とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「私とは違う目的で、侵入してる人が……もしかしたら複数いる?」
解除されている警報装置は、私より先に人がいることを示唆している。
この警報装置は、IDの入った物理キーを差してから、警報解除の暗証番号を打つ仕組みになっている。
警報など警備システム解除中は物理キーが抜けない仕組みで、警備システムを起動するとキーが抜ける仕組みになってるわね。
差し込まれたままの手作り感のする
差し込んだ物理キーに通電した際、IDを吐き出すよう剥き出しのシングルボードコンピュータが、取り付けられている。その接続方法がすごいの。
互いの端子を、5芯の配線ではんだ付けしてある。
電源は小型のリポバッテリーで、フィルムケースをバッテリーケース代わりにしてぶら下がっている。配線を入れた穴はグルーガンで封がしてあるから、一応、防水のつもりなのかしら?
……って、いけない!
こういうギークな工作物を見るは初めてだったので、ついマジマジと観察してしちゃった。
学園都市でもこういうの作る人とかいるんだろうけど、縁がなかったからちょっと感激したのよね。
私は正気に戻って、周囲を探り、立ち去るか、状況を確認するかを考える。
──とりあえず、身を隠しましょう。
私は一先ず、資材の物陰に隠れた。
と、同時に話し声と足音が聞こえてくる。
しばらくそのまま息を潜めていると、飛散防止用仮囲いの出入口ににあるシートを払って、6人の男たちが侵入してきた。
ダラダラとまとまりがなく、3人くらいはスマホを見ながら歩いている。
あちこちに視線を向けていても、全員が全員、警戒してる様子もない。
特に私が関わる必要がないし、ここが目的ってわけじゃない。
ここで犯罪が行われて、私がむやみに疑われることになってもつまらな……あ。
おまわりさんのとこで、私、写真撮りに行くって言っちゃった。
ここで事件があったら、私が関わったか、なにか目撃したかもと考える可能性ができてしまったわけね。
自分でやっておきながら、頭を抱えて反省する。
「はあ、参ったわね。これはなにもなかったことにするのが……一番ね」
物陰から、6人の様子をうかがう……全員、どこかバラバラね。
そのうち、ひとりに見覚えがあった。
芝浦で叩きのめした4人のうち、逃げ出した2人の片割れの中学生っぽい子だ。
その男子中学生が立ち止まる。
「よーし、おまえら。このビルの中にあるはずだ。捜索開始」
「なんでお前が仕切ってんだよ」
中学生っぽい子が指示すると、6人の中でグループを作っているらしい3人組が不満の声を上げる。
「文句あるのか? おまえらは何を探すのかわかってないんだろ?」
男子中学生は煽る。あいつ、他の5人に対して、なにか優位性を持っているのかな?
「じゃあ、それをなんだか教えろよ、ボケが!」
「うるさいな。探すものはこれ、こういう切れ端」
男子中学生はQRコードの切れ端みたいなものを取り出し、5人に突きつけて見せた。
それを意味もわからず奪おうとする3人組のリーダー。
ひょいと男子中学生はかわして、逃げる。
「報酬の窓口は俺なんだからな! 裏切ったりすんじゃないぞ」
「チッ……。てめぇ、覚えてやがれよ」
3人組はまだ手を出す時じゃないと、苛立たしげに距離を取った。
なんにせよ彼らが、あのQRコードの切れ端を探しにきただけで、おとなしくそれを持って去れば……。
「おら、どこだよ。くそが!」
あ、ダメだ、あいつら。
3人組はてきとーに、そこら辺に積んである物を崩し始めた。
物音がするのも問題だけど、探す場所が検討違いすぎる。あれじゃ見つかるものも見つからないって!
「バカか! このビルの中にあるって言っただろ!」
男子中学生が慌てて止めた。
揉めている最中に、6人の情報を調べる。
池袋一体のctOSを掌握してないので、わかることは限定的だけど、やらないよりはマシ。
中学生は不登校児らしい。特筆すべきところはない。
3人組は保護観察中の無職の全員18歳。傷害とか恐喝かぁ。
で、残り2人。
一人は多額の借金を抱えている30歳の元サラリーマン。
で、最後の一人が問題。
若いのに大型レイバーの免許、持ってんのよね、この男。
私は現場のすみに置かれた大型のレイバー、ヘラクレス21をちらり見る。
解体処理で持ち込まれたものだろう。一つ目のどっしりしたレイバーで、賽銭泥棒を捕まえた時に見たレイバーとは、性能からパワーまで違う。
もし、あれを使われたら、大騒ぎになるし、レベルの下がっている今の私じゃ太刀打ちできない。
「おい。誰かもういるみたいだぞ」
レイバーの免許持ちの男が、そう叫んで私の心臓が跳ね上がる!
けど隠れてた私のことじゃないみたい。
解体現場に慣れているのか、警報システムを確認した免許持ちの男が、警備システムのボックスに自作電子錠が刺さっているのを見つけて声をあげただけだった。
セーフ……。
「そりゃいい。そいつが先に見つけてるなら、こっちはそいつから奪うだけだ。ちょっと待ってろ」
男子中学生はスマホを操作し始めた。
なにを始めたのかな?
私は彼のスマホに意識を集中した。
ここのctOSを掌握してなくても、この距離なら覗き見くらいできる。
私は意識を集中して、男子中学生のスマホの挙動を内部から覗き見する。
あー、この子もハッカーなのね。
どこかのハッカーが作って、ネットで配布されているような違法アプリだけど、ちゃんと使いこなしてる。
それを使って、解体前のビルの防犯カメラを掌握。私と同じようにリレーしていき、各階の様子を確認していく。
そして最上階。
剥がした部材が散らかる中で、何かを見つけて、無邪気に喜んでいる女の子の様子をカメラが捉えた。
「やったぞ! ゴミ漁りしなくてもすむ! 上にいる女が、目的のものを見つけてる!」
「じゃあ、そいつ脅して奪えば、金がもらえるんだな?」
「そうだ」
「よし、いくぞ」
手早く仕事を終わらせたいのだろう。
3人組はいち早く、ビルの中へと入って行った。
中学生と免許持ちは、あとから進む。
元サラリーマンが見張り。これが地味に厄介。
なんで見張り置くのよ!
私がここから動けないじゃない!
私は防犯カメラを掌握したまま、女の子の様子を確認する。
歳の頃は私と同じか、その下。黒いパーカーで、ショートパンツ。小さいリュックを背負い、ツインテール姿で、どことなく黒子を思い出させる子だ。
見つけたQRコードを大切にリュックにしまい、工事用エレベーターへと向かっていく。
だが、工事用エレベーターが動き出してるのに気がつき、慌てて周囲を見回している。
たぶん、5人のうち誰かがエレベーターを使ったんだろう。
元々3人乗りだし、全員が乗るなんてポカしないだろうから、最大2人が階段を登ってるか待ち構えてるかしてるはず。
私は見張りの元サラリーマンの意識を逸らすため、私から見て反対側に転がっていた空き缶を磁力で転がした。
コンッ!
と、いい音を立てて、足場にぶつかったのに!
なんであの元サラリーマン! スマホを見てんのよ!
こういう場合、音に注意を引かれるもんでしょ!
見張りの仕事しなさいよ!
どんだけ仕事できないのよ!
……いえ、逆を言えばそれだけスマホが大事なのね。
じゃあ、いいわ。そのスマホをクラッシュさせてあげる。
再起動を繰り替えさせると、案の定、元サラリーマンはスマホの回復に夢中となった。
私は堂々と物陰から出て、ヘラクレス21の足元まで移動する。
レイバー免許を持つ男が怖いから、ハッチはロック。ハッチのロックにはctOSが使われてないから、私でも鍵を開け閉めできる。
いざヘラクレス21の足元までくると、このレイバーの頭から2階に登れそうなことに気が付いた。
これであの元サラリーマンを入口から排除しないでも、ビルに侵入できる。
私は磁力を補助にヘラクレス21のカーブのあるボディを登り、軽く飛んで2階の窓からビルに侵入した。
すぐにエレベーターまで移動。
この辺一帯のctOSを掌握してなくても、接触すれば工事用のエレベーターも制御できる。
工業的な操作ボタンを触り侵入、まず停止させた。
上でエレベーターが止まったと騒ぎ出す3人組の声が聞こえる。これでしばらく足止めできると思う。
あとは階段のふたりか。
このままだと、上にいた女の子と鉢合わせを──。
「やだっ! 放してっ!」
あちゃー。どうも捕まっちゃったみたい。
こうなったら私はもう発見されても構わないと、階段を駆け上がる。
「これは絶対渡さないからっ! 放して! 放しなさいよっ!」
強く抵抗する女の子の声が聞こえる。
QRコードを素直に渡して解放されたようなら、私がでしゃばる必要がなくなるんだけどしかたない。
自称プライム8のたぶん闇バイト(よくわからないわね、これ)なら、とりあえず女の子の方を助けましょう。
数階ほど登ると、中層階の中二階で、免許持ちに殴り飛ばされる女の子が見えた!
殴られた女の子は、首を掴まれる!
「こいつ!」
カッとした私は、磁力を使って加速!
一気に階段を飛ぶように駆け上がり、スマホで何かをしようとしていた男子中学生を追い越す。
「どけぇぇぇぇっ!」
免許持ちの背中に体当たり!
下から充分に加速したおかげで、免許持ちの身体がよろめき浮き上がる。
女の子から、免許持ちが離れた!
「どっせぇっい!」
電撃を載せたハイキックを、免許持ちの顔面へ……ダメ、肩で受けられる!
でも、電撃は防げないでしょ?
バンッと紫電が弾けて、免許持ちの身体が硬直する。
でもまだ倒れない!
腕を蹴りで弾いたから、通電してる時間が短かった?
でも幸い、免許持ちは怯んでくれた。
誤魔化しがきかないけど、これ以上の隙を見せるわけにはいかない。
蹴り足を降ろす前に、見られてもしょうがないと電撃を放つ。
私の眼前から放たれた電撃は、免許持ちの身体を撃ち抜いた。
今度こそ壁に倒れ込み、そのまま硬直する免許持ち。
あぶなかった……まだ、能力が足りない。
けど、弱いところは見せられない。
女の子にも、残っている男子中学生にも。
私はかばうように女の子の前に立ち、叫んだ。
「大丈夫? 助けに来たわ!」
ついにウォッチドッグスらしい隠密ステルスを……
元サラリーマン「ぼーーーーーーー……」
美琴「NPCよりひどいじゃない!」