とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「私は正気に戻った」
「お姉様!」
イクストルのキッカーくんとの断腸の思いで、お別れをした私に、美都が抱き着いてきた。
美都がいて、周囲に
どうやら無事に、なにがどうなって、どうしたかわからないけど、日本に戻ってこれたみたいね。
戻れた理由は、時間切れかな?
さもなくば、私がキッカーくんとのお話中、デッドセックがハッキングを仕掛けてきてたから……それへの防御反応かもしれない。
シカゴの時と同じように、サンフランシスコに存在していた
ところで「断腸の思い」の語源って、
なんでわざわざ腹を割いたのよ、
そもそも追ってきたの眺めていたうえに、死んだらわざわざ船から降りて母ザルの腹を割いたの?
ヤバくない?
まあ、そのまま桓温は去って、別の人が割いたのかもしれないけど、もし桓温とその家来がやったならドン引きよ。
「よかったわぁ〜。レールちゃんったら、急におかしくなって、驚いたのよ」
「正気に戻ったかぁ。よかったよかった。症状的に医者に連れて行くか迷ってたところだったんだがなぁ」
「最初は、ふざけてるのかと思ったぞ。心配したんだかんな!」
「不思議系になったキミも、また魅力的だったよ」
無事、
困惑させてしまったみたい。
どさくさで、なんか口説いてくる
「様子……おかしかったの、私? 気を失ってたんじゃなくて?」
ソファに寝かされていたならわかるけど、正気を取り戻した時、私は美都の傍らに立っていた。
つまり前後不覚にならない程度には、自立できていたということ?
「それなんですが……まず、私がそのインカムを付けたら、急にお姉様が倒れちゃって…」
「あ、やっぱり私、一度は倒れたんだ」
美都は私が倒れたソファを指差す。
夢遊病みたいに、ぼーっとしてたわけじゃないのね。
「そうしたら、すぐに一度は目を覚まして」
「ふむふむ。それは記憶にはないけど」
「それで急に変なことを言い始めました」
「えー……変なことって? 記憶にないんだけど、どうなっての私?」
やっぱり夢遊病みたいな感じ?
困って眉間に皺を寄せると、遊驥が鼻で笑いながら私を指差して言う。
てか、人を指差すのやめてくんないかしら?
「そうそう、変なこと言ってた。『お姉様がお世話になってます』とかさ。それにトールの語尾がおかしかったぞ」
「え? 語尾? もしかしてそれって、言葉の最後に『と、ミサカは呆れながら答えます』とか『と、ミサカは素敵なお姉様に変わってお礼を申します』とか、そんな感じ?」
「そうそう。そんな感じだったぞ。素敵なお姉様ってとこは、直情突撃愉快なお姉様だったけど」
誰が直上突撃愉快か!
……ぶしつけな指差しと返答を受けて、私は視線を逸らすようにうなずく。
「…………そっか」
あの子めぇ~、覚えてなさいよ。と思いながらも、こらえきれず笑みがこぼれる。
「どうしたんですか? お姉様?」
笑みに気が付いた美都が、覗き込んできたのでその頭を撫でて誤魔化す。
良かった。
理由はわからないけど、私の意識が抜けると、
どうやって身体を返そうかと思ってたけど、美都の能力? のおかげで目処が付いた。
返す時は、美都の能力で──でも、それだと美都に介錯させるようなものよね。
この身体を
「なあ、レール。いったい、どういうことなんだ?」
「なにが? ああ、私の様子がおかしくなった話?」
「いんや。それはわかるだわ。つまり、そのぉ……前に言っていたクローンの妹さんに戻ったってことだろ?」
「さすがね。理解が早く推論が的確よ」
「あったりまえよぉ」
得意顔で胸を叩く遊驥。なにかと大げさなヤツね。
「入れ替わるように現れた妹さんの人格も問題だが、オレとしては、
大智が本当に優先的な問題点を指摘してきた。
「そ、そういえばそうね。ねえ、美都。身体の調子とかおかしくなってない?」
「いえ……別に……」
レベルアッパーみたいに、意識を失うなんてこともあるかもしれない。
でも、見たところ、美都は無理をしている様子はない。
「一応、体調だけは要注意しておいてね。私も見守るから」
「わかりましたけど……それはお姉様も」
「え? ああ、うん。お互い気をつけましょう」
私が美都の様子を見て、美都も私の様子を見る。
同時に気を失うなんてことがなければ、悪いことじゃないでしょう。
「体調不良とかないなら、次は
難しい顔して大智が腕を拱く。
つられて遊驥とマイカさんも腕を拱く。
真優しは涼しい顔をして、美都を見つめている。なーんか、ムカつくのよね、この人。
「……これは私の推測なんだけど、美都は精神操作系の能力だと思う」
真優と美都の間に入り、視界を遮ってひとつの可能性を切り出す。
「精神操作? 女王とかいってたトールのお友達の?」
「べっつに友達じゃないわよ、あんなヤツ! 女王のアイツに似てる能力で、正直苦手意識あるんだけど……。たぶん、根っこからして違う能力ね。アイツの能力は私の電磁バリアで防げるから」
「お姉様って、バリア張ってるの?」
美都がバリアに反応する。
「バリア? すげぇ!」
大智も反応する。
「ヴぁ、ヴぁヴぁヴぁヴぁ、ヴぁあありあだってっ!?」
遊驥も過剰反応する。
「な……なに、そんな反応すんのよ」
「それはン、男の子がバリアに反応するのは当たり前でしょ」
少年ふたりの反応にびっくりしたら、マイカさんが納得の説明をしてくれた。
「なるほど、そういうこと。でも残念だけどバリアっていっても、ローレンツ力で跳ね返すようなモノじゃなくて、不快な電磁波とか身体に害があるような電気や低周波とか……あと一部のイオン化合物を誘導して防ぐ程度よ」
「なーんだ。期待外れなバリアだなぁ……」
「いや、それはそれですごくないか? イオン化合物を誘導できるなら、それこそローレンツ力で、物体運動を制御できるだろ?」
大智があからさまに落胆するなか、工学に明るい遊驥がいい点に気が付いた。
「あー、跳ね返すこともできないことはないんでしょうけど、ローレンツ力を利用して跳ね返すとか飛んできた物体の質量によって出力が指数関数的に増えるし、まず発射された方向が正確に、かつ事前にわからないと無理よ。
できるか、できないか、でいえばできるけど、副次的な現象のデメリットからみて、現実的じゃないこと簡単に説明する。
「そっかぁ……。残念だなぁ。輻射熱はどうにもなんねぇなぁ。防ぐような防護服を着てたら、まともに動けるかどうかも怪しいな」
かいつまんだ簡単な説明でも、遊驥はバリアの限界を理解してくれた。
テレスティーナが私の能力を再現したように、学園都市のどこかで、お金と人員と施設を潤沢に使って、電磁バリアや飛行ユニットに
「それで……
あと黒子が相対したアイツ……。地面を崩壊させて、その破片で人型にする能力者もいた。あれは十字教で行われてる能力開発とか言われてたけど、アイツも原石かも……って、あれ? これも経験していない記憶じゃない?
なぜか明確に記憶があるんだけど……?
「へえ。天然で能力を持ってることとかその人を、原石と呼ぶのか」
「原石ねぇ……」
目を輝かせる遊驥の隣で、何か思うところがあるのか、大智は考え込んでいる。
「なに? その反応」
「いや、ふみの知り合いにそれっぽいのいるなぁ…………って」
「ふみって誰?」
聞いたことない名前を
天井を見上げて考え込んでいる大智に変わり、遊驥が答える。
「ああ、
「はあ、嘘?」
「カノジョいるの?」
私と美都は、思わずとんでもなく失礼な発言をしてしまった。
「お前らさぁ、敬語使えとは言わないけど、年長者に対して失礼じゃないか?」
「あ、ごめ……」
「悪かったわよ」
こういってはなんだけど
言い訳になるけど、それで彼女とかいるイメージがなかった。
でも考えてみると、遊驥と違って柔軟で人付き合いの良さがあるわね。彼と比べたら、
「なんだよ、俺はいないぞ」
「あ、うん。別に聞こうと思ってないから」
私の比べる視線に気がついた
…………うん。やっぱりコイツにはいないのね。
「そういえばデンパも、原石だったのかなあ」
まだ考え事をしている大智が、思い当たる
「デンパ?」
「ああ、地元にいる小、中学校と一緒だった友達」
「なにか能力みたいのあったの? そのデンパって子」
「うーん、たぶん。電磁波とか受信できてたんだよ」
「どうかしら。ほら、よくそういう勘違いあるけど」
悪いけど、電磁波関係を受信しているという子は、あまり信用できない。
たしかに電界を感じ取れる人は多い。
けど電子レンジから電磁波が発せられて気分が悪い、とかは思い込みの場合が多い。
もちろん、そういうのはあるんだけど、大部分は能力と言えるほどのものじゃないわね。
「いや…………。デンパのやつは、メガネとか無しで、メタバグとか感知みたいなことができたんだよなぁ」
「へえ……。それは確かに能力……かもね」
メタバグは確かウェアラブルコンピュータの電脳メガネが流行った時に、一部地方で存在が確認された電脳物質だ。
あれって不在金属(シャドウメタル)と関係性があるって、佐天さんが言ってたけど実際にはわからない。
でも、それを感知したりできるなら、そのデンパって子は何らかの能力を持っているのかも。
「デンパと連絡は取れるけど、気軽に会える距離じゃないからな……。事件に巻き込まれないように連絡だけしておくか。慎重なヤツだし、分かってれば大丈夫だろ」
スマホを取り出し、地元の友人へSNSでメッセージを送り始める
たぶん
「それで、あんたのカノジョ? その知り合いってのは」
「うーん。俺も詳しく話しを聞いてないんだけど……。ふみが学校の友達から、私は悪魔かもしれない……とか、変わった相談を受けたって……。まあ、後で聞いてみるよ」
「そう。お願いね」
その向こうで、大きなマイカさんが、何かに気が付くように手を叩く。
「そうそう。トールちゃん。すっかり話題の女の子になっちゃったから、変装用の服とかメイクとかウィッグ。私が用意してあげるわね」
「あ、そうね。ありがとうございます」
「ばっちり、可愛くしてあげるわよン」
「お、お手柔らかに……」
男の子に間違われるくらいのユニセクスなこの恰好がちょうどよかったんだけど……、こうなったら仕方ない。
マイカさんのセンスに期待ね。
……大丈夫よね?