とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
自分は何もしてないのに、自分だけが酷い目に会う。と、日ごろから漠然と考えていた。
あくまで漠然と、である。具体的に思考してその結論を出してはしていないし、思いを言語化することもできない人間である。
テストと勉強はそこそこできたので、地方の大学を卒業し、時代が人手不足ということもあって、するりと東京のとある中小企業に就職。
特になにもせず、できることもなく、雑用をしているのだから、このくらいの給料をもらって当然と安穏としていたら、いつの間にか退職を勧められた。
そして不満はあったが逆らうことなく退職。
日雇いでなんとかその日暮らしをしながら、ずるずると借金を重ね、いつの間にか多重債務者。
「俺は、なにもしていないのに! こんなことになるなんて、あいつらが酷い!」
という考えに至った。
ちなみにあいつらが悪いと思っていても、あまりに解像度が低く、誰がどのように、どのくらい悪いかは本人もわかっていない。
池袋でちょっと割りのいいはずのバイトにありつけ、見張りをしているだけで済むと思ったらひどい目にあった。と彼は考えている。
安洞の半分も生きていないような小娘にあしらわれ、仲間だと思っていたガテン系のヤツには殴られた。
だから……。
「そうだ、あいつらが悪い」
悪意が力になる。
力が悪意を向けた相手を傷つける。
今の彼は、そういうふうになっていた。
そういうふうになった安洞の足元には、自分を売った闇バイトの元仲間であったチンピラの若者3人が、
+ + + + + + + + +
黒木美都は、行動力がある。
中学1年生の女の子にしては、行動力がある。ではなく、世間全般の人々と比べても、行動力がある。
その美都から見て、御坂美琴は憧れの存在となっている。
最初こそ、どこか保身があり、御坂美琴の優しさにつけ入る思いがあった。
もちろん寂しさがあったから、御坂美琴という都合の良い存在に寄り添った面もある。
よるべない美都が、よるべない御坂美琴を利用したともいえる。
どうも彼女には、元の世界にパートナーとクイーンという
……今、ノイズが入った?
美都は「ああ、クイーンは心ならずも、という意味ですね」と理解して、「お姉様にも触れられたくない傷があるんですね」と深く追求しないと決めた。
とにかく、美都は憧れの御坂美琴と共同生活状態である。
結局、美都たちは池袋のマンションから避難することはなかった。
かわりに御坂美琴が付きっ切り。学校以外では、常に御坂美琴と美都はセットである。
送り迎えも一緒だ。御坂美琴の見た目がボーイッシュなせいで、美都にはカレシがいると噂になってしまった。
氷川インダストリーへ、偽の調査報告もする計画も
送信元、送信先の偽装だけとなった。
遊驥が言うに「先手がどうのとか言ったけど、思った以上に大事になった。正直、ビビった。足元を固めよう」とのことである。
この意見に、御坂美琴も美都も、異論はなかった。
現在、御坂美琴は美都が学校へ行ってる間、各所のctOS
美都は新規のゾンビPC拡散と、偽装に力を入れている。
相手が想定以上に危険そうであったため、
そうして、氷川インダストリーの闇に気が付いてから、4日たった日曜日の朝。
「ふわぁ、おはよう」
「おはようございます。…あっ、お姉様、またその恰好なんですね」
「ごめん、ごめん」
御坂美琴は指摘され、慌てて衣服を整える。
美都が御坂美琴と暮らし始めて、早くも一週間たった。
御坂美琴は意外と夜更かしをするタイプのため、美都より後に寝ることがあった。そういう時は、だいたい今のソファで寝ている。
しかもパジャマに着替えないで、御坂美琴は寝てしまう。
寝苦しかったのか、御坂美琴はホットパンツのフロントボタンだけでなく、チャックまで開けていた。
憧れのお姉様の下着に、最初はドギマギした美都だったが、今は慣れてしまった。
まるで熟年夫婦のようだ。と、美都は勝手に脳内変換して、内心それはそれで楽しんでいる。
御坂美琴は居候という立場を気にして、日中、掃除洗濯などをしてくれるため、しっかり者のイメージあったのだが、いたるところでらしからぬだらしなさを見せる。
「ところで美都。今日は予定大丈夫?」
「はい。お姉様が家事をしてくれたので、日曜はまるまる空いてます」
「そう、よかった」
「というか、お姉様。ハウスキーパーがいるので、そこまでされなくてもいいんですよ」
「いやぁ、ついね……」
目線を逸らし、御坂美琴は自分の行動をうまく説明できないでいた。
現在、御坂美琴は居候として、家事をできる範囲で行っている。
氷川への報復を手伝っているし、なにより恩があるからよいと美都に言われているが、運動がてら掃除など行っていた。
こうしてふたりは、いつもより少し遅い朝食を取り、今日の目的地『秋葉原』へと向かう。
御坂美琴はいつにもまして、ボーイッシュな格好をしている。ホットパンツは同じだが、袖なしのパーカーを上着に羽織っている。いざという時、フードで顔を隠すためだ。
こうしてふわりと上着を重ね着することで、女性的なラインも打ち消せる……はずだったのだが、パーカーの裾が若干長すぎたため、ホットパンツを覆ってしまう時がある。
そうなると途端にフェミニンなスタイルとなり、健康的な太ももが眩しく、超ミニスカートか履いてない状態に見えて、美都と周囲の視線を集める結果となった。
一方、美都は女の子を強調した開襟ダブルボタンの夏ワンピースで、さっぱり涼しいイメージの服に着替えた。
体格に合わせ、少しコンパクトな革のハンドバッグに、革のかわいらしい靴で、3色に合わせている。
お嬢様の休日お出かけスタイルで、とてもハッカーの仕事に行く姿に見えない。
道中、御坂美琴をトールと呼び、美都はロキと呼ばれ、知らぬ人が見れば美少年と美少女のデート姿であった。。
御坂美琴は常に周囲の敵意に警戒してるが、そのため少年少女のデートを見守るような視線には気がついていない。
気がついて、喜んでいるのは、美都だけである。
こうして御坂美琴は再び秋葉原の地にたった。
今日は御坂美琴を、御坂命として見る目はない。
安心して御坂美琴は駅前に出て、電気街を歩く。
「このあたりね」
スマートフォンの地図を閉じ、御坂美琴は秋葉原の街を見渡す。
御坂美琴は
やっと現代人の若者らしい生活ができる! と御坂美琴は思ったが、スマートフォンがないと現代人の若者らしくないというのも、どういう印象なのかと疑問に思った。
さて、彼女たちの今日の目的は、秋葉原周辺のctOS掌握である。
御坂美琴は目的地付近のビルを見上げながら笑顔だった。
「いやぁ、美都が手伝ってくれて助かるわー」
「そ、そんな。私は設置工事をしたところを、調べただけです」
美都はジップパーカーの裾から伸びる太ももから視線をあげ、御坂美琴のお礼に対して
「地道に探す必要がなくなっただけでも、ほんと助かる助かる。私がやったら一個づつだから、時間がかかったこと、間違いなし!」
ctOS
役所でも設置場所は記憶されているが、基本、そういったデータは内部での閲覧用なので、外からアクセスはできない。役所に正式な手続きをして、情報をもらうわけにいかないので、あとは夜の役所に潜入することになるだろう。
つまり、ctOS集合端末の設置場所を一つ探すのに、一つの電気設備の会社を調べなくてはいけない。
その点、こういった場合に限るが、マンパワーならぬゾンビパワーで、数に任せ一気に調べる美都の能力は、御坂美琴の調査能力を上回っている。
周囲の注目を受け、秋葉原電気街を、堂々と歩く御坂美琴。男女問わず、その美貌は視線を集める。
美都は最初こそ戸惑っていたが、今は御坂美琴に引かれて気にせず歩く。
「よし、ここね」
秋葉原でももっとも人が行き交う、中央通りの一角。店舗前の歩道にまで、ガチャガチャ筐体を並べる店舗が入るビルを見上げた。
10階ほどの細いビルが並び合ううちのひとつ。無骨な電気店の看板に、アニメのキャラクターのポスターやら看板やらと、実に電気街らしいビルだ。
「人目のつくここで、待っててもらえる? なにかあったら、すぐに来るからね」
「わかりました」
愛しの御坂美琴は周囲を警戒し、ビルとビルの隙間に身体を滑り込ませる。磁力を使ってするすると狭い合間を登り、あっという間にビルの屋上へと到達。美都から見えなくなる。
御坂美琴は今日までに、10ほどのctOS集合端末機を御坂美琴は掌握している。
超能力などよく知らない美都でもわかるほど、愛しの御坂美琴はその能力を高めていた。
御坂美琴に言わせると、まだまだ全盛期の1000分の1にもなっていないというが、電磁気で立体的な機動を得ている。
普通? の女の子である美都からすると、御坂美琴はまさに別世界の人間に見えた。
そこはかとなく疎外感を感じてため息をついた美都は、このまま待つことにした。
ふと隣のビルを見ると、店舗前にずらりと並ぶガチャガチャの前でかがみ込み、熱心に目当てのものを探しているスーツ姿の白人男性がいた。
美都の視線に気がついた彼は、小銭を持ったまま美都に笑顔で近づいてきた。
「チョットすみませーん。いいですカぁー?」
大柄な男性が声をかけてきた。
美都は身構え、御坂美琴に緊急連絡するブザーを握ったが、すぐに警戒が解けた。
アニメのガチャガチャの前で、まごまごしていた人物ということもあって、あまり脅威を感じない。
「娘へのお土産です。あー、キテレツなヤイバ? その、Animationのitemをね。探しててね。おー、でも私、むずかしい漢字、読めない」
大袈裟に肩をすくめ、首を左右に振る。あまりに残念そう立ち振る舞う大袈裟な姿は、さらに美都の緊張感を解く。
スーツの男性の日本語は流暢だ。日本に慣れている感じもする。
日本語の読み書きはできても、それは日常的なものか、ビジネス文書などお堅い物であろう。
まして慣れない人には、アニメのキャラは同じに見えるだろうし、なにより彼の説明した作品は、タイトルロゴが非常に独特である。
タイトルロゴを形で覚えているならいいが、作品名で探していてはいつまでもわからない。
美都は多少、英語はできるが、あえて日本語で、スーツの外国人男性に答えた。
「わかりました。えーっと、そのアニメのガチャガチャ……これですよ!」
白地に赤黒の丸、独特な大小ゴシックで描かれたタイトル文字の指さす。
「オー、これですか! ふりがな。ありますね!」
「これをマークとして覚えれば、間違えませんよ」
「オーケー。理解しました。サンキュー」
スマートフォンでタイトルロゴを撮影するスーツの白人男性。
オーケー、オーケーと言いながら、ガチャガチャを回し始める。
よかったと、美都は御坂美琴を待つため、また歩行者の邪魔にならない場所へ……。
「お前かーっ!!」
突然、男の叫び声が聞こえた。
同時に、季節外れの春一番のような巻き上がる風が、美都たちを荒々しく叩いた。
体格の良いスーツの白人男性は耐えたが、美都はスカートを押さえながら数歩、後ろによろめいた。
異常事態に、スーツの白人男性も、鋭い眼光へと変わる。
その眼光の先で、叫ぶ異様な男がいた。
「お前、お前! あの時の! お前のせいでーーーっ!」
声の発生源である風上、ネクタイを外したサラリーマン風の男。それだけならいいが、髪は乱れ、裸足で、目は虚ろ。
裸足で出血しているらしく、ドス黒い何かで汚れている。
明らかに常軌を逸した者である。
唖然とする美都を指さし、お前のせいだ、と何度も叫ぶ。
周囲の人も「警察を呼ぶか?」と、ひそひそと相談しあっている。
ガチャガチャの前で屈んでいたスーツの白人男性も、のっそりと立ち上がり、温和な表情から警戒する顔付きとなった。
「お、おおおお、お前のせいだぁーーっ! ひ、ひひ、引っ張る!」
裸足の男が叫んだ直後、秋葉原にいた群衆は、大きな構造物が湾曲するような大きな音を耳にした。
同時に、異様なサラリーマンの男性へ向かって、ガチャガチャや販促の
この異常な光景を目撃した群衆は息を呑み、悲鳴があがった。
「引っ張ってぇぇぇえっ…………押す!」
裸足の男が、両手を突き出すと、無意に浮いていた物体たちが、一斉に美都へ目掛けて飛んだ。
美都は避けようとしたが、あまりに飛んでくる物品が多くて立ち尽くす。
スーツ姿の白人男性が、動けない美都を守るため、咄嗟にその大柄の体格を活かして庇う。
ふたりに向け、大量のガチャガチャ筐体や看板が次々と激突し、秋葉原の歩道に、無骨な山が出来上がった。
外れた看板などが、後方にいる人たちにもぶつかり、少なくない重軽傷の怪我人が出た。
この瞬間、平和な秋葉原の光景が、一変した。
現場を直接見ていなかった者も、道に散乱するガチャガチャや幟などを見て、車が事故を起こしたのかというくらいの視線を向ける。
だが、異常事態を目撃した者たちは、驚いて立ちすくんだり、逃げ出したり、スマートフォンのカメラを向けたり、興味本位でより近づく者たちとで、乱雑な動線を見せ始めた。
昔、秋葉原で起きた事件を想起して、素早く逃げ出す者もいた。
喧騒とガレキの山の中、美都は抱えていた頭から手を離し、自分が無事であることに気が付く。
「だ、大丈夫か?」
額から血を流す白人男性が、抱えた美都を守っていた。
白人男性は流暢な日本語で、美都の安否と状況を確認する。
「怪我は見たとこないようだ……。あの男は君を狙っているようだが? 心当たりは?」
「ひ……いえ」
美都はひきつって言葉が出ない。
返答を聞いてから、白人男性は後ろを振り向き、ガレキの隙間から挙動のおかしい裸足の男の様子を確かめる。
騒ぎになっている周囲に向かって、裸足の男は怒鳴り散らしていた。
「そうか。……むう!」
白人男性が唸り、美都へガレキが落ちないように立ち上がろうと力を込めた。
磁励音が鳴る。
美都は機械工学も少々齧っている。すぐに磁励音に気が付く。
それはモーターを制御するインバーター音に似ていたが、そんな大電力を要する機械が、道端にあるわけがなかった。
美都の冷静な部分が、磁励音を記憶する。
「どうやらつまらないことなっているようだ。あれはまずい」
自転車と看板をどかしたスーツの白人男性が見た物は、よだれを撒き散らし必死の形相を浮かべながら、乗用車を掲げあげている裸足の男だった。
美都はケガこそないが、ガチャガチャや自転車に埋もれた状態だ。すぐに逃げることはできない。
スーツの白人男性も同様だ。
頭にぶつかった看板を退いたが、まだガチャガチャなどが折り重なって、背中に載っている状態である。
ぶわっという風と共に、乗用車がルーフ部分をこちらに向けて迫って……
「こんのぉっ! 美……私の、ロキになにしてくれてんのよッッぉ!!」
急に重力を思い出したかのように、乗用車が歩道へと落下する。
地面が揺れ、埃が立ち上がるが、すぐに電撃によって打ち払われた。
視界が開けると、フロントを歩道にめり込ませ、コンクリート埃を巻き上げる乗用車が見える。
その上に、電撃を纏う御坂美琴がいた!
「お姉様!」
「For real……?」
美都はガレキの山の中で飛び跳ね、御坂美琴へ手を振り、スーツの白人男性は美都と御坂美琴を交互に見やり、信じられないと目を見開く。
9月も終わろうとしていた平和な秋葉原に、再び雷神が降臨した。
「こんのぉっ! 美(美都って言っちゃまずいわよね)……私の(友達って言えばいいのよ)、(あ、そういえばこロキって呼ぶことになってたっけ)ロキになにしてくれてんのよッッぉ!!」
一瞬の葛藤で迷走して、「私のロキ」と言ってしまったようです。