とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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とあるの妹達(レギオン)監視役(ウォッチドッグス) ◎

「あっ! 私、妹達(あの子)だ」

 

 学園都市に7人しかいない超能力者の第3位。

 自他共に認める実力者で、電磁砲(レールガン)の異名を持つ常盤台中学校2年。

 活動的な茶髪のセミショートに、髪留め。勝気な美少女という御坂美琴は、トイレで膝まで下した自分のパンツを見て異変に気が付いた。

 

 いつも履いているキャラクタープリントのパンツではなく、妹達(シスターズ)が履いているしまパンだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 妹達は学園都市の闇深いある実験のため産み出されたクローンたちで、その総数はなんと2万人にのぼる。

 彼女たちの服は数を揃えるため、常盤台中学校の制服をそのまま利用し、下着は全員が同一デザインの青いストライプのパンツだ。

 

 美琴はそんな妹達(シスターズ)と、下着が被らないようにしまパンは履かないようにしていたはずだった。

 しかし、今は青いストライプのしまパンを履いていた。

 

 そもそも、トレードマークと言われる短パンを履いていなかった。

 

「え……? ど、どど、どういう……こと?」

 

 動悸が収まらない──。

 脱ごうとしていたパンツを履き直し、トイレの個室内で美琴は動揺する自分の小さい胸を抑えた。

 

 美琴は学園都市でもトップレベルの優れた頭脳を持ち、思考速度が非常に速い。

 自分がパンツを履き間違えていないこと、そして短パンを履き忘れていないこと。自分の持ち物や今まで起きた事態と記憶が合わないこと。発電能力の感覚が、いままでと違うこと。

 さまざまな情報から、一瞬にして自分が御坂美琴の記憶を持った妹達(シスターズ)ではないか、という推論が浮かんでしまった。

 

「こんなこと……ありえないわ。お、落ち着きましょう。思い出せる範囲で……妙な事の始まりは、きっとあの時よね」

 

 時間は数時間ほど、さかのぼる。

 

 

+ + + + + + + + +

 

 

 残暑が厳しい9月の連休初日。

 

 御坂美琴は校則通り制服を着て、ひとりで買い物を兼ねて雑誌の立ち読みに出かけた。

 ルームメイトの白井黒子は風紀委員で朝から不在。友人との約束もない。

 これ幸いと、美琴はひとり静かに趣味の立ち読みを満喫することにした。

 

 そして目的のコンビニで雑誌の立ち読みを終え、ジュースを買って外に出た──はずだった。

 

 気が付くと、美琴は買ったばかりのジュースのペットボトルを持っていなかった。

 立ち止まり、両手を交互に見やる。

 

 通行人たちが不思議そうに美琴をちらりと見るが、すぐに興味を失って歩き去っていく。誰も美琴を気にしている様子はない。

 

「……? 買ったジュース、どこに落としたのかしら? 9月も終盤だってのに、とんでもない暑さよね」

 

 暑さで朦朧とし、手が滑ったのかと思って後ろを振り返るが、どこにも落ちている様子はない。

 

 ──買ったつもりだったが、買ってなかったの? まったく! どれもこれもこの暑さのせいね!

 

 残暑の暑さに、内心で毒をつく

 

 コンビニのエアコンで乾燥し、外の暑さにやられて喉が渇いている美琴は、とにかく何か飲みたい。

 すぐ脇に、飲み物の自動販売機があったのは幸いであった。

 

 ここで次の小さな異変に気が付いた。

 

「なにこれ? 自販機のラインナップ……ものすごく普通? 珍しいわね」

 

 学園都市、第7学区の自動販売機は、どこぞの企業や大学が、試作品を投入してしのぎを削っている場所である。

 しかし、この自動販売機は違う。

 ミネラルウォーターとスポーツ飲料が、奇をてらってないのは当然として。

 世界的にも人気で無難な炭酸飲料に、長くごく一部に愛されているフレーバーの炭酸飲料。愛らしいキャラクターのフルーツフレーバーのジュース。見慣れた本日これで十分という煽り文句の野菜ジュースなどが並んでいる。

 

 ──ま、いいか。

 美琴は電子決済しようとして、右のポケットに手を入れて……止まった。

 

 携帯電話が入っていなかった。サマーニットの内側に隠し持っていたハッキング用の小型ラップトップ端末はあったが、携帯電話とゲームセンターのコインは、どこにもなかった。

 左のポケットも上から触ってみたが、ハンカチくらいで携帯電話は入っていない。

 

「そーいえば、洗濯したの履いたんだっけ」

 

 おそらく昨日履いてたスカートに、携帯電話とコインが入っていたのだろう。

 困ったなー。と、美琴は財布を取り出そうとして──ゾワリとした。

 

 財布も、無かった。

 ポケットの空虚感が、より大きく感じられた。

 

「……うそ」

 

 さっき買い物はしたのだから、コンビニに忘れてきたのか?

 来た道を戻ろうとして、今度はゾッとした。

 

 振り返った先に、出たばかりコンビニが無かった。

 そもそも見覚えのない道だ。

 

 第7学区にこんな場所があっただろうか?

 

 さらにいえば、休日の午前中なのに、学生らしき姿が少ない。

 スーツ姿の男性がほとんどだ。

 

 自動販売機前で困惑し、周囲を見回していると、白髪の商社マンらしき男性が声をかけてきた。

 

「なんだい、お嬢ちゃん? 財布、忘れたのかい?」

 

「あ、はい。……それが、その、落としたみたいで」

 

「そいつは大変だねぇ、ほれ」

 

 白髪の男性は、カバンからお茶のペットボトルを取り出して、美琴へ差し出す。

 いくつものショックで呆然としていた美琴は、それを遠慮なく受け取ってしまった。

 

「あ、あの……ありがとうございます!」

 

 いつもはガサt……活発で勝気な美琴だが、思わず育ちの良さが出たのか、素直に礼を述べて頭を下げる。

 

「暑いからねぇ……水分補給しないと、倒れちゃうから。じゃ」

 

 可愛らしい美琴の態度に満足したのか。白髪の男性はそう言って立ち去って行った。

 いつもだったら食い下がる美琴だが、今は普通の精神状態ではない。

 

 困惑と焦りと喉の渇きから、美琴はお茶をくれた男性を見送ると、すぐさまペットボトルのキャップを開け、増量中600ミリリットルを一気に飲み干した。

 

「……どーなってるの?」

 

 どうなっているのかわからない。

 狼狽している美琴に、次なる事態が迫る。

 

 コンビニの立ち読み対策で全力エアコンで冷え切った身体に、さわやかなお茶のカフェインと水分が入るとどうなるか。

 

 そう、生理現象である。

 

 美琴は近くの見慣れない商業施設に入り、そこのトイレで用を済まそうとして──。

 

 冒頭に戻る。

 

 + + + + + + + + +

 

「……まだ完全に、自分が自分でないと決まったわけじゃない」

 

 記憶をたどりつつ、用を終えて個室から出た美琴は、洗面化粧台で手と顔を洗い、濡れた前髪を描き上げる。

 

 鏡に映る姿は、御坂美琴だ。

 私のはずだ。

 どこか悟ったような妹達(シスターズ)とは、目の活力が違う。

 私に違いない。

 髪留めは……たぶん私の。

 だから私……だと思う。

 記憶の連続性はある……ちょっとコンビニを出たあとが怪しいけど。

 大丈夫、私は御坂美琴だ。

 

「……ふう」

 

 気を取り直し、濡れた手と顔を拭こうとハンカチを取り出だすと、なにか軽いものがポケットから落ちた。

 

「……?」

 手を拭きながら、なんだろうと美琴は落ちた丸い金属の何かを目で追いかける。

 ゲームセンターのコインではない。数倍は大きい。

 鉛色の面をこちらに向け、転がっていく。

 手を伸ばそうとしたが、すぐに自分の能力を思いだして、磁力を使って引き寄せる。

 

「……バッジ?」

 

 手に取った円盤状の金属には、安全ピンが取りつけあり、バッジの形状をしていた。

 大きな力がかかったのか、いびつな形になっているそれを、何の気なしに裏返す──!

 

「っ! うそ!」

 

 果たしてそこには。

 御坂美琴が愛してやまないゲコ太のイラスト。愛らしい姿で、デフォルメされた天使の羽が浮いている。

 SKYと下に描かれたそれは、必死になってガチャガチャを回し、やっとの思いで手に入れて、妹達(シスターズ)のあの子にあげた物だった。

 

 美琴は学園都市でもトップレベルの優れた頭脳を持ち、思考速度が非常に速い。

 ファンタジーやオカルトを頭から否定しているが、それでも空想ファンタジー漫画などの娯楽作品を一通り嗜んでいる。

 

 それら作品でよくある展開を集め、演繹し、帰納もしてみて、疑い、否定し、脱構築し、また再度推論を構築する。

 

 そして、御坂美琴の思考は帰結する。

 

「あ、あ……私……私、あの子の……あの子の身体……奪っちゃったぁっ!!」




美琴ちゃんには、笑顔がよく似合うよね。
──前提でまず曇らせるだけ曇らせちゃうよーーーーん!

安心してください。
鬱はクラッシュさせます
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