とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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Discird in beryl.☆

「悩んでいてもしょうがないし……、うん。観光でもしましょ」

 

 半ば不安を払うため、私は勤めて明るく振る舞うことにした。

 そうよ、ここは切り換えて観光、サイトシーイング、物見遊山よ。

 財神黒客(ツァイシェンヘイカー)の誰かに見られたら、怒鳴られたり呆れられたりするだろうけど、異常事態だしわかってくれるでしょう!

 

 異常事態なのに、観光するって軽く哲学入ってるわね。

 

「それじゃあ、近くになにがあるかなぁ。うん、下に見えるのは……フォート・ポイント国立史跡ね」

 

 暗闇のなか照らし出される地上の古い建造物は、石造の要塞跡。

 知らない人が見たら刑務所にも見える要塞が、私の眼下にあった。

 

 ほほう……。あれが19世紀に建てられた、西海岸唯一の沿岸要塞。フォート・ポイントね。

 夜も遅いから、入れないけど外から眺めるぶんにはいいでしょう。

 見晴らしがいいけど、ちょっと肌寒いゴールデン・ゲートブリッジの天辺から、電磁気を使ってスルスルスタスタと降りる。

 

 橋脚付近から急斜面を登って、フォート・ポイント国立史跡の裏に出た。

 さすが要塞ということもあって、史跡の周囲は斜面は急ね。

 登り切った要塞裏手は、整備されて職員用の駐車場になっていた。

 

 修復工事中なのか、外壁のあちこちに仮設足場が設置されている。

 仮設の足場には、夜間作業用の投光器があり、忙しそうにしている作業員たちを煌々と照らしていた。

 こんな時間まで……みんな小走りだし、工期が迫ってるのかしら?

 閉館時間にしか作業ができないから、こんな時間までお仕事なんて大変ね。

 

 このあたりのctOSを掌握はしていないが、今の私の力なら防犯カメラや警報の無効化くらいは簡単にできる。

 というか、まずctOSがセキュリティ甘すぎんのよね……。

 

 パン……パパパパッ

 

 風に乗って、聞き慣れたような聞き慣れていないような音が届いてきた。

 

「ん? なんの音? 銃声? ……ふふん、さすがアメリカ。さっそく銃撃戦ね」

 

 よく見れば、作業員に見えた人たちは、ライフルと防弾チョッキで武装した人たちだった。

 私は面白そうと野次馬根性で……じゃなかった、夜のフォート・ポイント国立史跡内部をどさくさで観光……じゃない。とにかく大変! だれか殺されちゃうかも! と心配して仮設の足場を登る。

 

 人の生き死がありえる光景を見に行くというのは、ちょっと覚悟がいる。

 すでに犠牲者が出ている可能性があるから。

 

 足場側から胸壁の影に隠れて、屋上にいる人たちを見る。

 

「あらら。なかなかの重装備。警備員(アンチスキル)並みね」

 

 サブマシンガンやアサルトライフルで武装した集団は、侵入者がいるとは気がついているが、どこにいるかわかっていないという様子だった。

 私は防犯カメラをリレーして、侵入者の気配を探す。

 

 みたところ隠れているようだけど、明らかにハッキングされて解錠されたドアなどがあり、おおよその経路は推測できた。

 

「主要じゃない狭い階段を使って、屋上に向かってるのかしら?」

 

 防犯カメラで探し、職員用の階段を先回りしてみる。

 屋上カメラを掌握して、周囲を見回す。

 

 数人の武装した男が警戒する屋上に、1人の男性が身を隠しながら姿を現した。

 ctOSをハックしているらしく、彼の顔はデジタルノイズが差し込まれ、かろうじて若い黒人男性ということがわかる。

 

 細身で軽装ながら、しなやかな筋肉を持ち、夜行性の大型猫科が獲物を狙うかのような動きで、侵入者を探す武装した男に迫る。

 

 そして改造ブラックジャック……アメリカンクラッカーみたいな武器をバッグから取り出し、武装した男を背後から襲って無力化(テイクダウン)した。

 

「完全装備の人を声を立てさせないで、気絶させちゃうんだ。ちょっと手間取ってるような……まあ、あの寮監と比べたら悪いけど」

 

 パワーとテクニックが足りないけど、経験とアドリブとスピードで制圧するタイプらしい。

 

 潜入になれているハッカーらしき男と、謎の完全武装集団。

 

 考えてみたら、どっちが悪いとか良いとか、そもそもどっちも悪い場合とかいろいろある。

 ctOSを掌握してないから、武装集団のパーソナルデータもわからないし、黒人ハッカーはいろいろデータを改竄してる節がある。

 

 私が言えた義理はないけど、どっちもまともな人ではない。

 ちょっと同行を探ってみましょう。

 

 なんて仮設足場の最上階から眺めていたら、フォート・ポイント国立史跡の駐車場に、大型のトレーラーが停車した。

 

「なにかしら……増援?」

 

 眺めているとトレーラーの助手席から、サブマシンガンを構えて武装した男がおりてきた。その男の通信機をハッキングしてみる。

 普通のデジタル無線だと盗聴なんてできないけど、どうもctOSを介した通信してるらしいのよね。

 便利だろうけど、セキュリティからすると最悪な選択よ。

 

『到着したぞ。デッドセックのネズミは、まだいるのか?』

『どこにいるかわからんが、くそ…………どこかに、まだいるはずだ。5人、無力化された! 絶対に要塞の外に出すなよ!』

『了解、まかせな!』

 

 あ、デッドセックのメンバーなんだ。

 武装集団のネットを介した通信を傍受して、その内容に驚いた。

 これは思わぬ一方的な初遭遇ね。

 

 そのデッドセックのメンバーは、私のいる足場とは反対側の足場から脱出するつもりなのかな。

 パルクールを駆使して構造物を乗り越え、物陰に隠れつつ移動している。

 

 一方、地上の観光客用の駐車場では、トレーラー荷台のウィングサイドパネルが、電動音を立ててゆっくりと跳ね上がる。

 

 そこには、四つ足をドラム缶につけたかのような無骨な兵器が2体、縮こまって押し込まれていた。

 

 胴体下部、四つ足の間に収められた20mmガトリングの砲身……まるで軍艦に搭載されたバルカンファランクスを逆さにして、四つ足をつけたかのような姿を見て、私は隠れていたことも忘れて思わず叫んでしまった。

 

「イクストルじゃない! なんであんなものが!」

 

 回転砲塔が四つ足の股下にあるため、上方斜角も全周射界が取れないとか、大きい割に火力がないとか、取り回しがいいはずの胴体部機銃が火線集中できないとか、鈍いとか首輪付き駄犬(有線操縦式)とか言われた駄作機!

 

 駄作という評価が現場から上がったとは言え、ハッカーひとり相手に持ち出すようなもんじゃないわよ、アレ!

 

 トレーラーの運転席の男がノートパソコンを起動プログラムを走らせると、荷台のイクストルが起動し、赤い一眼が光る。

 

『いけ! タイディスの恐ろしさを見せてやれ!』

 

 ……え? タイディスって、タイディス社のこと?

 それってホームセキュリティロボとかインフォメーションロボとか作ってる会社じゃないの?

 警備部門がこんな重装備?

 

 武装集団の正体に驚いていると、起動したばかりのイクストル一機が、足場に乗り移るデッドセックのメンバーを見つけて対人用の胴体部機銃を撃ち放った。

 

 静かな闇を裂く轟音と閃光。

 12.7mm機銃で、デッドセックメンバーが乗る足場どころか、歴史ある要塞の壁まで削ってんじゃないの!

 

「ばっ……、ちょっと! アメリカの歴史と、サンフランシスコの観光資源をなんだと思ってんのよ!」

 

 + + + + + + + + +

 

「おいおいマジか? タイディスのやつらは、自国の歴史に対して敬意ってのを持ってねぇのか?」

 

 ハッカーグループ、デッドセックでポイントマンを務めるマーカスは、フォート・ポイント国立史跡の駐車場に陣取るイクストルを見て悪態をついた。

 

『はっはー。そりゃ火の壁(ファイヤーウォール)と樹脂の壁で最新警備万全を謳うタイディスにとっちゃ、古い石の壁(ストーンウォール)なんてはいらないんだろ』

 

 マーカスのバックアップを務めていたデッドセックのメンバーであるレンチは、独自の警備会社を持つタイディス社の豪快さを笑い飛ばした。

 

「そりゃいい。タイディスの作るデジタル要塞なら、かえって突破が楽そうだ。……レンチ。お前はとりあえずあの動くドラム缶の要塞をなんとかしてくれ」

 

『有線なんだよな、あれ。通信ケーブルを切って、自立活動になれば、停止信号くらい偽装できるんだが……。ケーブル、切れるか?』

 

 イクストルの背部には太いケーブルが接続されている。

 電源供給と通信を兼ねており、後方から操作する仕掛けだ。

 これを断ち切られると、内蔵バッテリーが切れるまで、識別信号を持たない相手を無差別攻撃し続けるという頭の悪いエンジニアが作った頭の悪い兵器である。

 

 しかしながら、さすがに味方からの電波もしくは光学的な停止信号を、受け付けるようにはできていた。

 

「グラビアのねーちゃんの腰よりぶっといケーブルを、グレネードやNATO弾で切れるならやってやるよ」

 

 イクストルの給電と制御通信を兼ねたケーブルの太さは、ゆうに50センチメートルを超える。

 マーカスの手持ちの武器を撃ち込んでも、手製爆弾を巻き付けても、対弾耐爆性のあるケーブルを破断させることは難しい。

 

「まったく……! 荷電粒子砲搭載とかいう新型スパイダーボットの情報を抜きに来たら、旧型のレイバーボットを出してくるとか……。普通、そこは新型、せめてガネーシャだろ!」

 

 ガネーシャとはアメリカ陸軍で採用されている自立式レイバーで、伸縮型の自在マニピュレーターと荷電粒子砲という一種のビーム砲染みた砲塔を搭載可能な兵器である。

 そんなものが登場していたら、今頃マーカスは要塞の壁ごと原子に分解されていただろうが、ガネーシャは全高9mと大きく、待機状態でもトレーラーの荷台にのせて一般道を運ぶことができないので出てくるわけがないと知っている。

 

 マーカスは胸壁に隠れつつ、イクストルの射界に入らないよう移動する。

 幸い、イクストルは股下の20mmガトリングガンを、上方へ向けることが難しい。

 三階立てのフォート・ポイント要塞の屋上ならば、十分な距離を取らないかぎりマーカスを射界に捉えることはできない。

 そして胴体部の12.7mm機銃ならば、石造りの胸壁でも耐えられる。

 

ドラム缶(イクストル)が逆立ちを始める前に、逃げるか……」

『イクストルは足が遅いから、足さえ確保できれば……って、まずいぞ、マーカス。警備員たちが弾着地点あたりなら、お前がいるって集まってきてるぞ』

 

「ドラム缶の逆立ちの前に、こっちが真っ逆さまか……。なら、逆の足場へ急ぐか?」

『そっちはそっちで、さっきカメラをハックしてたハッカーらしいやつがいる。映像には……ノイズしかないが……たぶん、やばいヤツがいる』

「ctOSを騙して、姿を消すほどのハッカーか……」

 

 ぞっとしないな、マーカスは肩をすくめた。

 自分たちを防犯カメラで覗き見た存在に、デッドセックのふたりは気がついていた。

 そして正しく、その存在の脅威を理解している。

 

 彼らの腕を持ってしても、ctOSが制御するカメラから姿を消し去ることはできない。

 せいぜい顔にノイズをかけて、パーソナルデータを隠すくらいだ。

 

 シカゴのビジランテでも、そこまではできないだろう。

 

 しかし、存在を確認できないまでも、御坂美琴の存在に気が付くということは、デッドセックの能力が高い証明であった。

 

「しかし、あのドラム缶よりはマシか……。ハッキングだけが得意なヒョロいヤツってのを」

 

 マーカスは意を決し、警備員たちが集まる前に駆けだした。

 途中、どうしても無力化(テイクダウン)できない相手は、無線のマイクとイヤホンをハウリングさせ、怯ませながら……。

 

「しまった……」

 

 警備員の誰かがやみくもに投げた爆弾が、壁に当たり偶然、マーカスの足元へと転がった。

 

 マーカスは胸壁を飛び越え、外壁に取り付けられた足場側へと飛び出す。

 直後、爆弾が爆発。

 胸壁の外側に隠れたマーカスは難を逃れた。

 

 つまり、それはイクストルの視界に入ったことを意味する。

 

 

 股下の20mmほどではないが、胴部の機銃も上方へ射界をあまり取れない。駄作である。

 しかし、マーカスの乗る足場を崩すことはできた。

 

「ふぁああっく!」

 

 崩れ、傾いていく足場板の上を駆け登り、落ちてくる資材を飛び越え、かろうじて無事であった足場パイプを掴んだ。

 

「おいおいおい、待て待て待て!」

 

 股下の20mmガトリング砲が、足場の基部に向けられる。

 そこを撃たれてしまえば、マーカスは瓦礫の散らばる地上まで真っ逆さまである。

 

 マーカスが登り切る前に、イクストルの20mmガトリング砲が火を吹いた。

 しかし、それはマーカスを仕留めようとしていたイクストルのガトリングガンではなかった。

 

 トレーラーから降りたばかりのもう一台のイクストルが、弾切れも気にしないくらい盛大に20mmを吐き出しながら、マーカスを狙っていたイクストルをつるべ打ちしている。

 

「なんだぁ?」

 

 マーカスはこの隙に、崩れかけた足場パイプを伝って降りる。

 地上では、撃たれている側のイクストルが、緩慢と方向転換している。あまりに遅い旋回。いい的だ。

 フォート・ポイント要塞史跡の屋上には、雷が落ちるような閃光が瞬いてる。

 

『なにが起きてんだ! 要塞内の警備員! 全員、落雷でやられてるぞ!』

「地上もなんだかわからん。イクストルがイクストルを撃ってやがる……。あ、体当たりした」

 

 20ミリガトリングガンを受け、ボロボロになっていた一体目のイクストルは、万全であったイクストルの体当たりをうけて脚部が折れ擱座した。

 

「あははーっ! なにこれ、結構可愛いわね! 日本のレイバーと違って、ctOS使ってるから素直だし!」

 

 情け容赦なく同士撃ちをし、体当たりしたほうのイクストル頭頂部に、仁王立ちして豪快にパンチラする少女……御坂美琴がいた。

 足場の残骸から地上に降りたマーカスは、イクストルの銃口がこちらに向けられないかヒヤヒヤとしながら、少女の様子を伺う。

 

 彼女はマーカスなど見ていない、気にもしていない。

 自分の世界に入っているようである。

 

「よく見れば、なんだか色とかカエルっぽいし、ゲコ太のお友達にいてもおかしくないわ! いえ、いたはずよ、ゲコ太のお友達に……! 名前は……そう! キッカーくん!」

 

 御坂美琴の脳内に、溢れ出す存在しない記憶。同時に、御坂美琴は新しいゲコ太の友達を()()()()()

 名前まで捏造し、膝をついてイクストルの頭頂部に、陶酔した顔で頬を摺り寄せ始めた。

 常盤台中学の制服は、股下丈8cmにも満たないミニスカートである。丸見えである。

 青いストライプで強調された引き締まり張りのあるお尻を突き出して、イクストルをいとおしいペットのように愛で始めた。

 

「おい、なんだ! このデジタルトリップでもしてそうな子は!」

『マーカス、おどろくな。移動形跡からして、カメラをハックしてたやつだ』

「あいつがぁ~?」

 

「はぁ~ん。ゲコゲコ672話は、ゲコ太とぴょん子が、キッカーくんに乗って海に出かけるのよね。外れ回のない23期で、イクストルの頭上に乗って……」

 

 くねくねと腰を振りながら、なにやら妄想を始める御坂美琴。

 マーカスは目を逸らした。彼から見ていくら子供とはいえ、美少女のパンツを凝視するわけにもいかず……という理由だけではない。

 

「ヨシ、作戦成功だな。もう帰りたい」

『ああ、PCを開けて待ってるぜ、マーカス』

 

 少女のこのような妄想を見て見ぬふりをする情が、デッドセックのマーカスとレンチにはあった。

 




美琴「ゲコ太のお友達が10万もいるなんて、さすがに増えすぎよね」

マーカス/レンチ「せ、洗脳されている……」


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