とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
なかなか美琴一人称が大変だったので、とりあえず戻します。
どっちがいいでしょうかね?
「ふわぁ、よく寝たぁ」
御坂美琴は、久しぶりに熟睡した。
初日は倉庫の仮眠室、二日目は自動受付機の年齢認証を突破して、ネットカフェで一夜を明かしたが、今回はついにまともといえる宿泊ホテルで目覚めた。
ちゃんとナイトガウンや浴衣が用意してあり、自由に使用できる。
お風呂もあるし、なんなら大浴場(東京の狭いホテルなので察し)もあった。
アメニティグッズは美琴からすると特筆すべき点はなかったが、値段を考えればむしろ質が良かったと言える。
変わっているところと言えば、ロボットが受け付けをしているホテルであること。
ロボットといっても、硬質樹脂で顔がつくられたマネキン人形のようなロボットで、若干の不気味さがあるものだった。
「あれ。マネキンロボの前で、受付タッチパネル通して、改竄するのなんか罪悪感があるのよね」
ナイトガウンから常盤台中学の制服に着替えながら、昨日のチェックインを思い出す。
タッチパネルを操作する美琴を、無機質で無表情に見守るロボット。それは軽い気持ちでハッキングする彼女に、一定の罪悪感を抱かせる効果があった。
それでも泊まるため、偽装としたが。
インバウンドのため、ハイシーズン並みに高めの料金ではあったが、概ね美琴は満足していた。
チェックアウト時間ぎりぎりで、ホテルを後にした美琴は、9月末とは思えない日差しを睨みつけた。とくに湿気がひどい。空気の流れも、あまりよくない。
これさえなければ、と思いならが、美琴は浅草橋の街を歩く。
さて、これからどうしようかしら?
上野にもctOS集中端末があると思われるが、場所がわかっていないので候補から外した。
両国は相撲の九月場所千秋楽で混雑していそうだ、と候補から外す。人の目は美琴でもなかなか誤魔化せない
日本橋方面は馬喰町小伝馬町と、ctOSを掌握できない区間が長い。
一方、秋葉原周辺にctOS管理集中端末があるらしく、掌握できていない区間は稲荷町だけで近い。
まず秋葉原を抑えましょう。……電車を使おうかしら? と次に足について考える。
賽銭泥棒を取り押さえ、協力の報酬として前金と合わせ8万円ほどもらった。
(捕物の様子を録画してて、それを依頼主の氏子総代に見せたら、すっごい喜んでで、報酬が増額されたとか、しょうさは言っていたわね)
特にグラウ・ベア内部に閉じ込めらた犯人を見て、溜飲が下がったと手を叩いて喜んだという話しだ。
遊驥がレイバーを持ちだし、結果的に良かったわけである。
(増額されても、8万なのよね)
四人で分けたわけだから、少なくても40万。内訳は聞いてないので、均等に分けたと限らないから、もっと多いかもしれない。
ま、正式に加入したら、内訳も開示してもらいましょう、と、美琴は気楽に考えた。
とりあえず報酬が高いか安いかわからないが、けっして多いとはいえない。
美琴の金銭感覚では、数日と持たないだろう。
「運動を兼ねて、少し節約しますか」
地図検索の最中、浅草橋で泊まったホテルと同系列のホテルがあると気が付き、ここの方が
地図を確認し終え、ラップトップ端末をしまって歩き出す。二駅分ほど、歩くことにした。
道中、総武線の高架を利用し日陰を歩き、たまにクーラーに当たりながら秋葉原へと到着する。
「はあー。そういえば私、秋葉原にくるの初めてね」
駅から吐き出されてくる人波を眺めながら、小声でそんな感想をつぶやく。
(思ったより、電気街って感じしないわね……。アニメキャラもないような? 最近、減ったんだっけ?)
ぐるりと見回し、家電メーカーやテレビの商品名などの文字こそ多いが、よくある東京のビジネス街みたいだと、美琴はそんな感想を抱いた。
しかし、美琴が到着した駅入り口は、中央口だ。電気街口とは少々印象が違う。
ctOSが存在するビルは駅の西側にあるので、美琴はどこかに通路がないかと探す。
人の流れを頼りに、すぐに「電気街方面」という看板を見つけた。
そこを抜けると、ついに美琴が聞いたことのある光景へと変わった。
馬を擬人化したソーシャルゲームの大型看板や、露出度の高めなキャラのポスター。看板用に立っている柱にもゲームの女の子のキャラ。
美琴は圧倒されながらも、聞いた通りだったと複雑な気持ちで安心した。
ひとまず、野外で少々高い位置から周囲を眺めるため、空中歩道へ上るエスカレーターに乗り、ペデストリアンデッキへ到着した。
そこから見えるビルの壁面には、広告やニュースなどを繰り返す大型パネルがあった。
「うわー、天気予報のお姉さんも3Dキャラなんだ」
万人が好感が持てる程度に、デフォルメされた女性のアナウンサーキャラが、今日と明日の天気予報をしている。
明日は雨。ちょっと探索が難しいな、と美琴は悩んだ。
そうして昨日のニュースなども流れ始めたので、 ペデストリアンデッキで、庇の下で手すりに寄りかかり、しばらく眺めていると──。
視線を感じる。
美琴は周囲が少々、騒がしくなっていることに気が付いた。
全員というほどでもないが、通行人の何割かが立ち止まり、びっくりしたように美琴を見たりしている。
驚きながらも通過していく人がほとんどなのだが、指を差して隣の友人に美琴を見るように促したり、スマートフォンで撮影しようとしたりする人までいた。
もちろん、スマートフォンを構えた人は睨みつけた。
だいたいの人はそれで引き下がるが、それでも撮影しようとした人がいたので、美琴は遠慮なくクラッシュさせて再起動を……しようとしてやめた。
睨みつけても撮影をやめようとしない失礼な男性……パーソナルデータでは、崎宮という開発エンジニアに、美琴は不機嫌な態度で歩み寄る。
「ちょっとあんた、なん」
「ふひ! 撮影! いいですか?」
なんと言葉を遮り、撮影許可をずうずうしくも取りに来た。
「だ、だめに決まってるじゃない。なんのつもりよ!」
「え? だって、それ。
「はあ? なんであんた、私の名前を……じゃなくて、みさか『の』みことですって?」
「だから、ctOSの日本語化パッチの子でしょ?」
「私はパッチじゃないわよ」
「いや、だからそのAIサポートの子のコスプレでしょ?」
「は?」
「え?」
致命的に会話がかみ合わないと、両者は感じ、会話が途切れた。
美琴はいつもだったら、どういうことかとさらに問い詰めたところだろう。
しかし、今日は目的もある。美琴は切り上げることにした。
「もういいわ。とにかく撮影はダメ」
きっぱりとそういうと、周囲の目を気にし始めた崎宮という男は諦めてスマートフォンをしまった。
「あ、じゃあ今度また」
「今度ってなによ!」
思わず美琴は声を荒らげた。
「今度とかないから!」
踵を返し、周囲の視線から逃げるように移動する。
休日なので、人が多い。
電気街の人込みを縫いながら、やはり視線が向けられていると感じた美琴は、急遽、予定を変更する。
(なにかおかしいわね。ちょっと浅草に戻りましょう)
もしかしたら、先日ぶっ飛ばしたプライム8が絡んでいるかもしれない。
純然たるレベル5でない今、美琴は自分の警戒心を信じることにした。
+ + + + + + + + +
昼をすぎ、浅草の街に風が吹き始めた。
浅草の一角、ビルの屋上で、スーツの白人男性……ロドニー・ヒューズ伍長が看板を背に、街を見回した。
「
特に変わった景色ではない。浅草寺の屋根が、辛うじてビルの隙間から遠くに望む程度。
見渡せるのは低層階が多い、北側と西側である。
だからといって、なにがあるともいえない。
「い、移動するなにかじゃないか?」
後ろに控えていた口ひげを生やした猫背の男が、自分なりの考えを言ってみた。
「ヘッケル……なにかとは?」
ヘッケルと呼ばれた口ひげの男は、問われて視線を彷徨わせる。ただの思いつきだったようだ。
ヒューズ伍長はしばし考える。
「いや。そういう可能性もあるな。自分と同じように、屋上にいるものを探すとか、飛んでいるものを見ていたとか」
ヒューズ伍長は呟きながら、屋上の調査を進める。
「特に、このビルに用事があったとも思えない。ただ昇っただけ? ありえるか? ないな。このビルが我々の管理下であったのを知っていたか、否か、でも大分話しが変わる」
まったく
しばし悩んだあと、ふと頭を上げる。
屋上には看板が設置されている。
なんてことはない、企業の宣伝看板。
その角、なんら文字も模様もない白い場所に、小さな靴の跡があった。
「ヘッケル。あれだ。あの靴跡の写真を撮れ」
「か、看板屋の足跡じゃ?」
「いや、あれは雨水で汚れた後についた足跡だ。設置時につくような足跡じゃない」
疑うヘッケルに写真を撮るように指示しながら、ヒューズ伍長は目測でその高さを計る。
「約10フィート。とてもジャンプして足が届くわけがない。しかもあれは蹴っているな」
「け、蹴った? 看板を壊すため?」
「いや。それにしちゃひ弱すぎるあとだ。蹴って……あそこか」
看板との位置関係から、隣のビルの屋上を見ると、防水塗料の上に擦れた二つの線を見つけた。
頭の中で、看板を蹴った人物の軌道を思い浮かべると、だいたいその二つの線の上に着地するだろうと推測できた。
そこはまあおかしくはない。常軌を逸したパルクールを行うものは、世界中にいくらでもいる。
だが、10フィート……3メートルの高さの位置で、脚立も無しにいきなり看板を蹴れることが想像できなかった。
看板の上から落下しながら、途中で蹴った?
それはそれで異常である。意図的にやったのならばクレイジーだし、偶発的ならばやはり意味が解らない。
「
「シュラインのオフリングシーフだな?」
「ああ、まさかそのシーフが屋上の淑女ではあるまいが、関係があるかどうかだけ確認する。ヘッケル。アーバックスに連絡して、一緒にこの足跡と隣のビルの屋上を調べて置くように連絡しておけ。」
「わ、わかった」
ヘッケルはすぐにビル内の情報解析班にいるアーバックスの元へと向かった。
ヒューズ伍長はしばし周囲を眺めたあとに、階段で一階へと降りた。
そして路面店のハンバーガーショップには目も向けず、ヒューズは被害のあった神社へと向かう。
バーガーショップは繁盛しているようだが、今のヒューズは興味がない。
できるヒューズだが、まさか昨日の今日、しかも悪びれることもなく警戒すらせず、侵入目的でもなく、屋上の淑女がハンバーガーを食べにくるためだけに戻ってくるなど、想像だにできなかった。
「いやー、美味しいわね! おじさん! いずれメニュー制覇して評価を出してあげるから、そんときは覚悟なさい!」
美少女の「常連になる(ツンデレ意訳)」との宣言に、微笑ましいと思わず笑みになるジョーン・スミス(42歳 元アメリカ陸軍上等兵。現国家緊急警告機構 = NEWS の下部組織の雇用人)であった。