とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
『おまえ、なにやっとんじゃぁあーっ!』
私は東池袋のビル屋上で我を取り戻した。角も消え失せ、天衣も閃光から火花となって、変身も解けた。
直後に入ったSNSを使った通話に出たら、いきなり遊驥に怒鳴られた。
「そ、そんな怒鳴らないでよ! 聞こえてるって!」
私も負けてない。言い返す。反省はしてるけど、遊驥に怒鳴られる覚えはない。
収まりきっていなかった電撃を抑え、ラップトップ端末に怒鳴り返す。
『怒鳴らいでいられるか! 池袋の駅前のアレ! おまえかーっ!?』
「はい」
素直に肩を窄めて答えると、遊驥の声色が柔らかくなった。
『はいって……。キャラ変わってるじゃないかい! ……つまり不本意だった、不測の事態か?』
遊驥が何を言っているのか。私はよくわかっている。
先日の大覇星祭で、木原幻生にいいように操られた時と違って、記憶が曖昧じゃない。よく覚えてる。
「あーもう、ネットで大騒ぎになってるんでしょうね……。で、そこから事情は大体わかってると思うけど、やったことは見たままなのよ」
『レイバーの接触事故で、加奈ちゃんを助けたわけか』
「うん、だいたいそんなところ。でも、よくアレが私ってわかったわね。やっぱり服で?」
私は朧げながら、舞台上の顛末の記憶がある。行き過ぎた能力を自由自在に扱えたわけじゃないけど、たぶん記憶に欠落はない。
姿形はだいぶ変わってるはずなんだけど。
『ばっちり顔が映っとるわ! で、どういうことなんだ? こう……はっきり聞くが、レールガン。おまえは人間なのか?』
まだるっこいのが嫌いな遊驥らしい尋ね方だ。弱い子ならショックを受けるわよ、その聞き方。
大きく息をつき、問いに答える。
「人間かと言われれば、そうね。人間よ、私」
『少なくともオマエは雷神じゃないんだな?』
雷神か。
あの姿、雷神に見えるのね。
私、大覇星祭であんな姿になり、暴走させられたけど……記憶にあっても、鏡を見たわけじゃないのよね。だから客観的な姿形を、よく知らない。
「間違いなく人間。異常なのは、あくまで姿と能力だけ。あとはいたって人間よ」
『そうか。ならいい』
「いいんかい!」
さらっと流す遊驥に、覚悟して答えた私は肩透かしを食らった気分になった。
『あとで説明してくれても、説明せんでもいい。ただ、
ブレないわねぇ、こいつ。
でもその気概と気質が、今となってはありがたい。
「ああ、うん。ありがと。できれば、お願いと相談事もあるから、みんなと会いたいんだけど……これから大丈夫かしら?」
『今は無理だな……明日の午後4時以降なら、全員アジトに集まれる。待ってるぞ』
「うん、待ってて」
『おう、待っとるぞ』
通話は切られた。
ラップトップ型端末をしまって、私はビルの上で頭を抱えた。
「ああ、どうすんのよぉ私〜〜」
+ + + + + + + + +
ひとまず、美都との待ち合わせ場所である喫茶店で、カフェラテを頼んで一息つく。
仕事中であるカフェ店主は、まだネットのニュースやテレビに触れてないのだろう。
私を見ても、反応はない。
数人の他の客も同様だ。
一息ついたところで、私はがくんと落ち込んだ。
「さすがですね、お姉様」
頭を抱えていたら、カフェにやってきた美都から、ありがたいことにそんな言葉を頂いた。
褒めてくれてるが、私は素直に受け止められない。
なにしろ、やったことがアレだから。
なのに、この世界で彼女たちの協力なく、単独で起きるなんて完全に想定外よ。
ctOSのせいか、どこかのサーバーのおかげか、もしかしたら
「美都~、どうしよ~」
「ネットニュースだけ知ってるわたしとしては、お姉様がなにをどうされたのかが不思議でどうしよ~、状態です。正直、朝の送り迎えで、お姉様を見た人たちが、似てる制服だと気がついているクラスメイトも……いましたので、ごまかすの大変です」
テーブルから頭を上げ、対面に座る美都に助けを求めたら、まず説明を求められた。
しかも制服が似てると気付かれた。これは着替えないといけないわね。
「うん、まあそうよね。そうなるわよね? 確認として、美都はアレが私って分かったの?」
「はい。まあ憶測だったけど、今のお姉様の姿を見て確信? しました」
待ち合わせ場所の喫茶店に来るまで、美都は「もしかしたら?」程度だったのに、落ち込む私を見て、「ああやっぱり」となったわけね。
「説明する前に……怖い?」
「え? なにが?」
なんか、反応が薄いわね。
これが学園都市の生徒ならわかるんだけど、この世界に知る範囲で異能はないはず。
もしかしたら、美都が原石だから?
まあ美都が原石ってのは、私の推測なんだけど。
覚悟を決めて、美都に能力を明かすにしても──ここじゃ無理よね。
私たちを注目してる人こそいないが、ここで話すべきことじゃない。
「とりあえず、ここではちょっと説明できないから、美都の家でいい?」
「つまり今日もお泊りですね?」
フンスッと美都の鼻息が荒くなる。
あー、そうなるかー。
私は頭を抱える。
でも、助かるといえば助かる。行くところもない上に、世間ではそろそろ私を探し始めてる人が池袋に集まってるだろう。
「そうなるわね。でも、迷惑かけるわよ、アンタに。確実に」
「わたしは助けてもらった御恩もあるので。ていうか、ここまで来たら、話を聞かないとおさまらないというか、気になって仕方ないというか」
美都はちょっと気軽に考えすぎてる気がする。と、同時に気になるというのも分かる。
ここで説明しないのも不義理だと思い、話せることは話すことにした。
「じゃあ、予定が狂ったけど、一度、帰りましょう」
「はい」
「あ、美都はここで注文はいいの?」
「持ち帰りで、パンを」
美都はしっかり持ち帰りで、パンを購入した。
そういえばここはパン屋さんでもあるカフェなのね。
支払いを済ませ、2階店舗から降りる。
「そうだ。バス使うと、現場に戻ることになるから……」
「わかりました、歩きですね」
雨も小降りになっていることもあり、私たちは池袋駅を迂回するように、目白駅の北側から迂回して西池袋の美都のタワーマンションへ向かう。
道中、傘で顔を隠しながら歩いたこともあり、誰かに見とがめられることはなかった。
美都が小さいながらも、私を隠すように自前の傘を翳してくれたという理由もある。美都には頭が上がらないわね……。
しかし、ネットとテレビでは、池袋東口が大騒ぎである。
通行人がまでが、
「駅でヤベェ事故があったぜ!」
「ああ、知ってる。レイバー事故だろ?」
「ちげぇよ、雷様だよ」
「ブー的な?」
などと会話をしながら、池袋駅の方へ向かっていく。
内心、ビクビクしながら、美都と一緒に帰宅……。
「ただいま。さあ、お姉様。どうぞ」
「ただい……」
美都の家だから、ただいまとか帰宅とか、言っていいのかしら?
「ただいまでいいです。帰宅ですから」
「そう……って、なんで考えてることわかんのよ」
「ただいま…って言いかけた後に、首を捻った、から?」
勘がいいわねぇ。まあそれだけ、今の私がわかりやすかったってことでもあるわけで……。
美都は帰宅後、濡れた制服を着替える。
私は着替えがないのだが、美都が普段着を貸してくれた。
「ちょっと大きかったので、ほとんど着てないものです」
「ありがとう。ぴったりだわ」
黒いTシャツに、デニムのショートパンツで、ショートソックス。
奇しくも、
ぴったりとはいったけど、それはTシャツのこと。
ショートパンツは少し小さい。でもフロントボタンを外しておけば苦しくない。……おや?
「ねえ、美都。これクロッチリベットがあるけど、これヴィンテージジーンズじゃない?」
股下にリベット。これはかなり古いジーンズである部品のはず。右のお尻のポケット部分には、かなりのダメージがあって透けていて、小銭を入れたら落としそう。裾は自然なほつれがある。
「え? そうなんですか? よくわからないけど……でもたぶんコピーとかだと思います。近所のどこかで買ったものなので」
美都はマンションの部屋に備え付けの衣類ケア用のスチーム除菌除花粉除臭機に、私と自分の制服を入れながら答えてくれる。ところで、あの機械って一口に名称、なんていうの?
「そう。ならいいけど」
美都の反応を見るに、ヴィンテージという印象はない。よくできてるコピーか。
下手すると高いもんね、ヴィンテージジーンズ。
「では、どこから話しましょうか?」
帰宅後、ひと段落して、美都がお茶を淹れ落ち着いたところで、私は話しを始める──。
+ + + + + + + + +
「……そうだったんですか。お姉様は超能力者で、この世界の人では、なかったんですね」
具体的な実験内容や学園都市のドロドロした部分などは省き、能力開発や私の持つ能力、そして実験の犠牲となった私の
9982号の身体に、私の意識というか記憶が入っていることは、よくわからないのでわかってることだけ伝え、この世界に学園都市がないことも話した。
「うん。別の世界というか、平行世界? ってやつかな?」
歴史も地名も人物名も同じだし、TOKYOシティコップをはじめとしたエンタメ関係もほぼ変わりない。
反して、学園都市に関係する人物は、ことごとくその存在が確認できなかった。
調べても学生の名前が出てこないのは当たり前として……。
学園都市にあった学校、企業。有名な科学者や先生、学園都市に関連する企業の役員クラスの名が、思いつく限り調べても出てこない。と、なると、学園都市関係はすっぱり存在しない世界ということになる。
あと宗教関係が全然違った。特に欧州関係。
大幅に違うのは名称くらいだけど、なんで宗教がこんなに違ってるのかしら?
まあ、宗教なんて関係ないけど。
「でも、美都。よく信じてくれたわね。私のこんな話を」
「それはお姉様の話ですから……というのは言い過ぎですね。正直言えば、超能力者ってところは信じてますけど……」
「そこ、信じるんだ」
「学校で、友達とネットで映像見ましたから。あれを事実だったと思えば、お姉様が超能力者でどうにかなったと……、まあなんとなく受け入れられます」
「あちゃー。そんなに拡散してるんだぁ」
わかってはいたけど、やはりネットの拡散力はすごい。
撮影してた観衆も多かったし、なによりテレビカメラもあった。今頃、ネットもテレビも大騒ぎかな?
正直、自分の目で、状況を確認するのが怖いのよね。
「それよりですね」
ネットで話題になっていることより、美都は気になることがあるらしい。
「問題は、平行世界から記憶? 意識? がこっちに来て、お姉様の妹さん? クローンですか? それに入っちゃってるってのが、信じられないというより、その~。しっくりこないというか?」
「うん。そうなるわよね。並行世界の記憶とか、妄想って言われても仕方ないし、そこらへんは私も不確定要素が多くて、確実に『そうだ』とは言い切れないんだけどさ」
妹達についても実験内容については大幅に省き、私がDNAマップを提供したことで、犠牲となった1万人がいたことは説明した。
そのうちの1人に、私の意識が入っているというのは、あまりに納得できる要素が少なかったのだろう。
あー、もしかしたら2万人のクローンと1万人の犠牲、ってのがピンとこないのかもしれないわね。
「とりあえず、その辺は超能力って話より話が大きすぎるので、さておき。お姉様。明日からは変装必須だと思います」
「そうね。この服、動きやすいし明日、借りていい? なんとなくなじみがあっていいのよね」
「はい、いいですよ。全然、着てなかったですし。ただ、それだけでは変装にはならないかなと」
「そうよねぇ。顔、めいいっぱい映ってたでしょ?」
「出てました、出てました。どこの誰とはバレてないですが、もうばっちりと」
「そっかー。……ねえ、美都のそのゴム、もらえる?」
「はいどうぞ」
美都の髪をまとめてるゴムを一つもらう。
後ろで縛り上げ、いつぞやのスタイルにまとめる。
「よし、これで帽子でもあればいいんだけど」
「あー、私。持ってないんです、帽子。日傘派なんで」
「そうなんだー。でも日傘もいいかもね。顔を隠せるかな」
「日傘は電車とか室内で使えないと思います」
「あちゃちゃ。そうよねぇ。どうしようかしら?」
美都の指摘にもっともだと腕のこまねく。
「ちょっと買ってきますか?」
「いいわよ。もう暗いでしょ、外」
バウイーツで配達してもらい、夕食も終え、いろいろ説明を終えた今、すでに午後8時を回っている。
「駅前に行けば、すぐですから」
「明日買うから、いいって、いいって。いくら東京の駅前とはいえ、こんな時間に可愛い女を、私の用事で出かけさせるなんてできないから」
治安が良くてもやはり夜は夜。
私みたいな能力者ならともかく、彼女みたいな子を外に出すのは気が引ける。
それに一回、美都はプライム8とも揉めてるから、見つかったらどうなるかわからない。まして彼女はゾンビクイーンだ。
私みたいにゾンビPCから転送先を逆探知できるものはいないだろうけど、それも絶対じゃない。
少なくても私のように、この周辺のIPアドレスであると、あたりをつけてる人がいるかもしれない。
まあ……タワーマンションだけで世帯数がものすごいから、絞り込むのは難しいけど。
ん?
美都の様子がおかしい。
「どうしたの?」
「か、可愛い……ですか?」
「そう。可愛い子」
「はひぃ」
どうしたんだろ?
こうしてなぜか、今日は、強く一緒に寝ることを強請られた。
「家主の命令よ!」
「そう言われると……てか、あんた誰よ、美都! キャラが変わってない?」