とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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第一話に冒頭のシーンを挿絵追加しました。


御坂命と呼ばれて 2

 みさか「の」みこと呼びをするマイカ。

 秋葉原でも言われたし、祠に安置されている木札の明記名称で、私を呼ぶ。

 この人は何か知っている。

 

 マイカは嬉しそうに身体をくねらせ、私に迫ってきた。怖い、怖い。

 

「あの、マイカさんは御坂命を知ってるんですか?」

 

「知ってるもなにも、アタシたちエンジニア仲間じゃ、神様、仏様、ミサカ様って、言われてるわよ」

 

 あ、エンジニアなんだ。パーソナルデータでは、コーディネーターになっているが、今は総合職な部署にいるだけで、元はITエンジニアなのだろうと、私は納得した。

 

「ねえ、握手してもらえる? できたら写真も」

「あ、握手はいいですけど、写真は……ってそうじゃないわ! 何よ、ミサカ様って。なんでそんなことなってるの?」

 

 大きな手と握手しながら、私は詳しく知りたいので

 

「それで……マイカさんは、さっき私の事を、みさか()みことって言ったけど。……もう本名言うけど、私、御坂美琴って言うのよ。御札とか御礼とかの、お、に坂道の坂、美しい楽器の琴と書いて、御坂美琴よ」

 

「どういうこと? あらやだ。もしかして……あなた、それコスプレのつもりじゃぁないのン?」

 

 マイカはくねらせていた身体を、ピシッと正した。

 私の態度と声色の変化に、何かを感じとってくれたのか、それとも御坂命という名は、それほど軽々しくないのか。

 

「それ、さっき秋葉原でも言われたのよね。私のことをコスプレじゃないかって? 撮影させてくれとか。なんなの? 御坂命って存在は?」

 

「……ぅん、そうね。ITエンジニアの間では有名なんだけどぉ」

 

 言葉を選ぶようにマイカは、初対面の私を気にかけながら説明してくれた。

 

 ctOS2.0を日本で導入する際に、日本語化パッチで当てられた。これがmisakasysヴァージョン1.0。

 何かと初期導入は不具合があり、すぐにmisakasys.ver1.1がリリースされ安定化。

 ver1.21から私の姿……いえ、あの子たちの姿を模したAIが、ミサカAIとしてサーバー上に登場してクライアントで映像化。

 ここから飛躍的に、ctOSの導入と機器の開発が進んだという。

 

 不具合やデバッグで、ミサカAIに通して解決していくうちに、その性能の高さからどんどん持て囃されていく。

 ver1.6で致命的なバグが出たため、サーバーを介して運用されるミサカAIの機能はそのままで、喋り方と外見がクライアントから削除されて運用されることになった。

 そして今ではエンジニアの間で使用されながら、神様、仏様、ミサカ様と崇められている経緯があった。

 

 たまに感じる驚きの視線や、撮影してさせてという人たち。たぶんみんな情報エンジニア関係者で、私をコスプレしてる子だと思ってたわけね。

 

 集合端末機(ターミナル)が祠の形をしている理由がわかったわ。験担ぎか、本気で信仰してる人たちがいたわけか……って、よく、そんな予算出たわね。

 

 あと、賽銭が少ないながらも、入っていたのもわかった。

 エンジニアの人が通りがかりに、投げていったものたったのね。

 でも、誰よ。

 靴下とか、パ、パ、パンツとか奉納したバカはっ!

 ふざけてんの!

 

「ミサカAIねえ。そんなもんあったのか。俺はレイバーばっかり覗いてたから知らんかったが、うちでもどっかで使ってんだろうな」

 

 ここまで静かに聞いていた遊驥が、あの子の画像検索をしながら、感心したように呟く。

 画面を見ると、お絵描きサイトにアップされた、私というかあの子の姿があった。

 一部のコアなキャラ扱いで、それほど大人気ってわけでもないので、数は少ないけど。

 

「初期ヴァージョンなら、ミサカというAIの姿……映像が見れるのね」

 

「スクショならあったぞ」

 

 遊驥が探しだして見せてくれる。そこには少しだけデフォルメ化され、アニメ調になったあの子の姿があった。

 やばい。ちょっとつらい。

 モデルにしただけなのか、本物かわからないけど、こんなふうに扱われてたなんて。

 

「アタシもミサカAIを今でも使ってるけど、新しいヴァージョンにしちゃったから、その姿はもう見れないのよね」

 

 ミサカAIそのものは各地のサーバーで稼働しているが、映像そのものはクライアントに保存されていた。ヴァージョンアップで姿を消してしまった。

 

「旧ヴァージョンはあるんですか?」

「アタシはもう持ってないの。ぅん、持ってる人は持ってるだろうけど、再配布と改造は御法度だから、今からだと入手は持ってる人に掛け合うしかないわねン」

 

 マイカの知り合いでも、旧ヴァージョンを持っている人はいないらしい。

 

 深いところに探しにいけば、非合法に配布してる人がいるだろうけど、罠の可能性や危険な足跡を残すし、本物でない場合や改造品である可能性もあるので、リスクばかりが大きい。

 

「とりあえず、商用と現行で走ってるコードにかけるのはダメだけど、個人的な使用で閉鎖環境での使用ならできるのね」

 

「ぅん。そうなるわね。でも持っている人がいたとしても、古いverはサーバーが弾くからそれだけじゃ起動しないと思うわン」

 

 ローカルでサーバーを用意する必要もあるわけね。

 こればかりはハッキング能力ではどうにもならない。

 大容量の電源とエアコン完備のサーバールーム……はレンタルでもいいとして、ミサカAIのコードがいる。

 

「あの子たち、そんなとこにいたんだ……。でも、クライアントにあの子がいるわけじゃないか」

 

 私が不用意につぶやくと、マイカと遊驥は首を傾げた。

 誤魔化すように、私は畳みかける。

 

「……せっかくマイカさんに会えて、いろいろ教えてもらえたけど、しばらく一人にさせてもらっていいですか?」

 

「やだ……アタシったら、なにか悪いこと言っちゃったかしら?」

 

「そうじゃなくて……」

 

 今度は私が言葉を選ぶ番だ。

 目線を逸らさず、でも、うまく言えない──。

 

「私はそこまであなたたちを信用してるわけでもないし、あなたたちも私のことをそんなに信用してるわけじゃないと思う。だから今は全部言えないけど……。その御坂命って、私の目的でもあるの。まあ、今まで世間から、そんな風に呼ばれてるなんて知らなかったけど」

 

 遊驥とマイカは、黙って聞いていてくれている。

 

「だから感謝してるわ。私がまったく知らなかった情報を手に入れられたから。……でも、ショックが大きいの」

 

「そう。無理しないでね」

 

 言い終えると、マイカが優しく声をかけてくれた。

 

「ありがとう。大丈夫。ただびっくりのよね、単純に。まさかこんな形で、あの子たち(シスターズ)がいたなんて」

 

「シスターズ?」

 

 遊驥が反応した。電磁界のこともそうだけど、彼はよく話しを聞いている。

 そして自分なりに考える人だから、ちょっと私もうかつなことを言えない。

 

「少し、歩いてきて頭を整理するわ」

 

 これ以上いると、余計なことを話してしまうかもしれない。

 私は頭を冷やして、考えもまとめるため、ひとりになることを告げた。

 

「いつでも戻ってきて。なんにもできないかもしれないけど、支えるくらいできるから。今日は深夜までここにいて待ってるわン」

「あは、ありがとう」

 

 初対面で失礼なことをしている私に、マイカさんはとてもやさしい。

 ちょっと外見と喋り方で、なれないところがあるけど。

 

「おう。なんなら問題解決で、うちらが依頼として受けちゃるぞ」

 

 しんみりしていたら、遊驥が変なことを言いだした。

 

「なによ、お金取るの!」

「それで解決できるようなモンならな。金で解決できんことなら、仲間として助けてやる」

 

 彼は彼なりに、私の緊張をほぐしてくれたんだろう。

 

「ありがとう……」

 

 そう思って、一先ず私は財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のアジトを後にした──。

 

 + + + + + + + + +

 

 私はあの子たちの居場所のヒントを得た。

 

 たぶん、あの子たち(シスターズ)はAIの雛形として使われてる。

 肉体があるか、あの子(9982号)みたいにデータとなって祠型のターミナルに分散して管理されてるか分からないけど、確かにあの子たちはこの世界、この街にいる。

 

「まいったわね。もし、全員いたらどうしようかしら」

 

 それはそれでうれしいな、と私は苦笑した。

 

 駅で電車を待ちながら思う。

 

 やっぱりこの身体は、あの子のものだから、このままでいるべきね。

 さっきまでは、服を購入して着替えるつもりだったけど、この姿を簡単に変えてしまってはいけない。

 そんな気がする。そうすべきだと思う。

 

 初春さんがいたら、もっと簡単なんだろうな。

 佐天さんがいたら、もっと気が楽になってたはず。

 黒子がいたら、移動と祠への接触がさっとできたわね。

 

 仲間か……。

 

 目的はあるけど、目的地が定かでない私、自然と池袋へと向かった。

 

 池袋へ到着するまでの間に、電車に揺られてだいぶ落ち着いた。

 

 まずは、できることをひとつづつ、やっていきましょう!

 

 決意新たに、池袋の駅に降りた。

 

 3時をすぎて、人の動線が複雑になっている。

 帰宅を始める者や、これからまだ遊ぶ者、遅めの昼食を食べようとする者に、私みたい到着したばかりの人とかいろいろいるわ。

 

 乱雑な人の波を越え、池袋の街に出た。

 目立つのはもちろんサンシャインビル。目印としてはもってこいね。見える位置と角度で、だいたい脳内の地図と照らし合わせられる。

 

 問題は浅草とは違う意味で、裏路地が多く危険なこと。

 今日だけなのか、それともいつもなのか。

 

 周囲を険しい顔で、探索しているグループがいくつもあった。

 

 秋葉原の時みたいに、私を目的とした視線はないからいいけど、あまり関わるべきでもないわね。

 

 素知らぬフリをして、街の道を確認していくついでに、ctOSを探す。

 

 いつものパターンだと、あまり高くないビルの屋上か、空中回廊の端とかにあるんだけど……。

 裏路地を避けてるせいか、なかなか私の探知範囲に入らない。

 

「ターミナルはどこですか、って聞くわけにもいかないし、どうしようかしら?」

 

 交番を見かけ、ついそんな気持ちになってしまった。

 交番を見ていたら、立っていた警官が私の視線に気がついた。警戒ってほどじゃなさそうだけど、見慣れない制服の私を気にしているんだろう。

 と、ひとつアイデアが浮かぶ。

 

「すいませーん」

 

 私は自分から、コチラを見ていた警官に話かけた。

 

「ちょっとそこ、調べさせて、貰います。いいですか?」

 

「あ、ああ。どうぞ」

 

 警戒を解いた警官が、場所を退いてくれる。

 警官が立っていた後ろには、掲示板がある。よくある広報や指名手配犯が、張り出されてるあれだ。

 昨日、気がついたのだが、ここにはQRコードもあり、それを読み込むと周辺の工事許可証がダウンロードできる。

 

 道路工事だけでなく、ビルの改装工事なども、歩道や道路使用もあるため、警察の許可必要となる。

 無作為に歩くより、休日で作業が止まっている建設中や、改装中ビルの情報を集める。

 

「よしよし。3件あるわね」

 

 比較的高いビルで、建築中が一つ、解体中が二つあった。改装中はたまたまだろうけど、なかった。

 

「……なにをしてるんだい」

 

 警官が声をかけてきた。

 私みたいな子が、工事の情報を集めるとか不思議に思ったのだろう。

 

「はい。改装中とか建築中のビルとか撮影してるんです」

「え? 趣味とか?」

「授業の一環ですよ。私、これでも工学系なんです」

「ああ、それで制服なんだ」

 

 どこの制服とはわかっていないようだが、休日にこんな格好で繁華街に? と少し疑問に思っいたようだ。

 さっき、制服のまま活動しようと決意したけど、休日くらいは私服を用意したほうがいいかもしれないわね。

 

 私はまず一番近い、解体中のビルへと向かった。

 

「と、外れね」

 

 ビルはほとんど解体が終わっており、2階までの外壁が残っているだけだった。

 

 次のビルも解体中。

 幸い、こっちはまだほとんど残っている。エレベーターとかはもうないようだけど、工事用のエレベーターが追加されている。

 

 私の作戦はこう。

 高いところから防犯カメラをリレーして、池袋にあるctOS集合端末(ターミナル)を探す。

 単純だけど、昼間にそこらのビルの屋上に登ると、見つかる可能性がある。

 

 そして建設中のビルや、解体中のビルならば、タワークレーンがあるかもと狙った。

 

 そしてこの解体中のビルは、狙った通りタワークレーンがあった。タワークレーンの制御を乗っ取り……じゃなかった、掌握して、クレーンに取りつけられたカメラで周囲を見回す計画だ。

 

 普通より一段高くて、しかもその高い場所にカメラがある。

 完璧な作戦だわ。

 これからもこれを多用しましょう。

 

 さっそくタワークレーンの制御を掌握するため、防犯装置を解除……?

 

「え……?」

 

 周囲の防犯カメラを改竄し、解体ビルへ侵入すると、警報装置のボックスが開けられ、あきらかに手作り感のある電子錠が突き刺さっていた。

 

「もしかして、誰か解除……侵入してるやつらがいる?」

 

 

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