とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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 アイデアがまとまったので以後、基本的に美琴の1人称で書いていきます。
 第三者の視点はもちろん三人称ですが、例外的にですが美琴視点三人称もあると思います。
 書き方が安定せず、ご迷惑おかけします。


御坂命と呼ばれて

 戦略的撤退! これは戦略的撤退よ!

 私は自分に言い訳しつつ、秋葉原で電車に乗り、上野駅へと向かった。

 実際、慣れない土地で視線を受け続けるのは、実害がなくても精神的に疲労するから仕方ないと思うのよね、うん。

 その上、敵対者が紛れているかもしれないなら、その場から離れるのもあながち間違いじゃないはずよ。

 

 道中、せっかくなので上野駅周辺のctOSを掌握することにした。

 

 祠は改装中のビルの屋上にあった。改装作業が止まっていた休日に来れたので、撤退してこちらにきたのは幸いだったかもしれない。平日だと忍び込むのは、まず無理だったと思う。

 防犯カメラやセンサーを欺き、落下防止ネットに包まれたビルを登る。

 

 工事中、養生中の場所が多いので、気をつけながら階段を登り終えると、そこには金網やらが取り外された屋上になっていた。

 

「いやー、これは別の意味で大変ね」

 

 思わず声が出た。

 今までは、ctOS集合端末の祠へ軽々しく接触できないよう、金網で囲われていたんだけど、今回は工事のためそれがない。

 その代わりに、工事機材や取り外された金網の山や、資材等で、祠まで簡単に辿り着けない。

 

 資材を乗り越え、時には電動高所作業台などを操作して、危険な金網の山を越える。

 フォークリフトとか、ctOS使ってるのね? レイバーやトラックでは使ってないのに……。ああ、工場内とか自動で作業させるためね。別に公道走るわけじゃないから、法的にも安全面でも許されてるってわけか。

 

 なんとか祠へアクセス。無事にあの子(9982号)の欠片を、回収し終えた。

 

「ちょっとしたパズルゲームって感じだったわね。って、なんでルーズソックスがあるのよ!」

 

 奉納と書かれた紙に包まれ、新品のルーズソックスが納められていた。

 うーん、今はお金あるし、これは回収しなくてもいいかな?

 

 私はちょっと引き気味で、奉納物を元に戻した。

 

 目撃されないよう気をつけて撤収し、上野駅から田原駅へ向かう。

 

 浅草ではなく、田原駅。ふと思い立って、昨日屋上へ昇ったビルの地上階にあるハンバーガーショップで、お昼を食べたかったのよね。

 なかなか繁盛しているようで、20分ほど屋外で待たされた。 

 

 目的のハンバーガーは、飲み物とポテトのセットで2500円を超すお店だったけど、お値段に見合うだけの美味しいハンバーガーだった。

 少し太り気味のアメリカ人店主に、英語でまた来ることを伝えると、とても喜んでくれてピクルスをおまけしてもらった。

 

 それはいいんだけどさ、食べ終えたあとに、小さいとはいえきゅうりのピクルスを丸々一本もらっても困るんだけど……。

 でもまあ、塩分補給と思って、美味しくいただいた。

 ご馳走様でした。

 

 改めて歩いて東武浅草駅へ向かう。

 

 外国人観光客が溢れる雷門前を通過……、って、なぜか私に人力車乗りませんかと営業が来たけど、私が観光客に見えるのだろうか?

 まあちょっと立ち止まって、これが雷門かぁーって感じで見上げちゃったけどさ。

 

 人力車を断り、仲見世通りを通る。さすが休日、人混みで真っ直ぐ歩けない。

 ふと店先に、トライアングルワンショルダーバッグを見つけた。

 そういえば、ちょっとした荷物も運べるバッグとかいるわよね。下着の着替えくらい入れておきたいし。

 軽量で頑丈そうで、私の体型にぴったりする小さめのワンショルダーバッグを買い、一部の荷物をそちらへと入れ替える。

 

 ワンショルダーバッグの収まりを確認しながら、秘密基地の入り口みたいな狭い階段をおり、財神黒客()のアジトのある地下街へ入る。

 

 アジトの電子錠は、ハッキングして開けられるけど、それは悪いので、ついたと連絡し、中から開けてもらった。

 

「よく来たな。なんだ? 我らが財神黒客に加入してくれるのか?」

 

 遊驥が出迎え、鍵を開けてくれた。

 

「前向きに検討してるけど、それはちょっとまだ待って貰える? 最後の1人って今日、休日で来るんでしょ? 会ってみてから考えるわ」

 

「もう一人か。うん、そろそろ来ると思うな、いい返事を待ってるぜ。ここで待つかい? それとも、上で待ってるか? 来たら連絡するぜ」

 

 遊驥は上を指さす。

 仲見世通りのバーガーショップや、カフェで待つかという意味だろう。

 

「いいわ。すごい混んでたし、こっちで待たせてもらう。ところで、あんたひとりなの?」

 

「ああ、ヒロヒロさんはデート。しょうさはネコ探しだ」

 

「いくらなんでも屋を偽装してるからって、ネコ探しも真面目にするのね、あんたたち」

 

「しょうさが、この商店街で世話になってるおばちゃんの依頼だし、そら採算度外視にも、真剣にもなるさ」

 

「あーそういことね」

 

 地味で地域に根ざしてて、ひたむきで好感が持てた。

 

「で、あんたは何してんの?」

 

 応接テーブルにパソコンとタブレットをいくつも並べ、忙しそうに操作している遊驥。

 

「俺は別件の仕事……。そうだ、ちょっと手伝ってもらうか」

「どんな仕事なの?」

「覗き屋の探索」

「覗き?」

 

 私は一瞬、女性の敵みたいな者を想像した。

 

「会社内部の様子を覗いて、企業秘密を抜いてく奴の調査」

 

 ああ、そっち。

 

「覗き屋って、ctOSを介した産業スパイみたいなものなのね」

 

「そうそう。ほんとはこういう調査は、しょうさが得意なんだけど、ネコ優先してて、こっちは急ぎでもないしな。ほれ」

 

 タブレットのひとつを受け取る。

 すでに覗き見された町工場や中小企業の一覧と、そのアクセス経路がまとめられている資料だ。

 現在、覗かれていると思われる場所も2件ある。

 

「まだ受けるとは、言ってないんだけどね……。ふーん、情報を引き抜くというより、実際の作業工程とか会話から情報を、手に入れてるやつなんだ」

 

「そ。なかなか足を掴ませないんだ、これが」

 

「厄介ねぇ。アクセス元が、ちょくちょく切り替わるわけか。使い捨ても多い……」

 

 タブレットを操作しながら、相手の考え方とポリシーを推測する。

 私の前では、遊驥が苛立ちながら、キーボードを叩いてる。

 

「まったくなぁ。大方、踏み台にしてる端末が多いから、強引な力技でやってんだろうが」

 

「踏み台の増やし方はともかく、覗き方は確かに力技ね。はい。送信先、わかったわよ」

 

「だにぃ!」

 

 ものすごい勢いで、差し出したタブレットを奪い取り、逆探知したアドレスを確認する遊驥。

 ちょっと怖かった……。

 

「マジか!? ……マジだ。あんた、いったいナニモンなんだよ、レールガン」

「褒めてくれていいわよ」

 

 ふふん、と胸を張るが、遊驥は私を見ていない。タブレットの中の情報に夢中だ。

 集中力が高いというか、こういうやつなのね、と私は納得する。

 

「くわあー、パケット分けして端末ごとに、ランダムで別端末へ送って、そこからまた通常の通信に紛れこませて、手元に送信してんのか。さすがに暗号キーはわからんから、送った内容はわからんか。こんなもん、よく追えたな……。で、最終的な送信先は池袋か……。池袋……まさか池袋のゾンビクイーン?」

 

「ゾンビクイーン?」

 

 女王(クイーン)という響きに、ちょっと引っかかるものがあって、つい身体を強張らせた。

 

「そう、ゾンビクイーンって呼ばれてる。世界各地に踏み台……ゾンビPCとか端末をもってると噂されてるハッカーだ。今年の初めくらいから活動し始めて、最初のころは芸能人のスクープネタとか出してた。6月くらいから、おとなしいと思ったが。そうか。産業スパイみたいなことを始めてたのか」

 

 遊驥はぶつぶつと言いながら、ゾンビクイーンの情報を集め始めて、まとめ上げていく。こういった処理も、遊驥は得意なようね。事務仕事とかできそう。

 

「ねえ、明日、雨で私の用事はお休みだから、ちょっと池袋に行ってみるね」

 

「いやひとりでは行かせられん! し、仕方ない。俺も学校を休んで……」

 

「違う、違う。平気、平気。敵陣に乗り込むつもりじゃないってば。池袋そのものの確認よ。私、池袋って駅の一部しか歩いたことないし、道を覚えるためよ」

 

 早いうちから学園都市で育ち、池袋などママと駅構内を乗り継ぎで移動したくらいだ。

 10年近く経ってるし、駅自体も変わってるかもしれない。

 街の様子なんて全く知らない。

 先に確認しておいたほうが、いいと思ったのでそう切り出してみた。

 

 遊驥も、そりゃ確かに……と、うんうんとうなずく。

 

「そ、そういうことなら」

「私がスタンドプレイするって、ちょっと疑ってるでしょ」

「正直、思っちょる」

「まだ財神黒客(ツァイシェンヘイカー)に加入してるわけでもないのに、そんな必死に仕事するわけないでしょ。偵察する気だってないわ」

 

 これは本心。あの子の回収が優先な今、特に因縁もないゾンビクイーンとやらに執着するつもりも、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)の仕事を先回りするつもりもない。

 多分、それだと横取りも同然だし。

 

「そこまでいうなら。まあ、当日、道がわからんとなったら厄介だからな」

「でしょ?」

 

 実際のところ、先に池袋のctOSを、掌握しておきたいという理由もあるんだけど、そこまで言う必要はないよね。

 

 明日の予定が決まったところで、誰かがアジトの電子錠を解除した。

 

「お、来たようだな」

 

 遊驥はノートパソコンの画面を閉じた。

 

 アジトに入ってきたのは、黒人の筋肉質な大男だった。

 幅広のヘアバンドを巻き、派手なタンクトップとぴっちりしたジーパン。

 ぬぅーと、入り口を狭そうに潜り、私を見つけると、パッと明るい笑顔になった。

 

「あら、可愛らしいお客さん?」

 

 顔と体格に似合わないオカマ言葉で、流暢に日本語を話す黒人男性だった。

 ちょっと意外。

 

「はじめまして。お邪魔してます」

 

「紹介するよ。この子は一昨日連絡で言った勧誘中のレールガン。で、このデカいのは、ジャマイカから来たジャマイカさんだ」

 

「ジャマイカ出身だから、ジャマイカってハンドルネームなの?」

「ハンドルネームは、マイカだ」

「じゃあ、マイカでいいじゃない。よろしく、マイカさん」

 

 よろしくと頭を下げると、マイカは意外な反応を示す。

 

「まあ、あなたがレールガンちゃん? こちらこそ……って、あら、その姿! 御坂命(みさかのみこと)ちゃんじゃないの!」

 




またも長くなったので分割。
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