とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
多分、喧嘩多くて知らない人には仲悪そうに見えるカップル。
「やだぁ……、こんな格好……見ないで……」
「綺麗……。お姉様がこんなにピンク色だなんて……。もっと見せてください」
スマホで私の恥ずかしい姿を撮影しながら、褒めつつ近づいてくる。
「そ、そんなに褒めないでよ……。恥ずかしいんだから」
私はピンク色になった部分を隠すけど、美都は構わず迫ってくる。
なんだろう。
この子って演技なんだろうけど、鬼気迫るときがあるのよね。
「恥ずかしがらないでください。お姉様はかっこいいんですから! ファッションが泣いてますよ」
美都に断言されて、私の中でイメージが変わる。
そう……そういえばそうよね。
ピンク色でフリフリなフリルで少女趣味なピンクロリに近いゴスでも、こういうファッションって可愛いだけじゃなく、カッコいいというイメージも纏っている。
ゴスロリファッションの先達に、可愛いだけじゃ失礼ね。
「いつものようにしてください、お姉様」
「うーん。それもそうね。今の格好に合わせましょう」
呼吸を整え、ボディラインが変わるイメージをしつつ胸を張る。
隠していたピンク色の…………布地部分を全て晒して、体幹はまっすぐ、だが線を拗らせて立つ。
「きゃーっ! お姉様、素敵ーっ!」
「……う、うん、ありがとう」
ちらりと鏡をみると、そこには変装を兼ねたメイクを施され、印象がガラリと変わった私がいた。
ほのかに、しかしくっきり冴えるようにメイクされた目元。リップは腫れぼったく見えない程度に、ピンクでダブル盛りされ、とどめは樹脂製付け八重歯。
なるほど……。たしかにこれはなんというか、印象というかオーラの出方が違う。
メイクを施してくれたマイカさん、曰く、歯並びや歯の形が変わると別人に見えるという。本人である私が見ても、「これが私?」感が強い。
別人への変装で人混みに隠れるのはなく、まったく違うイメージで目立たせるという方法で、私は巷で言われる雷神ガールの印象から離れた姿となった。
マイカさんの技術もすごいけど…………私もすごくない?
たしかにぃ、私は美少女だからぁ、顔も目立つけどぉ〜、こうやって服のインパクトがあると視線も意識もそっちにいくのよねぇ〜。
……って、いま、なんかアイツみたいだったわね。
姿見の前で冷静になった私は、気分を落ち着けて自戒する。
「そうやって、堂々としてる方がいいわよン♪ よし、できた。美少女の完成よ」
メイク道具を片付け終えたマイカさんが、私に仕上げのリボンを髪に取り付けながら褒めてくれる。
美都も近くに立てかけてあった白い傘を、手渡してくれる。
受け取り傘を開いてみようかと思ったが、室内なのでやめて肘にかける。
「はあ……まさか、こんな格好させられるなんて……。でもまあ、あれこれ着替えさせらるよりはいいでしょう」
「……ふむ。トールちゃん。そういう服、着慣れてる感じねン」
「うん……。この手の服に限らず、色々とねぇ」
常盤台中学では、伝統的な服飾から近代的な服飾について学ぶ機会がある。
出かけるときは指定の制服で、という校則がある一方で、各種イベントが盛りだくさんなこともあって学び舎の園内では、あらゆるハイクラスな装いも要求される。
ゴスロリはデザイン重視のため、先進的で独特な縫製や着用方を求められるが、縫製の歴史をたどるとハイクラス社会の服飾技術が応用されている。
だから、なんとなく経験上から着用と、服に合わせた立ち振る舞いができるわけ。
実は正装に限らず凝ったファッションって、それに合わせた呼吸の仕方を変えることも必要なのよね。
呼吸一つで、立ち振る舞いも服のシルエットも変わると言っても過言じゃない。
リボンの裏に隠れたサイズ調整のバンドの位置を直し、よし! 完璧。
我ながら、似合ってる!
「うおーい。まだかーっ? なんか雷神ガール……、について政府発表があるみたいだぞー」
美都に撮影されながら、ゴスロリファッションを鏡でチェックしていると、隣の部屋から
「はいはーい。政府発表とか、私そんなことになってるのね」
「まるで他人ごとねぇン……」
呆れながらもマイカさんがドアを開け、見違えた私を送り出して披露する。
私を注目する3人が、目に見えて大きな反応を示す。
「おおーっ、すっげぇな」
「かー、こりゃびっくりだ。似合っちょる、似合っちょる」
「さすが美琴ちゃん。綺麗だよ」
ゴスロリ少女になった私を見て、三者三様に褒めてくれるけど複雑だ。
なお、
「ほ、褒めたってなんも出ないからね!」
私は称賛する3人から、日傘を翳して顔を背ける。
でも、恥ずかしいには恥ずかしいけど、変装と思えばそれほどでもない。
「ところで政府発表って、なんていうか大袈裟でしょ? 日本政府、なに考えてるの?」
これ以上褒められるのもむず痒いので、さっさと話題を変えて椅子に座る。
「なにを言ってるかなぁ、レールガンは。お前、もう世界的な話題だからな」
隣で腕をこまねく
「さあ、始まるぞ」
首相官邸の記者会見場に若い官房長官が姿を現し、国旗に一礼して壇上へと上がる。
他人事では無いので、私は身を引き締めてライブ配信されるネットテレビに集中した。
+ + + + + + + + +
「えー。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。この度は世間において、
政治家としては比較的若い官房長官は壇上に上がるなり、カメラマンのフラッシュを浴びながら記者たちに鷹揚な宣言する。
会見場内端にいる記者が手をあげる。
「日方テレビの田中です! 長官! それは池袋と秋葉原の雷神ガールについてですか?」
大事な質問権を当たり前なことで浪費した日方新聞社の田中某氏であるが、それは先陣を切って社をアピールする意図があった。
また、日方新聞は全く有益な情報を得ておらず、これを逃せば質疑応答に参加できないという理由もあって、無意味に近い無難な質問で、社の存在を最低限だが誇示することに成功した。
「はい。ですが池袋、秋葉原での騒動で確認された人物を、今回は当該女子、と呼称させていただきます」
政府として正式な会見であるため、官房長は巷で言われる『雷神娘』『雷神ガール』などの呼称を避けた。
お役所的ではあるが、俗人化を避ける意味で効果がある。
「現在、政府や担当部署に、国内外各所からマニュアルがあるのではないかという問い合わせがありましたので、取り急ぎ会見を開きまして、お答えいたします。日本政府、ならびに関係行政は、このような事態を今回初めて認識しました。また。一部で言われるこのような事態への対応マニュアルなどの存在も
「暁月テレビの佐藤です。長官、それは日本政府として、雷神ガールと秋葉原で確保された人物の
超常的なにかの存在を初めて確認したということですか?」
「そうなります。当該女子とその能力? と申しましょうか? それらの現象を政府は初めて確認し調査中であります」
まったく同じ内容をあらためて質問し、言質を取る。これで簡単に言を翻すことはできない。
そして「確認した上で調査中」は、単に「現在調査中」や「事実確認中」とは意味合いが大きく違う。
後者は「超常的な存在を信じていないので調査している」という事実へのネガティヴな意味も含むのだが、前者は「超常的な力と存在を認めた上で調査中」となる。
つまり現時点をもって、日本政府は「超常的能力とそれを扱う存在」を認めたこととなる。
それが分かる者は、画面の前で沸き立った。
会見場も小さな感嘆の声が響き、それが大きくなっていくにつれカメラのフラッシュが盛大に焚かれた。
雷神ガールは目撃と映像と現場の証拠だけだが、秋葉原で暴れた安洞は確保されている。
安洞が疲れ切るまで能力を使い続けたため、現象を認めざるを得なかった。
実はあった対応マニュアルについては、「現時点では確認されていない」と後で見つかりましたという言い訳ができる範囲で誤魔化した。
しかし、安洞の使う能力を隠し通すことはできないと判断した。
彼が警察に捕まっていなければ、政府はそんな超常現象があるかどうか犯人を探すとともに調査中としたであろう。だが、超常現象が現実に彼の周囲で起きていると、署内で確認してしまっては調査中と隠すのは悪手である。
科学的に彼が念動力のようなものを引き起こしているのか、検証することはできていない。
だが、彼の意図や彼の発言に呼応して、念動の現象が見られているのは客観的事実なので、現時点では彼の意思に応じて起こっていると認めた。
この瞬間、世界中のインターネットの負荷が増え、反応の大きさが数値で観測された。
────会見は続くが、この瞬間以上の反応は見られなかった。
記者の質問は鋭いが、このあとしばらくは官房長官の言動が、のらりくらりと言質を取られないものと変わったからだ。
雷神ガールの身元を知っているかと聞かれれば、「現在調査中です」と紋切型の回答をするかと思えば、諸外国への問い合わせについて質問があれば、「具体的な問い合わせ内容については答えできません」と諸外国への対応どころか問い合わせそのものを伏せるなど多岐に渡った。
しかし、会見終了時間が迫り始めた時、記者の質問によってまた大きく流れが変わる。
「殖経新聞の吉村です。政府は雷神ガールへなにか対応をなさるのですか?」
「政府といたしましては、関係各所に当該女子の捜索と確保を要請し、所定の対処を指示いたしました」
「長官! いったいどのような法的根拠で、雷神ガールの捜索と身柄の確保をなさるのですか?」
質問ではなく、どこからともかく問い詰める声が上がった。
実は、一個人を政府がどうこうする法的根拠はない。
もちろん交流という範囲で、個人と対談面会などはできるが、政府が一個人である雷神ガールを捜索したり、ましてや身柄をどうこうする権限はない。
なので、まず雷神ガールの行動に関係した行政部署が対応を要請し、その行政部署に請求して雷神ガールと接触するという手順が必要となる。
しかし、雷神ガールがなにか犯罪を犯したという事実は確認されていない。
なので警察が捜査する法的根拠がない。
どこの誰ともわからないので、家出人捜索という名目も使えない。
騒乱罪が適用されるかも微妙だ。
騒動を起こした犯人に、雷神ガールは抵抗したにすぎない。
超能力を使っては悪い、いけないなどという法律もない。
これが警官に呼び止められたにも関わらず、逃げ出したというのならばギリギリ公務執行妨害が適用できるが、これもかなり無理筋である。
警官を見て雷神ガールは逃げ出したが、警官は事態を把握しておらず止まれとも動くなとも言っていなかった。なにがあったか? と広く周囲の人々に尋ねていただけだ。
重要参考人でもなく、情報提供のため連絡の要望でもなく、身柄の確保を前提とした判断は行き過ぎに感じられた。
「法的根拠? 法的根拠ですか? あー」
官房長官の言葉も、明瞭さを欠き始める。
これを見て、一部の報道機関は、内閣ひいては与党の痛いところを突けると判断したが、官房長官の続く弱気の言葉を聞いて閉口する。
「大変、みなさまも困惑されるかと思われますが、法的根拠はありまして……。なので当該女子には出頭をお願いしたいところです。なお、法的根拠ですが」
官房長官の目線は、どういう言おうかと手元の書類と記者たちを見やる。
記者たちもざわめきつつ官房長官の回答を待つ。
「当該女子はなんらかの方法で、高電圧の電気を利用しております。えー、つまり──」
続く言葉を期待して記者たちが耳を傾ける。カメラマンが構える。テレビカメラがズームする。
そんな中、官房長官が意を決意したように発言した。
「電気工事士法違反です」
+ + + + + + + + +
「はああああ〜っ? 電気工事士法の違反んん〜?」
官房長官のあまりにショボい発言に、私は怪訝な顔して変な声をあげてしまった。
「どういうことだい?」
官房長官の発言を、いまいち理解できなかった
「うむ。説明しちゃろう。超能力を使っちゃダメって法律はないから、原因も方法もわからんけど大電力を違法に使ってることで、トールちゃんを捕まえるって話だな」
「なるほど」
「よくわかったわン」
「あー、そういうこと」
私も完全に理解していたわけではないので、遊驥の説明で納得できた。
いや、納得できないって、なんかショボくて。
「しかし、電気工事士法違反って……じゃあ、経済産業局が出てくるのか?」
こういうことに詳しいのは遊驥だ。
「経済産業局って捜査できんの?」
「捜査権はない。立ち入り検査までだな。被疑者の捜索とか捜査はできん。偶然出会っても、逮捕もできんから話を聞くのが限界だろ。だから結局、雷神ガールの捜索は警察の仕事だな」
「はあ……。まさかこの私が電気工事士法で、どうこうされるなんて……いえ、元の世界だと持ってるんだけど、こっちの世界じゃ免許はありますって言えないわね」
「世界が違いますからね。お姉様の持つ資格どころか、身分すらないわけですから」
下手すると人権もないんじゃない? 今の私。
「はあ……まいった。もう、どうでもよくなったわ。そろそろ遅くなったし、一旦帰りましょうか」
「はい、お姉様」
昨日、今日で、
仮にそうだとしても、私がなんとかするし、そうでなくても美都は一度帰らないと。
「送ろうか?」
「結構よ」
真優が車の鍵を持って立ちあがろうとするが、私は手を翳してピシャリと断る。
別に敵視しているわけではない。なんかうさんくさいというか、怖いから。
「明日までにはセーフハウスを用意する。今日は外泊するなり、我慢してくれ」
「いいわよ。用意してくれるだけでも助かるわ。ていうか、明日には用意できるってすごいわね」
遊驥が手を合わせてお願いしてくるが、秋葉原のセーフハウスを無駄にしたのは私だ。
彼の頑張りには、厚くお礼を言わないといけない。
一旦、私と美都は
地下街の賑わいも、夕食時間を過ぎてやや落ち着き始めている。もう少しすれば、飲み客で賑わい始めるだろう。
時間が遅くなりすぎて警察の目が少女二人を注視する前に、監視カメラなどを誤魔化しながら、浅草から池袋まで地下鉄で向かう。
道中、私の姿は目立ったが、雷神ガールとしてではなく、気合いの入ったゴスだなという目で見られている。
衣装そのものを見ている人も多く、メイクによる変装に加えて強い印象での視線誘導はとても効果があった。
「そうだ。お姉様。帰り道、クリーニング店によっていきませんか?」
「え? ああ、私の制服、預けてあるのね」
数日、着続けた常盤台の制服を、タワーマンション内店舗のクリーニング店で洗ってもらっておいた。
しばらく着ないとはいえ、回収したほうがいいだろう。
池袋に到着し、タワーマンションにあるクリーニング店を目指す。
そこはタワーマンション住人専用というわけではなく、地上二階の誰でも出入りできる商業区画の一角にあるクリーニング店だ。
マンションのコンシェルジュに頼むと、ここに送られるので住人用といえばそうでもあるが、専用ではない。
傘を閉じ、美都と手を繋いで二階クリーニング店へ向かう。
商業施設内でも目立たない位置にあるそこは、施設BGMの小さくちょっと静か一角……なのに、なんとなく騒がしかった。
目的地の奥まったクリーニング店から、男性が女性店員に食い下がる会話が聞こえてきた。
「そんなこと言わず」
「ダメですよ、いくらなんでも」
「そこをなんとか! 頼む! 謝礼を出すから!」
強盗とかそんなんではないようだけど、女性店員は困っているようすだ。
「なにかしら?」
「なんでしょう」
私は不安そうな美都を庇いながら、騒動何するものぞという気持ちでクリーニング店のドアを押し開いた。
「すみませーん。受け取りにきましたー」
もしかしたら男性が迷惑な客であることを想定して、会話を遮るようにわざとらしく要件を声に出しながら入店した。
「……あ」
「あ」
クリーニング店店員に、しつこく食い下がっていたらしき男性と私の目が合い、お互いに言葉を失った。
「い、いたーっ!」
「……見つかった」
あちゃー、と私は額を押さえて天井を仰ぎ、ガチの変装にしておくべきだったと後悔する。
クリーニングの店員さんに、何かを頼んで食い下がっていた男性は、私をTOKYOシティコップ宣伝会場に誘ったスカウトマン。
憔悴して無精髭を生やす池内和彦が、私を指さして叫んでいた。
美琴ちゃんのゴスロリファッションは、頂上決戦ⅡガチャのSRカードの格好です。