とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
9982「賽銭泥棒であるお姉様に、ミサカも天罰を落とせるのでは。と、素振りをしながらミサカは権利を主張します」ブンブン
美琴「か、借りただけよ! 返すから! その太鼓のバチを素振りするのは止めてー」
私は浅草の中では比較的高い雑居ビルの上で、周辺の捜索に当たっていた。
ここにはctOSの集合端末と、
屋上の看板裏に隠されるように安置された祠に、障害を乗り越えつつアクセス。無事、あの子のデータをコピーして、私の中に刻み込む。
自分の感覚が広がる──。
浅草から南千住まで、私の掌握下となる。
今までより、遠い距離まで意識の手が延びる──。
大きく息を調え、拡がった意識と感覚と能力を抑える。
一息ついたところで、私は借りた双眼鏡型の暗視スコープの扱い方を確かめる。
この緑色がかった視界にはなれないわね。
一度、双眼鏡を外し、視界を夜の街に廻らせた。防犯カメラの位置も確認。
あとは待つだけ、かぁ……
屋上に落下防止の柵はない。私は縁の段差に片足をのせ、また双眼鏡で街を眺める。
スカートが風で捲れるけど、見てる人はいない……。でも、抑えておきましょう、うん。
念のため、お尻のあたりを抑える。
『こちら、しょうさ。報告、よろしく~』
機器の揃っているアジトで待機しているしょうさから、定期報告を促す通話が届いた。
今回は匿名性の高いSNSを利用した無料通話で、
本来、イヤホンマイクがいるけど、私はラップトップから直接通話ができる。便利。
「こちら、レールガン。別にないわ。せいぜい、夜間なのにヘリが飛んでいったくらい?」
グループ通話なので、全員が聞こえている。だから、誰に対して誰が話しているか、旧来の無線のように呼びかけと自分のハンドルネームを、発言の最初にする必要があった。
『あー、うん。……調べた。関係ないな。報道ヘリだ。足立区で火災あったみたいで、たぶんそれ』
すぐにしょうさから照会と報告がくる。地味に、やっぱり優秀ね、この人。
ま、もともとヘリに賽銭泥棒は関係ないか。
でも空からの目は危険だ。夜とはいえ私の存在が、視認されるかもしれない。
このあたりの事件で飛んでいたなら、見つかっていたかもしれない。
「了解。あと異常っていうのかな。なんかこのビル。セキュリティが強かったけど、なんなのかしら? 知ってる?」
『なんだろうね? 普通のビルっぽいけど、どっかの組織の根城かな?』
彼の言う通り、普通の雑居ビルである。地上階はテナントにバーガーショップが入り、2階から貸事務所。そこから上は全て住居。
変わったところといえば、住居が空き室が多いくらいかな?
バーガーショップはチェーン店ではなく個人店で、ちょっと心惹かれるメニューがあったから、あとで来てみましょう。
「組織ねえ……。私はそんな感じはしなかったわ。突破そのものは簡単だったし、ただお金がかかってる感じだったのよねぇ」
『じゃあ、あれだ。保安機器とかお高いのとか、お金持ちで少しはできる素人さんが構築したんじゃない?』
「あー、そうかもねぇ」
しょうさの話しに、一応は納得。
世間には器用な人や、才能のある人が、お金を持っていて手間をかけているということがある。
ビルのオーナーがそういう人で、他よりセキュリティにお金をかけているのかもしれない。
私もしょうさも、そんなあたりだろうと納得し、夜の浅草の調査を続ける。
犯行の手口は、賽銭箱ごと奪い、車で運んで河川敷などで破壊。中身を取り出すという乱暴なものだ。
今時、賽銭箱は重しが入れてあったり、固定されていることが多いので、犯人がある手段で外せる賽銭箱に目星をつけていた。
このビルから、その目星のついてる3つの神社を視認できる。
浅草を掌握下に持った今、監視するには持ってこいなビルなんだけど……。
「こちらレールガン。ねえ、アスキー」
『こちらアスキー。なんだ?』
「あんた、免許もってんの?」
双眼鏡を使わずも、ビルから視認できる駐車場。
そこにはヒロヒロこと真優がドライバーを務めるトラック。
その荷台には、アスキーこと遊驥が乗る人型作業機械、ASUKA96の姿があった。
アスカ96の操縦席でラジオでもかけてるのか、緊張感と未知の不安を感じさせる音楽がなりはじめた。
1990年代。
ハイパーテクノロジーの急速な発展と共に、あらゆる分野に進出した汎用人間型作業機械=レイバー。
学園都市でもかつて、初期の建設当時は大分活躍したと聞いている。
今では学園都市内部の作業ロボに取って代わられてるけど、新しいレイバーは作業機械として性能が特段悪いわけでもないので、日本各地で現役で活躍してるって聞いたけど……。
いくらなんでも、あれはちょっと古すぎるわよね。
ASUKA96は、短い脚と張り出した肩。そこから伸びる器用だが細くて頼りない腕が特徴的な第二世代の人型レイバーだ。
それに高専生とはいえ、15歳か16歳である一年生の遊驥が乗れるとは思えない。
『アスカみたいな小型レイバーは、16歳からに緩和されたんだよ。当然、免許も持っとる』
「え? あー、そうなの?」
遊驥は堂々と言い切った。まあ法令順守とか、私が言えることじゃないんだけど。
ここは学園都市がなくて、私の知っている世界じゃないし、ちょっと法律が違うようね。
後で聞いたのだけど、少子化で人手不足を補うため、外国人労働者の若年者や、高校中退者なども現場で働けるようにと、小型限定レイバー免許が新設、拡大されたそうだ
「アスキーの腕が確かならいいわ。期待してるから」
『おう!! 任せとけ!』
性能は正確に分からないけど、少なくても内燃機関のみからハイブリッド、さらには静音性の高い短時間のバッテリー駆動も追加されているみたい。
遊驥の腕は知らないけど、あそこまで言い切ったんだし、
そう考え、私は周辺警戒へと意識を戻した。
大都市は眠らない街、とかよく表現されるけど、実際にはよく眠るものなのね。
人の往来はほぼないけど、場所によっては完全に闇、って場所もある。
バタバタするスカートを片手で抑えつつ、暗視双眼鏡と防犯カメラのリレーを使って、浅草周辺の警戒をする。
そうして2時間ほど……そろそろ日付が変わろうとしたころ、あきらかに異質なシルエットの荷物を載せたトラックを、暗視型双眼鏡で見つけた。
「見つけた! 各員! 吉原方面に対象と思われる車を発見! レイバーを載せてるわ!」
『こちらしょうさ。そっちからか! じゃあ目的の神社はここだな』
しょうさはすぐさま、対象の狙いを絞って、神社の位置と地図を送ってきてくれた。
それを一瞥して、私は再び対象のトラックとレイバーを確認する。
中型トラックの荷台に、首のない一つ目のレイバー。
グラウ・ベア。
ずんぐりむっくり感は、アスカ96に近いけど、堅牢さははるかに上のレイバーだ。
昔は世界各地の警備にも使われてたというくらいなので、性能の裏打ちはされている。
そう。賽銭泥棒たちは、固定されている賽銭箱を、レイバーで無理矢理に運び出すという犯行を重ねている。
一見、不効率。
だって、正月のでっかい神社じゃあるまいし、無人の神社の賽銭箱じゃ入ってても小銭の山程度だ。
つまり、狙いは賽銭箱ではない。
中に何かある。
しょうさはそう言っていた。
私は遊驥と真優に合流するため、このビルから降りなくてはならない。
浅草の祠から、あの子を回収した時、ちょっと自分の能力が上がった感触があった。
出力が一昨日より上がって、今は自分の身体くらい磁界で浮かせることができる。
高速移動や、縦横無尽ってほどじゃないけど、自由自在に障害物を越えていくくらいならできそうね。
看板の鉄骨を使い、磁力で自分の力を引き上げる。
そして看板を蹴り、となりのビルへジャンプ!
同じ階数で、高さに差もなく、東京のビルらしく寄り添った隣のビルの屋上へ、これまた磁力を使って軟着地。
うん、以前通りとはいえないけど、かなり使える。
これならかなり無茶ができるわ。
なんで隣のビルに移ったかというと、最初のビルの非常階段はベランダを介して突き抜けるタイプなのよね。
さすがに住民に見られる可能性があるから、こうして外階段になってる隣のビルへ移動したわけ。
鉄製の非常階段を磁力を使い、滑って一気に降りていく。うまく磁界を使えば、階段も滑り台のようなもの。
中二階でも磁力を使い、タイムロスなく旋回する。
ちょうど、走ってきた真優の運転するトラックが裏路地から出た通りに止まる。
脚力と磁力を上手く混在させて使い、荷台に飛び乗った。
「うわっと! 助手席に乗るんじゃないんかい? おまえ!」
アスカの運転席までよじ登ると、ハッチを開けたままでいた遊驥が、驚いて被りかけのヘルメットを落とした。
それを拾って渡してあげながら、遊驥に答える。
「うん、ちょっとあんたと話し、したかったから」
「お、おう」
真優の隣は勘弁してほしかっただけなんだけど、聞きたいこともあったのも事実。
トラックが走る風を浴びながら、遊驥に尋ねる。
「ねえ。この依頼って犯人捜しで、制圧じゃないんでしょ」
「そうだが」
「じゃあ、なんで捕まえようとおもってんの?」
私自身、ルームメイトの黒子にいろいろ言われる手前……、人のことはいえないけど、なんだか依頼と違うので気になった。
遊驥は私の質問に、自信たっぷりな笑みで答える。
「その方が楽しいじゃろがい!」
「わかる!」
私は遊驥に同意した。
意外と、遊驥とは馬が合うみたい。
「ところでアスカ96って、30年ものくらいよね?」
アスカ96のスチールボディを叩き尋ねる。
「おう、そうだな」
「大丈夫なの?」
「グラウ・ベアだって、同じ年代物! だがこっちはカスタム済み! 中身は別物だ! それに一時は警察でも採用されとったんじゃ! 勇気と経験でこっちが勝つ!」
「そう、じゃあ期待してるわ」
「任せとけい!」
そうこう話をしているうちに、真優のトラックが神社近くに到着した。
『こちら、しょうさ。相手はすでに神社に侵入している』
「こちらレールガン。防犯カメラで確認したわ。賽銭箱の取り外しにかかってるみたい」
私は先に飛び降り、遊驥がアスカ96をトラックから降車させている間に、対象の動向を探る。
「あと、相手のトラックは北のコインパーキングで待機中」
『え? そんなとこ?』
しょうさが、なぜか驚く。
「どうしたの? なにか問題?」
『いや、あのコインパーキングって、出入口に格納型の車止めがあるんだ』
「あー、じゃあ逃げ出そうとしたときは、それで閉じ込めるわね」
確認すると、出入口に頑丈そうな格納式車止めがあった。
違法駐車した車を出庫させないためというより、封鎖して入れないための車止めのようだ。
イベントで貸し出すこともあるから、そんな駐車場になってるみたいね。
『あ、やっぱり、できるんだ』
私の反応に、しょうさがやや呆れた口調で答えた。
「よーし、こちら遊驥! 突撃する!」
降車を終えた遊驥のアスカ96が、大げさに腕をあげてポーズを取り、神社のある路地へと侵入していく。
駆動音が静かだ。
そうとう改造してるわね、あれ。
「もう! 突撃してどうすんのよ。神社から出てくるまで待つの!」
神社内で暴れては、境内が破壊されてしまう。
狙うのは対象トラックへ、向かう途中のほうがいい。
私は後ろからアスカ96へ走ってついていき、対象がトラックへ戻るルート上へと誘導する。
素直に誘導された遊驥は、曲がり角で待ち構えた。
待機状態になったアスカ96は静かだ。
アイドリング音こそするけど、通常の車より駆動音がうるさいグラウ・ベア側からすれば聞き取れないだろう。
せまってくるエンジン音と、グラウ・ベアの駆動音と足音。
静かな浅草の夜に響き渡るのは、かなり異質だった。
ガラにもなく、私は少しばかり興奮していた。
そして遊驥はもっと、興奮していたようだった。
『待て待て待てい! 賽銭泥棒め! 神妙にしろ!』
路地を曲がってきたグラウ・ベアに向け、遊驥はライトをつけて目くらましと警告の声をあげた。
もともとガニ股に近いアスカ96だが、なぜかさらにガニ股となっている。
グラウ・ベアは怯んだ。
しかし、それも一瞬。迷うことなく
まあ、走るといっても、結構のっそりしてるわね。
歩幅があるから、人がマラソンするくらいの速度にはなってるけど。
『ええい! 待たんかい!』
遊驥のアスカはかなり早い。
旧式もいいところなのに、足回りは軽快そのもので、グラウ・ベアの比じゃなかった。
改造済みで、中身は別物というのも、信用できる話しだ。
そろそろアスカ96が追いつく。そう思った時、いきなりグラウ・ベアは賽銭箱を投げ捨て、アスカ96に裏拳を叩き込む──
『甘い!』
遊驥のアスカ96は、器用に屈んで裏拳を潜り抜けた。
空振りしたグラウ・ベアの拳は、街路樹に激突して圧し折った。もし、命中していれば、アスカ96はただでは済まなかったわね。
『どりゃああああっ!』
遊驥はアスカ96を、そのまま勢いよくグラウ・ベアの側面に体当たりさせた。
そして覆いかぶさるように、抑え込むと、器用にアスカ96の左手を操って、グラウ・ベア後部にある強制停止レバーを引き出した。
カードリッジ型のバッテリーが、グラウ・ベアの腰から飛び出し、エンジンがぐもった音を立てて停止する。
グラウ・ベアは道路の上で、不格好に擱座することになった。
グラウ・ベアに乗っていた操縦者は、何かを喚きながらハッチを開けようとする。
結構、外国語を知ってるつもりだけど、知らない言語ね。
「はい、逃げちゃだめよ」
日本では、車やレイバー、船、電車など乗り物にはctOSは使用されていない。
政治的な挙動が遅いため、安全性を盾に法整備が遅れてる上に、以前、レイバーがOSのせいで暴走したことがあり、神経質になっているかららしい。
なので、私がレイバーに対してできることは少ないのよね。
ハッチの電子錠をロックして、開けられないようした。
外国語で何かを喚きながら、賽銭泥棒の操縦者がハッチを叩く音が聞こえる……。
「あれ? 私の出番、これだけ?」
駐車場のトラック閉じ込めもやったけど、なにか達成感がないわね、これ。
「いや、あるぞ」
アスカ96のバイザーを上げ、遊驥は私に何かを投げ渡す。
道路の上に落ちたそれは、A3ノビのステッカー4枚?
ああ、これ4枚を合わせると、大きなQRコードになるのね。
「俺も手伝うから、それをグラウ・ベアの目立つところに貼ってくれ」
バラバラの4枚のQRコードを、ラップトップ内で密かにつなぎ合わせて読み取ってみる。
URLが読み取れた。
アクセスしてみると、
「ああ、
「そういうことだ。ああ、指紋がつくから、手袋してくれよ」
粘着テープって、粘着部分に指紋が残るから危険なのよねぇ。
私は前もって渡されていた、精密作業用の手袋を嵌める。
遊驥は一枚を拾い上げ、グラウ・ベアのボディに貼り付け始めた。
グラウ・ベアの内部で、犯人がわめいているけどそんなの無視して作業してる。
私も見様見真似で、QRコードを張り付けていく。
作業中、私はふと気が付く。
「……あれ、やっぱり私、あんまり活躍してない?」
「お気づきになりましたか?」
3枚目を貼る遊驥が、ちょっとイラっとする反応をしてきた。
『こちらしょうさ。そんなことないよー。レールガン大活躍だよ』
気をつかってくれたのか、しょうさがそんなフォローしてくれる。
確かに発見したのは私だし、逃げられないように締めをしたのも私。
でも──
「思ってたのと、いろんな意味で違うけどね!」