とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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前回、書き忘れましたが、学園都市の能力開発などの話は捏造設定です。
今回のも捏造です。


原初回帰

 原初回帰(エボルヴコンプレックス)

 

 爬虫類脳と呼ばれるR複合体(コンプレックス)を肥大化させ、通常、大脳で行う演算を、より反応と反映が早い偏桃体で補助するという実験のコンセプト。

 

 爬虫類脳の持つ『闘争か、逃走か』という生命原初の処理。あまりに速いその原初の反応速度を利用したR複合体の()()()演算補助装置化。それが 原初回帰(エボルヴコンプレックス)

 

 原初へ回帰する(進化への劣等感)という名称は、皮肉なのかしら?

 

「……お、お前らそんなこと、してんのか」

 

 遊驥が青ざめた顔で、同情するような問い詰めたいような責めたいような、問いただしていいのか悩むように震える人差し指を私に差し示した。

 大智がやめろよ、と指さす遊驥の手を叩く。

 

 彼らは学園都市の住人でも科学者でもないけど、脳の中心に位置する扁桃体を肥大化させることの危険性を理解できる頭がある。

 

 話が早くて助かる……けど、だからこそ私たちのいる学園都市の危険性と凶悪さを正しく理解してくれて、困るし、悲しくなるし、頭にくるし、その通りだし、ムカつくし、泣きたくなるし、ありがたし、気が楽になるし、消えたくなるし、怒鳴りたくなるし…………。

 

 諸々、抑えて答える。

 

「……正確には、していた。過去形ね。実験は失敗して、凍結してるはずよ。研究者も逮捕されて、珍しく表に情報が出てきてる学園都市最初期の汚点よ」

 

「め、珍しくってなんだよ」

 

「ぶっちゃけ、この手の話って学園都市だとありきたりなの。アスキーが、そんなことしてるのか、って言うけど、似たような話は今でも枚挙にいとまがないわ。むしろ捕まるのすら珍しいくらいで……」

 

 私は目を閉じ、腕を拱き困り顔で答える。

 静まり返る財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のアジト。

 

「よくお前、そんなところで能力開発なんて、受けようと思ったな」

 

「知ったのは最近なの! ママだって知らないから、送り出してくれたわけだし!」

 

 遊驥の常識的な反応に、そろそろたまらなくなった私は強気に返答する。

 

「確かに、それを知っているのに、未だ知らないお嬢様な同級生とか、友達たちと平然と暮らしてる私もなんだけどさ…………。はあ……今思うと、逮捕者の名前を覚えておけばよかったわ。存在として同一ではないだろうけど、こっちの世界でも研究者とか科学者とかとしているかもしれないし」

 

「アナタ……その……」

 

 マイカさんが私に声をかけようとして悩んでいる。

 あのマイカさんをもっても、気にかけすぎてどう言葉をかけたらいいかわからないようね。

 それだけ、今の私のめちゃくちゃな気持ちを理解してくれるいるわけか。

 

「ただいまー。……え? どうしたんだい? この雰囲気」

 

 遅めの昼食を終えてやってきた真優が、沈痛なアジト内の雰囲気に飲み込まれて戸惑っている。

 緊張を解いてくれた面もあり、大智と遊驥は助かったという表情だ。

 

「あ、ヒロヒロ。おかー。まあ、ちょっとね」

「簡単に説明すると」

 

 大智と遊驥が、かいつまんで、そして真優の人なりと知識範囲を知っている仲間として表現を変えて説明してくれた。

 

「い、いや……、すごいねぇ。そんなところでレールちゃん、いい子なの素敵だね」

 

「無理に肯定してくれなくてもいいわよ」

 

 引き攣る笑顔で、私を褒めてくれる真優を拒絶する。

 何度も見失って、何度も間違って、何度も迷走したから、彼にそんなつもりはないだろうけど皮肉に聞こえる。

 いい子っていうほどいい子でもないし、やらかした規模からしたら学園都市の治安悪化の原因の一つな武装無能力集団(スキルアウト)よりよっぽどやってるし、私。

 

「あ、そうそう。上の定食屋でテレビ見てたら、レールちゃんが捕まえた念動力者の名前、発表されてたよ」

 

 私の機嫌が悪くなったのに気がついたのか、真優が皆が興味ある話題に切り替えた。

 

「おっ、出せたのか! 犯人の名前を!」

 

 遊驥が報道されたことに驚きつつ、端末を開いてニュースを探し始めた。

 横から覗き込む大智が、額を抑えて天井を仰ぎ見る。

 

「げ……マジかぁ。あの念動力者、あの男なの?」

 

 私も遊驥の肩越しに画面を覗きみる。

 

 名前は安洞何某で、その顔と名前は、先日、氷川産業センターで盗み出した名簿のひとりで、美都たちを襲った奴らの抜けたサラリーマン風の男だった。

 

「つながったわね」

 

 R複合体を利用した研究で、人体実験をしている氷川インダストリー。

 そこの103番目の被験体である男が、能力を振るって美都に襲いかかった。

 

 襲撃が氷川インダストリーの差し金とは思えないけど、少なくても実験の結果が、あれであろうと推測できるまでには繋がった。

 

「お姉様……」

 

 起きた美都が奥の部屋の戸開け、私を呼んだ。

 その顔は悲惨なくらい青ざめていた。

 

「ど、どうしたの! そんなに調子悪いなら、横になってて……」

 

 奥の部屋に連れて行こうとしたが、私の手を強く握り返してくる。

 その手は震えていて、縋るような目が痛ましい。

 

「お姉様の世界では、お父さんがそんな」

 

 ……ああ、そっか。

 真優への説明と、ニュースの話を聞いちゃったのか。

 彼女をため、ちゃんと気をつけておかないといけなかったのに。

 

 私はとにかく美都の心配を否定する。

 

「違う、違うって! 美都のお父さんの研究は、まったくの別。別物よ!」

 

「そうだそうだ。車の無い時代に車を発明した人がいて、悪人が『おっ!これ銀行強盗で逃走に使えるぞ!』って悪用してるようなもんだ。発明した人はなんにも悪くない」

 

 大智がすぐに私の言葉を引き継ぎ、例えてくれた。

 その例えはやや強引だが、間違ってはいない。

 

「そう、そうよ。技術的にも違うから。美都のお父さんの研究は、脳を三層にわけて、それぞれへのアプローチを効果的にする方法。R複合体を具体的にどうこうするもんじゃないわ。悪い事してるのは、完全に氷川のやつなの」

 

「そう……なんですか?」

 

 釈然としないのか、美都は不安に苛まれていた。

 私は財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のみんなに、目配せする。

 しばらくついてあげ……。

 

「それなら、わたしが! お父さんのため、あいつを止めてやるわ!」

「ええ……」

 

 元気になったというか、奮い立っている美都を見て、その急変にちょっとびっくりした。

 

 ああ、これがマイカさんの言っていた「演じる」ってやつかな?

 弱さを隠すため、強い自分を演じたり、逆に弱さを演じて、私のような人の懐に入る、それ(演技)

 

「よし! そう来なくっちゃ! 協力するぜ!」

「お、おう! そうだな! 守りに入ってたら、犠牲者が増える!」

 

 私より早く遊驥が反応した。追いかけるように、大智が同意した。

 

「しょうがないわねン。アタシも最終兵器を出して、一肌脱ぐわン」

 

 マイカさんがそう言って、アフロヘアを()()()

 

「ぐふっ!」

「ごぼぉっ!」

 

 不意打ちで吹き出す私と美都。

 マイカさんはアフロヘアを大智に手渡し、磨き抜かれた頭部をさらに磨き始めた。 

 

「ちょ……それ……カツラ、だ、だ、だった、の……」

「さ、最終……兵器、って……」

 

 美都と一緒にお腹を抑えて、私たちは笑いを堪えてのたうち回る

 

 でも良かった。

 美都の暗いところが、全部吹き飛んでくれ……た……。

 

「踊んな!」

 

 視界の隅で、手渡されたアフロヘアをかぶって、カポエイラスタイルのジンガを踊り出す大智がウザい!

 

 + + + + + + + + +

 

 

「……ふう、まったく。よし、落ち着いたところで、思いついたことがあるのよ。パソコン貸して」

「あいよ。なんなら、あまりもんだし、そいつ、レールガン専用にしてくれ」

「ありがと。遠慮なく使わせてもらうわ」

 

 アフロヘア事件の余波を乗り越えた私は、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のパソコンを受け取り調べ物を始める。

 

「何を調べるのかしらン?」

 

 アフロヘア事件の犯人が尋ねる。

 

「知り合いについてちょっと……。こっちの世界に来て、最初に私が知ってる学園都市の企業や施設、有名な研究者とか有名人を調べたけど、ほとんど手応えなかったの。でも、よく考えたらそれって日本国内関係だけだったから、外国の企業とか知り合いを探してみようと思って」

 

 学園都市の研究所は、バックが日本企業が多かったが、外資系もないわけではない。

 雇われ外国科学者も少なくなかった。

 

 外国企業や科学者の手応えは弱かった。

 でも、本命は去年、卒業していったルリ先輩だ。

 留学していないだろうから神苑小路瑠璃懸巣ではないと思うので、本名を入力する。

 

 南欧プラチナエリア公国第一公女として、彼女の情報がヒットする。

 

「ルリ先輩……いた」

 

 国家公式のSNSや広報、外国の新聞などには、あのゲコ太ヘアの先輩の姿があった。

 

「はは……先輩ったら公務でもその格好なんだ……」

 

 変わらぬ先輩の天衣無縫さに、乾いた笑いが出た。

 流石に常盤台の制服ではないが、着崩したスタイルはそのままだ。

 むしろ、なんていうか、あの自由人なルリ先輩が公務もするんだ、って感想のほうが強いけど。

 

「あら、可愛い子。だぁれン?」

 

 マイカさんが小さい画面を肩越しに覗いて、尋ねてきた。

 

「私の学校に留学してた先輩です。当時、お世話になって……」

「お前! こんな素敵なお姫様と知り合いなのか!」

 

 遊驥が鼻息荒く詰めてきた。

 ロイヤルな人に弱いのか、ルリ先輩の魅力に弱いのか、ちょっと判断つきにくい。

 

「……」

 

 真優は無言。

 画面上のルリ先輩を、値踏みしてるように見える。

 なーんとなく、油断できないのよね、コイツ。

 

「お姫様かぁ〜」

 

 大智は大袈裟だが、素直に感心しているだけ。

 こういう時、大智は大人しい。

 

「あくまで、あっちのルリ先輩と親しいだけどね。そっか。この分なら、私の世界の子も、ほとんど存在してるはず。まあ、もちろん私を知ってるわけがないけど」

 

 そっか、いるんだ。パラレルワールドだけど、私の知ってる人が、私を知らないで存在しているんだ。

 

 この世界の黒子も、私のことなんて知らないまま、どこかにいるのかしら?

 

「その分だと、レールガン。お前もこちらに本人としているのかな」

「ええ、そうなるかも。でも多分、可能性は低いわね」

 

 大智がこちらの()が存在していることを推測するが、私は否定する。

 

「なんで? 調べたのか?」

 

「確定ってほどじゃないけど、調べられる限りわね。こっちの私の関係する情報が何一つ引っかからないの。もしもこっちに私がいたとするなら、出身も名前も親族も関わってる関係者も、全部違うってことになるわ」

 

 父の伝手や知り合いの起業家、外国の取引相手などの存在がない。

 学園都市へ来る前、地元の学校もない。父や母の出身校もない。

 なにより、「御坂」という苗字が日本に存在していなかった。

 

「じゃあ、その身体の主は? 別名になっているお前の、こちらの存在って可能性は?」

 

「……うーん、そうだとすると常盤台の制服で()()()()()()というのが、説明つかないのよねぇ」

 

「確かに。こっちの制服姿か、せめてスクールブランドの服を着てたならともかく、こっちに存在しない学校の制服はおかしいな。うん」

 

「こっちの御坂様のコスプレしてた時とか?」

 

「えー、それはそれで、こっちの私ってどんな子なのよ、って感じになるんだけど」

 

 大智と私が、御坂美琴という存在について、いろいろな推論を並べている間、美都は遊驥のイジっていたインカムに気がついた。

 

「これなに?」

 

 電子工作をする美都は気になるのか、分解されて晒されるインカムに興味を示す。

 

「おう。それはアキバの念動力者が、身につけてたインカムだ。なんていうか、演算結果を波形で脳波に送るようなそんなやつで、レールガンが言うに、超能力を使うときの補助輪みたいなもんだってよ」

 

「へえ。……触ってみても?」

 

「おう。いいぞ。なにも起きないけどな!」

 

 遊驥は特に注意することもなく、改造されたインカムを手渡す。

 私の視界の隅で、美都がインカムを耳につけようとする様子が見てとれたが、調べ物に集中していて特に気にすることもなかった。

 

 美都がインカムの電源をオンにした瞬間、ハウリングのような音が鳴り響く。

 

 財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のメンバーたちは、なんの音だと部屋を見回す中、私は美都の異変に気がついた。

 

「美都?」

 

 作業を止め、立ち上がって美都へ手を伸ばしす。

 その時、こちらを見た美都が私に命令を下し、私の意識は真っ暗になっ

 

 

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          history misakasys

 

 

 

 

 意識が浮かび上がる……。

 私は真っ暗な場所に、ふわりと浮かんでいた。

 

 誰も、いない……。

 

「ようこそ。歓迎するよ、超電磁砲(レールガン)

 

 いた。

 誰もいないと思った空間だったけど、白衣を着た白黒メッシュヘアの女の子が私に声をかけてきた。

 だけど。

 

「え? 誰……誰なの?」

 

 私はこの子を知らない。

 違う──。

 私は……この子を知って、いる!

 

「これは夢? 記憶にない……ある! なんで、今の私に、アンタが……」

 

 大覇星祭直後の私は、まだアンタには出会ってないはず。

 いえ、なんで出会ってないことがわかるの、私!

 記憶が……前後してる!

 

「ねえ、待って、アンタ! 今の私の意識が、巻き戻って……なにこれ!」

 

「君はある日突然、皮一枚の裏側を埋め尽くす紛い物を知って、アイデンティティを保つ自信があるのかい?」

 

 困惑してる私に、意味不明な質問をしてくる白衣の少女。

 

「会話しなさいよ!」

 

「苦情は險俶?縺ョ繝舌ャ繧ッ繧「繝??縺ィ縺昴?繝舌ャ繝輔ぃ繝ェ繝ウ繧ー縺ェ繧薙※繧ゅ?繧貞ョ溽畑蛹した研究者に言うんだな、密造された愛人(ブーツレグラヴァ―)よ」

 

 なんで、なんかの皮肉なの──。

 

 今の状態の(シスターズになった)私の前に──。

 

 アンタ(ドッペルゲンガー)があらわれるのよ──。

 

 私の意識はまた、真っ暗な中へと沈んで

 

 




$sl
「あっ」
しゅっしゅっぽっぽー


御坂姓の方、最近いることがわかったそうですね。
失礼ながら、この作品ではいらっしゃらないことにします。
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