ。そりゃそうだろう、知らないうちに自分を人間から半人間に変えられていたんだからな。

 しかし巴マミには悪いが、まだ追求は続ける。俺たちも、承太郎さんも。

 そしてもう一人の魔法少女……暁美ほむらはその事実より別の何かに焦っている様子だ。明らかに動揺がない。こいつ、掴みどころがない奴だが、一体何なんだ?もしや、ソウルジェムの事実はもう知っていたのか?

 

「ね、ねえ………僕、いいですかァ。考えたくもない可能性、思いついちゃったんですけど。僕は今、とんでもない想像をしてますッ」

 

「待ってッ、今その話をするのは時期尚早よッ!!」

 

「その反応、暁美さん、まさか全て知ってたの?何の時期かは分からないけれど………ごめんね。君の考えと僕の考えが同じだとするなら、どうやら僕の考えは正解みたいだ」

 

 

 衝撃の事実があれよあれよと湧き出て、もはやスタンド使いと魔法少女の情報交換という本来の目的さえ忘れ去られたような、怒り悲しみが唸る混沌とした場で、額を人差し指で掻きながら康一が荒い呼吸で発言を求める。

 考えたくもない可能性。俺も冷静さが失われてきて、とても何か深いことを考えられる状況じゃないが、こんな時も康一は色々考えてたようだ。そして、それを止めようとここ一番の声で静止にかかる暁美ほむら。一体康一は何を話すつもりなんだ。

 

 

「魔女は不思議な能力を使う。魔法少女は不完全な能力を魔法として使う。なぜなら魔法少女の完全な能力は分離された魂であるソウルジェムの能力だから。

 ………スタンドは精神が成長すればその能力の幅が広がったり、全く別のものに進化したりします。それがたとえ、悪い方向への進化でも。そしてその条件になりうるもの、『穢れ』です。不完全燃焼した精神エネルギーの燃えカス。これを溜め込めるのがソウルジェムとグリーフシード。

 その二つはどちらもその肉体の根幹となるもの。ソウルジェムがなければ魔法少女の肉体は動けない。グリーフシードがなければ魔女は生まれない。

 結論です………ソウルジェムに穢れが溜まりきると死ぬ、でしたっけ。その死に方は()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことじゃあないか。ソウルジェムがグリーフシードに、肉体は切り離され魂がグリーフシード(ソウルジェム)から飛び出し魔女に、そして能力の制限がなくなる。そういうことなんじゃあないかなって………」

 

「もし本当なら……てめー正真正銘史上最悪の野郎だぜ」

 

「まさか、この短時間でそこまで辿り着くなんて、君らは凄いな。厳密に言うと異なる部分もあるけど、原理はそういうことさ」

 

「じゃ、じゃあ私はッ!ひ、ひとを、魔法少女を殺してたってことなのッ!?

 ────そんなの。嘘。嘘と言って!嘘と言えェェェェッ!!」

 

「そんなに取り乱すことないじゃあないか。君がやってきたことは正しい行いだ。別にいいだろう?もう彼女らは人間じゃあないんだしさ、君はそれで何人も守ってきたじゃあないか」

 

 

 バンッ。机に穴が空いた。その衝撃で、クッキーが床へ散らばり、紅茶がカップから机に溢れ広がる。パタリと、キュゥべえがその紅茶たまりに倒れた。机がカタカタ震える。巴マミの笑っている膝の振動が伝わっているのだ。

 

「私は救われたように見えて、ゆっくりと処刑されていたのね。ははは……ほんと、バカ丸出しね。こんなこと知らずに、美樹さんと鹿目さんを巻き込んで。危うく二人をこの拷問に引き摺り込むところだったわ。そして承太郎さん、先程までの非礼を詫びます。」

 

「巴マミ、どうしたんだァ?急に落ち着いたフリしてよ、てめー全然落ち着いてもいねーじゃあねえか。いくらバカでもそんくらい分かんぜ」

 

「億泰さん、気にかけてくれてありがとう。貴方が救ってくれたお陰で、真実を知れた。暁美さんも、全てを知ってたうえで二人が魔法少女になろうとするのを止めようとしてくれたのね。私が絶望するのを予想して、事実を伝えないように。康一と仗助さんも、本当に………」

 

 

 巴マミはトリガーに指をかけた。銃口は自分の脳天へ。煙が止んだところで、魔法の弾を込め、一息。彼女の涙が目尻に集まる。声の震えは大きくなる一方だ。

 

「暁美さん、あなたは全てを知っていたのでしょう?なら、これからのこと、頼むわよ。押し付けるようで申し訳ないけど、よろしくね。そして最期に謝らなくっちゃ、この場を血で汚しちゃうことを。でも、魔女になって絶望を振り撒くより、ずっとマシよね──────

 

「やめろ巴マミ!やめなさい!!やめてッ!マミさんッ!!」

 

「銃のトリガーを引かせるなァア───ッ!!」

 

 

 

さようなら(アリーデヴェルチ)

 ドンッ。

 

 

to be continued

 

 





独自設定いっぱいで説明的なシーンが多くなりました。この世界線ではこーいうルールなんだなとほんわか覚えておいてください。

2/11 微修正
4/8 誤字修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。