とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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幸運の代償

 バンザイプロダクションのスカウトマン池内和彦という男は、能力が凡庸であっても、人脈に頼って成果を出す人物である。

 

 御坂美琴の捜索をなし崩しに業務とされたが、素人なりに成果を積み重ねた。

 運と人に助けられた面が大きいが、必死さと真面目さがそれらを引き寄せたと言っても過言ではない。

 

 御坂美琴と揉めた解体業の青年からの情報を得て、やはり池袋が彼女のホームグランドではないかとあたりをつけて捜索。

 やがて池袋の中学校へ通うアイドル志望の子から、同じ学校の生徒が御坂美琴らしき人物と登校しているという情報を得た。

 顔が広い協力者と体力自慢の者と手分けして、池袋で素人なりに聴き込み捜査。

 

 その最中、クリーニング店に御坂美琴が着ていたスクールブランドらしき服が、持ち込まれたという噂を、体力自慢が聞きつけた。

 

 すぐさまそれらしいクリーニングチェーン店を巡ってみると、確かに御坂美琴が着ていた制服が、カウンターの後ろに吊られているのを発見した。

 

 池内はなんとか情報を得ようと、クリーニング店の女性店員に食い下がっていた。

 

 雷神ガールの着ていた制服に似ている服が持ち込まれた。この情報を友人に漏らしたらしい店員が応対し、罪悪感から彼女も強く池内を追い返すことができない。

 誰がという顧客情報は漏らしていないが、誰がに繋がりかねない何がという職務上の情報を漏らしたからだ。

 

 しかし店員も、これ以上は個人情報の問題があるため、池内の追及をやんわりと拒否した。

 だが、噂の出所は彼女である。雷神ガールが着ていた制服に、そっくりな服が持ち込まれたと友人たちに話してしまったのは彼女である。

 負い目もあって、強く突っぱねることができない。

 膠着状態が続いていたところ、池内が探す御坂美琴が変装? したゴスロリファッション姿で現れた。

 

「い、いたーっ!」

「……見つかった」

 

 幸運に喜ぶ池内に対し、雷神ガール御坂美琴は諦めのため息をつく。

 池内はこれでも芸能界で働いている男である。

 印象を大きく変えるメイクをしていても、その印象に引っ張られることなく本人を知っていれば、素材を見抜くくらいできるのだ。 

 

「あんた、すごいわ…………ガチで」

 

 豪運と執念に呆れ、ゴスロリ姿の雷神ガール御坂美琴は、げんなりと日傘を担いでいる肩を落とした。

 そんな御坂美琴の前で、池内は恥も外聞もクリーニング店の迷惑も関係なく、土下座状態で頭をさげた。

 

「頼む! 美琴ちゃん! いや御坂さん! 成瀬さんの謝罪とお礼を受けるだけしてくれないか? このままじゃ会社に帰れないんだ!」

「会社に帰れない? どういうこと?」

 

 ただならぬ様子に、御坂美琴も池内を突き放せない。

 池内は御坂美琴を見つけないかぎり、社に戻れないことを情に訴えて伝えた。

 あくまで戻る必要がないという業務上の命令であって、本当に戻れないわけではないが、まるっきり嘘では無い表現で説明する。

 

「はあ、まあ……あんたの事情はわかったわ。とはいえ、芸能界入りとか頼まれても……迷惑なのわかるでしょ?」

 

 すでに現状は変化している。

 池袋の事故だけならば、まだ演出でしたと誤魔化すことができただろう。

 しかし、秋葉原の事件と政府発表がされた今、そんな小細工や誰かが頭を下げる程度ではすまない事態である。

 

「もちろん、社長もその辺を理解している。専務は……そうでもないが、それにしたって乗り気というほどじゃない。ただ、成瀬了が君に謝るまで、役者業を自粛すると宣言して、みんな困っているんだ。頼む、謝罪受け入れだけ。せめてこれだけでもぉ〜」

 

「はあ? そんなことなってんの? ばっかじゃないの、成瀬了! 謝罪したいとか立派っぽいけど、そっちの都合と気分を収めたいだけの話じゃない」

「いや、ごもっとも。そこを曲げてなんとか〜」

 

 御坂美琴は額を抑えて、成瀬了という役者の暴走に呆れた。池内も立場上できないはずだが、その意見に同意しつつ頭を下げる。

 御坂美琴が返答に困る中、前に出たのは美都だった。

 

「ふ〜〜〜〜ん……」

 

 憧れの御坂美琴を慕う仮面を脱ぎ捨て、美都の目つきは冷たく池内を見下ろし強いも気だるそうな言葉を叩き突ける。

 

「会社に帰れない、か。それもあるんでしょうけど、 結局事務所関係で優位に立ちたいだけでしょ、あんた」

「そ、そんなことは……」

「あるでしょ?」

「ない、とは言えないです」

 

 美都が珍しく強気な態度で、御坂美琴を守るように前へ出る。

 語気も強く、口調も違う。どことなく憧れの御坂美琴にも似ている。

 その頼もしい姿を見て、御坂美琴はやはり美都が演じる女であると確信した。

 

「今のお姉様の状況知ってるでしょ? 政府の会見、あんた見た?」

「……」

 

 無言で頷く池内。

 

「それがわかってるなら、お互い合わない方がいいってわかるんじゃない?」

「たしかに……」

 

 池内は降参しかかっている。

 やはり政府の追及となると、いち芸能関係者では尻込みをしてしまう。

 頼もしい美都の肩越しに、御坂美琴はちらりと困惑しているクリーニング店の女性店員を見て前に出る。

 

「ありがと、ロキ。池内さんもわかってくれたみたいね」

 

 美都に変わり御坂美琴が前に出て、言い返せない池内を見下ろし、しょうがないわねと笑って見せた。

 

「ま、ここで突き放すと、店員さんにまた食い下がるだろうし、つっぱねるのもねぇ。…………店員さんも、個人情報を守ってくれてありがとうね」

 

 彼女自身がだいぶアウトな行動を取ったことが原因なのだが、クリーニングの店員も素直にうなずく。

 

「そ、それじゃあ!」

 池内は流れと御坂美琴の表情を見て、活路ありと喜ぶ。  

 ──が。 

 

「ダメよ」

 

 御坂美琴はけんもほろろである。

 小さな日傘を室内で広げ、顔を隠すようにかざして会話する。

 

「私の連絡先を知っていたら、それを警察に提供しなくちゃいけないでしょ? アンタも社長も成瀬了もその気がなくても、もう秘匿することは難しいわ」

 

「そ、それはたしかにそうだ」

 

 池内とバンザイプロダクションは、すでに警察の聴取を受けている。

 厳しいものでは無いが、池内は連絡先がないかとスマートフォンを提出させられ調べられた。

 もしかしたら、通信記録も調べられているかもしれない。

 少なくても開示の申請中だろう。

 

「でも、たまたまアンタが、成瀬了と会っている最中に、私が運悪く出会っちゃったら仕方ないわよね」

「ッ! それは!」

「お姉様っ」

 

 御坂美琴の発言の意図を理解して、池内と美都は跳ね上がった。

 

「ねえ、ロキ(美都)

「え? は、はい。お姉様」

 

 まだ慣れていない呼ばれ方をされ、一瞬美都は困惑したがすぐに返事を返す。

 

「このあたりで、ランチタイム、混んでなくてゆっくりお昼を食べられるいいところってある?」

「……はい、そうですね。…………ここと、ここ? なんてどうですか?」

 

 意図を理解している美都は、スマートフォンを操作していくつかの店を候補に挙げた。

 

「うーん。そうね……ここなんていいわね。ロキの名前で予約いれていい?」

「はい」

 

 御坂美琴は美都からスマートフォンを受け取り、一つの店を選んで予約をいれると、わざとらしく手をダラリと下げて画面を池内へと向けた。

 

 池内は目を見開き、その画面を食い入るように見つめる。

 

「ここですぐアンタが予約しちゃダメよ。ログを探られたら、同じ時間、同じ座標で予約入れたことになるから」

「は、はい。移動して……いや、時間をずらして遠くにいる人に頼んで予約してもらう!」

 

 池内はネットワークやセキュリティにさほど詳しく無いが、それでも現代人である。

 おおよそ、御坂美琴が危惧していることを理解し対応できた。

 

「お姉様。受け取り、終わりました」

 

 御坂美琴が池内と密談工作をしている最中に、美都はクリーニング店から常盤台中学校の制服を受け取った。

 もちろん店員も受け取り伝票を池内に見られないよう、手早くしまい込んでいる。

 

 ctOSが浸透している現代にも関わらず、クリーニング店の受け取り伝票は未だにデジタル化があまり進んでいない。

 つまり、御坂美琴の世界と隔絶したハッキング能力を持ってしても、美都が制服を持ち込んだという事実を改竄することが不可能なことを示していた。

 

(大失態ね。まさかクリーニングから足がつきそうになるなんて……)

 

 横目にその様子を見ながら、いずれ自分と美都のもとに捜査の手が及ぶ可能性がある。

 

 なので──

 

 

 + + + + + + + + +

 

『あのさぁ…………』

 

 そろそろ美都の住むタワーマンション周囲に、捜査や氷川の手が及ぶ可能性を考え、私は遊驥(アスキー)にセーフハウスの用意を頼み込んだ。

 その返答が今まですぐ怒鳴る彼が「あのさぁ……」って、もう完全に呆れられてる!

 もうッ! しょうがないじゃない。

 

 でも、彼に迷惑をかけているのも事実なので、私も強く出れない。

 

「ほんっっっっと、ごめん!」 

 

 探偵でもなんでもないほぼ素人である池内さんが、すぐ足元にまでやってきたんだから、警察の目も届いてきてるかもしれない。

 私たちは、美都の部屋に戻るのは危険だと考え、遊驥……財神黒客(ツァイシェンヘイカー)に頼ることにした。

 

 でも、せっかく用意してくれたセーフハウスを利用できなくしてしまったばかりで、さすがの私も引け目がある。

 遊驥も頑張ってくれているんだけど、それ以上に私が迷惑をかけてしまっている。

 

『いい加減にしないと、ヒロヒロさんの部屋にぶち込むぞ』

「な、なんでもするからそれは勘弁してっ!」

 

「ん? 今、なんでもするって?」

 

「このままだとネットカフェか、芝浦の倉庫にある仮眠室になるかもしんないのよ」

 

 遊驥のボケを勢いまかせで強引に押しのけて、私の状況を伝える。

 かろうじて、美都の部屋に侵入者の形跡や盗聴器の存在はない。

 私以上のハッカーの存在と、学園都市以上の技術がないかぎりこれは確実。

 

 だけど美都の部屋の防犯システムは高級で高品質でもこの世界の常識的な範囲だし、安心して眠るにはちょっと確定要素がない。

 私が改造してガチガチにデジタルセキュリティで防犯化させればいいけど、まず物理的にも時間的にも用意ができていない。

 

 だからこの時点でベターを選ぶなら、美都となんら関係のない眠れる場所が必要となる。

 それを用意できそうなのは、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)だけだ。

 

『倉庫の仮眠室? 確かに未成年がネットカフェは、セキュリティを誤魔化せても、周囲の目がな。……仮眠室?』

 

「仮眠室の話はいいから、なんとかならない?」

 

『気になるから後で聞く。それでな。これでも俺様はな、女の子たちが安心して快適ににだなぁ、何日も過ごせるようなセーフハウスを用意しようと努力をなあ……』

 

 こ、こいつ! ネチネチと!

 でも、実際、私も悪いから強くでれない。

 

「わ、わかったから! なんとかお願い!」

 

『むう……ひとつ。当てはあるにあるが……。なんでもするって言ったんだから、少々、快適じゃなくても文句はないな?」

「あ、あったりまえよ! …………で、ね、念のため先に確認したいんだけど……どんなところ?」

 

 強気に出たけど、ちょっとヘタレて確認をする私。

 それがおかしいのか、遊驥が電話の向こうで笑っているのがわかる。

 このぉ〜、覚えてなさいよ!

 

『男の子の夢のような秘密基地、だよ』

 




うちが書くと毎回政府の初動が早くて、お話も忙しくなる…。
やっぱ政府は無能だったり動きが遅い方が、お話作り楽ですね。

当初、政府が動く前に芸能側と接触する予定でしたが、普通に間違えました。失敗!

補足
 雷神ガールを警察が捜索する理由は重要参考人でもよかったのですが、最初に騒動を引き起こした犯人そのものは捕まってるので、解決してる事件に参考人もなにもありません。(裁判になれば証人として探すこともある)
 もしまだ解決していないことにすると、警察の威信にも関わると思います。
 そして御坂美琴本人は、器物破損しかないんですよね。それも念動力者との対決で、雷撃を打って壊れただろうもの。
 でも器物破損は親告罪なので…。公共物も(秋葉原では)壊してないし、無理筋となります。

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