とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

22 / 65
変装美琴

『おまえ、なにやっとんじゃぁあーっ!』

 

 私は東池袋のビル屋上で我を取り戻した。角も消え失せ、天衣も閃光から火花となって、変身も解けた。

 直後に入ったSNSを使った通話に出たら、いきなり遊驥に怒鳴られた。

 

「そ、そんな怒鳴らないでよ! 聞こえてるって!」

 

 私も負けてない。言い返す。反省はしてるけど、遊驥に怒鳴られる覚えはない。

 収まりきっていなかった電撃を抑え、ラップトップ端末に怒鳴り返す。

 

『怒鳴らいでいられるか! 池袋の駅前のアレ! おまえかーっ!?』

 

「はい」

 

 素直に肩を窄めて答えると、遊驥の声色が柔らかくなった。

 

『はいって……。キャラ変わってるじゃないかい! ……つまり不本意だった、不測の事態か?』

 

 遊驥が何を言っているのか。私はよくわかっている。

 先日の大覇星祭で、木原幻生にいいように操られた時と違って、記憶が曖昧じゃない。よく覚えてる。

 外装代脳(エクステリア)の影響がないと、あんな状態になっても思い通りに動けるし能力も使えて、意識も混濁しないから、私がなにをやらかしたのか、はっきりわかってる。

 

「あーもう、ネットで大騒ぎになってるんでしょうね……。で、そこから事情は大体わかってると思うけど、やったことは見たままなのよ」

 

『レイバーの接触事故で、加奈ちゃんを助けたわけか』

 

「うん、だいたいそんなところ。でも、よくアレが私ってわかったわね。やっぱり服で?」

 

 私は朧げながら、舞台上の顛末の記憶がある。行き過ぎた能力を自由自在に扱えたわけじゃないけど、たぶん記憶に欠落はない。

 姿形はだいぶ変わってるはずなんだけど。

 

『ばっちり顔が映っとるわ! で、どういうことなんだ? こう……はっきり聞くが、レールガン。おまえは人間なのか?』

 

 まだるっこいのが嫌いな遊驥らしい尋ね方だ。弱い子ならショックを受けるわよ、その聞き方。

 大きく息をつき、問いに答える。

 

「人間かと言われれば、そうね。人間よ、私」

 

『少なくともオマエは雷神じゃないんだな?』

 

 雷神か。

 あの姿、雷神に見えるのね。

 私、大覇星祭であんな姿になり、暴走させられたけど……記憶にあっても、鏡を見たわけじゃないのよね。だから客観的な姿形を、よく知らない。

 

「間違いなく人間。異常なのは、あくまで姿と能力だけ。あとはいたって人間よ」

 

『そうか。ならいい』

 

「いいんかい!」

 

 さらっと流す遊驥に、覚悟して答えた私は肩透かしを食らった気分になった。

 

『あとで説明してくれても、説明せんでもいい。ただ、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)入りだけ、このまま考えておいてくれ。しょうさとか他のメンバーには、オレから連絡しておく』

 

 ブレないわねぇ、こいつ。

 でもその気概と気質が、今となってはありがたい。

 

「ああ、うん。ありがと。できれば、お願いと相談事もあるから、みんなと会いたいんだけど……これから大丈夫かしら?」

 

『今は無理だな……明日の午後4時以降なら、全員アジトに集まれる。待ってるぞ』

 

「うん、待ってて」

 

『おう、待っとるぞ』

 

 通話は切られた。

 ラップトップ型端末をしまって、私はビルの上で頭を抱えた。

 

「ああ、どうすんのよぉ私〜〜」

 

 + + + + + + + + +

 

 ひとまず、美都との待ち合わせ場所である喫茶店で、カフェラテを頼んで一息つく。

 仕事中であるカフェ店主は、まだネットのニュースやテレビに触れてないのだろう。

 私を見ても、反応はない。 

 数人の他の客も同様だ。

 一息ついたところで、私はがくんと落ち込んだ。

 

「さすがですね、お姉様」

 

 頭を抱えていたら、カフェにやってきた美都から、ありがたいことにそんな言葉を頂いた。

 褒めてくれてるが、私は素直に受け止められない。

 なにしろ、やったことがアレだから。

 

 あの状態(雷神サマ)になったのは、大覇星祭で、妹達(シスターズ)の演算能力があったうえでのことだ。たしか、制御に限るけど、アイツの外装代脳(エクステリア)も影響してたはず。

 なのに、この世界で彼女たちの協力なく、単独で起きるなんて完全に想定外よ。

 ctOSのせいか、どこかのサーバーのおかげか、もしかしたら妹達(シスターズ)がどこかにいるのか…………。

 

「美都~、どうしよ~」

 

「ネットニュースだけ知ってるわたしとしては、お姉様がなにをどうされたのかが不思議でどうしよ~、状態です。正直、朝の送り迎えで、お姉様を見た人たちが、似てる制服だと気がついているクラスメイトも……いましたので、ごまかすの大変です」

 

 テーブルから頭を上げ、対面に座る美都に助けを求めたら、まず説明を求められた。

 しかも制服が似てると気付かれた。これは着替えないといけないわね。

 

「うん、まあそうよね。そうなるわよね? 確認として、美都はアレが私って分かったの?」

 

「はい。まあ憶測だったけど、今のお姉様の姿を見て確信? しました」

 

 待ち合わせ場所の喫茶店に来るまで、美都は「もしかしたら?」程度だったのに、落ち込む私を見て、「ああやっぱり」となったわけね。

 

「説明する前に……怖い?」

「え? なにが?」

 

 なんか、反応が薄いわね。

 これが学園都市の生徒ならわかるんだけど、この世界に知る範囲で異能はないはず。

 もしかしたら、美都が原石だから?

 まあ美都が原石ってのは、私の推測なんだけど。

 

 覚悟を決めて、美都に能力を明かすにしても──ここじゃ無理よね。

 私たちを注目してる人こそいないが、ここで話すべきことじゃない。

 

「とりあえず、ここではちょっと説明できないから、美都の家でいい?」

 

「つまり今日もお泊りですね?」

 

 フンスッと美都の鼻息が荒くなる。

 あー、そうなるかー。

 私は頭を抱える。

 でも、助かるといえば助かる。行くところもない上に、世間ではそろそろ私を探し始めてる人が池袋に集まってるだろう。

 

「そうなるわね。でも、迷惑かけるわよ、アンタに。確実に」

 

「わたしは助けてもらった御恩もあるので。ていうか、ここまで来たら、話を聞かないとおさまらないというか、気になって仕方ないというか」

 

 美都はちょっと気軽に考えすぎてる気がする。と、同時に気になるというのも分かる。

 ここで説明しないのも不義理だと思い、話せることは話すことにした。

 

「じゃあ、予定が狂ったけど、一度、帰りましょう」

「はい」

「あ、美都はここで注文はいいの?」

「持ち帰りで、パンを」

 

 美都はしっかり持ち帰りで、パンを購入した。

 そういえばここはパン屋さんでもあるカフェなのね。

 

 支払いを済ませ、2階店舗から降りる。

 

「そうだ。バス使うと、現場に戻ることになるから……」

「わかりました、歩きですね」

 

 雨も小降りになっていることもあり、私たちは池袋駅を迂回するように、目白駅の北側から迂回して西池袋の美都のタワーマンションへ向かう。

 

 道中、傘で顔を隠しながら歩いたこともあり、誰かに見とがめられることはなかった。

 美都が小さいながらも、私を隠すように自前の傘を翳してくれたという理由もある。美都には頭が上がらないわね……。

 

 しかし、ネットとテレビでは、池袋東口が大騒ぎである。

 通行人がまでが、

 

「駅でヤベェ事故があったぜ!」

「ああ、知ってる。レイバー事故だろ?」

「ちげぇよ、雷様だよ」

「ブー的な?」

 

 などと会話をしながら、池袋駅の方へ向かっていく。

 

 内心、ビクビクしながら、美都と一緒に帰宅……。

 

「ただいま。さあ、お姉様。どうぞ」

 

「ただい……」

 

 美都の家だから、ただいまとか帰宅とか、言っていいのかしら?

 

「ただいまでいいです。帰宅ですから」

 

「そう……って、なんで考えてることわかんのよ」

 

「ただいま…って言いかけた後に、首を捻った、から?」

 

 勘がいいわねぇ。まあそれだけ、今の私がわかりやすかったってことでもあるわけで……。

 美都は帰宅後、濡れた制服を着替える。

 私は着替えがないのだが、美都が普段着を貸してくれた。

 

「ちょっと大きかったので、ほとんど着てないものです」

 

「ありがとう。ぴったりだわ」

 

 黒いTシャツに、デニムのショートパンツで、ショートソックス。

 

 奇しくも、絶対能力進化(レベル6シフト)計画に対して、破壊活動をしていた時そっくりの装いとなった。

 ぴったりとはいったけど、それはTシャツのこと。

 ショートパンツは少し小さい。でもフロントボタンを外しておけば苦しくない。……おや?

 

「ねえ、美都。これクロッチリベットがあるけど、これヴィンテージジーンズじゃない?」

 

 股下にリベット。これはかなり古いジーンズである部品のはず。右のお尻のポケット部分には、かなりのダメージがあって透けていて、小銭を入れたら落としそう。裾は自然なほつれがある。

 

「え? そうなんですか? よくわからないけど……でもたぶんコピーとかだと思います。近所のどこかで買ったものなので」

 

 美都はマンションの部屋に備え付けの衣類ケア用のスチーム除菌除花粉除臭機に、私と自分の制服を入れながら答えてくれる。ところで、あの機械って一口に名称、なんていうの?

 

「そう。ならいいけど」

 

 美都の反応を見るに、ヴィンテージという印象はない。よくできてるコピーか。

 下手すると高いもんね、ヴィンテージジーンズ。

 

「では、どこから話しましょうか?」

 

 帰宅後、ひと段落して、美都がお茶を淹れ落ち着いたところで、私は話しを始める──。

 

 + + + + + + + + +

 

「……そうだったんですか。お姉様は超能力者で、この世界の人では、なかったんですね」

 

 具体的な実験内容や学園都市のドロドロした部分などは省き、能力開発や私の持つ能力、そして実験の犠牲となった私のクローン(シスターズ)について、話せるだけ話した。

 9982号の身体に、私の意識というか記憶が入っていることは、よくわからないのでわかってることだけ伝え、この世界に学園都市がないことも話した。

 

「うん。別の世界というか、平行世界? ってやつかな?」

 

 歴史も地名も人物名も同じだし、TOKYOシティコップをはじめとしたエンタメ関係もほぼ変わりない。

 

 反して、学園都市に関係する人物は、ことごとくその存在が確認できなかった。

 調べても学生の名前が出てこないのは当たり前として……。

 学園都市にあった学校、企業。有名な科学者や先生、学園都市に関連する企業の役員クラスの名が、思いつく限り調べても出てこない。と、なると、学園都市関係はすっぱり存在しない世界ということになる。

 あと宗教関係が全然違った。特に欧州関係。

 大幅に違うのは名称くらいだけど、なんで宗教がこんなに違ってるのかしら?

 まあ、宗教なんて関係ないけど。

 

「でも、美都。よく信じてくれたわね。私のこんな話を」

 

「それはお姉様の話ですから……というのは言い過ぎですね。正直言えば、超能力者ってところは信じてますけど……」

 

「そこ、信じるんだ」

 

「学校で、友達とネットで映像見ましたから。あれを事実だったと思えば、お姉様が超能力者でどうにかなったと……、まあなんとなく受け入れられます」

 

「あちゃー。そんなに拡散してるんだぁ」

 

 わかってはいたけど、やはりネットの拡散力はすごい。

 撮影してた観衆も多かったし、なによりテレビカメラもあった。今頃、ネットもテレビも大騒ぎかな?

 正直、自分の目で、状況を確認するのが怖いのよね。

 

「それよりですね」

 

 ネットで話題になっていることより、美都は気になることがあるらしい。

 

「問題は、平行世界から記憶? 意識? がこっちに来て、お姉様の妹さん? クローンですか? それに入っちゃってるってのが、信じられないというより、その~。しっくりこないというか?」

 

「うん。そうなるわよね。並行世界の記憶とか、妄想って言われても仕方ないし、そこらへんは私も不確定要素が多くて、確実に『そうだ』とは言い切れないんだけどさ」

 

 妹達についても実験内容については大幅に省き、私がDNAマップを提供したことで、犠牲となった1万人がいたことは説明した。

 そのうちの1人に、私の意識が入っているというのは、あまりに納得できる要素が少なかったのだろう。

 あー、もしかしたら2万人のクローンと1万人の犠牲、ってのがピンとこないのかもしれないわね。

 

「とりあえず、その辺は超能力って話より話が大きすぎるので、さておき。お姉様。明日からは変装必須だと思います」

 

「そうね。この服、動きやすいし明日、借りていい? なんとなくなじみがあっていいのよね」

 

「はい、いいですよ。全然、着てなかったですし。ただ、それだけでは変装にはならないかなと」

 

「そうよねぇ。顔、めいいっぱい映ってたでしょ?」

 

「出てました、出てました。どこの誰とはバレてないですが、もうばっちりと」

 

「そっかー。……ねえ、美都のそのゴム、もらえる?」

 

「はいどうぞ」

 

 美都の髪をまとめてるゴムを一つもらう。

 後ろで縛り上げ、いつぞやのスタイルにまとめる。

 

「よし、これで帽子でもあればいいんだけど」

 

「あー、私。持ってないんです、帽子。日傘派なんで」

 

「そうなんだー。でも日傘もいいかもね。顔を隠せるかな」

 

「日傘は電車とか室内で使えないと思います」

 

「あちゃちゃ。そうよねぇ。どうしようかしら?」

 

 美都の指摘にもっともだと腕のこまねく。

 

「ちょっと買ってきますか?」

「いいわよ。もう暗いでしょ、外」

 

 バウイーツで配達してもらい、夕食も終え、いろいろ説明を終えた今、すでに午後8時を回っている。

 

「駅前に行けば、すぐですから」

 

「明日買うから、いいって、いいって。いくら東京の駅前とはいえ、こんな時間に可愛い女を、私の用事で出かけさせるなんてできないから」

 

 治安が良くてもやはり夜は夜。

 私みたいな能力者ならともかく、彼女みたいな子を外に出すのは気が引ける。

 それに一回、美都はプライム8とも揉めてるから、見つかったらどうなるかわからない。まして彼女はゾンビクイーンだ。

 私みたいにゾンビPCから転送先を逆探知できるものはいないだろうけど、それも絶対じゃない。

 少なくても私のように、この周辺のIPアドレスであると、あたりをつけてる人がいるかもしれない。

 まあ……タワーマンションだけで世帯数がものすごいから、絞り込むのは難しいけど。

 

 ん? 

 美都の様子がおかしい。

 

「どうしたの?」

「か、可愛い……ですか?」

「そう。可愛い子」

「はひぃ」

 

 どうしたんだろ?

 

 こうしてなぜか、今日は、強く一緒に寝ることを強請られた。

 

「家主の命令よ!」

「そう言われると……てか、あんた誰よ、美都! キャラが変わってない?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。