とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

28 / 65
再臨 ☆

 

 安洞(あんどう) という男は、他罰的であった。

 自分は何もしてないのに、自分だけが酷い目に会う。と、日ごろから漠然と考えていた。

 あくまで漠然と、である。具体的に思考してその結論を出してはしていないし、思いを言語化することもできない人間である。

 

 テストと勉強はそこそこできたので、地方の大学を卒業し、時代が人手不足ということもあって、するりと東京のとある中小企業に就職。

 特になにもせず、できることもなく、雑用をしているのだから、このくらいの給料をもらって当然と安穏としていたら、いつの間にか退職を勧められた。

 

 そして不満はあったが逆らうことなく退職。

 日雇いでなんとかその日暮らしをしながら、ずるずると借金を重ね、いつの間にか多重債務者。

 

 「俺は、なにもしていないのに! こんなことになるなんて、あいつらが酷い!」

 

 という考えに至った。

 

 ちなみにあいつらが悪いと思っていても、あまりに解像度が低く、誰がどのように、どのくらい悪いかは本人もわかっていない。

 

 池袋でちょっと割りのいいはずのバイトにありつけ、見張りをしているだけで済むと思ったらひどい目にあった。と彼は考えている。

 安洞の半分も生きていないような小娘にあしらわれ、仲間だと思っていたガテン系のヤツには殴られた。

 

 だから……。

 

「そうだ、あいつらが悪い」

 

 悪意が力になる。

 力が悪意を向けた相手を傷つける。

 

 今の彼は、そういうふうになっていた。

 そういうふうになった安洞の足元には、自分を売った闇バイトの元仲間であったチンピラの若者3人が、()()()()()()()

 

 + + + + + + + + +

 

 

 黒木美都は、行動力がある。

 中学1年生の女の子にしては、行動力がある。ではなく、世間全般の人々と比べても、行動力がある。

 

 その美都から見て、御坂美琴は憧れの存在となっている。

 最初こそ、どこか保身があり、御坂美琴の優しさにつけ入る思いがあった。

 

 もちろん寂しさがあったから、御坂美琴という都合の良い存在に寄り添った面もある。

 よるべない美都が、よるべない御坂美琴を利用したともいえる。

 

 どうも彼女には、元の世界にパートナーとクイーンという身体を重ねた相手(それ勘違いだから!)がいるようだが、不思議なことに美都には嫉妬の思いはなかった。

 

 ……今、ノイズが入った?

 

 美都は「ああ、クイーンは心ならずも、という意味ですね」と理解して、「お姉様にも触れられたくない傷があるんですね」と深く追求しないと決めた。

 

 とにかく、美都は憧れの御坂美琴と共同生活状態である。

 

 結局、美都たちは池袋のマンションから避難することはなかった。

 かわりに御坂美琴が付きっ切り。学校以外では、常に御坂美琴と美都はセットである。

 送り迎えも一緒だ。御坂美琴の見た目がボーイッシュなせいで、美都にはカレシがいると噂になってしまった。

 

 氷川インダストリーへ、偽の調査報告もする計画も中止(ボツ)

 送信元、送信先の偽装だけとなった。

 

 遊驥が言うに「先手がどうのとか言ったけど、思った以上に大事になった。正直、ビビった。足元を固めよう」とのことである。

 この意見に、御坂美琴も美都も、異論はなかった。

 

 現在、御坂美琴は美都が学校へ行ってる間、各所のctOS集合端末(ターミナル)の掌握。

 財神黒客(ツァイシェンヘイカー)の他のメンバーは、氷川インダストリーの人体実験の裏取りと、いざというとき逃げ込むセーフハウスの準備中である。

 美都は新規のゾンビPC拡散と、偽装に力を入れている。

 

 相手が想定以上に危険そうであったため、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)あげて準備段階だ。

 

 そうして、氷川インダストリーの闇に気が付いてから、4日たった日曜日の朝。

 

「ふわぁ、おはよう」

「おはようございます。…あっ、お姉様、またその恰好なんですね」

「ごめん、ごめん」

 

 御坂美琴は指摘され、慌てて衣服を整える。

 美都が御坂美琴と暮らし始めて、早くも一週間たった。

 

 御坂美琴は意外と夜更かしをするタイプのため、美都より後に寝ることがあった。そういう時は、だいたい今のソファで寝ている。

 

 しかもパジャマに着替えないで、御坂美琴は寝てしまう。

 寝苦しかったのか、御坂美琴はホットパンツのフロントボタンだけでなく、チャックまで開けていた。

 憧れのお姉様の下着に、最初はドギマギした美都だったが、今は慣れてしまった。

 

 まるで熟年夫婦のようだ。と、美都は勝手に脳内変換して、内心それはそれで楽しんでいる。

 

 御坂美琴は居候という立場を気にして、日中、掃除洗濯などをしてくれるため、しっかり者のイメージあったのだが、いたるところでらしからぬだらしなさを見せる。

 

「ところで美都。今日は予定大丈夫?」

「はい。お姉様が家事をしてくれたので、日曜はまるまる空いてます」

「そう、よかった」

 

「というか、お姉様。ハウスキーパーがいるので、そこまでされなくてもいいんですよ」

「いやぁ、ついね……」

 

 目線を逸らし、御坂美琴は自分の行動をうまく説明できないでいた。

 現在、御坂美琴は居候として、家事をできる範囲で行っている。

 氷川への報復を手伝っているし、なにより恩があるからよいと美都に言われているが、運動がてら掃除など行っていた。

 

 こうしてふたりは、いつもより少し遅い朝食を取り、今日の目的地『秋葉原』へと向かう。

 

 御坂美琴はいつにもまして、ボーイッシュな格好をしている。ホットパンツは同じだが、袖なしのパーカーを上着に羽織っている。いざという時、フードで顔を隠すためだ。

 こうしてふわりと上着を重ね着することで、女性的なラインも打ち消せる……はずだったのだが、パーカーの裾が若干長すぎたため、ホットパンツを覆ってしまう時がある。

 そうなると途端にフェミニンなスタイルとなり、健康的な太ももが眩しく、超ミニスカートか履いてない状態に見えて、美都と周囲の視線を集める結果となった。

 

 一方、美都は女の子を強調した開襟ダブルボタンの夏ワンピースで、さっぱり涼しいイメージの服に着替えた。

 体格に合わせ、少しコンパクトな革のハンドバッグに、革のかわいらしい靴で、3色に合わせている。

 お嬢様の休日お出かけスタイルで、とてもハッカーの仕事に行く姿に見えない。

 

 道中、御坂美琴をトールと呼び、美都はロキと呼ばれ、知らぬ人が見れば美少年と美少女のデート姿であった。。

 御坂美琴は常に周囲の敵意に警戒してるが、そのため少年少女のデートを見守るような視線には気がついていない。

 気がついて、喜んでいるのは、美都だけである。

 

 こうして御坂美琴は再び秋葉原の地にたった。

 今日は御坂美琴を、御坂命として見る目はない。

 安心して御坂美琴は駅前に出て、電気街を歩く。

 

「このあたりね」

 

 スマートフォンの地図を閉じ、御坂美琴は秋葉原の街を見渡す。

 御坂美琴は財神黒客(ツァイシェンヘイカー)としていくつか使っているスマートフォンのうち、一つを貰い受けた。

 

 やっと現代人の若者らしい生活ができる! と御坂美琴は思ったが、スマートフォンがないと現代人の若者らしくないというのも、どういう印象なのかと疑問に思った。

 

 さて、彼女たちの今日の目的は、秋葉原周辺のctOS掌握である。

 御坂美琴は目的地付近のビルを見上げながら笑顔だった。

 

「いやぁ、美都が手伝ってくれて助かるわー」

 

「そ、そんな。私は設置工事をしたところを、調べただけです」

 

 美都はジップパーカーの裾から伸びる太ももから視線をあげ、御坂美琴のお礼に対して謙遜(けんそん)した。

 

「地道に探す必要がなくなっただけでも、ほんと助かる助かる。私がやったら一個づつだから、時間がかかったこと、間違いなし!」

 

 ctOS管理集合端末(ターミナル)を設置した施工会社は、各地の地元電設工事会社に広く委託されていた。おそらく補助金などの問題だろう。

 役所でも設置場所は記憶されているが、基本、そういったデータは内部での閲覧用なので、外からアクセスはできない。役所に正式な手続きをして、情報をもらうわけにいかないので、あとは夜の役所に潜入することになるだろう。

 

 つまり、ctOS集合端末の設置場所を一つ探すのに、一つの電気設備の会社を調べなくてはいけない。

 

 その点、こういった場合に限るが、マンパワーならぬゾンビパワーで、数に任せ一気に調べる美都の能力は、御坂美琴の調査能力を上回っている。

 

 周囲の注目を受け、秋葉原電気街を、堂々と歩く御坂美琴。男女問わず、その美貌は視線を集める。

 美都は最初こそ戸惑っていたが、今は御坂美琴に引かれて気にせず歩く。

 

「よし、ここね」

 

 秋葉原でももっとも人が行き交う、中央通りの一角。店舗前の歩道にまで、ガチャガチャ筐体を並べる店舗が入るビルを見上げた。

 10階ほどの細いビルが並び合ううちのひとつ。無骨な電気店の看板に、アニメのキャラクターのポスターやら看板やらと、実に電気街らしいビルだ。

 

「人目のつくここで、待っててもらえる? なにかあったら、すぐに来るからね」

「わかりました」

 

 愛しの御坂美琴は周囲を警戒し、ビルとビルの隙間に身体を滑り込ませる。磁力を使ってするすると狭い合間を登り、あっという間にビルの屋上へと到達。美都から見えなくなる。

 

 御坂美琴は今日までに、10ほどのctOS集合端末機を御坂美琴は掌握している。

 

 超能力などよく知らない美都でもわかるほど、愛しの御坂美琴はその能力を高めていた。

 御坂美琴に言わせると、まだまだ全盛期の1000分の1にもなっていないというが、電磁気で立体的な機動を得ている。

 普通? の女の子である美都からすると、御坂美琴はまさに別世界の人間に見えた。

 

 そこはかとなく疎外感を感じてため息をついた美都は、このまま待つことにした。

 

 ふと隣のビルを見ると、店舗前にずらりと並ぶガチャガチャの前でかがみ込み、熱心に目当てのものを探しているスーツ姿の白人男性がいた。

 美都の視線に気がついた彼は、小銭を持ったまま美都に笑顔で近づいてきた。

 

「チョットすみませーん。いいですカぁー?」

 

 大柄な男性が声をかけてきた。

 美都は身構え、御坂美琴に緊急連絡するブザーを握ったが、すぐに警戒が解けた。

 アニメのガチャガチャの前で、まごまごしていた人物ということもあって、あまり脅威を感じない。

 

「娘へのお土産です。あー、キテレツなヤイバ? その、Animationのitemをね。探しててね。おー、でも私、むずかしい漢字、読めない」

 

 大袈裟に肩をすくめ、首を左右に振る。あまりに残念そう立ち振る舞う大袈裟な姿は、さらに美都の緊張感を解く。

 スーツの男性の日本語は流暢だ。日本に慣れている感じもする。

 日本語の読み書きはできても、それは日常的なものか、ビジネス文書などお堅い物であろう。

 

 まして慣れない人には、アニメのキャラは同じに見えるだろうし、なにより彼の説明した作品は、タイトルロゴが非常に独特である。

 タイトルロゴを形で覚えているならいいが、作品名で探していてはいつまでもわからない。

 

 美都は多少、英語はできるが、あえて日本語で、スーツの外国人男性に答えた。

 

「わかりました。えーっと、そのアニメのガチャガチャ……これですよ!」

 

 白地に赤黒の丸、独特な大小ゴシックで描かれたタイトル文字の指さす。

 

「オー、これですか! ふりがな。ありますね!」

「これをマークとして覚えれば、間違えませんよ」

「オーケー。理解しました。サンキュー」

 

 スマートフォンでタイトルロゴを撮影するスーツの白人男性。

 オーケー、オーケーと言いながら、ガチャガチャを回し始める。

 よかったと、美都は御坂美琴を待つため、また歩行者の邪魔にならない場所へ……。

 

「お前かーっ!!」

 

 突然、男の叫び声が聞こえた。

 同時に、季節外れの春一番のような巻き上がる風が、美都たちを荒々しく叩いた。

 体格の良いスーツの白人男性は耐えたが、美都はスカートを押さえながら数歩、後ろによろめいた。

 

 異常事態に、スーツの白人男性も、鋭い眼光へと変わる。

 その眼光の先で、叫ぶ異様な男がいた。

 

「お前、お前! あの時の! お前のせいでーーーっ!」

 

 声の発生源である風上、ネクタイを外したサラリーマン風の男。それだけならいいが、髪は乱れ、裸足で、目は虚ろ。

 裸足で出血しているらしく、ドス黒い何かで汚れている。

 明らかに常軌を逸した者である。

 

 唖然とする美都を指さし、お前のせいだ、と何度も叫ぶ。

 

 周囲の人も「警察を呼ぶか?」と、ひそひそと相談しあっている。

 ガチャガチャの前で屈んでいたスーツの白人男性も、のっそりと立ち上がり、温和な表情から警戒する顔付きとなった。

 

「お、おおおお、お前のせいだぁーーっ! ひ、ひひ、引っ張る!」

 

 裸足の男が叫んだ直後、秋葉原にいた群衆は、大きな構造物が湾曲するような大きな音を耳にした。

 

 同時に、異様なサラリーマンの男性へ向かって、ガチャガチャや販促の(のぼり)とその注水式スタンド、チラシの台、小型の路上看板、自転車、バイクなどが、ふわりと浮いて集まる。

 この異常な光景を目撃した群衆は息を呑み、悲鳴があがった。

 

「引っ張ってぇぇぇえっ…………押す!

 

 裸足の男が、両手を突き出すと、無意に浮いていた物体たちが、一斉に美都へ目掛けて飛んだ。

 

 美都は避けようとしたが、あまりに飛んでくる物品が多くて立ち尽くす。

 スーツ姿の白人男性が、動けない美都を守るため、咄嗟にその大柄の体格を活かして庇う。

 

 ふたりに向け、大量のガチャガチャ筐体や看板が次々と激突し、秋葉原の歩道に、無骨な山が出来上がった。

 外れた看板などが、後方にいる人たちにもぶつかり、少なくない重軽傷の怪我人が出た。

 

 この瞬間、平和な秋葉原の光景が、一変した。

 

 現場を直接見ていなかった者も、道に散乱するガチャガチャや幟などを見て、車が事故を起こしたのかというくらいの視線を向ける。

 だが、異常事態を目撃した者たちは、驚いて立ちすくんだり、逃げ出したり、スマートフォンのカメラを向けたり、興味本位でより近づく者たちとで、乱雑な動線を見せ始めた。

 昔、秋葉原で起きた事件を想起して、素早く逃げ出す者もいた。

 

 喧騒とガレキの山の中、美都は抱えていた頭から手を離し、自分が無事であることに気が付く。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 額から血を流す白人男性が、抱えた美都を守っていた。

 白人男性は流暢な日本語で、美都の安否と状況を確認する。

 

「怪我は見たとこないようだ……。あの男は君を狙っているようだが? 心当たりは?」

「ひ……いえ」

 

 美都はひきつって言葉が出ない。

 返答を聞いてから、白人男性は後ろを振り向き、ガレキの隙間から挙動のおかしい裸足の男の様子を確かめる。

 騒ぎになっている周囲に向かって、裸足の男は怒鳴り散らしていた。

 

「そうか。……むう!」

 

 白人男性が唸り、美都へガレキが落ちないように立ち上がろうと力を込めた。

 磁励音が鳴る。

 

 美都は機械工学も少々齧っている。すぐに磁励音に気が付く。

 

 それはモーターを制御するインバーター音に似ていたが、そんな大電力を要する機械が、道端にあるわけがなかった。

 美都の冷静な部分が、磁励音を記憶する。

 

「どうやらつまらないことなっているようだ。あれはまずい」

 

 自転車と看板をどかしたスーツの白人男性が見た物は、よだれを撒き散らし必死の形相を浮かべながら、乗用車を掲げあげている裸足の男だった。

 美都はケガこそないが、ガチャガチャや自転車に埋もれた状態だ。すぐに逃げることはできない。

 

 スーツの白人男性も同様だ。

 頭にぶつかった看板を退いたが、まだガチャガチャなどが折り重なって、背中に載っている状態である。

 

 ぶわっという風と共に、乗用車がルーフ部分をこちらに向けて迫って……

 

「こんのぉっ! 美……私の、ロキになにしてくれてんのよッッぉ!!」

 

 急に重力を思い出したかのように、乗用車が歩道へと落下する。

 

 地面が揺れ、埃が立ち上がるが、すぐに電撃によって打ち払われた。

 視界が開けると、フロントを歩道にめり込ませ、コンクリート埃を巻き上げる乗用車が見える。

 その上に、電撃を纏う御坂美琴がいた!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「お姉様!」

「For real……?」

 

 美都はガレキの山の中で飛び跳ね、御坂美琴へ手を振り、スーツの白人男性は美都と御坂美琴を交互に見やり、信じられないと目を見開く。

 

 9月も終わろうとしていた平和な秋葉原に、再び雷神が降臨した。

 

 




「こんのぉっ! 美(美都って言っちゃまずいわよね)……私の(友達って言えばいいのよ)、(あ、そういえばこロキって呼ぶことになってたっけ)ロキになにしてくれてんのよッッぉ!!」

一瞬の葛藤で迷走して、「私のロキ」と言ってしまったようです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。