とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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今回は三人称です。
構成をミスって、前回は短く、今回は長くなるというアンバランスです。


先手潜入

 財神黒客(ツァイシェンヘイカー)が悪だくみをした翌日の深夜。

 美都から正式に氷川インダストリーの調査を受けた財神黒客(ツァイシェンヘイカー)として、品川の勝島運河沿いへ向かい、メンバー6人が乗る大型バンに走っていた。

 

 真優が用意した車は、大型のバンで業務用ナンバーとなっている。側面にはあまり聞きなれない企業名が、ロゴと共に描かれていた。

 

 登記はされておらず、ペーパーカンパニーですらない。だが、企業ホームページやネットの中では存在している幽霊のような会社である。

 

 運河沿いは晴海や芝浦に比べ、小さめの倉庫ビルや企業ビルが並ぶ。

 裏路地のように狭い道の反対側は、住宅街となっていて、独特な街並みとなっていた。

 

 目的の氷川インダストリーの入るビルから少し離れた入江広場には、運河に突き当たり、小さなロータリーでUターンできる場所があった。

 そのロータリーで真優が運転する大型バンが、Uターンせずに停車する。

 

「ついたわね」

 

 御坂美琴は機材がひしめき合うバンの後部座席で、帽子を目深にかぶり直した。

 

「本当に大丈夫? レールガンちゃんにかかる負担が大きいわよン」

 

 機材に囲まれ、小さくなっているマイカが後部ハッチを開ける御坂美琴に、心配そうに声をかける。

 御坂美琴は優しい笑顔で答え、美都の頭を撫でる。

 

「大丈夫です。ちょっと前には同じようなことを毎日してたし……。なんてったって、ロキのためですから」

「お姉様……」

 

 仲間であり、今回の依頼者であるロキは、複雑な気持ちでここにいる。

 復讐は諦めきれないが、巻き込む人が増えていて、その中に慕う御坂美琴がいる。

 今の美都は、()()()()()()()()()()答えを出せないで戸惑っている。

 

 そんな美都に、大智が声をかけた。

 

「レールガンへの心配もあるんだが、ロキ。キミの方は大丈夫?」

「なにがですか?」

 

「結構、依頼料、少なくない額だったけど……」

 

「後見人になってくれている父の親族も、報復には賛成なので、お金は大丈夫です」

 

 美都は両親がいないため、親族が未成年後見人となっている。遺産の管理はその親族が行っているが、理由があれば大金を用意してくれる。

 

「そう、それならいいけどさ」

 

 大智はそう言いながらも、復讐にお金を出してくれる親族とは? と気になる点があった。そしてちらりと、バンの助手席に座る遊驥を見た。

 

 遊驥は素知らぬフリで、運転手の真優にアイマスクを手渡している。

 

 実は、この美都の親族を遊驥は調査していた。

 多大な遺産を管理する後見人は、往々にして魔が差す。

 最悪の場合、氷川誠一郎と繋がっている心配すらある。

 

 結果、()()白だったので、遊驥から言うことはない。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

 靴ひもをしっかりと縛り直した御坂美琴は、美都の頭を「大丈夫」とポンポンと叩いて、後部ハッチから車外へと出た。

 マイカが身を乗り出し、ハッチを閉めて

 

 バンを背にした御坂美琴の眼光が、文字通り光る。

 

「すげぇな。みこっちゃん」

 

 氷川インダストリー関連会社の高い壁を乗り越えていく御坂美琴。遊驥はそれをバンの助手席から、暗視双眼鏡で眺めてそんな感想を漏らした。

 

 真優は運転席でアイマスクをつけて仮眠を始めた。運転手の体調は事故に直結するため、体力温存である。

 

 + + + + + + + + +

 

「サーバールームでもないのに、寒いわね……」

 

 難なくビルに侵入した御坂美琴は、吐き出す息が白くなるんじゃないかという気持ちで呟いた。

 氷川インダストリーの関連施設、氷川産業センターは無味無乾燥なビルである。

 エアコンがガンガンに効いており、薄いTシャツにかなり短いホットパンツの御坂美琴は、防犯カメラの位置を再確認しながら手足をさする。

 

 つい先日まで、氷川インダストリーの本社であった場所である。今は湾岸の先進的ビルを借りて、引っ越し中である。

 

 財神黒客(ツァイシェンヘイカー)が、ここを狙った理由は、社内サーバーがまだ存在しているからだった。

 引っ越す予定はあるようだが、業務の一時停止を嫌い、このまま運行しているようである。

 そして本社と違い、人が少ない。

 

 はずだった…………。

 

 

「なによ、結構いるじゃない」

 

 システム管理者が常駐してるとは聞いていたが、詰めている警備員の数が尋常ではない。

 

 昼間のうちに、品川付近のctOSは掌握しているため、防犯カメラの目や、センサーは誤魔化し放題の御坂美琴だが、さすがに人間の目はどうにもならない。

 

 幸い、警備ロボが主に見回りしているため、これを回避するのは容易い。

 

 引越しが進んでいるため、社内の備品は少なかった。1フロアまるまるものけの殻で、休憩室にただ一つ残され、貸し出し業者が回収していない自販機だけが煌々と光っているのは異様な雰囲気だ。

 

 いざというとき、隠れるところが少ないなと、御坂美琴は悩んだ。

 

 モーター音を鳴らし、愛らしく警備ロボが御坂美琴の横を通り過ぎていく。

 警備ロボがいなくなると、廊下はとても暗い。非常口のサインと、足元の誘導灯が頼りだ。

 

 しかし、御坂美琴には電磁波レーダーがある。

 この手の暗闇は、苦にならない。

 

 警備員の見回り時間と、予測されるルートを確認、避けながら御坂美琴はサーバールームへ向かう。

 

 小さいながらも運河に面しているため、そちら側は大きな吹き抜けが用意されていた。

 事前に確認した図面では、住宅街側に5階分の研究室や事務所等、運河側は吹き抜けが3階分、その上4,5階が元社長室、役員室、会議室などなっている。

 

 運河側の吹き抜け構造を、3階から見下ろす。

 吹き抜けは大きなシャッターが運河側にあり、ビル側は壁と小さな窓だけだ。

 コンテナがいくつも並び、周囲には作業中に停止したようなフォークリフトがある。あきらかに引っ越し作業の途中という感じだった。

 

「ふーん。冷却が必要な機材かしら?」

 

 いくつかのコンテナには霜が降りており、なにか冷却された荷物が載せられていることが想像できた。

 御坂美琴は、ビル全体が冷えていることが理解できた。

 ヘリウムガス専用のトレーラーもある。これも高温下の仕様が制限されている車で、ある程度の冷却が必要だ。ビル内が寒い理由が理解できた。

 

 警戒しながらも、観察しながら細かい情報を集め、サーバールームへと向かう。

 

 ガラス越しにいくつものブレードサーバーが稼働している。

 深夜にも関わらずアクセスがあるのか、かなりのデータ転送量がある。

 

「ここまでするならレンタルでいいんじゃない…………。いえ、できない理由があるのね」

 

 極秘の研究データか、さもなくばよほど後ろめたいなにかがあるか。

 

 御坂美琴はサーバールームを囲うガラスドアのロックを開ける。

 軽いガラスのドアを開け、中に侵入。エアコンとサーバーの駆動音が耳をつく。

 

 サーバーに近づくと、ほのかな熱が感じられた。

 これを冷やすため、冷房がフル回転しているのだが、今の御坂美琴はこの発熱が愛しくてたまらない。

 

 抱きついて身体を温めたい欲求を抑え、上位端末にノートパソコンを接続する。

 

 通常、手続きと許可なく端末が有線接続されると警告が出るのだが、そこは御坂美琴と財神黒客(ツァイシェンヘイカー)使用のパソコンである。

 

 なんの抵抗もなく、サーバーは全てを御坂美琴に開示する。

 

 あたりをつけていた情報を検索し、一気にデータを吸い出す。

 一瞬、外部への転送速度が遅くなっただろうが、気がついても経路の不具合と感じられる程度だ。むしろ転送量が普段から多いことが、使用者たちに気が付かせない効果があった。

 

 データを一通り抜き出した御坂美琴は、ノートパソコンの有線を外し、丁寧に差し込み口のシャッターを閉めた。

 意外と、このシャッターが異物を挟んだりして、使用したことがバレる場合があるからだ。

 念には念を。

 

 御坂美琴は痕跡を消し、廊下へと出た…………。

 

 誰かが近づいてくる!

 

 完璧に油断してた! と、御坂美琴は自分の迂闊さに怒りすら覚えた。

 

 警備員がルートを省略して、近道としてここを通るようだ。

 本来ならば、端までいってから戻り、ここを通るはずなのに、この警備員はサボりで御坂美琴をピンチにおとしいれる。

 

「……っ? 誰だ?」

 

 サーバールームのドアを閉める時の音が聞こえたのだろう。

 御坂美琴のいた場所へ向け、警備員のライトが向けられる。

 

 と、そこには誰もいない。

 

「気のせい……か」

 

 自分を安心させるためか、警備員は大袈裟に独り言を呟き周囲を見回す。

 やはり異変はない。

 警備員はそのまま、サボりルートで守衛室へと戻って行った。

 

 真っ暗となった廊下の床に、音もなく御坂美琴が飛び降りてきた。

 電磁気を使い、天井に張り付いていたのだ。

 しばらく膝をついたまま、静かにやり過ごす……。

 

 完全に警備員が立ち去ったことを確認してから立ち上がる。

 

「勘が戻ってきたと思ったけど、やっぱりどこかで油断してるのかな?」

 

 落ち着きを取り戻した御坂美琴は、軽く反省をしてこの場から立ち去る──。

 

 

 

 + + + + + + + + +

 

「お、戻ってきたぞ」

 

 助手席の遊驥が、悠々と帰ってくる御坂美琴を見つけて、後部の仲間たちに伝えた。

 

 御坂美琴はビル方面を警戒するため、運河の堤防を後ろ向きで飛び降り、大型バンの前に着地する。

 

 かがむとジーンズパンツのダメージ部分が広がり、もはや彼女(雷神)の代名詞ともなったストライプの下着が覗く。

 遊驥は教えるべきかどうか悩んで、眼福を選んでやめた。

 

 助手席から連絡を受けた大智が、御坂美琴が後ろに回る前に後部ハッチのリアゲートストッパーを取り外す。

 

「ただいまー」

 

 大きな後部ハッチを引き上げ、御坂美琴が帰還し、美都は席を譲った。

 

「おかえりなさい。お姉様、どうぞ」

 

「ありがとう…………って! もう、しょうがないわね」

 

 譲られた席に御坂美琴が座ると、美都は即座にその膝の上に座った。

 最初こそ困惑した御坂美琴だったが、屈託のない笑顔を向けられると、なれた様子で膝のうえの美都を抱き寄せて頭を撫でた。

 

「うわ、お姉様、冷たい!」

「あ〜〜、美都ちゃんの体温あったかーい。ビルの中、どこも冷房効いてて冷え冷えだったのよー」

「ひゃ、そ、そんなとこ〜」

 

「なにやっとんじゃ…………。おい、ヒロヒロ」

 

 助手席から遊驥の呆れ声が聞こえた。隣で仮眠している真優を起こす。

 

「……ん? あ? 終わったかい、レールちゃん?」

「終わったわよ。ねー、美都ー」

「……ッ! …………!」

 

 真優に返事をしながら、御坂美琴は美都で暖を取る。

 その様子をバックミラーで確認しながら、真優は眠気覚ましに身体を伸ばす。

 

「はい。う〜〜〜〜ん。じゃあドライブに行こうか」

 

 真優はゆっくりと車を発進させた。

 ロータリーを使ってUターンし、車を現場から遠ざける。

 車の運転を後ろから見ながら、御坂美琴は珍しく真優へ声をかけた。

 

「寝起きでよく運転できるわね」

「特技なんだよ」

「ふーん……」

 

「なんなら朝のベッドの上で証明」

「美都は暖かいわねー! はい。しょうさ。これ、研究資料と帳簿のデータ」」

 

 真優がからかってきたので、御坂美琴は全力で誤魔化した。

 内心、やっぱり真優と関わるのは止めようと思う御坂美琴であった。

 

「俺の出番なかったな」

 

 大智はそう愚痴りながら、バン内のハイテク機器を操作する。御坂美琴から受け取った情報を仕分けし、纏めていく。

 先ほどからまったく反応の無くなった美都を解放し、御坂美琴は大智の愚痴にフォローをいれる。

 

「そんなことないって。美都を見守ってくれてるし、外の警備体制を監視してくれるって相当助かるのよ」

 

「そんなもんか?」

 

「外を見ててもらえれば、内部で注力できるから。不意に深夜の来訪者、って結構あるのよ、こういうところって」

「…………」

 

 そんな経験があったのだろう。そう思わせる言い振りだった。

 マイカは無言で、御坂美琴のそうせざる得ない背景を想像し、深刻に考え込む。

 

「いやぁ。すごい進入テクニックだな。俺たちじゃ真似できん。この篠原遊驥! 感服した!」

 

「昔取った杵柄ね。先月は研究所に進入したり、破壊したりと、30はやったから」

 

 マイカと対称的に、無邪気な遊驥の賞賛。

 御坂美琴はどうよと胸を張る。美都はそんな御坂美琴に、手足をさすさすとされて悶絶している。

 そんなとき、データを纏めていた大智が、驚いたように声を上げる。

 

「うわ、まじかぁ……」

 

 研究資料を見ていた大智が、身震いしながらドン引きしている。

 近くにいたマイカが、画面を覗き込む。

 

「どうしたのン」

「見てみろ、氷川ってやつ、人体実験してやがる」

 

 バンの中が、一瞬静かになった。

 まさかという空気だ。

 

「発表では、まだ動物実験中よねン?」

「ああ。人体への利用は、申請すらしてないはずだ」

 

「うーん。そこまでするようなことかしら?」

 

 御坂美琴は、美都の頭をかいぐりかいぐりしながら、防音材の貼られたバンの天井を仰ぎ見る。

 

「研究費に余裕がないと、申請を待ってる間に融資が受けられなくて、破産するってこともあるが、そういうもんじゃないな。それなら立派で大きな()に引っ越しなんぞせん」

 

 遊驥が企業でよくあるパターンを想定し、語ってくれたが自ら否定する。

 

「一応、確認してみましょう。大智。とりあえず、お金の流れってどうなの?」

 

「使い道は多岐にわたるから、ちょっと時間がいる…………。資金元は、少し前まであちこちだったが、今は石木(いわき)財団の一本だな」

 

「石木財団?」

 

「あー、岩城の妖怪ジジイのところか」

 

 助手席でカロリーメイトをひがじっていた遊驥が、口の悪い反応をする。

 

「財団は石と木材の木と書いて、いわきだが、財団の理事長は、(いわ)(しろ)と書いて岩城ってんだが」

「や、ややこしいわね。同じ字で統一しなさいよ」

 

「俺もそう思う。岩城ってもと華族で、戦後の財団解体でも、海外にだいぶ資産残してんだわ。そんで昭和の高度成長期に、美術品やらで財団を再編。それからバブルを通じてぶいぶいよ。で、その理事長。うわさじゃ戦前から生きてるとかいう皺くちゃのジジイでな。これがまたぁ〜胡散臭いこと、胡散臭いこと」

 

「詳しいのね」

「そら、オヤジが篠原の代表なんてやってたら、見たくなくても顔をあちこちで見るんだわ」

 

 遊驥はイヤだイヤだと、助手席で姿勢を崩して足をダッシュボードに乗せた。

 

「財団に関係する法律が変わったから、公益財団と一般財団でわけてからも、なんかやっちょるなぁ〜と思ってたが、製薬、化学にも関わってたか」

 

「おい! みんな! これ人体実験の名簿だぞ」

 

 大智が信じられないと声をあげた。

 

「やだン! 多くない?」

「なんじゃと!」

 

 マイカが大きな体をすくめる。

 遊驥も足をダッシュボードから降ろし、膝の上に載せたタブレットの別端末で確認をする。

 

「100人以上じゃとぉ~。岩城の妖怪じいさん、何考えてこんな奴に金出しとんじゃ……」

 

「113人ね。そのくらいじゃ、まだ成果も出てないでしょ」

 

 人体実験の数が、100を下らないとなると、普通の感覚ではゾッとするものだ。

 ただひとり、1万人の犠牲をその肌で感じ、学園都市の闇に少しだけ触れた御坂美琴は動じない。

 

「ちょっと待って、しょうさ」

「どうした?」

 

 すっかり大人しくなった美都を解放し、御坂美琴は大智の端末画面を指差す。

 

「今の実験になった人の資料、戻せる?」

「おう」

 

 大智が操作すると、氏名年齢やバイタル測定データと顔写真が並ぶ名簿が数人分、戻った。

 そこには、いまいちパッとしない男性の写真があった。

 

「こいつ…………」

「あ……」

 

 美都と御坂美琴は、113人中、108番目の人体実験の被験者に見覚えがあった。

 

 2人が出会った解体中のビルで、出入り口をぼーっと見張っていた元サラリーマンの写真と個人データが画面に映し出されていた。

 

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