とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
う~ん……。なんか変なことになっちゃったなぁ。
引っ付いて離れないツインテールの女の子と一緒に、廃ビルの階段を降りる。
結局、プライム8だかなんだか、わからないうちに相手をぶっ倒しちゃったのは別に後悔してないけど……。
女の子と一緒に、一階へとたどり着く。
入口にはまだ、あの元サラリーマンがいた。こちらに気が付く様子もなく、スマホをいじっている。
え、えぇーー……。
一時的なバイトみたいなのとはいえ、こんなのでプライム8って大丈夫なの?
そんな相手でも、ツインテールの女の子は怖いのだろう。ぎゅっと私のサマーニットを握った。
あんなあとだから、相手が誰でも怖いのね。
私は女の子を落ち着かせるため、かばうように抱いて、元サラリーマンの猫背な後ろ姿に強気な声をかける。
「ねえ、あんた。邪魔なんだけど、ちょっと、どいてくんない?」
「……? ……? え?」
いちいち反応が鈍い。
元サラリーマンはスマホから目を離して、きょろきょろを周囲を見回してから、やっと後ろの私たちに気が付いた。
上から仲間以外が降りてきた……いや、私たちが降りてきたかどうかもわかってないだろう。
とにかく上の5人以外がビルから現れたのに、私たちを止めようとも、何者か確認しようともしない。
のそのそと、その場を
開けてくれた道を、女の子を守りながらすり抜ける。
私たちを油断させ、後ろから襲い掛かってくるかとおもったけど…………何もしてこない。いえ、むしろ好都合だけど。
電磁波レーダーで背後を警戒してても、またスマホをいじりだした様子が感じられる。拍子抜けするというか、なんというか……。
「上であんたたちの仲間? まあ、仲間と言えるか知らないけど、4人がのびてるから、助けにいってあげて」
充分に離れてから立ち止まり、振り返って元サラリーマンへ、仲間のことを知らせてあげた。
だが反応は──。
「はあ……?」
「はあ、って……」
鈍いわね。この人、大丈夫かしら?
他人事ながら心配になる。
私が5人をどうにかして、無事でてきたことに驚いていたり、信じられないと呆けているとかならわかるけど、この人はそういうレベルじゃないような気がする。
まあいいわ。そのうち、上にいる男子中学生から、お好きなスマホでお呼びでもかかるでしょう。
元サラリーマンはスパッと忘れて、私はツインテールの女の子を保護することを最優先にした。
しばらく、怯えて震えている……、この子、怯えてるのよね?
とにかく私にしがみついて震えている女の子と、人通りのある本道へ出てから抱いていた肩から手を離す。
「大丈夫よ。もう安全だから」
手を離したら、一瞬、ビクッと驚いた様子を見せたが、落ち着くようにと声をかける。
まだ怖いのかな?
なかなか離れようとしなかったので、ちょっと困ったけど、周囲の人が見てるからと小声で伝えるとやっと放してくれた。
+ + + + + + + + +
美琴たちが立ち去ったビルのタワークレーン。その先端。
ふたりの少女を見送る女性の姿があった。
風が吹き荒ぶ高層のさらにその上の突端で、揺らぐことなく立つ女性は、体にフィットしたレオタードのような軽装姿である。ところどころ肌が晒され、とても通常のレオタードには見えない。
小柄な女の子に
「
『どうするんだ、バーディー』
彼女はひとりなのに、もうひとりの彼と会話をしていた。
未来的な姿をしている彼女だが、通信をしている様子はない。すぐ近く、とても近くの彼と会話している。
「どうも。……どうもしないわ。これって地球人同士の問題みたいだし、こっちの捜査には関係ないわ。ハズレよ、ハズレ。とーんだ、無駄足だったわ」
『彼女とデッドセックが、無関係とわかっただけ収穫だよ』
「それもそうね」
彼女は地球でのアドバイザーと認めた彼の意見を好意的に捉え、動向を注視する程度の限定的な監視に留め、それ以上の介入は不必要だと判断した。
奇抜な二色の長い髪を引き、タワークレーンの上の女性は、隣のビルに跳んでその姿を消した。
女性が消えた屋上で、目立たない服装の、目立たない少年が代わりに立ち上がる。
まるで入れ替わったのか、変身したのか。
常識では計れない現象である。
「超能力かぁ。地球もなかなか常識が通用しないもんだったんだなぁ……」
千川 つとむは冴えない目つきで頭を掻きながら、ふと解体中のビルをふり返り見る。
解体中のビルでは、気を失った男たちを残して立ち去る男子中学生と、取り残されるサラリーマン風の男が見えた。
「関係ない、関係ない。あんなのに関わってたら、こっちの時間がなくなる!」
つとむは
+ + + + + + + + +
「一応、自己紹介しておくわね。私は御坂美琴」
女の子を送り届ける道中。私は自己紹介を済ませた。
この子がエンジニアってことはないだろうから、
「わ、わたしは黒木、黒木美都っていいます。あの、ありがとうございます」
「そう。黒木さんっていうの」
私は同室のパートナーである黒子の姿を思い出す。ウェービーな長い髪を、ツインテールに縛り上げ、
姓名の違いはあるが、黒木と黒子。似ていて、なんとなく親近感が湧く。
「黒木じゃなくて、美都って呼んでください!」
「ええっと、それじゃあ……美都さん」
「美都って呼んでください!」
「み、美都ちゃん」
「美都って呼んでください!」
「み、美都、でいいの?」
「はい、お姉様」
「じゃ……じゃあ、送っていくわ。美都さんのお家、この近くなの?」
「え? いいんですか? おねがいします!」
黒木さんは嬉しそうにちょっと跳ねた。
それを見て、どういうわけか、この子に何かしてあげよう。と、そんな気持ちになった。
「いいの、いいの。時間はあるしねー」
私は安請け合いする。この子の前だと、そんな気分なってしまう。
実際、ctOSターミナルの捜索は、別に夜でもいいし、ゾンビクイーンを探すのも本来の目的じゃないしね。
「あ、わたしの自宅は保谷なんですけど、父が仕事場として使ってたマンションで暮らしてて、池袋で生活してるんです! 学校も池袋なので」
「そうなんだ。じゃあ、バス? 歩いていける?」
「歩いて帰ります!」
フンス! と鼻息荒く、美都は私の腕に抱き着いてきた。
なんでっ!
9月末とはいえ暑いし、そろそろ夕刻とはいえまだ日も高い。
まあ、今の私は汗をほとんどかいてないし、そんなに困らないけど……。
単純に暑いのよね。
「お姉様は、デッドセックなんですか?」
腕に絡みつく美都が、私を期待に満ちた目で見上げて訊ねてくる。
期待に応えられなくて、なぜか申し訳ないという気分になった。
「あー、よく言われるけど違うのよね。ごめんね」
「じゃあ、デッドセックに加入するつもりだったんですか?」
「そんなつもりないんだけどね。デッドセックも名前は知ってるけど、ってくらいだし」
「そうなんですか……」
残念そうにうつむく美都。
ふと私は遊驥が渡してきたQRコードを思い出した。
ワンショルダーバッグから探しだし、QRコードの切れ端を取り出す。
「そうそう。私はデッドセックじゃないけど、こんなのあるのよ」
「っ! それは!」
美都は驚き、私の手を解放すると、自分のリュックからQRコードを取り出した。
「お借りしていいですか?」
「はい、どうぞ」
QRコードを受け取ると、美都は自分が手に入れたQRコードと合わせて見る。
切り目が一致して、美都は輝く目で私を見上げた。
「なんならあげるわよ。興味ないし!」
「いいんですか! いえ、でも……」
「いいって、いいって」
断ってはいるけど、よっぽど欲しいのかな。どうしても欲しい、ってそんな気持ちが伝わってくる。
「その代わり、理由とか聞かせてもらえないかな?」
「あ……」
さっきまで明るかった美都の顔が、急に暗くなってうつむく。
その様子を見て、なぜか胸が締め付けられる。
なんだろう?
美都って、なにか不思議な力を持ってない?
「ごめん。話したくないなら」
「いえ、いいんです。ただここでは……」
繊細な事柄だったのかもしれない。
どうやら、ただデッドセックに憧れているだけの子供ではないようね。
少し気持ちを引き締める。
そうしてしばらく歩き、池袋駅構内を抜けて、西口から出る。
駅内のエアコンで、涼んだあとということもあり、西口から出るととムシ暑さに顔をしかめてしまう。
近いと美都は言っていたが、なかなか歩くわね、これ。でも東側でバスに乗っても、すぐに駅で降りて西口に出ることになったと思うし、まあ大した差はなかったかな。
駅からは美都の言う通り、彼女の住まいは近かった。
駅近の高層タワーマンション。
そこを仕事場として借りてるか持っていて、居住の部屋もあるとなると、相当な物件だと思う。
美都は私の腕を引き、タワーマンションの中層階へ私を連れて行く……って、別にエントランスでバイバイしてもよかったんじゃない?
結局、私はグイグイと引っ張られてエレベーター降り、エレベーターホールから彼女の父の仕事場兼住居まで来てしまった。
「どうぞ、お姉様!」
オートロックを開け、ごく当然のように、部屋の中へ招き入れようとする美都。
「お、送るだけのつもりだったんだけど。こんなふうに会ってすぐの人を、連れ込んじゃダメよ」
「いいんです! お姉様なんですから! お礼もしたいですし、お茶の一つでも。ああ、さきほどのお話もしたいので。ささ、どうぞ」
少し悩む。
さきほどの話も、と言われて私も後ろ髪を引かれた。
「そ、それじゃあ、お邪魔します」
「どうぞー」
招き入れられた部屋は、居間を仕事スペースにした場所だった。
本棚は理化学系が並び、いろいろな資料が収まっている。
パソコンデスク回りはいささか異常で、モニターの数がゆうに10もある。左手デバイスも一つだけでなく、いろいろな製品があり、ゲームのコントローラーも各種各社いくつもあった。
はんだごてなどの道具と、バラバラになった機械や、ドローンの部品が散乱。
居間も散らかっており、掃除はしてるがまた乱雑に散らかしているという雰囲気を感じる。
「あああ……。すいません、散らかってて」
「いいの。いいの」
「すぐ片付けますから!」
美都は慌てて道具をまとめて箱に放り込み、機械類を寄せてスペースを作り始める。
そういえば、この子、あの剥き出しなIDキーとか作った子なんだっけ。そう思うと、この光景も当たり前で、興味深いし、いとおしくも思える。
私も根っから科学の徒だしねぇ。
「どうぞ、お姉様、こちらに」
「ありがと」
居間のソファが、一先ず空いた。
そちらに座ると、美都はテーブルの本の片づけに取り掛かる。
散らかっていた専門的な本が片付けられていく中、不釣り合いな総合週刊誌が美都の手から落ちた。
「おっと」
私はそれが床に落ちる前に受け止めた。不自然にくしゃくしゃになったページが開いた状態だ。
美都の顔が強ばる。
さっきまで笑顔だったのに──。
総合週刊誌のくしゃくしゃになったページには、氷川誠一郎という人物が特集されている。
その氷川という男の、胡乱な笑顔の写真を中心に、ページはくしゃくしゃとなっていた。
これは勘。
この人物に、なにか特定の感情を、美都は抱いている。
強ばった表情と、私の様子を伺う視線でそう感じる。
「この人が……なにか?」
聞いてはいけないと思ったが、つい言葉が出てしまった。
でも、美都に何かしてあげたいという気持ちがまずあった。
すう、と美都の目から光が消えたように見えた。
「……私にできることなら、美都に協力してあげたいと思ってるの」
自分でもなんでこんなことを言ってしまったのか、理由がわからない。
「お姉様!」
失われた目の光が、ぱぁっと戻った。
それを見て私は心底、良かったと感じる。
……もしかして、美都って子、なにか精神操作の能力者?
そんなことを考えてしまうくらい、美都に尽くしたいという気持ちが私の中にある。
しかし戻った光も一瞬。
すぐに曇ってしまった。
「聞いてくれますか? お姉様」
「聞いてあげる」
即答すると、美都も決意したように、震える唇をひらいて言った。
「私……黒木美都は、ゾンビクイーンです」
クロス元ネタ
「終末トレインどこへいく」のゾンビの女王、パンt……たくし上g……黒木美都から。
少し性格が違うように思えますが、アニメの中でもゾンビの女王として切り替えてさらっと演じてましたから、そういう「演じる女性」なのかな、と思ってます。
美都のお父さん、アニメでも出番カットされた保谷のおじさんに悪い事はしたと思ってますが犠牲になってます。最初は行方不明くらいにしたかったのですが、どう考えても話が長くなるので……。
本作ではゾンビPCの女王です。
あとクロス元ネタとして、ほぼゲストになりますが、鉄腕バーディーよりバーディーとつとむです。
バーディーは基本、関わりません。
バーディー旧作OVAにおいて、超能力を下等な惑星で得られるの能力(だいたい意訳)とバーディー言っているので、原始的と表現してますが、おそらくとある魔術の禁書目録の超能力とはだいぶ別物だと思います。
それを知らないバーディーが、彼女なりの知識と常識で下した原始的、という判断とお思いください。
またロドリーヒューズなどが、旧作準拠である理由は、decodeだとリュンカで東京が大惨事になり、新原作では連邦が地球に深く関わってしまうので収集がつかなくなるからです。
ギーガーあたりと、レベル5相当になった美琴ならいい戦いになりそうなんですけどね。