とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
どうしよう
彼女は美琴を「お姉様」と呼ぶが、本心からであり、そして情動であっても、無意識に理由と理屈がある。
常識的に考えて、大人の男性を3人も相手とって、何の苦もなく、一瞬で倒せる少女がいるだろうか?
不意打ちで、ひとりを倒すのはまだしも。
いくら一瞬、気を逸らせたとはいえ、素手で、美都が目を閉じたわずかな時間に、3人を気絶させ、1人を抑え込んでいた。
黒木美都は頭の良い少女である。
普通じゃできないとわかる。
だから、美琴は普通じゃないと、わかっている。
大の大人を叩きのめすような御坂美琴は怖い。
一瞬にして大の大人を叩きのめす少女の隙に、お姉様と呼ぶことで、一瞬にして美都はもぐり込んだ………。
+ + + + + + + + +
「やっぱり……」
お姉様と慕う美琴がお風呂に入っている隙に、美都は彼女の持ち物を調べて、銃を見つけてそうつぶやいた。
軽く畳んだルーズソックスの中に、隠されるように潜ませた小型の銃と特殊な形状のホルスターがあった。
けっして、靴下の匂いを嗅ごうとしたわけではない。
美都はお姉様と美琴を慕っているが、同時に普通の人ではないと推測している。
さすがに超能力者などとは考えてもいないが、常人ではないと気が付いていた。
廃ビルで銃を使ってはいなかったが、なにか未知の武器を使用したと判断する。
「あれ? 美都、いるの?」
動悸の激しい美都が、こそこそと下着へ手を伸ばした。そこでシャワーを浴びていた美琴が気が付いて、半透明のドアの向こうから声をかけてきた。
慌ててしましま模様の布から、手を離す。
「はい。 お姉様のお背中を流そうと……」
「いぃーっ!? いいわよ!」
「いいんですか?」
「けっこうですって意味よ!」
「大変けっこうなんですか?」
「ダメって意味よぉっ!」
「残念です……。では着替えのパジャマを、こちらに置いておきますね」
「うん、ありがとう」
誤魔化せた。
美都は入浴のチャンスから引き下がり、銃をそっともとに戻す。
それはそれとして、美都はルーズソックスをクンカクン……。
新品だった──。
+ + + + + + + + +
「うわー、けっこう本降りじゃない」
朝。7時ぴったりにカーテンが自動で開き、その駆動音で私は目を覚ます。
窓の外は雨。
せっかくカーテンが開いても、朝日は拝めない。
抱き着いて「お父さん……」と寝言を言う美都を、断腸の思いでベッドに残して起きる。
タワーマンションの窓から、降りしきる雨をしばらく眺め、借りていたパジャマから制服に着替える前に、身だしなみを整える。
下着と靴下は昨日、洗濯乾燥済みで……あれ? こんな畳み方したかしら? まあいっか。ワンショルダーバッグへしまう。
その最中、ふと気が付く。
もしかして、自分が少し濡れることを甘受すれば、街の探索がしやすいんじゃない?
補導員とか、雨の中でやるわけじゃないし、警察の見回りも最低限のはず。まあ、お巡りさんって、雨でもレインコートで見回りしてるけど。
傘でそれとなく自分を隠せるし、目立たない。
「おはよー、ございます、お姉様」
身支度を終えたころ、美都が寝ぼけまなこをこすりながら起きてきた。
「おはよー。ほらほら、しょうがないわね」
美都の乱れたパジャマを軽く整え、歯磨きをしてる間に髪を梳く。
ツインテールは黒子の髪で慣れてるけど、その感覚でいいかな?
髪質は大分違うが、位置やまとめ方は同じだし……と、よし。うまくできた。
「ほわぁ……ありがとうございます」
「どういたしまして」
身支度を終えると、そろそろ美都もはっきりと目を覚まし、てきぱきと朝ごはんの準備をしてくれた。
と、いってもシリアルとヨーグルトに、少々のフルーツだけど。
でも女の子の朝なんて、これで充分よね。
私も少しお手伝い。
紅茶は無かったので、お茶を淹れる。まあ、私は紅茶の淹れ方、そんなにうまいわけでもないし、あの子みたいにこだわりがあるわけじゃないから、緑茶でいいけど。
「今日は平日ね、美都は……」
「休みます」
「即答してくんのね。学校いきなさいよ」
「家出中のお姉様がいいますか?」
「ぐぅ……」
ぐうの音が出た。
でも、私はこの場所に存在してなかった。
学校も家も家族もないので、どうにもならない。
……ああ、家族がいないのは、美都もね。
「冗談ですよ、お姉様。学校には行きます」
「そう。じゃあ、私も出掛ける用事もあるし、送っていくわ」
「やったー!」
美都が諸手を上げて喜んだ。初春さんと佐天さんを合わせたようなかわいさがある。可愛い。
朝食を終え、美都も制服に着替える。私は傘を探したけど……。
「傘が一本しかないのね。隣のビルに□ーソンがあるから、そこで買って……」
「一本で十分です!」
「いや、でも結構降ってるわよ」
「一本、一本で十分ですよ! わかってくださいよ、お姉様!」
ふたつで充分なのに、ひとつまでオミットしたスシバーのおじさん状態になってんの、美都。
「ほら、この傘、ちょっと大きいんです! 一緒に入れます!」
ちょっと必死すぎて、さすがに私も困惑。黒子化してない?
時間的にもうどうしょうもないんで、急ぎ隣のビルの一階コンビニで傘を買った。美都も雨降りの強さを見て、私の傘の購入を黙認した。
「すぐ使います、バーコード会計で。……ねえ、美都。学校まで歩いていくの?」
会計しながら、通学方法を尋ねた。
美都の通う学校は、池袋から電車で一駅の距離なので、歩いても通学できるかな。
「徒歩通学です。あ、でも雨の日の通学はバスですね」
歩けて行けるといってもそこそこの距離。
蒸し暑い普段も、今日みたいな雨の日も、バスの方が快適だと思う。
コンビニから出て、道路の反対側へ渡り、バスを待つ。
到着した路線バスは、空いてるとは言えないが、座れないくらい。私は手すりに捕まって、美都は私の腕をがっちりホールドする。
バスの乗客はスーツ姿のサラリーマンと、各小中高の制服姿と、大学生らしき人に大別できる。
私の制服だけひとり違うけど、違和感は感じられない。普段、見かけないな、とは思われているだろうけど、美都と一緒というだけで意識されている様子がない。
いえ、都会の無関心さ、かしら?
やがてバスは美都の中等部の最寄駅に到着。彼女と同じ制服を着た女子と、旧日本海軍式と言われるボタンを合わせで隠したデザインの正服を着た男子が降りて行く。
私も美都と一緒に降りて、校門まで送る。
「じゃあ、放課後、相談に乗るから、その頃になったら近くの……そこのお店で待ってるわね」
「はい。お姉様! いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
通学中の生徒たちに囲まれている中、 美都はよく通る声で返事をする。
ちょっと注目されてしまった。私だけ制服が違って、目立つからみんな私を気にしてるみたいなのよね。
まあ、姉が学校の前まで、送ったように見えるでしょ。
美都が校舎内へ消えるまで見送ってから、私は池袋のctOSターミナル探索を始めた。
都電荒川線に乗り、東池袋へ向かう。
昨日の続きというのもなんだけど、解体中のビルへ目指した。
案の定、雨足が強いせいもあり、解体作業は行われていない。お休みだ。
一応、中で作業してないか確認するけど、人の気配がない。そもそも警備システムが動いているので、無人であることは確実ね。
あとはプライム8とかいうヤツラの妨害がないか、それが不安。
QRコードの入手に失敗したんだから、もう来ないと思うけど。
当初の計画通り、タワークレーンを掌握。周囲の探索に利用させてもらう。
タワークレーンまで登る必要はないから、最上階で雨宿りできるところで待機。
手頃な段差に腰かけて、東池袋周辺にターミナルがないか調べる。
すぐに発見。
区役所前にあった。けっこう、目立つ場所にあったわね。
豊島区の区役所は、集合住宅と一体型となった珍しいビルで、区役所の一角にあるみたい。
この格好で役所にいくには気が引けるけど、もしかしたらワンチャン、転居届とか手続きで役所に来るため学校を休んだ、と思われるかな?
そんなことを考えながら、バスで豊島区役所へ辿り着く。
四方からアプローチできるように設計されたビルで、区役所へのアクセスも分譲マンションへのアクセスも利便性が考えられている。
ビルの形は、例えるならドット絵で描かれたロングブーツか、巨大合体ロボの足といった感じね。
私は段々状のつま先部分、南側の区役所区画に向かう。
区役所内は人の目が多い。
でもctOSターミナルは、解放されたテラスの一角にある。
雨も降ってるし、静かに、そして乗り越えるなどしなければ、近づけるかもしれない。
注意深く、周囲の人の動きや、窓からの視線を避け、ctOSターミナルである祠に近づく。
ここはアクリルの壁で封鎖されていた。
「これじゃあ、丸見えよね」
よく見えて囲いの外からは参拝しやすいだろうけど、侵入は難しい。
さて、どうしたものか。
騒ぎを起こしてその隙に、ってのは気が引ける。かといって、夜に侵入は難易度があがる。
まあ、私ならデジタルな警戒はすり抜けられるけど、区役所から人の目が完全に消えるというのはまずないはず。
警備を自動化させるところが多くなっているなか、役所はいまだ警備員がいるし、なにより緊急時のための待機人員が少なからずいる。
どうすべきかと悩んでいたら、アクリル板の壁につながる制御盤を発見した。
「扉のロック制御盤じゅないの? え? どういうこと? ……ああ、あのアクリル板、投影スクリーンになってるのね」
よく見れば、テラスを囲う落下防止の柵の向こうにもアクリル板があり、それらも投影スクリーンになっている。
これで映像を流す仕掛けになっていたのね。
各階のアクリル板と外壁と窓を使って、エンターテイメント映像や、緊急時の広報を流す仕掛けってところね。
「全部の制御を奪う必要はないから、この祠を囲う分の映像だけ、ハックすれば……」
傘で隠し、制御盤を開けて、機能を乗っ取る。
あとはラップトップ端末で撮影した、通常の風景をアクリル板に投影しておいて。
はい、これで私がアクリル板の囲いの中へ入っていっても、外からは私は見えない。というか、誰も入っていない映像が映ってるってわけ。
雨だったのも幸いだったわ。
解像度の低いラップトップ端末のカメラ画像でも、雨で烟る中なら誤魔化せる。
わかれば、あんがい簡単だったわね。
今までで一番、楽だったかも。
ctOSターミナルの祠アクセス。
紐付けされてた電子賽銭は、一度もらったあと、少し足して返しておきましょう…………。なんだか、
さて、今回の奉納品は……。
常盤台中学校指定の水着だった。
「なんでよっっ!!」
美都は美琴の調査をしただけです!
美都がかなりキャラ崩壊してます。すいません。
でも原作ぽい時も出すのでご勘弁ください。
豊島区役所の投影スクリーンは捏造です。
でも大型ロボの合体前の足みたいというのは事実です。
たぶん都庁ロボの最終合体フォームの片足だと、作者は睨んでます。
東京のどこかにもう一足と、両手と武器と追加装甲のビルがあると思います。