とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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屋上の淑女(Lady on the roof)

「レールガンちゃん。ありゃー、どっか田舎のお嬢様だな」

  

 大手チェーン店ではない牛丼屋で、朝から特盛つゆだくをかっこみながら、遊驥はレールガンと名乗る少女を評価した。

 賽銭泥棒を捕まえ御坂美琴と別れた後、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)は、仮眠から起きてアジト近くで朝食を取っていた。

 店舗内のテレビでは、昨夜の賽銭泥棒ニュースが流れている。

 

 真優はハムエッグ朝食を、静かに食べている。

 その隣で大智はどんぶり片手に、ニュースを見てるふりをしながら、遊驥をちら見する。

 

 視線に気が付いた遊驥は、牛丼を飲み込んでそっと呟く。

 

「わからんと思ったか、しょうさ? 前金を渡したのは、レールガンちゃんが、持ち合わせがなかったからじゃろうが」

 

「……うぐ。ああ。そうだ」

 

 観念する大智を見て、満足そうに咀嚼しながら、うんうんとうなずく遊驥。

 

「カードや口座を使えば、実家にバレる。そりゃ使わんだろ。手持ちで飛び出して、東京まできて使い切った。そんな辺りだと、俺はふんでる。おねぇちゃん、生卵追加」

 

 遊驥はかなり年配の店員を、お姉ちゃん呼びして生卵を受け取った。生卵に醤油と七味少々、溶いて食べかけの特盛牛丼にぶっかけると、再びかっ込み始めた。

 とても篠原重工(SHI)の御曹司に見えない姿であった。

 しかし、彼の父を知る大智にとっては、親子だなぁという印象が強い。

 

「田舎のお嬢様に見えるか?」

「ああ。俺の妹がそっくりだ」

 

 遊驥の妹を思い出し、大智は納得する。

 

「そうなると、制服に見えるあれは、偽装か?」

 

 開発エンジニアでない財神黒客(ツァイシェンヘイカー)の彼らは、一部で崇められている御坂命(みさかのみこと)の存在を知らない。

 ハッカーといえど、エンジニア間の身内ネタを知っているわけではないのだ。

 

「制服のスカートに、よくあるシャツとサマーニットを組み合わせただけだろうな。あと、チラッチラッとスカートの裾すら気にしないあの無頓着さ。間違いなく、女子校だな、うん」

 

「そういえば後輩の女の子の話しをしてたねぇ」

 

 ハムエッグ朝食定食をつつきながら、真優は美琴を思い出すように目を閉じる。

 綺麗な光景だが、牛丼屋でハムエッグ朝食である。一人だけ場違い……いや、深夜の仕事を終えたホストに見える。

 

「ヒロヒロさんさあ、あんまり彼女をからかうの止めよ」

 

 大智は、そんなホスト染みた真優にお願いをする。

 

「すまない。あまりに可愛くてね。それにちょっと言っていたが、ルームメイトがパートナーだそうじゃないか」

 

 美琴は住まいのことで、つい同室の黒子のことを口にしてしまった。

 一緒に住んでいる子がいる。その子はパートナーだと。

 あくまで美琴の認識で、パートナーとは相棒に近い意味で言った。しかし、ストレートではない真優にとって、パートナーという言葉は深い関係という印象を受ける。

 

「ああ、もったいないのー。レールガンちゃんは、百合(そっち)の子かぁ。そういえばそんな感じがするわなぁ。残念だ。俺のカッコいい取り押さえを見せたのに」

 

 特盛牛丼を食べ終えた遊驥は、お茶を啜りながら残念だと唸る。

 しかし、大智は真実を知っている。

 得意げな遊驥の顔を覗き込みながら、その自信を挫く。

 

「何が取り押さえた、だ。ありゃぁ、裏拳かわしたあと、つんのめって体当たりになっただけだろうが」

 

「ぬ……だ、だがそこで、すぐさま停止レバーを引いたのは、この俺の為せるレイバー操縦技術でな」

 

「なにが技だ。あれはもともと、相手の緊急停止レバーを引けるようなら引くように、最適化させておいたプログラムだろうが。誰がつくったと思ってんだよ」

 

「お、俺とお前だろ? なら、半分は俺の功績じゃい!」

「なにが功績か。レイバーの操縦技術じゃないじゃないか!」

 

 遊驥と大智が、じゃれ合いを始め、呆れた真優はテレビに視線を向けた。

 

 昨夜の一件は、賽銭泥棒というより、神社荒らしと報道されている。

 誰が取り押さえたなどの報道をせず、あくまで連続神社荒らしが警察に確保されたと表現していた。

 

 擱座しているグラウ・ベアは、やはりテレビとして絵となるのか、なんども繰り返し映像が流されている。

 

「あ、うちのQRコード、ぼかしかかってるな」

 

 グラウ・ベアがいろいろな角度で映るが、残念なことにQRコードには不自然な加工が施されている。

 

「しかたあるまい。でも現場の野次馬とかは、読み込んでくれただろうよ」

「もとよりあまりテレビに期待はしてないからね」

「ネットニュースや、SNSでの拡散に期待だな」

 

 三人は三人、あまり成果を期待していない。分かる人にだけ、分かればよい。

 

 時代は変わった。

 今はNetwork killed The televisionstar.の時代である。

 無論、完全にテレビが役目を終えているわけではないし、1次的なニュースとして機能を失っているわけでもない。

 だが、良きにつけ悪きにつけ、情報を自らの手で選ぶという過酷な時代である。

 

「なんにせよ、今回は浅草での活動誇示より、レールガンちゃんへのアピールだ。それなら成功だろうが」

「まあ、そうなんだけどね」

 

 遊驥のいうことはもっともなので、大智も留飲を下げる。

 だが、それでも大智は何か一つ、気になることがあった。

 

(レールガンが陣取ったあのビル。なんだったんだろう?)

 

 

  + + + + + + + + +

 

 東京のとある場所。

 一般人がおよそ近寄ることすらできないどこか。

 

 一人の大柄の白人男性が、白いガランとした部屋の中で待機していた。目立たない吊るしのスーツ、整った髪型で温和そうな顔付きだが、見る者が見れば剣呑な雰囲気を感じ取れるだろう。

 折りたたみ椅子が小さく、居心地が悪そうである。

 

 大柄の男性が椅子をきしませ、座り直すと同時に、部屋のドアが開いてメガネをかけた黒人男性が入出してきた。

 椅子から咄嗟に立ち上がり、大柄の男性は黒人男性に敬礼をする。

 

「緊急の招集に応じてくれて感謝する。ヒューズ伍長。座りたまえ」

「はっ! 情報官殿!」

 

 ヒューズ伍長と呼ばれた大柄の男性が着席すると、情報官と呼ばれたメガネの男性は部屋の電気を消して、プロジェクターで壁を照らした。

 

 壁に浅草の地図が表示され、その一角を情報官が指し示す。

 すると地上から写した、昼間の雑居ビル映像が地図に重なった。

 

「このビルは非公式、かつ部分的ながら、我が合衆国の管理下にある。このことは君は周知かね?」

 

「わたしも利用させてもらっていますから、存じております」

 

「浅草観光かな?」

「さすがNEWSのエリート情報官ですね。休日の私をよくご存知で」

 

 肩を竦めるヒューズ伍長。どこかぎこちない。ヒドい肩凝りでも持ち合わせているようだ。

 情報官は軽い挨拶は終わったと、プロジェクターの映像を指し示す。

 

「さて。当然、このビルには本国の重要施設と比べても遜色ないセキュリティが施されている。もっとも友好的な日本国に配慮して、銃器の配備は最低限だがね」

 

 あくまで最低限。

 配備していないとは言わない。

 ヒューズ伍長も、そこに疑問は抱かないし、確認もしない。

 

「だが、このビルの屋上で目撃された存在がある」

 

 どこか投げやりで、不真面目そうだったロドニー伍長の目の色が変わる。

 わからない程度に崩していた居住まいを、これまたわからない程度に正した。

 

 米国の施設で、関知しない存在がいた。

 由々しき事態である。

 

「これを見てくれたまえ」

 

 プロジェクターが、浅草の非公式米国施設が入る夜のビルを写す。

 地上階にバーガーショップ店舗、中層に事務所と住宅が混在する雑居ビル。周辺では比較的高いが、高層とは言い難いありふれたビル。

 大都会の地上から照らされ、最上階付近は薄暗い。

 

「屋上を拡大した映像が……これだ」

 

 情報官がノートパソコンを操作すると、雑居ビルの屋上が拡大された。

 そこには、あきらかに人影があった。

 

 屋上の看板が点灯しているため、逆光でシルエットこそわかるが何者かはわからない。

 

「で、次に、うちのやつらが徹夜で解析した画像だ」

 

 人影はやや鮮明となり、髪の短い茶髪の少女というところまで判明する。

 顔立ちは不明だが、ジャパニーズハイスクールガールという印象をロドニー伍長は抱いた。

 ……いや、もっと幼いか?

 手足が成長しきっていない、そんな体型だ。

 日本人の外見はわからないな、とロドニー伍長は顔をしかめた。

 

「情報官。彼女の他の画像は?」

「一切ない。この画像も偶然、うちの職員が施設の報告書をまとめるため、それ以外の意図なく撮影したものだ」

 

 ロドニー伍長は、ひゅぅ……と小さく口笛を吹く。

 偶然、幸運という興奮からだ。

 

「しかし、情報官。自分の記憶では、あのビル。偽装用に貸し出している民間施設部分も含め、高いセキュリティを施していいるのでしょう? 侵入されたのはともかく、他に画像がないというのは」

 

 非公式に借り受けている施設であるため、何も知らず通常の手続きで借りている店主や事業主、住民もいる。

 かといって、手抜かりはないはずだ。なんらかの情報があると、ヒューズ伍長は疑問を投げた。

 しかし、帰ってきた言葉はそっけなかった。

 

「一切ない。画像も、センサーのログにもない」

「一切? なにも?」

「一切だ。なにも、だ」

 

 情報官の真面目っぷりな返答に、ロドニー伍長は笑うしかなかった。 

 

「ははっ! ではジャパニーズゴーストか!?」

 

「それでは我が合衆国もお手上げだな。さて、セキュリティが完全に突破されたとは考えにくい。いや、かりに手引きやセキュリティホールがあるならば、それはそれでいい。むしろそんな原因が、合ってほしいと私は考えているがね。ゴーストを捕まえるより、簡単そうだ」

 

 情報官はとぼけて見せた。

 内部の手引きならば、そのものを処分するなり調査すればいい。

 セキュリティホールがあるならば、塞ぐなりすればよい。

 

 ──だが、それ以外ならば。

 

 ロドニー伍長は生唾を飲んだ。

 これは大事になる予感がする。

 長く日本でなまっていた勘が、鋭くなっていく感覚を覚えた。

 

「今後、我々はこの少女をLady on the roof.と呼称し、その調査に当たる。ロドニー伍長。外部の調査において、君には陣頭で立ってもらう。ヘッケル、アーバックス、以上2名をつける。頑張ってくれたまえ」

 

「身に余る光栄です、情報官殿!」

 

 緊急でもない事態で、伍長という下士官が、現場の指揮を任されることは珍しい。

 しかし、この彼が任されるだけの理由があった。

 

「いやぁ……腕が鳴りますよ」

 

 そういうヒューズ伍長が右手を上げると、宣言通り腕が鳴り出した。どこともつかない斜め頭上で、唸りあがるような高音。

 その音は、地下鉄で電車が発車する時に発する、磁励音に似ていた。

 

 




 登場人物の元ネタ

篠原 遊驥 しのはら あすき
 原作は機動警察パトレイバーで、捏造キャラ。
 遊馬と野明の子供としてデザインしてます。

沢口 大智 さわぐち だいち
 元ネタは電脳コイルの沢口 ダイチ。
 12歳のキャラですが、今の作品では年齢変更、もしくは年代が違うとお考えください。

ロドニー ヒューズ
 鉄腕バーディーから。 とある理由で、旧版を参照し、コードネームのヘッケルという呼称はロドニー・ヒューズではなく、部下のヒゲの方になります。
 
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