とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「ひゃっはー! 丸裸にしてやるぜぇ、フロイラインちゃぁんよぉっ!」
「計器のコイルも暖まってきたところだ! 早く、早く解体しろ、アスキー!」
「ぐっ、くそ、開かねぇっ! 超音波溶着か! くそ! しょうさ! シャコ
「ダメだ、壊すのは最後だ! なんとかするんだ、お前の仕事だろ!」
「仕方ねぇ! リューターか超振動ナイフで溶着を削って、薄くなってから割るか……」
居た堪れない気持ちで、浅草地下街の
「なんなの、あんたたち。私に文句のひとつでも言うんじゃないの?」
疲れ果てた美都を、奥の部屋のソファで寝かしつけて表の部屋に戻った私は、呆れるしかなかった。
「まあ待て、それどころじゃないんだ」
「それはそれとして、もうどうでもいい。今はこっち」
ふたりは小型インカムに夢中。
なにかしら、この納得できない疎外感。
「いやねぇ。これだから男ってン」
一方、システムエンジニアでありながら、ギークらしさのないマイカさんが私に同調してくれた。
しかし、私と違って「いつものことだからン」と、少年のようなふたりを、母親目線で微笑ましく見守っている。
「あれ? そういえばヒロヒロさんは?」
私たちを車で送ってきてくれた真優の姿が見えない。
「よし、開いた! ヒロヒロなら呼び出されて昼飯食い損ねたからって、メシ食いにいったぞ」
インカムのカバーを開けることに、成功した遊驥が答える。
「あ、そうなんだ」
「ところでレールちゃん。ロキちゃんは大丈夫ン?」
マイカさんが、奥の部屋のソファで横になっている美都を心配して尋ねてきた。
「怪我とかそういうのはないですよ。あー、なんていうか、その……。逃げる時に、私が磁力浮遊で移動したのが怖かったみたいで……」
「あらン、そう? あまり無茶に付き合わせちゃダメよン。生身で空を飛んだことがない人が多いんだから」
軽くだが、マイカさんに釘を刺される。
近くに常盤台生ばかりで、その辺の感覚が私には抜けていた。
初春さんだって、黒子と行動してたから
佐天さんはあの性分だから、喜んでたけど……。彼女は学園都市の生徒だから、高位の能力者が空を安全に飛べると知ってのことだしね。
「はは……。気をつけますね」
「それと身バレはレールちゃんが、ロキちゃんにノイズをかけてたから平気だと思うけどン。知り合いが見たら、気がついちゃうかもしれないわねン」
「ですよねー。あ、美都の先生は気がついてて、さっき電話があったんですよ」
「あらン。やっぱり」
「でも、やっぱ学校が学校なのか、気をつかってくれて、明日からお休みしていいって」
美都の学校の先生は、彼女が事件に巻き込まれたと被害者と考えてくれている。
むしろ雷神に我が校の生徒が攫われたのでは? と心配していた。
さすが都内でも有名な学校。なんでも頭ごなしに責めるようなことはせず、生徒を気遣ってくれる。
でも、正しく活動するあまり、警察に情報を提供するかもしれない。
その場合、善意の方面からの捜査が私に及ぶだろう。
やはり、私が捜査追跡回避のためって理由で、彼女に迷惑をこれ以上かけないうちに距離を……。
「それでねン。レールちゃん。ロキちゃんは……美都ちゃんって、自分を自分の演技で覆ってる節があるの」
美都の元を去るかどうかを考えていたら、マイカさんは彼女について深く切り込んできた。
私は居住まいを正し、真剣に……だが、警戒もする態度でマイカさんの話に耳を傾ける。
「……どういうこと?」
「ロキちゃん、お父さんが亡くなってるんでしょ?」
「ええ」
「それなのにあの雰囲気、きっと『父親を失った自分』を別の自分で上書きしてると思うのよン」
「どういう、ことかしら?」
「普通、親が亡くなったら、あんなに元気にはなれないわ。まだ1年も経ってないんでしょン? 多分だけど、レールちゃんが現れるまで、氷川って男に『復讐する自分』を作って、『父親を失った娘』っていう自分を……大袈裟にいうとン、作った人格で本来の人格を塗りつぶしてたと思うのン」
「……わからなくもない」
臨床心理とか門外漢だけど、気持ちの面でわからなくもない。
私にも覚えがある。
あの行動は責任感とかではなく、単に『安易にDNAマップを提供してしまった自分』から『自分が逃げる』というのが、一番の心的起因だったと思う。
精神的に参ってると、何もできなくなるか、自分らしくないことをしてしまう。
いや、今思うと、すっごいあの時の私って、私らしかったけど……。
そういった意味で美都とは違うか。
私が昔の自分を噛み締め終えると、察してくれたようにマイカさんが話を続ける。
「それでねン。今のロキちゃんって、あなたをお姉様と慕う自分で、父親を失った自分を塗りつぶしてると思うの」
「ええ、その辺はわかってるわ。私を慕ってくれてる後輩達とは、なんとなく違う、ってわかるし」
色恋の機微に疎いとはいえ、私はさんざん黒子たちや常盤台の後輩たちの好意に触れている。
そういった単純な憧れとか、なんというかこう……黒子から感じる身の危険とは、美都はそれはちょっと違う。
美都から感じる黒子や後輩たちとは違うなにかは、離れたくないという気持ちだったのね。
「だから、居なくならないでね」
「え?」
「今、ロキちゃんの前から、お姉様がいなくなったら、あの子は、誰かを失ったとか、父親を失った子という弱さをむき出しにするか、復讐者の仮面を、またかぶることになるわ」
「う……」
またも、釘を刺された。
今度は太くて長い釘を、深ーい。
うわー……、マイカさん。短い付き合いなのに、私のことわかってるわー。
絶対、数ヶ月前の私だったら、「これ以上、一緒にいたらあなたたちに迷惑がかかる」って、立ち去ってたかもしれない。
完全に、
反省している今でも、その選択を選んだ可能性がある。
「わかったわ。確かに私ってそんなバカなことするかもしれないけど、ちゃんと私がそばにいて守ってあげるって選択を選んでたから安心して」
「そう。それならよかったわン。ごめんなさいね、老婆心なの」
「いえ。改めて言われて、自分の行動パターンと思考パターンを客観視できたわ」
もしもこれをあのいけすかない女王に言われたら、真っ向から反発しただろう。
でも、大人なマイカさんに言われると、頭ごなしに否定できない。
これでも冷静なら頭は回るんだから。
「うしっ! そうなったら、氷川ってやつをぶっ潰すことに全力しますか」
「あら、やだン。やっぱりこの子、極端なのねぇ」
決意表明したら、マイカさんに呆れられた。
……え? いまの決断おかしかった?
「よっしゃ! だいたいわかったぞ! 勝ったな! ガハハ!」
内省していたら、遊驥がゴーグル型のメガネコンソールを外して勝鬨を挙げた。
念動力者から奪ったインカムを、遊驥と大智が解明し終えたようね。
作業台の上でバラバラにされ、広げられて電極をあちこちに繋がれた小型インカムの姿は、まるでフナの解剖の授業を思い出す。
「悪いわね。新人なのに面倒ごとばかり持ち込んで」
ひと段落ついた遊驥と大智に、一応だけど謝っておく。
「かわまん、かわまん」
「むしろ、こんな面白いこと持ち込んでくれるなら、歓迎だよ」
「アキバのセーフハウスが、無駄になったのはこんにゃろと思うが、このインカムで相殺だ」
「そう、ありがとう」
このトラブルがイベント気分で楽しいと本心からなのか、元からカラッとした性格で気にしてないなのか、両方なのか。
とりあえず、彼らのこの性格は助かる。
そんなふうに安堵していたら、遊驥がインカムをドライバーで指し示す。
「んで、インカムだが。まず結論として、この程度のもんなら、こっちでも作れるぞ」
「ん? ああ、そうか。私と同じ世界の人間が作ったものじゃないし、そっちから流れてきたものでもないわけね。もちろんこっちの技術で作れるレベルのものを、私の世界の人間が作らせた可能性とかもあるけど」
私がここにいる。
このひとつの例があるのだから、ふたつめみっつめの存在があってもおかしくない。
ただ、私と同じような存在がいることを、このインカムは確定させることはなかった。
ひと安心と言えばひと安心。
謎解きの先延ばしと言えば先延ばしね。
「そうそう。それでな。仕組みとしては、ネット黎明期にあったパソコンをルーターに改造したかのような作りだ」
大智がインカムに接続したパソコンで、返ってくる信号を確認しながら言った。
極端な話、ネット接続に使うモデルやルーターは、昔はパソコンで行っていたのでパソコンみたいなものだ。
内蔵モデムだって、パソコン側のソフトで制御していた。
それを内蔵ボードに集約したり、外部へ出して限定的な機能……つまり今のようなモデムやルーターといった製品として効率化細分化して、独立させて単一機能で高性能化させてきた。
「ふーん。じゃあ、ちっちゃいワンボードPCみたいなものね」
「うん。そうだ。ただここまで小さくするのはすごいな。こっちの技術でもいできないことはないけど……。個人やそこらの企業じゃできんな」
そういって、遊驥が再びインカムを組み立て直し始めた。
内蔵されていた指先サイズのWi-Fiカードチップではなく、端子にワニ口クリップを取り付け他のWi-Fiボードに無骨な接続をする。
私は慌てて止めようと、声をかける。
「ちょっと! 中枢を組み立てて、Wi-Fiに繋がるようになったら!」
「平気平気。ソフトも書き変えて、
ネットに接続すれば、インカムをどこで使ったかおおよそが大元にバレてしまう。
私はそれを心配したが、さすが大智、
もう対策済みだと宣言した。
確かにWi-Fi接続したインカムは、
「あ、そうなの? それ、やっぱり演算補助装置だったのね」
「ん? 知ってるのか?」
「学園都市の能力者も、結構いろいろな補助機器を使うのよ。まあ私は使わないから、あまり詳しくないけど」
厳密には補助装置ではないが、食蜂操祈などは補助輪的に市販のリモコンを使う。
演算を補助する機器を開発している企業もあるので、それに近い物だろうと私もあたりをつけていた。
「このインカム。簡単な脳波測定機能もあって、そんで、どうも高周波音で返ってきて、イヤホンから流れるみたいなんだが」
「演算結果がフーリエ変換されて、周期を変えて繰り返されるんでしょ?」
「あー、やっぱそっちではありきたりな機能なわけね?」
納得する様子の大智に対し、私はちょっと難しい顔で反応する。
「ん~……たしかにそういうの利用した事件があったけど、共感性を利用したもので別物だし、脳波同調させるものだったし……。脳波をフーリエ解析して波形にするのは、こっちでも普通でしょ?」
大前提で、『
能力者が多種多様、いっぱいこちらにいるとは思えないし、また別物だと思う。
「そうか。別物なのか」
「学園都市の技術に、触れられると思ったのによぉ」
少し残念そうな大智と遊驥。
「ふたりとも技術者ねぇ。学園都市の電子機器の方が興味あるんだ。それを使って能力を使える可能性より……」
「それがあったか!」
「ええい、しょうさ、それを貸せ!」
私は『
改造され組み立て直された無骨なインカムを取り合うふたり。
「ちょ、ちょっと! 危ないって! 私たちのところであった事件とか、利用者が昏倒したのよ!」
なんとか使用を止めようと、取り合うふたりの間に入ってた。
でも、相手は体格が大きくないとはいえ男子高校生と男子元高校生。
私の手は跳ね除けられ、ふたりの間に入れない。
「大丈夫ン?」
よろけたところを、マイカさんに支えられた。
「ありがとうございます……。ま、脳波の読み取りと、サーバーとの送受信だから危険性はないと思うけど」
ふたりの調査と、私の通信解析が正しければ、あれは着用者の脳波を読み取り、サーバー側で調律してリフレインするような機械だ。
他人の脳波にむりやり同調させる『
……実際、交互に着用してみた大智と遊驥だったが、耳が痛くなったくらいでなんの現象もおきなかった。
「な、なにも起きない」
「なぜだ……。うちのサーバーくらいじゃ演算処理能力が足りないのか?」
インカムを耳につけ、一生懸命、ペンを動かそうと唸っていたふたりは、疲れ果てていた。
「仮に遅くても、フーリエ変換の処理がちょっと遅くなるくらいでしょ? 誤差よ、誤差」
「じゃあなんでさ」
「うーん、詳しく説明してなかったけど、学園都市の能力者ってほとんどが、能力開発のため小さいころから投薬されたり、脳に電極入れられてショック与えられたりしてんのよ。あんたたちは、そういうの受けてないし、まず能力に目覚めてからじゃないと効果ないんだと思う」
秋葉原の念動力者は、どこかで投薬を受けていたか、弱いながら原石だったのか。もしくはそのどちらでもあるのか。
とにかく、能力開発も受けていないふたりは、演算能力を底上げされても効果がないだろう。
「うへぇ〜。そんな処理されてんの?」
「お前らのとこ、氷川インダストリーのやってること批難できないんじゃない?」
遊驥と大智、ドン引きしてる。
「ま、まあ、確かに……。私たちのちょっと上の世代……。今、20歳あたりより上の世代って、実験的な世代だし、危険だったわりに能力者もほとんどいなくて」
「ん? 大人の能力者っていないのか」
「例外もあるけど、まずいないわね」
元の世界、学園都市の外で、よく勘違いされてることがある。
能力者は大人になると能力が消えたり、弱くなるって勘違いだ。
あれって、20歳以上の能力者がほとんどいないからなんだけど、単に私たちが有効的な能力開発を受けられた世代のせいなのよね。
10年前に安定して、能力者を開発できるようになった。
でも10歳以上だと、著しく効果が薄かったので、この有効的な能力開発の恩恵を受けられたのが、当時、9歳以下の世代。
その人たちが、現在18歳くらいなので、そこまでの世代は高位の能力者がいるし、能力者そのものも多い。
でも、その世代から上の世代は能力があっても、前述の理由でよくてレベル1とかだ。
この経緯を知らず、単純に外から見ると、高校生以下の学生ばかりに能力者がいて、大学生にはいないから、「成長すると能力が下がる」って受け取られてしまう。
あと数年したら世代が変わって、大学生にも能力者が多くなって、さらに数年立てば社会人でも能力者が増えるから、そんな勘違いが消えていくと思う。
佐天さんとかは10歳以降でも効果があるとされている能力開発を受けたけど、あまり芳しくはなかったみたい。
もし、あと1、2年早く能力開発を受けてたら、結果は違ったかもしれないけど……、言っても詮無いわね。
もちろん、この安定した能力開発技術の前にも、不安定な能力開発を受けた人たちがいた。
この人たちこそ、実験体扱いだったと思う。
私たちをキャパシティダウンで苦しめたテレスティーナ=木原=ライフラインが、その世代だった。
彼女が受けた能力開発は失敗だったけど、ひどい後遺症はなかった。
表にはほとんど出てこないけど、彼女以上にひどい後遺症で苦しんでる人や…………それこそ処分された人が、いた、か……も……。
「あああっ!!」
「うあぁっ! なんだ、びっくりした!」
「どうした! 漏らしたか!?」
重要なことを思い出して叫んだら、大智が驚いて遊驥がわけわかんないこと言い出した。
「バカ言ってんじゃないわ、アスキー! 思い出したのよ!」
「なにを!」
「学園都市で昔あった技術の事よ。それなんだけど、美都のお父さんの研究と、氷川のやってることと、秋葉原の念動力者、つながった!」
「なっ!」
「マジか……」
「大変ン」
察しのいい
能力開発を受けるまえ、説明をする研究者が雑談で話ていた。
『我々の前の研究者は、爬虫類脳を拡張させるなんてことしてたけど、失敗の連続だった。しかし、我々のこの能力開発法は画期的で、安全性が…………』
「あったのよ……。学園都市にも爬虫類脳を開発して、能力者を作ろうっていう
遺産(レリック)の話が確定してないのでわかりませんが、能力開発が安定したのってとある科学ryの描写見るにそのくらいじゃないかと。
なので上条みたいに、中学あたりで来て、能力開発成功してるの少ないのでは、と推測して捏造しました。