とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
世間で【雷神ショック】とかいう騒ぎが起こってる
私は美都と共に、電車で浅草へ向かっていた。
バレないかと内心ひやひやだった。やたらと視線こそ貰ったけど、雷神だのミサカ様だの騒ぐ人はいない。
「今日は学校で大変だったんですよ、お姉様。昨日、送ってくれた人は誰だと聞かれて」
「あはは、ごめんねー」
放課後に合流し、美都は拗ねたように不満を漏らした。
学校では今日1日、クラスメイトから質問攻めにあって、よほど懲りたようね。
「うまく誤魔化しておきました」
「ありがとう、美都」
えらいえらいと、頭を撫でる。
撫で終えると、気になったので美都のワンピースの襟を直してあげる。
美都は学校を終え、一度私と一緒に帰宅。私服に着替えた。
私は美都から借りたTシャツとショートデニム姿と運動靴。これに途中で買った帽子を目深に被っている。
「はい、これでよし。ところで美都」
「なんですか」
「ちょっと、なんていうか、こう。くっつきすぎじゃない?」
私は座席シートに仕切り板に追い詰められる形で、美都にぴったり張り付かれている。腕はもちろんがっちりホールドされて、肩から私の右足と美都の左足まですべてが接触している。
池袋駅から上野駅までは立っていたけど、上野駅から座れたので、ずっとこの状態だ。
黒子ほどではないにしろ、佐天さんくらいの距離感……いや、黒子よりの美都のスキンシップ。黒子のやつならここから顔を寄せてくるけど、そこまでない。
普段、この手のは気にしないけど、今日に限ってはあまり目立ちたくないのよね。
「これくらいの方が、男の子と女の子に見えて誤魔化せると思います」
「うん。なるほど? ……かなぁ?」
美都の理屈に、少し納得しかける。
確かに以前、似たような姿で少年と誤認されたおかげで、追及を逃れられた経緯があるけど、なんとなく釈然としない。
「うーん、誤魔化せるなら……じゃあいいか」
「やったー」
小さな声で喜ぶ美都。
電車がやがて浅草に到着。
地下街へ入る階段を下りる……。急な階段なんで、あんまりひっつかれると危ないんだけど……。
「え、ここ?」
地下街の雰囲気に圧され、美都は警戒気味である。
日本でもっとも古い地下街だけあって、お世辞にも綺麗とは言い難いのよね、ここ。
これがいいという人も多いが、私はどちらかというと苦手ね。
でも、ハッカーのアジトがここにあるんだから仕方ない。
数件の店の前を通り、空き店舗に偽装したアジトの前で足を止める。
「美都はここで、ちょっと待ってて」
「はい」
アジト入り口隣に美都を待たせ、SNSでしょうさに連絡する。
「ついたわ。開けてもらえる?」
返事の代わりに、電子ロックが解除された。
入り口のドアを開け、入室する。残された美都が不安げなので、外の防犯カメラを掌握し、常に確認しておく。
中央のソファには遊驥とマイカさん。壁に寄りかかる真優と、その隣でカウンターチェアに座っているしょうさ。
「さすがに変装したか」
遊驥が私のTシャツ、ショートパンツ姿を見て、意図をすぐに察する。
「そりゃしますって」
目深に被った帽子を取り、素顔を見せる。髪も解いて楽にした。
「思い切った格好にしたね? 似合ってるよ」
真優は驚きながらも、自然に褒める。
「この格好。しっくりくるというか、お気に入りというか」
「そうなの? 似合ってるわぁ〜。いいと思うわン」
マイカさんも褒めてくれた。なんでも褒めてくれそうだけど、同時に本心から言ってくれてる人だと思う。
「さて。どういうことか説明してもらえるって話なんだが」
しょうさが落ち着かない様子で、カウンターチェアをガタガタとさせている。
「ええ。できる限りのことを話すわね……。と、その前に」
話を聞くため、前のめりになった遊驥としょうさの肩が、なんでだよ、って感じで、がくりと落ちる。
話の腰を折るようで、少し申し訳なく思ったが、これだけは外せない案件なのよね。
「遊驥が先日、ほら。調査してた件、ゾンビクイーンのことだけど……。見逃してもらえる?」
「それは、まあ話次第? 遊驥が受けた案件だけど」
しょうさは他のメンバーの様子をうかがう。
マイカと真優は構わないと言ってくれたが、遊驥は不満げだった。
「一度受けた依頼だ。真っ当な理由か、ふかーい事情があるか、聞かせてもらいたい」
「もちろん。それから交換条件ならあるわ。私が
条件を出したが、遊驥への反応は悪い。
「ああ、そりゃダメだ」
「なんでだよ、遊驥! いい条件じゃないか」
呆れるように、ソファに深く座り込んでいう遊驥に対し、しょうさが食い下がった。
「ダメダメ、まったくダメ」
「どうしてだい? 別にゾンビクイーンの件なら、他のハッカーグループにも依頼がいってる案件だ。多重依頼だなんて、不義理だとキミは怒ってたろ?」
頑なに首を横にふる遊驥に対し、真優がフォローに入ってくれた。
だがダメ。
遊驥は首をそっぽに向ける。
「それはそれ。レールガンちゃんのお願いとは別。だが…………仲間になった後なら、お願いとして聞くならかまんぞ」
ちらりと横目でこちらを見る遊驥。
「……ん?」
「はい?」
「どういうことかしらン?』
「聞き間違いかな?」
遊驥以外、私たち4人は首を捻った。
「ねえ、それって同じことじゃない?」
「ぜーんぜん! 違うわい!」
遊驥は膝を、パンッと叩きながら立ち上がる。
「交換条件で、加入だぁ? 舐めんなよ! そんな仲間はお断りだ。だが、仲間になった奴のお願いなら、しゃーない。飲み込んじゃる!」
「同じような気がするけどなぁ?」
しょうさが大きく首を捻る。
私もつられて、首を捻りそうになった。
「ああん、そういうこと。つまりこういうことよン」
マイカさんが納得したようだ。みんなが注目する。
「つまり、遊驥ったら、ツンデレなのよ」
「ちゃうわい!」
マイカにそんなことを言われながら肩を掴まれ、遊驥は全力で振り払う。
「交換条件で加入してもらったら、取引した仲間になっちゃうけど、もう仲間になってる子のためなら、アタシたちは助け合う! ってことよン」
「あー、うん。なるほど」
私は納得した。
遊驥の性格を同時に理解した。
面倒臭いやつね。でも嫌いじゃない。
私は交換条件ではなく、遊驥の顔を立てることにした。
「はあ、わかったわ。じゃあ、私を加入させて、お願い。私は御坂美琴。本名よ。それからゾンビクイーンのこともお願いするし、雷神についても説明もする」
「それならヨシ!」
足を軽くガニ股にさせ、右足を少し上げて、右手で私を指さす遊驥。なんのポーズよそれ。
「まあ、ゾンビクイーンの案件は、成功報酬こそ高いが前金はないし、相手の企業は多重依頼してるし、代表してる会社もあんまりいい噂を聞かないところだったしな」
しょうさはそういって、ゾンビクイーンについての調査報告を削除してくれた。
「ありがとう。その上で、紹介したい子がいるんだけど」
「ほう、外の子か?」
「あ、気が付いてた?」
「わからいでか! ずっと監視しとるわ」
遊驥は舐めんなよと、腕を腰に当てて胸を張る。
そうよね。ハッカーグループだもん。
地下街あたりから、出入りを監視しててもおかしくない。
私は一度、アジトの外に顔を出して、美都の手を取った。
「いいわ。入ってきて。大丈夫よ、いい人たちだし、私がいるから」
「はい」
緊張する美都の手を引き、アジトの中へと招き入れる。
知らない人たち相手に萎縮する美都は、自然と私に腕の中に入ろうとする。
「お姉様……」
不安そうに見上げてくる美都。
しょうがないわねぇ……。
「平気よ。自己紹介して」
美都を抱き寄せて、安心させる。
「は、はじめまして。ゾンビクイーンです」
私の腕の中で、美都はゾンビクイーンであると告白した。
よく言えました、と頭を撫でると、美都は身体を預けてきた。
なんか、真優が「ひゅ〜」と小さく口笛を吹いた。なんか、癪に触るのよね、この人。
一方、マイカさんと遊驥は真顔。真剣そのもの。
「はあ〜、そういうこと…………。それでゾンビクイーンを見逃せと」
しょうさは大きくため息を吐き、察してくれた。
「どういうことだ、レールガン? 最初からゾンビクイーンと知り合いだったのか?」
遊驥は単刀直入に聞いてくる。もう、これは彼の性格だ。まだるっこいの嫌いのようね。
「知り合ったのは、日曜の午後、偶然出会ったの。それから彼女のお世話になって、いろいろあってゾンビクイーンって教えてくれたの。まあ、なんていうの。彼女はお父さんの仇を討ちたいから、ゾンビPCとかトロイの木馬を使って、証拠集めをしてたの」
「ほえーー。すごいな、君。ネットワークとかのことなら、俺たち以上だぞ、クイーン」
素直に感心する遊驥。
確かに遊驥もしょうさも、ゾンビクイーンの調査には手こずっていた。
美都のハッキングを確認させてもらったけど、美都なら一点突破で、学園都市のエリート高校、長点上機学園にも入れるかもしれない。
……まあ、初春さんと比べちゃうと、どうしてもってところがあるけど。あれは初春さんが例外中の例外、外れ値の外れ値なのよね。
「なんだったらぁ、ゾンビクイーンちゃんも加入する?」
「そりゃいい。実績十分だし歓迎するぞ」
マイカが提案し、遊驥がノリノリで勧誘する。
「はい。お姉様がいるなら!」
快諾する美都。
「いいの? よく考えて。別に悪の組織じゃないけど、それなりにやらかしてるハッカーのグループよ」
賽銭泥棒の捕り物だって、違法な調査やレイバーの危険な使用など、いくつも法律を違反している。
美都はそのことをわかって…………。
「私もハッカーなのですが?」
「そうだったわね」
つい忘れちゃうけど、この子は世界各国のパソコンやルーター、サーバーなどをゾンビPCにして操ってるのよね。
ゾンビPCに指令を出す時は、「わたしの言うことを聞きなさい!」という女王様な性格になるほどだ。
それに国際サイバー犯罪は私もまだやってないので、美都の方が上じゃない。
「一気にふたりも即戦力。こりゃ
私と美都の加入を、素直に喜ぶしょうさ。彼、大智っていうのね。
彼はパーソナルデータを改竄してるから、沢口という苗字しか知らなかった。
続けて遊驥が自己紹介をする。
「俺は篠原遊驥。ハードウェアとか電子機器、レイバーの担当。ハンドルネームはASC][。エースペアと読む」
まっ、いっか。
次にマイカさんが自己紹介を始める。
「アタシはブライトリー・ベーカー。祖父がヒッピーだったんで、ブライトリーとか派手な名前よン。本当はスターとかが良かったわ。担当は最年長としての責任者と……う〜ん、いろいろ全般ね。ハンドルネームは『ジャマイカからきたジャマイカ』で、マイカって呼んで。出身はフリスコだけど」
「フリスコ? サンフランシスコ生まれなのに、なんでジャマイカ?」
「女はね、うそつきなのよン」
「ふむ。ミスリードみたいなもんね?」
私の疑問に、マイカさんは肩をすくめて答えてくれる。答えになってないけど、一応理解できた。
そして壁の花だった真優が自己紹介。
「今までの3人が、財神黒客の創立者で、僕は途中加入の広瀬真優。レールガンちゃんには自己紹介済みだったね? ハンドルネームはヒロヒロ。財神黒客では調達やソーシャル面、車の運転が担当してるよ」
「まあフェイスマンだな」
「?」
真優の自己紹介後、遊驥が何かを言ったが理解できず、私と美都は同時に首をひねった。
遊驥は「知らんのかい! あとで配信みせちゃる!」と宣言して、説明はしてくれなかった。
「しかしなんだ、みこっちゃん」
「みこっちゃん?」
遊驥が妙な呼び方をしてきた。
私の呼び方、それなのね。でも雷神騒ぎと、エンジニアから崇められてる今、御坂とか美琴とか言われるとバレそうなんでいいけど。
「無事加入してくれたし、オレたちも依頼を消極的破棄したからいいが……。ゾンビクイーンを見逃せとの交換条件と、外に待機させてたその子を照らし合わせたら、ゾンビクイーンの正体気づいてたと思うぞ? 断ったら、どうするつもりだったんだ?」
「そん時は、あんたたちに宣戦布告するつもりだったから」
「怖いわ!」
「怖っ」
「レールちゃんは怖いねぇ」
「あら怖い」
「は、半分は威圧とか脅しみたいなモンよ。仕掛けたりとかしないから」
4人が口々に怖いと言い出したので、慌てて少し訂正する。美都も腕の中で、小声でちょっと驚いていた。
「そりゃまあ、オレたちもみこっちゃんの雷神? そんな本気を見たから、そらビビるだろうけどさ」
「みこっちゃん呼び、確定なのね」
遊驥の呼び方に少し引っかかるけど、現状、御坂や美琴と言われると支障があるし、あだ名やレールガン呼びされたほうが助かるのも事実なのよね。
「ビビるだろうが、あんた、その言い方は、それはそれでオレたちを舐めてるぞ!」
「は?」
遊驥が言葉で強く当たってきたので、私も睨み返す。
「雷神様? 天才ハッカー? それがなんだ。やりようはいくらでもあんだ。この遊驥様とその仲間たちを侮ってもらちゃぁ、困る!」
「ふーん。言ってくれるじゃない。どうやるつもりだったの?」
美都を右手で抱き寄せ、軽く胸を張って左手は腰に手を当てる。
この、やってごらんなさいよ、のポーズを見ても、遊驥は退かない。負けじと返してくる。
「なんなら、みこっちゃん。今から
「面白いじゃない。抜けると言って、私は部屋から一歩でたら……始まるのよ?」
「一歩出るまで、準備もしとらんのか? こっちはもう準備は終わってると言ったら……」
「こっちは準備なんてする必要なんてないって言ってんのよ……」
「ぐっふっふ〜……」
「ふっふっふっ……」
売り言葉に買い言葉、私も遊驥も不敵に笑う。
「お、おいおい、遊驥、それにレールガン、ここは穏便に…………」
耐えきれず、しょうさがおたおたと割って入ってきた瞬間。
「だぁーーーはっはっはっはっ! ひー、たまらん、がはははー! ごほ、がは!」
「あははっははーっ! 限界、げん、かい〜!」
もう限界! しょうさの仲裁が、我慢の限度ーっ!
私と遊驥は堪えきれず、腹を抱えて笑い出す。
「お、おまえら! 遊んでるのかよ!」
私たち、ふたりの様子を交互に見やり、遅れてからかわれたと気づいたしょうさが地団駄を踏む。
「お、お姉様?」
「あー、大丈夫よ、美都。しょうさも、みんなもご、ごめんなさい。なんか、こう、おかしくて」
「まあ、なんとなく、そうではないかなと」
最初から最後まで、壁に寄りかかったままの真優は、やり取りを疑っていたようね。
「遊驥なんて、最初から肩が笑ってたもんねぇン」
そしてマイカさんは、遊馬の様子で確信していたようだ。
「あー、あと。なんか重ねて、ごめんなさいね。確かにあんたたちに宣戦布告とか、失礼だったわ。やりあうつもりもないし、やりあいたくもないし、なーんか嫌な目には本当に合いそうだし」
確かに、どこかで彼らを侮っていたかもしれない。今の私は学園都市のレベル5じゃない。
別世界に紛れ込んだ身寄りのないレベル3だかなんだか、ふわふわでよくわからない存在だ。
この世界に根ざした相手を、侮って相手取るなど危険極まりない。
「こちらこそ、雷神様の天罰ぁ喰らいたくない。そこに神棚作って、
こちらの謝罪を受け取り、遊驥も冗談まじりに矛を収めてくれてた。
「あー、おまえら、ふざけんなよ!」
おさまらないのは、本当に慌てて仲裁に入ったしょうさのほうね。
「ごめんごめん。でも今ので遊驥とかしょうさの立ち位置わかったわ。しょうさって、このグループのソフトを任されている……。ソフトウェアだけでなく、みんなの接着剤で潤滑油……」
「工業製品かよ、俺は! もうなにもしねーぞ、俺!」
褒めたつもりなのだが、照れ臭いのかまだ怒ってるのか。ちょっと拗ねたようすで引き下がり、ソファにどかりと座った。
「あら、しょうさ。それならグループ名変えましょうかン? 雷神黒客って……」
「ぐわ〜っ! それだけは! 絶対にやめろー!」
頭を抱えて拒絶するしょうさ。
なんか、財神黒客って名前にこだわりでも持ってるのかしら?
「しょうさは、小学校の頃、転校生の女の子に当時のハッカーグループを乗っ取られた経験があるんだよ。さ、お嬢さんがた、立ちっぱなしじゃなんだから」
しょうさの過去をバラしながら、真優が二脚の椅子を持ってきて勧めてくる。
バーのカウンターにあるような、背もたれが最小限で、座面の位置が少し高いアレである。しょうさも座っているが、こちらの方が少し綺麗。というか、しょうさのカウンターチェアがシールとかで汚れすぎとも言う。
抱き寄せていた美都を解放し、先に座らせ、私も席に座った。
「さて。じゃあ、私のことを……なにから話しましょうか」
ついに私の告白が始まる。
ブライトリー・ベーカー【ジャマイカからきたジャマイカ】ことマイカは、誰というわけではありませんが、モデルはいます。REDの”ライトニング”ベーカーです。
10/21 遊驥の呼び名を一本化